1. トップ
  2. Policy(提言・報告書)
  3. 税、会計、経済法制、金融制度
  4. 景品表示法への課徴金制度導入に対する意見

Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 景品表示法への課徴金制度導入に対する意見

2014年4月15日
一般社団法人 日本経済団体連合会

はじめに

昨年、食品表示に関する一連の不正事案が発生したことを受け、政府は今国会に不当景品類及び不当表示防止法(以下、景品表示法)等改正法案を提出し、その中で課徴金制度の導入について検討を進める方向性を示しているところである。

経済界としては、まずは各事業者が自らの商品・役務の適正な表示を確実なものとし、消費者の信頼を得ることを最優先させなければならない。そのためには社内の体制を再点検し、誤表示を防ぐことに努めることが肝要であると考える。その過程で、景品表示法などの現行ルールの周知徹底が必要となることは言うまでもなく、消費者庁によるガイドラインなどの整備は急務である。

そのうえで、政府が景品表示法の抑止効果を高めるために課徴金制度の導入を検討する際には、事業者の前向きな努力を生かす視点も必要である。また、同制度が食品に限らずあらゆる商品・役務が対象となる厳しい行政制裁であること等に照らせば、拙速な検討を進めるべきではなく、制度の趣旨・目的をふまえた慎重かつ十分な議論を行うことが必須である。

以下、課徴金制度の導入についての経済界の意見を述べる。

1.課徴金制度導入の検討についての基本的な考え方

故意に消費者を混乱させたり、不正であることを知りながら不当表示を行うような悪質事業者については、市場から排除されるべきであり、そのような行為に対しては、厳格かつ迅速な対処が必要であることは当然である。そのような悪質な違反を防ぐ手段として、景品表示法に課徴金制度を導入することが必要かどうかについては、制度の趣旨・目的や、これまで繰り返し行われてきた議論を踏まえ、十分な議論を行うべきである。

そもそも、表示を作成する事業者の実務においては、何が景品表示法上の不当表示にあたるのかということについて厳密な判断をすることが困難な状況にある。各事業者がコンプライアンスを徹底し、不当表示を確実に無くすためには、事業者が表示を作成するにあたって参考となるわかりやすいガイドラインの策定を急ぐべきである。特に、厳しい行政制裁である課徴金制度を導入するということであれば尚更、企業の表示に関する実務に萎縮効果や混乱を生じさせないためにも、課徴金制度が施行されるのに先立ってガイドラインが十分に周知徹底されていなければならない。

また、業界によっては、公正競争規約によって表示に関するルールを定めたり、業法等で行政の指導を受けながらガイドラインを定めたりしている。消費者庁は、このように当然あるべき水準として認められているルール等に従って表示を行っている限り、景品表示法上問題とならないということを明確にすべきである。

課徴金制度の目的は、後述のとおり、違反行為の抑止と考えるべきところ、課徴金が厳しい行政制裁であることに鑑みれば、同制度は違反行為の抑止に資する数ある手段の中でも、最終的な手段として運用されるべきである。まずは、消費者庁によるガイドラインの策定及び周知徹底がなされることを前提として、それにもかかわらず軽度の過失により不当表示を行ってしまったような事業者に対しては、注意、指導、指導に従わなかった場合の事業者名の公表といった段階的な措置が講ぜられる中で自主的な改善の機会が与えられるべきである。特に、事業者名の公表は、消費者から厳しく批判されることになり、違反行為の抑止という観点からは極めて効果的である。他方、故意による不当表示といった悪質な行為については、公表が制裁として機能しないと考えられ、課徴金による制裁も有効であると考えられる。

2.課徴金制度の趣旨・目的

課徴金制度の目的は、違反行為の抑止とすべきである。

独占禁止法において課徴金制度が導入された当初は、課徴金制度の目的は不当利得の剥奪であると説明されていた。しかし、同法の平成17年改正における課徴金減免制度の導入や平成21年改正における主導的事業者に対する課徴金の割増し制度の導入以降、不当利得の剥奪という制度目的では説明がつかなくなっている。現在では、課徴金は行政上の制裁であり、課徴金制度の目的は違反行為の抑止であるとの理解が一般的であることから、景品表示法における課徴金制度の目的も違反行為の抑止と捉えるべきである。

また、不当表示事案において、不当利得を具体的に算定することは非常に困難であることからしても、課徴金制度の目的を不当利得の剥奪と捉えることには無理がある。

なお、課徴金制度の目的に被害回復の視点を持ち込むことは不適切である。事後的な被害の回復は行政的な手段ではなく、民事手続によってなされるべきものである。

3.対象事案の限定

(1) 対象行為

課徴金制度の対象行為は、優良誤認・有利誤認となる表示行為(景品表示法第4条第1項第1号・第2号)に限るべきである。

指定告示に係る表示(同法第4条第1項第3号)は、あくまでも「誤認されるおそれがある表示」であり、優良誤認・有利誤認と明確に認定される不当表示とは法的性格が異なる。また、不実証広告規制に係る表示(同法第4条第2項)は、合理的な根拠なく商品または役務の効果や性能の著しい優良性を示す表示を迅速に規制するために、措置命令の規定(同法6条)の適用についてのみ優良誤認表示と「みなす」ものである。これらを課徴金制度の対象行為とすることは、課徴金制度は措置命令のように違反行為の差止めや誤認の排除を目的とする緊急的な措置ではないこと、また、実体的には不当表示と確定していない表示行為に対して課徴金を課すことになることから、不適切である。

(2) 主観的要素

課徴金制度の対象は、悪質性の高い事案に限定すべきである。

課徴金は、カルテルやインサイダー取引のような定型的に悪質性が高い事案について、違反行為の抑止という行政目的を達成するための制度として運用されており、それらの制度との均衡を考える必要がある。

また、たとえば食品には地域によって名称が異なるものや、同一種の範囲が明確でないものなど、不当表示であるか否かの判断が微妙な場合が多く、表示を行うあらゆる場合に課徴金のリスクが伴うような制度では、事業者に混乱や萎縮効果が生じかねない。

さらに、課徴金という厳しい行政制裁を課すのであれば、処分の前提としての審査や事前手続など一定のデュープロセスが確保される必要がある。もし、あらゆる不当表示事案について課徴金を課すことになれば、かえって機動的な行政の対応の足かせとなるおそれもある。

加えて、流通の最終段階の小売事業者や飲食店が、メーカー、製造元、卸売業者等の説明を信じ、それに基づいて事実と異なる表示を行ってしまったという場合、従来の表示の主体性に関する考え方に基づけば、小売事業者に表示の主体性が認められ、課徴金が課されるということになりかねない。しかし、流通経路が複雑になった現代において、流通の全ての過程を把握して川上における間違いを認識することは困難な場合が多い。

したがって、基本的には、行政による指導に従わず不当表示を繰り返した場合や、事実と違うことを知りながらあえて行うような事案、事実と違うことを知らないことにつき相当の注意を著しく怠ったと認められる事案など、故意・重過失の事案のみを対象とすべきである。

なお、故意や重過失の存否を含め、課徴金を課すべき違法行為があったことの立証責任は、原則どおり不利益処分を課す行政の側が負うべきである。課徴金を課される事業者は、処分を下されたことに対する事後の不服申し立て手続の段階に至るまでは、違反行為の不存在や過失がなかったことなどにつき中立的な対審構造のある場で十分に主張・立証する機会を与えられない。故意や過失がなかったことを事業者が立証できなければ課徴金を課すという制度設計は一方的であり、事業者の正当な防御権を確保する観点から大きな問題があることから、強く反対する。

4.課徴金の水準及び額の算定方法

既に述べたとおり、課徴金制度の目的は違反行為の抑止であり、この行政目的を超える額の課徴金が課されることがないようにすべきである。

また、独占禁止法における不公正な取引方法に関する課徴金制度は、特定の優越的地位濫用の場合(同法第20条の6)以外は、繰り返し違反した場合に課される累積違反課徴金である(同法第20条の2~5)。景品表示法の不当表示は、もともとは「不公正な取引方法」(昭和57年公取委告示第15号)(一般指定)の第8項「ぎまん的顧客誘引」をより具体化した規定であり、同法が公正取引委員会から消費者庁に移管された後もその規制範囲は実質的には変わっていないことに鑑みれば、独占禁止法上の不公正な取引方法に係る課徴金制度と平仄を合わせるという視点からの検討が必要である。

さらに、事業者が、間違った表示に基づく被害に応じて既に顧客に返品・返金・交換など何らかの自主的な対応をしている場合には、課徴金額の調整措置を行うべきである。少なくとも、事業者が顧客に返金等を行った実額については、その分を課徴金額から減算する措置が認められるべきである。このような措置により、事業者の自主的な取り組みを後押しすることとなることが期待される。

5.手続保障

独占禁止法においては、課徴金納付命令が行われる前に、名あて人となるべき者に、意見申述の機会が保障されており、今般の改正でその手続保障は更に拡充された(現行独占禁止法第50条6項、平成25年改正法第62条第4項)。また、金融商品取引法においては、事前の審判手続が保障されており(金融商品取引法第178条1項)、公認会計士法においても同様である(公認会計士法第34条の40第1項)。景品表示法においても、課徴金納付命令が下された場合の事業者の社会的・経済的な不利益の大きさに鑑みれば、弁明の機会等の事前手続が定められるべきである。

6.徴収した課徴金の取扱い

徴収した課徴金については、独占禁止法や金融商品取引法の場合と同様に国庫に入れるべきである(独占禁止法第7条の2等、金融商品取引法第172条以下)。徴収した課徴金を消費者団体などに配賦することについては、違反行為の抑止という課徴金制度の目的を踏まえると不適切である。消費者団体等への経済的支援のあり方については、別途、消費者政策の予算配分の中でその適否を論ずるべきである。徴収した課徴金を個人に配賦することについては、違反行為の抑止が目的である課徴金制度に、民事手続が果たすべき損害填補の役割を担わせるものであり、行政の果たすべき役割を超えており、我が国の法体系になじまない。そもそも、被害者の特定や個々の被害額の算出が困難な場合が多く、誰もが納得する公平な制度設計は望めない。昨年導入が決まった集団訴訟の趣旨を損なうことのないよう、損害の填補は、民事手続に委ねるという原則を徹底すべきである。

7.わかりやすいガイドラインの策定と周知

以上の前提として、先にも述べたとおり、事業者が表示を作成するにあたって参考となるわかりやすく精緻なガイドラインが策定され、周知されることが必要である。現状ではどのような表示が景品表示法違反になるのかという明確な線引きが明らかではない。事業者がコンプライアンスを徹底し、景品表示法上の不当表示を確実に無くすためには、この点がわかりやすく提示される必要がある。課徴金制度を導入するということであれば尚更、企業の表示に関する実務に萎縮効果や混乱を生じさせないためにも、景品表示法違反か否かの判断に資するわかりやすいガイドラインの策定及び周知を求める。

以上

「税、会計、経済法制、金融制度」はこちら