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Policy(提言・報告書) 国際協力 インフラ輸出の競争力強化を図り、わが国の成長につなげる

2012年6月14日
一般社団法人 日本経済団体連合会

インフラ輸出の競争力強化を図り、わが国の成長につなげる【概要】

I 基本的考え方

わが国は、長年にわたり、地理的にも近く、安全保障及び経済成長にとって大きな影響を及ぼし得る地域であるアジアを支援してきた。今日、これまでの取り組みの成果が実を結びつつあり、アジアの多くの国々において、日本企業が関わった事業が現地での雇用を創出するまでになった。今後もアジアとともに成長し、ともに繁栄していくため、絶え間ない取り組みを行っていく必要がある。

アジアをはじめとする新興国等へのインフラ輸出は、相手国の成長基盤の強化や、需要の創出をもたらし、結果としてわが国の成長に大きく貢献することから、成長戦略の主要な柱として、推進すべきである。かかる中、コンソーシアムやジョイント・ベンチャーを組む日本企業グループが国際受注競争で敗退する事例が見られることから、インフラ関連産業の国際競争力の強化が課題となっている。その際、特に大型のインフラ整備には、膨大な資金とそれに伴うリスクが存在するため、政府開発援助(ODA)予算を拡充し、官と民が連携して取り組むべきである。

ODAからの支援、国際協力銀行(JBIC)の投融資といった財政資金を利用する官民連携によるインフラ輸出は、納税者である国民の理解の上に進めることが求められる。そこで、インフラ輸出の促進が、国民経済の発展に寄与し、国内産業の空洞化を回避する上で不可欠であることに理解を求める必要がある。

国際競争において、わが国企業が強みを発揮するためには、ハード・インフラの単体の供給のみならず、優れた設計思想、技術を土台とするシステム、オペレーション、ファイナンス、メンテナンス・サービス等を組み合せたパッケージ型インフラの輸出を官民で推進することが重要である。「パッケージ型インフラ海外展開関係大臣会合」の開催等に熱心に取り組んでいる政府には、インフラ輸出の拡大に向けた推進体制の更なる強化が求められる。その際、わが国企業が強みの発揮できる分野や重点相手国を特定し、プロジェクトの組成から実現までの各段階においてわが国の関連産業の競争力と課題を評価・分析し、必要とされる方策を講じていくことが不可欠である。なお、パッケージ型インフラの競争力を一層強化するためには、日本企業を中核としながらも、輸出相手国および他国の企業との連携も選択肢に入れ、いわゆる「ジャパン・イニシアティブ」で取り組む必要がある。その際、中核となる企業が十分な情報を基に最強の体制を組めることが鍵となる。

かかる観点から、インフラ輸出の競争力強化のあり方について、以下の通り提言する。

II 競争力強化のための方策

1.インフラ案件の発掘と形成の推進

(1)政府の支援体制の整備

企業が競争力のあるインフラ案件を組成・遂行できるよう、関係省庁間の連携を強化し、パッケージ型インフラ海外展開関係大臣会合、国際協力機構(JICA)、JBIC、日本貿易保険(NEXI)、ジェトロ等は、適切な支援措置と十分な情報提供を行うべきである。

(2)コンサルタントの役割の強化と育成

JICAによる民間コンサルタントの積極活用(PPP(Public Private Partnership)案件、円借款案件の詳細設計)とこれを通じたコンサルタント育成の強化が必要である。例えば、マスタープラン作成、事前調査(FS)を手がけたコンサルタントが詳細設計(DD)を一括して担当する、あるいは、有償資金協力勘定技術支援費を原資とする技術協力の形で携わることができるようにすべきである。これらの取り組みを通じて、わが国企業の強みを発揮できるDDを相手国に提供することが可能となる。
併せて、政府とJICAは開発教育を推進し、国際協力の必要性についての国民の啓発活動に力を入れ、人材の裾野を拡げるべきである。また、プロジェクト形成の要となる本邦コンサルタントの高齢化と減少が進んでいることから、後継者となる若手育成に重点的に取り組むべきである。

(3)民間提案型PPPのFSスキームの強化

JICAが他国に先んじて導入、実施している民間提案型PPPプロジェクトのFSスキームの財源強化を図るとともに、同様の観点から、経済産業省のプレFSスキーム(ジェトロ受託)の利用向上を図るべきである。また、併せて事業の実現に向け、調査結果のフォローアップ体制を強化すべきである。
事業開発権入札が想定される場合は、提案企業グループのFS終了後直ちにJICAが契約するコンサルタントが技術協力の枠組みで入札書類や評価基準を作成し、FS提案企業グループが事業開発権を取得しやすい環境を整える仕組みとするべきである。なお、入札にあたっては、人材育成、安全管理、環境配慮の施工方法をはじめとする、非価格要素を十分評価することが不可欠である。また、当該コンサルタントが関連・周辺インフラ事業や環境対策事業の調査、計画、資金計画を策定・実施できるよう、円借款の支援を含むパッケージとしての支援策を講じることも求められる。

(4)国際機関拠出金の有効活用

世界銀行やアジア開発銀行への日本政府拠出金(いわゆる「ジャパン・ファンド」)については、日本のコンサルタントや企業が得意とする分野での活用を優先させる等、本邦企業による案件形成のために有効活用すべきである。また、各機関の東京事務所の位置づけを費用対効果の観点から抜本的に見直すよう求める。

(5)現地ODAタスクフォースの活用

官民連携で新興国の案件発掘のために組織されているわが国政府、政府機関および民間企業から構成されるODAタスクフォースについては、開催頻度をさらに上げるとともに、個別案件情報の守秘を徹底するなど、案件形成に有機的に貢献できるような仕組みを取り入れ、実質的に機能するよう図ることが必要である。また、現地大使館のインフラ担当官として民間人材を活用するなど、専門性を備えた人材を重点配置するべきである。

2.ファイナンス・保証の充実

(1)JBIC機能の積極的活用

4月1日に日本政策金融公庫から独立し、機動性を向上させたJBICへの産業界の期待は高い。JICA機能と同様にJBICにおいても長期的視点から事業性を評価し、超長期の幅広い案件を対象として柔軟かつ積極的に出資・融資を供与し、また、外貨貸しと現地通貨貸しを積極的に推進すべきである。とりわけ、今年度から実施されている外貨スワップの保証機能の積極的活用を期待する。また、JBICが既に、先進国向け輸出信用制度の活用など民間企業のインフラ輸出で欠かせない長期信用供与を実施している点を評価する。その際、民間金融機関との協調融資の比率については弾力化すべきである。また、JBICの融資対象を日本企業が中核的役割を果たしているジョイント・ベンチャーが推進する案件や海外の現地日系法人にも広げるべきである。(5.(4)参照)

(2)JICA海外投融資の本格実施
  1. JICA海外投融資の重要性
    現在パイロット段階にとどまっているJICA海外投融資については、期間・金利等の条件を公開し、早期の本格実施を求める。その際、外貨建てでの海外投融資も行うべきである。JICA海外投融資は、相手国政府に対する借款ではなく、プロジェクトを手がけるわが国企業またはジョイント・ベンチャーに対する投融資であるため、ソブリン・リスクに左右されることがなく、またOECDのガイドラインの対象外であることから、インフラ輸出に際して機動的かつ弾力的な活用が可能である。

  2. パイロット・プロジェクトの検証
    なお、JICA海外投融資の本格実施にあたっては、プロジェクトの成功を確実にすべく、パイロット段階で得られた教訓を活用することが不可欠である。例えば、ツーステップ・ローン事業において相手国の最終借り手に対する利息が市場金利との比較で過度に高くならないよう、モニタリングを行う等、柔軟できめ細かい手当てを行う必要がある。

  3. 民間人材の活用
    JICAのプロジェクトのリスク評価能力を強化するため、総合商社、銀行等でプロジェクト・ファイナンスの経験のある人材やOB人材を活用するなど、民間の知見を利用するべきである。

(3)円借款の改革
  1. 機動的な対応の推進
    中進国以上に対象国を拡大するとともに、年次供与枠を弾力化し、プログラム・ローンの活用を図るなど機動的に円借款を供与するべきである。また、機材価格の高騰などに機動的に対応すべく、円借款にクレジットラインなどの包括契約を導入し、重複する手続を省く等の措置が求められる。

  2. 手続の迅速化
    マスタープランの作成、FSと並行して、要請、交換公文、借款契約(L/A)に関する手続を進めることで、円借款締結までの期間の大幅な短縮を図るべきである。また、有償資金協力勘定技術支援費を原資とするJICA連携DDを実施し、期間を大幅に短縮すべきである。

  3. 現地通貨建て・ドル建借款の導入
    インフラ案件については、現地の利用者・受益者が大半であるため、収益の太宗は現地通貨建となる。こうした事情を考慮し、円借款の現地通貨建供与を行うべきである。また、円高に対応して、相手国政府の選択でドル貸し・返済を可能とすべきである。

  4. STEPの見直し
    本邦技術活用案件(STEP:Special Terms for Economic Partnership)の件数を増加させる観点から、在外の本邦法人を主契約者とすることを認める、調達における日本製品の割合に関する規則を必要に応じて見直す等、利用条件の緩和が必要である。併せて、STEP利用のメリットについて相手国の理解を得ることも重要である。

(4)無償資金の規模の拡大と機動的投入

無償資金協力予算の拡充を図り、1件当たりの供与額を100億円規模に引き上げるとともに、試行的に導入された「予備費」については、柔軟な運用と迅速な適用を図るべきである。

(5)VGF(バイアビリティ・ギャップ・ファンディング)の活用

プロジェクト・サイクルの短縮化、プロジェクトの採算性引上げのため、VGFへの無償資金の活用を認めるべきである。なお、VGFの実現にあたっては、供与方法について、官民の合意形成を早急に図るべきである。

(6)NEXI対象案件の弾力的拡大

NEXIが付保する対象を広げ、ジョイント・ベンチャーによる案件や海外の現地日系法人も対象とすべきである。

(7)二国間オフセット・メカニズム導入の働きかけ

優れた省エネ・低炭素技術を地球規模で普及させ、途上国における排出抑制・削減を支援・促進する仕組みとして、CDM(クリーン開発メカニズム)が存在するものの、クレジット認証に係る硬直的な手続きなど、改善すべき諸点が指摘されている。
こうしたことから、わが国は、二国間協議のもとで相手国側のニーズを十分勘案しながら省エネ・低炭素化プロジェクトを形成し、技術移転の結果として実現した排出削減に関するわが国の貢献を適切に評価し、削減目標達成に活用する二国間オフセット・メカニズムを提案している。既にインド、タイ、ベトナム、インドネシア、カンボジア、ラオス等との間で政府間協議が進められている。また、経済産業省等によって、具体的案件に関するFSが実施されている。
同メカニズムは、高効率火力発電設備等の省エネ・低炭素関連のインフラ輸出にも資することから、FSを継続的に進めるとともに、これらの成果も踏まえ、各国との協議の加速化や国際的な理解の醸成等に取り組み、STEPへとつなげるスキームも視野に入れつつ、二国間オフセット・メカニズムを具体化させるべきである。
その際、JICAやJBICなどの公的ファイナンス機能との連携を図ることにより、さらなる実効性の向上が期待される。

3.リスクテークの取り組みの強化

(1)わが国政府関与の拡大

大きなリスクの保証が求められる国益上重要な案件については、JBICの保証機能、NEXIの保険機能を最大限に活用する必要がある。また、採算性を確保する上で、電力の買取り保証や鉄道のライダーシップ保証等を相手国政府・地方政府に求めることが不可欠な場合、コンセッション契約交渉におけるわが国政府の全面的なバックアップを求める。
なお、NEXIについては、債権の流動化など、リスク分散の方策も検討すべきである。

(2)過度なリスクテークの回避

インフラ輸出関連事業の契約書作成に際しては、わが国の企業に大幅なリスクテークが求められることがないよう、わが国の交渉力の強化を図るとともに、JICAのFS作業の段階で事業特性を勘案した最適な契約が結べるよう、モデル約款の選択等で予め相手国側と合意しておく必要がある。

(3)適正なリスク配分の実現

民間企業が出融資を行うインフラ事業では、相手国との適正なリスク配分が求められている。JICAが官民連携のプロジェクトのFSを実施した事業においては、例えば、JICAのコンサルタントを相手国に派遣し、リスク配分の指針を取りまとめておくことが必要である。また、事業遂行途中で事業者と相手国の間でトラブルが発生した場合には、JICAが中立的な立場から契約管理を通じた利害調整を行う仕組みを構築すべきである。

4.国際標準化戦略の推進

インフラに関わる国際標準については、市場におけるわが国企業の活躍によるデファクトスタンダードの確保と、政府間交渉における交渉力の強化や人材の配置を戦略的に図り、わが国主導のスタンダードの確立を推進する必要がある。

(1)わが国の技術・制度の輸出

長期戦略に基づく技術者育成支援(例:タイ・モンクット王工科大学、鉄道に関する研修生交流)、JICAの法制度整備支援を通じた各国の規格策定への参加、相手国政府の経済政策立案での協働(例:日越共同イニシアティブ)等の官民連携によるソフト面での支援を通じてわが国の技術・制度を定着させることが重要である。その際、必要に応じて円借款のプログラム・ローンの活用を図るべきである。

(2)官民連携による国際標準の獲得

鉄道関連技術については、官民の連携で国際規格センターを発足させて日本技術を基礎とする規格化を推進しており、他分野でも同様の取り組みが必要である。

(3)わが国の提唱によるアジアの標準作りの推進

東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)において、環境規制や工業規格等に関するアジアの標準づくりを推進し、その際、わが国の優れたルールの導入を推進すべきである。

(4)わが国技術の浸透のための技術協力プログラムの推進

わが国が有する技術の優れた点に関する各国の理解を高め、パッケージ型インフラ輸出促進のための環境を形成する。例えば、関係者の協力を得て、新幹線をはじめ、水道サービス、超超臨界火力発電所、私鉄の鉄道整備と沿線開発、駅中開発、防災技術等の優れた事例をモデル事業として海外への紹介に活用するべきである。経済産業省は貿易投資円滑化のための技術支援や研修のプログラムを実施し、わが国の最先端技術の新興国への浸透に努めている。こうしたインフラ輸出を直接支援するプログラムを強化していくことが重要である。

5.相手国におけるPPP法制、入札制度の整備等

(1)PPP法制の整備

インフラ事業において民間の創意工夫を最大限に活かす観点から、JICAの法制度整備支援等のスキームを活用し、PPPを推進するための法的基盤を整備する必要がある。その際、プロジェクトを提案し、マスタープランの作成に携わった民間企業の事業参加が排除されないことはもとより、提案者が優先的に事業を手掛けることができる制度を相手国に確立すべきである。さらに、JICAにおいては、各国のPPP制度に関する情報を集約し、アジアにおけるPPP制度のナレッジセンターとしての機能を充実させていくべきである。

(2)入札制度の整備

環境負荷が少なく高品質な技術、納期の遵守、人づくりを含む万全なアフターケアなど、中長期的に費用対効果の高いわが国のインフラ・プロジェクトを適正に評価する入札制度の導入を、そのメリットを説明しながら相手国に働きかけるべきである。また、入札不調による着工遅延を避けるために、最終選考に残った企業が1社であっても、第1段階で複数の企業が応札していれば入札を成立させる等の対応を求めることも必要である。

(3)海外のPPP事業強化のための国内PFI(Private Finance Initiative)事業の推進

海外におけるPPP事業の競争力強化のためには、国内のPFI事業参加を通じた経験を積むことが有効である。PFI法には発案者に対するインセンティブの付与や非価格的要素を踏まえた品質本位の入札に関する規程があり、わが国政府ならびに地方自治体は、これらを最大限に活用して、民間提案型の案件やハコモノ建設とともにサービスの提供をパッケージにした案件を積極的に採用するべきである。

(4)海外M&Aの推進

豊富な知見と経験を有する海外の企業との連携を図る、あるいは、M&Aによりこれらのノウハウを獲得することも重要な戦略である。また、円高に対応したM&A等の支援のためのJBICの投資金融の継続を求める。

(5)プラントエンジニアリング業や建設業等の競争力強化

インフラ輸出産業のうち建設業などの労働集約産業は、海外における労働力のアウトソースを進めるとともに、管理・メンテナンスといった知識集約部門を拡充し付加価値を高め、必要な人材育成に努めるなどして、国際競争力の強化を進めることも検討すべきである。

6.重点国との政策対話の強化

インフラ需要に的確に対応していくためには、相手国のトップと直接対話し、インフラ整備はもとより国づくり全般にわたりアドバイスのできる人材を派遣すべきである。また、ベトナムやインドネシアなどの先行例を参考に、今後のインフラ需要が見込めるミャンマーなどのメコン諸国をはじめとするアジア地域等において官民一体となった政策対話を早急に実施すべきである。


【参考】重点分野・地域

1.重点分野

わが国の技術、ノウハウを活かし、相手国の持続的経済発展ならびにわが国の成長に寄与する観点から、以下の分野におけるインフラ輸出を重点的に推進すべきである。特に、わが国が先端技術を有する新エネルギーや環境に配慮した製品については、今後、わが国の強みを活かすことができると考える。

  1. (1)道路、高速鉄道、都市交通、港湾、空港、水上交通、ICT
  2. (2)省エネ・低炭素技術、新エネルギー、原子力発電、高効率火力発電
  3. (3)上下水道、スマート・コミュニティ、エコ住宅、街づくり、宇宙・衛星
  4. (4)防災関連
  5. (5)法制度整備、人材育成

2.重点対象国の例

わが国との政治経済上の戦略的互恵関係の更なる発展の観点から、とりわけ、以下の国・地域を重点対象とすべきである。

  1. (1)インドネシア、ベトナム、フィリピン、インド、バングラディッシュ、ミャンマー、ラオス、カンボジア等のアジア各国
  2. (2)トルコ、中近東地域
  3. (3)ブラジル、南アフリカ等
  4. (4)高速鉄道に関心のある英国、米国等の先進国
  5. (5)ロシア、NIS
以上

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