[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

産業再生に向けて

2002年10月28日
(社)日本経済団体連合会

日本経団連では、10月7日の意見書『金融システム安定化とデフレ対応策の早期実施を要望する』において、金融再生を中心に、必要な施策を提言した。そこで指摘した通り、当面の緊急課題である金融再生は、産業再生ならびにデフレ克服と一体的に推進しなければ実現はできない。さらに、改革を円滑に進めていくには、雇用等に係るセーフティネット整備が不可欠の前提となる。
産業再生、デフレ克服、セーフティネット整備について、日本経団連は、本年に入ってからだけでも、別添資料の通り、提言を重ねてきた。その中で、特に本年度内に具体化を急ぐ必要がある措置は下記の通りである。政府・与党が、本提言の趣旨を実現することを強く要望する。

1.経済活性化・需要創出

(1) 新重点4分野への予算の重点配分

平成15年度予算において、一般歳出のうち2兆円以上を新重点4分野((1)教育・文化、科学技術、IT、(2)都市、地域社会、(3)高齢化・少子化対策、(4)循環型社会・環境問題)に配分するとともに、重点分野の中においても施策の重点化等を行うことによって、経済活性化を促進する。

(2) 法人税負担の軽減

ネット1兆円を上回る規模の先行減税の中で、法人実効税率の引き下げを含めた法人税負担の軽減を図る。連結納税制度の適用企業に対する2%の付加税は撤廃し、平成15年1月1日より適用する。法人事業税への外形標準課税の導入構想については、地方法人課税の簡素化の中で引き続き検討する。

(3) 相続税・贈与税の見直し

世代間における資産移転の円滑化を図るため、相続税・贈与税の基礎控除を拡充するとともに、最高税率引き下げをはじめとする累進税率の緩和を行う。特に、住宅取得にかかる贈与税特例については、住宅投資および付随する消費を活性化させるため、非課税枠を3,000万円まで拡大する。

(4) 新事業・新商品・新サービスにつながる規制改革の推進

新事業・新産業・新サービスにつながる規制改革を推進する。例えば、20kW未満の燃料電池発電設備を、電気主任技術者の選任や保安規定の提出が不要な小出力発電設備扱いとする。また、民生品を利用した医療用具の承認申請について、民生品に関する再試験を不要とする。さらに、知的財産の活用を図る観点から、信託業法を改正し、特許権、著作権等を受託可能財産とする。

(5) 「官製市場」の民間への全面開放等

新たな市場と雇用の創出に向けて、いわゆる官製市場を民間に開放する。医療、福祉、教育、農業等への株式会社の参入を可能とする。また、ハローワーク、公的医療保険、図書館・体育館等について、アウトソーシングやPFI等を通じて、運営等を民間に全面開放する。

(6) 特区法の早期制定

特区法を今臨時国会で成立させ、内閣主導で構造改革特区を速やかに実現する。「構造改革特区推進のためのプログラム」において示された構造改革特区における特例措置については、地方公共団体や民間事業者の規制改革の要望を最大限容れ、大幅に拡充する。併せて、関連税制措置を講ずる。

2.産業再生

(1) 特定業種における産業再編促進に向けた関係省庁の連携体制強化

流通・建設・不動産など特定業種における産業再編の促進のための政策立案・調整を行う、金融庁・経済産業省・国土交通省等による強力な組織を設ける。併せて、特に、国土交通省は、所管業種の再編に向けた指針を策定するとともに、再編促進策を強化する。

(2) 産業再生法の抜本的拡充

企業の壁を越えた事業再構築・産業再編、非効率な設備の廃棄と最新設備の導入等を促進するため、産業活力再生特別措置法を抜本強化する。組織法制面では、企業再編手続きを柔軟化する。税制面では、欠損金の繰越期間を延長し、対象費用を拡大するとともに、匿名組合契約による共同事業に係る税制整備、「実証一号機」税制創設等を実現する。

(3) 会社更生法の早期改正

大規模な株式会社の迅速かつ円滑な再建を可能とするため、今臨時国会において会社更生法改正案を成立させ、更生計画案の手続き開始後1年以内の提出義務付け、弁済期間の上限短縮、経営責任のない取締役等を管財人に選任できることの明確化等、手続きの迅速化・合理化、再建手法の強化を実現する。

(4) 設備投資減税の拡充

設備投資税制を再構築し、バイオ・医療、IT、環境、ナノテクノロジー・材料等についての優遇措置を拡充する。IT投資については、ハード・ソフト両面にわたる税額控除制度を導入し、ソフトウェアは自社開発・外部導入を問わず即時償却(税額控除との選択)を容認する。

(5) 研究開発税制の拡充

技術革新に向けた研究開発を促すため、企業が支出する試験研究費相当額に対する一律10%の税額控除制度を恒久措置として創設するとともに、当期未使用控除額は繰越しを可能とする。また、民間企業等が大学・公的研究機関等と連携して行う研究に要した試験研究費の15%相当額について税額控除を行う。

(6) 知的財産基本法の早期制定

知的財産基本法を今臨時国会において成立させ、知的財産戦略本部の設置、知的財産戦略計画の策定を急ぎ、知的財産戦略大綱で打ち出された知的財産の創造、保護、活用とこれを支える人的基盤の充実に係る施策を迅速かつ確実に具体化する。

3.資産デフレ対策

(1) 株式譲渡益課税の見直し

金融証券税制については、個人向け金融商品にかかる利子・配当・譲渡益課税を定率課税(20%)とするとともに、株式譲渡益については源泉分離課税とする。併せて、当面の緊急措置として、株式譲渡益は時限的に非課税とする。

(2) 相続・贈与時における株式の評価額の軽減

株式市場の活性化、事業承継の円滑化、資産間の課税の均衡を図るため、相続・贈与時における株式・株式投信の評価額について、小規模宅地等と同等の軽減措置を講ずる。

(3) 不動産流通課税の見直し

土地の流動化・有効利用に向けて、登録免許税の低額定額化、不動産取得税の撤廃、事業所税(新増設分)の廃止を行う。併せて、不動産証券化を推進し、不動産投資市場の拡大を図るため、投資法人、SPC、不動産特定共同事業者が取得する不動産の流通税を非課税とし、配当課税負担を軽減する。

(4) 住宅投資促進税制の拡充・強化

住宅取得の促進に向けて、住宅ローン利子の所得控除制度を恒久措置として創設し、当面、現行住宅ローン控除制度との選択適用とする。両制度とも、セカンドハウスへの適用や、転勤時の中断・復帰措置を導入する。また、民間賃貸住宅建設を支援するため、賃貸住宅投資に係る減税措置を創設する。

(5) 都市再生の推進

都市再生特別措置法に基づく都市再生事業に、民間投資を呼び込むため、都市再生事業を行う者、開発後の入居企業等に係る譲渡・流通・保有・事業活動の課税につき税制上の特例措置を講ずる。併せて、都市計画道路、首都圏環状道路等の交通インフラ整備を急ぐ。また、PFI事業について、公共事業として実施する場合と課税のイコール・フッティングを実現する。

4.雇用対策等のセーフティネットの整備

(1) 雇用保険制度の安定的運営の確保

安易に雇用保険料率の引き上げや国庫負担に頼ることなく、真に給付を必要とする者への雇用保険給付を安定的に確保するため、雇用保険法を速やかに改正し、給付率や基本手当日額の上限の適正化、教育訓練給付に係る自己負担の引き上げ、不正受給者への対応の厳正化等を図る。

(2) 民間活力による労働力需給調整機能の強化

労働者派遣事業法を改正し、対象業務の拡大、派遣期間制限の延長、紹介予定派遣の実効性確保等を実現する。また、職業紹介における求職者からの手数料徴収規制の一層の緩和等、アウトプレースメント会社の活用を積極的に支援する。

(3) 雇用機会の創出

雇用機会の拡大に向けて、労働基準法を改正し、有期労働契約の契約期間制限の延長、企画業務型裁量労働制の対象拡大等を実現する。また、緊急地域雇用創出特別交付金事業について運用を改善するとともに、緊急雇用創出特別基金、新規・成長分野雇用創出特別基金の活用を推進する。

(4) 中小企業に係る金融面のセーフティネット整備

不良債権の集中処理期間の緊急措置として、セーフティネット保証の対象拡大、中小企業に係るDIPファイナンスの拡充・DIP保証制度の創設、無担保融資制度の拡充等を行う。また、中小企業の資金調達の円滑化・多様化のため、中小企業の売掛債権に係る公的な信用補完措置の創設、中小企業が振出人・受取人となっている手形に係る印紙税の非課税化等の措置を講じ、中小企業の売掛債権の証券化を促進する。

以 上

資 料 目 次

  1. 「金融システム安定化とデフレ対応策の早期実施を要望する」(2002年10月7日)
  2. 「平成15年度税制改正に関する提言」(2002年9月17日)
  3. 「税制抜本改革の断行を求める」(2002年6月10日)
  4. 「経済活力再生に向けた税制改革を求める」(2002年5月13日)
  5. 「税制抜本改革のあり方について」(2002年2月19日)
  6. 「2002年度日本経団連規制改革要望(2002年10月15日)
  7. 「経済活性化に向けた規制改革緊急要望(2002年5月29日)
  8. 「新たな成長基盤の構築に向けた報告」(2002年4月16日)
  9. 「誰もが起業家精神を発揮できる社会へ」(2002年4月16日)
  10. 「PFIの推進に関する第二次提言」(2002年6月17日)
  11. 「次代の産業の基盤づくりに向けた研究開発の推進について」(2002年5月21日)
  12. 「産業競争力の強化に向け、知的財産基本法(仮称)の早期成立を望む」(2002年9月17日)
  13. 「知的財産戦略についての考え方」(2002年6月18日)
  14. 「緊急雇用対策プログラム」(2002年10月23日)

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