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Policy(提言・報告書) 経済政策、財政・金融、社会保障 多様で柔軟な企業年金制度の構築に向けて

2014年9月16日
一般社団法人 日本経済団体連合会

多様で柔軟な企業年金制度の構築に向けて(概要)

I.はじめに

わが国の企業年金制度は、2000年代前半に確定給付企業年金(以下、DB)、確定拠出年金(以下、DC)が導入された後、大きく構造変化している。

かつては厚生年金基金や適格退職年金が企業年金の中心であったが、2012年3月末に適格退職年金が廃止され、本年4月には厚生年金基金制度の見直しに係わる法律が施行され、財政状況の健全な厚生年金基金を除いて5年以内に解散若しくは他制度への移行を促すこととなった。今後はDB、DCがわが国企業年金制度の中核を担っていく見込みであり、企業年金制度は大きな節目を迎えている。

これまで、経団連では、企業年金を労使合意に基づく退職給付制度の基幹的な制度として位置づけ、税制措置の拡充と規制改革を通じて、制度の持続性・健全性向上に努めつつ、より柔軟で多様な制度設計の実現を繰り返し提案してきた。公的年金制度改正の議論と併せて、国民の老後生活の安定を図る観点から、改めて企業年金のさらなる普及・拡大に向けた議論が進むことを期待し、本提言で以下指摘する問題意識も踏まえながら、企業年金制度の全体的な見直しに対する経済界の考え方を示すこととする。

II.制度見直しの必要性

1.企業活動を取り巻く環境変化への対応

経済のグローバル化が進展する中、企業グループ内の会社分割や統合といった組織再編だけではなく、グループを超え、かつ制度創設時に想定していなかった海外も含めた外部企業との合併や買収等、企業再編の動きが加速している。

企業年金もこうした動きに円滑に対応できるようにすることは重要な課題である。

2.制度間のイコールフッティングの確保

DBやDCを導入した当時、DCに関して貯蓄性を排除し、年金性を確保する観点並びに厚生年金基金の給付設計をもとにしたバランスを確保する観点から、DBには見られない制約が設けられた。これらはその後一部改善されてはいるものの、依然として各企業の実情に応じた多様な制度設計を困難にしており、従業員にとって不利益が生じている事例もある。

DB、DC間のイコールフッティングを確保し、DCを基幹的な企業年金制度の一つとして構築可能とすることが課題である。

3.多様な働き方への対応

従来一般的な働き方とされた一度会社に入ったら定年まで同じ会社に勤め続けるという枠組みは、企業側、従業員側双方の多様なニーズがある中で変わりつつあり、企業間、企業年金制度間での労働移動も増えている。加えて、相対的に勤務期間の短い労働者の割合も高まっている。厚生年金の被保険者が横ばいで推移する中、企業年金の加入者数も伸び悩み、近年企業年金を実施する企業の割合は増えていない。働き方の多様化が進む中で、老後の所得確保を着実に行える仕組みの普及・拡大が求められる。

III.具体的な見直し案

1.多様な制度設計を可能とするDCの実現

  1. (1)拠出限度額の大幅な引き上げ
    現在の拠出限度額では、平均的な企業の賃金カーブや退職金水準に基づくと、中高年層や役職の高い者の掛金が企業型DCの拠出限度額を超過してしまうケースが見られる。拠出限度額内に収まらない場合には、DC中心の退職給付制度構築を断念し、DBとの併用、さらには企業年金以外の制度(例えば、前払いでの現金支給)も活用し、複雑な制度設計を余儀なくされているケースも生じており、現金支給での前払いとなれば企業年金として受け取れず従業員にとっても不利益となっている。また、DCとDBを併用するとDCの拠出限度額が半減することから、DBの継続自体を断念するケースも生じている。
    そこで企業型DCの拠出限度額について、DBとのイコールフッティングを図る観点から、確定給付型の年金制度を実施している場合に拠出限度額が半額になる制約は早急に無くすべきである。また、限度額そのものについても本来撤廃が望ましいが、先ずは現行から大幅に引き上げるべきである。

  2. (2)脱退一時金の受取り要件の見直し
    現行DCでは貯蓄性を排除するため、一部を除き原則60歳以降の受給としている。しかし、わが国の企業年金は退職給付制度の一つとして活用されており、DBとの比較で、制度導入の制約となっている。従業員側も退職直後の生活資金や公的年金支給までのつなぎ資産としての活用に対するニーズが強い。
    したがって、DCにおいても、DBとのイコールフッティングを図る観点から、DBと同様に、退職した時点での脱退一時金の受取りを可能とすべきである。

  3. (3)運用商品除外手続きの緩和
    現在、企業型DCにおいて、運用商品を除外するためには、当該運用商品を選んでいる加入者等全員の同意が必要とされるが、実務上、その取得がきわめて困難である。加入者にとって、運用商品を入れ替えることで、同じ運用対象であっても信託報酬などコストの節約、パッシブ商品におけるトラッキングエラーの改善などメリットを受けられる。
    そこで、企業型DCにおける運用商品の除外にあたり、加入者等の全員同意を求める要件は緩和し、従業員代表(若しくは労働組合)の同意の下で行えるようにすべきである。仮に除外が難しい場合、同様に従業員代表(若しくは労働組合)の同意の下かつ十分な周知期間を確保し、当該商品選択者に配慮しつつ少なくとも新規購入の停止を可能とすべきである。

  4. (4)マッチング拠出の完全自由化
    企業型DCのマッチング拠出を導入する企業は着実に増加している。しかし、従業員は事業主掛金を超える金額を拠出できないため、若年層など事業主掛金が少額にとどまる場合、自助努力による積立が阻害されている。
    従業員に対してDC加入のメリットを訴求し、自助努力のインセンティブ向上につなげる観点から、拠出限度額内でのマッチング拠出を完全自由化すべきである。

2.円滑な制度間移行

現在、DB、DCや関連制度間の相互の移行措置は講じられているが、企業再編時に企業年金の調整対応に多くの時間を要するほか、適用事業所の変更を伴う従業員の異動のたびに煩雑な手続きを求められる等、円滑な対応が難しい。

そこで、企業労使の現場の実情を踏まえ、DBにおける個人単位での権利義務移転・承継での手続きの簡素化や、適用事業所単位ではなく労使合意に依拠した制度間移行に係る手続きの容認などが求められる。さらに、DBからDCへの移行時に関して、単なるDBの給付引下げとは異なることを踏まえ、DBの給付減額要件や同意取得手続きの見直しなどが求められる。

3.中小企業への企業年金の普及

現在、企業年金に加入する厚生年金加入者は4割強にのぼるが、従業員規模別で見ると、近年、中小企業における企業年金の実施率が低下している。中小企業からは、企業年金設立にあたり、DBでは追加拠出リスクや運営コスト、DCでは事務負担や投資教育の負担の大きさなどが指摘されている。

そこで財政検証等の手続きを簡素化したDBの導入や、DCにおける加入者による商品選択を容易にするための処置、さらにはDB、DCにおける運営事務の共同化など、中小企業の運営コストを極力抑えられる新たな仕組みが求められる。

4.個人型DCの再検討

現行の個人型DCは、企業年金の補完的な位置づけとされたこと等から、加入対象者や掛金の積み増しなどに大きな制約が設けられている。このため、加入者数は企業型DCに比べ著しく少ない上、企業型DCから移行した運用指図者が年々増加している。ポータブルではあるものの、老後の所得確保には役に立たない制度になりかねない懸念がある。

そこで、公的年金制度改正を踏まえつつ雇用の流動化、個人の自助努力に対する選択肢の拡大などのニーズにしっかり対応し、幅広い現役世代が参加できる仕組みを目指して、老後所得の確保を図る観点から、政策的支援のあり方を含め個人型DCの抜本的な見直しを中長期的に検討すべきである。その参考として、ドイツのリースター年金や米国のIRA(Individual Retirement Account)など欧米主要国の導入例が考えられる。

5.グローバル化への対応

経済のグローバル化が進展する中、日本企業で働く外国籍の労働者が増え、日本のDCに加入したものの帰国する際に受け取れないケースも生じている。

この問題に対しては、DCにおける脱退一時金の受取り要件を見直すだけでなく、将来的には日本と海外の制度間のポータビリティを確保するため、租税条約に所要の規定を盛り込むことも求められる。

また、日本人が海外で長期に亘って働く機会が増えるにつれて、長期の海外勤務者が日本のDB、DC加入資格を失い、不利益も生じるケースもある。

そこでDB、DCの加入資格の取り扱いを弾力化し、長期の海外勤務者が加入継続できるようにすべきである。

6.その他税制・現行制度の改善

企業年金の持続可能性の確保、更なる普及のために、上述の1~5以外にも税制の見直しや様々な規制、手続き面の改善が求められる。

特に、退職年金等の積立金に係る特別法人税については、平成26年度税制改正において課税凍結措置の延長が図られたが、企業年金の拡充の方向性と逆行するものであり、国際的にも稀な税であることから、速やかに撤廃すべきである。

さらに、政府の「規制改革実施計画」(2014年6月24日閣議決定)に盛り込まれた項目はじめ、別表1に掲げる様々な制度改善についても積極的に取り組むべきである。

なお、企業年金制度の位置づけについて、公的年金と同様の終身年金であるべきとの議論もあるが、これまで同様、退職金制度との関係や老後の所得確保としての制度の双方の観点から、労使合意に基づき制度設計できるよう、諸制度の改善を図るべきである。

このほか、企業年金はじめ私的年金の普及・拡大に向けては、制度運営にかかるコストを低減していく努力も必要である。前述した通り中小企業にとっては既存のDB、DCでは様々な事務負担の重さが問題視されている。個人型DCの説明資料のように一般的な加入者には容易に理解し難い内容、分量となっている例など改善の余地がある。DCにおいては、より多くの加入者が自分にとって最適な年金運用を実践できるように、デフォルト商品を活用することで商品選択を容易にする工夫も必要である。さらに制度間移行時などでの現物移管についても利用できる範囲は限られている。

これらの課題に対しては、規制、手続きの見直しと併せて、制度に係わる関係者が率直に意見交換し、より良い制度構築に向けて、主体的に取り組むことが求められる。

【別表1 企業年金に関する制度改善要望】

要望項目
DC 加入者期間が短い事による受給開始年齢繰り下げの見直し
60歳以降のDC継続加入要件の緩和
DC運営管理機関の変更届出事項の簡素化
中途退職者の個人型DCへの移換手続きの簡素化
出向者などの加入対象者の取り扱いの弾力化
掛金の納付期限の弾力化(拠出漏れ時、合併時の規約承認が合併月末日までに承認されない時等での事後補正の容認)
掛金の払い込み方法の弾力化(DB同様年1回以上定期的に払い込む事を可能とする)
脱退一時金の企業年金連合会への移換を可能とする
DB 個人単位での権利義務移転・承認手続きの簡素化
適用事業所単位に代わり、労使合意ベースでの諸手続きの容認
DBにおける承認・認可申請手続きの簡素化
DBの有期期間の延長
選択一時金の要件緩和
過去勤務債務の償却方法の弾力化
閉鎖型DBにおける規約制定・変更手続きにおいて、労働組合等の同意手続きの省略を可能とする
DBの脱退一時金のポータビリティ要件緩和(勤続20年以上の者も含め、全員に対する脱退一時金相当額のDCへのポータビリティを認める)
脱退一時金の支給にかかる加入者期間の要件緩和(支給要件該当性の判断に用いる加入者期間について休職期間を控除する取り扱いを認める)
継続基準に抵触した場合において、解消すべき不足金を許容繰越不足金を上回る部分までとする下方回廊方式を可能とする
65歳超で定年年齢が設定されている場合、65歳超の規約で定める年齢に到達した時点で年金の受給開始を可能とする
50歳未満の退職者について、50歳以上60歳未満の規約に定める年齢に到達した時点で年金の受給開始を可能とする
一時金として支給する額の上限の計算にかかる下限予定利率の要件緩和
DBからDCに脱退一時金相当額の移換の申し出に係わる「移換先制度加入3ヶ月以内」の要件廃止
脱退時の年金受給者の債務計算に関わる規制の見直し(現金保有による元本確保の選択肢の容認)
制度間移行 DBからDCへの移行時の積立不足の解消方法の弾力化
DBからDCへの移行時の同意取得要件の緩和(DCへの移管対象者に限定)
退職一時金からDCに移行する際の償却要件の緩和
60歳以降に転籍した場合のDCへの加入要件の緩和
中小企業退職金共済からDB、DCへの資産移換に係わるポータビリティの向上
以上

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