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Policy(提言・報告書) 環境、エネルギー 当面のエネルギー政策に関する意見

2014年10月7日
一般社団法人 日本経済団体連合会

1.はじめに

東日本大震災後、産業用の電気料金が約3割上昇し、国民生活や企業活動に大きな影響を与えている。また、原子力発電所の停止に加え、円高修正やエネルギー価格の上昇により、2013年度の燃料輸入費は2010年度比で約10兆円増加し、経常収支黒字は3年連続で減少している。足もとでは為替がさらに円安方向に振れており、このような状況が今後も続けば、経済の好循環に支障が生ずるのは避けられず、エネルギー問題は、最優先で取り組むべき喫緊の課題である。そこで、経団連として、以下のとおり提言する。

2.原子力発電所再稼働プロセスの加速

原子力は、エネルギー安全保障や経済性ある価格での電力供給確保の観点から、極めて重要なエネルギー源であり、政府はその必要性に関し、国民に向けた分かりやすい説明を行っていくとともに、引き続き重要なベースロード電源として活用するための環境整備を進めるべきである。

原子力発電所の停止が続けば、電気料金のさらなる上昇が避けられなくなることから、安全性の確保を大前提に、再稼働プロセスを最大限加速する必要がある。そのため、原子力規制委員会の人員体制のさらなる強化などにより、審査の効率性や審査内容の予見可能性の向上を図るべきである。また、政府は、立地地域が求める防災対策等に万全を期すとともに、再稼働の必要性を明確に説明する必要がある。産業界としても、関連事業者が安全性向上に向け不断の努力を行うとともに、再稼働の必要性を訴えていく所存である。

3.地球温暖化対策税の抜本的見直し

「地球温暖化対策のための税」(地球温暖化対策税)は、わが国のエネルギーコスト上昇に拍車をかけており、経済の足かせとなることが懸念される。東日本大震災後の化石燃料消費増により、当初見積もりを超える税収があったと考えられる#1一方、石油石炭税全体において、一般会計に留保されて地球温暖化対策に活用されていない税収や、エネルギー対策特別会計に繰り入れられても翌年に繰り越されている税収があるなど、課税の必要性に疑義が生じている。

地球温暖化の防止と経済成長を両立させるための鍵は技術開発であるが、地球温暖化対策税はその原資を奪うばかりでなく、相対的にエネルギー効率が悪い地域への生産移転を促進させることにより、地球温暖化や国内産業の空洞化を助長している面があることは否めない。

したがって、課税の廃止を含めた抜本的見直しこそが喫緊の課題であり、森林吸収源対策や地方の地球温暖化対策への使途拡大をすべきでない。森林吸収源対策等のための新たな課税にも反対である。

#1 税収実績が明らかにされておらず、政策の意義を検証することができない。透明性の欠如も大きな問題である。

4.再生可能エネルギー導入策の見直し (詳細は別紙1参照)

再生可能エネルギーは、エネルギー安全保障や地球温暖化防止の観点から極めて高いポテンシャルを有する重要なエネルギーである。

再生可能エネルギーの固定価格買取制度(以下、「FIT」)により再生可能エネルギーの導入量は急拡大し、認定された設備の全てが稼働すれば、2030年時点の発電電力量のうちの再生可能エネルギー等の割合を約2割にするという、エネルギー基本計画の目標に達することとなる。これに伴って国民負担も急増し、認定を受けた設備がすべて稼働すれば、賦課金額だけで年間約2兆7千億円に上ると試算されている。系統増強コスト等が加われば国民負担はさらに大きくなる。

また、導入された再生可能エネルギーの大部分が太陽光発電であり、地熱発電や風力発電、バイオマス発電等、他の再生可能エネルギーの普及促進が妨げられている。

現在、政府の総合資源エネルギー調査会の下に新エネルギー小委員会が設置されているが、現行FITの不合理を是正し、国民負担を抑制するため、以下のような、現行法の下で可能な措置を講じるとともに、賦課金減免制度のあり方を含む制度の抜本的な見直しに向けた検討を本格化すべきである。

  1. 発電事業者のコストデータの調査方法見直し(設備等に関する領収書提出を義務付け)
  2. 買取価格の半期毎の改定
  3. 買取価格算定の適正化(最も効率の良い事業者のコストや設備の国際価格を考慮等)
  4. 利潤特別配慮期間の法定通りの終了(1~2%のIRR上乗せ廃止)
  5. 「設備の軽微変更」にかかる運用の適正化(所有者変更時等は再申請)
  6. 運転開始までのリードタイムが短く設備価格が低下している太陽光のような電源の買取価格決定時期の適正化(運転開始時に買取価格を決定)

5.エネルギーコスト低減に向けた取組み支援策

エネルギーコストの上昇に歯止めがかからないなか、企業は自助努力でコストダウンに取り組んでいるが、それも限界に近づきつつある。したがって、国全体で企業の省エネ・創エネ設備導入支援策を拡充する必要があるとの観点から、経団連では、企業のエネルギーコスト低減のため必要な方策について、会員企業を対象にアンケートを実施したところ、主なものとして、以下のような意見が寄せられた。これらの早期実現に向け、関係者の取組みが求められる。

※アンケート結果概要については別紙2参照。

(1)補助金

「エネルギー使用合理化等事業者支援補助金制度」等、既存の制度について、利用者の利便性向上の観点から、以下の措置を講ずるべきである。

  • 公募から申請受付締切・交付決定から事業完了までの期間の延長
  • 単年度事業における年間公募機会の複数化(本年度は6月~7月の1回)
  • 複数年度事業における年度またぎ期間(2~4月)の事業実施に係る要件の緩和

(2)政策融資

日本政策金融公庫の「環境・エネルギー対策資金」等について、以下の改善を行うべきである。

  • 対象の拡大(中小企業に限定されているので、大企業も活用可能とする)
  • 投資額に応じた融資をする等の柔軟な運用
  • 申請手続の簡素化

(3)税制

以下の措置を講ずるべきである。

  • グリーン投資減税の期限延長
  • 自動車関係諸税の簡素化・負担軽減

6.電力システム改革

国民生活や企業活動にとって、良質な電力が経済性ある価格で安定供給されることは不可欠である。現在、政府において議論されている電力システム改革の詳細制度設計は、将来におけるわが国の電力供給の仕組みの基本となるものであるが、以下の懸念が残る。

諸外国においては、自由化が電力価格の低下につながらず、むしろ上昇するケースが多い。わが国ではエネルギー供給が不足している状況にあり、資源輸入国であるため資源価格が海外情勢に左右されやすいことから、電力システム改革により電力価格が上昇する懸念はより強くなる。

安定供給に関しても、各事業者が採算性を踏まえて電源投資の是非を決めるため、原子力のような大規模投資が必要となる電源やピーク電源、再生可能エネルギーのバックアップ電源等、低い稼働率が見込まれる電源への投資が確保されなくなるおそれがある。これに対しては容量メカニズムや、電源建設・維持の公募入札制度等で対応することが検討されているが、実際に安定供給が確保されるような電力システムが構築されなければならない。

その他、送配電部門の法的分離と小売料金規制の撤廃が行われる第3段階において、発電事業者の円滑な資金調達に支障が生じる、発電・送配電・小売部門が分離されることにより災害時等の緊急事態に電力の安定供給確保が困難になる、といった懸念も完全に払拭すべきである。

7.おわりに

国民生活の向上や持続的な経済成長を実現するためには、経済性ある価格によるエネルギーの安定供給が不可欠である。今後は、ここで述べた当面の課題に加え、エネルギー・ミックスや温室効果ガス削減目標の策定のような重要問題にも取り組まねばならない。

エネルギー資源の大部分を海外に依存するわが国としては、エネルギー効率の向上を図るとともに、多様なエネルギー源を選択肢として維持し続けることが求められる。とりわけ、原子力は発電の過程でCO2を排出しないことから、地球規模での気候変動問題の解決にも貢献できるエネルギーである。

産業界としては、低炭素社会実行計画の着実な推進を通じ、経済活動との両立を図りながら、省エネ・低炭素化に引き続き努力する所存である。政府においては、安全性の確保を大前提に、エネルギーの安定供給、経済性、環境適合性(S+3E)の適切なバランスがとれたエネルギー・ミックスを早期に策定すべきである。また、来年末のパリでのCOP21において、2020年以降の新たな気候変動枠組みの合意が目指されているなか、温室効果ガス削減目標は、エネルギー・ミックスを踏まえたものとすべきである。

以上

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