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Policy(提言・報告書) 総合政策 震災からの復興の加速に向けた提言 一日も早い被災地域の生活再建と産業復興に向けて緊急に取り組むべき課題

[ 目次 ]

2012年7月9日
一般社団法人 日本経済団体連合会

I.はじめに

甚大な被害を広範囲にもたらした東日本大震災からの復旧・復興は、中長期にわたる継続的取り組みを必要とする。現在も関係者による懸命な取り組みが進められているが、被災地域の一日も早い生活再建と産業の復興のためには、政治の力強いリーダーシップの下で、国、自治体、産業界他の関係者、そして国民全員が一丸となった国をあげた取り組みを、可能な限り加速することが重要である。そして、これらの取り組みを東北の新時代の実現と活力ある日本の再生につなげていかねばならない。

経団連は、従前より被災地域の早期復旧・復興に全力で取り組んできた。発災直後の2011年3月16日に、被災者の生活ならびに被災地の産業・経済の一刻も早い「復旧」に焦点をあてた「未曾有の震災からの早期復旧に向けた緊急アピール」を関係方面に建議するとともに、同3月31日の「震災復興に向けた緊急提言」や同5月27日の「復興・創生マスタープラン」において、被災地を中心とする「復興」と新しい日本の「創生」への取り組み強化を提言した。また、各企業では、事業の継続・早期再開や安全行動の徹底に全力で取り組むとともに、義援金・寄附金、各種救援物資の拠出、被災地支援に携わるNPO・ボランティア等への協力等広範囲な分野で支援活動を行っており、その概要を2012年3月に「東日本大震災における経済界の被災者・被災地支援活動に関する報告書」として取りまとめている。

われわれは改めて自らの知見、技術、ノウハウ等あらゆる資源を駆使して復興に貢献する覚悟である旨を明らかにしたい。特に、被災地域における事業活動の強化を通じた地域雇用の維持と新規雇用の創出に大きな期待が寄せられている中、すでに本業を通じた貢献に積極的に取り組むとともに、被災地域における新たなる事業活動を検討する動きも増えつつある。これらが早期に実効を上げることを強く期待する。

こうした状況を踏まえ、今般、経団連全会員企業等を対象に実施したアンケート調査や主要企業へのヒアリングをもとに、企業による被災地域での事業展開の具体化に際し直面している課題を改めて整理し、意欲ある企業の取り組みを支援するための事業環境整備施策を提示する。加えて、国や被災自治体等へのヒアリング等を通じて、生活再建、産業復興の加速を図る観点から、現行制度の下で早急に取り組むべき課題とその対応策を取りまとめた。

II.分野横断的課題とその対応策

1.復興施策推進体制

本年2月、「復興の司令塔として、被災自治体の要望にワンストップで迅速に対応し、役所の縦割りと先例主義を乗り越えること」を掲げ、内閣総理大臣を長とする復興庁が発足した。同庁は、復興に関する国の施策の企画、調整及び実施、ならびに地方公共団体への一元的な窓口と支援等を担っており、本庁、岩手、宮城、福島の三県に設置された復興局、6カ所の支所、2カ所の事務所の体制のもと、復興事業を実施している。
一方、被災自治体においては、庁舎を含めた施設・設備が大きく被災するとともに、職員に多くの犠牲を被りその機能に大きな影響を受けた自治体も少なくない中、国や全国の他の自治体等からの支援も得つつ、被災地域の復旧・復興に懸命に取組んでいる。
こうした現状を踏まえ、復興施策の推進を強化するためには、以下の3点の課題を解決しなければならない。

(1)復興庁の機能充実

まず求められているのは復興庁の機能の充実である。とりわけ、被災自治体が被災者の支援や生活の再建、まちや産業の復興等をはじめ、広範囲の分野において省庁横断的に取り組まねばならない課題も山積している中で、必ずしも「役所の縦割りと先例主義を乗り越えること」が体現されているとは言い難いとの指摘がある。復興庁には、被災地の視点に立った復興を推進する役割を十分に果たし、迅速な復興を実現するための国の施策の企画立案と一層の府省間調整に努めることが期待される。いわば、被災地のエージェントとしての機能発揮がより求められており、復興庁には、今後とも、復興に係る一元的な窓口として、府省の区分なく、広く被災自治体の意見や要望を集約し支援することに、被災地域の立場に立って、より一層大きな役割を果たすことが求められる#1

(2)関係機関の連携強化

併せて重要なのは、復興施策推進過程における関係機関の適切な役割分担による連携強化である。被災した市町村はじめ自治体の多くは被災者の日々の生活への対応・支援等に追われているため、まちづくり、さらには産業復興等に係る施策を企画・立案し実施するための人員を十分に確保できない状況にあると指摘されている。その結果、例えば企業が被災地における事業展開を検討するにあたり、被災地域のまちづくり(土地利用計画等)や産業振興の中長期的展望が明確でなく、事業の具体的な決定・展開を躊躇せざるを得ない状況が少なくない。こうした事態の解消には、復興庁・復興局、関係府省、県等による市町村への適切な支援が不可欠であるが、復興に係る事業に関し、関係機関の関与の度合い・在り方がわかりにくいとの指摘も少なくない。また、被災地において企業が新たな事業を開始するにあたって、各省庁による複数の補助金を併せて活用する場合、申請手続きの窓口が複数となるとともに、それぞれの補助要件に合致させるために事業の調整が必要になるなどにより、迅速な事業展開に支障をきたすとの指摘もある。
したがって、復興庁・復興局、各府省、地方支分部局、都道府県、市町村等の関係機関の役割を明確にするとともに、復興庁の総合調整機能により、民間機関等も含めた関係機関の機能の有機的連携・総合化を図るべきである。
また、福島復興再生特別措置法に基づく各種施策の実施にあたっては、住民の生活再建や産業の復興にかかわる財源措置を含め、県、県内市町村と手を携え、国は万全の取り組みを期すべきである。

(3)被災自治体の企画・実行力の向上、マンパワー不足への対応

被災自治体、とりわけ市町村の施策の立案・実行力の向上を求める声は多く、被災自治体における人材の拡充を迅速に進める必要がある。すでに、国や全国の自治体、独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)等から被災自治体への応援は行われているが、引き続き自治体で求めている職種や期間等の人材ニーズを適切に把握し、職員派遣の継続・拡充を図ることが期待される。同時に、民間人材・自治体OB等の活用も検討すべきである。その際には、被災自治体において腰を据えた取り組みを進めるための派遣期間の設定や給与・宿舎の確保を含めた処遇も重要となる。
また、復興庁が各府省、全国の自治体、関係機関からの派遣を一元的にとりまとめる窓口としての機能を積極的に果たし、被災自治体が必要とする人材を充足し、負担の軽減を図ることも期待される#2
併せて、企業、ボランティア、NPO、公益法人等との連携も進めるべきである。

2.災害廃棄物処理

東北3県沿岸37市町村における災害廃棄物は推計量で約1880万トンに上り、うち83%が仮置き場への搬入を完了している。2014年3月までに処理・処分完了を目指しているが、2012年6月22日現在、その割合は17.5%に止まっており、一日も早い処理・処分完了を望む声は多く聞かれる。
今回の災害廃棄物の特徴は、被災地域が広範で、阪神・淡路大震災の約2倍に匹敵するこれまでに類を見ない膨大ながれき量であるうえ、大量の水分を含み、家屋由来の廃棄物も多いことにある。また、処理・処分に際しては周囲の環境への配慮に加え、福島第一原子力発電所の事故による放射能汚染への懸念により、処理・処分過程が、通常の廃棄物に比べ複雑化している。
被災地の復旧・復興の加速に向けて、また、被災者生活環境保全上の支障を防止する観点から、災害廃棄物の迅速な処理・処分を進めることは極めて重要である。民間も含めた現地処理能力等を最大限活用するとともに、可能な限り再生利用を進めつつ、被災地のみの処理能力を超えるものについては、その広域処理を円滑に進めるなどの取り組みが求められる。

(1)現地処理施設の稼働円滑化と拡充

被災自治体では、災害廃棄物の処理に向け、既存施設を最大限活用するほか、仮設の中間処理・焼却施設を設置するなどの取り組みを懸命に進めている。
そのための環境整備として、国・地方自治体の協力のもと、廃棄物処理施設の設置等に係る廃棄物処理法、環境影響評価法、建築基準法等の各種行政手続きの迅速処理のほか、コンクリートくず等の災害廃棄物を安定型最終処分場において処理する場合の手続の簡素化のための措置#3等がなされている。
しかし、建築基準法では、ごみ焼却場その他政令で定める処理施設の用途に供する建築物の新増築には、都市計画決定若しくは特定行政庁の許可が必要とされている。上記の措置等の場合であってもその手続きは必要との立場をとる自治体もあり、既存設備の有効利用に支障をきたしているとの指摘もある。したがって、国・地方自治体では、現地処理能力等の最大限活用に向け、これまでの環境整備措置を一層推進するとともに、必要に応じ、さらなる各種規制や手続きの緩和や簡素化・迅速化措置も実施していくべきである。
また、現在、被災地の中間処理・焼却施設では、その本格稼働が進んでいるが、中間処理後の廃棄物の搬出先が思うように確保できず、また、焼却処理により発生する焼却灰の受入先が十分に確保できないため、現地で破砕・選別処理、焼却を行っても一時貯留せねばならない状況となり、処理業務に支障が生じることが懸念されている。次掲の復興資材としての再生利用の拡大や広域処理の拡充・円滑化を含め、中間処理後の廃棄物・焼却灰の搬出先確保も早急に進め、現地処理施設の稼働の円滑化を図るべきである。

(2)復興資材としての再生利用の拡大

災害廃棄物を最大限活用し、復旧復興資材として再生利用すべく、政府は公共事業における盛土材や埋土材等としての積極的に活用する方針を打ち出しており、中間処理後の金属、コンクリートがら、木くず・木材、津波堆積物、ガラスくず、陶磁器くず等はすでに資源化されている、あるいは資源化の方向で検討が進んでいる#4。これらに加え、有機物と無機物の選別が困難な不燃系混合物#5や焼却灰を利用したリサイクル資材についても、道路工事や埋め立て等の復興資材として利用できれば、処理の加速にとって有用である。このため、必要な最低限の安全性を担保した形で復興資材として活用を促進するようにすべきである。
国・地方自治体は、災害廃棄物は今後の復興事業に有用な材料として出来るだけ活用していくという基本方針を改めて確認し、また、長期にわたって安定した構造物になるよう土木技術を駆使して設計・計画・施工することを前提に、被災自治体等が中心となり、学識経験者等を交えて、復興資材の取扱いに関するマニュアルを整備し、復興資材として再生利用を進めるべきである。

(3)広域処理の拡充・円滑化

広域処理の拡充・円滑化については、廃棄物処理施設の周辺住民の理解促進が不可欠であり、適時適切な情報提供に引き続き注力する必要がある。このため、政府は、2012年3月に、東日本大震災により生じた災害廃棄物の処理に関する特別措置法第6条第1項に基づき、総理名で都道府県知事及び政令市長宛てに広域的な協力の要請を行うとともに、数々の施策を講じつつある。
広域処理の拡充・円滑化に向けて、引き続き、政治が強いリーダーシップを発揮しつつ、被災地以外の自治体の理解を得る努力を進め、広域で災害廃棄物(放射能の基準は環境省「東日本大震災により生じた災害廃棄物の広域処理の推進に係るガイドライン」を満たすもの)を移動させ、処理を円滑かつ安定的に進める基盤を整備すべきである。
また、広域処理の災害廃棄物を受け入れる施設として、セメント工場や製紙工場等を有する民間企業があげられ、政府の要請もあり災害廃棄物を原料または燃料として利用する取り組みを進めている。しかしながら、各工場の有する処理施設はさまざまであり、また、災害廃棄物の一次処理の分別状態や破砕仕様もまちまちであるため、広域処理を受託した企業は改めて分別・破砕作業を別途専業者に委託することが必要となる場合がある。このため、すでに講じられている被災市町村が災害廃棄物処理を委託する場合における処理の再委託の特例措置をさらに進め、現行制度では認められていない処理の再々委託を容認する特例措置#6等も検討すべきである。

III.分野別課題とその対応策

1.まちづくり

全国に34万7千人、うち東北3県でその8割近い約27万3千人もの被災者が仮設住宅等に避難している状況が依然として続いている。これら被災者の方々が恒久住宅に戻り、日常の生活を取り戻すことが、まちの復興の最大の課題である。
そのためには、被災地域の土地利用計画等のまちづくり計画を早期に定め、具体的な事業に着手・着工する必要がある。例えば、復興特区法に基づき土地利用の再編に係る特例許可・手続きの特例等をうけるために策定される復興整備計画は、6月12日現在で東北3県13市町村53地区で公表されており、その他の被災地域についても策定に向けた関係者の協議が進められている。これらの取り組みの加速に向けては、復興交付金等の活用による住民負担の軽減を図りつつ、住民の合意形成を促進していくことが重要である。
また、上記計画に基づくまちづくり事業の円滑な執行においては、被災自治体におけるマンパワーの不足が指摘されるとともに、すでに被災地における復旧・復興事業においては、技術者・技能者の不足、労務単価の上昇等が見られ、地方公共団体発注工事において入札不調案件が増加傾向にある#7。このため、被災自治体の人材不足への対応とともに、被災地域における技術者・技能者の不足および労務単価・資材費の上昇に適切に対応しなければならない。
さらに、津波に襲われた太平洋沿岸部については、市街地、集落等に壊滅的な被害が発生しているほか、防潮堤をはじめとする防災施設、鉄道施設等に関しても、深刻な被害が確認されている。これらの復旧に当たっては、住民、利用客の安全を確保しつつ、被災地域全体の復興やまちづくり計画と一体となって進めていく必要がある。

(1)住民の合意形成の促進

まちづくりの過程で、多くの被災自治体が住民の合意形成に多大の努力を傾注している。地震および津波の被害を受けた地域の在り方については、復興期間を超えた長期にわたる住民の生活に大きく影響することから、丁寧な合意形成プロセスが求められることは言うまでもないが、一方で住民全員の合意形成に時間を費やすことによりまちづくりが停滞し、多数の住民の生活再建が大幅に遅延することがあってはならない。そのような膠着状態を打破し、一日も早い復興に歩みを進めるためにも、一定の時期・時点において、政治が強いリーダーシップを発揮し大胆な決断を行うことが期待されている。

(2)復興交付金等の活用による住民負担の軽減

住民合意の形成を促進するためには、防災集団移転促進事業や土地区画整理事業等において、対象住民向け支援策の拡充を図り、住民負担の一層の軽減を図ることも重要である。
例えば、被災地域で居住に適さないと判断された住居を高台等に集団移転するための防災集団移転促進事業については、その事業に必要な経費の全額が復興交付金等として被災自治体に交付される。当該事業は、住宅団地の用地取得造成、移転者の住宅建設・土地購入に対する補助(借入金の利子相当額)、住宅団地の公共施設の整備、移転促進区域内の宅地等の買い取り、住宅団地内の共同作業所等の整備、移転者の住居の移転に対する補助等を行うものであり、東日本大震災の被災地においては、住宅団地における住宅建設等補助の限度額引き上げ(406万円→708万円)による被災者負担の軽減等が図られている。加えて、被災自治体によっては、さらなる被災者負担の軽減のための独自の支援制度を設けている例#8もある。
これらの被災者負担の軽減による住民の合意形成を促進すべく、例えば、一括交付された効果促進事業費の活用も含め、なお一層の支援策の充実が期待される。

(3)被災自治体における人材不足への対応

まちづくり事業には多くの人材を要するが、被災自治体、特に市町村には、これほど大幅な防災集団移転促進事業や区画整理事業、土地改良事業等に携わった経験のある人材が不足している。したがって、II.1.(3)で指摘した措置により、まちづくりに必要なノウハウ等を有した人材を可能な限り確保し、その作業を支援する体制を整備するとともに、各種同意手続きの簡素化を図るなどにより自治体の負担軽減を大胆に進めることが期待される。
また、公共工事における民間活力の活用も有効である。すでに検討が進められているCM(コンストラクション・マネジメント)方式を活用した設計・施工一括発注方式のさらなる活用、改正PFI法(「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」)を活用した民間による地方自治体庁舎や公共・収益施設の整備・維持管理・運営、今般規制緩和された公用・公共施設に係る土地信託の活用#9等の幅広い手法の導入を促進し、全国の民間企業等の活力等を最大限活用し、復旧・復興を加速していく必要がある。

(4)技術者・技能者の不足および労務単価・資材費の上昇

建設工事の受注動向は、2011年第4四半期、2012年第1四半期には前年同期比15%上回る水準で増加しており、今後も相当数の復興事業の発注が一定期間に集中することが予測されているため、技術者・技能者の不足および労務単価・資材費の上昇への対応が急務である。
このため、国、地方自治体、関係業界団体より構成される「復旧・復興事業の施工確保に関する連絡協議会」#10が設置され、それぞれの把握する現況の共有と対応策についての意見交換を行っている。その結果、実勢価格を反映した公共工事設計労務単価の設定や市場高騰期における労務費・資材費の補正による積算の実施等による予定価格等の適切な算定、主任技術者の配置要件の緩和や宿泊費・宿泊施設等の算定等による技術者・技能者の確保等の措置が講じられている。今後とも、「復旧・復興事業の施工確保に関する連絡協議会」等を活用しつつ、地方公共団体や民間関係団体の意見も踏まえ、必要な施策を講じていくことが求められる。また、建設要員や資機材の安定供給に向けた体制づくりや作業員宿舎建設スキームについても、すでに行政や業界間で対応策の検討が始まっているが、さらなる支援策の拡充に進めるべきである。
併せて、地域の持てる力を最大限に活用することを基本としつつも、被災地域外のリソースを積極的に活用することも重要である。例えば、今年6月下旬から7月中旬頃に発注する海岸復旧工事のうち10件を対象に、単体企業の場合東北管内に本店を有する企業まで入札参加者の応募資格の拡大が図られるとともに、被災地域に本店を有する企業と全国の企業との復興JV制度が導入されている。これらの制度の円滑な実施を図るとともに、公共工事の入札参加者の応募資格や復興JVの地域要件の一層の緩和も検討すべきである。

2.産業復興

被災地域の雇用環境は、数値上は改善傾向にある。しかしながら、有効求人倍率は2012年5月現在、全国の数値が0.81に対し、東北6県で0.93、岩手県1.03、宮城県1.13、福島県0.97と全国を上回る一方で、津波の大きな被害を受けた沿岸部は0.6~0.8台と相対的に低迷している#11。また、復興需要に沸く建設関係の求人数が大幅に伸びているものの、食料品製造および事務的職業の求人が低調であるなど、業種・職種の偏りが顕著である。
また、被災地における産業別就業者数を見ると、農林漁業等一次産業の就業者の比率が相対的に高いことから、上記も踏まえれば、当面の被災地域における産業の復興には、農業・水産業及び関連する水産加工業等の食品関連産業の再生が地域生活再建の鍵を握っていると言える。
加えて、復興需要による建設関係の求人が集中復興期間等の一定期間経過後には縮小していくことを考えれば、被災地域の単なる復旧にとどまらない真の復興を実現していくためには、新たな産業振興により安定的な雇用を生み出していく必要がある。
このため、当面は雇用のミスマッチを解消し求職者の雇用を確保するとともに、農業・水産業及び関連する水産加工業等の食品関連産業の早期再生を図ることが重要である。同時に、農業・水産業等の機能・施設の集約や経営の大規模化等による競争力強化、6次産業化等による収益性の向上等を図り食料供給基地としてのさらなる機能強化を図るとともに、将来の地域経済の中核となる産業の形成に向けた企業立地の促進等により、被災地域をわが国を牽引する先進産業地域としていかねばならない。これらを推進するために、従来型の復旧事業にとどまらない創造的な復興に資する案件に、より優先的に助成されるような仕組みの整備が求められる。
なお、今後の人口動態やグローバル競争の現実等を考慮すると、雇用創出は極めて厳しい課題である。被災地域のみならず、日本全体として取り組む視点も忘れてはならない。

(1)共通
  1. 雇用のミスマッチ解消と安定的雇用の確保
    雇用については、職種と地域の両面でミスマッチが拡がっている。こうしたミスマッチの解消については、これまでもハローワーク(公共職業安定所)を中心に、雇用情報提供の充実、求人開拓の推進、スキル不足や年齢等が就職のネックとなっている求職者への支援、広域的な職業紹介の推進等を進めている。また、被災自治体では、当面の雇用対策としての緊急雇用創出事業等にとどまらず、事業復興型雇用創出事業等の活用等を通じ、地域の産業政策と一体となった安定的な雇用の創出にも取り組んでいる。
    今後とも、ハローワーク機能の充実によりきめ細やかな就職支援や職業訓練、広域的な職業紹介を一層積極的に実施するとともに、雇用創出支援策の円滑な実施等により、雇用のミスマッチ解消と安定的雇用の確保に努めていくべきである。
    一方で、被災地域において工場等の事業施設の再開や新増設等の事業展開を進める企業から、予定の採用人数を確保できず、事業開始の遅れや当初の計画からの事業規模の縮小を余儀なくされた事例が少なからず報告されている。賃金水準の上昇も含め、かかる状況が継続すれば当該地域での事業展開を見直さざるを得ないため、中長期的にみて地域における雇用の減少等による経済の停滞を懸念する声もある。被災地における求職者の状況はさまざまであり、一律的な対応は難しいものの、地域の産業復興と経済全体に与える影響を総合的に判断し、失業給付の延長適用等を含め給付の適正化を図るなどにより、速やかに被災地域の労働市場の適正化を図るべきである。

  2. 土地利用計画の早期策定・実施
    被災地域に従前より立地し事業の再建を図ろうとする企業や新たな事業展開を検討する企業にとって、立地場所をいかに確保・確定するかは極めて重大な問題である。しかしながら、地域の土地利用計画や関連施設の再建計画が不明確、あるいは実施に長期間を要するために、具体的な事業の展開を躊躇する事例が少なからず報告されている。
    雇用を生み、住民の生活向上に資する活力ある産業の復興に向け、地域づくりにおける産業の位置づけを明確にして優先順位を定めつつ、上記のIII.1.(1)及び同(2)で指摘した通り、住民合意の形成を促進するとともに政治が強いリーダーシップを発揮し大胆な決断を行っていくべきである。

  3. 一次産業および関連産業(食品製造業等)の再生による生活基盤再建
    一次産業の再生に向けては、被災農家経営再開支援事業、土地改良法特例法等に基づく直轄災害復旧事業、がんばる漁業・養殖復興支援事業等が実施されるとともに、食品製造業等の関連産業の再生においては、中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業が被災した事業者の間で活用されている。
    このうち、中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業は、これまでに実施した4回の公募で、東北4県185グループ(2,766者)へ総額2,107億円の支援が決定し、2012年5月には第5次の募集が行われている。同事業は、グループの構成として1者以上の中小企業者を含めることが要件で大企業等の中小企業者以外も構成員となることができること、事業者の被災・流失した所有施設・設備の復旧に活用が可能なこと、補助金交付決定の前に行われた事業に要する経費についても写真や書類等による確認が可能で適正と認められた場合には対象となることなどから好評であり、直近の募集時も依然として予算額を大幅に上回る応募数があると言われる。
    しかしながら、同補助事業は募集年度内の事業着工・完了を原則としているため、現時点で嵩上げの実施・完了時期に関する見通しが全く立っていない地域においては、申請自体を見送っている事業者も少なくないと言われる。また、同様の理由から補助事業の対象として採択された事業者においても、工事に着手できない例も少なくない。
    したがって、同補助事業については、年度内に事業完了が困難な事業者の繰越承認手続きを円滑に行いつつさらなる繰越を柔軟に認めるとともに、今年度以降についても、充実した後継措置の創設を検討すべきである。

  4. 将来の地域経済の中核となる産業の形成に向けた戦略的産業復興政策の策定、産業インフラの整備
    現在、被災地以外の国内の多くの地域が国内外からの企業の誘致活動を積極的に展開している。また、経済のグローバル化の進展や新興国の成長に伴う国境を越えた競争が激化するなか、企業はグローバルな経営戦略の下に国境を越えて活動拠点を選択し、経営資源の最適配分を図っており、これに対応して諸外国・地域も投資誘致措置策の充実等に積極的に取り組んでいる。
    これら国内外との競争に勝ち抜いていくためには、地域の強みと特性を活かした戦略的産業復興政策の早期策定・実施が不可欠であり、企業のスピード感を共有しつつ、そのニーズに則した環境を重点的に整備することが求められる。
    また、今回の震災では多くの産業インフラが被災したため、これらのインフラ整備も喫緊の課題である。とりわけ、電力の安定供給は極めて重要であり、現在最大限の活用が期待されている火力発電の燃料である石炭の輸入拠点の整備も含め、事業活動の安定的かつ効率的な展開を可能とするインフラ整備を図ることが求められている。

  5. 復興特区制度の積極的活用
    復興特区制度は、被災自治体が作成する計画に基づき、規制・手続の特例や税制上の特例等を講じることにより被災地域の復興を支援する制度として導入され、規制・手続、税制上の特例措置等を内容とする復興推進計画の申請・認定も進んでいる(6月26日現在認定16件)。
    このうち、認定された計画に多く含まれる税制上の特例措置については、その適用を受けるためには、「産業集積の形成及び活性化を図ることを通じて東日本大震災により多数の被災者が離職を余儀なくされ、又は生産活動の基盤に著しい被害を受けた地域における雇用機会の確保に寄与する事業」(東日本大震災復興特別区域法第2条第3項第2号)等であることが求められている#12
    このため、復興特区の申請においては、これらを明らかにするために資料や説明が求められるなどマンパワー不足に悩む被災自治体の負担になっているとの指摘もある。また、被災自治体等からは、例えば上記の税制上の特例措置を受けるための地域や事業の要件等に関し、より一層の柔軟な運用を求める声もある。例えば、復興推進事業が、津波被害を受けた沿岸部等の雇用等被害地域を含む市町村の区域内においては実施されないものの、内陸部等でも「日常的な取引関係がある、または取引の予定があり、雇用創出・拡大が見込まれる」地域等で実施される場合、特別償却・税額控除等の特例措置を受けることができるが、その対象業種について、引き続き柔軟に認めていくことが期待される。併せて、「国と地方の協議会」等において特例措置の追加・拡充に関する要望が寄せられた際には、被災自治体の視点にたって調整が進められるよう積極的な取り組みを求めたい。
    また、復興交付金制度については、被災自治体の復興地域づくりに必要なハード事業を幅広く一括化(基幹事業:5省40事業)するとともに、基幹事業と関連し、復興のためのハード・ソフト事業を実施可能とする使途の緩やかな資金(効果促進事業)を確保しており、すでに第1回(2012年3月2日、事業費3,054.9億円、国費2,510.2億円)、第2回(2012年5月25日、事業費3,165.9億円、国費2,611.9億円)の交付可能額の通知が行われ、6月26日までに第3回事業計画の提出がなされたところである。この間、市町村等からの指摘等も踏まえ、書類の簡素化や交付決定前着手の特例創設等の見直しが行われるとともに、第2回の交付決定通知では、被災者の生活再建のために速やかな対応が必要となる災害公営住宅整備事業や防災集団移転促進事業等への手厚い配分のほか、防災集団移転促進事業や都市再生区画整理事業等5基幹事業費の配分額の20%を一括配分するなど、市町村の幅広いニーズに対応するための措置が講じられている#13
    一方で、被災自治体からは、災害復旧事業や海岸事業として行われ、県レベルでの統一的整備が進められている河川の水門や堤防、海岸、港湾、漁港の防潮堤等を基幹事業に追加するとともに、効果促進事業等については、基幹事業に関連し復興に資するものであれば幅広く対象にするなど制度の柔軟な運用を図ることが要望されている#14。これらは企業にとっては事業展開に不可欠なインフラ整備であり、加えて、企業からも、ICTを活用して自治体からの情報を全国に離散する住民に届けたり、住民同士のコミュニケーションを促進する等のサービスや、人材育成・教育、観光等に係る事業にも交付を認めるよう求める声が寄せられている。
    復興交付金は、被災自治体の地域づくりに重要な役割を果たす要となる制度であり、関係者の期待や関心も極めて高いことから、政府においては、今後とも被災自治体等の関係者の要望も踏まえつつ、復興交付金事業等(基幹事業・効果促進事業等)の対象事業の拡大や適用の柔軟化等を講じていくべきである。

(2)水産業・水産加工業

全国屈指の豊かな漁場である三陸沿岸部を中心に甚大な津波被害を受けたことにより、水産関係の被害額は1兆円を超えている。漁船は89%、一部でも水産物の陸揚げが可能な漁港は97%、水揚げは69%まで回復している一方で、水産加工施設の復旧は55%に止まっており、復旧の遅れが否めない。

  1. 基幹産業としての復旧・復興の加速
    被災地域における基幹産業として、水産業・水産加工業の早期復旧は被災地域の経済の立て直しにとって極めて重要である。そのためには、漁港・港湾や防潮堤等の整備、沿岸部の対象区画の嵩上げを迅速に進める必要がある。
    また、水産加工施設については、国は2015年度末までに再開希望者全員の施設を復旧・復興することを目指しているが、震災前は被災地域の水揚げの約9割は加工用として利用されていたことを考慮すると、冷凍・冷蔵施設を含む水産加工施設の復旧は急務である。
    このため、中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業が水産加工業者を中心に被災した事業者の間で活用されているが、例えば、施設・設備の復旧に事業用地全体の嵩上げが必要な場合であっても、用地整備費としては、加工施設等(工場部分)の嵩上げしか補助対象として認められていない。
    したがって、III.2.(1)3.で指摘した、繰越の柔軟化や後継措置の創設とともに、その使途についても極力柔軟に取り扱うことが求められる。

  2. 水産業集積地域、漁業拠点の集約・再編
    昨年6月に策定された「水産復興マスタープラン」では、漁港間で機能分担を図りつつ、地域一体として必要な機能を早期に確保する目的で、地域水産物の流通拠点である市場施設、養殖関連施設等の集約・強化を図るとされている。また、水産加工・流通業等の本格復興にあたっては、(1)地元自治体による地盤整備と水産関連事業の再編立地を組み合わせた水産加工・流通業の集積化・団地化、(2)水産加工業・製氷業・冷凍冷蔵庫業等の水産関連産業と漁業者団体との連携・協力による、地域水産業の一体的再生に資する施設整備、(3)企業同士による事業協同組合の設立等を通じた新たな共同利用施設の整備等の取り組みを推進することが謳われている。今後も被災地域経済を牽引していく水産業・水産加工業の競争力強化に向け、集約化・再編に向けた具体的な取り組みを積極的に推進していくことが必要である。

(3)農業

被災地域は全国でも有数の農業地帯であり、津波による広大な農地の被災はじめ、被害額は9500億円近くにも上る。主要な排水機場は100%、農業集落排水施設は89%と、応急対応を含め復旧が進みつつあるものの、農地、農業経営体はそれぞれ39%、40%と、依然再開の遅れが目立っている。

  1. 基幹産業としての復旧・復興の加速(用排水施設、除塩、基盤整備等)
    津波被害を受けた農地の半数は、除塩作業に加え、ヘドロの除去や地盤沈下への対応等を要する農地であり、その復旧には技術的要因からも時間を要している。「農業・農村復興マスタープラン」では、可能な限り農地として利用できるよう復旧することを農地の復旧・整備の基本方針としており、おおむね3年間での津波被災農地の復旧を目指している。早期の営農再開に向けて、がれき・ヘドロの除去、除塩やけい畔の修復はじめ、農業生産基盤整備に引き続き全力をあげて取り組むことが肝要である。

  2. 農地の集約化・経営の大規模化等
    政府は「我が国の食と農林漁業の再生のための基本方針・行動計画(2011年10月25日、食と農林漁業の再生推進本部決定)」をとりまとめ、農地集積の推進や高付加価値化の推進に取り組んでいる。とりわけ農地の集積による経営規模の拡大については、2016年までに、平地で20~30ヘクタール規模の経営体が太宗を占める構造を目指すとの数値目標を掲げ、現在、地域農業のマスタープランである「人・農地プラン」の策定を推進するとともに、「人・農地プラン」に位置づけられた際の各種支援措置(「青年就農給付金」、「農地集積協力金」、「スーパーL資金の当初5年間無利子化」等)を設けている。
    被災地域では、震災後に被災地各地で組織された「地域農業復興組合」の活動を通じて、各地域で今後の農業の在り方について話し合いが進んでいる。また、津波被災市町村においては、集落・地域レベルでの話し合いに基づき、地域の中心となる経営体、そこへの農地集積、今後の地域農業のあり方等を定めた「経営再開マスタープラン」(「人・農地プラン」の被災地版)の作成推進と支援策が行われている。
    これらの取り組みを着実に実施すること等を通じて、被災地の農業が全国に先駆けて上記「基本方針・行動計画」の目指す姿を実現し、わが国の食料基地として力強く復興することを強く期待している。

  3. 農商工連携・6次産業化、輸出促進等
    同時に、農商工連携や6次産業化の推進、さらには輸出促進等の取り組み強化により、効率的で収益性の高い農業経営の実現も不可欠である。先端技術の活用促進等の農商工連携に資する支援策を拡充するとともに、産業連携ネットワ-クや農林漁業成長産業化ファンドの活用等を積極的に推進すべきである。
    例えば、「地域新成長産業創出促進事業費補助金(先端農業産業化システム実証事業)」「食料生産地域再生のための先端技術展開事業」等については、企業の取り組みを後押しする支援策のひとつであり、企業の関心と期待も高いものがある。一部の事業では当初予定していた農用地面積が確保できないとの指摘もあり、事業の確実な実施に向けた農用地の確保等も含めきめ細かい支援を要望したい。
    また、農産物の輸出促進に関しては、福島第一原子力発電所の事故を受け、諸外国からは日本産の農林水産物等の食品に対する輸入規制措置が講じられ、産地の証明や放射性物質に関する検査証明等が求められている。このうち、風評被害に相当する部分については正確な情報提供に引き続き取り組むとともに、輸出相手国との協議等を通じた輸入規制の緩和等を確保するなど、国はより積極的に輸出促進に向けた環境整備に取り組むべきである。

(4)商工業・観光業

発災直後の2011年3月時点で、前月比35.1%と大幅に落ち込んだ被災地域の鉱工業生産は、工場の再開やサプライチェーンの回復が進むにつれ持ち直し、鉱工業生産指数(確報値、季節調整済)は、97.5(2011年2月)から94.9(2012年4月)にまで回復しているが、水産加工業等の食料品製造が大きな比重を占めている宮城県では相対的に回復の遅れが見られる#15
また、被害の大きかった沿岸部においては、鉄鋼、製紙、非鉄金属、セメント、食品等の大手企業の工場が甚大な被害からの復旧が進み順次生産再開している一方で、沿岸部の中小企業は再開に時間がかかっており、これらの事業の再建・再開が課題となっている#16
観光業に関しては、宿泊施設や交通インフラ等の被災にとどまらず、福島第一原子力発電所事故による風評被害等の影響により、修学旅行はじめ団体客の受け入れ低迷等が生じており、被災地域の観光業は依然厳しい状況にある。

  1. 地場中小企業等の復旧・復興
    地場中小企業の事業再開が遅れている岩手県の陸前高田市、大槌町、山田町、宮城県の石巻市、南三陸町、女川町等では、その事業所の多くは、津波浸水区域内に立地しており#17、その遅れの共通の要因は、被害が甚大であること、堤防や土地の嵩上げの計画が未確定であること、地域の土地利用計画が確定していないこと、計画の実施に期間を要することなどが挙げられている。
    したがって、これらの早期の復旧・復興を図るためには、III.2.(1)2.で指摘した土地利用計画の早期策定・実施を図るとともに、同3.で指摘した中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業の運用柔軟化や充実した後継措置の創設等を進めていくべきである。

  2. 企業立地(新規・設備拡張投資)の促進
    被災地域において、将来の地域経済の中核となる産業の形成に向けて重要となるのは、すでに雇用を生み出している企業の事業継続と設備拡張投資を促進するとともに、新たな企業・事業の誘致による企業立地を促進することである。
    このためには、例えば、製造業が「ものづくり拠点」としての機能を維持・強化していくために重要視している、質と量の両面での技術・技能人材の確保、強い技術力を持つ協力企業の存在、そして他拠点・協力企業・顧客とを繋ぐインフラ等について、III.2.(1)2.で指摘した土地利用計画の早期具体化による用地確保に加え、被災自治体が広域的な連携も図りながら、これらの環境整備を戦略的かつ重点的に進めていく必要があり、これらの取り組みを国も強力に支援していくべきである。併せて、スマート・コミュニティーはじめICTを活用した各種事業や再生可能エネルギー事業等の企業立地を促進するため規制改革や税制・財政上の支援措置も充実させていく必要がある。
    この点に関し、復興特区法において、地域の雇用に大きな被害が生じた地域の雇用機会の確保に寄与する事業を行う法人を対象として、税制上の特例措置が講じられているが、そのうち、法人税の5年間免除措置を受けるためには、上記の事業「のみ」を実施する法人で計画の認定の日以後に設置されたものが、雇用等被害地域を含む市町村に本店又は主たる事務所を有する法人であること#18、とされており、制度の活用が容易でないとの指摘もある。企業立地促進のためのこれら要件の緩和やその他の税制上の特例措置を含めた適用期間の延長等も検討を進めるべきである。

  3. 被災地域における再建・新規工場等事業用資産に対する国の支援策等
    被災地域では、今回の地震・津波で被災した事業用の物件について、防潮堤の整備等減災に資する一定の措置が講じられていないといったリスク実態に鑑み、民間保険会社による地震保険や海外の再保険会社による地震リスクの引き受けに支障が生じており、これが被災地域における事業の再建や新規事業の展開・資金調達等に支障をきたしているとの指摘がある。
    したがって、被災地域におけるこれらの支障に対する措置として、資金調達等を円滑に行えるよう、国等による保証制度を検討すべきである。

  4. 観光資源・施設の復旧・再生、情報発信等
    被災地域の観光産業の活性化のため、広域連携と予算確保による観光振興体制を強化すべきである。具体的には、東北観光推進機構等を積極的に活用し、東北全体での底上げという視点を常に意識した取り組みを推進すべきである。
    また、規制緩和や特例の創設による観光客誘致も有効である。例えば、今年7月1日から十分な経済力を有する中国人個人観光客に対する査証発給要件が緩和された。現在、東北では被災3県(岩手、宮城、福島)のみに限定されている数次査証対象地域を東北6県に拡大することにより、観光客誘致の機会拡大を図るべきである。また、甚大な被害を受けた沿岸部を中心に、震災を風化させないための新たな形の観光の可能性に期待が高まっており、こうしたニーズに応えるため、第3種旅行業者の要件緩和#19等を通じて、宿泊施設、地域の観光団体、NPO法人等の着地型旅行商品の企画実施を容易にすることも一案である。

IV.おわりに

1.経団連の取り組み

冒頭の指摘の通り、経団連会員企業は発災直後より、被災者の生活ならびに被災地域の産業・経済の一刻も早い復旧・復興に向けて取り組んできた。特に、被災者の心情に根ざしたニーズを把握したうえでの支援を心掛け、義援金・寄附金、各種救援物資の拠出、被災地支援に携わるNPO・ボランティア等への協力等広範囲な分野で支援活動を行っている。経団連として、引き続きボランティア活動等の支援活動とともに、被災地域における事業の継続・拡大、新規投資の促進、被災地域企業との取引の拡大に向け、全会員・組織をあげた取り組みを継続していく所存である。
また、被災地域への内外企業による事業展開を促進していくには、被災地域の投資環境や復興状況等に関する正確な情報の把握が不可欠であることに加えて、被災地域における風評被害の払拭も産業振興に向けた必要条件となることからも、経団連主催の各種会合や国際会議・ミッション等も活用しながら、これらの国内外への情報発信に貢献していきたい。

2.国民全体での被災地の支援、首都直下型地震等への備え

被災地域の一日も早い生活再建と産業の復興のためには、政治の力強いリーダーシップの下で、国、自治体、産業界他の関係者、そして国民全員が一丸となった国をあげた取り組みが必要であり、国民全体で被災地域の復旧・復興の正しい現状を把握して自ら可能な取り組みを強化していかねばならない。
また、今回の経験・教訓を踏まえて、首都直下型地震等懸念される新たな災害への備えに国を挙げて取り組む必要がある。その際には、平時の枠組みを前提とするのではなく、非常事態への迅速な対応が可能となるような体制・枠組みを検討し構築すべきである。併せて、自治体機能の強化や広域行政の展開等の観点からも、道州制の早期実現も重要である。

以上

  1. 全国知事会「復興庁に対する要望」(2012年6月19日、平野復興大臣に提出)。
  2. 全国知事会「復興庁に対する要望」(2012年6月19日、平野復興大臣に提出)。
  3. 通常、災害廃棄物(一般廃棄物)を産業廃棄物最終処分場において埋立処分する場合、改めて一般廃棄物処理施設の設置についての都道府県知事の許可が必要であるが、コンクリートくず等の災害廃棄物を安定型最終処分場において処理する場合の手続の簡素化のための措置では、これを届出で足りることとしている。
  4. 環境省では、「東日本大震災からの復旧復興のための公共工事における災害廃棄物由来の再生資材の活用について(通知)」(環廃対発第 120525001号・環廃産発第120525001号 2012年5月25日)を発出し、東日本大震災により発生した津波堆積物、ガラスくず、陶磁器くず(瓦くず、れんがくずを含む。)、又は不燃混合物の細粒分(ふるい下)に由来する再生資材のうち、(1)災害廃棄物を分別し、又は中間処理したものであること、(2)他の再生資材と同様に、有害物質を含まないものであること、(3)生活環境保全上の支障(飛散流出・水質汚濁・ガスの発生等)を生じるおそれがないこと、(4)復旧復興のための公共工事において再生資材として確実に活用されること等の要件を全て満たすことを、県市等が確認したものについては、廃棄物に該当しないものであること(廃棄物処理法の適用を受けない)を明らかにしている。
    また、国土交通省では、公園緑地の整備や宅地造成盛土への災害廃棄物の活用に向けて、『東日本大震災からの復興に係る公園緑地整備に関する技術的指針』及び『迅速な復旧・復興に資する再生資材の宅地造成盛土への活用に向けた基本的考え方』(2012年3月27日)を公表している。
  5. 今回の大震災による廃棄物は、商業ビルよりも家屋由来のがれきが多く、また津波被害により海水を大量に含んでいるなどのため、災害廃棄物の破砕・選別等業務を遂行していく過程で、有機物と無機物の選別が困難な不燃系混合物が高い割合で発生していると言われる。現行の廃棄物処理では、僅少であっても木くず等有機物を含有していると管理型処分場での処分が求められるため、これを再生利用をしても「不法投棄扱い」となるとの指摘がある。
  6. 被災市町村が災害廃棄物処理を委託する場合における処理の再委託の特例措置では、通常、市町村が一般廃棄物の処理を委託する場合に禁止されている処理の再委託を認めたものであるが、再々委託は禁止されており、広域処理を受託した企業が改めて分別・破砕作業を別途専業者に委託する場合、事業体である市町村から見れば再々委託となり広域処理の妨げとなっているとの指摘がある。
  7. 2011年度の入札不調発生割合(土木事)は、岩手県10%、宮城県28%、福島県14%、仙台市46%。
  8. 仙台市では「住宅再建支援借地料免除制度」として、移転先の土地を市から借地して住宅再建する場合に、被災前後の土地価格差額と流失建物等の移転費用相当額の合算相当分の期間の借地料を免除する市独自の支援措置を公表している等。
  9. 1986年に発出された自治事務次官通知において、「公用・公共用施設の建設等は、本来、普通地方公共団体の責任と負担において行われるべきものであることにかんがみ」、これを主たる目的とする信託を行ってはならないとしていたが、総務省では2012年5月にこれを緩和し、収益施設を併設する場合には、公用・公共用施設の建設等が主たる目的であっても信託が可能となった。
  10. 「復旧・復興事業の施工確保に関する連絡協議会」は、国(復興庁、国土交通省、農林水産省、厚生労働省、環境省)、地方公共団体(岩手県、宮城県、福島県、仙台市)、関係業界団体(日本建設業連合会、全国建設業協会、建設産業専門団体連合会、全国鉄筋工事業協会、日本建設大工工事業協会、日本建設躯体工事業団体連合会)より構成される。2011年12月27日に第1回会合開催。
  11. 岩手県の各ハローワーク別の有効求人倍率(原数値)では、久慈0.76、宮古0.70、大船渡(陸前高田も管轄)0.82、宮城県各ハローワーク別では、石巻0.76、塩釜0.68、気仙沼0.65となっている。
  12. 具体的には、まず、「東日本大震災により多数の被災者が離職を余儀なくされ、又は生産活動の基盤に著しい被害を受けた地域」(雇用等被害地域)とは、「東日本大震災による被害を受けた地域」(地震・津波により直接の被害が生じた地域等)であり、かつ、「多数の被災者が離職を余儀なくされ、又はその生産活動の基盤に著しい被害を受けた地域」(事業主都合離職者数、失業率若しくは有効求人倍率等の雇用に係る指標が東日本大震災以降景気循環による影響の水準を超えて悪化した地域等)であることが求められ、「地域における雇用機会の確保に寄与する事業」とは、「復興産業集積区域内において実施され、かつ、雇用等被害地域を含む市町村の区域内において実施される場合」であるか、「雇用等被害地域を含む市町村の区域内においては実施されないが、復興産業集積区域内において実施され、かつ、雇用等被害地域から通勤圏内において実施される場合又は日常的な取引関係の発生が見込まれる等当該事業の経済的波及効果により雇用等被害地域において新規投資や雇用機会の創出が見込まれる場合」などとされている(「復興特別区域基本方針」)。
  13. 一部の面的整備事業(防災集団移転促進事業、都市再生区画整理事業、市街地再開発事業、津波復興拠点整備事業、漁業集落防災機能強化事業)については、配分した事業費の20%を一括配分。一定の事業の実施については、事前の計画提出・承認を不要とした。
  14. 全国知事会「復興庁に対する要望」(2012年6月19日、平野復興大臣に提出)。
  15. 県別では、岩手県92.8(被災前99.1)、宮城県81.1(被災前96.3)、福島県90.9(被災前95.7)となり、宮城県において回復が遅れている。宮城県の製造業の業種別ウエイトでは、電子部品・デバイスと食料品が大きな比率を占めるが、2012年4月分の指数では、電子部品・デバイスの指数が99.7に対し、食料品が66.0と大きく遅れており、食料品製造の37%を占める水産加工の回復の遅れがその原因と思われる。
  16. 東北経済産業局等が被災地域にある商工会議所・商工会の会員事業者の復旧・復興状況を聴取したところ、岩手県では、久慈市、宮古市等で事業再開が8割~9割と進んでいるのに対し、陸前高田市が3.5割、山田町が5割、大槌町が6割などと遅れている。宮城県では、多くの地域で8割以上が事業を再開しているが、石巻市は約7割、南三陸町は約5割、女川町は3割程度の再開にとどまるなど、地域により復旧・復興の状況に差異がみられる。
  17. 浸水区域内に立地している事業所数とその全体の比率は、岩手県では、陸前高田市(事業所数1,280、99.8%)、大槌町(事業所数777、98.0%)、山田町(事業所数804、88.4%)、宮城県では、石巻市(事業所数7,865、86.7%)、南三陸町(事業所数887、98.3%)、女川町(事業所数651、99.2%)となっている。
  18. 復興特区法40条に、「認定復興推進計画に定められた第二条第三項第二号イに掲げる事業のみを実施する法人であって、第四条第九項の規定による当該認定復興推進計画の認定の日以後に設立されたもの(当該認定復興推進計画に定められた復興産業集積区域(その全部又は一部が、その全部又は一部の区域が同号イに規定する地域である市町村の区域に含まれるものに限る。)の区域内に本店又は主たる事務所を有する法人であることその他の内閣府令で定める要件に該当するものとして当該認定復興推進計画を作成した認定地方公共団体が指定するものに限る。次項において「指定法人」という。)については、震災特例法で定めるところにより、課税の特例の適用があるものとする」と規定されている。
  19. 宿泊業者や地域のNPO法人等が着地型旅行を企画実施するために第3種旅行業登録を行う場合、国内旅行業務取扱管理者の選任、営業保証金300万円の供託との要件を満たすことが求められている。

出典:復興庁、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省等作成資料および自治体統計資料等

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