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Policy(提言・報告書) 科学技術、情報通信、知財政策 日米防衛産業協力に関する共同声明

2012年7月17日
一般社団法人 日本経済団体連合会 防衛生産委員会
在日米国商工会議所 航空宇宙防衛産業委員会

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1.はじめに

日米両国は、日米安全保障条約に基づき、強固な安全保障関係を築いてきたが、防衛装備品の開発・生産分野においても協力を進めるための環境がいま整いつつある。東日本大震災からの復旧にあたり「トモダチ」作戦における日米の協力は日米同盟の強固さを実証した。また、2011年6月の2+2(日米安全保障協議委員会)共同声明は日米間のより緊密な装備・技術協力が強固な同盟の基礎となることを確認した。両国は、予算の制約を認識しつつ、防衛ケイパビリティの継続的向上の必要性を感じており、互いの技術力の相互活用によるケイパビリティの向上のため、安全保障上の観点も含めた輸出管理の見直しを進めている。こうした努力を積み重ねていくことで、日米の防衛産業間の協力や連携の強化に資することが期待できる。なかでも2011年末に日本で武器輸出三原則等の運用に関して見直しがおこなわれたことは、両国防衛産業間の連携を進める上で大きな意義を持つものであった。

こうした環境のもと、日米の防衛産業界を代表する経団連防衛生産委員会と在日米国商工会議所航空宇宙防衛産業委員会の代表は、両国の防衛産業協力の強化・向上に向けて、2011年末から検討を行ってきた。武器輸出三原則等の運用に関する見直しも行われたことから、日米防衛産業協力にとって大きな前進である武器輸出三原則等の運用見直しを前提に、防衛産業からの視点で両国の協力強化に向けた課題を本共同声明にまとめることとした。本共同声明により、二国間の防衛産業協力に関する展望について認識が深まり、両国の防衛ケイパビリティ向上と効率的な装備品取得を通じて、日米間のより緊密な装備・技術面の連携に貢献することを期待する。われわれは両国の利益のため、こうした目的に向かって不断の努力を重ねていきたい。

2.経緯

経団連防衛生産委員会は、日本の防衛生産・技術基盤の強化に向けて、これまで長く活動を続けてきた。具体的には、内外の防衛産業の実態調査や武器輸出管理や契約制度、その他関連する課題についての調査・政策提言の公表などを行ってきた。一方、在日米国商工会議所航空宇宙防衛産業委員会は、両国が高性能で安価な防衛装備品の開発・生産を行えるよう、日米の産業間の技術協力の強化に向けて、これまで長く努力してきた。

日本が2010年12月に決定した防衛大綱は、国際共同開発・生産への参画により装備品の高性能化やコストの高騰に対応していくという方向性を示した。1年後の2011年12月27日に政府は「防衛装備品等の海外移転に関する基準」を発表した。本基準では、武器輸出三原則等に関して包括的な例外化措置を実施することとした。具体的にはこれまで米国との共同研究やBMD共同開発・生産等に限られていた防衛産業協力を拡大し、わが国の安全保障に資する防衛装備品等の国際共同開発・生産に関する案件について、 (1)わが国との間で安全保障面での協力関係があり、 (2)その国との共同開発・生産がわが国の安全保障に資する場合に実施することとしている。また、国際共同開発・生産を実施する前提は、 (3)当該案件への参加国による、目的外使用・第三国移転について、わが国政府による事前同意を義務付けるなど厳格な管理が行われることである。

経団連防衛生産委員会と在日米国商工会議所航空宇宙防衛産業委員会は、今回の見直しを画期的なものであると評価している。真の防衛生産・技術基盤の強化に向けて、具体的な制度設計を今後進めるため、次のとおり国際共同開発・生産の形態を4つのモデルに分類・整理して課題を検討する。

3.日米防衛産業協力の枠組み

(1) 共同開発・生産の重要性

日米防衛産業の両委員会は、政府間と同様に両国産業間における国際共同開発・生産等、装備・技術協力の重要性を認識している。この具体的な形態を考えてみると、産業間が実施する将来の基礎技術に関する予備的共同研究から、具体的な防衛システム・装備の開発・生産にいたるまで様々なタイプの協力が考えられる。日米の防衛協力についての広範な可能性の見地から、日米両委員会は、防衛産業協力を進めるにあたり、両国政府・産業界にとって重要な展望・課題を洗い出すための4つの基本的なモデルを想定した。われわれは二国間の防衛産業協力の向上とそのための政策を実施するにあたって、この4つのモデルを活用することを提案する。

(モデルA)

日米のBMD/SM-3共同開発プログラムのような、両政府間による正式な防衛装備品の共同開発・生産のプログラム。開発・生産された装備品は両国で採用されるのが前提。政府間で正式の取り決めが行われ、これに従ってプログラムが進められる。これが防衛装備・技術協力の最終的な目標形態と考えられる。

(モデルB)

将来の防衛技術に関する予備的な先行研究のための日米産業界の協力。
当該研究成果が実際に装備品開発に活用されるかどうかは未定であるが、これが発展してモデルCやモデルAという共同開発・生産形態に発展することが期待される。このモデルは契約関係が民間企業間のものに止まるため、政府間の取決めは事前には存在しない。

(モデルC)

いずれか一方の国の政府のプログラムを支援するための防衛産業協力。
例えば米政府のプログラムに参加している米企業に日本企業が部品を供給するといった契約。この場合も政府間の取決めは事前には存在しない。

(モデルD)

ライセンサー国からの要請に応じて、ライセンスを受けた国が防衛装備品を提供するケース。ライセンサー国で既に生産ラインを閉鎖している場合などにこうしたニーズがある。ライセンス生産の場合には事前に政府間で取り決めが行われる。

いずれの4つのモデルも、両国の防衛生産・技術基盤の強化、コストの分担を通じて防衛産業の競争力強化に貢献するものである。

共同開発・生産に関する4つのモデル
MOU(Memorandum of Understanding):覚書

(2) 共同開発・生産に対する課題

各々のモデルに対し、国際共同開発・生産を実際に進めるにあたって、今回の包括的例外化の基準に関して、政府による政策が必要であると考える。

  1. 目的外使用と第三国移転に関する厳格な規制
    • A~Dのいずれのケースでも移転された日本の装備品・技術に関する厳格な管理、目的外使用と第三国移転の際の日本政府による事前同意が必要となるので、(i)日本が輸出した防衛装備品並びに関連技術に対する外国政府による厳格な管理、目的外使用と第三国移転の際の日本の事前同意取得のスキーム(米国内に関しては、技術輸出政策は既に確立している)、(ii)政府担当部局と責任範囲の明確化、が必要となろう。
    • 特にモデルBとCについては民間の取引であるため政府間の取決めが存在しないことから、目的外使用と第三国移転の際の日本政府による事前同意を求めるためには、政府間で交換公文的なものが必要になる可能性がある。
  2. 日本の安全保障に資する防衛装備品
    • モデルBとCについては、自衛隊による当該装備品や技術の採用が未定であるので、「わが国の安全保障に資する」という包括的例外化の条件をクリアできるかどうかが課題である。
    • したがって、自衛隊の採否が決定されていなくても、その可能性をもとに判断する、あるいは同盟国や国際社会の安全保障に資することが、日本の安全保障に資するという広い解釈も必要と思われる。

上記の課題が解決されることを前提として、両産業界は産業界が取り扱うことができる将来技術や部品/サブシステムレベルの協力の可能性を検討していく所存である。しかし、防衛装備品自体の輸出は、目的として防衛産業基盤の強化に加えて、国家安全保障政策や国際的な安全保障への貢献、さらに外交的な見地も十分考慮して、政府による明確な方針のもとに推進されるべきものであると考える。産業界が行う協力は、政府が公式に共同開発プロジェクトを立ち上げる場合(モデルA)やライセンス生産(モデルD)形態以外では、武器そのものの開発ではなく、自ずと将来技術研究(モデルB)や部品/サブシステムレベル(モデルC)に止まらざるを得ないと考えられる。なお、武器技術管理の重要性の観点から、すべてのモデルで政府による管理が求められる。

防衛生産・技術基盤戦略のなかで、装備品の取得における国産や国際共同開発・生産に関する方針が示されることを期待する。われわれ日米防衛産業も情報保全と自らの競争力強化に努めつつ、防衛生産・技術基盤の強化のため、国際共同開発・生産の実現に向けて、両政府の指針に基づき協力を行っていく所存である。

以上

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