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Policy(提言・報告書) 環境、エネルギー 資源の安定確保に関する提言

2011年5月17日
(社)日本経済団体連合会

I.はじめに

資源の大半を海外に依存するわが国が、東日本大震災によりもたらされた未曾有の被害からの復旧・復興を進め、その後の持続的成長を可能とするためには、エネルギーを含む資源の安定的確保がきわめて重要な課題である。他方、近年、新興国の経済成長に伴う需要増大や、国際資源メジャーによる優良資源の囲い込みにより、国際的需給は逼迫しており、資源価格の上昇・高止まりの傾向は今後も続く可能性が高い。また、資源ナショナリズムの高揚にともない生産国の一部では輸出規制が行われるなど、世界は資源争奪戦の様相を呈している。

とりわけ希少性や偏在性が強い資源(レアメタル等)や枯渇が懸念される資源(銅・亜鉛等)については、将来、安定確保が困難となる可能性も危惧される。2010年にレアアースの供給が滞ったことが大きな問題になったように、仮に、わが国製造業の競争力の源泉である高付加価値・高機能製品の製造に不可欠な資源の供給が滞れば、国民経済に深刻な影響を及ぼすことになる。

企業自らが、資源確保に向けた努力を重ねる必要があることは言うまでもない。しかし、各国の利害が激しく衝突するなか、民間企業のみで海外の資源権益を獲得することは容易ではなく、これまで以上に官民の連携が求められる。併せて、国内海底資源の適正な開発・管理、重点的かつ効果的な資源の備蓄・リサイクルを進めることでこれを補うと同時に、省資源・リサイクル等の技術の開発に、わが国の叡智を結集する必要がある。

以上のような基本認識に基づき、資源の安定確保に関して、今後、重点的に強化していくべき政策について、産業界の考えを取りまとめた。

II.資源の安定供給の確保に向け強化すべき政策

1.資源の安定調達に向けた政策

(1) 海外資源の確保

わが国は、資源の大半を輸入に依存しており、長期的かつ安定的な資源確保のためには、今後も企業が主体的に資源権益の獲得を進めていくことが欠かせない。しかしながら、各国が国を挙げて資源権益の獲得を目指している状況にあっては、その実現は容易ではない。すでに、官民の緊密な協力による「オールジャパン」での取り組みが進められているが、今後、これを一層強化していく必要がある。同時に、民間企業だけではカバーできないリスクに対しては、政府系機関の金融・保険機能の強化による補完が求められる。

なお、確保された海外資源のほとんどは、海上輸送により日本に持ち込まれていることから、海上交通路の安全を国が確保していくことも重要である。

  1. リスクマネーの安定的供給
    資源の安定的確保には、わが国企業による海外資源の自主開発権益の獲得が重要である。しかし、権益の獲得には生産設備等への大きな初期投資が必要となり、また、探査から生産に至るまで長期間を要するなどリスクが大きい。このため、JBIC(国際協力銀行)、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)、NEXI(日本貿易保険)など政府系機関の補完機能を拡充し、官民一体となった投資が不可欠である。
    JBICに対しては、長期的かつ巨額でカントリーリスクの高い国での資源開発案件に対する融資期待が一層高まっている。JBICを日本政策金融公庫から分離・独立させることにより、資源国政府等との交渉力・機動力が高まることを期待する。
    JOGMECについても、金属鉱物資源等の開発は長期間にわたることを踏まえ、原則5年程度とされている出資期間の延長を検討すべきである。
    さらに、JBICとJOGMECは、出融資しているプロジェクトから得られる資源の供給が日本国内で不足した場合に、国内への持込(供給)を出融資の要件としている。しかしながら、パイプライン等の供給設備がなく物理的に持ち込めない場合もあるため、柔軟に運用することが望ましい。
    他方、NEXIは、資源開発に伴い企業が負うリスクを軽減するために欠かせない役割を担っている。実際のNEXIの貿易保険等の引受審査には、プロジェクト実施者が環境配慮を行っているかどうかの確認も含まれ、半年から1年程度かかるケースもある。すでに独立行政法人通則法に基づくNEXIの中期目標には「意思決定・業務処理の迅速化」が掲げられているが、迅速かつ柔軟なビジネス展開をサポートできるように、その徹底に努める必要がある。

  2. 税制優遇措置の拡充
    海外における鉱山開発事業は、巨額の資金が長期間必要になる等リスクが高い。そのため、投融資を行うわが国企業のリスク軽減策として、国内税制の優遇措置を拡充すべきである。具体的には、海外投資等損失準備金制度#1を2012年度以降も継続するとともに、減耗控除制度#2における新鉱床探鉱費・海外新鉱床探鉱費の所得控除範囲の拡大や探鉱準備金・海外探鉱準備金の積立期間(現行3年)の延長が必要である。
    また、わが国の外航海運におけるみなし利益課税(トン数標準税制)の適用対象船舶は、全運航船の約4%に過ぎない。資源等の海上輸送における国際競争基盤の均衡化のため、海外の主要海運国と同様、適用対象を全運航船に拡大すべきある。

  3. 資源外交のさらなる強化
    資源国と良好な関係を構築することは、民間企業が海外で資源を安定的に確保するための前提条件とも言える。たとえば2010年8月末には、モンゴルとの間で資源・エネルギー面の協力強化で一致するなど、政府が資源国との対話を進めてきていることは評価できる。今後は中長期的な観点から戦略的に、カントリーリスクの高い国とのいっそうの関係強化をはかる必要がある。
    また、資源国が途上国である場合には、資源開発にともなう環境保全技術や人材育成等、多層的な協力についての日本への期待も高い。そこで、わが国政府首脳や高官、在資源国日本大使館等を通じた、資源国との対話を促進し、資源国側の多様なニーズに対応することにより、互恵的な関係を構築・維持・増進する必要がある。特に、総理大臣、外務大臣、経済産業大臣などの首脳クラスが、資源国政府の首脳との会談を直接行うことの意義は大きい。

  4. 貿易投資環境の整備
    世界的な資源争奪が繰り広げられる一方で、資源ナショナリズムの高まりにより、資源国によるレアアース等の希少資源の輸出制限の動きも懸念される。今後、資源を安定的に確保するためには、WTOやEPA/FTA、投資協定を通じて、輸出制限措置の抑制や、資源国への投資環境の改善等を制度的に保障することが重要となっている。
    WTOについては、輸出規制に関するルールの拡充が期待される。具体的には、現行のWTO協定において、輸出数量制限の禁止の例外として認められている「有限天然資源の保存のための措置」の適用要件を厳格化すべきである。また、輸出規制導入時の早期通報の仕組みを整備し、運用の透明性を図ることも必要である。
    同時に、わが国が締結した投資協定は、アジア諸国を中心に24件(投資章のあるEPAを含む)に留まっており、わが国からの投資に対する保護・自由化は、欧米諸国に比べ劣後していることも看過できない。投資協定・EPAの投資章等により、輸出税・輸出制限措置の禁止等、資源の輸出制限に係る実体的・手続的規律を整備するとともに、わが国企業が資源国に投資を行う際の相手国側の規制の改善(事前認可が必要となる投資額の引き上げ、審査基準の透明化等)を図るためにも、資源国とのEPA/FTAや投資協定の早期締結を目指すべきである。

(2) 国内天然資源確保

海外資源の獲得競争が激化しているなか、国内資源開発の着実な推進も重要である。

これまでわが国は、資源に乏しいとされてきたが、世界第6位の広さを誇る領海・排他的経済水域(EEZ)には、海底熱水鉱床(銅、鉛、亜鉛、金、レアメタル等を含む)やコバルトリッチクラスト(コバルト、マンガン、ニッケル、白金等)、メタンハイドレート(天然ガスの主成分であるメタンを含む)といった豊富な資源が存在することが明らかになっている。こうした資源の開発・利用が可能となる技術を確立するとともに、政府を中心に官民が協力して適正に管理・開発を行い、わが国の資源自給率を向上すべきである。

  1. 海洋資源開発の強化
    海底資源の開発には莫大なコストを要し、投資した資金の回収に長期間を要するため、民間企業のみでリスクを負担することは難しい。また、海底資源を開発する技術は世界においても研究途上で、各国が激しい競争を展開している。政府の「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」でも、海底熱水鉱床及びメタンハイドレートについて、2018年度を目途に商業化実現を目指している。この確実な実現に向け、政府には、探査や技術開発のための予算を着実に確保していくことが求められる。

  2. 適切な主体による国内資源の開発の担保
    わが国の貴重な海底資源については、乱開発の防止の観点から、適正に維持・管理し、適切な主体が合理的に開発することを法的に担保しなければならない。今通常国会には「鉱業法の一部を改正する等の法律案」が提出されている。法改正により、技術的能力等が鉱業権設定の許可基準に追加されるとともに、先願主義が見直され、最も適切な主体に鉱業権を許可されることになるので、同法律案の早期の成立が望まれる。

2.備蓄に関する政策

不測の事態により短期的に資源の供給が滞るリスクに備えるために、国として資源を備蓄することは不可欠である。既にレアメタル等については、国家備蓄が行われており、引き続き着実な実施が求められる。

一方、レアメタルの一部であるレアアースについては、ランタン、セリウムなど、短期的に量的確保が困難になることが見通される鉱種もある。高付加価値製品の製造に不可欠な資源に供給障害が生じれば、わが国の経済活動に多大な影響を及ぼすことも懸念されるので、代替材料開発の状況等を踏まえつつ、国家備蓄制度の対象を拡大すべきである。

具体的な備蓄対象鉱種・備蓄量については、産業動向、代替材料や使用量低減技術の開発状況を踏まえ、機動的に見直す必要がある。2009年に、総合資源エネルギー調査会鉱業分科会の審議を経て、インジウム及びガリウムが備蓄対象に加えられたことは評価できる。今後は、需給の動向や産業界の意見、技術開発の進ちょくを定期的に官民でレビューし、対象鉱種の見直しに反映させることも一つの方策である。

3.リサイクルに関する政策

天然資源に乏しいわが国にとって、主に廃棄物として排出される有用資源を含有する使用済製品等は、貴重な国産資源とも考えられる。企業は製品の減量化や再生資源の使用、環境配慮設計などに取り組んでいる。政府には使用済製品等の国内での循環利用を推進するための環境整備が求められる。同時に、すでに「循環型社会のさらなる進展に向けた提言」(2010年9月14日公表)で述べた通り、生産プロセスにおいて発生する副産物のリサイクルを促進することも重要である。

なお、廃棄物等から金属を抽出する際には、非鉄金属精錬業の設備を活用するが、鉱石からの精錬とは異なり還元用に多くの石炭を使用する。リサイクルの推進に向け、金属抽出の過程で使用する石炭を石油石炭税の免税対象#3に加えることも今後検討すべきである。

(1) 国内におけるリサイクルの促進
  1. 一般廃棄物の広域的な回収の推進
    使用済製品等の効率的なリサイクルを推進していくためには、広域的な回収による量の確保が不可欠である。しかし、回収しようとする使用済製品等が一般廃棄物である場合、廃棄物処理法の規制が適用され、市町村の区域を越えた広域的な収集運搬の障害となっている。したがって、不適正処理の防止策を講じつつ、廃棄物処理法の規制を見直すことで、一般廃棄物の広域的な収集運搬を促進する必要がある。

  2. 国内リサイクル制度の着実な推進
    国内でのリサイクルを着実に推進し資源確保へとつなげていくためには、個別の法律によりリサイクルが義務化されている使用済製品のフロー(排出実態、中古市場、海外への流出実態等)を把握することがまず重要である。実態を十分把握したうえで、必要な見直しを慎重に検討していくべきである。また、仮に、一般廃棄物に該当する廃家電等を、収集運搬業の許可を得ずに違法に回収している実態があるのであれば、取り締まりを強化すべきである。
    一方、小型電気電子機器のリサイクルのあり方については、中環審「小型電気電子機器リサイクル制度及び使用済製品中の有用金属の再生利用に関する小委員会」において議論が始まった。今後、何らかの制度的取り組みが必要と判断され、具体的な制度設計を検討するに至った際には、新たに発生する社会的コストを最小化し、効率的な仕組みを目指すべきである。特に回収に費用がかかることを踏まえれば、廃棄物処理法の規制を、広域的・効率的な回収を可能とする観点から緩和することを検討すべきである。また、リサイクルに関わる当事者は、消費者や自治体、製造業者、中間処理業者、精錬業者等多岐にわたるので、今後の議論の過程において、慎重かつ注意深く関係者のコンセンサスを得ていくことが求められる。

  3. 有用金属を含む廃棄物の適正保管の推進
    廃棄物から希少で流通量が少ない金属等を回収する場合、一定量が確保されるまで保管しておくことが必要となる。しかしながら、現行の廃棄物処理法には、産業廃棄物の処分等に係る保管数量の制限(原則、1日当たりの処理能力の14日分)があるため、効率的な金属回収ができず、結果、埋め立て処分せざるを得ない場合も出てくる。したがって、リサイクルのために廃棄物を保管する場合については、保管数量制限の引上げを図るべきである。
    また、現行の設備・技術では抽出困難な金属についても、将来的に有効利用できるように保管しておくことが望ましい。そのため、有用金属を含有する廃棄物を循環資源として分離し、中長期にわたって保管するための具体的な仕組み作りを進める必要がある。なお、金属精錬の過程においては、副産物として水銀等の有害性のある金属も精製されるので、適正管理・保管するための方策を検討する必要がある。

  4. 港湾を核とした広域的な静脈物流の構築
    循環資源の全国規模でのリサイクルを推進するためには、海上輸送を活用する等、広域的かつ効率的な運搬が不可欠である。すでに政府はリサイクルポート(総合静脈物流拠点港)を指定し、広域的な静脈物流ネットワークの拠点づくりの支援を行っていることは評価できる。しかし、指定港がない地域も存在しており、引き続き、リサイクルポートの指定港の拡大を図ることによって、港湾を核とした全国規模での静脈物流システムの構築を進めるべきである。その際、たとえば、東日本大震災の被災地にある港湾を大規模な静脈物流拠点港として再構築することも考えられる。
    また、リサイクルポートであっても循環資源の取扱を制限している港湾が一部に存在する。したがって、リサイクルポートにおける循環資源の取扱基準の統一を図るとともに、取扱いを制限できる要件を厳格化すべきである。
    同時に、港湾の積替保管施設は、少量の循環資源の船積みロットを調整する役割を担っており、この機能が十分に発揮できるよう、廃棄物処理法の保管数量制限を緩和する必要がある。

(2) 新興国におけるリサイクル推進

国際的な資源の有効利用のためには、わが国の先進的なリサイクル制度、回収技術を活かして、アジア等新興国における家電や自動車等のリサイクル事業を推進することも目指すべきである。また、循環型社会の構築という観点からは、国内では再生利用先のない循環資源を、新興国において有効利用していくことも期待される。すでに「日系静脈産業メジャーの育成・海外展開」として政府レベルでの対話が進みつつあるが、引き続き、わが国企業の新興国等におけるリサイクル事業を支援していくことが必要である。

4.技術開発の促進に関する政策

わが国の産業競争力の向上にとって重要な鉱種については、資源セキュリティーの観点から、省資源(使用量低減)や代替材料技術、金属回収(リサイクル)技術を開発することが重要である。

しかし、企業単位での開発は技術的に困難であるため、産学官の協力を通じた取り組みが欠かせない。また、技術開発はリスクが大きいため、政府は引き続き研究開発補助金を確保し、革新的な技術の開発を促進することによりわが国の競争力強化にも繋げていくべきである。

すでに、代替材料技術や金属回収(リサイクル)技術については、政府の補助事業が行われているが、支援対象については、レアアース等一部の鉱種に限られている。今後、支援対象鉱種の拡大を図るとともに、産業動向や調達環境の変化、潜在的な資源埋蔵量等を踏まえて、支援対象の機動的な見直しを行うことが政府には求められる。

<支援対象に加えるべき鉱種の具体例>
  • すでに政府の研究開発補助が行われている事業(廃研磨剤・廃蛍光体からのレアアース回収技術、レアアース等の低減・代替材料開発)の継続
  • 銅以外の鉱石(鉄、マンガン等)から副産物としてテルルを抽出する技術開発
  • レアメタル以外の希少かつ工業用の先端技術として重要な金属(ロジウム、ルテニウム等)を使用済製品等から回収する技術
  • 低品位資源の有効活用に関する研究(製鉄プロセスに利用する石炭等)

5.資源人材育成に関する政策

海外における自主権益の確保や現地操業を促進するためには、資源開発に携わる人材の育成が重要である。しかし、国内の大学における資源開発分野の学部・講座等の減少により、資源開発技術・技能を習得した若年層の人材不足が進んでおり、海外での資源ビジネスを支える人材の育成が急務となっている。現在、経済産業省が実施している、産学連携による「国際資源開発人材育成事業」の継続的な実施が必要であるとともに、国策として、大学における資源開発分野の教員の拡充及び研究費の増額を図るべきである。

以上

  1. 国外における資源開発事業への投融資をする内国法人のリスク(取得株式等の価格低落、貸倒損失)に備えるため、当該投融資に要した費用の一定割合について準備金の積立を認め、これを損金に算入する制度。
  2. 事業の継続(鉱物・エネルギー資源の採取)に伴って鉱床が減耗していくという鉱業の特殊性に鑑み、鉱業所得等の一定率を探鉱準備金に繰り入れた後、探鉱費への支出を条件に所得控除を認めることで、操業に伴い減耗していく鉱床を新たな探鉱活動により補填(=鉱業資本を回収)することを可能にする制度。
  3. 現在、輸入石炭のうち、(1)鉄鋼の製造、(2)コークスの製造、(3)セメントの製造、(4)沖縄県において一般・卸電気事業者が発電に使用する石炭を保税地域から引き取ろうとする場合、石油石炭税は免税されている。

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