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Policy(提言・報告書) 科学技術、情報通信、知財政策 イノベーション創出に向けた新たな科学技術基本計画の策定を求める 〜科学・技術・イノベーション政策の推進〜

2010年10月19日
(社)日本経済団体連合会

I.はじめに(本提言の目的)

経済の低迷、少子高齢化の進展、環境・エネルギー問題の深刻化、グローバル競争の激化等、わが国を取り巻く課題は山積している。わが国がこれらの課題と対峙しつつ、持続的な経済成長と豊かで質の高い国民生活を実現するためには、科学・技術を基点とした新たなイノベーション #1 の創出に全力をあげて取組まなければならない。

現在、政府の総合科学技術会議においては、次年度からの5カ年計画である「第4期科学技術基本計画(以下、第4期基本計画)」の策定に向けた議論が佳境を迎えている。科学技術政策については、もはやアカデミアのみを対象とした振興目的の政策という従来の発想の延長線上には目指すべき解はない。われわれは今、これまでの科学技術という枠を超えてイノベーションまでを視野に入れた「科学・技術・イノベーション政策」と呼ぶべき新しい総合政策のあり方を真剣に模索し、その方向に大きく舵を切るべき時代を迎えている。

こうした考え方に基づき、これまで経団連では、昨年12月に公表した「科学・技術・イノベーションの中期政策に関する提言」や、今年6月の「科学技術基本政策策定に向けた基本方針(案)に関する意見(パブリック・コメント)」等において、第4期基本計画の策定に向けた産業界の意見を表明してきた。その結果、本年6月に総合科学技術会議において取りまとめられた「科学技術基本政策策定に向けた基本方針(中間取りまとめ)」においては、従来の科学技術政策を、イノベーション創出までを視野に入れた「科学・技術・イノベーション政策 #2」に拡大するほか、第3期基本計画における分野別の政策から、地球温暖化や少子高齢化等の課題の解決に資する「課題解決型」の政策に転換するとの方向性が示されるなど、経団連の主張が多数取入れられたところである。

ただし、未だ産業界として不十分と思われる点も残されている。その根幹には、現状に対する危機感の不足があるものと思料される。欧米はじめアジア各国においてイノベーション創出に向けた熾烈な政策競争が展開されている中、現状維持の政策は、決して繁栄を生まない。わが国についても「イノベーションの創出なくしてわが国の将来はない」との強い意識の下、イノベーション創出に向けた総合的かつ一体的な「科学・技術・イノベーション政策」を打ち出さなければならない。

第4期基本計画は、年末の最終とりまとめが予定されている。今後は、総論で示された「科学・技術・イノベーション政策」という方向性を、いかに実効あるかたちで具体的な政策として書き込めるかが分水嶺となる。第4期基本計画では、イノベーションの主たる担い手である産業界までをしっかりと視野に入れ、産業界の知見をより政策に反映させる仕組みを整備するとともに、産業界が関係府省および大学・大学院等と本格的な連携をしながら、多種多様かつ世界をリードする優れたイノベーションを創出し続けられる体制を構築することが不可欠である。

「科学・技術・イノベーション政策」は、旧来の科学技術政策の範囲にとどまらず、ICT戦略、知的財産戦略、あるいは高等教育政策等との密接な連携の下、府省横断的な立場から、より幅広い視点で展開される必要がある。また、既存の技術を活用・応用し、経済社会に新たな価値を生み出すといった観点も重要である。同政策の推進にあたっては、規制の緩和・撤廃や、研究成果の実用化に向けた大規模な実証実験、先導的な市場確保に向けた政府調達等についても平仄をあわせて実施することが、イノベーション創出の鍵となることも忘れてはならない。さらには、課題解決型イノベーションの推進、科学・技術・イノベーション政策の策定・推進を担う司令塔機能の強化、イノベーション創出を支える優秀な人材の育成、科学技術関連予算の拡大等の論点もそれぞれ極めて重要であり、早急に議論を深める必要がある。

本提言では、こうした認識に基づき、われわれの考え方を改めて表明する。

II.グローバル課題の解決に向けたイノベーションの創出

1.グリーン、ライフの2大イノベーションの推進

政府が本年6月に発表した新成長戦略において、グリーン・イノベーション、ライフ・イノベーションが打ち出されたのを受け、第4期基本計画においても、グリーン、ライフの2つのイノベーションが国家戦略の柱に据えられる方向で議論が進められている。こうした設定の仕方は、「課題解決型」のイノベーションとして経団連でも予てから主張してきた考え方と軌を一にするものであり、その嚆矢として高く評価したい。これら2大イノベーションについては、国内外における将来的な需要の拡大も想定されることから、わが国産業競争力の強化を通じた経済成長といった観点からも重点的に推進すべきである。

2.幅広い視点での課題解決型イノベーションの推進

課題解決型イノベーションという観点から見れば、わが国が解決すべき課題は、グリーン、ライフの2分野のみにとどまらない。産業競争力の強化、安全で質の高い国民生活の実現、国家の安全保障の確保等、他の様々な重要課題の解決に向け、ICTの利活用、新たなものづくり技術の強化、食料の安定的確保に向けた技術開発の促進、宇宙・海洋の開発・利用技術の強化、社会インフラの維持・保全技術の強化等の多様な取組みを、2大イノベーション同様に強力に推進する旨を第4期基本計画に明記する必要がある。

特に、産業競争力の強化については、「わが国の強みある技術基盤をいかに伸ばすか」、また、「新たな技術基盤をいかに創り出すか」といった観点を軸に、多様かつ革新的な技術開発の強化に取組む方針をさらに明確に記述する必要がある。

現在検討中の案において、ICTが埋没していることも懸念される。ICTは、グリーン、ライフの2分野を含め、あらゆる産業を横断的に支える重要な基盤であり、行政、教育、農業といった様々な分野における有効活用によって、これまでに無い新たな付加価値を生み出すことが期待される。世界的に激しい競争が続いているICTそのものの技術開発を強化することもさることながら、様々な分野にICTを応用してイノベーションを創出することが、今後さらに重要となってくるものと思われる。その意味でICTは、グリーン、ライフの2大イノベーションに匹敵する重要性を有するものであり、第4期基本計画においても確固たる位置付けを行うべきである。

さらに、わが国の産業競争力を強化する上で、ものづくり技術を強化することも重要である。幅広い分野との連携を図ることにより、ハード(材料・部材・装置)とソフト(組み込みソフト)を組合せたものづくり技術や、サービスと一体化したものづくり技術など、「新たなものづくり」の技術を生み出す努力も必要である。

併せて、規制緩和、戦略的な国際標準化等の制度的枠組みを整備することも、イノベーション創出を図る上で重要であることも指摘しておきたい。

III.国家戦略として進めるための司令塔機能の強化

「科学・技術・イノベーション政策」へと転換し推進するためには、関係府省を束ね、高い見識と戦略性に基づく有効な指示を出せる強力な司令塔が必要である。現在の科学技術政策の司令塔である総合科学技術会議は、2001年の発足以来、一定の役割を果たしてきたが、十分なリーダーシップを発揮しているとは言い難い。

既に政府においては、総合科学技術会議を「科学・技術・イノベーション戦略本部 #3(仮称)(以下、「戦略本部」)」に改組する意向が示されているが、現時点においてその具体像は明らかでない。われわれは、現在の総合科学技術会議を以下のように改革し、司令塔機能を強化することを強く求める。

1.基本戦略の立案・推進に関する権限の強化

総合科学技術会議は、基本的な権限が調査審議や一部の個別研究開発の評価等にとどまることから、国策的視点からの総合的な施策の推進、とりわけ府省横断的な研究開発課題の総合調整において、リーダーシップを十分に発揮することが困難である。

「戦略本部」の創設にあたっては、予算規模および配分割合(研究開発のポートフォリオ)の立案、ならびに戦略の推進に必要な調整・評価等が可能となるよう設置法、科学技術基本法等の関連法等の見直しにより、法律上の権限を強化すべきである。

2.イノベーションの視点の強化と関連政策の一体的推進

「科学・技術・イノベーション政策」を実効あるものにするためには、従来の科学技術政策にとどまらず、ICT戦略、知的財産戦略、国際標準化戦略、高等教育政策等、関連政策との連携強化を図った上、総合的な政策展開を行うことが不可欠である。

「戦略本部」を組織する際には、既存の関係本部との大胆な組織統合も視野に入れ、従来よりも幅広い視点でイノベーションの創出を推進する体制を構築する必要がある。その際、「戦略本部」が単なる名称変更のみ、あるいは関係本部との見せかけの組織改編にとどまることのないよう注視したい。なお、今後創設されると目されている「国家戦略局」が、重要な国家戦略を立案する組織として機能するのであれば、「戦略本部」は同局の下に置かれることが望ましい。

3.予算・資源配分に関する権限・機能の強化

総合科学技術会議ではこれまでも、資源配分の方針の策定やSABC評価 #4 の実施等により、科学技術予算の一定の方向付けを試みてきたが、当初期待された成果を挙げているとは言い難い。

現在、「アクション・プラン #5」によって、科学技術予算編成プロセスの改革の試みが開始されているところである。同プランは、各施策の実施主体、具体的目標、目標達成時期を明確化したロードマップを示しており、PDCAを回すことを意識したかたちで計画が立てられていることは注目される。こうした取組みは、次年度以降、早急にグリーン、ライフの2分野以外にも拡大すべきである。「戦略本部」が創設された場合、同様の理念のもと、中期的な観点から、イノベーションを通じた国家的課題の解決に必要な研究開発ポートフォリオと必要な予算規模をコミットし、各年度における予算編成プロセスにおける必要な調整、評価等を行うことで、効果的な資源配分を誘導し、政府全体の科学技術予算編成プロセスの変革を図ることが重要である。

また、総合科学技術会議は独自予算を持っておらず、最終的な予算取りは各省庁に委ねられているが、イノベーション創出のフロントランナーとなり得るプログラムに対して、自発的に資金を充て、加速することも必要である。2009年度に実施された「世界最先端研究開発支援プログラム #6」には、そうした要素も含まれていたが、経済対策の一部として構想されたこともあり、維持されなかった。「戦略本部」においては、こうした枠組みの長所を活かしつつ、イノベーション創出につながる案件がより多く採択されるよう必要箇所を見直した上で制度の恒久化を図り、司令塔の強い意志のもと、優れたプログラムが推進できるようにすべきである。

4.議員構成の見直し

現在の総合科学技術会議の構成は、大学あるいは公的研究機関の関係者が大半を占めており、産業界関係者の割合は少ない。「戦略本部」においては、イノベーションの主たる担い手である産業界関係者の知見の活用および連携を可能とする体制を構築することが重要であり、産業界関係者が半数を占める構成とすべきである。

5.事務局・調査分析機能の強化

「戦略本部」における戦略立案、総合調整機能等を強化する観点から、事務局および調査分析機能の質的・量的な強化が不可欠である。そのためには、産学官から多様な関係者を集結させるとともに、2〜3年任期の出向者ばかりで事務局を構成するのではなく、中長期的な戦略立案および総合調整機能を担えるようなプロパー職員の割合を増やす必要がある。同時に、科学・技術・イノベーション政策に関する調査・分析、国際ベンチマーク、長期的な科学・技術予測等の機能の抜本的強化に向け、科学技術政策研究所(文部科学省付属の研究機関)や科学技術振興機構の調査分析部門や民間の科学技術政策研究者の英知を結集させた、産学官共同のシンクタンク機能(研究所)を「戦略本部」の下に創設することも検討すべきである。

6.民間の意見が反映される実効あるプラットフォームの創設

また、第4期基本計画の策定に向けた議論の中で、「戦略本部」の下に、「科学・技術・イノベーション戦略協議会 #7(仮称)(以下、「戦略協議会」)」を創設することも提起されている。将来のイノベーション政策に関する具体的な戦略等を産学官で策定・共有する「場」(プラットフォーム)を設置することは必要であり、これを実効あるものとするためには、具体的な制度設計が重要となる。

「戦略協議会」をただ議論するだけの場とするのではなく、その具体的な役割・機能・権限を明確化し、そこで策定された内容をもとに、「戦略本部」が予算・資源配分や具体的政策等に反映させる仕組みを構築することが重要である。先に提案した「戦略本部」独自の予算の枠組みを活用し、例えば、「戦略協議会」が選定した重要分野のプログラムについて、優先的に予算を充当していくことも有効な方策である。

なお、「戦略本部」同様、「戦略協議会」の創設にあたっても、そのメンバー構成が重要となる。EUでは、特定の技術テーマについての研究開発を促進するため、産業界主導でETP(欧州テクノロジー・プラットフォーム)と呼ばれるプラットフォームを設立・運営している。ETPでは、構成員に占める産業界関係者の割合が非常に高く、民主導で戦略の策定・実施がなされている。わが国においても、ETPの取組みを参考に、そのメンバー構成にも留意しつつ、産業界をはじめとする多様な関係者が協力して戦略を策定・実行できるプラットフォームの構築を目指すべきである。

7.研究開発法人のあり方の見直し

研究開発法人は、本来、国の政策課題の実現に資する研究開発を担う中核機関であるが、現状は必ずしもそうなっておらず、大学・大学院の研究内容や研究者の考え方と同様であるとの批判もある。こうした現状に鑑み、研究開発法人のあり方そのものを見直すことが必要である。

今後のイノベーション創出の重要性に鑑みれば、民間企業に委ねるのが困難な長期的な基礎研究や、基礎研究を実用化に結び付けるための橋渡し研究、研究成果の実用化・普及に向けた実証実験等について、研究開発法人の積極的な取組みが期待される。各法人は、自らの存在意義を検証し、組織目標を明確化するとともに、基礎研究からイノベーション創出までの一貫性を構築する観点から、必要に応じた再編・統合、組織の特色に応じた資源配分、運営形態を検討すべきである。その際、国として極めて重要な研究開発を担う機関を内閣府と共管にするなど、国家戦略との連動を強化する方策を検討することも必要である。

また、イノベーション創出につながることが期待されるハイリスク研究等を促進するためにも、ファンディング機関の機能強化を図るとともに、ファンディング機関同士の連携や統合により、基礎研究から実用化まで一貫して資金提供を行える体制を構築することも重要である。

さらに、ドイツのフラウンホーファー研究機構(FhG) #8 の仕組みを参考に、優秀な人材を育成して民間企業に輩出する機能を付与することも検討すべきである。

IV.イノベーション創出を担う人材育成のための大学・大学院改革

イノベーションを創出する上で最も重要な基盤は人材であり、各国ともイノベーション政策の一環として、人材育成の重要性を明確に打ち出している。大学・大学院は、人材育成の場として重要であるが、わが国の大学・大学院は、イノベーション創出を担う優秀な人材を育成する場として期待される役割を必ずしも十分に果たせていない。一方で、現在検討されている第4期基本計画の案文では、基本的に従来路線の踏襲の色が濃く、極めて憂慮される。

グローバル競争が激化する中、世界的に通用する優秀な人材を育成するためには、産学官が人材育成に関する目的意識を共有した上で、大学・大学院の改革に連携して取組むべきである。具体的には、以下の点について積極的に取組むことを提案する。

1.国際水準の教育の提供

わが国の科学・技術の水準を底上げし、国際競争力を強化するには、国際的に通用する人材を育成することが不可欠である。具体的には、国際水準のカリキュラムの編成、体系的なコースワークの構築、学部・学科単位での国際ベンチマーク、修了単位数の増加、語学力やプレゼンテーション能力の向上を図るためのコースの充実、教育内容・成績評価法に関する情報公開の促進等について積極的に取組み、国際水準からみても質の保証がなされた人材育成を行う必要がある。

また、海外の大学・大学院との連携強化を図ることも重要であり、海外からの優秀な学生・教員の受入れ促進、学生の海外留学および教員の海外研修の積極的支援、海外大学・大学院の単位取得を必修化するコースの設置等により、海外の優秀な人材と切磋琢磨する機会を拡大し、多様な価値観・視点を持つ人材の育成に積極的に取組むべきである。

2.博士号取得者の多様なキャリアパスの形成

先進諸外国の実情に鑑みても、わが国において高度な専門性を持つ博士号取得者が社会の多様な場面で活躍することが求められているが、一方でわが国の博士号取得者は大学・大学院の研究職ポストを希望する傾向が強い。その結果、博士号は取得したものの大学・大学院の研究職ポストが空くのを待ちつつ期限付きで大学に雇われるポストドクターが増加するといった問題が生じている。

わが国のあらゆる分野でイノベーションを創出していくために、高度な専門性を持つ博士号取得者が、大学・大学院といったアカデミアの世界のみならず、企業や官庁、NPO、国際機関など幅広いフィールドで活躍できる環境を整備する必要がある。

今後は、一つの専門分野のみならず分野横断的に学ぶための関連科目(社会科学を含む)の充実や、産業界との連携による実践的な大学・大学院教育カリキュラムの開発、人材交流・共同研究・インターンシップ等の機会の拡大、指導教官による学生の進路適正の見極め、企業への就職支援等について、産学官が連携して積極的に取組む必要がある。

その意味で、国内外の優秀な教員と学生を結集し、産学官連携の下で、国際標準の博士課程教育を実施する「リーディング大学院」構想は興味深い。ただし、あらかじめ評価軸を設定し、実績評価を毎年度着実に実施する体制を整備するとともに、産学双方にとって実効あるものとなるよう産業界からの意見を丹念に聴取して制度を設計すべきである。

3.教育への積極的な取組み

優秀な人材を育成するためには、研究のみならず、教育にも力を入れることが不可欠であるが、実際には研究が重視され、教員の意識における教育のウェイトは低いものと思われる。

こうした現状を打破し、教育への積極的な取組みを促すためには、教員の質および多様性の確保に向け、学生を教育・指導する教員の資格要件の高度化(大学教員採用の要件における教育経験の必須化等)や、産業界との連携により企業でプロジェクトマネジメント経験のある人材を積極的に受け入れるといった取組み等について、積極的に推進すべきである。

また、学生の学習意欲を刺激するためにも、成績優秀者に対する授業料の免除・減額といった経済的インセンティブを与える制度の整備・拡充についても検討する必要がある。さらに、産業界における必要性と乖離したかたちで衰退が進んでいる「絶滅危惧学科 #9」についても、基礎的技術を備えた技術者の育成に向け、産業界とも連携し、それらの学科の重要性を強調するとともに、カリキュラムやコースワークの充実をはじめ、学科を維持するための取組みを推進する必要がある。

その際、教育に積極的に取り組んでいる大学・大学院を正当に評価する体制を構築するとともに、評価の高い大学・大学院に対し、国が重点的に投資を行う仕組みを構築すべきである。

4.大学・大学院改革を促す仕組み作り

少子化が進む中、大学・大学院の統廃合は避けられない。このような状況にも鑑み、大学・大学院は、研究、教育、高度人材育成、地域貢献等、どの機能に特化するかを明確にした上で、独自性の発揮に向けた機能分化の取組みを推進する必要がある。

こうした大学・大学院の改革を促進するためには、大学・大学院が自ら変わろうとするインセンティブを生み出すことが重要である。その際、政策誘導の有効な手段として、運営費交付金の傾斜配分が挙げられる。現在、運営費交付金は、毎年一律に削減されているが、大学・大学院の運営を支える上での基盤的経費であり、大学・大学院の機能を維持するためにも、一律の削減は見直すべきである。その際、一律の底上げは行わず、あらかじめ多様な評価軸を設定した上で、評価の高い大学・大学院に対し、運営費交付金を傾斜配分する仕組みを構築すべきである。

5.次代を担う人材の育成

わが国の将来の科学・技術を支える人材の育成に向け、次代を担う子どもたちに科学的素養を身に付けさせるための学習機会を充実させることは極めて重要であり、われわれ大人の責務でもある。産業界にもいわゆる「理科離れ」を懸念する声は多く、その改善に向けた具体的な取組み事例も増えている。

そうした中、施策のレベルにおいてもこれまで以上に産業界との連携強化を図る意思を明確化し、初等中等教育における実験や体験学習等の機会の増加、企業による「出前授業」の受入れ拡大、企業OBの理科教員への採用等について、積極的に取組むべきである。また、初等中等教育における教員の質の向上を図る意味からも、高度理工系人材に対する初等中等教員免許取得の支援等の取組みを推進する必要がある。

V.イノベーション創出に向けた仕組みの整備

1.基礎研究力の強化

諸外国ではイノベーション創出に向け、基礎研究に対して重点的な投資を行っている #10。基礎研究は、将来のイノベーション創出の種を生み出しうるものであり、人材育成とともにイノベーション創出の根本的な基盤を担っているものといえる。その意味では、わが国においても、諸外国に見劣りしない世界最先端の基礎研究が行われるよう、国として力を入れていく必要がある。

ただし、第4期基本計画がイノベーションの創出までを視野に入れた「科学・技術・イノベーション政策」を志向していることに鑑みれば、研究者の自由な発想や興味に基づいて行われる基礎研究の推進のみならず、解決すべき課題からバックキャストして実施する基礎研究など、イノベーション創出につながることを強く意識した目的の明確な基礎研究にも焦点を当て、重点的に投資を行う必要がある #11

わが国においては、国際的評価の高い基礎研究がなされている分野があるこが、投入予算と比べて成果の出ていない分野もある。こうした状況にも鑑み、基礎研究に対する厳格かつ優れたピアレビューの実施に加え、産業界による評価を行う体制も構築し、その評価結果を研究資金の配分に反映させる仕組みを整備すべきである。また、世界との競争を意識した国際的ベンチマーク、基礎研究について産業界を含めた多様なステークホルダーが話し合う「場」の設置等についても積極的に取組む必要がある。

2.産学官連携によるイノベーション創出拠点の整備

イノベーション創出を促進するためには、世界トップレベルの研究開発拠点を形成することが重要である。現在、海外では、ベルギーのIMECや米国のAlbany Nanotech等、世界トップレベルのナノテク研究開発拠点が形成されており、イノベーション創出に向けた産学官連携の基盤として、重要な役割を果たしている。

わが国においても、つくばイノベーションアリーナ(TIA)において、世界トップレベルのナノテク研究開発および人材育成の拠点の形成に向け、産学官の連携が本格的に開始しつつある。TIAを、IMECやAlbany Nanotechといった世界トップレベルの研究開発拠点に匹敵する拠点として発展させていくためにも、産学官が本格連携し、国際戦略特区の活用も視野に入れつつ、具体的成果に向けたさらなる取組みを推進する必要がある。その際、優れた技術を持つ海外企業の進出の促進も、イノベーションを促進する上で、極めて重要となる。

なお、医工連携や農商工連携等の新しい分野においても、特区の活用により様々なイノベーション創出がなされることを期待する。

3.PDCAサイクルの確立

計画を実効ある形で推進するためには、PDCAサイクルを着実に回すことが重要である。新成長戦略やIT戦略本部で取りまとめられた「新たな情報通信技術戦略(新IT戦略)(2010年5月)」においても、基本計画に基づいた工程表が策定されているところであり、工程表の策定はPDCAサイクルを回す上で不可欠な要素であると言える。第4期基本計画についても、各施策の実施主体、具体的目標、目標達成時期を明確に示した工程表を、基本計画策定後できるだけ早期に策定すべきである。

各実施主体は工程表に基づき、関係府省庁と連携しつつ、責任を持って目標の達成を図ることが必要である。総合科学技術会議(あるいは「戦略本部」)は、目標達成に向けた各実施主体の進捗管理、実績評価を年度末に行うとともに、第3者評価の活用による定期的な検証も行うべきである。また、評価に際し、各施策を絶えず国際ベンチマークすることにより、先進諸外国と遜色ない水準が維持されるよう努めることも重要である。

さらに、各施策の実施主体が具体的施策の改善を行うためのインセンティブとして、その評価結果を次年度の予算編成等に反映させる仕組みを構築すべきである。第3期基本計画においても、総合科学技術会議における基本計画開始後3年目の計画推進状況の中間評価や、科学技術政策研究所におけるフォローアップなど、基本計画の実施状況に関する評価は行われているものの、その評価結果が次年度の予算編成あるいは次期基本計画策定の参考にしかならなかったことから、PDCAサイクルが回っていたとは言い難い。評価結果を次年度の予算編成や具体的施策の改善等につなげる一連の措置を、司令塔である「戦略本部」が責任を持って講じることにより、PDCAサイクルを着実に回すことが重要である。その際、評価結果をもとに、単年度ごとに計画を見直していくことも必要である。

4.科学技術関連予算の拡充

新成長戦略において、「2020年度までに、官民合わせた研究開発投資をGDP比の4%以上にする」との目標が掲げられており、これを受け、今年6月に公表された第4期基本計画の中間取りまとめである「科学技術基本政策策定に向けた基本方針」においても、同様の目標が明示されている。

現在、わが国の研究開発投資は、総額では対GDP比約3.8%と世界トップの水準にあるものの、そのうち8割以上が民間による投資であり、政府による研究開発投資の割合は2割以下と、低い水準にとどまっている。

他方、欧米アジアの主要国では、近年、科学技術関連予算を拡大する方針を打ち出している #12。欧米アジアの主要国の政府研究開発投資の割合(2008年度)を見ると、フランスが39.4%、イギリスが29.5%、ドイツが27.7%、米国が27.0%、韓国が24.8%、中国が24.6%、となっている。わが国の政府研究開発投資の割合を米国と同水準(27.0%)まで引き上げるとした場合、政府による研究開発投資の対GDP比1%が必須となる #13。欧米アジアの主要国が、科学技術関連予算を拡大している中、わが国が世界トップの科学・技術・イノベーション立国を目指すには、政府による研究開発投資を「対GDP比1%超 #14」に引き上げるとともに、府省横断的な視点から、効果的かつ重点的に配分することが不可欠である。ちなみに、2011年度の科学技術関連予算の概算要求は3兆6,360億円(対GDP比約0.7%)となっている。しかも、そのうち4,300億円は特別枠予算 #15であり、場合によっては前年度(3兆5,879億円)から減額になる可能性もある。こうした状況の中、「戦略本部」がリーダーシップを発揮し、科学技術関連予算の拡充を図ることが求められる。

なお、「対GDP比の4%以上」「対GDP比1%超」は、あくまで従来の科学技術政策を遂行するための予算規模であり、「科学・技術・イノベーション政策」に拡張することを想定すれば、その数値はさらに大きくなる。従って、予算目標額を設定するにあたっては、まず「科学・技術・イノベーション政策」でカバーする範囲を明確にし、それに応じた予算目標額を設定することが必要となる。

また、予算の拡大にあたり、民間のみでは負担することが難しいハイリスクの研究開発に国が積極的に投資を行うべきである。例えば、基礎研究は将来のイノベーション創出につながる種を発掘するための研究といえるが、リスクの高い基礎研究には民間のみでは容易に着手できないものも多い。また、基礎研究を実用化・事業化に結び付けるための橋渡しの役割を果たす研究も非常にリスクが高く、国による積極的な投資が必要となる。併せて、イノベーションの創出を促進するためには、研究開発のみならず、研究成果を実用化し普及させるための実証実験や、先導的に市場を確保するための政府調達に向け、国が積極的に投資を行うことも重要である。

さらに、イノベーション創出を担う優秀な人材の育成についても、わが国の教育投資の水準がOECD諸国と比較して低水準となっている状況を踏まえ #16、国が積極的に投資を行う必要がある。特に、人材育成に関する取組みや、自らのビジョンに基づいた積極的な改革を推進する大学・大学院に対する重点的な支援を講じることが必要である。

加えて、TIAのような世界トップレベルの研究開発拠点の形成を促進するためにも、国が積極的な投資を行うことが重要である。

5.研究開発促進税制の拡充・恒久化

新成長戦略で掲げられた「官民合わせた研究開発投資をGDP比の4%以上」を達成するためには、政府による研究開発投資の拡充が不可欠である一方で、民間による研究開発投資の一層の促進も重要である。そのためには、研究開発促進税制の拡充・恒久化により、企業の研究開発への投資を促進するための優遇税制措置を講じることが不可欠である。

諸外国においては、研究開発促進税制を積極的に導入・拡充する傾向にある。例えば米国では、本年9月に発表した経済対策の中で、研究開発促進税制の拡充を示しており、また、イギリス、中国、韓国等では、法人税率を引き下げるとともに、研究開発促進税制の拡充を図っている #17。こうした諸外国の動きを視野に入れつつ、わが国としても研究開発促進税制の拡充を図り、民間の研究開発投資を促進する環境を整備することが必須である。

なお、わが国の産業競争力の強化を図る観点から、イノベーション創出に向けた製造業の重要性について改めて着目することも必要である。昨今、わが国については「立地競争力」の低下が指摘されており、研究開発拠点、製造拠点、さらには本社の海外流出も現実問題として懸念されている。一方、米国においては、製造業の多大な研究開発投資や製品の量産化による経済効果および雇用創出効果が改めて注目されている。わが国においては、国内投資促進や雇用創出が大きなテーマとなっているところでもあり、イノベーションの重要なプロセスである量産化を進める製造業に対し、雇用創造効果等も考慮しつつ優遇措置を講じるといったことも、わが国でイノベーションを興すために必要な視点であることも強調しておきたい。

6.規制改革、実証実験、政府調達の推進

イノベーションの創出を促進し、経済社会を変革するためには、企業活動の障害となっている規制を緩和・撤廃することが不可欠である。産業界のニーズを幅広く集約し、特区の活用等を通じ、環境、医療、教育等あらゆる分野において、規制緩和を積極的に実施する必要がある。

また、研究成果の実用化・事業化に向けた実証実験を推進することも重要である。その際、国内のみならず、スマートグリッド等のシステム・インフラの海外展開に向け、海外における実証実験も積極的に推進すべきである。

さらに、先導的な市場の確保に向けた政府調達の推進も重要である(例えば、電気自動車や水素自動車の公用車への導入や、充電ステーション・水素ステーションの整備等)。

VI.おわりに

第4期基本計画の策定に向けた議論が進められている中、「イノベーションの創出」という概念が明確に打ち出されている。

本提言においては、イノベーションを創出するための方策について、様々な指摘を行ってきたが、何よりも重要なのは、イノベーション創出の効果を国民がしっかりと享受し、実感できるようにすることである。例えば、今後わが国は、世界に先駆けて本格的な少子高齢社会を迎えることになるが、そうした状況の中、先端医療技術や革新的医薬品・医療機器の開発技術、介護ロボット技術等、科学・技術の成果が国民生活に与える効果は極めて大きく、新たな産業の創出も期待される。

総合科学技術会議の「科学・技術・イノベーション戦略本部」への改組が検討される中での第4期基本計画の検討は、本格的なイノベーション創出のための国家戦略策定に向けて過渡的なものであるとも言える。第4期基本計画については、今後の推進体制の改革の進捗に合わせて適切な評価が行われ、計画期間中であっても大胆な見直しが必要となる。

イノベーション創出に対する大きな期待に応えるためには、担い手となる産業界や、政府、大学・大学院等の様々な関係者が連携を強化し、目的意識を共有しながら、イノベーション創出に向けた取組みを、国民の理解と支持のもと総がかりで推進することが必要である。

経団連としても、わが国から多くの新しいイノベーションが創出されるよう、今後とも政策提言を行っていく所存である。

以上

  1. 第3期科学技術基本計画では、「科学的発見や技術的発明を洞察力と融合し発展させ、新たな社会的価値や経済的価値を生み出す革新」と定義。また、研究開発力強化法では、「新商品の開発又は生産、新役務の開発又は提供、商品の新たな生産又は販売の方式の導入、役務の新たな提供の方式の導入、新たな経営管理方法の導入等を通じて新たな価値を生み出し、経済社会の大きな変化を創出すること」と定義。
  2. 10月13日の基本専門調査会において示された文案より、「科学技術イノベーション政策」という表記に変更(以下、同様)。
  3. 10月13日の基本専門調査会において示された文案より、「科学技術イノベーション戦略本部」という表記に変更(以下、同様)。
  4. (特に重要な研究課題)、A(重要な研究課題)、B(効率的実施必要)、C(見直し必要)の4ランクで、各予算を評価したもの。
  5. 2020年を見据え、特に具体的な実現目標が明確で、かつ達成時に効果の大きい課題を重点化して推進するための計画。今後各府省はアクション・プランに基づき概算要求を行うことになり、政府全体の科学・技術予算編成プロセスの変革が期待される。平成23年度は、新成長戦略の重要課題であるグリーン、ライフの2分野において先行的に実施。
  6. 3〜5年で世界トップを目指した先端研究を推進することにより、産業等の国際競争力強化や研究開発成果の国民及び社会への還元を目的とするプログラム。当初は2700億円規模の予定であったが、実績は1500億円。
  7. 10月13日の基本専門調査会において示された文案より、「科学技術イノベーション戦略協議会」という表記に変更(以下、同様)。
  8. 民間企業や公共機関向け、また社会全体の利益を目的として、実用的な応用研究を行っている欧州最大の応用研究機関。
  9. 企業で働く技術者として必須の基盤的技術等を学ぶための学科であるものの、研究成果面で評価を得られにくい、十分な予算を確保するのが困難等の理由により、廃止の危機に瀕しているもの。
  10. わが国の研究費全体に占める基礎研究費の割合(2008年度)は13.7%なのに対し、フランスは25.1%、ロシアは18.8%、米国は17.4%、韓国は15.7%(文部科学省「科学技術要覧(2010)」)。
  11. 「科学・技術・イノベーションの中期政策に関する提言(日本経団連、2009年12月)」において、「課題解決型アプローチ」を主張。また、研究者個人の能力や発想等に基づく研究についても、「革新知創造型アプローチ」として重視。
  12. 米国の「Invest in America's future(2008年)」では、10年間で研究開発予算を倍増する計画。英国の「科学・イノベーション投資フレームワーク(2004〜2014)」では、2014年までに研究開発投資の対GDP比を1.4%(2004年)から、2.5%に引き上げる計画。中国の「国家中長期科学発展計画(2006年)」では、2020年に研究開発投資の対GDP比を2006年時の倍である2.5%まで引き上げる計画。
  13. 2008年度におけるわが国の政府研究開発投資の対GDP比は約0.7%(文部科学省「科学技術要覧(2010)」)。
  14. 「平成22年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度(2010年1月閣議決定)」の「2010年度名目GDP475.2兆円(見通し)」と新成長戦略の「名目GDP年平均成長率3%」を前提とすると、「対GDP比1%」の5年間の平均は、5兆円超と試算される。
  15. 「元気な日本復活特別枠」約1兆円の割当て分の予算。各省庁への割当てを決定する「政策コンテスト」の結果次第では、減額の可能性もあり。
  16. 主要国の公的教育支出対GDP比(2007年度)は、デンマーク7.8%、フランス5.6%、イギリス5.4%、米国5.3%、OECD平均5.2%なのに対し、わが国は3.4%(OECD「Education at a Glance 2010」)。
  17. 例えばイギリスでは、法人税率を30%から28%に引き下げるとともに、研究開発促進税制の割増控除率の引き上げ(大企業:125%から130%、中小企業:150%から175%)を実施(2008年度)(OECD「Working party of National Experts on Science & Technology Indicators/R&D Tax & Statistics: What Next1」)。

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