我々経団連は、IASB及びFASBのMOU項目「顧客との契約から生じる収益」に関しては、2011年の改訂公開草案が公表された際にコメントを提出しており、日本で行われたアウトリーチ活動においても、ASBJの協力の下、経済界からも多数参加させて頂き、意見を述べさせて頂いた。結果として、再公開草案後のIASB及びFASBの審議において、再公開草案において経団連が指摘した内容が一定程度、IASB・FASBの暫定決定に反映され、基準が改善されつつあることには、感謝申し上げたい。
しかしながら、2013年2月にIASBとFASBとの間で暫定決定された、「開示」及び「経過措置」については、我々としては、未だ、開示内容へのニーズ、作成コスト、実行可能性の観点から、受け入れ難い内容や不明確な点が幾つか残っていると考えている。
日本では、今後IFRSを任意適用する企業が増えていく見通しである。このような中で、本基準が、日本におけるIFRS任意適用拡大の妨げとなることのないよう、経団連の意見を改めてお伝えしたい。
[収益の分解]
「収益の分解情報」の開示内容については、改訂公開草案より、一定程度改善されたと考えるが、尚、以下の点を明確化して頂きたい。
本暫定合意に至る議論の経緯から鑑みるに、今回の暫定合意における「収益の分解」情報の開示の範囲は、企業が経営管理上把握している情報のみであり、セグメント情報とは異なった分類区分の「収益の分解」情報や、経営者が管理していないほど詳細な「収益の分解」情報を求めるものではない点を明確にして頂きたい。
開示内容は、経営管理上把握している情報のうち、経営者自身が判断するものであり、結果として、セグメント情報で十分となる場合もあるという点を明確化して頂きたい。
「収益の分解」情報が、セグメント情報と異なる情報である場合に、「セグメント情報における開示と、収益の分解情報との関連を説明」することを追加的に要求しているが、「収益の分解」情報は、セグメント情報と同じ分類区分の情報をベースとした情報であるので、その関連性を定性的に表現すれば足りることを明確化して頂きたい。
[契約残高の調整表]
再公開草案の提案では、契約残高の調整表を作成することを要求していたが、本暫定決定では、調整表の作成は要しないこととした。この点は、作成者の作業負担に配慮したもので、歓迎したい。
しかし、「契約資産・負債の期首・期末残高」自体が、企業のマネジメント上重要な情報とは考えられず、日本の利用者からも、「有用性の乏しい情報である」との意見を聞いている。作成者・利用者ともに有用性の乏しい情報の開示は不要と考える。
[残存履行義務の分析]
本開示提案は、投資家向けに説明・開示されることの多い「受注残高」が投資家にとって有用な情報である一方、「受注残高」の定義が画一的ではなく、監査を経た情報ではないため、それに替わる開示項目として、「残存履行義務の満期分析」が要求されたという背景がある。
しかしながら、受注残高の情報と、「残存履行義務の満期分析」の情報とでは、情報の質が異なっている。また、経営者が利用していない情報であるので、本データを集計するための開示システムの構築に多額の費用を要する。更に、監査人がこのような将来情報を、適切に監査できるかについても、疑問が残る。
投資家に対しては、企業から、既に、IRやMD&A等のコミュニケーションを通して、必要に応じ、経営者が利用している「受注残高」等の情報を伝えており、経営者が利用していない「残存履行義務の満期分析」の情報を、本件開示のためだけに定義づけた上で、一律的に開示要求することは、企業・投資家の双方にとって、合理的では無い。従って、本開示提案に反対する。
[期中の要求事項]
IASBの暫定決定においては、基本的に、「収益の分解」のみの開示要求としており、「期中の要求事項」を絞って頂いたことは評価したい。しかしながら、そもそも、「収益の分解」情報を含めた全ての期中開示の内容は、当然に、企業が、IAS34号に基づいて判断すべきものであり、IAS34号の考え方を逸脱して、個別の開示を要請することは適切ではない。IAS34号の結果的修正(consequential amendments to IAS34)は不要である。
今回の暫定合意では、IASBとFASBとで合意に至らず、FASBにおいては、年度と同じレベルの期中開示を求めることを要求しており、作成者の意見が聞き入れられておらず、遺憾である。FASBの期中開示要求は過剰であり、作成者のコスト負担を十分に考慮して、抜本的に削減して頂きたい。
[経過措置]
IASBとFASBとの暫定合意において、遡及適用を行う場合の、「実務上の便宜」が拡大されたこと、また、「代替的な経過措置」も選択できることとされたことについて、感謝申し上げたい。しかしながら、本基準改訂は、基準の性質上、各表示項目に広範な影響を及ぼすことから、暫定合意の案においても、未だ、従前のガイダンスと新基準との収益の二重管理による実務負荷増大の懸念は拭えない。利用者の便益と作成者のコストのバランスをとるために、以下の修正をお願いしたい。
遡及適用を行う場合、実務上の便宜(a)を用いたとしても、適用開始日を跨ぐ全ての契約について、修正再表示(restate)が必要とされているが、修正再表示の対象を、財務諸表に著しい影響がある契約に限定して頂きたい。
「代替的な経過措置」を採用した場合、適用開始年度において、「当期において新基準を適用することにより影響を受けた財務諸表の各表示項目の金額」を開示しなければならないが、影響を受ける全ての「財務諸表の表示項目」の金額を求めるのではなく、財務諸表における著しい影響の開示を求めることとして頂きたい。
[初度適用]
IFRSの初年度適用企業については、早期適用を禁止すべきではない。この点を明確にして頂きたい。