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Policy(提言・報告書) 科学技術、情報通信、知財政策 宇宙基本計画に向けた提言

2014年11月18日
一般社団法人 日本経済団体連合会

1.はじめに

経団連は、国民生活の向上や安全保障の強化等のため、宇宙開発利用の推進に向けた提言を重ねて公表してきた。昨年1月に政府が策定した宇宙基本計画では、安全保障・防災、産業振興、宇宙科学等のフロンティアが重要項目に位置付けられた。2008年に施行された宇宙基本法や2012年に改正された宇宙航空研究開発機構(JAXA)法により、安全保障目的の宇宙利用や産業振興のための法整備が進んだが、今後こうした分野における取組みの本格化が期待される。

安全保障については、昨年12月に政府は外交・安全保障政策の司令塔として内閣に国家安全保障会議を設置し、同月に閣議決定された国家安全保障戦略および防衛計画の大綱のなかで、安全保障分野における宇宙開発利用の推進が示された。

また、宇宙産業については、民間企業による衛星やロケット打上げサービスの海外からの受注が増えつつある。一方、国内需要の大半を占める政府の宇宙関係予算は約3,000億円で停滞し、宇宙関連企業の撤退や技術者の減少などにより、宇宙産業基盤の維持・強化が喫緊の課題となっている。特に、政府の長期的かつ具体的な宇宙開発利用の工程表がなく、産業界が投資の予見可能性を高められないことが大きな問題である。

こうした動きを踏まえ、本年8月に公表された宇宙政策委員会基本政策部会「中間取りまとめ」では、安全保障政策と宇宙政策の連携を強化し、宇宙産業基盤の持続的な維持・強化に資する形で宇宙開発利用の基本方針を再構築する必要性などが指摘された。

本年9月から、宇宙政策委員会が新たな宇宙基本計画を年末までに策定する検討を開始したことから、以下の通り、新計画に向けた提言を取りまとめた。

2.宇宙政策委員会基本政策部会「中間取りまとめ」に対する評価

新計画の基礎となる宇宙政策委員会基本政策部会「中間取りまとめ」において、横断的観点から検討すべき項目として、「宇宙を活用したわが国の安全保障能力の強化」、「宇宙協力を通じた日米同盟の強化」、「アジア太平洋諸国を含む各国との国際宇宙協力体制の構築」、「長期的な衛星等整備計画の立案を通じた産業基盤の維持・強化」が取り上げられたことを評価する。

また、「中間取りまとめ」における宇宙インフラおよび宇宙利用ニーズに関する各分野(衛星測位、リモートセンシング、通信・放送、宇宙輸送、安全保障、宇宙科学・探査および有人宇宙活動、新規参入・利用開拓)の施策については、経団連の主張と方向性が同じであることを評価する。

3.新たな宇宙基本計画のあり方

(1) 重要課題

  1. 安全保障の強化
    わが国を取り巻く安全保障環境に鑑み、「中間取りまとめ」に示された安全保障分野の宇宙利用を強力に推進し、C4ISR#1機能を強化することにより、統合的かつ機動的な防衛力を構築する必要がある。
    防衛省の運用要求に基づき、観測・監視や通信などのシステムについて、安全保障と民生分野におけるデュアルユース、安全保障分野で確立された技術の民生転用、相乗り衛星の打上げなど関係府省が連携した取組みを着実に進めるべきである。
    また、安全保障に資する衛星システムの継続的かつ安定的な利用を確保するため、衛星の抗たん性の確保や通信妨害対策の強化も必要であり、さらに宇宙ゴミ(スペースデブリ)対策も求められる。
    米国との宇宙協力の推進については、日米安全保障協議委員会(2+2)共同発表で指摘された宇宙状況監視(SSA:Space Situational Awareness)や海洋状況把握(MDA:Maritime Domain Awareness)の取組みを進める必要がある。その際、情報やデータの共有だけではなく、わが国の優れた宇宙システムの活用を図ることが重要である。

    #1 Command (指揮), Control (統制), Communications (通信), Computers (コンピューター), Intelligence (情報), Surveillance (監視), Reconnaissance (偵察) の略語。敵の状況を正確に把握し、味方を適時適切に運用するための機能。

  2. 宇宙産業の振興
    国家としての宇宙政策の自律性や自在性を確保するため、まず、わが国の宇宙産業の技術・生産基盤の維持・強化が重要である。また、企業が世界市場に向けて展開している様々な衛星やロケット打上げサービスをさらに拡大するため、国際競争力の強化に資する効果的な産業振興策を推進すべきである。
    その際、宇宙機器産業については、企業の投資や人材育成に資する具体的な長期整備計画を策定した上で、ユーザーのニーズも踏まえた衛星やロケットの開発を図るとともに、衛星や輸送系の製造力を支える部品等を国産技術により安定的に確保するための研究開発や実証を推進すべきである。また、衛星の統合的運用、データの相互運用性と継続性の確保に向けた地上インフラの構築が必要である。このため射場や追跡・管制などの地上設備の老朽化対策を行うとともに、新たな衛星のミッションに対応する地上設備や地上ネットワーク等を計画的に整備していく必要がある。
    宇宙利用産業については、観測データが効果的に利用できるシステムの整備とともに、官民が連携して利用技術の開発と実証を行い、事業者が衛星情報やデータの利用サービスなどを促進すべきである。
    また、新興国等に対する宇宙分野のパッケージ型インフラ輸出の拡大のため、官民の連携を強化すべきである。このため、宇宙産業の国際競争力の強化の観点から、国際的な整合性も図りつつ衛星のデータ開示基準などを定めたデータポリシーやリモートセンシング法(仮称)の制定が必要である。同法が制定されるまでは、ガイドライン等を策定して相手国の要請に対応できるようにすべきである。
    宇宙活動法(仮称)を迅速に制定し、衛星やロケット打上げならびに運用において事故が起きた際の官民の損害賠償責任のあり方などの明確化を図り、民間事業者の参入を容易にすべきである。
    政府および通信・放送事業者が衛星を効果的に運用するためには、国が戦略的に周波数や軌道の権益を確保することが重要である。また、PPP(Public Private Partnership)により、官民が協力して費用対効果が高い宇宙システムの構築や運用を図ることも必要である。
    また、1990年の日米衛星調達合意については、産業振興を妨げることがないよう見直しを行うべきである。

  3. 科学技術力の強化
    宇宙開発利用の基盤となる科学技術力を強化し、強力な宇宙インフラを構築していくべきである。
    宇宙利用推進の観点から、基礎研究とともに応用・実用研究を促進し、利用ニーズに適合した宇宙システムの開発を進めていくべきである。
    また、こうした宇宙システムを活用した国際協力や国際貢献を進めるとともに、わが国の国際的なプレゼンスを示すため科学技術力の継続的な向上が必要である。

(2) 推進体制の強化

  1. 宇宙開発戦略本部による総合的な政策の推進
    宇宙開発戦略本部は司令塔機能を発揮し、関係省庁の施策の総合調整や予算の管理を行うとともに、プロジェクトのPDCAを着実に実施すべきである。また、宇宙基本計画の検討など政府の中心的な役割を果たしている内閣府宇宙戦略室において、宇宙関連法制の整備等に対応するため、技術的な知識を持つ専門家を含む人員の増強などにより体制を強化する必要がある。
    安全保障分野では、宇宙開発戦略本部は国家安全保障会議や総合海洋政策本部などと緊密に連携すべきである。また、省庁間においては、内閣府、内閣官房、防衛省、外務省など関係府省が連携を強化する必要がある。

  2. JAXAの活動の推進
    2012年7月に施行された改正JAXA法の趣旨に沿って、JAXAにおける安全保障および産業振興の取組みを推進すべきである。安全保障については、防衛省との連携をさらに強化するとともに、産業振興については、目標と方向性を明確にし、技術的な支援や助言を行うべきである。

(3) 工程表の策定

国民生活の向上や安全保障の確保、国際社会への貢献のため、長期的な宇宙開発利用の工程表を策定する必要がある。これは、国が長期的かつ安定的に調達を行うアンカーテナンシーとなり、ロケットや衛星の技術の継続的向上など産業基盤の強化に資する。こうした観点から工程表には分野別の衛星等の打上げや法制整備の時期、事業規模、官民連携の進め方を明記すべきである。

まず、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを大きな目標として、わが国のプレゼンスを世界に示せる宇宙開発利用の実現を目指すべきである。このため今後5年程度で、官民を合計した衛星の打上げ数は年間7~10機程度、事業規模は現在の約3,000億円から5,000億円まで増加させることが求められる。このうち民間は年間1~2機程度の打上げ数、5,000億円のうち1割程度の事業規模を目指す。

  1. 安全保障
    情報収集衛星システムの機能を拡充・強化すべきである。具体的には、現行の光学衛星2機とレーダー衛星2機による4機体制から、10機体制の実現を図るとともに、地上系の情報利用システムを整備する必要がある。
    また、Xバンド通信衛星、早期警戒システム、偵察衛星、電波情報収集衛星の開発や整備、撮像頻度の向上に資する小型衛星の活用が必要である。非常時のための即応型衛星打上げシステムも整備すべきである。
    宇宙状況監視(SSA)に関しては、光学センサやレーダーを利用する監視システムを構築すべきである。宇宙利用国が増大し、衛星の破壊実験や衝突などにより宇宙ゴミが増大するなか、宇宙の安定的利用を確保するため、宇宙ゴミを除去する技術開発にも取組むべきである。
    海洋状況把握(MDA)に関しては、主管省庁の明確化など政府の体制をまず整備し、衛星を効果的に利用した監視システムを構築することが必要である。

  2. 測位
    現在1機が運用されている準天頂衛星について、まず2018年までに4機体制を整備し、次にわが国としての自律測位が可能となる7機体制を2020年代初頭に実現すべきである。
    また、準天頂衛星の安全保障分野への活用や高精度測位技術による新産業の創出、アジア・太平洋地域へのサービス提供のため、地上システムやアプリケーションと一体となったパッケージ展開を推進すべきである。

  3. 観測
    観測データの継続性の確保と安定的な提供を図るため、衛星ならびに地上システムの開発を行うことが必要である。
    このため気象衛星や陸域観測衛星などの整備や運用を継続的に進めるとともに、観測ネットワークの構築や、世界レベルの能力の向上を目指した開発を図るべきである。
    また、地球規模の環境問題解決に貢献するため、温室効果ガスや植生・水循環等を広域かつ高精度で把握する環境観測衛星の継続的な整備や運用、頻発する災害への対策や防災、国土管理等に資する広域かつ高精度の観測が可能な先進光学衛星の開発を進めるべきである。
    さらに、ユーザーが利用し易いアプリケーションと一体となったパッケージ展開を推進すべきである。

  4. 通信・放送
    通信・放送衛星の世界市場の規模は大きいことから、国際競争力強化に資する将来の利用ニーズを踏まえた先進的な研究開発などを推進すべきである。具体的には、通信容量を調整できるフレキシブルペイロードや広帯域伝送などの次世代の高度情報衛星通信の技術開発と軌道上実証、光データ中継衛星の開発を進めるべきである。

  5. エネルギー
    エネルギー基本計画において、将来のエネルギーの1つとして取上げられた宇宙太陽光発電システムの研究開発や実証実験を進めるべきである。

  6. 有人宇宙活動
    国際宇宙ステーションの運用にあたり、宇宙ステーション補給機「こうのとり」の機能の継続的な向上や日本実験棟「きぼう」の活用を促進すべきである。
    2021年以降の国際宇宙ステーションへの参加や国際宇宙探査については、外交上の意義やわが国がこれまで培った技術の優位性の継続的な確保などを踏まえ、参加のあり方を検討する必要がある。

  7. 宇宙科学
    宇宙科学ミッションについては、世界最先端の研究開発を目指すとともに、毎年継続的に実施する必要がある。

  8. 輸送
    宇宙輸送システムは、わが国が人工衛星等の打上げを自在に行い、自律的な宇宙へのアクセスを確保するための必須の基盤である。持続可能な宇宙輸送システムを実現するため、ロケットの価格や性能の国際競争力の向上を図るべきである。
    基幹ロケットについては、H-IIAロケットおよびH-IIBロケットの安定的な運用と信頼性の向上を図る必要がある。新型基幹ロケットの着実な開発を進めて2020年の打上げを実現するとともに、ロケットの再使用や帰還技術などの研究開発を推進すべきである。
    また、イプシロンロケットは小型衛星の活用にとって重要であり、性能向上やコスト低減等により競争力の強化を図りつつ、継続的に打上げを行うべきである。また、固体燃料技術の維持・向上が必要である。
    射場については、老朽化対策や機能向上のための整備を図るべきである。

以上

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