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Policy(提言・報告書) 経済連携、貿易投資 日中韓自由貿易協定の早期締結を求める

2010年11月16日
(社)日本経済団体連合会

「日中韓自由貿易協定の早期締結を求める」【概要】 <PDF>

I.日中韓自由貿易協定締結の重要性

日本経団連では、本年6月に「アジア太平洋地域の持続的成長を目指して」を発表し、2020年を目処に、アジア、大洋州、米州を包含する「アジア太平洋自由貿易圏」(Free Trade Area of the Asia-Pacific:FTAAP)の完成を目指すよう提言した。FTAAPを実現するためには、「国を開く」という姿勢を内外に鮮明にすると共に、地域経済統合のロードマップを明示することが重要である。その際、一つの核として、東アジア経済共同体を視野に入れた経済統合の拡大と深化を強力に推進することが求められる。とりわけ、(1)アジアにおける自由貿易協定の空白を解消する、(2)ASEAN+6のGDPの7割を占める日中韓における貿易投資を一層活性化させる観点から、日韓経済連携協定ならびに日中韓投資協定の妥結を図ると共に、日中韓自由貿易協定(以下日中韓FTA)の早期締結を実現することが極めて重要となっている。

本年5月の日中韓首脳会談(於:韓国済州島)の際に、経団連は、鳩山由紀夫総理大臣(当時)、温家宝総理、李明博大統領に対し、日中韓FTAの締結に向け、交渉プロセスを前倒しするよう直接申し入れを行った。現在、2012年を目処に報告書を取りまとめるべく、日中韓FTAに関する産官学共同研究が進められているが、日中韓FTAの重要性に鑑み、産官学共同研究の終了如何にかかわらず速やかに交渉を開始するよう、改めて要望する次第である。

II.日中韓FTAに関する分野別論点

経団連では、本年8月に会員企業に対して、中国、韓国における貿易投資障壁に関するアンケート調査を行い、100社あまりから具体的な回答を得た。アンケート結果に示された経済界の関心事項に基づき、日中韓FTAに盛り込むべき事項を以下の通り求める。

1.関税の引き下げ・撤廃

(1)輸入関税

日中韓FTAをWTOに整合的なものとするためには、「実質的すべての貿易の自由化」(GATT第24条8項)を実現する必要があり、この観点から関税の引き下げ・撤廃が求められる。アンケート調査の結果、鉄鋼製品、自動車、自動車部品、電気・電子機器、石油化学製品、化学繊維、ガラス製品、医療機器、繊維、紙類、食品、医薬品等、広汎な分野に亘り関税引き下げ・撤廃への期待が大きいことが改めて明確になった。日中韓の間で関税障壁を撤廃することで、製品はもとより、原材料、部品、工作機器等をより容易に融通できるようになり、域内全体の国際競争力強化、生産・輸出拠点としての魅力向上を図ることができる。

(2)輸出関税等

日中韓FTAが、天然資源やエネルギー源を三国間で融通し、域内全体のエネルギー安全保障体制を構築する上での法的基盤となることを期待する。とりわけ、日中韓FTAの締結によって、アルミ、コークス、レアメタル、レアアース等に課される輸出関税の引き下げ・撤廃ならびに輸出数量制限の緩和が実現するよう強く要望する。

2.非関税障壁の解消

三国間の貿易を促進するためには、輸入規制の緩和・撤廃、輸入品に係る安全・衛生上の基準の国際規格へのさや寄せ等、非関税障壁の解消が不可欠である。日本企業からは、

  1. 中古品の輸入検査が厳しく、現地工場で中古設備を導入することが事実上困難である、
  2. 独自の規格が適用され、これに適合しないと基本的に通関できない。製品についてはともかく、例えば、電子機器の部品等に至るまで出荷先の規格に適合させることは困難であり、また、現地でこれに相当する部品を調達するのも困難な場合が多い、
  3. 製品検査、検疫等に要する時間が長い。また、手続に関する情報が入手しにくく、根拠法令等も明確でない、

といった障壁の具体例が挙げられており、日中韓FTAにおいて解決を図るべきである。

3.貿易円滑化

(1)税関手続の透明化・迅速化

貿易円滑化を図る上では税関手続の透明化・迅速化が求められる。日本企業からは、

  1. 法令・規制の改正が頻繁に行われ、文書等による公示やリードタイムもなく実施されることがあり、通関業務が滞ることがある、
  2. 通関する際に事前に要求されない書類の提出が求められ、また担当者の交代により手続も変わるため、通関所要日数が長くなる、
  3. 通関の諸手続が煩雑で、また、関税の課税評価の査定が不明瞭なケースがある、
  4. 現地の市況に比べて輸入品の価格が低い場合、みなし価格が設定され、これを基準に関税が賦課される、また、みなし価格の設定に時間がかかり、数日間貨物が留め置かれ、エンドユーザーの安定操業を阻害するケースがある、

といった具体的な問題が指摘されている。日中韓FTAによって、税関手続に関する合同委員会を設置し、こうした問題に対処する必要がある。

(2)税還付の着実な実施

輸出品に対する付加価値税(増値税)の還付率が頻繁に変更され、品目によっては還付率が低下傾向にあるとの指摘がなされている。本来、内国税である付加価値税(増値税)は全額還付されるべきであり、日中韓FTAにおいて、本件に関しても明文の取極をなすべきである。

4.貿易救済措置の規律強化

アンチダンピング、セーフガードをはじめとする貿易救済措置については、濫用された場合、通商制限的に機能するおそれがあるため、日中韓FTAにおいて規律の強化を図る必要がある。

(1)アンチダンピング措置
  1. ダンピング調査において、輸出取引の価格を加重平均する際、調査対象製品のうち輸出取引の価格が正常の価額を上回る製品も計算の対象とすること(ゼロイングの禁止)、
  2. ダンピング価格差に相当する額よりも少ない額のアンチダンピング課税賦課で国内産業に対する損害を十分防止し得る場合、その少ない額のみ課税すること(lesser duty ruleの導入)、

が求められる。

(2)域内セーフガード措置
  1. 日中韓FTAによる関税撤廃の結果、輸入が急増し、同種あるいは直接競合する産品を生産する国内産業に重大な損害を与え、または与えるおそれがある場合に限って発動を認めること、
  2. 協定発効後の一定期間(例えば10年)に限り発動を認めること、

が求められる。

5.サービス貿易・投資

国境を越える投資交流は、投資国側の企業にとって事業機会の拡大につながるのみならず、投資受入れ国にとっても、国内雇用の創出や、外国資本、新たなビジネス・モデル、技術・素材および経営ノウハウといった経営資源を導入する契機となる。拠点設置を通じたサービスの提供(サービス貿易の第3モード)を含む投資の自由化を推進することで、魅力あるビジネス環境を整備すべく、日中韓FTAでは、サービス貿易章ならびに投資章にハイレベルなルールを設けるべきである。

(1)外資制限ならびに外国企業に対する特有の規制の撤廃・緩和

金融、建設、不動産、流通、広告、通信等の主要サービス分野や自動車、鉄鋼、造船、食品等の主要製造業の分野において日本企業が外資制限に直面しており、その撤廃ないしは緩和が求められる。また、

  1. 外国資本は設立できる合弁企業の数が制限されること、
  2. 外国資本は現地の国民に対するサービスの提供が制限され、商品を企画しても、実際にそれを販売する際は現地の企業に委託しなければならないため、自社のノウハウを活かしきれないこと、
  3. 外国資本は資本金をベースとした総投資枠を超えて投資することができず、過去の利益の蓄積を活用して再投資を行うことが制限されること、

等の外国資本特有の規制が指摘されており、内国民待遇の付与を保証することが必要となっている。なお、外資制限ならびに外国企業に対する特有の規制の撤廃・緩和の利益を最大限享受する観点から、日中韓FTAにおいてネガティブ・リスト方式(原則として全ての分野について規制を撤廃し、例外的に規制を残す場合に留保をつける方式)が導入されることを要望する。

(2)撤退・減資規制の撤廃

日本企業が清算・撤退ならびに減資の制限に直面するケースが報告されている。こうした制限の撤廃によって、投資資金の効率的な運用が可能となり、新規投資を通じたサービス、投資の活性化を図ることができる。

(3)パフォーマンス要求の撤廃

現地に拠点を設置する際に技術移転を要求される、一定の国産化比率を達成するよう義務付けられる、納税水準をあらかじめ約束させられる等のパフォーマンス要求は、投資のディスインセンティブとなるため、その撤廃について日中韓FTAに明記すべきである。

(4)送金規制の撤廃

送金に関し、日本企業から以下の弊害が指摘されており、日中韓FTAにおける対応が必要である。

  1. 輸出入通関した貨物の代金や業務契約が存在している場合の対価しか送金が認められず、日本から現地にサービスの対価や立替金を請求することができない。
  2. 現地子会社に対する技術ライセンスのロイヤリティーの送金が認められないことがある。
  3. 現地に送金した外貨を現地通貨に両替するためには、領収証をもって使途を証明する必要があり、人件費等の領収証のない使途に充当することができない。
(5)不透明な国内規制の改善

サービスの拠点設置や投資に関する規制が撤廃・緩和されたとしても、現地の国内法が予告なく頻繁に変更される、規則の運用に関する客観的なガイドラインがなく、担当官の裁量で判断が変わる、申請手続が煩雑であるといった国内規制上の弊害が存在する場合、企業活動は活性化されない。日中韓FTAの下にビジネス環境整備に関する委員会を設置し、国内規制ならびにその運用の透明化を推進することが不可欠である。

6.原産地規則の確立

原産地規則を利用者である企業にとって使い勝手の良いものとするためには、原産地証明発給手続を簡素化、円滑化することが重要であり、例えば認定輸出者による自己証明制度を日中韓FTAにおいて導入することも視野に検討を進めるべきである。なお、原産性を判定する際の基準(関税番号変更基準、加工工程基準、付加価値基準)に関しては、選択が可能な仕組が望ましい。

7.知的財産権

(1)模造品、商標権侵害の取締強化

工業製品、機械、食品、医薬品をはじめとする様々な分野における模倣品の氾濫、既存の著名商標の無断使用、あるいは不正な登録による使用のため、日本企業が被害を受けているケースが多数報告されている。模造品や商標権侵害は企業の間の公正な競争を歪めると共に、創造的な活動のインセンティブを減退させることになる。新たな産業の発展や中小企業の振興を支援する上からも、知的財産権をこれまで以上に重視する必要がある。日中韓FTAにおいて、締約国の知財制度の基盤整備等を促すと共に、執行の実効性を確保するための条項(模造品、商標権侵害の取締、罰則強化等)を盛り込むべきである。併せて、発効後も執行状況をレビューすることが重要である。

(2)知的財産権の確実な保証

ITセキュリティ製品のソースコードの開示の義務化、あるいは、環境エネルギー技術に関する特許権の強制許諾等に対する懸念が多くの日本企業から表明されている。知的財産権が確実に保証され、研究開発投資を適切に回収できる市場環境を整備し、民間の研究開発能力を最大限に引き出すことで、イノベーション、技術移転を推進するという観点から、日中韓FTAに関連規定を設けるべきである。

8.環境問題

環境問題、とりわけ地球温暖化問題に対処すべく、日中韓三国は省エネのための協力を推進する必要がある。省エネの推進は、コストの削減、地域全体のエネルギー安全保障体制の確立にも貢献する。三国は既に「クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ」(APP)の下、省エネ技術の移転のための官民協力をセクター別に展開している。日中韓FTAは、APPの活動に代表される省エネ、環境保護に向けた官民の取組を推進する際の法的基盤となる必要がある。併せて、現在三国間で異なる省エネ・環境技術の規格、基準の標準化に向け、日中韓FTAが寄与することに期待する。

III.むすびにかえて

以上の通り、日中韓FTAは、三国間の貿易投資の活性化に大きく貢献するため、早期締結が望まれる。これと並行して、日韓経済連携協定についても、早期の交渉再開と妥結が求められる。また、日中経済連携協定の締結についても検討すべきである。中国はわが国にとって最大の貿易相手国である半面、高関税品目や投資上の障壁も多いため、二国間の経済連携協定によって大幅な貿易投資の活性化が期待される。

一方で、FTAAP実現のもう一つの核となる「環太平洋経済連携協定」(Trans Pacific Partnership:TPP)にわが国が参加することも重要である。わが国と同盟関係にあり、世界第一の経済大国である米国を含むTPPに参加し、先進的なルールづくりを進めることは、ハイレベルな日中韓FTAの実現にも寄与することになろう。

以上

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