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Policy(提言・報告書) 経済連携、貿易投資 日タイ経済連携協定の高度化とビジネス環境の向上を求める

2011年11月15日
(社)日本経済団体連合会

はじめに

タイでは、本年夏以降、大規模な洪水被害が発生し、わが国企業にも多大な影響が及ぶこととなった。これは、タイがわが国企業にとっての重要な生産拠点であるとともに、中間所得層の台頭により消費市場としての重要性が高まってきていることを示している。また、タイは、ASEAN諸国をはじめとする第三国での事業活動やメコン地域開発などを進めるうえで、引き続き主要なパートナーである。2007年11月に発効した日タイ経済連携協定(JTEPA)は、今回の未曽有の洪水被害からの復旧を含め、日タイ経済関係の強化を制度面から支えるものである。

JTEPAは、2010年の原産地証明書の発給件数が約4万件とわが国全体の発給件数の4割を占め、わが国で最も活用されているEPAといえる。また、JTEPAに基づいて設置されているビジネス環境向上小委員会は、すでに3回開催され、両国の官民関係者にとって重要な協議の場として活用されている。

JTEPAは、本年以降、物品貿易、投資・サービス、人の移動などの別に再協議の時期を迎える#1。日タイ両国の幅広い分野における協力拡大を実現するためには、この再協議の機会に質の高いEPAとすることが欠かせない。また、これを通じて、洪水被害を乗り越え、タイを機軸とする生産ネットワークを復旧させることは、ASEAN+6経済連携協定(CEPEA)やアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を推進する上でも大きな役割を果たす。

かかる観点から、両国政府には、以下の諸点を踏まえて、再協議を迅速かつ着実に進めることを求める。

1.物品関税の撤廃スケジュールの前倒し

JTEPAは、貿易額ベースで日本側関税の約92%、タイ側関税の約97%を10年以内に撤廃する自由化率の高い協定であり、両国の製品をそれぞれの市場に低価格で提供するとともに、わが国の部品や素材などのタイへの輸出コストを低減させることでタイの輸出競争力の強化に貢献している。

他方、タイが単独あるいはASEANとして締結した6カ国・地域とのFTA/EPA#2と比較すると、段階的に削減される一部の品目の関税でJTEPAの関税率が劣後する事例も出ている。また、今後タイあるいはASEANが他国・地域とFTA/EPAを締結することにより、新たな劣後が発生することも懸念される。こうした事態を回避し、競合する第三国と同等の競争条件を確保するためには、関税撤廃スケジュールを前倒しすることが不可欠である。

とりわけ、3,000cc超の完成車の関税(現行60%)については、JTEPAの下で2009年に交渉を開始することとされているにもかかわらず、いまだ開始されていない。タイ豪州FTAではすでに同製品の関税が撤廃されており、早期交渉の開始が喫緊の課題となっている。また、発効後5年以内の再協議が規定されている3,000cc以下の自動車関税(現行80%)については、今後、再協議スケジュールの遵守が求められる。

二輪・四輪自動車部品、化学素材、電機・電子部品、ゴム製品、鉄鋼製品については関税撤廃スケジュールを前倒しすべきである。これは、それらを使用するタイ製品の輸出競争力の強化の観点からも重要である。特に、JTEPA発効時から現在に至るまで、タイで生産していない一部の電機・電子部品#3に10%の関税が賦課されており、タイの輸出競争力を損ねていることについて、タイ側の理解を求めるべきである。

鉄鋼製品のうち、熱延鋼板については、昨年8月に無税割当枠が拡大されたことを歓迎するとともに、さらなる枠の拡大を要望する。

なお、2009年6月に発効したタイに関する日ASEAN包括的経済連携(AJCEP)による関税撤廃スケジュールが、JTEPAにおけるスケジュールよりも早い品目については、今回の再協議を機にAJCEPのスケジュールに統合すべきである。

2.投資・サービス分野の外資規制の緩和・撤廃

(1)外資出資規制の緩和・撤廃

JTEPAでは、製造業との関連が深い修理・メンテナンス、ロジスティクスなど一部のサービス分野における外資出資比率の規制が緩和された。しかし、これらはいずれも外資の100%出資を認めるものではなく、再協議にあたり一層の緩和を実現することが必要である。
中間所得層が急速に台頭しているタイにおいては、消費者サービスに対するニーズも高まっており、外資出資制限の緩和によって優れたサービスのノウハウを海外から呼び込んで需要を喚起するとともに、国内の関連人材を育成することが重要である。こうした観点から、出資比率が49%以下に制限されている建設業、不動産業、金融業、小売業、コンサルティングサービス、会計サービスにおける出資規制の緩和を求める。また、タイが将来的に高齢化社会を迎えるにあたり、医療サービス分野における出資規制を緩和し、在宅介護をはじめとするノウハウを導入することも重要である。

(2)ライセンス取得手続きの簡素化・迅速化

制限比率内であっても、拠点を統廃合または移転する場合は、その都度、営業のライセンスを取得することが求められている。その取得には煩雑な手続きが求められ、最大1年の期間を要することもあり、簡素化、迅速化を図るべきである。

3.貿易の一層の円滑化

(1)タイにおける輸入ライセンス(強制規格)の見直し

JTEPAの発効により、税関手続きの透明化および簡素化、税関手続きに関わる協力、情報交換が推進されることとなり、一定の貿易円滑化が図られたことは評価できる。他方、十分な事前調整なしに新規格が導入されるなど、輸入ライセンスの取得に関する課題が指摘されており、改善を図るべきである。
例えば、2009年、鉄鋼製品に対し、輸入ライセンス取得時に厳密な検査を義務付ける強制規格が導入されたことにより、一部鋼材が留め置かれるなど円滑な輸入が阻害されている。自動車、家電向けの中間財として使用される鋼材へ対象品種拡大も懸念されている。わが国としては、タイ政府が特定の基準を満たす用途分野#4あるいは優良企業の製品を対象から除外する、もしくはライセンス取得手続きを簡素化するよう働きかけるべきである。また、タイにおける電化製品の安全規格の承認手続きの迅速化を図ることが重要である。

(2)各種手続きの透明化・迅速化

JTEPAに規定された措置が実効性を持つためには、その内容が現場に十分に周知され、透明性の高い手続きが担保されることが欠かせない。しかし、現状では、タイでの輸入時に必要なライセンスの付与条件、HSコードの解釈などが、税務署と税関、省庁ごと、担当機関ごとで異なる場合がある。こうした課題の改善のためには、タイ政府における情報共有や人材育成を推進することが必要であり、わが国は技術協力による支援を強化すべきである。
また、投資に関するタイ投資委員会(BOI)の審査は、申請後、最大60日を要しており、これを短縮することも必要である。

4.人の移動の自由化

タイは、2010年の失業率が1.04%を記録するなど労働市場の逼迫が続いており、この状況で外資企業に対するタイ国労働者の雇用義務を継続すれば、タイで操業する企業の人材確保はますます困難となり、事業の不安定要因となる。こうした状況を改善するために、以下の施策を導入することが必要である。

(1)外国人雇用比率制限の緩和・撤廃

タイでは、外国人1名の雇用に対し、タイ国労働者4名の雇用が義務づけられている。事業の立ち上げ時や、現地労働者に技術移転を進める際に、この規制が妨げとなっており、早急な見直しが求められる。特に、今秋のタイにおける大規模洪水被害からの復旧には、復旧作業に従事する外国人技術者の十分な確保が必要であり、早期の規制緩和を検討すべきである。
また、外国人の雇用を禁止している業種の中で、建設業において、環境に配慮した施工、設計、企画、監督助言など、今後タイにおいて新たなノウハウの蓄積が必要な職種についての規制を緩和すべきである。

(2)外国人単純労働者の雇用規制の緩和

タイが今後、アジア地域の生産拠点としての地位を維持するためには、周辺国の外国人労働者の活用が欠かせなくなっており、外資企業に対する外国人単純労働者の雇用規制を緩和すべきである。

(3)外国人労働許可証の更新手続きの円滑化

日本人がタイに赴任して働くために必要な外国人労働許可証は、1年ごとに更新することが義務付けられており、また、更新の際は本人による受け取りが条件とされている。円滑な人の移動を実現するためには、こうした煩雑な手続きを改善し、更新期間の延長、代理受け取りの許容、大使館と領事館で異なる提出書類の統一を実施することが重要である。

(4)短期出張に対する外国人労働許可証の免除

日本人がタイに滞在する場合、30日間以内であれば査証は免除されるが、短期であっても労働に従事する場合は、外国人労働許可証の取得が義務付けられており、円滑なビジネスを阻害している。そこで、一定期間内の労働については、外国人労働許可証の免除を検討すべきである。

(5)査証免除期間の延長

また、タイ観光を振興するためにも、日本人に対する短期査証要件の緩和が必要であり、査証が免除される滞在期間を延長すべきである。

5.知的財産権の保護

JTEPAでは、知的財産権章を設け、保護の強化、手続きの簡素化および透明化、権利行使の強化などの面で一定の前進が図られたが、引き続きの課題も指摘されている。知的財産権は企業の生産活動の基盤であり、今後、タイが研究開発拠点としても重要な役割を担っていくためには、以下のとおり改善を図るべきである。

(1)特許審査期間の短縮、審査手続きの円滑化、保護強化

グローバル化とともに企業活動のスピード感が増す中で、タイにおいては、現在、特許審査期間が平均5年程度、早期審査においても1〜1年半程度を要しており、早期の権利化を実現することが求められる。併せて、出願時の世界公知公用の採用、出願公開時期の明確な規定の制定を実現し、手続きの円滑化を図るべきである。さらに、90日間と短い異議申立期間は、例えば欧州特許庁の例に倣い、9カ月程度に延長すべきである。

(2)意匠の権利保護期間の延長、審査期間の短縮、保護強化

タイでは、意匠権の権利期間が出願から10年とされているが、これを、国際水準である20年に延長すべきである。また、出願から登録まで7年かかっている事例もあり、この期間を1年程度に短縮することを要望する。
意匠制度を一層拡充するためには、関連意匠および部分意匠の制度化、新規性喪失の例外規定、早期審査制度の導入が望ましい。

(3)商標の保護手続きの簡素化

国際水準に準じ、マドリッド協定議定書#5を批准すべきである。また、出願手続きの簡素化のため、一出願多区分制度の導入が求められる。

6.原産地証明制度の向上

(1)発給手続きの簡素化・円滑化

煩雑な原産地証明手続きは、JTEPAの活用を阻害する主因となっており、中小企業を含めた多くの企業に活用を促進するためには、手続きの簡素化・迅速化の努力が不可欠である。そのため、例えば、JTEPAの現行の原産地証明制度では認められていない、迅速な空輸を可能とする輸入通関時の原産地証明の写しの受理、ノックダウン・セットの一括判定を導入すべきである。発給手続きの簡素化・円滑化は、大規模洪水からの復旧に必要な相当量の機械・部品等の緊急輸出を迅速に行う観点からも急務である。

(2)認定輸出者自己証明制度の導入

原産地証明書の発給の迅速化および手続きの簡素化のためには、現行の第三者証明に加えて、認定輸出者自己証明制度も選択可能にすべきである。また、自己証明制度の導入にあたっては、認定輸出者の責任範囲を明確にし、利用企業にとって過剰な責任負担が生じないよう配慮することが必要である。なお、利用促進のため、活用マニュアルなどを作成・配布することが有益である。

7.タイのビジネス環境の向上

タイにはすでに約7,000社の日本企業が進出しており、ビジネス環境の整備により、こうした進出企業の事業活動をさらに活性化させるべきである。ビジネス環境の向上は、ASEANが2015年の経済統合に向かう中、タイが生産拠点としての役割を高めるためにも極めて重要である。

JTEPAに基づくビジネス環境向上小委員会は、現地の日本企業が事業活動における課題をタイ政府に具体的に指摘する貴重な場であり、上記1〜6で触れた課題のほか、地域統括拠点(ROH)の認定基準の緩和、労働争議への対応などについて取り扱っている#6。両国政府は、同小委員会の提案に真摯に耳を傾け、ビジネス環境の具体的・実効的な改善を実現すべきである。その際、タイの大規模洪水により企業活動に甚大な影響が発生したことを教訓にして、災害に強いインフラの整備における両国間協力の推進についても検討すべきである。

以上

  1. 一部物品関税および投資・サービス章は発効後5年以内、完成車は排気量に応じて2009年および2012年、人の移動は2013年11月までに交渉開始。
  2. ASEAN豪州ニュージーランドFTA、ASEANインド包括的経済連携協定、タイニュージーランド経済緊密化協定、タイ豪州FTA、韓国ASEAN FTA、中国ASEAN FTA。
  3. 例えば、面実装固定インダクタ、圧電セラミックブザー、セラミックを使用した各種センサー等。
  4. 最終製品において消費者の安全が確保されている自動車、電機・電子製品等。
  5. 同協定の締約国の官庁に商標出願をする、あるいは商標登録をされると、本国官庁を通じて国際事務局に国際出願をし、国際登録を受けることができる。これにより、保護を要請した指定国の官庁が、12カ月(各国の宣言により18カ月)以内に拒絶の通報をしない限り、その指定国において商標の保護を確保することができる。
  6. 第3回ビジネス環境向上小委員会における議題(2010年9月、於 バンコク)
    <日本側より提起した議題>
    (1)マプタプット問題、(2)鉄鋼の強制規格および輸入割当の拡大、(3)税制改革(移転価格税制等)、(4)労働争議における違法な要求への対処、(5)その他、投資環境改善に向けた要望(第三国とのFTAの推進、労働者不足の解消、ビザ発給要件の緩和、等)
    <タイ側より提起した議題>
    (1)反政府デモにより被害を受けた企業への支援策、(2)地域統括会社設立の促進政策、(3)その他、投資促進策の紹介

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