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Policy(提言・報告書) 都市住宅、地域活性化、観光 新たな成長を実現する大規模MICE施設開発に向けて ~国際競争力と情報発信力の強化、観光立国の実現のために~

2013年6月17日
一般社団法人 日本経済団体連合会

1.大規模MICE施設開発の意義、ニーズ

(1) MICEの重要性と国際競争の激化

経済のグローバル化の進展と国際競争の激化の中、世界各国は、国際会議や国際見本市など、人的交流・情報交換の場であるMICE(Meeting, Incentive, Convention, Exhibition)を成長戦略の重要なツールと位置付け、積極的に誘致または企画運営するようになっている。

とりわけ、自国の中に政治・経済のトップリーダーを集める世界経済フォーラム(ダボス会議)やそのアジア版であるボアオ・フォーラムなどの国際会議、カンヌ国際映画祭やミラノ・コレクションなど、同じ国・地域で定期的に開催される世界トップクラスの国際見本市を抱えることは、その国・地域のブランド力とビジネスチャンスの増大に貢献している。

(2) MICE市場におけるわが国の相対的な地位の低下

経済のグローバル化の進展に伴い、参加者5000人から1万人前後の大規模国際会議や総面積10万m2を超える国際見本市など、一部の国際会議や国際見本市は、規模を拡大していく傾向にある。同時に、アジアや欧米では大規模MICE施設の整備が進んでおり、その際には、交通アクセスや宿泊施設、ショッピング施設、シアターやカジノといった魅力付け施設などとの一体的な整備が重視されてきている。こうした中、わが国は、他のアジア諸国に先駆けて各地の国際会議場や見本市会場を整備したものの、最近の国際的なトレンドである大規模化や一体的なエリアの整備については十分に対応できておらず、国際的に見劣りする状況となっている。

また、わが国においては、戦後の高度経済成長を経て、MICE分野においてアジアのトップの地位を長年にわたって享受してきたが、他のアジア諸国の成長とわが国経済の長期低迷、国際的な誘致競争への出遅れ、総理以下政府・官民を挙げたMICE戦略の不在といったこともあり、徐々に比較優位を失いつつある。

(3) 新たな成長に向けたMICE戦略策定とフラッグシップ型の大規模MICE施設整備の重要性

世界から各方面のトップリーダーが集まる大規模MICEは、それ自体幅広い産業に関わり高い経済効果を有している。同時に、交流を通じてイノベーション・ビジネスチャンスを創出するとともに、観光などのアフターコンベンションも含めて、自然・文化・食・産業などわが国の幅広い魅力を大規模MICE参加者(以下ゲスト)に体感してもらうことで、わが国のブランド力を強化していく絶好の機会でもある。

わが国に新たな成長領域の確保が求められる中、政府においては、MICEを成長戦略の重要なツールと位置付け、総理以下政府・官民を挙げたMICE戦略を策定し、関係省庁・地方自治体・民間との適切な役割分担の下でMICEの振興を図ることが重要である。また、MICE戦略の下、世界最大級の国際会議、国際見本市を誘致・開催可能な世界最先端のフラッグシップ型の大規模MICE施設の整備に早急に着手すべきである。

政府のMICE戦略には、世界の主要な国際会議や見本市に関する情報収集とデータベースの整備、国を挙げて重点的に誘致・開催を進めていく国際会議や見本市の絞り込み、誘致・開催のための具体策の策定・推進体制の構築など、MICEマーケティングの国際競争力強化策を盛り込む必要がある。併せて、世界トップクラスの国際会議や国際見本市などを国内で定期的に企画・運営できる仕組み・能力づくり、大規模MICEをイノベーション・ビジネスチャンスの創出に繋げるためのマッチング機能の充実等を盛り込むべきである。

また、MICEをわが国の幅広い魅力の発信の機会として最大限活用できるよう、クール・ジャパンに代表される国家ブランドの構築に向けた取組みとMICE戦略とを一体的に策定・推進すべきである。

2.フラッグシップ型大規模MICE施設の立地条件

(1) 良好な海外からのアクセス

MICE誘致の国際競争が今後一層激しさを増すことが予想される中で、世界から各方面のトップリーダーが集まる大規模MICEを実現するためには、海外からの交通アクセスの良さは必須条件である。

そこで、フラッグシップ型の大規模MICE施設を整備するに当たっては、少なくともアジアのハブ空港として活用可能な国際空港から30分圏内を確保する必要がある。

また、総合的なアクセスの良さを実現するためには、交通手段のみならず、世界各国の在外公館におけるゲストへの円滑なビザ発給、上陸する空港における専用レーンの設置や動線の見直し、係官による柔軟な対応などによる入国の迅速化を図るべきである。ゲストが最初に触れる日本国の窓口における対応向上は、わが国のおもてなし力の象徴として、わが国のソフト・パワー、「ジャパン・ブランド」の強化に資する効果もある。

(2) ゲストの満足度を高める利便性・快適性

大規模MICE誘致の国際競争力を高め、ゲストの満足度を高めるためには、世界クラスの国際会議場・見本市会場はもとより、多くのゲストが利用する宿泊施設、レストラン、ショッピング施設、シアターやカジノといった魅力付け施設について、一定の質と量を確保することが重要である。このため、海外の近年の大規模MICE施設の開発にあたっては、こうした周辺施設も含めた一体的なエリアの整備が増えつつある。

大規模MICE施設は、巨大化するほど稼働率が低下するおそれもあり、ゲスト以外に一般客が日常入るような周辺施設の収益により、大規模MICE施設の運営コストを確保していく必要もある。

わが国のフラッグシップ型大規模MICE施設の整備にあたっては、こうした点も踏まえつつ、日本の各種産業と文化の情報発信基地、「ジャパン・ブランド」総本山となりうるように、周辺施設も含めたエリアの一体的な整備が可能であることを条件とすべきである。

なお、東京などの大都市においては、一定水準以上の既存の周辺施設を有効活用・整備する方向で開発が可能な場合もあり、こうした場合には、循環バスや新交通システム等の交通手段を整備し、既存施設との有機的な連携を図っていくことも考えられる。

また、観光立国の実現という観点からは、このフラッグシップ型大規模MICE施設から各地方への交通のアクセスの良さを前提に、アフターコンベンションでの地方観光、あるいは、各地域での分科会の開催等を促進していくことも重要である。

(3) 世界規模のビジネスの集積

大規模MICEをイノベーション・ビジネスチャンスの創出に最大限活用するためには、大規模MICE開催の際に日本の政治・経済のトップリーダーも出席して、海外のゲストを歓迎するとともに、交流の中で必要に応じて重要な意思決定を下せる環境であることが重要である。

したがって、フラッグシップ型大規模MICE施設は、国内の意思決定権を有するトップリーダーの多くにとってもアクセスが良い場所であることが望ましく、とりわけビジネスの観点からは、世界規模のビジネスの集積地に整備すべきである。

3.フラッグシップ型大規模MICE施設計画の概略

今後、世界トップクラスの国際競争力を有し、イノベーション・ビジネスチャンスの創出、国家ブランドの発信の基点となるべきフラッグシップ型大規模MICE施設については、既存施設を有効活用し有機的な連携を図る場合も含め、全体として以下のような規模と条件を満たすことが重要である。

まず、施設の規模について、経団連とともに検討を進めてきた一般社団法人 日本プロジェクト産業協議会では以下のように想定している。

○施設計画

計画内容備考
(1) 施設立地環境
空港からの所要時間30分以内高速道路利用、高速都市鉄道利用を想定。
公共交通アクセス駅直結都市鉄道、地下鉄駅を想定。
(2) 施設建築物
MICE施設展示場(屋内)300,000m2中国広州琶州展示場レベル。
イベント利用にも対応、ホールも含む。
会議施設50,000m2韓国COEX国際会議場レベル。
魅力付施設ホテル280,000m22800室×100m2。3つ星以上。
物販・飲食施設90,000m2SCなども含む。
都市型エンターテイメント施設50,000m2シアター、各種遊戯施設で構成。
駐車場120,000m24,000台の平面・立体駐車場。
施設延床面積890,000m2
想定敷地面積450,000m2容積率約200%の場合。
(一般社団法人 日本プロジェクト産業協議会「大規模MICE施設開発の青写真、資産、経済効果」より抜粋)

また、フラッグシップ型大規模MICE施設計画においては上記に加え、以下の条件も満たす必要がある。

  1. 数千人~1万人規模の大規模会議の参加者に対して一斉に食事を提供可能であること。
  2. 魅力付け施設においては、わが国の各種産業と文化の情報発信基地、「ジャパン・ブランド」総本山の機能を果たしうるような店舗・シアター等が含まれること。
  3. 施設開発計画に含まれる各種施設の一体的なマネジメント、マーケティングを行うとともに、ゲストに対しては各種施設に関する案内はもとより、国内観光などのアフターコンベンションに関する情報・サービスの提供が可能な体制が存在すること。
  4. 「2.(2)ゲストの満足度を高める利便性・快適性」でも示した通り、一定水準以上の既存の周辺施設を活用する方向で開発を行った場合には、循環バスや新交通システム等の交通手段を整備し、大規模MICE施設と既存の施設において移動の円滑化と機能の連携が図られること。加えて、その移動の経路や手段においてもゲストが日本の技術や文化等についての魅力を体験し、または関心を高めることが出来るようにすること。

4.フラッグシップ型大規模MICE施設開発に向けた環境整備

国のMICE戦略を担うフラッグシップ型大規模MICE施設開発にあたっては、ハード面で世界有数の国際競争力を有するだけではなく、ソフト面では民間の創意工夫を最大限活用し、全体のパッケージとして持続可能なスキームである必要がある。そのため、国は特に以下の点について留意し、環境整備に向けてあらゆる政策手段を講じる必要がある。

(1) 収益と政策効果の最大化に向けた官民の適切な役割分担と連携

大規模MICEが成長のエンジンとなる一方で、それを開催する会議施設や展示場については、立地条件を確保しつつ規模拡大するほど、その初期投資及び運営コストは大きくなる。

こうした問題を解決するために、諸外国では収益性は低いが集客力はあるMICE施設と収益性の高い周辺の魅力付け施設とを一体的に捉え、その開発・運営を計画するケースが増えている。また、その場合、MICE施設と魅力付け施設について、(1)行政の関与の下で民間が一体的に開発・運営する、(2)行政の計画に基づき官民連携事業として開発・運営する、(3)民営の魅力付け施設から目的税を徴収し、行政が公的資金でMICE施設を整備するとともに観光振興やMICEマーケティングの強化を図るといった手法がとられている。

わが国のMICE戦略を担うフラッグシップ型大規模MICE施設の開発・運営についても、MICE施設と魅力付け施設との一体的な整備計画を策定すべきである。併せて、政府、地方自治体、民間事業者が計画の具体化を進める中で、官民の適切な役割分担と連携を図るとともに、収益と政策効果の最大化に向けて、関係者が上述の手法を含めて最適な手法を柔軟に選択できるよう、政府・自治体は、法整備や予算・税制措置、都市計画の見直しなど最大限の環境整備を行うべきである。

なお、今後の法整備により魅力付け施設にカジノが含まれる場合には、カジノがもたらす問題を抑え込むとともに社会的秩序維持を図るため、政府において、不正の防止など運営を監督するための体制構築が求められる。

(2) 国際戦略総合特区の活用

大規模MICE施設及び周辺の魅力付け施設を一体的に開発するために必要な広大な事業用地を確保し、またそれらの整備が都市計画の見直し等と一体的に進められるようにするため、国際戦略総合特区、あるいは、産業競争力会議で検討中の国家戦略特区(アベノミクス戦略特区)を最大限活用できるようにすべきである。

(3) クール・ジャパンファンドの活用

わが国の生活文化の特色を生かした魅力ある商品やサービスの海外における需要開拓を行うため、現在政府は「株式会社海外需要開拓支援機構法」の2013年通常国会における成立を受けて、(株)クール・ジャパン推進機構(仮称、以下「機構」)の設置準備を進めている。

政府は、フラッグシップ型大規模MICE施設開発において、観光などのアフターコンベンションも含めて、自然・文化・食・産業などわが国の幅広い魅力を発信する事業のため、民間が施設を整備する場合、経済産業大臣が定める「支援基準」において「機構」の支援の対象とすることを明確にすべきである。

5.フラッグシップ型大規模MICE施設の整備費用と経済効果

一般社団法人 日本プロジェクト産業協議会の試算に拠れば、フラッグシップ型大規模MICE施設を一体的に整備した場合の整備費用については、約5,600億円となる。

また、経済波及効果については、施設運営に伴うものが年間約5,800億円、施設整備事業に伴うものが9,300億円となる。以下は一般社団法人 日本プロジェクト産業協議会の試算結果である。

(1) 施設建設費

費目建設費
土地取得費450,000m2×30万円/m2= 1,350億円
土地造成費450,000m2×2.0万円/m2= 90億円
外構整備費90,000m2×3.0万円/m2= 27億円




MICE施設展示場(屋内)300,000m2×45.4万円/m2= 1,362億円
会議施設50,000m2×54.4万円/m2= 272億円
魅力付施設ホテル280,000m2×36.36万円/m2= 1,018億円
物販・飲食施設90,000m2×24.2万円/m2= 217.8億円
都市型エンターテイメント施設50,000m2×36.36万円/m2= 181.8億円
駐車場120,000m2×9.1万円/m2= 109.2億円
総建設事業費土地取得費+(土地造成費+外構整備費+施設整備費)×1.3(管理費等)= 5,576.1億円

(2) 経済波及効果

1. 施設運営に伴う経済効果
(A) 生産誘発額・雇用効果
指標金額(百万円/年)
総消費額281,275.1
1. 直接効果268,738.4
2. 間接1次波及効果187,855.2
3. 間接2次波及効果121,586.3
経済波及効果(1+2+3)578,179.9
4. 粗付加価値誘発額320,920.6
5. 国内純生産227,674.3
6. 雇用者所得誘発額153,980.8
7. 雇用効果12,116,634.6(人・日)
(B) 税収効果
指標金額(百万円/年)
国税25,971.5
都道府県税9,456.8
市町村税6,374.9
2. 施設整備事業に伴う経済効果(土地取得費除く費用4,226億円を対象)
生産誘発額・雇用効果金額(百万円)
1. 直接効果422,614
2. 間接1次波及効果395,243
3. 間接2次波及効果109,306
経済波及効果(1+2+3)927,163
4.付加価値誘発効果439,503
5.雇用誘発効果56,597(人)
(現時点で最新の2005年全国産業連関表により算定)

6.おわりに~政治的なリーダーシップの発揮~

MICEを成長戦略の重要なツールと位置付け、中長期的かつ総合的なMICE戦略の下で、フラッグシップ型大規模MICE施設の整備を進めていくためには、様々な地域・関係者との利害調整を経て立地地域を絞り込み、関係各省庁の施策を総動員しつつ、立地地域や民間企業と強力に連携していくことが不可欠である。この分野における政治の強力なリーダーシップを強く期待する。経済界としても、MICEの誘致、企画・運営、施設の整備や運営等、様々なかたちで、わが国のMICE振興、国際競争力の強化に一層注力していく所存である。

また、フラッグシップ型大規模MICE施設の国際競争力の向上とエリアの収益力確保のためには、上記「3.」で示したとおり、周辺の魅力付け施設との一体的整備が不可欠である。なかでも、国内では現行法上禁止されているカジノを開設・運営できるようにするかどうかは、経済性の観点からは極めて重要な論点となる。他方、倫理性の観点からはカジノに多様な意見が存在することも事実であり、さらに議論を深めなければならない。

現在、超党派の国会議員による国際観光産業振興議員連盟(IR議連)が提案している「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」については、カジノのメリット・デメリットの議論を踏まえ、政府がカジノ施設の設置及び運営に関し不正行為の防止及び有害な影響の排除を適切に行う観点から必要な措置を講じることを明記している。また、総理や政府の観光立国推進閣僚会議も必要な制度上の措置について検討する方向性を示している。

経団連としては、かかる法案の状況と、MICEを巡る国際競争が激化し大規模MICE施設をカジノを含む魅力付け施設と一体的に開発することが国際的な流れになっていることを踏まえつつ、経済性と倫理性を踏まえた国民的な議論と政府内での検討が一層深化し、早期に結論が得られることを強く期待する。

以上

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