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Policy(提言・報告書) 経済連携、貿易投資 通商戦略の再構築に関する提言 -グローバルルールづくりを主導する攻めの通商戦略へ-

2013年4月16日
一般社団法人 日本経済団体連合会

はじめに

2011年4月、経団連は「わが国の通商戦略に関する提言」を公表した。同提言では、国内経済・産業基盤の再構築に向けて、東日本大震災の直後ではあるが、わが国が貿易・投資立国としての立場を堅持し、グローバルな事業活動の円滑化を実現すべく、TPP(環太平洋経済連携協定)交渉への参加を含め、主体的に通商戦略を推進する必要性を訴えた。

2年以上に及ぶ国を挙げた議論の結果、去る3月15日、わが国としてTPP交渉への参加の決断が表明されたことは、わが国の経済成長に真剣に取り組む政治の意思の表れであり、そのリーダーシップを高く評価したい。また、貿易・投資立国としてわが国が主体的に通商戦略を推進することの重要性に関する国民的な理解が進展した点も、今回の決断の背景として注目すべき流れである。

しかしながら、TPP交渉への参加決断に遅れをとった間に、わが国を取り巻く国際通商環境は大きく変化している。これまで近隣の国・地域間あるいは二国間の取組みが中心だった自由貿易協定(FTA)#1は、TPPに加え、米EU間のFTAなど「メガFTA」ともいうべき大型の交渉が開始される。また、サービス貿易新協定など分野別の複数国間の貿易協定の締結に向けた動きが活発化している。このように、主要国によるグローバルな貿易・投資ルール作りの主導権争いがますます加速している。

こうした動きの背景には、多角的貿易自由化を担ってきた「ラウンド」による交渉の行き詰まりがある。2011年末、WTO(世界貿易機関)ドーハ・ラウンドの近い将来の妥結は断念された。もはやわが国が、単にWTO加盟国であるというだけで、受動的にグローバルな自由化・ルール作りに参加できる時代は終わった。交渉成果が最恵国待遇により加盟国に均てんされるというWTOの枠組みのもとでの恩恵は、今後の新たな交渉で無条件に期待することはできない。

TPPをはじめ、厳しい複数の大型の通商交渉に直面するわが国は、成長戦略の重要な柱のひとつとして、広域FTAをはじめ様々な枠組みを積極的に活用しつつ、わが国にとって望ましい貿易・投資ルールをグローバルな国際合意として勝ち取っていくとともに、国内の規制・制度改革を推進する攻めの姿勢に転換しなければならない。

以下では、こうした2011年4月以降の国際通商環境の変化を踏まえ、わが国がとるべき新たな通商戦略について提言する。

1.基本認識

(1)現状と課題

  1. ドーハ・ラウンドの頓挫とメガFTAの加速
    2001年に開始されたWTOドーハ・ラウンド交渉は、2008年に妥結目前にまで至りながらも、先進国と途上国の主張の隔たりを解消できず、2011年末、近い将来の妥結を断念した。将来のラウンド妥結に向けた取組みは続けられているが、新興国の台頭や先進国の経済の低迷も背景に、国際合意形成のパワーバランスが変化する中、現時点において、先進国と途上国を含むグローバルな規模で通商ルールを改訂・形成することは極めて困難となっている。
    1995年の設立以来改訂されていないWTOの通商ルールがビジネスの変化に対応できない部分が拡大する中、TPP、米EU間のFTA(環大西洋貿易投資パートナーシップ、TTIP; Transatlantic Trade and Investment Partnership)などのFTA、サービス貿易新協定など、ドーハ・ラウンドとは別の通商ルール作りが加速している。
    そうした動きの中、わが国は、21世紀のグローバル通商秩序の雛型を形成するともいわれるTPP交渉への参加の遅れにより、新たなビジネスに対応した貿易・投資のルール作りに大幅に出遅れた感は否めない。
    他方、金融危機を背景として、新興国、途上国を中心に保護主義の動きが高まる中、WTOの多角的自由貿易体制のもとでの既存の通商ルールの遵守を確保していくうえでも、懸念が生じている。

  2. ビジネスにおけるサービスとバリューチェーンの重要性の増大
    この間、グローバルなビジネスは急速かつ大幅に変化を遂げた。経済に占めるサービス分野の比重が高まり、国境を越えた企業活動の実態においては、モノの流れである「サプライチェーン」のみならず、各業務において価値が付加されていく点に着目した「バリューチェーン」#2が重要性を増している。また、クラウドコンピューティングや、多様な端末による複合的なサービスの提供などをはじめ、技術進歩を背景として新たな製品・ビジネスモデルが登場し、グローバルビジネスの前提を大きく変えつつある。その結果、既存の通商ルールが対応できない状況が拡大している。

  3. わが国を拠点とするグローバルビジネス展開の制約
    こうした中でわが国が、新たな通商ルール作りを担う経済連携の取組みで大きく遅れをとった結果、グローバルな市場において、FTAを積極的に進める国との間で、わが国企業の競争条件が劣後する事態が生じている#3。経済連携の遅れにより、わが国企業は、輸出に際し諸外国の企業には課されることのない関税に直面するだけでなく、外国市場において、投資・知的財産権保護等の面において不利益な扱いを受けるなど、グローバルなビジネス展開において、日本を拠点とするサプライチェーン、バリューチェーンの円滑な構築が制約あるいは阻害される状況が生じている。

(2)通商戦略に必要な新たな視点

  1. グローバルサプライチェーン、バリューチェーンの円滑化
    上記の現状と課題を踏まえ、わが国の通商戦略を再構築するうえで必要な視点の第一は、新たなビジネスモデルにも対応した、わが国を含むグローバルなサプライチェーンならびにバリューチェーンの円滑化である。これにより、わが国を拠点とする企業のビジネス環境の改善につながる。
    わが国の貿易を付加価値ベースでみると、依然として中国向けよりも米国向けの輸出が上回っており、このことから、わが国の輸出の多くが、中国等の中間財組立て国を経由して、最終消費地である米国等に到達していることが分かる#4。わが国と中間財の輸入国との二国間のモノの流れのみに着目した関税撤廃だけでは、こうしたグローバルなサプライチェーン、バリューチェーンの全体を円滑化することはできない。二国間FTAには限界があり、広域FTAを重視し、戦略的に取り組む必要がある。
    すなわち、グローバルビジネス全体の円滑化のためには、サプライチェーンならびにバリューチェーンを担う各業務(マネージメント、研究・開発、調達、製造、製品・サービス・コンテンツの販売・供給、知的財産の移転・情報の伝達、人員の移動、資本移転・利益の回収等)を、わが国を含め複数の国の国境を越えて円滑に行えることが重要であり、これに資する新たな通商ルールを構築しなければならない。

  2. 「スパゲティ・ボール現象」への対処
    第二に、既存のFTAに加え、TPP、日EU経済連携協定など、広域かつ大型のFTA交渉が同時並行的に進み、複数の通商ルールが混在する状況、いわゆる「スパゲティ・ボール現象」の拡大が見込まれる中、その弊害に対処することが重要な課題である。そのためには、FTAのルールをWTO協定に整合的なものとし、WTO協定の一部として共通のルールとすることを目指すことが必要となる。

  3. 保護主義抑止に向けたWTO体制の維持・強化
    第三に、自由かつ安定したグローバルビジネス環境を維持していくためには、保護主義の蔓延によってWTOの多角的自由貿易体制自体への信頼が揺らぐことがあってはならない。先進国と途上国の協力のもと、159のWTO加盟国に適用される現行の通商ルールの遵守を確保し、多角的自由貿易体制を維持・強化するための取組みを推進すべきである。

(3)推進すべき通商戦略

以上の視点に基づき、わが国が推進すべき通商戦略は以下の通りである。

  1. 広域FTAの推進(TPP、日中韓、RCEP、日EU)
    第一に、「貿易・投資立国」たるわが国が持続的な経済成長を実現するためには、わが国を拠点に活動する企業のビジネス環境を改善すべく、諸外国との経済連携(FTA)を推進することが喫緊の課題である。アジアを越えて欧米に達するわが国企業のサプライチェーン、バリューチェーンの実態に鑑み、とりわけ、広域のFTA、すなわち、FTAAP(Free Trade Area of Asia-Pacific)構築への道筋としてのTPP、日中韓FTAと東アジア包括的経済連携(RCEP;Regional Comprehensive Economic Partnership)、ならびに、日EU経済連携協定を通じ、わが国を含むグローバルなサプライチェーン、バリューチェーン全体の円滑化を図る必要がある。
    これらの交渉においては、韓国をはじめ日本とビジネスにおいて競合している国々が締結しているFTAに劣後しない内容を確保することはもとより、ビジネスの実態に即した高いレベルの貿易・投資の自由化とルールの形成を実現することが重要である。

  2. 「統一軸」の形成による広域FTA間の調和
    第二に、複数の広域FTAの交渉に同時並行で臨むにあたっては、「スパゲティ・ボール現象」の弊害に対処すべく、わが国が目指す貿易・投資ルールの内容を見据えた「統一軸」を形成し、将来的には、WTO協定の一部として共通の多角的ルールとすることを視野に、それぞれのFTAの枠組みの間で可能な限り調和のとれたルールとすることが重要である。

  3. 分野別協定への積極的取組み(ITA、サービス貿易新協定等)
    第三に、新たなビジネスモデルの実態に即したグローバルな通商ルール作りに向けて、有志国の取組みが進む分野別協定(WTO・ITA:情報技術協定の改定、サービス貿易新協定等)に参加し、積極的に取り組むことが重要である。同時に、可能な限り途上国の関与を促進することにより、グローバルなサプライチェーン、バリューチェーン全体の円滑化を図る必要がある。このような観点から、サービス貿易新協定をはじめ、新たな分野別協定の推進にあたっては、有志国の間の協定が将来的にWTO協定の一部となるよう、WTOの枠組みを基礎として進めるべきである。

  4. WTO機能の活用
    第四に、保護主義の蔓延を抑止し、自由かつ安定したグローバルビジネス環境を維持・構築すべく、WTOの機能を積極的に活用していくべきである。
    WTOの3つの主要な機能((1)ルールの履行監視、(2)紛争解決、(3)ルールの改訂・形成)のうち、ドーハ・ラウンドの停滞にみられるように、ルールの改訂・形成は困難な状況に陥っている。しかし、将来的にWTO協定の一部とすることを視野に、FTA、分野別協定の交渉に臨むなど、WTOのもとでのルール作りに向けた取組みを継続すべきである。
    また、ルールの履行監視、紛争解決に関しては、グローバルなビジネスを支える基盤として有効に機能している。履行監視、紛争解決というWTOの機能を積極的に活用することにより、わが国の国益を守り、多角的自由貿易体制の維持・強化をはかることが重要である。各国の保護主義的措置に対する監視を強化するとともに、わが国としてもルールの違反に対し、紛争解決手続を積極的に利用していくことが求められる。

  5. 投資協定、租税条約、社会保障協定等による補完
    第五に、WTO、FTA、分野別協定のいずれにも含まれていないグローバルビジネスの課題に対処するため、投資協定、租税条約、社会保障協定等、これらの協定を補完する取組みを推進することが不可欠である。また、将来の法的枠組みに発展させることを念頭に、APEC等のもとで、ノンバインディングの協力に基づく取組みを促進することも重要である。

(4)わが国通商戦略推進体制の整備

  1. 政府の体制上の課題
    複数のFTA交渉、分野別協定交渉に臨むわが国にとり、政府一体として戦略的かつ効率的に交渉を推進できる体制を整え、交渉官の質・量の拡充を含めて交渉力を強化することが不可欠である。
    通商交渉は複数の省庁にまたがり、関係部署が極めて多岐にわたるだけでなく、国内の制度と密接に関連しその改革を必要とする内容も含むため、関係省庁間の閣僚・事務レベルの調整だけでは、省庁横断的な戦略の決定・遂行は困難である。また、経済財政諮問会議、産業競争力会議においても、通商戦略全般にわたり、各種交渉の進捗に応じた細部の対応を決定するには限界がある。

  2. 体制の強化策
    そこで、官邸における司令塔機能を強化すべく、内閣には、内閣総理大臣を本部長、新たに任命する「通商担当大臣」(仮称)を本部長代理、外務大臣、財務大臣、農水大臣、経産大臣等の関係閣僚を本部員とする「通商戦略本部」(仮称)を設置する。また、諮問機関として「通商政策諮問会議」(仮称)を設け、経済界、有識者、法曹等をはじめ民間の知見を活かした官民連携を進めるべきである。これらを支えるため、行政内外からの精鋭を集めた直属の事務局組織を設置し、分野横断的に通商政策の遂行を担うべきである。また、産業構造審議会をはじめ、各省庁に設置される各種諮問機関との連携を強化することも重要である。
    通商政策の推進にあたっては、具体的な目標・ロードマップを作成し、複数の交渉において整合性のとれた効果的な対応が可能となるよう、各担当者間で相互に緊密に連携するとともに、官民が一体となってわが国の通商戦略を推進する体制を構築すべきである。

2.多角的ルールの構築を視野に入れたFTAへの取組み

(1)基本的な考え方

米EUがFTA交渉開始に向けて動き出すなど、主要国はFTAによって21世紀のグローバルな通商ルール作りの主導権を握ろうとしている。こうした中で、わが国としても、TPP、日EU経済連携協定をはじめ諸外国とのFTAを推進し、わが国企業が強みを活かせるよう、ルール作りに積極的かつ主体的に参加していくことが不可欠である。

各国がFTAを積極的に進める中、わが国企業は、米欧など重要な市場との間のビジネスにおいて、関税・通商ルールの面で劣後した環境に置かれている。今後のFTAでは、韓国はじめ諸外国に劣後しないレベルの協定を締結することが、克服すべき最低限の課題である。関税撤廃・引下げによって輸出を維持・拡大するとともに、サービス貿易の自由化、投資等のルールの整備等により、わが国の競争力の回復・強化をはかる必要がある。これにより製品・サービスのサプライチェーン、バリューチェーンにおける国内拠点を維持・拡大し、雇用の維持・確保と経済の成長につなげることが可能となる。

こうした観点から、2020年を目途に、成長著しいアジア太平洋地域の自由貿易圏、FTAAP(Free Trade Area of Asia-Pacific)の構築を目指すべきである。そのための道筋として、TPP交渉において主体的にルール作りに関与することを基軸としつつ、RCEP、日中韓FTAを推進する必要がある。同時に、日EU経済連携協定に取り組み、TPP等のルールと整合性をとりつつ、グローバルルールの構築を目指すことが重要である。

(2)TPPへの参加

TPP交渉参加国は、わが国の貿易総額の27.2%#5、直接投資残高の40.5%#6を占めており、TPPへの参加は、韓国はじめ諸外国との競争条件の劣後の解消、通商ルールの整備を通じたわが国の競争力の回復・向上に不可欠である。米国、カナダ、豪州といった資源・食糧の輸出大国を含むTPPは、わが国の資源・エネルギー、食糧の安定供給にも資する。さらに、わが国外交の基軸である日米関係の強化、アジア太平洋地域の政治的安定にとっても重要である。

加えて、これらの経済・政治両面におけるTPP諸国との強固な関係の構築は、わが国がFTA交渉を進めるうえで強力な梃子となり、RCEPやEUとの交渉においても、優位に立つことができる。

TPP交渉参加国は、本年中の妥結を目指しており、わが国の交渉参加は喫緊の課題である。去る2月末の日米首脳会談における共同声明を踏まえ、TPP交渉参加の決断がなされたことは、政治のリーダーシップと交渉力が発揮された結果と評価できる。全てのTPP交渉参加国との間で一刻も早く調整を終え、早期の交渉参加を実現するとともに、交渉を通じて、わが国として必要とする関税撤廃・引下げ、ルールの整備を実現すべきである。

TPP交渉においては、わが国として目指すべき将来のグローバルルールを見据え、ビジネスの実態に即した新たなルールを積極的に提案し、わが国企業が強みを活かせるルールを実現することが必要である。経団連としても今後、必要に応じて関係委員会の下に関心分野別のプロジェクト・チームを設置するなどして検討を深め、具体的提案を行うことによって、交渉プロセスへの関与を強めていく。

なお、現時点でTPPにおいて実現すべきと考える内容については、後述の4.多角的ルールへの発展を視野に入れた分野別「統一軸」ならびに、「わが国の通商戦略に関する提言別添―TPPを通じて実現すべき内容―」(2011年4月19日)#7に詳述している。

(3)RCEP、日中韓FTAの推進

2020年を目途とするアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の完成に向けては、TPPに加え、ASEAN自由貿易地域(AFTA)によるASEANの完全統合(2015年)に併せて、ASEAN+6を母体とするRCEPも推進することが有益である。これにより、アジア全体の貿易投資の活性化、インフラ整備、成長著しい中間所得層のニーズを踏まえた商品提供、環境問題への協力等の実現を目指すことが重要である。

RCEPにおいても、わが国企業のサプライチェーン、バリューチェーンの円滑化に資するよう、可能な限りTPPに劣らない質の高い協定を目指すべきである。具体的には、「実質的全ての」貿易における関税の撤廃・引下げ、ネガティブ・リスト方式による投資・サービス貿易の自由化、知的財産権の保護、ビジネス環境の整備をはじめ広範な内容をカバーし、経済界の意見を十分反映した協定とすべきである。

また、RCEPを実現する上では、ASEAN+6のGDPの7割以上を占める日中韓の間でFTAを締結し、貿易投資を活性化することが前提となる。とりわけ、対中国市場アクセスの改善はわが国にとって重要である#8。また、サービス・投資分野でも参入制限等が多く存在するため、日中韓FTAの実現による貿易投資の自由化が期待される。加えて、経済界の期待の大きい知的財産権保護、環境問題への対応、資源・エネルギーの輸出制限の緩和、ビジネス環境整備、国内規制の透明性等についても、日中韓FTAにおいて取極め、より高いレベルを速やかに実現することが重要である。

(4)日EU経済連携協定の早期締結

去る3月25日、日・EU首脳は、経済連携協定(EPA)交渉を4月に開始することで合意した。日々熾烈な競争に晒されている企業としては、スピードが重要であり、EU市場における公平な競争条件の確保、日・EU間のシームレスな事業環境の実現、日・EUの協力を通じた第三国市場における事業の円滑化・拡大に向けて、一日も早い協定の締結が求められる。その際、EU側が、交渉開始後1年以内に日本側の非関税措置の取組みを評価し、交渉継続の是非を判断するとしていることも考慮すれば、上記の目的を実現する形で交渉を完了させるためには、わが国として、EUとの経済連携も視野に入れた規制・制度改革に係る既往の方針(2012年7月10日閣議決定等)を着実に実施するとともに、双方の利益に資する、規格・基準の国際的調和を含む規制・制度改革を一層推進する必要がある。

日・EU間に透明性の高い自由で安定的な事業環境を実現するためには、ヒト、モノ、資本・サービス、情報・知識等の自由な流通を可能にするための制度・ルールの整備が必要である。その際、EUにおいては、加盟国によって適用が異なることのないよう域内一本化に特に留意する必要がある。個々の分野については、経団連として既に提言を行ってきており、また、今後、日欧の業界同士の対話を引き続き促進していく中で、適宜、提案を追加、掘り下げていく所存であるが、(1)関税分類・関税免除措置の変更、貿易救済措置の調査開始に関する通報・協議等による透明性等の向上、(2)規制の導入・改変に関する通報・協議・早期意見照会ならびに規制のあり方に関する継続的協議を通じた規制の整合性の確保、(3)規格および適合性評価手続の調和・相互承認の推進、規格の新設・変更にあたっての早期事前通報の義務づけなど、業種横断的な課題の実現に日・EU双方が精力的に取り組むよう改めて求めるものである。

こうした制度・ルールの整備を進めるにあたっては、日・EU間の経済関係の強化という観点だけでなく、新興国を含めたグローバルな展開を視野に入れることが不可欠である。EU・米国FTA交渉(TTIP)が近々開始される見込みである一方、わが国もTPP交渉への参加を正式に表明した中にあって、基本的な価値観を共有する米国とも密接に連携を図りながら、まずは先進国共通のルール作りを目指す必要がある。

(5)その他の取り組むべきFTA

上記以外の国・地域に関しても、国・地域を戦略的に選定し、FTAの締結を推進する必要がある。

現在交渉中のその他のFTA(豪州、カナダ、コロンビア、モンゴル、GCC:湾岸協力会議、韓国)の早期妥結・発効を目指す必要がある。また、トルコとのFTAに関する共同研究を速やかに終了し、早期に交渉を開始すべきである。

さらに、ASEANをはじめ、締結済みのFTAの見直しを随時進め、新たなビジネスに即したルールを継続的に実現すべきである。

3.WTOを基礎とした多角的ルールの拡充

(1)多角的自由貿易体制に対する考え方

  1. 多角的自由化交渉(WTOドーハ・ラウンド)
    多角的貿易自由化交渉(ラウンド)は、GATT時代、WTOの設立に至るまで、多角的自由貿易体制の構築に多大な貢献を果たしてきた。しかしながら、WTOのもとで開始されたドーハ・ラウンドが、10年以上に及ぶ交渉の末、近い将来の妥結を断念したことは、一貫して交渉推進を働きかけてきた経団連として、極めて遺憾である。
    将来の妥結に向けて、現在、貿易円滑化交渉等については、他の分野に先行して合意が目指されている。停滞するラウンドを前進させ、可能な部分から合意を実現し、ビジネスが期待する成果が得られるよう、加盟国政府による真剣な対応を求めたい。

  2. 多角的自由貿易体制の維持・強化
    FTAや各種の分野別協定を進めるにあたっては、多角的自由貿易体制の基盤となるWTOに対する信頼の維持に努めることが肝要である。FTAや分野別協定は、ラウンドによる立法機能をはじめとするWTOの機能に代替あるいはWTOと矛盾するものではなく、WTOの枠組みを補完するものでなければならない。FTA、分野別協定の交渉にあたり、将来的にWTO協定の一部とすることを視野に、WTO協定との整合性を確保するとともに、これらの交渉をWTOの多角的自由貿易体制内のルールを策定するための取組みにつなげていくことが重要である#9
    同時に、WTOの紛争解決手続という準司法的機能と、保護主義の抑止等、協定遵守状況の相互監視という行政的機能は引き続き重要であり、維持・強化される必要がある。
    そのためには、これらの機能を積極的に活用していくべきであり、ルールに反する諸外国の措置については紛争解決手続に付託し、速やかな問題解決を図っていくことが重要である。また、WTO協定と整合的であっても貿易自由化に逆行する措置の拡大も懸念される。関税引上げや自国産品の優遇などの保護主義的措置を抑止するため、わが国政府として、当該措置をとる国に対し、他国とも連携しつつ、積極的な働きかけを行うべきである。

(2)分野別・有志国によるルール作りへの参画

  1. ITA(情報技術協定)の改訂・拡大
    1997年の発効以来、WTO・ITA(情報技術協定)は、IT製品の世界貿易量の増大に貢献し、新興国や途上国にもIT貿易の担い手として成長する道を開いた。しかし、発効以来16年間、対象品目の見直しがなされておらず、急速な技術進歩を背景とする新たなIT製品、とりわけ、デジタル化の進展に伴い登場した各種機能を併せ持つ複合製品が対象に含まれていない。また、中南米諸国をはじめとする新興国が加盟しておらず、対象品目ならびに加盟国の拡大が急務となっている。
    2012年より開始されたITAの対象品目拡大交渉においては、わが国企業の強みを活かす製品(多機能/複合製品、デジタル・ネットワーク家電、医療・ヘルスケア製品等)を新規に追加するとともに、将来にわたり技術進歩に対応できるよう、定期的に品目を追加・改訂する仕組みを導入すべきである。そのうえで、一刻も早い交渉妥結と早期発効を目指すとともに、その効果を最大化すべく、加盟国の拡大に向けた取組みを継続すべきである。

  2. サービス貿易新協定交渉
    サービス貿易を交渉対象に含むドーハ・ラウンドの停滞を受け、ラウンドとは別の取組みとして、2011年夏頃より「サービス貿易新協定」構想が浮上した。日本を含む有志国(21メンバー)#10の間で議論が行われた結果、2013年春に交渉を開始することが合意された。
    わが国としてもこれに積極的に参加し、ビジネスの実態に即した高いレベルのルールを構築することは重要である。他方、ASEAN諸国、中国・インド等の主要な新興国はこれに参加していない。わが国企業にとり、これらの国々を含むサービス貿易の自由化とルールの整備は不可欠である。
    「サービス貿易新協定」が将来的にWTO全加盟国に適用される協定(WTO協定の一部)となるよう、WTO・GATS(サービス貿易協定)との整合性を確保するとともに、WTOのもとでの複数国間協定として他のWTO加盟国の積極的な参加を促し、新興国・途上国も含め、現行のWTO協定上の約束表を上回る自由化を実現すべきである。
    具体的な内容としては、流通、ICT・電子商取引、金融・保険、音響映像、航空運送、建設、医療などの分野に注力し、質の高い自由化を実現すべきである。なお、サービス分類・定義に関しては、ICT分野をはじめ、技術進歩を背景とするビジネスの実態を反映した新たなサービスの自由化が確実に担保されるよう留意すべきである。
    また、国内規制(許認可等付与条件の透明化、パブリック・コメントの導入等による規制の透明性等)、投資自由化(サービスの第3モードについて外資制限、拠点形態の制限の撤廃等)が重要である。
    人の移動の自由化に関しては、専門的・技術的な分野の自然人の国境を越えた自由な移動を可能とすることが必要である。企業内移動、企業間や個人ベースの契約に基づく専門的・技術的な分野の人の移動、出張・短期の派遣等を含む一時的な滞在の自由化等を実現すべきである。VISA(査証)に関しては、極力簡素・効率的な手続きとするとともに、専門的・技術的分野の企業内移動についてはVISA発給を不要とする制度の構築を望む。

  3. 政府調達協定の拡充
    政府調達協定には、今後、できる限り多くの主要新興国が加盟することが望ましいが、わが国経済界としては、とりわけ中国の加盟に関心が高い。
    中国の加盟交渉については、対象機関、対象物品・サービス、調達基準額等において高い約束水準での早期加盟を引き続き働きかけていく必要がある。中国の加盟が実現すれば、現在オブザーバーである他の新興国(インドネシア、トルコ等)の加盟も促進され、政府調達市場の自由化に大きく資することが期待される。

4.多角的ルールへの発展を視野に入れた分野別「統一軸」―わが国が目指すべき内容

わが国がFTA、分野別協定に取り組むにあたっては、目指すべき貿易・投資ルールの内容を見据えた「統一軸」を形成し、将来的には、WTO協定の一部として共通の多角的ルールとすることを視野に、それぞれのFTAの枠組みの間で可能な限り調和のとれたルールとすることが重要である。

このような観点から、日米欧をはじめとする主要国間で、相互のFTA間の連携を一層強化することは有益である#11。また、APEC等のフォーラムにおけるルール、ガイドラインの策定をはじめ、協力を基礎とした取組みを通じ、FTA、分野別協定における取組みの相互の連携・調和を図ることが望まれる。環境物品の関税引下げや、サプライチェーンの円滑化をはじめ、先進的な取組みを進める場として、APECの戦略的活用に力を入れるべきである。

以下は、FTA、分野別協定の交渉において、また、上記のような取組みを通じ、共通の多角的ルールを構築することを目指して実現すべき「統一軸」としての内容の例である。

(1)わが国が強みを持つ物品の自由化(環境物品、医療・ヘルスケア製品等)

わが国企業が強みを持つ物品の自由化は、わが国を拠点に含むビジネスにおけるサプライチェーン全体の円滑化に不可欠である。FTA、分野別協定等を通じ、環境に配慮した製品、医療・ヘルスケア製品等、わが国が強みを持つ製品のグローバルな関税撤廃を戦略的に進めるべきである#12

環境物品に関しては、2012年のAPEC首脳会議において、2015年末までに54品目の実行関税率を5%以下に削減することが合意された。これは環境物品の自由化に向けた重要な進展と評価できる。他方、この54品目にはわが国企業が強みをもつ省エネ技術・機器が含まれていない。省エネ技術・機器等を環境物品と定義し自由化するための努力を継続すべきである。

(2)貿易手続の円滑化・簡素化

企業のグローバルなサプライチェーンの進展に対応し、サプライチェーン・コネクティビティを向上させることは、国境を越える物流の円滑化を実現する上で不可欠であり、特に以下を実現することが重要である。

  1. 原産地規則
    特恵関税適用を受けるために必要な原産地規則・証明制度の利便性を向上すべきである。具体的には、関税分類番号変更基準、付加価値基準、加工工程基準など複数の選択肢の中から企業が自由に選択できる制度を採用する必要がある。また、第三国の拠点等が関与するビジネス形態に対応すべく、第三国が発行するインボイスを用いた原産性の証明の取得を円滑化すべきである#13。併せて、認定輸出者自己証明制度と第三者証明制度の併用を認めるべきである。
    FTAの活用を促進することも重要であり、税関によるFTAデータベースの提供、原産地規則の調和・共通化、締約国間での完全累積を認めるためのルール整備等に取り組む必要がある。

  2. シングル・ウィンドウの利便性向上とAEO制度の拡充
    輸出入・港湾手続のペーパーレス化・電子化および利便性の高い真のシングル・ウィンドウの構築に取り組み、手続の簡素化・効率化、データの共有化を進めるべきである。
    貿易の安全確保と貿易円滑化の両立を図る観点から、AEO(Authorized Economic Operators:認定事業者)事業者の貿易手続きを更に簡素化すべきである。また、AEO事業者のセキュリティ確保と法令遵守体制の整備状況に応じて承認レベルを引き上げ、そのレベルに応じて通関手続等の緩和措置を拡大するといった、多段階型の制度についても検討していくべきである。
    併せて、AEO制度の各国との相互承認を更に推進すべきである。将来的には、多国間の枠組みでの国際的な統一を目指し、APEC等におけるAEO構築支援をさらに推進すべきである。とりわけ、APECの枠組みにおける多国間の相互承認制度を早期に構築し、可能な国から先行して実施することが望ましい。

(3)資源・食糧の輸出制限に関する規律

レアアース等の希少資源、食糧の輸出に関する制限措置について、輸出税の禁止、恣意的な資源開発規制の禁止などを含め、現行のWTO協定#14以上に強化された規律を導入すべきである。WTO協定上の義務の一般的例外として認められる要件を厳格化することも望まれる。

併せて、紛争解決手続への提訴等を通じ、輸出制限や輸出税に対する既存のWTOの規律の適用の強化・明確化を図るべきである。また、レアアース等の希少資源にかかる輸出規制については、運用の透明性を図るため、早期通報の仕組みを整備すべきである。

農産物#15については、世界の食糧需給の逼迫が懸念される中、食糧危機の際に輸出国が採る輸出制限措置は、輸入国の食糧安全保障への重大な脅威となる。そのため、輸出制限に関するルールの整備等、一段の規律強化に取り組むべきであり、同時に、人材育成・交流、生産基盤の整備、生産技術向上、資機材の提供などの各種の協力を通じた農業生産の安定と安全性の確保、さらには食糧の共同備蓄の枠組み作り等により、食糧の安定供給の確保を推進すべきである。

(4)情報通信技術(ICT)サービス(電子商取引、電気通信)

ICTサービスについて、途上国も含め、包括的な自由化を実現すべきである。とりわけ、技術進歩により新たに開発されるサービス(インターネット、クラウドコンピューティング、データセンター等)を国境を越えて自由かつ円滑に提供することを可能とすることが重要である。また、これらのサービスに関する各国の規制の透明性を高める必要がある。その際、「日米クラウドコンピューティング民間作業部会報告書」#16など、民間が関与する先進的な取組みを参考にすることが有益である。

また、越境サービス貿易が拡大しグローバルビジネスにおいて重要な役割を担う中、データ、コンテンツの国境を越えた円滑な流通のためのルール整備が重要である。電子送信・コンテンツに対する関税不賦課の恒久化、デジタル製品・コンテンツに対する無差別待遇、個人/利用者データやプライバシーの保護とデータの円滑な流通のバランスの確保、情報セキュリティの確保を含めた制度設計を進めるべきである。これらの制度の国際的調和に向けて、国連・ITUのみならず、WIPO、OECD、APEC等の枠組みも活用し、多様なステークホルダーの参画のもと、政策対話を重ねながら、具体的ルール作りを行うべきである。

越境サービスを円滑に提供するうえで懸念される動きとして、管轄内への関連データ保存やサーバー、データセンター等の拠点設置の義務付け、データフローに対する課金・課税など、政府が規制を設けるあるいはその検討を求める例がある。こうした規制は、クラウドコンピューティングをはじめとする越境サービスの利便性を損ない、価格上昇の要因ともなりうることから、内外の競争上のイコールフッティングの確保など、特定の明確な政策上の目的に極力限定されるべきである。

国境を越えたサービス提供の増加に伴い、内国課税の扱いについても、課題が生じている。インターネット等を経由してデジタルコンテンツの提供を行う場合、国内におけるコンテンツの提供には消費税の課税が行われるのに対し、インターネット等を経由する国境を越えたコンテンツの提供には消費税が課せられず、中立性や公平性が損なわれ、国内事業者と国外事業者との間で競争上の不均衡が生じている。この問題は音楽、電子書籍の配信等のB to C取引に加え、広告配信サービス等のB to B取引においても指摘されており、今後、消費税率が引き上げられると、弊害がさらに拡大する。

そこで、OECDの議論やEUの制度等を参考にしつつ、事業者の競争条件の均衡化の観点や企業のコンプライアンス・コストにも十分配慮しながら、国境を越えたこれら役務提供等と消費税との関係について検討を行い、平成26年度税制改正においてB to B、B to Cともに所要の措置を講じる必要がある。

(5)知的財産権に関する国際ルール・連携の拡充(模倣品・海賊版対策)

とりわけアジアなど途上国においては、模倣品・海賊版の横行により、得られるはずの利益の回収が妨げられている。こうした現状に鑑み、各国・地域における知的財産権関連の法制度の構築・改善や、再犯防止に向けた罰則の強化等を含む執行面の強化、官民の専門家の派遣などを国際協力を通じて進めるとともに、適切な保護の推進に取り組むべきである。

具体的には、わが国が模倣品・海賊版に対する国際協定として提案したACTA(Anti-Counterfeiting Trade Agreement; 偽造品の取引の防止に関する協定)#17 の締約国を拡大することが重要である。

併せて、広域連携を促進することにより、模倣品・海賊版の摘発と防止、被害状況の把握と対応を効果的に行うため、税関同士および税関・警察・特許庁の間の連携を強化するとともに、模倣品・海賊版の防止に向けた官民プラットフォームを確立することが有益である。

(6)投資の保護・自由化

グローバルなサプライチェーン、バリューチェーンの円滑化に資する投資環境の改善に向けては、多国間投資ルールが策定されることが最も望ましい#18。質の高い投資ルールの整備は、わが国企業がインフラ等の輸出をはじめ途上国に安定的に投資を行ううえで、極めて重要である。また、先進国企業のみならず新興国企業も投資主体になりつつある現在、グローバルな投資ルールの必要性は新興国でも高まっている。

TPP、サービス新協定等を通じて質の高い投資ルールの整備を進めるとともに、広範な途上国の参加を目指し、有志国による複数国間協定として多国間投資ルールを策定することも検討に値する。

多国間投資ルールの策定にあたっては、投資家により直接あるいは間接に所有・支配されている全ての種類の資産を広く対象とするとともに、投資の保護に加え、自由化や質の高い紛争解決手続(投資協定上の義務違反を広く法的解決の対象とし#19、投資家対国家の紛争解決条項#20を含む制度)が不可欠である。

投資の保護については、投資後の最恵国待遇・内国民待遇、公正衡平待遇義務、収用の制限と適切な補償、送金の自由、政府が外国企業に負った約束の遵守(アンブレラ条項)#21、法令の公表等による透明性の確保などを確実に担保する必要がある。投資の自由化については、投資前の内国民待遇・最恵国待遇、パフォーマンス要求の禁止等などを盛り込むことが重要である。

(7)ロイヤリティ送金規制の是正

途上国においては、技術ライセンスの対価(ロイヤリティ料を外国企業に支払う場合の料率)を制限したり、海外送金額、契約期間に上限を設けたりする例がある#22。これにより、知的財産権の対価の適切な回収ができず、国内への利益の還元が困難となっている。また、わが国企業が得た利益が現地に滞留し、わが国当局による移転価格税制の執行につながり、現地政府による課税との二重課税が発生する事例も生じている。租税条約が不在の場合、当局間による相互協議が実施されないことに加え、相互協議が実施される場合でも、その不調・難航、または相手国に税還付制度が不在の場合など、納付した税が還付されない例もある。

わが国企業が技術提供にあたって受け取る対価の回収が容易となるよう、投資先国政府によるロイヤリティ料率や海外送金額に対する上限設定を禁止するルールを導入すべきである。これにより、適切なロイヤリティ料率の設定が可能となり、日本への送金も促進される。また、現地に利益が滞留した場合、移転価格税制の執行が公平性や予見可能性を欠くために生じる二重課税を回避できる。

(8)競争:国営・国有企業と民間企業の公平な競争条件の確保等

国営・国有企業(SOE; State-Owned Enterprises)と民間企業の公平な競争条件に関する規律は、現行のWTO補助金協定ではカバーできない問題を含んでいる。したがって、TPP交渉における議論が進む中、SOEに係るOECDガイドラインも参考に、わが国としても、国内の国営・国有企業の望ましいあり方に照らし、交渉において適切な規律を提案すべきである。

特に、SOEが国外において行う民間企業との競争を歪める行為に関する規律について議論することが求められる。例えば、SOEが自国政府や自己のファイナンスにより、商業条件を無視して資源権益を獲得するといった行為への規律が必要である。

(9)環境・生物多様性保護等と貿易措置

温暖化ガス排出量の削減や生物多様性の確保などに関する国際的ルールに基づく措置による貿易・投資歪曲的効果を抑制するためのルールの策定を検討すべきである。

5.WTO、FTA、分野別協定等を補完する制度の整備

わが国企業が海外とのビジネスにおいて直面する課題は多岐にわたるため、FTA等の締結やWTOの活用だけで全ての問題を解決することはできない。貿易・投資に関する制度整備の一環として、下記の通り、投資協定、租税条約、社会保障協定の締結等、関連する制度の整備も併せて進めることが不可欠である。

(1)投資協定

わが国がこれまで締結した投資協定は、投資章を含むFTAも合わせて30にとどまり、欧米諸国だけでなく中国、韓国にも大きく遅れをとっている#23。また、既存の投資協定あるいは投資章を含むFTAには、投資の保護・自由化等の水準が必ずしも十分でないものがある#24

現在交渉中・協議/準備中のFTAまたは投資協定(サウジアラビア、カザフスタン、アンゴラ、ウクライナ、アルジェリア、モザンビーク、ウルグアイ、ミャンマー、オマーン、モロッコ、リビア、カタール)については、出来る限り早期に締結するとともに、わが国からの投資に対し未だ法的な基盤(投資章を含むFTAまたは投資協定)が提供されていない重要な国・地域(ブラジル、南ア、アラブ首長国連邦、アルゼンチン、ベネズエラ、ナイジェリア、イラン、バーレーン、パナマ、ボリビア、イスラエル等)との間で、投資に関する法的枠組みの整備に向けた検討に着手すべきである#25。さらに、既存の協定についても、投資の保護・自由化の水準を引上げるべく継続的に見直しを行うべきである。

また、日々変化するビジネス環境や企業のニーズに対応して制度やルールを適時適切に見直す観点から、協定によりカバーされない課題も含め、ビジネス環境全般にわたって民間から継続的に改善要望等を提起できる枠組みを盛り込むべきである。

(2)租税条約

租税条約による国際的な二重課税の排除は、わが国企業の海外における安心かつ確実な事業展開に欠かせない。また、投資所得に係る源泉地国課税の軽減は、海外からの資金還流および国内における再投資という好循環の実現に資する。

中国、インド、タイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、韓国、ベトナム、ブラジル、ドイツ、ロシア等との租税条約を改定するとともに、台湾、チリ、ミャンマー、アルゼンチン、ベネズエラ、コロンビア、ナイジェリア等の未締結国・地域との租税条約締結交渉を推進すべきである。その際、国際的な二重課税の早期是正に資する移転価格税制に係る対応的調整規定・仲裁規定、親子間配当および貸付金利息に係る源泉徴収の免除規定、使用料に係る源泉徴収の減免規定等を盛り込むことが重要である。

サービスPE規定#26の導入については、源泉地国における課税範囲の拡大につながることから、慎重に対応すべきである。個別の条約では、使用料の定義規定の改善、PE規定の改善等も課題となる。

なお、租税条約締結国、特に中国およびインドにおいて、近年、不透明な移転価格課税およびPE課税等が多発している。わが国としては、条約の整備もさることながら、これら現に顕在化している紛争事案の解決に向けて、また、公正な執行が行われるよう、相手国政府や税務調査を行う地方政府等への働きかけなど、官民挙げた積極的な取組みを行う必要がある。

(3)社会保障協定の締結推進

経済のグローバル化の進展に伴い、わが国の対外直接投資は拡大しており、海外在留邦人数もアジアを中心に増加している。このような中、企業の国際的な事業活動を支える法的基盤整備の一環として、社会保障協定の締結を一層推進すべきである。社会保険料の二重負担や掛け捨ての問題を解消することを通じて、駐在員等の海外派遣コストを低減し、従業員の社会保障に対する権利を保持することによって、諸外国企業との公平な競争条件を確保し、人材のグローバルな適正配置に資することが重要である。

わが国の社会保障協定については、従来、欧米先進国を中心に整備が進められてきており、引き続きそれらを着実に進めるとともに、今後は、世界の工場さらには消費市場として多くの企業を惹きつける新興国を中心とする協定の締結が重要な課題である。

具体的には、現在政府間交渉・協議中の欧州6カ国(ハンガリー、ルクセンブルク、スウェーデン、オーストリア、スロバキア、フィンランド)、中国、フィリピン、トルコとの間で早期締結を目指すべきである。また、既に申入れ等が寄せられているポルトガル、メキシコ、ロシアとの間で交渉を開始すべきである。

とりわけ現在交渉中の中国については、米国に次いで駐在員等が多く社会保険料負担がかなりの金額に及ぶこと、また、具体的な運用等において地方毎に差異があることから、可能な限り速やかな協定の締結が不可欠である。

併せて、海外拠点間の従業員の移動等に対応して、中長期的な観点から、複数国間協定の締結の可能性についても検討すべきである。

(4)安全保障貿易管理制度の再構築

2011年4月に公表した前述の「わが国の通商戦略に関する提言」に盛り込んだ規制品目番号体系の国際化について、実現に向けて具体的な調整が進められており、また、昨年度規制改革要望で取りあげたクラウドサービスの外為法上の取扱いについても指針が示される予定であるなど一定の進展が見られる。現行の法体系の下で、未だ十分とは言えないものの、規制の合理化・簡素化がある程度進んだ今こそ、安全保障貿易管理制度の再構築に着手すべきである。

具体的には、第一に、企業の国際競争力を損なうことなく、機微な製品・技術の大量破壊兵器等への転用や安全保障上の懸念が強い国等への流出を防止するという安全保障貿易管理の本来の目的を全うするため、規制対象品目等のリストに基づく該非判定まずありきの現状から脱し、取引される品目等の最終用途に応じた、いわゆるエンドユース規制中心の管理制度に移行することが不可欠である。このような制度の下では、エンドユースの懸念度を判定するための政府の体制・機能が強化され、安全保障上の懸念があると政府が判断した取引について許可申請すべき旨を通知すること(インフォーム通知)が基本となる。それ以外の取引についても、外国ユーザーリストによる懸念取引先の一層の可視化が進み、また、安全保障上の懸念が極めて低いと考えられる取引(例えば海外子会社向け、ホワイト国向け、返送)は許可申請が原則不要となる。

第二に、(1)重畳的でかつ例外規定の多い複雑な体系を辿らないと規制対象の特定が困難である、(2)法令がつぎはぎ的に追加・改正されて理解が容易でない、(3)運用・解釈の一貫性が必ずしも確保されていないなど現行の安全保障貿易管理制度が抱える問題を解決するため、安全保障貿易管理の法体系を外為法のその他の法体系と区分の上、整理、簡素化すべきである。そうすることによって、官民双方の限られた資源を真に管理すべきものに集中できるようにするとともに、誰にでも理解しやすい、簡素でわかりやすいものとする必要がある。

(5)企業の社会的責任と円滑なサプライチェーンの両立

企業のサプライチェーンがグローバルに広がる中、企業としてサプライチェーン全体にわたって社会的責任を遂行すべく最大限の努力を行う必要がある。しかしながら、それら企業の努力をやむを得ず規制によって担保しようとする場合には、様々なサプライチェーンの実態を十分に踏まえ、柔軟な内容とすべきである。

例えば、米国金融規制改革法に基づき、米国上場企業は、製品に使用する一定の鉱物につき、武装勢力との関係を有するコンゴ等原産であるかを調査し報告することが義務化された。しかしながら、個々の企業にとり、製錬所から任意に鉱石調達先の開示を得ることは容易ではない。法律の趣旨の実現に向けては、米国をはじめ各国政府が協力し、個々の精錬所に対する啓発ならびに製錬所による紛争フリー認証の取得を促進することにより、企業による調査負担の軽減を図るべきである。

6.グローバル競争を勝ち抜く国内改革の推進

グローバルな貿易・投資ルール作りを通じ、各国が競って自国の競争力向上に取り組む中、諸外国企業との激化する競争を勝ち抜いていくためには、成長戦略の一環として、国内の立地競争力を回復・強化し、わが国を拠点に活動する企業のビジネス環境を改善することが喫緊の課題である。

そのためには、FTA・分野別協定等を通じて海外とのビジネスの自由化・円滑化を実現すべく、グローバルなルール作りを主導するとともに、国内において民間活力の発揮とイノベーションの推進に一層適した環境を提供することにより、国内外から投資と雇用を呼び込むことが重要である。

このような観点から、大胆な規制・制度改革を通じた他国に劣後しない事業環境の整備や競争力強化に資する幅広い人材の育成・確保など、抜本的な国内改革を早急に講じていく必要がある。とりわけ、各国との交渉の焦点の一つである農業分野については、抜本的な国内改革により競争力強化と成長産業化を進めるなど、TPPをはじめとするFTAとも両立し得る力強い農業を実現していく必要がある。

(1)農業の競争力強化・成長産業化

農業の競争力強化には、農地の集積による経営規模の拡大と経営の効率化が不可欠であり、現在政府が進めている「人・農地プラン」の早期策定と内容の充実を通じて、「土地利用型農業について、5年後に平地で20~30ha、中山間地で10~20haの経営体が大宗(8割程度)を占める構造を目指す」とした目標(「我が国の食と農林漁業の再生のための基本方針・行動計画」(2011年10月25日、食と農林漁業の再生推進本部決定)を早期に実現すべきである#27

加えて、農商工連携や6次産業化、さらには輸出の推進により収益性の高い農業経営を実現し成長産業化を図るべきである。

これら農業の競争力強化や成長産業化、そしてその基盤となるべき直接支払制度の改革を通じて、力強い国内農業を早期に確立すべきである。同時に、FTAの交渉にあたっては、わが国にとって有利な条件を勝ち取るとともに、国内構造改革と国際交渉双方の進展を踏まえ、真に必要な国内対策を総合的に講ずることにより、TPPをはじめとするFTAとの両立を実現していくべきである。

以上の実現に向けて、政治の強いリーダーシップの発揮を強く期待する。経済界も持てる技術や知識・ノウハウ等を駆使して農業関係者の改革努力に最大限協力していく。

(2)その他の規制・制度改革

現下の厳しい経済情勢や財政制約下において、わが国経済を成長軌道に乗せるためには、規制・制度改革により、民間の創意工夫の発揮を通じたイノベーションを推進するとともに、高コスト構造を是正し、自由で円滑な事業環境を整備することが不可欠である。市場拡大や雇用創出、経済活性化効果の期待される医療・介護・保育、農業等の分野や、ビッグデータビジネス等のICTの利活用促進、スマートシティ、魅力ある街づくり促進に向けた規制の見直しは喫緊の課題である。また、女性や高齢者などの多様な層の労働市場への参画と人材の流動性確保を促すべく、雇用分野の規制改革も重要である。

さらに、イノベーションを通じた競争力強化の鍵を握る人材を、国籍を問わず育成・確保するため、より幅広い外国人材の受入れのための制度・環境整備が必要である。

以上

  1. FTAは、Free Trade Agreementの略。わが国政府はこれを、経済連携協定、EPA:Economic Partnership Agreementと称している。以下、自由貿易協定に言及する場合、わが国に関わる協定の固有名詞等、必要な範囲で経済連携協定(EPA)と標記し、その他に関してはFTAとする。
  2. 製品やサービスを顧客に提供する企業活動を、調達・開発・製造・販売・サービスといったそれぞれの業務が、一連の流れの中で順次、価値とコストを付加・蓄積していくものととらえ、これによって最終的な「価値」が生み出されるとする考え方。
  3. わが国企業が多くのビジネスで競合する韓国は、「経済領土」の拡大を掲げてFTA(自由貿易協定)締結を積極的に進め、EUとは2011年7月、米国とは2012年3月、FTAを発効させた。
  4. OECD/WTOが2013年1月に公表した貿易フローの新指標である、貿易付加価値データベースによると、日本の輸出先国(2009年)は、輸出総額ベースでは中国がトップ(24%)で米国は2位(22%)であるのに対し、付加価値ベースでは米国がトップ(19%)、中国が2位(15%)と、順位が逆転する。また、サービスは日本の輸出総額における付加価値の42%を占める。製造業における輸出額に占めるサービスの割合も高い(30%)。
  5. 2011年、貿易統計(財務省)
  6. 2011年、本邦対外資産負債残高(財務省)、直接投資(資産)残高地域別統計(日本銀行)
  7. http://www.keidanren.or.jp/policy/2011/030betten.pdf
  8. 日本の中国からの輸入1890億ドル(2012年、JETRO)のうち、7割が無税であるのに対し、対中国輸出1448億ドル(2012年、同)のうち、約7割に関税が賦課されている。
  9. 例えば、紛争解決手続の構築に当たり、WTOのルールに基づく解決が可能となるよう、各協定において規定すべきである。WTO協定に基づく判例が蓄積されることは、WTO加盟国に適用されるルールの明確化に資するものであり、多角的貿易体制の強化にもつながる。
  10. 日本、米国、EU、豪州、カナダ、韓国、香港、台湾、パキスタン、イスラエル、トルコ、メキシコ、チリ、コロンビア、ペルー、コスタリカ、パナマ、NZ、ノルウェー、スイス、アイスランド
  11. 例えば、日米ICT通商原則(2012年1月)においては、この原則を第三国との貿易協定に組み込むよう取り組むことが意図されている。
  12. 例えば、EUの関税(乗用車10%、薄型テレビ14%、電子レンジ5%)は、韓EUFTA(2011年7月発効)の結果、韓国製品に対しては5年以内に全廃される。また米国の関税(乗用車2.5%、トラック25%、ベアリング9%)は、米韓FTA(2012年3月発効)の結果、韓国製品に対しては10年以内に全廃される。これらを念頭に、少なくともこれに劣後しない関税撤廃スケジュールが必要である。
  13. ビジネス形態によっては、輸出国および輸入国とは異なる、第三国にある本社や地域統括会社などが輸出インボイスを受領し、輸入者向けのインボイスを発行することがある。
  14. 現行のWTO協定のもとでは、輸出制限に関し、数量制限は原則として禁止され、また、WTO設立後の加盟国については、加盟議定書において、一定の規律が設けられている。しかし、数量制限の禁止については、食糧その他締約国に不可欠の産品の危機的な不足を回避するための一時的措置が対象外とされているなど、多くの例外が認められている。また、輸出税については、明示的な禁止規定が存在しない。さらに、協定上の義務の一般的例外規定に基づいて、人、動物・植物の生命・健康の保護や有限天然資源の保存のための措置として、輸出制限を正当化する余地が残されている。
  15. 現行のWTO農業協定においては、輸出禁止・輸出制限措置の新設の際の農業委員会への通報制度が存在するが、措置の導入自体は制限されない。ドーハ・ラウンドにおいては、わが国の提案も反映し、措置を導入する国と関心国との協議を求めることや、農業委員会による監視機能の強化が議論されたが、既述の通り、ラウンド自体は停滞している。
  16. 日米情報通信政策当局によるインターネット政策協力対話の枠組みのもと、経団連とACCJ(在日米国商工会議所)は、クラウドサービス推進の環境作りを目的とし、2012年10月、「日米クラウドコンピューティング民間作業部会報告書」をまとめた。具体的には、以下を参照。http://www.keidanren.or.jp/policy/2012/073.html
  17. ACTAはハイレベルの知財保護がうたわれたものであり、2011 年に署名式が行われた。中国は不参加。欧州議会では2012年に否決され、批准しないことが決定された。
  18. WTOのもとでの投資ルールの整備については、2004年8月の枠組合意において投資をドーハ・ラウンドの交渉対象とすることが断念されて以来、新たな取組みはなされていない。
  19. 例えば現行の日中投資協定では、ISDSの紛争処理対象が収用の際の補償額に限定されている。
  20. 投資家対国家の紛争解決条項は、企業が投資先国の政府を相手に国際仲裁に付託することを可能とするもの。これにより、わが国企業が受けた現地企業より不利な扱いの解消、相手国政府の恣意的な行為によって受けた損害の金銭的な補償が可能となる。例えば、環境保護規制の強化等の政策変更などを背景とした事業許可の取消や、契約の一方的解除、現地資本企業等より厳格な規制の適用、代金支払の拒否等が、協定上の投資保護の義務に違反する行為に該当する場合、仲裁判断の結果により、金銭的な補償が認められうる。さらには、実際に投資仲裁に付託しない場合にも、制度を梃子に、相手国政府との間の交渉により、有利な解決を図ることも期待できる。
  21. アンブレラ条項を規定することにより、投資先の政府がわが国企業と締結した契約に基づく義務の違反をした場合、当該契約の義務の履行を求めて、国際仲裁に付託することが可能となる。
  22. 例えばブラジルでは、技術移転契約、ライセンス契約に基づく送金を行うためには、ブラジル知的所有権院(INPI)への登録および中央銀行への登録が要件とされ、ロイヤルティ料ロイヤリティ料の支払い期間・額に上限が設けられている。また、技術「移転」契約しか認められず、継続的な「使用」契約は締結できない点も課題となっている。
  23. 2012年7月現在、主な国の投資協定署名数は、ドイツ(136)、中国(127)、韓国(90)、米国(47)などとなっている。
  24. 規律が不十分な例として、投資家対国家の仲裁条項がない、対象とする投資の範囲に制限あり、公正衡平待遇がない、パフォーマンス要求禁止がTRIMs(WTO 貿易に関連する投資措置に関する協定)の範囲に留まる、自由化のレベルが現状維持に止まる、資源・エネルギー等に関する輸出制限や規制の早期通報制度、既存契約の尊重義務がない、などが挙げられる。
  25. 具体的な進め方については、提言「グローバルな投資環境の整備のあり方に関する意見」(2008年4月15日)において、わが国と貿易・投資関係が深く戦略的に重要な国等については、投資章を含むFTA締結による法的枠組みの整備の可能性を探ることが不可欠であること、投資保護・自由化の法的な担保に急を要する場合には、投資協定をFTAの前段階と位置づけ、先行して交渉することも選択肢となることを指摘している。
  26. PEとは、Permanent Establishment(恒久的施設)の略であり、支店、一定の期間を越える建設作業現場等が代表的なPEとされる。「PEなければ課税なし」が国際ルールであり、PEが認定された場合には、その国においてPEの事業所得に対し、課税が行われる。
    PEの範囲は、租税条約において規定することになるが、最近では、上記に加えて、企業が他国で役務の提供を行った場合において、一定の条件を満たす場合には、その役務の提供はその企業のPEを通じて遂行されたと見なす、サービスPEの規定を盛り込む動きが世界的にある。これらは一般的に、源泉地国における課税範囲の拡大につながる。
  27. 詳細は、「わが国農業の競争力強化と成長産業化に向けた取り組みの加速を求める」(2013年1月22日)を参照。

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