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Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 地方法人課税のあり方

2013年5月10日
一般社団法人 日本経済団体連合会

地方法人課税のあり方(概要)

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I.はじめに

わが国は、リーマン・ショック以降の景気停滞に加え、いわゆる「6重苦」に直面し、産業の立地競争力は低下の一途をたどってきたが、行き過ぎた円高、経済連携協定の遅れ、過度な環境規制といった問題については、安倍政権において漸く改善の動きが現れている。この機会に、さらに民間投資を喚起する成長戦略を確実に実現していくことが急務である。

しかしながら、国際的に見て重い法人の税負担は、今回の税制抜本改革を通じても依然として解消の道筋が示されていない。消費税率10%への引き上げを見据えつつ、再度、国・地方を通じた法人課税の改革について具体的な展望を開くべきである。

わが国の立地競争力を強化し、内外の企業による投資を促進し、国内における雇用を維持・拡大させるためには、わが国の法人実効税率を最終的にはアジア近隣諸国並みの約25%まで引き下げることが不可欠である。経済活動の主体は国民と企業であり、雇用の主体は企業である。企業の成長なくして雇用の増加はなく、消費の拡大も実現しない。現在、政府においては、法人実効税率は、復興特別法人税が終了する平成27年度以降の検討課題に留まっているが、わが国の厳しい事業環境を踏まえれば、遅きに失すると言わざるを得ない。税制改正は国家の成長戦略を実現する手段である。「世界で一番企業が活動しやすい国」を目指し、国・地方を通じた法人実効税率のさらなる引き下げに向け、早期に道筋をつけるべきである。

地方法人課税については、現状、地方税全体における比率が過度に高く、地方自治体ごとの偏在も大きく、また、税制改革を通じた成長の実現といった視点、努力に欠けるという問題を抱えている。

とりわけ、法人所得課税は、人為的な分割基準により配分せざるを得ないことからもわかるように、法人の所得と地方自治体の行政サービスとの関連性が不明確である。また、景気により税収が大きく変動するとともに、税源の偏在が著しい。法人所得課税は、そもそも地方税の基幹的税目とするには不適当であり、地方税の枠組みの中でいかなる改変を加えても、個々の地方自治体の安定財源とはなりえない。

かかる観点から、地方法人課税については、国・地方を通じた税財政改革を行う中で、税目の整理・統合も含め、そのあり方を抜本的に改革し、負担軽減へとつなげていく必要がある。わが国は今や成熟社会を迎え、経済構造は大きく変化している。また、地方における税源の著しい偏在の状況が容易に変わることはない。したがって、自治体が自ら徴収する地方法人課税をもって地方財政の相当部分を賄うという現状は見直さなければならない。地方法人所得課税の国税化を図った上で、その配分において地方交付税、地方譲与税等もあわせた一般財源を保障する仕組みを構築すべきである。これとともに、事務負担が過大となっている地方税の申告・納付についても、早急に改善を図ることが求められる。平成26年度税制改正は、こうした地方法人課税改革の第一歩と位置付けるべきである。

なお、地方法人課税の適正化の議論として、法人事業税に係るいわゆる三業種(電力供給業、ガス供給業、保険業)の課税ベースの問題があるが、それぞれの業種の実態に照らした検討、対応を行う必要がある。

II.地方法人課税に係る当面の課題

1.地方法人課税の負担軽減

  1. (1)地方法人特別税の廃止および地方法人所得課税の国税化
    地方法人課税の改革に際しては、まず、税制の抜本的な改革において偏在性の小さい地方税体系の構築が行われるまでの間の暫定措置として平成20年度税制改正で創設された地方法人特別税の問題を解決しなければならない。
    消費税法改正法が成立したことで、今後、地域による偏在性の少ない地方消費税が拡充され(消費税率換算で1%→2.2%、約3.2兆円)、また、国税の消費税に係る地方交付税も増加することになる(1.18%→1.52%、約0.9兆円)。平成20年度税制改正において想定していた「税制の抜本的な改革」は、今回の改革において実現しつつあると言ってよい。地方法人特別税については、遅くとも消費税率の10%への引き上げ時までに確実に廃止すべく、平成26年度税制改正で成案を得る必要がある。
    なお、地方法人特別税は、その創設の経緯からして、単純廃止が当然である。ただし、万が一、単純廃止が困難である場合は、地方法人特別税、法人事業税及び法人住民税の全部又は一部、とりわけ所得に対する課税部分を国税の法人税に統合し、国家の成長戦略として国際的な水準へと段階的に縮減することも1つの選択肢であると考えられる。
    もともと企業の活動は、その従業員の生活を含め、特定の地域の中で完結することは稀であり、地方法人所得課税は、各自治体固有のものではなく、自治体共有の財源と捉えるべきである。その意味では、国が一括して徴収し、その配分において、地方交付税の不交付団体に対する一定の配慮を行いつつ、各自治体の産業誘致など独自の努力の成果が反映される仕組みを地方が主体的に構築することは、十分あり得ると考えられる。また、これらの改革は、地方における財源の偏在是正にも資するものである。
    さらに、今後、経済変動や、競争力強化等の成長戦略の視点による改革に的確かつ機動的に対応するためには、法人の所得に対する課税については、基本的に国が一元的に管理することが望ましいということも、理由として挙げられる。
    なお、地方法人特別税に替えて、法人事業税における外形標準課税を拡充するべきとの意見もあるが、問題と言わざるを得ない。もとより企業は、法人住民税均等割のほか固定資産税・都市計画税、事業所税など、所得の有無に係らず、所在地域に密着した地方税を負担している。また、外形標準課税の内容を見ても、付加価値割は支払い賃金に対する課税に他ならず、成長戦略の一環として賃金増加を求める政策と背反する。また、資本金等の額に課税を行なう資本割は、企業の自己資本の充実、分社化等の企業組織の再編、設備投資の拡大など、企業の競争力強化に向けた取り組みを阻害している。現在、資本金1億円超の法人に課されている外形標準課税の対象を資本金1億円以下の法人にまで拡大するならば、依然、欠損法人が大半を占める中小企業の経営を大きく圧迫することとなり、地域経済全般にマイナスとなる。外形標準課税の拡大については、極めて慎重に検討すべきである。

  2. (2)償却資産に係る固定資産税
    償却資産に係る固定資産税は国際的に稀な課税である。特に機械装置への課税はわが国製造業が競合するアジア近隣諸国において例がない。政府が進める投資促進政策に逆行しており、企業の国内における設備投資意欲を低下させ、雇用の増加を阻害している。また、特定の設備型産業に負担が偏重しているため、課税の公平性の観点からも問題が大きい。
    償却資産税は速やかに廃止・縮減すべきであり、少なくとも残存価額の廃止など、法人税の課税所得の計算方法との整合性を図るべきである。また、耐用年数の短い動産は、原材料、水道光熱費等の経費と同様、製品・部品を製造するために費消される投入原価要素であり、固定資産税の課税対象にはなじまないことから、課税対象から除外すべきである。

  3. (3)事業所税
    事業所税は、従業者割は法人事業税付加価値割と同様、給与課税となっており、雇用の促進に逆行している。また、資産割は固定資産税および都市計画税との二重課税である。他の税目と整理・統合するなどした上で、速やかに廃止すべきである。

  4. (4)土地税制(固定資産税、不動産取得税、特別土地保有税)
    土地の有効利用、流動化を促すため、土地に係る固定資産税、不動産取得税を軽減すべきである。現在停止中の特別土地保有税については、廃止すべきである。

2.地方法人課税の簡素化

地方法人課税は、税目やその課税ベースが多様である上に、申告書類が多く、計算が複雑であり、また、税率の異なる都道府県、市町村ごとに申告・納付を要することから、法人、特に全国に展開している法人にとっては、納税に係る事務負担が大きい。税制の簡素化の観点から、地方法人課税の負担軽減とあわせ、速やかに以下の見直しを行うべきである。

  1. 計算の簡素化(とりわけ法人事業税付加価値割、事業所税におけるみなし共同事業の判定)および申告書類の削減
  2. 申告の電子化の徹底(全地方自治体のeL-Taxへの加入)、フォーマットの統一、自治体ごとの税率の一覧性向上 等

また、番号制度の稼働とあわせ、本店が所在する都道府県等への地方税の一括納付を可能とするシステム等についても、導入を検討すべきである。

これら地方法人課税の簡素化に向けた改革を具体的に進めるため、例えば総務省、地方自治体、企業関係者等からなるワーキング・グループを設置し、その成果を平成26年度以降の税制改正に反映させるべきである。

以上

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