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Policy(提言・報告書) 環境、エネルギー 地球温暖化防止に向け真に実効ある国際枠組を求める -COP16に対する期待-

2010年11月16日
(社)日本経済団体連合会

昨年12月のCOP15(国連気候変動枠組条約第15回締約国会議)は、「コペンハーゲン合意に留意する」旨を決定した。その後、同合意への賛同を表明した国・地域は、米中など主要排出国を含め130近くに達し、世界全体のCO2排出量#1の8割以上をカバーしている。こうしたことから、日本経団連は、全世界が一体となって温暖化防止に取り組む上で、同合意を土台に、単一の国際枠組が構築されることへの強い期待を表明してきた。

残念ながら、COP15以降の累次の国連気候変動交渉では、先進国と途上国との対立構造の解消が進まなかった。また、米国で、中期目標を掲げた気候変動法案の成立の見通しが立っていない中、EU(欧州連合)が、現行の京都議定書の延長を意味する第二約束期間の設定に言及するなど#2、単一の国際枠組の構築に向けた機運が高まっていないことに強い危機感を覚える。

温暖化防止は人類の生存基盤に関わる課題である。メキシコでのCOP16においては、全ての主要排出国が参加する、公平かつ、真に実効ある国際枠組の構築に向けた交渉が行われるよう、日本政府をはじめ全ての締約国政府に対し、以下の通り提言する。

1.全ての主要排出国の単一の枠組への参加

京都議定書は、人類が温暖化防止に向けて初めて合意した重要な国際枠組であり、加盟国は、議定書の目標の達成に全力で取り組まなければならない。しかし、米国の離脱や中国をはじめとする新興国の急速な経済成長に伴い、削減義務を負う国のCO2排出量が世界の3割を切り、世界全体の排出量は急増し続けている。米中をはじめ、京都議定書で削減義務を負わない国々も包含する、単一の国際枠組を早急に構築し、世界全体で温室効果ガス削減の目標を共有、連帯して、その実現に取り組んでいかなければならない。

新たな枠組の構築に関する国際交渉が難航する中、京都議定書の第二約束期間の設定等を主張または容認する議論も散見される。しかし、いかなる形であれ、議定書がひとたび延長されれば、米国や中国などの新興国が参加するモメンタムは著しく損われる。現在の国際枠組の固定化は、地球温暖化の防止に逆行する。日本政府には、全ての主要排出国が参加する単一の国際枠組にのみ合意する、という立場を堅持することを改めて強く求める。

2.国際的公平性の確保

地球温暖化防止に向けた排出削減は急務であるが、厳しい目標水準が経済や雇用に与える影響は深刻なものとなる。国際交渉においては、公平性の確保の観点から、過去の削減努力や今後の削減余力が正当に評価されなければならない。特に先進国間では、削減に要する費用(限界削減費用)が同等となるよう交渉すべきである。

わが国の削減目標については、国際的公平性、実現可能性、国民負担の妥当性、という3つの観点から、透明で国民に開かれた議論を行い、国民が納得できるような中期目標を設定することが求められる。

3.技術の重視(革新的技術の開発と既存技術の普及)

地球温暖化防止と経済成長の両立の鍵を握るのは技術である。現在利用可能な最先端の低炭素技術(Best Available Technology)を地球規模で普及させることによって、温室効果ガスの大幅な排出削減を行うことが可能となる。他方、世界経済がさらに成長する中、温室効果ガス排出量を2050年までに半減させるためには、既存技術の普及に加え、革新的技術の開発が不可欠である。

国際交渉においては、低炭素技術を世界に普及させるため知的財産権の強制的な実施許諾や買取を行うべき、との提案も見られる。しかし、低炭素技術の開発促進や技術移転の円滑化のためには、知的財産権の適切な保護は不可欠であり、強制的な実施許諾や買取は行うべきではない。

(1)革新的技術の開発

革新的技術は基礎研究から開発・実用化・普及までに長い期間と巨額の費用を要し、一国のみで行うには限界がある。温室効果ガス2050年半減に必要な基盤的技術の開発のロードマップを国際的に共有し、連携を図りながら、産学官による研究開発を推進することが求められる。

(2)途上国における削減努力支援(既存技術の普及を通じた国際貢献)

  1. (1) ビジネスベースでの技術移転を促進する環境の整備
    途上国への低炭素技術の移転・普及の太宗は、先進国からの製品輸出、直接投資、技術協力、特許のライセンスなど、ビジネスベースで行われているが、技術の移転先国におけるノウハウ・人材の不足や、不十分な知的財産権の保護など、技術移転を阻害する途上国側の要因も指摘されている。
    そこで、わが国を含む先進国と途上国の対話や、公的資金による支援などを通じて、こうした障害を除去していくことが望まれる。とりわけ、途上国が技術を円滑に吸収できるよう、技術協力と併せて、人材育成などキャパシティ・ビルディング支援に注力すべきである。

  2. (2) 国際貢献を評価する新たな二国間オフセットメカニズムの具体化
    CDM(クリーン開発メカニズム)は、途上国における削減を支援する仕組みとして京都議定書の下で導入されたが、クレジット認証に係る硬直的な手続きなど、改善すべき諸点が指摘されている。
    こうした中、CDMを補完する制度として、日本の技術による海外での排出削減分をわが国の貢献分として評価する、二国間オフセットメカニズムを構築しようとする取組みを歓迎する。その早期具体化に向け、温室効果ガスの削減量計測の方法論の確立や、途上国との政府間協議の加速化、日本の取組みに対する国際的な理解の醸成などが求められる。
    日本産業界としても、今回のCOP16をはじめ様々な機会を捉え、世界の温室効果ガス削減に向けた同制度の重要性につき、国際的な認知の拡大と具体的なルールづくりに積極的に協力していく。

経団連は現在、「2050年における世界の温室効果ガスの排出量の半減目標の達成に日本の産業界が技術力で中核的役割を果たすこと」を共通のビジョンに掲げ、(1)企業活動における最先端の低炭素技術の最大限の導入、(2)消費者に対する世界最高水準の製品・サービスの開発・実用化、(3)海外への技術・ノウハウの移転、(4)革新的技術の開発、の4本柱で構成される「低炭素社会実行計画」を推進している。これにより、地球規模の低炭素社会の構築に主体的かつ積極的に貢献していく所存である。

経団連では、世界の産業界とも連携しながら、実効ある国際枠組の構築に貢献していきたいと考えている。この意味で、政府と産業界が知見を共有する場が重要であり、現在、メキシコ政府が推進している「メキシコ対話」#3をはじめ様々な官民対話が拡大していくことを期待している。

以上

  1. エネルギー起源CO2
  2. EU理事会は2010年10月14日、メキシコ・カンクンで開催されるCOP16におけるEUのポジションを採択。同ポジションでは、京都議定書の第2約束期間について、それがすべての主要経済圏が参加するグローバルで包括的な枠組みへの展望を含む、より広い成果の一環としてであれば、検討する用意があることを確認する一方、法的拘束力のある単一枠組が望ましいことを改めて述べている。
    https://www.consilium.europa.eu/uedocs/cms_data/docs/pressdata/en/envir/117096.pdf
  3. COP16議長国メキシコが主催している官民対話。7月15~16日の全体会合の後、9月から11月にかけて、3回の分科会が開催(資金・投資/炭素市場/技術)。これらの対話の成果は、今後、COP16に報告される予定。

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