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Policy(提言・報告書) 科学技術、情報通信、知財政策 「第4期科学技術基本計画」の見直しに向けた考え方

2011年4月27日
日本経団連産業技術委員会

東日本大震災により、わが国の経済社会に多大な被害・損害が発生した。こうした事態を受け、「第4期科学技術基本計画」の2010年度内の閣議決定が延期され、政府内で内容を見直すこととなった。

今回の大震災の経験は、社会経済活動の基盤となる「安心・安全な国づくり」の重要性を国民に強く意識させることとなった。昨年12月に取りまとめられた「答申*」では、新成長戦略に沿って「グリーン」「ライフ」の2大イノベーションが大きな柱として掲げられた。これらによって持続的な経済成長を実現することが重要であることは論をまたないが、その前提はまず国民が「安心・安全」に暮らせる社会を築くことである。今回の見直しにあたっては、国家存立の基盤となる科学技術の強化をはじめ、「安心・安全な国づくり」に資するイノベーションの重要性を強く謳うことが不可欠である。

また、今回の震災により、これまでわが国が蓄積してきた研究開発の成果が必ずしも十分に実用化に結びついていない点が露呈された。「答申」では、振興を目的とした従来の「科学技術政策」から、新たな価値の創造に向けた「科学技術イノベーション政策」への移行を指摘している。わが国が直面する課題の解決という観点のみならず、国民からの理解・支持を得るといった観点からも、「研究のための研究」のみではなく、研究成果の実用化並びに社会実装までを視野に入れた「科学技術イノベーション政策」を強力に推進することが不可欠となる。その際、「答申」で掲げられた「政府研究開発投資の対GDP比1%、総額約25兆円」という予算規模を堅持することも必要である。

一方、大震災という事態が原因とはいえ、本来、同計画は今年4月から開始される予定であったことに鑑みれば、見直し作業は速やかに行う必要がある。まずは国の基本計画を可能な限り早期に開始させ、その後、具体的事項について詳細に検討するというアプローチを取るべきである。

以上の観点から、見直しに関する基本的な方向性につき、次のとおり記す。

* 総合科学技術会議「『科学技術に関する基本政策について』に対する答申(2010年12月24日)」

1.「安心・安全イノベーション」の強調

「安心・安全な国づくり」は従来からの重要課題であり、「答申」においてもIII章でその趣旨が垣間見られるところであるが、その記述は不十分であり、より明示的に強調することが必要である。
具体的には、II章の「成長の柱としての2大イノベーションの推進」で記している「グリーン」「ライフ」の「2大イノベーション」に加え、「安心・安全イノベーション」という柱を掲げ、「3大イノベーション」として強く打ち出すべきである。

2.グリーンイノベーションにおけるエネルギー関連施策の見直し

「答申」のII章の中で記した「グリーンイノベーション」の箇所にある「エネルギー関連施策」の内容も、今回の震災の影響を踏まえた見直しを行うことが不可避である。
その際、(1)原子力発電の安全性向上、(2)再生可能エネルギーの研究開発の促進、(3)省エネルギー技術(節電技術)の研究開発の促進、(4)これまで必ずしも注目されてこなかったその他のエネルギー技術の発掘及び研究開発の促進、の4点を強調した上で見直すことが肝要である。

3.研究開発の成果の社会への普及促進

科学技術政策は、1996年より科学技術基本計画に沿って15年にわたり実施されてきたところであるが、これまで蓄積してきた研究開発の成果を社会に普及させることで、国民の理解と支持を得ながら、わが国が直面する課題の解決に資するイノベーションを創出することが極めて重要となる。
そのためには、今後重点的に行う研究開発については、初期段階より社会普及までを視野に入れるとともに、コスト低減という観点についても考慮する必要がある。

4.専門家による内外への情報発信及び国民の科学技術リテラシーの向上

今回の原子力発電所の事故のような、人体に多大な影響を及ぼし得る非常事態が発生した場合等においては、現状及び対処方法等について、専門家がわかりやすくかつ中立的な立場で国民へ情報発信することが重要である。また、震災の影響で帰国した留学生・研究者等に対しても的確な情報発信を行うことにより、過度の不安を取り除き、日本へ呼び戻す必要がある。そのためには、「答申」で記された国民と政策担当者や研究者との橋渡しを行う「科学技術コミュニケーター」の養成・確保に加え、内外へわかりやすくかつ的確に情報発信することのできるアカデミアの育成についても明記すべきである。
同時に、国民側の科学技術リテラシーを向上させることも重要である。そのためには、大学・大学院などの高等教育の充実はもとより、次代を担う子どもたちが初等教育の段階から科学的素養を身につけさせるための学習機会を体系的に整備する必要がある。

5.異分野の研究者同士の連携強化

今回の非常事態に際し、科学技術の専門分野が細分化されているため、分野横断的にトータルのシステムとして物事を考える体制が整備されていないことが明らかとなった。
今後、こうした非常事態に迅速に対応するためには、同じ分野の専門家同士のコミュニティで議論するのみではなく、異なる分野の専門家同士が常日頃から連携をとりながら議論できるような体制を整えることが重要である。

6.十分な科学技術関係予算の確保

わが国の科学技術基盤を強化し、震災からの復旧・復興をはじめ、わが国の課題解決に資するイノベーションを促進するためには、未来への投資として十分な科学技術関係予算を確保することが不可欠である。そのためには、「答申」に盛り込まれた予算目標「政府研究開発投資の対GDP比1%、総額約25兆円」は引き続き掲げ、これを着実に達成することが求められる

以上

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