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Policy(提言・報告書) 経済連携、貿易投資 わが国の通商戦略に関する提言

2011年4月19日
(社)日本経済団体連合会

はじめに

東日本大震災による甚大な被害からの復興は、目下、国内最大の課題であり、被災地支援、生活・経済の復旧と経済活動の正常化に向けて、国を挙げ総力を結集しなければならない。経団連としても、被災地の一日も早い復旧のため、政府・自治体はじめ関係各方面と連携し、最大限の支援を行っていく。また、企業によってはサプライチェーンが寸断され、国内のみならず世界的な供給体制に大きな支障が出ており、早急な解決が切に望まれている。

他方、震災後のより強い国内経済・産業基盤の構築を通じたグローバルな事業展開、円滑なサプライチェーンの構築のためにも、WTOドーハ・ラウンドの年内妥結やTPP交渉への早期参加は、依然としてわが国にとっての重要な政策課題である。

未曾有の震災への対応に国力を集中するなか、厳しい道のりとなるが、経団連としては今後も日本が貿易・投資立国としての立場を堅持し、積極的に主体的・戦略的な通商政策を推進していくべきことを国内外に発信していきたい。

本提言の検討は、今般の大震災が発生するよりも前から行われてきたものであるが、国内経済・産業基盤の再構築を推進しなければならないわが国企業にとって、国内を拠点としつつ成長の源泉を海外に求め、グローバルに事業活動を展開する必要性はますます高まっている。

こうした基本認識に基づき、わが国のあるべき通商戦略について、以下の提言を行いたい。

1.通商戦略の基本的な考え方

(1) 現状と課題―急務となる通商戦略の再構築

経団連では、2007年、提言「対外経済戦略の構築と推進を求める ―アジアとともに歩む貿易・投資立国を目指して―」(10月16日)において、わが国の通商政策に関し、相手国からの要請・圧力への対応に終始する受動的・状況適応型の姿勢から脱却し、主体的・戦略的姿勢へと転換すべきことを主張した。その背景となったのは、各国によるFTA(自由貿易協定)等の締結の加速や、わが国の企業による東アジア域内を中心とするサプライチェーンの構築、サービス産業の海外展開の進展である。

しかしながら、その後もわが国の通商戦略に大きな転換は見られない。一方、諸外国においては、成長と雇用の源泉を求めて通商課題に戦略的に取り組んできている。例えば、韓国は、米国やEUとのFTAへの署名を実現し、米国は、TPP(環太平洋連携協定;Trans-Pacific Partnership)を基礎にアジア太平洋地域の経済統合を主導している。他方、わが国においては、韓国との競争条件格差のさらなる拡大が懸念されるばかりか、加速するTPP交渉への参加判断の後れにより、アジア太平洋地域の経済統合に向けた主導力を発揮できない状況に陥っている。わが国としても、改めて通商政策の基軸を明確に定め、主体的・戦略的にスピード感をもって推進することが急務となっている。

(2) 通商戦略構築の主眼―円滑なグローバル・サプライチェーンの構築

サプライチェーンがグローバルに広がる中、企業にとって望ましい貿易・投資環境は、同一のルールが出来る限り広範な国・地域で適用されることである。震災により寸断されたサプライチェーンを復旧したうえで、わが国が持続的成長を遂げるためには、わが国企業が国内の技術や雇用を維持できるよう、コアとなる生産・開発等の拠点を国内に維持しつつ、グローバルなサプライチェーンを強化することが不可欠である。そのためには、国内拠点を含むグローバル・サプライチェーンを通じたビジネスを行う上で、他国に劣後しない事業環境が整備されなければならない。このような観点から、わが国の通商戦略は、国内の拠点を含む円滑なグローバル・サプライチェーンの構築を後押しするものでなければならない。

(3) わが国が推進すべき通商戦略

上記の認識を踏まえ、わが国が推進すべき通商戦略は以下の通りである。

まず、多角的自由貿易体制であるWTO(世界貿易機関)においては、各種のルールを拡充するとともに、各種のFTA・地域協定等の規律を取り込み、その調和・統合を目指すべきである。これにより、異なるルールの併存によって生じる弊害を可能な限り回避するとともに、より高度な規律が適用される範囲を拡大すべきである。

これと並行して、わが国のEPA(経済連携協定)と地域経済統合の推進にあたっては、新しい製品・サービス、ビジネスモデルに対応したルールを先導的に導入するとともに、協定に規定されたルールの広域化を図ることが重要である。その際、現行のWTOの規律との整合性の確保に努めるとともに、WTOのもとでの新たなグローバル・ルールの策定に資するものとなるよう、WTOにおけるルールの拡充への取組みにつなげていくことが必要である#1

なお、東日本大震災に伴う原子力発電所の事故を受け、一部の国・地域において、日本からの輸入に対して規制を強化する動きがある。また、民間においては受取り拒否などの対応も見られる。わが国としては、過剰反応しないよう要請するとともに、国際ルールに則った対応を引き続き求めていく必要がある。

2.WTOにおけるルールの拡充等

円滑なグローバル・サプライチェーンの構築に向けては、150以上の国が加盟する多角的自由貿易体制であるWTOにおいて、各加盟国に対して同一に適用されるルールを拡充することが最も望ましい。

WTOのもとでの最大の課題は、今年で交渉開始から10年となるドーハ・ラウンドの年内妥結を実現することによって、WTOがグローバルなルール作りを行う機関として機能することへの信頼を維持することである。そのうえでさらに、WTOのもとでのルールの拡充に取り組む必要がある。その際、各種FTAに規定されている、WTO協定を上回る自由化・規律化やWTO協定の規律が及ばない分野のルールを取り込んでいくことが重要である#2。これにより、急速に増加するFTAや地域経済統合が併存するなかで、WTOのもとでのグローバル・ルールが有効に機能するよう、その実効性を確保していくことが求められる。

同時に、WTOの紛争解決手続という準司法的な機能と、保護主義の抑止等、協定遵守状況の相互監視という行政的な機能は引き続き重要であり、維持・強化される必要がある。これらと並行して、ルールに反する諸外国の措置については紛争解決手続に付託し速やかな問題解決を図っていくことも重要である。加えて、迅速なルール作りが可能となるよう、コンセンサス原則などWTOにおける意思決定方法の見直し#3についても検討が進められるべきである。

わが国としては、このような認識に立って、以下に掲げる課題に積極的に取り組むべきである。

(1) ドーハ・ラウンドの年内妥結

2010年11月のG20サミット、APEC首脳会議から「2011年が重要な『機会の窓』である」とのメッセージが出されたのを受け、7月の実質合意に向け、年明けから精力的に交渉が行われている。WTO体制への信頼を維持するためにも、関税引下げ方式を含むこれまでの交渉成果を土台に何としても年内妥結を実現すべきである。

わが国は、高い水準の自由化を実現している点を活かして、他国に対して市場アクセスの改善やルールの強化に関する提案を行うなど、交渉促進にイニシアチブを発揮できる余地が大きいと考えられる。わが国は既に、鉱工業品等の分野別交渉において、米国と途上国の間の意見の隔たりを橋渡しする提案を行うなど事態の打開に動いているところであるが、わが国がTPP交渉に参加し、さらに、日・EU経済統合協定(EIA)交渉開始に合意することができれば、調整力や交渉力は更に増すものと期待される。

(2) ルールの拡充(ドーハ・ラウンド後の課題)

ドーハ・ラウンドの終結後を見据え、以下のような分野において、WTOのもとでのグローバル・ルールの策定を働きかける必要がある。その際、FTA等における規定内容やWTO協定の規律が及ばない分野のルール等を採り込むことにより、異なるルールの併存により生じる弊害を可能な限り回避するとともに、レベルの高い規律の適用範囲を拡大する必要がある。直ちに加盟国全ての合意を得ることが困難な場合は、政府調達協定や情報技術協定において採用されたように、まず複数国間協定を締結し、徐々に加盟国を拡大していく方法も考えられる。

① 資源・食糧の輸出制限に関する規律

レアアース等の希少資源、食糧の輸出に関する制限措置について規律を強化すべきである。現行のWTO協定のもとでは、輸出制限に関し、数量制限は原則として禁止され、また、WTO設立後の加盟国については、加盟議定書において、一定の規律が設けられている。しかし、数量制限の禁止については、食糧その他締約国に不可欠の産品の危機的な不足を回避するための一時的措置が対象外とされているなど、多くの例外が認められている。また、輸出税については、明示的な禁止規定が存在しない。さらに、協定上の義務の一般的例外規定に基づいて、人、動物・植物の生命・健康の保護や有限天然資源の保存のための措置として、輸出制限を正当化する余地が残されている。
そこでまず、紛争解決手続きへの提訴等を通じ、輸出制限や輸出税に対する既存のWTOの規律の適用の強化・明確化を図るべきである#4。また、レアアース等の希少資源にかかる輸出規制については、運用の透明性を図るため、早期通報の仕組みを整備することが期待される。また、上記の一般的例外として認められる要件を厳格化することも望まれる#5
農産物に関しては、現行のWTO農業協定において、輸出禁止・輸出制限措置の新設の際の農業委員会への通報制度が存在するが、措置の導入自体は制限されない。ドーハ・ラウンドにおいては、わが国の提案も反映し、措置を導入する国と関心国との協議を求めることや、農業委員会による監視機能の強化が議論されていることは評価できる。しかしながら、世界の食糧需給の逼迫が懸念される中、食糧危機の際に輸出国が採る輸出制限措置は、輸入国の食糧安全保障への重大な脅威となる。そのため、輸出制限に関するルールの整備等、一段の規律強化に取り組むべきであり、同時に、人材育成・交流、生産基盤の整備、生産技術向上などの各種の協力を通じた農業生産の安定と安全性の確保、さらには食糧の共同備蓄の枠組み作り等により、食糧の安定供給の確保を推進すべきである。

② 投資

WTOのもとでの投資ルールの整備については、2004年8月の枠組合意において投資をドーハ・ラウンドの交渉対象とすることが断念されて以来、新たな取組みはなされていない#6。しかしながら、わが国がこれまで締結した投資協定は、投資章を含むEPAも合わせて24 にとどまっている。欧米諸国等に比べ大きく遅れをとることから、わが国からの投資に対する保護・自由化はこうした諸国に劣後する状況にある。これを解消し、国内を含むグローバルなサプライチェーンのもとでの投資環境を改善するためには、WTOのもとでの多国間投資ルールが策定されることが最も望ましい。先進国企業のみならず新興国企業も投資主体になりつつある現在、グローバルな投資ルールの必要性は新興国にとっても高まっていると考えられる。
多国間投資ルールの策定にあたっては、投資家により直接あるいは間接に所有・支配されている全ての種類の資産を広く対象とするとともに、投資の保護だけでなく、自由化や紛争解決手続き(投資家対国家の紛争解決条項)を含めた制度を構築することが不可欠である。規律すべき内容としては、投資の保護については、投資後の最恵国待遇・内国民待遇、公正衡平待遇義務、収用の制限と適切な補償、送金の自由、政府が外国企業に負った約束の遵守、法令の公表等による透明性の確保などを確実に担保する必要がある。投資の自由化については、投資前の内国民待遇・最恵国待遇、パフォーマンス要求の禁止等などを盛り込むことが重要である。
その際、協定の実効性を高めるためには、途上国の開発政策や協定の履行能力に十分配慮することが重要となる。そのような観点から、例えば、まずは複数国間協定とし、徐々に加盟国を拡大していくことも選択肢となる。また、投資保護については高水準を確保することが重要である一方、投資自由化については、自国が約束した分野のみ自由化するポジティブ・リスト方式とするなどの方法が考えられる。このようにして、投資側と投資受入側双方が受け容れ可能な水準から徐々に水準を引き上げていくことが現実的と考えられる。

③ 電子商取引

急速に発展し続けるICT(情報技術)の高度利活用技術、新たなビジネスモデルの創造といった現実を踏まえ、新たな成長分野として期待されるインターネットを通じた電子商取引の拡大に向けて、サービスの提供者と利用者・消費者双方の視点を考慮したルールを策定する必要がある。例えば、スイスとのEPAの電子商取引章に盛り込まれた、(ア)電子送信に対する関税不賦課の恒久化へ向けた協力、(イ)デジタル製品に対する無差別待遇(内国民待遇、最恵国待遇)、(ウ)電子商取引を不当に禁止・制限する措置を採用・維持しないこと、(エ)オンラインの消費者保護の重要性の認識、(オ)貿易実務に係る文書の電子化等における協力、に関する規定をより具体的に作成すべきである。また、その際、WIPO(世界知的所有権機関)、OECD(経済協力開発機構)、APEC(アジア太平洋経済協力)等における国際的な議論を参照しつつ、わが国を含め各国において、これらと調和のとれた国内法制化を担保する必要がある。

④ その他

(ア)現行の補助金協定ではカバーできない問題を含む国営・国有企業の海外投資との公平な競争条件の確保、(イ)温暖化ガス排出量の削減や生物多様性の確保などに関する国際的ルールに基づく措置による貿易・投資歪曲的効果を抑制するためのルールの策定を検討すべきである。

(3) 政府調達協定への加盟促進

政府調達協定に加盟していない中国等#7において、近年、協定の精神に反する措置が次々に導入されていることから、対応を急ぐ必要がある。対象機関、対象物品・サービス、調達基準額等において高い約束水準での早期加盟を引き続き働きかけていく必要がある。中国の加盟が実現すれば、現在オブザーバーである他の新興国の加盟も促進され、政府調達市場の自由化に大きく資することが期待される。

(4) WTO加盟の促進

WTOのもとでのルールの適用範囲を拡大する観点から、WTOへの新規加盟を促進する必要がある。ロシアの加盟については、各国との交渉は終了しており、国内法整備状況を検証する作業を残すのみとなっている。この作業を着実に進め、本年内の加盟を実現すべきである。ロシアの加盟が実現すれば、関税の恣意的な引上げ(自動車、フラットパネルTV等)の防止のみならず、独自の複雑な税関手続き、模倣品・海賊版の流通、独自の技術規格の制定等が抑制されるなど関税以外の分野での効果も期待される。

なお、新規加盟にあたっては、新規加盟国と各加盟国との間で加盟交渉が行われるが、今後、ビジネスの実態に基づいた具体的な要求を行っていくためには、加盟交渉のプロセスにおいてわが国企業からの要望聴取の機会を設けるべきである。

3.EPAのルールの広域化等

わが国企業が他国に劣後しない事業環境の整備は、国内拠点を含むグローバル・サプライチェーンを通じたビジネスを行う上で、最低限必要とされる条件である。各国ともFTAのネットワークの拡大に力を入れる中、わが国が国際競争でこれ以上不利な立場に置かれないようにするだけでなく、わが国企業にとって望ましいビジネス環境を整備するためには、EPAの一層の推進が急務である#8。今後、わが国のEPAは、わが国の貿易総額で上位を占める米国、中国、EUをそれぞれ含む取組みとして、TPP、ASEAN+6、日・EUEIAを軸に推進する必要がある。

その際、1で言及した通り、EPAのルールの広域化や、斬新なルールの先導的な導入にあたっては、現行のWTOの規律との整合性の確保に努めるとともに、WTOのもとでの新たなグローバル・ルールの策定に資するものとなるよう、WTOにおけるルールの拡充への取組みにつなげていくことが必要である。また、TPP、ASEAN+6、日・EUEIAそれぞれの枠組みに関する各国の国内規制が出来る限り乖離しないよう、わが国として規制協力を推進する必要がある。

なお、これら以外の国・地域についても、わが国からの輸出や投資に対し高い障壁を設けているなどのため、EPAを締結することによって貿易・投資の拡大・円滑化が期待できる国・地域、特にわが国と競争関係にある産業分野を多く有する国が既にFTAを締結済みか、締結に向けて交渉中の国・地域とは、EPAの締結を推進する必要がある。

併せて、EPAの活用を促進することも重要であり、税関によるEPAデータベースの提供、原産地規則の調和等に取り組む必要がある。

(1) TPPへの参加

2010年11月の横浜におけるアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議では、ASEAN+3(日中韓)、ASEAN+6(+3に加え印豪NZ)、TPP等を基礎として更に発展させることによってアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP:Free Trade Area of Asia-Pacific)という包括的な自由貿易協定を追求していくことになった。この中で唯一交渉段階にあり、実現が近いと考えられるのが米国も参加するTPPである。

このようにアジア太平洋を広くカバーするFTAAPへと発展していく可能性を持ち、わが国の貿易総額および直接投資残高のそれぞれ25%、41%を占めるTPPに、わが国が、万が一、参加しなかった場合、あるいは参加が遅れた場合、競争上の不利からTPP参加国におけるわが国企業の売上が減少するばかりか、わが国技術の粋を集めた完成品や基幹部品の生産拠点までをもTPP参加国に移転せざるを得なくなる恐れがある。そうなれば、貿易投資立国、技術立国として由々しき事態であり、わが国経済の屋台骨を揺るがしかねない。

他方、TPPが目指す21世紀型の新しいルール作りにわが国の主張を反映することができれば、中国、インド等、アジア太平洋地域の主要国の参加も得て、当該ルールが将来的にFTAAPを通じてアジア太平洋地域におけるビジネスのルールとなり、さらにはWTO等におけるグローバルなルールとなった場合、ビジネス機会の拡大につながる可能性が大きい。しかしながら、TPPに参加するとしても、ルールが一旦出来上がった後では一方的にそれらを受け入れざるを得なくなってしまう。そのような事態を回避するだけでなく、わが国は、アジア太平洋地域におけるルール作りを主導することにより、域内の経済成長と雇用の創出に貢献していかなければならない。

以上の考え方に基づき、わが国としては、TPPを通じ、貿易・投資の自由化・ルール作りに積極的に参画していくことが求められる(TPPを通じて実現すべき具体的内容については、別添に事例を挙げて詳述)。

(2) ASEAN+6の推進

FTAAPに至る道筋としては、前述のTPPと並び、ASEAN+6も重要である。さる2月の経団連ASEANミッションにおいて、ASEAN諸国の政府首脳から、FTAAPの実現に向けてASEAN+6とTPPとを車の両輪として推進するにあたって、日本がリーダーシップを発揮すべきとの期待が表明された。ASEAN+6の一員であるわが国が、TPPにも参加することによって中国と米国との架け橋として重要な役割を果たしてもらいたいとの指摘である。こうした期待に沿うためにも、わが国としては、一刻も早くTPP交渉に参加し、日中韓FTAやASEAN+6における議論をも踏まえてTPPにおけるルール作りに臨むとともに、TPPにおける議論を日中韓FTA交渉やASEAN+6の議論にも反映することによって、将来におけるASEAN+6とTPPの円滑な統合を促し、FTTAPの実現に貢献すべきである。

このような認識のもと、わが国としては、アジアにおけるEPAの空白を解消するため、ASEAN+6のGDPの7割を占める日中韓の間のFTAについて、2012 年の共同研究終了を待たずに速やかに交渉を開始し、出来る限り早期に締結すべきである。

これと並行して、先ごろ署名した日印EPAに続いて日豪EPA交渉を出来る限り速やかに妥結することによって、ASEAN+6への道筋をつけ、遅くともASEAN自由貿易地域(AFTA)の域内輸入関税が撤廃される2015 年までにASEAN+6を完成すべきである。これにより、域内のGDPの7割を占める日中韓、成長著しいインド、資源・食糧の豊富な豪州、サービスの自由化に前向きなNZをAFTAに包摂することができれば、地域全体の貿易投資の活性化につながることが期待される。

(3) EUとの経済統合協定の締結

日・EU政府は、昨年より、両者の経済関係を包括的に強化、統合するための方策に関する共同検討作業を行っており、同作業に基づいて、来る5月にも開催される定期首脳協議において、「次の適切なステップ」が決定されることになっている。EU・韓国FTAが本年7月に暫定発効の見込みであることから、次のステップとして、上記定期協議において日・EU首脳が経済統合協定(EIA)交渉開始に合意することが不可欠である。

EUにとって日本は第6位の貿易相手国であり、第8位の韓国を上回る。また、EUにとって日本は第3位の投資元であり、その残高は韓国の15倍に及んでいる。在EU日系企業は約3,300社に及び、40万人以上の雇用を創出している。EU・韓国FTAによって、わが国企業が競争上不利な状況に置かれれば、以上のようなEUとの緊密な貿易投資関係や雇用面での貢献等にもマイナスの影響が及びかねない。仮に来るべき定期首脳協議において、EIA締結への道筋が拓かれなければ、進出日系企業は生き残りをかけてアジア太平洋地域へと拠点を更にシフトすることも考えられる。他方、EIAを通じて公平な競争条件が確保されれば、元々EUとは多くの価値観を共有しており、統合の深化・拡大によりビジネス機会の拡大が期待でき、かつわが国の優れた技術を活かした製品の市場としてわが国国内市場と合わせた規模の経済を追求することも可能であるなど、追加投資や研究開発等の産業協力の拡大・深化が期待できる。

EIA交渉では、関税の撤廃・引下げ、サービス貿易および投資の自由化、政府調達市場へのアクセス向上と並んで、わが国においては、EUが特に問題視している非関税措置への対応が求められる。EUの委託調査によれば、その大半は規格・適合性評価手続に係るものである。そこで、EUが関心を有する規格・適合性評価手続について、(ア)規格の調和、(イ)規格の相互承認(同等性評価)、(ウ)適合性評価結果の相互承認、(エ)規格・適合性評価手続の透明性向上、の可能性を順に検証し、出来る限りシームレスな事業環境を実現すべきである。その際、TPP交渉も念頭に米国をも含めた日米EU三極で実現するのか、日・EUあるいは日・米の二極で実現するのかについて併せて検討する必要がある。

4.WTO・EPAを補完する制度基盤の整備

WTO、EPAにおけるルールの広域化・拡充に加えて、企業の円滑なグローバル・サプライチェーンを支えるため、下記の制度基盤の整備に取り組むべきである。

(1) 投資に関する法的基盤の整備

① 投資協定の拡充

わが国がこれまで締結した投資協定は、投資章を含むEPAも合わせて24 にとどまっており、欧米諸国等に比べ大きく遅れをとっている。また、既存の投資協定あるいは投資章を含むEPAには、投資仲裁条項が盛り込まれていない、対象とする投資の範囲に制限がある、仲裁判断において争点となることが多い公正衡平待遇が確保されていない、パフォーマンス要求禁止がTRIMs(WTO 貿易に関連する投資措置に関する協定)の範囲に留まる、自由化のレベルが現状維持に止まっている、あるいは、資源・エネルギー等に関する輸出制限や規制の早期通報制度、既存契約の尊重義務が盛り込まれていないなど、投資の保護・自由化等の水準が必ずしも十分でないものがある。

そこで、現在交渉中のEPAまたは投資協定については、出来る限り早期に妥結するとともに、わが国からの投資に対し未だ法的な基盤(投資章を含むEPAまたは投資協定)が提供されていない重要な国・地域との間で早急に交渉を開始すべきである#9。また、日々変化するビジネス環境や企業のニーズに対応して制度やルールを適時適切に見直す観点から、協定によりカバーされない課題も含め、ビジネス環境全般にわたって民間から継続的に改善要望等を提起できる枠組みを盛り込むべきである。さらに、既存の協定についても、投資の保護・自由化の水準を引上げるべく継続的に見直しを行うべきである#10
なお、わが国企業が海外投資にあたり直面している課題は多岐にわたるため、投資協定あるいは投資章を含むEPAの締結のみをもって全ての問題が解決する訳ではない。投資に関する法的基盤の整備の一環として、下記の通り、租税条約、社会保障協定の締結も併せて進める必要がある。

② 租税条約の拡充

租税条約ネットワークは、国際的な二重課税を排除し、わが国企業の安心かつ確実な海外事業展開を確保するための重要なインフラである。締結済みの租税条約を必要に応じて改定するとともに、アルゼンチン、コロンビア、ベネズエラ、チリ、ナイジェリア等の未締結国との租税条約締結交渉を進め、ネットワークを拡充する必要がある。とりわけ、親子間配当および貸付金利息に係る源泉徴収の免除規定、使用料に係る源泉徴収の減免規定、移転価格税制に係る対応的調整規定、仲裁規定等を盛り込むことが重要である。

③ 社会保障協定の締結促進

従来、欧米諸国を中心に協定の整備が進められてきたが、今後は、経済発展に伴い、アジア諸国で公的年金制度が整備されていくことが予想され、また、アジア域内でのヒトの移動の円滑化の必要性が高まることから、アジア諸国との協定締結が重要な課題である。既に韓国とは締結済み、フィリピンとの間で話し合いが始まっているが、特に、米国に次いで長期滞在者が多い中国、EPAが署名され一層の関係の深化が予想されるインドが重要である。

中国については、外国人に対しても適用されることが明記された社会保険法が本年7月に施行される予定であり、それによって日系企業の駐在員等に新たに社会保険料の負担が生じる可能性が高い。適用猶予等の十分な経過措置が講じられるよう、中国側に働きかけるとともに、社会保障協定締結を視野に入れた話し合いを開始すべきである。

インドにおいては、今後、社会保障制度の適用が拡大される方向にあり、また、現地日系企業からも社会保障協定締結の要望があることから、インド側における協定実施体制にも留意しつつ、日・インドEPAにもあるとおり、事前協議、締結交渉を進めるべきである。

(2) 模倣品・海賊版対策に関する国際ルール・連携の拡充

とりわけアジアなど途上国においては、模倣品・海賊版の横行により、得られるはずの投資収益の回収が妨げられている。こうした現状に鑑み、各国・地域における知的財産権関連の法制度の構築・改善や、再犯防止に向けた罰則の強化等を含む執行面の強化を通じ、適切な保護の推進に取り組むべきである。

具体的には、ACTA(Anti-Counterfeiting Trade Agreement:模倣品・海賊版拡散防止条約)#11の締約国を拡大することが重要である。

併せて、広域連携を促進することにより、模倣品・海賊版の摘発と防止、被害状況の把握と対応を効果的に行う税関同士の協力を行うとともに、模倣品・海賊版の防止に向けた官民プラットフォームを確立することが有益である。

こうした取り組みと並行し、各国・地域における知的財産権の保護・尊重意識の醸成に向けた啓発活動に取り組む必要がある。

(3) 安全保障貿易管理制度の再構築

わが国の安全保障貿易管理は、大量破壊兵器等への転用や安全保障上の懸念が強い国等への流出防止という本来の目的からともすれば外れて、規制対象品目・技術に該当するか否かの判定に多くの人材と時間が費やされているのが現状である。また、経済のグローバル化が進む中でヒト、モノ、技術の流れはますます活発になっており、それらを徒に制約し続けることは、企業の国際競争力の低下につながり、わが国の生産基盤を揺るがすばかりか、技術優位性を損なうことにもなりかねず、安全保障上もかえって問題が大きい。

米欧韓において制度の見直し#12が進む今こそ、本来の目的に立ち返り、取引される品目等の用途および取引の相手方に応じたメリハリの利いた管理を行うべく、現行法制度およびその運用を見直し、諸外国に比べて遜色のない、むしろ先進的な安全保障貿易管理体制を構築すべきである。そのためには、(ア)政府と企業との適切な役割分担の下で限られた資源を真に管理すべきものに集中できるよう規制を重点化すること、(イ)誰にでも理解しやすい、簡素でわかりやすい法体系に再構築すること、が不可欠であり、そのような観点から、以下①~⑤に掲げる課題に取り組むべきである。その際、①および②を速やかに実行するとともに、③に直ちに着手すべきである。これらと並行して、安全保障貿易管理に関する国際枠組み(以下、国際レジーム)への他の参加国とも協力・連携して、④および⑤を働きかけるべきである。

① 規制品目番号体系の国際化

わが国の規制品目番号体系が諸外国と異なることで、海外子会社等における管理、海外顧客との取引、海外からの調達などに支障が生じている。そこで国際レジームに準拠したEUの番号体系との整合をとるべきである。

② 優良事業者の海外子会社向けならびにホワイト国#13向け輸出の許可不要化等

自主管理が確実に行われ、法令遵守が徹底されている優良事業者の海外子会社向け輸出やホワイト国への輸出については、迂回輸出等の懸念は低いと考えられることから、許可を不要とすべきである。また、当該国の安全保障貿易管理水準の向上等に応じて、適宜、ホワイト国を拡大すべきである。

③ 法体系の整理・簡素化

(ア)重畳的でかつ例外規定の多い複雑な体系を辿らないと規制対象の特定が困難である、(イ)政省令以下がつぎはぎ的に追加・改正されて理解が容易でない、(ウ)運用・解釈の一貫性が必ずしも確保されていないなど現行の安全保障貿易管理制度が抱える問題を解決するため、安全保障貿易管理の法体系を外為法のその他の法体系と区分の上、整理、簡素化すべきである。

④ 国際レジームの規制対象品目等の不断の見直し

既に多くの国で生産されている、あるいは容易に入手できる状況にある品目等については、規制対象から外すよう働きかけるべきである。

⑤ エンドユース・エンドユーザー規制への移行

規制対象品目等のリストに基づいて輸出者が行う該非判定まずありきの現状から脱し、懸念度が高い取引(最終用途・最終需要者)を政府が特定し、当該情報を基に輸出者が許可申請を行う官民連携型のエンドユース・エンドユーザー規制へ移行すべきである。このため、政府には、国際レジームにおける積極的な働きかけ、ならびに懸念度を判定するための体制・機能の強化が求められる。

なお、(ア)経済連携協定(EPA)の相手国をホワイト国に含めることを検討する、(イ)EPAにおいて関税の撤廃・引下げならびに規格の調和等を行う品目等については、それら措置の効果が限定されることのないよう、輸出許可の不要化も視野に相手国の安全保障貿易管理体制の整備に協力する、ことなどによってシームレスな事業環境の実現に資するべきである。また、システムとしてのインフラ輸出を促進する観点から、プロジェクト単位の包括許可制度も検討すべきである。

(4) 貿易の円滑化と安全確保との両立

企業のグローバルなサプライチェーンの進展に対応し、サプライチェーン・コネクティビティを向上させることは、国境を越える物流の円滑化を実現する上で不可欠である。他方、貿易の安全を確保することも重要な時代の要請である。これらを両立させる観点から、当面の措置として、保税搬入原則の撤廃及びAEO(Authorized Economic Operators:認定優良事業者)制度の普及・促進とこれに基づく相互承認を推進し、将来的には国際的な統一を目指すべきである。また、輸出入・港湾手続のペーパーレス化・電子化および利便性の高い真のシングルウィンドウの構築に取り組み、手続の簡素化・効率化、データの共有化を進めるべきである。

(5) 企業の社会的責任と円滑なサプライチェーンの両立

企業のサプライチェーンがグローバルに広がる中、企業としてサプライチェーン全体にわたって社会的責任を遂行すべく最大限の努力を行う必要がある。しかしながら、それら企業の努力をやむを得ず規制によって担保しようとする場合には、様々なサプライチェーンの実態を十分に踏まえた柔軟な内容とすべきである。

例えば、米国金融改革法に盛り込まれた紛争地域等からの鉱物資源のサプライチェーンに関する報告等の義務化は、その趣旨は十分に尊重するものであり、また、米国証券取引所上場企業を対象としたものであって、それら企業に部品や原材料を販売する企業には直接の報告義務は課せられるものではないと理解する。しかしながら、実際にはサプライチェーンを遡って調査を行い、その結果を上場企業に提出する必要が生じることから、実質的にサプライチェーンを形成する企業すべてに当該規制の影響が及ぶことになり、それを遂行するための負担は大きい。最上流の鉱山が第4次、5次、6次サプライヤーであることも珍しくなく、そのような場合はそもそも追跡調査が極めて困難である。直接の取引関係にないため、影響力を行使することも難しい。さらには、調達先情報が機密情報である場合や、守秘義務があるため開示できないケースもある。

5.激化するグローバル競争に耐えうる国内改革の推進

わが国として、グローバルなルール作りを主導するとともに貿易・投資の自由化の進展による競争の激化に対応していくためには、力強い農業の実現に向けた強力な取組みや、競争力強化に資する幅広い人材の育成・確保、規制・制度の改革を通じた他国に劣後しない事業環境の整備など、抜本的な国内改革を早急に講じていく必要がある。

取り分け農業は、国民に食糧を供給するとともに、地域の基幹産業として地域社会の維持にも重要な役割を果たしている。一方で、「包括的経済連携に関する基本方針」(2010年11月9日閣議決定)で示す通り、「農業従事者の高齢化、後継者難を踏まえれば、将来に向けてその持続的な存続が危ぶまれる状況にあり、競争力向上や海外における需要拡大等我が国農業の潜在力を引き出す大胆な政策対応が不可欠」である。このため、国内に優良な農地を確保しつつ、新規就農や企業の参入促進等により経営感覚あふれる多様な担い手を確保するとともに、地域の合意形成によりこれら担い手へ農地を集積し、経営規模の拡大と生産性の向上等を通じた農業の競争力強化を実現すべきである。同時に、6次産業化や農商工連携の推進、農産物等の輸出促進等による農業の成長産業化を図るべきであり、これらの実現に向け、あらゆる政策手段を総動員した改革を迅速かつ強力に推進していかねばならない#14

また、わが国企業は、グローバルな経営戦略の下に国境を越えて活動拠点を選択することにより経営資源の最適配分を図っており、国内の拠点には、最先端の研究開発や高付加価値品・基幹部品等の開発・生産など高度技術・知識の集積が必要な「ものづくり拠点」としての機能を求めている。企業のグローバルなサプライチェーンの進展に対応したルール整備が進んだ場合、企業が引き続きこれらの機能を国内に維持することを選択するためには、より魅力ある事業環境、いわば立地競争力の確保が不可欠である。このため、イノベーションを通じた競争力強化の鍵を握る人材を国籍を問わず育成・確保するためのより幅広い外国人材の受入れのための制度・環境整備#15や、自由で円滑な事業環境を確保するための広範な分野における規制・制度改革#16などに国をあげて取り組んでいかねばならない。

おわりに

未曽有の震災に直面するわが国がこの苦難を乗り越え、その基盤となる経済成長を持続的に実現していくためには、わが国が一丸となって、中小企業を含むわが国企業が技術・雇用を伴う生産・開発等の拠点を国内に維持できる事業環境を整備することが不可欠である。こうした観点からも、わが国は、今こそ通商戦略を主体的・戦略的に推進していかなければならない。

そのためには、わが国企業の国内拠点を含むグローバル・サプライチェーンの円滑な展開を図るとともに、他国に劣後しない事業環境を整備する観点から、同一のルールの広範な適用を実現することをわが国の通商政策の軸に定め、スピード感をもって推進する必要がある。

経団連としても、これを実現すべく、グローバル・サプライチェーンの円滑化に資する新たなルール作りに向けて積極的に意見を発信し、内外のビジネス環境の改善に努める所存である。

以上

  1. 例えば、WTOにおけるルールの拡充に向けて、地域経済統合に向けた取組みを活用することが考えられる。具体的には、ITA(情報技術協定)のWTOにおける協定化にAPECが貢献したように、環境物品・サービスの自由化やクラウドコンピューティングといったネットワークを通じたICTサービスのルール整備等においても、APECにおける取組みを梃子に、WTOをはじめとする多数国間における合意の形成につなげていくべきである。(提言「アジア太平洋地域の持続的成長を目指して -2010年APEC議長国 日本の責任-」2010年6月15日)
    また、地域貿易協定とWTO協定とで同一分野の規律が重複する現状においては、同一の紛争について相互に矛盾した判断が下されるおそれがある。これを回避するには、WTO協定と実質的に同等のFTAの義務について係争する場合、WTOでの解決を原則とする規定を今後のわが国のEPAに導入することも検討に値するとの指摘がある。(RIETI Discussion Paper Series 07-J-050)
  2. EUは、昨秋に取りまとめた新通商戦略において、ポスト・ドーハのWTOに関し賢人会議を設置して検討するとしている。わが国としても、ポスト・ドーハのWTOにおいて、関税の撤廃・引下げや関税に関する規律に加えて、それ以外の分野のルールを拡充すべく、速やかに検討を開始すべきである。
  3. スパチャイWTO事務局長(当時)の諮問機関による報告 "The future of the WTO " (2005年)においては、既に広範なコンセンサスがある場合、自国の利益に重大な影響を及ぼす理由を書面で説明しない限り、特定の国がコンセンサスの形成を妨げることはできないとすることが提案されている。
  4. 米、EU、メキシコは、中国による鉱物資源等の原材料に対する輸出制限について、WTO紛争解決手続きに付託している。
  5. 例えば、GATT20条bにおいては、協定の一般的例外として認められる措置の要件は、人、動物・植物の生命・健康保護のために「必要な」措置であることとされている。「必要な」とは、合理的に利用可能であって、最も貿易を阻害する効果の少ない他の手段が存在しないこと(必要性要件)と解釈されうる。これに対して、GATT20条gにおいては、例外として認められる要件について、有限天然資源の保存に「関する」措置であることとされ、判例においても、有限天然資源の保存の結果と当該措置との関連性が適正であることを求めるにとどまっている(WT/DS58/AB/R)。この点につき、有限天然資源の保存のための措置が正当化される要件が、人、動物・植物の生命・健康保護のための措置よりも緩やかな規制にとどまっていることは妥当でないとの指摘があり、20条gにおいても、少なくとも20条bと同様に、上記の必要性要件が満たされるよう厳格化することも考えられる。
  6. 2004年8月1日の枠組合意において、今次ラウンド中は、WTOの中で「交渉に向けた作業」を行わないこととされた。
  7. 直近では、2007年12月に初期オファーを提出する一方、「政府の輸入製品購入弁法」により、政府調達において中国で生産した製品を優先することとしており、その結果、現在では中国政府に輸入製品を販売することが極めて困難となっている。また、2010年5月に起草された「政府調達国内製品管理弁法案」においては、然るべき理由がない限り国内製品を政府調達しなければならないため、輸入製品および国産品であっても部品の輸入比率が高い製品は差別的な扱いを受ける対象となる。さらに、2009年11月に公布された「国家自主創新製品制度」(National Indigenous Innovation Products Accreditation Program)は、「自主創新」を強調する第11次5ヵ年計画に沿い、コンピューターおよび応用機器、通信製品、高エネルギー効率化製品等6つのハイテク分野の製品を対象とし、中国での知財権や商標を有していること等を条件に「国家自主創新製品」に認定し、政府調達の際に優遇を行う制度である。
  8. これまでにわが国が署名・締結した12件のEPAの相手国が貿易総額に占める割合は17.4%に止まっており、各国からの後れが目立っている。自動車、エレクトロニクスなどの基幹産業において、わが国企業と激しい競争を行っている韓国の貿易総額に占めるFTA相手国の割合が35.6%であるのに比べて、約20%の大差がついている。これは韓国が米国、EUとFTAを既に署名しているからであり、さらに、韓国は中国とも近く交渉を開始する可能性がある。わが国としても、合わせて貿易総額の半分近くを占める米国(13.5%)、中国(20.5%)、EU(11.6%)との協定を出来る限り早期に締結する必要がある。
  9. 具体的な進め方については、提言「グローバルな投資環境の整備のあり方に関する意見」(2008年4月15日)において、わが国と貿易・投資関係が深く戦略的に重要な国等については、投資章を含むEPA締結による法的枠組みの整備の可能性を探ることが不可欠であること、投資保護・自由化の法的な担保に急を要する場合には、投資協定をEPAの前段階と位置づけ、先行して交渉することも選択肢となることを指摘している。
    上記提言以降、2011年4月現在、わが国は、インドとのEPAの署名、ペルーとのEPA交渉終了、サウジとの投資協定の実質合意を実現するとともに、コロンビア、カザフスタン、アンゴラ、クウェートとも投資協定交渉を開始済みとなっており、アルジェリア、カタールとは交渉準備中、ウクライナとの投資協定についても本年中の交渉開始に合意している。こうした進展を評価するとともに、これらの国との交渉の早期妥結を期待する。
    他方、わが国との貿易・投資関係の深い国でありながら、投資協定やEPAの準備段階にも至っていない国としては、ブラジル、南ア、トルコがあげられる。既に韓国は、トルコとFTA交渉を開始しており、また、ブラジルを含むメルコスール、南アを含む南アフリカ関税同盟ともFTA交渉を準備中である。こうした状況に鑑み、わが国企業が他国に劣後しない投資環境を整備する観点からも、ブラジル、南ア、トルコとの間で早急に投資に関する法的枠組みの整備に着手すべきである。また、上記提言において法的枠組みの整備を進めるべき国として列挙したその他の国についても、法的枠組みの交渉開始に向けた検討を加速すべきである。
  10. その際、見直し後の協定において、投資の保護については、投資後の最恵国待遇・内国民待遇、公正衡平待遇義務、収用の制限と適切な補償、送金の自由、政府が外国企業に負った約束の遵守、法令の公表等による透明性の確保などを確実に担保する必要がある。投資の自由化については、投資前の内国民待遇・最恵国待遇、パフォーマンス要求の禁止等などを盛り込むべきである。
  11. 2010年に交渉を終え、11の交渉参加国・地域により、署名・締結手続きが進められている。
  12. 米国では、オバマ政権下において、重要な製品・技術の管理に資源を集中するとともに、主要な製造・技術部門の競争力を強化することによって、国家安全保障を強化する観点から、安全保障貿易管理制度の抜本的見直しが本格化している。
    (例えば次を参照。http://www.bis.doc.gov/news/2010/white_house_fact_sheet.htm
    また、EUも昨秋に公表した新通商戦略において、米国等における改革の動きを踏まえて、安全保障とのバランスを保ちつつ、輸出競争力の強化という観点から制度を見直そうとしている。
    http://trade.ec.europa.eu/doclib/docs/2010/november/tradoc_146955.pdf
    さらに、わが国に比べて後れている感のあった韓国は、貿易立国としての生き残りをかけてトップダウンで改革を進め、企業にとって利便性の高い制度に短期間で転換を遂げた。(例えば次を参照。畑良三「ユーザーフレンドリーな韓国の輸出管理制度」『CISTECジャーナル』2010年11月号)
  13. 輸出貿易管理令別表第3に掲げられている26カ国(アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、大韓民国、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、アメリカ合衆国)。わが国と同様の厳格な管理を行っていると認められた国。
  14. 経団連「力強い農業の実現に向けた提言」(2011年2月10日)では、同時に、環太平洋パートナーシップ(TPP)はじめとする経済連携協定の交渉に参加し、高いレベルの経済連携を目指しつつ、わが国の事情を踏まえた国境措置の取扱いなどを確保するとともに、国内改革と国際交渉の進展を踏まえ真に必要な国内対策を総合的に講じることなどにより、国を挙げて経済連携の推進と国内農業の強化との両立を実現していくべきである、としている。
  15. 経団連「競争力人材の育成と確保に向けて」(2009年4月14日)において、研究・開発から生産・販売の現場を通じて広義のイノベーションを起こしうる人材を国籍にとらわれることなく育成・確保すべく、とりわけ、わが国の経済社会に多様な価値観や経験・ノウハウ、斬新な発想を取り入れていくために、専門的・技術的分野と見做されている人材を積極的に受入れていくとともに、これらの人材に加え、一定の資格や技能を有する人材を中心とするより幅広い外国人材の受入れも進めていくべきことを提言している。
  16. 経団連では、民間の創意工夫の発揮を通じたイノベーションの推進と自由で円滑な事業活動を支える基盤整備として、規制・制度改革を最重要課題の一つとして推進しており、毎年度規制改革要望を取りまとめて政府に実現を働きかけている。直近では、2010年10月14日に13分野210項目からなる「2010年度日本経団連規制改革要望」を取りまとめている。

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