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Policy(提言・報告書) アジア・大洋州 ASEANミッション米倉団長所見

2011年2月18日
(社)日本経済団体連合会
於 シンガポール

  1. 1.2月13日から18日にかけて、ASEAN議長国であるインドネシアを皮きりに、わが国企業の主要な事業戦略拠点の一つであるタイ、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)や環太平洋経済連携協定(TPP)の主要な推進国であるシンガポールを訪問した。各国の官民のリーダーとの意見交換を通じて、改めて、経団連のアジア重視の姿勢を内外に示すことができた。

  2. 2.地域経済統合とインフラ整備を進め、わが国の有する優れた技術やノウハウを活用して、アジアの一層の発展に貢献し、アジアと共に成長するという経団連のアジア成長戦略は、いわば各論ともいうべき実行段階を迎えている。訪問国の官民のリーダーとは、具体的な協力策やそれを実行に移す道筋について踏み込んで意見交換を行うことができ、大きな成果を挙げることができた。

  3. 3.地域経済統合については、2020年に向けてのアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構築等をにらみ、ASEAN諸国との間で人の移動や物品・サービス貿易の一層の自由化を図る必要があるという点で各国の首脳と一致した。
    また、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現のためには、わが国が提唱した東アジア包括的経済連携(CEPEA)の枠組みをわが国自身がリーダーシップを発揮しASEAN各国と一緒になって加速するとともに、環太平洋経済連携協定(TPP)に早期に参加し、この2つの枠組みを同時に推進するため、積極的にアジアと米国を含む太平洋諸国との架け橋としての責務を果たしていくことが、わが国のみならずアジア、ひいては世界の持続的成長にとって重要であるとの思いを新たにした。

  4. 4.インフラ整備については、ASEAN諸国に今後膨大なインフラ需要が見込まれることから、各国で、官民が一体となった政策対話の推進や官民連携のスキーム(Public-Private Partnership)の整備、インフラ整備のための資金調達のためのアジア債券市場整備、二国間オフセット・メカニズムの導入などを早急に具体化することで各国首脳およびスリン・ASEAN事務総長と一致した。
    なお、今回訪問した3カ国では、いずれもハードインフラの整備と並んで、人材育成での協力が強く要請された。次代を担う人づくりが、現在の経済繁栄を継続していく上での基礎であるとの認識である。シンガポールからは、内向きといわれる日本の学生や若手の企業人を人種の坩堝である同国に積極的に留学させてはどうかとの提案があった。わが国としても、人材育成に関する政策再構築が必要であると痛感した。

  5. 5.今回訪問した3カ国はいずれも好調な経済運営を背景に、着実な民生向上と民主政治の定着を進めているとの印象を強く持つことができた。また、各国首脳から経済運営の自信を背景に、長年にわたる日本の経済協力・支援に対する感謝の意が改めて表明された。
    以上の重要課題について議論を更に深めるために、各国の民間経済団体(インドネシア:KADIN、タイ:JSCCIB、シンガポール:シンガポール経団連)首脳を招き、4月5日に東京で第二回アジア・ビジネスサミットを開催する。訪問各国の経済界代表を招待したところ、いずれの代表からも快諾を頂いた。経団連を核とする民間経済界ネットワークが着実に根付いていると感じた。

  6. 6.今回の訪問成果は、帰国後、早速、菅総理やパッケージ型インフラ海外展開関係大臣会合のメンバーをはじめ政府の所管省庁に報告するとともに、既述の通り4月5日に開催するアジア・ビジネスサミットで各国経済界代表に報告し、さらに議論を深め、アジアの一層の成長のための具体的なアクションにつなげて参りたい。

以上

【参考】

○ インドネシア

  1. 1.インドネシアでは、ユドヨノ大統領、ブディオノ副大統領、ハッタ経済担当調整大臣、ヒダヤット工業大臣、スリスト・インドネシア商工会議所会頭ほかと、連結性強化のためのインフラ整備、資源・エネルギー開発、環境、地域経済統合等を中心に、それぞれ個別に意見交換を行った。また、大統領との会見に8人の主要経済閣僚が同席し、対日期待の大きさを改めて感じることができた。

  2. 2.インドネシアのインフラ整備に関しては、6つの経済回廊構想、首都圏投資促進特別地域構想(MPA)に対するわが国の積極的な協力に期待が寄せられた。具体的には、火力発電、地熱発電、上下水道、鉄道、都市交通等わが国の優れた技術が活かせる分野、地方経済の活性化や食料・エネルギー安全保障の分野を中心に協力が求められた。
    経団連側からは、こうした大規模インフラプロジェクトの推進のためには、(1)CO2の削減分をクレジットに変えることのできる柔軟な二国間のオフセット・メカニズムの導入や、(2)プロジェクトの基礎的部分をODAで整備し、採算のとれる運営については民間投資が担う、パブリック・プライベート・パートナーシップのスキームの策定と活用が重要であると提案したところ、いずれについても各国から賛同の意を表明された。
    特に、二国間のオフセット・メカニズムについては、大統領、副大統領をはじめ多くの閣僚から強い関心が示され、ハッタ経済担当調整大臣から、「MPAの運営委員会の下で具体的に検討したい」との提案があった。
    また、ヒダヤット工業大臣からは、インフラ整備に関連して、物流コストの引き下げのための方策について具体的な提案が欲しいとの要請があり、日本・インドネシア経済委員会で引き続き検討することで合意した。

  3. 3.近年、人口(年300万人のペース)と国民所得(この5年間で300パーセント)が急速に拡大するインドネシアは、内需拡大による高い経済成長を実現しており、旺盛な国内市場の購買力に対して近隣諸国の関心が集まっている。こうした中で、「今日のインドネシアの発展に大きく貢献してきた日本は、70年代から困難な時にも支援をしてくれた重要なパートナーであり、今後とも手を取り合って協力していきたい(ユドヨノ大統領)」との格別の対日期待が表明された。これに応えていくために、引き続き、政府のパッケージ型インフラ海外展開関係大臣会合などと連携していくこととしたい。

○ タイ

  1. 1.タイではアピシット首相、トライロン副首相、ゴーン財務大臣、ポンティワー商務大臣等と懇談し、経済統合の推進、日本タイ経済連携協定(JTEPA)の高度化やビジネス環境整備、ASEAN広域インフラ整備の一環としてのメコン開発での協力推進などについて踏み込んだ話し合いを行うことができた。

  2. 2.アピシット首相からは、経団連の成長戦略への支持が表明され、経済統合を進めるために地理的連結性を高めるインフラ整備を進めていくことが強調された。そして、重複投資を避けるために、日本には、特に、優れた技術、ノウハウを有する交通インフラ整備と関連人材の育成について、タイおよびメコンで両国が協力して取り組んでいきたいとの提案があった。また、これに関連して、官民連携(PPP)のスキーム策定に力を入れていくとの決意が示されたことは、成果であった。
    更に、インフラ整備とともに関連人材の育成に対する要望は、タイ経済界からも示された。人材育成における日メコン産業協力の推進の重要性を改めて確認することができた。この話し合いを継続するために、できれば年内に双方民間経済界による合同委員会を東京で開催することで調整することを決めた。

  3. 3.経済統合については、アピシット首相は、担当のポンティワー商務大臣とともに環太平洋経済連携協定(TPP)に関心を示されたが、当面は既に進めている東アジア包括的経済連携(CEPEA)の完成を加速したいとの方針を明らかにした。ただし、アジア太平洋地域の経済統合に向けてまい進する点で経団連の考え方と一致することを再確認した。
    また、日タイ経済連携協定(JTEPA)の再協議が来年から始まることに関連して、アピシット首相とポンティワー商務大臣からは、改めて再協議に向けてビジネス環境整備に取り組んでいく姿勢が明確に示され、日本からの率直な意見が大変参考になるので、投資委員会(BOI)に意見を寄せるよう要請があった。特に、苦しいときにも一貫してタイ経済を支えてきて日本経済界に対する信頼が改めて表明され、マプタプット問題はじめ各種の課題、障壁を早期に解消していくとの考えが示された。

  4. 4.インフラ資金の調達に関連して、バーゼル3を巡る規制強化が市中銀行の貸し出しに影響を与える懸念を世銀が示したことが紹介され、今後本件の取り組みで協調していくことで合意し、アジア債券市場の整備でも協力していくことで合意した。

○ シンガポール

  1. 1.シンガポールでは、リム=フンキャン貿易産業大臣、リー=シェンロン首相から、FTAAPというゴールの通過点である東アジア包括的経済連携(CEPEA)と環太平洋経済連携協定(TPP)を車の両輪として、日本がリーダーシップを発揮するべきであるとの強い期待が示された。特に、CEPEAの提案者である日本はその加速化に努めるべきであるとの思いを新たにした。
    他方、リム大臣より「包括的で例外のない21世紀型のFTAであるTPPの門戸を幅広くして成功させるためには、段階的措置を導入して時間的余裕を参加しようとしている国に与えることが必要である」との認識が示されたことは、今後のTPP参加のヒントになると考える。

  2. 2.アジア債券市場の構築を通じて、アジア域内の莫大なインフラ整備の資金需要を満たす方針については、リー=シェンロン首相、ゴー=チョクトン上級相より賛同を得られた。その際、通貨の問題については、いずれの通貨を機軸として採用するか、あるいは、バスケット方式を採用するかが次の課題となる。この点で、アジアの主要金融センターのシンガポールと引き続き連携をとって研究していくこととしたい。

以上

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