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Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 日本再興戦略に基づく税制措置に関する提言

2013年7月10日
一般社団法人 日本経済団体連合会

日本再興戦略に基づく税制措置に関する提言(概要)

1.はじめに

政府は6月14日に「日本再興戦略」(成長戦略)を閣議決定した。安倍政権が進める大胆な金融緩和、機動的な財政政策に続く第3の矢として、民主導の経済成長を促すための施策が数多く盛り込まれている。経済界としても、自らが経済成長のエンジンであるとの気概を新たに、新事業の創生を含め、経済の活性化、国内における投資や雇用の維持・拡大に向けて、積極的に取り組んでいく。

わが国の立地競争力を強化し、内外の企業による投資を促進するためには、法人実効税率の引き下げが不可欠である。経済活動の主体は国民と企業であり、雇用の主体は企業である。企業の成長、新産業の台頭なくして雇用の増加はなく、消費の拡大も実現しない。復興特別法人税の課税期間が終了する平成27年度を待つことなく、法人実効税率を最終的にはアジア近隣諸国並みの約25%まで引き下げるよう、道筋を示すための議論を早期に開始すべきである。

また、成長基盤の確立のため、消費税率の10%までの引き上げを着実かつ円滑に実施すべきである。

成長戦略では、日本産業再興プランの一環として「産業の新陳代謝の促進」が掲げられている。具体的には、向こう3年間(集中投資促進期間)で設備投資を10%増加させ、リーマン・ショック前の民間投資の水準である年間約70兆円まで回復させることなどが目標とされている。これを受けて、現在、政府では、投資減税や円滑な事業再編に資する税制措置などが検討されており、与党も含めた検討プロセスは、通常の平成26年度税制改正とは切り離され、前倒しとなる見込みである。

経済界としては、こうした政府・与党の迅速な対応を歓迎する。税制措置が年末/年度末を待たずに決まれば、企業としても経営・投資計画がより立てやすくなる。この際、重要なことは、これらの措置が政策目的に照らし、真に効果的なものとなるよう制度を構築することである。かかる観点から、以下では、成長戦略に基づく税制措置のうち緊急に取り組むべき課題について、提言を行うこととする。

2.成長戦略に基づく税制措置

(1) 投資減税

成長戦略では、「生産設備の新陳代謝(老朽化した生産設備から生産性・エネルギー効率の高い最先端設備への入れ替え等)を促進する取組を強力に推進し、これに応じて設備の新陳代謝を進める企業への税制を含めた支援策を検討し、必要な措置を講ずる」とされている。

平成25年度税制改正で創設された生産等設備投資促進税制が、その制度設計からして、投資の量に着目した投資減税である一方、今回の投資減税は投資の質に着目した税制であると整理することができるが、成長戦略の政策目的からすれば、質と同時に量も期待されていると解される。

したがって、今回の投資減税は、特定の法律に基づく認定や対前年度で投資額が増加する等の要件を付すことなく、使い勝手のよい簡素で普遍的な仕組みとすべきである。たとえば、業種によっては、最先端設備への「入れ替え」といった概念が馴染まない場合もあることから、競争力の強化に向けた新製品・高付加価値製品の製造、生産能力の増強、生産の効率化、省エネ、耐震化(津波対策を含む)、更新等に係る投資については幅広く「新陳代謝」の定義を満たすものとして、特例を認めるべきである。対象設備については、機械・装置といった資産に限定することなく、生産設備と一体不可分である構築物や無形固定資産(生産や物流に係るオペレーション・システムの効率化に資するソフトウェア)、建物も含めるべきである。なお、非製造業も含め、日本全体で投資を拡大するためには、生産設備に限らず、事業用資産全体を対象とすることが不可欠である。

措置内容については、少なくとも生産等設備投資促進税制に伍するものとすべきであり、具体的には、大法人、中小法人を問わず、特別償却に加え、税額控除の選択適用も認めるべきである。

投資減税の手法としては、伝統的に特別償却(即時償却を含む)が採用されることが多いが、特別償却は、投下資本の早期回収に資するというメリットはあるものの、税負担は資産の耐用年数を通じて見れば変わらない。税額控除は絶対的な減税であり、政策目的を達成するための投資インセンティブとしてより優れている。

なお、「新陳代謝」に先立ち、既存設備の除却を行うケースが考えられるが、多額の除却損を計上した結果として欠損金額が生じた場合には、その欠損金額のうち除却損からなる部分の金額について大法人にも繰戻還付を認める等の措置を講じるべきである。

これらの措置は、集中投資促進期間にかかわらず最低5年の措置とすべきである。また、切れ目なく投資を喚起していくためには、成長戦略の実行初年度である平成25年度から特例の適用が受けられるようにすべきである。

既存の生産等設備投資促進税制について検証を行い、改善を図ることも重要である。例えば、減価償却費を上回る生産等設備への投資を行わなければ特例の適用が受けられないといった要件は過度に厳格である。投資の量に着目した税制であるならば、投資額が対前年で増加するという要件で足りる。業種、業績、事業規模の別によって使い勝手が大きく異ならぬよう配慮する必要がある。また、グリーン投資減税の拡充も検討すべきである。

さらに、投資減税一般について言えることは、法人税における特例に加え、償却資産に係る固定資産税の減免を行うことが効果的ということである。国家戦略として投資拡大を進めるのであれば、国レベルでの投資減税とともに、地方においても戦略に即した取り扱いを行うべきである。少なくとも今回の投資減税において法人税の減免措置を受けた資産については、それに対応して償却資産に係る固定資産税についても免除とするなど、国・地方で整合性のとれた措置とすべきである。また、競争力強化に資する設備投資をリースで行う場合にも固定資産税の減免を行い、リース取引を活用した投資の促進を図るべきである。

(2) 事業再編の円滑化や起業の促進に資する税制措置

  1. 出資先企業の損失との通算
    競争力の強化を目的とした複数の企業による事業の分離・統合、新分野への展開を後押しする観点から、一定の要件を付した上で、分離先企業における立ち上げ期の損失を出資比率に基づき分離元企業において認識し、損益通算できる措置を講じるべきである。
    また、これを機に、日本版LLC、すなわち法人格を有し経済主体としての確固たる地位を備える一方、税制上は事業体として法人課税を受けることなく、直接その出資者段階でのみ課税(パス・スルー課税)が行なわれるという仕組みについて、幅広く検討すべきである。

  2. 連結納税および組織再編税制に係る検討
    連結納税については平成22年度税制改正で連結子法人の欠損金額の持ち込み制限の緩和が行われたが、さらなる利便性の向上を検討すべきである。例えば、連結納税を適用している法人が事業再編対象会社の株式を100%保有すると、その対象会社は強制的に連結納税に加入となり、原則として時価評価課税が行われるため、円滑な事業再編のハードルとなる場合がある。一定の要件を満たす場合には時価評価の適用除外とするなどの措置を講ずることが考えられる。
    また、企業の組織再編成を活発化させる観点から、税制適格要件のあり方について不断の検証を行うとともに、特例法による認定等、一定の要件を満たす自社株対価TOBについては、株主における譲渡損益の繰り延べ措置を講じることを検討すべきである。

  3. 法人のベンチャー投資促進
    ベンチャー企業への資金供給を拡大し、新産業の興隆を促す観点から、法人が行う一定の要件を満たすベンチャー投資については、その投資額の損金算入を認める等の措置を検討すべきである。
    さらに、リスクマネーに対する個人投資の積極活用を図るべくエンジェル税制の拡充を検討すべきである。

上記は、成長戦略に基づく税制措置の一例に過ぎない。この他にも、研究開発税制の拡充、パテント・ボックスの導入、自動車関係諸税の簡素化・負担軽減、国家戦略特区の具体化、タックス・ヘイブン対策税制の見直し(特に英国、タイ等の税率引下げを踏まえたトリガー税率の早期見直し)、租税条約の締結・改定の推進等、わが国の成長に向けて、取り組むべき課題は山積している。そこで、経団連としては、別途9月を目途に、成長基盤の確立に向けた社会保障と税の一体改革の着実な推進とあわせ、これらの項目を含む包括的な平成26年度税制改正に関する提言を取りまとめることとする。

政府・与党においても、成長戦略を早期・着実に実行するとともに、必要に応じ、果敢に第2、第3の戦略を打ち出すべきである。

以上

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