Policy(提言・報告書) 地域別・国別 中東・アフリカ  TICAD Vのフォローアップの加速を求める -戦略的マスタープランならびに産業人材育成に関する考え方-

2014年11月18日
一般社団法人 日本経済団体連合会

はじめに

日本政府が2013年6月の第5回アフリカ開発会議(TICAD V)で打ち出した横浜行動宣言は着実に進展し、目下、準備段階から実行段階に移行しつつある。たとえば、選択と集中の考えに基づくアフリカの10カ所の広域インフラ整備を行うための戦略的マスタープランの策定は、8カ所について現地調査と検討が進められている。また、雇用創出に直結するアフリカの産業人材の育成支援のため、アフリカの24カ国を対象とする10カ所の人材育成センターの設置がスタートしている。さらに、5年間で1000人のアフリカ諸国の若者を日本に留学させるABEイニシアティブ(African Business Education Initiative for Youth)は、第一陣の約150名が9月にアフリカ各国から来日するなど、順調に滑り出している。

これら3つのプロジェクトはいずれも経団連が2013年1月にTICAD Vに向けて公表した提言を具体化したものであり、これまでの政府の取り組みを高く評価したい。

他方、本年1月に経済界代表も多数同行した安倍総理のアフリカ訪問は、TICAD Vにおいて公表したわが国官民によるアフリカの経済発展に対するコミットメントをアフリカ各国との間で再確認する極めて重要な機会となった。その結果、その後、アフリカ各国からの官民要人の来日が目に見えて増加するなど、わが国に対する期待は一段と高まりを見せている。

これに応えていくためには、わが国の官民は一体となって、スピード感をもって着実にTICAD Vのフォローアップに努めていくことが重要である。

そこで、上記の3つのプロジェクトが本格化しつつあるこの時期に、期待通りの成果を早期にあげるために、下記事項を提言するものである。経団連としては、日本政府の取り組みを受けて、民間の立場から、対アフリカ貿易投資の一層の拡大に向けて取り組んでいく。

なお、TICADのインターバルを5年から3年に短縮し、次回を2016年に初めてアフリカで開催することが政府で検討されている。経団連は、インターバルの短縮を大いに歓迎するとともに、その着実な実現を関係国・機関に強く求めるものである。

また、エボラ出血熱をはじめとする感染症がアフリカの経済成長に影響することのないよう、日本政府はじめ関係国は、連携を強化し、感染症の撲滅にむけた協力体制を築いていくことが必要である。

1.実効性ある戦略的マスタープランの策定

(1)官民対話の推進

アフリカの広域インフラ整備のための戦略的マスタープランは、アフリカの経済開発に貢献する民間投資を主に海外から誘致し、もって現地経済の好循環を形成するとともに、アフリカ市場をグローバル経済に統合していくことを目指すものである。また、その策定にあたっては、日本企業のプレゼンスを着実に確保する視点が必要である。

目下、2013年から5年間で10件の戦略的マスタープランの策定を目指し、そのうちの8件が順調に進んでいる。その成否は、これらの広域インフラの整備が民間投資をいかに呼び込めるかにかかっている。したがって、マスタープランの策定は、広域インフラの建設を受注する主体であり、また、投資家でもあるわが国民間企業の声に絶えず耳を傾けながら進めることが必要である。その一環として、外務省およびJICAには経団連や関心を有する企業と恒常的な対話を行うことが求められる。

(2)受注を意識したシナリオの準備

マスタープランの策定にあたっては、日本企業の受注が想定される広域インフラ・プロジェクトについて、たとえば、日本企業が強みをもつ規格の採用、ODAによる関連技術の移転や人づくりでの協力、現地人材の活用、完成後の維持管理・品質保証要件の明確化や環境保全等におけるわが国のきめ細かい協力をパッケージで供与するシナリオを予め準備し、国際競争入札に万全の体制で臨むことが求められる。

(3)経済連携を視野に置いたマスタープランの策定

マスタープランの策定にあたっては、広域インフラの整備が周辺国に与える経済効果を考慮して行うことが必要である。

たとえば、沿岸国の港湾整備に際しては、内陸国からのアクセス道路を併せて整備することで、様々な周辺地域経済への波及効果が期待できる。内陸国で天然資源が産出される場合には、資源の搬送コストの低下などが期待できる。また、当該資源を活用した川下産業の育成も可能であることから、バリューチェーンなどの構築を港湾整備と並行して構想することも重要である。さらに、周辺国が農業国の場合は、食糧自給や農産物輸出のための物流網やコールドチェーンの形成を構想しながら関連インフラの整備を考えることが求められる。

また、アフリカ各地では、各種の地域経済統合が推進されており、通貨統合を果たしている地域もある。こうした国境を越えて広がる経済圏の健全な発展に貢献する観点から広域インフラ整備を進めることも重要である。この関連で、国境を跨ぐ橋梁や道路などの整備とともに、関係諸国に通関制度の調和や統一を働きかけて、経済統合を促進することが必要である。

(4)工業団地の建設

日本企業、特に中堅・中小企業の対アフリカ投資を推進するためには、電力施設や上下水道が完備した工業団地の整備が有効である。マスタープランの策定にあたっては、これら日本企業の進出を念頭においた工業団地の設置が求められる。これら工業団地計画の策定にあたっては、かつてわが国がその多くを手がけた東南アジアでの工業団地建設の知見を活かすべきである。

(5)個別のマスタープランに対する要望

  1. モンバサ港開発事業とモンバサ経済特区のマスタープランには、隣接地区の開発であるにも拘わらず、それぞれにコンテナターミナル建設が計画されており、両者間を調整すべきである。
  2. ナカラ回廊関連のマスタープランは、対象地域が広いことから、各地に分散型発電施設を設けるべきである。また、現在洋上ガス田のガスを利用したLNG事業化が進んでおり、そのガスの有効利用を可能とするパルマ港開発、GTLプラントやガスケミ・プラントの建設、パイプライン、ガス火力発電所および変送電設備の整備が求められる。さらに、他のドナー国や国際機関との調整の進捗状況も適宜開示すべきである。
  3. 西アフリカ成長リング回廊関連のマスタープランの策定にあたっては、大量輸送に適した鉄道敷設の可能性を追求すべきである。その際、優れた日本式の鉄道制御技術の導入を念頭においた規格化が求められる。
    また、本プロジェクトには、多くの援助・被援助国が関わる上に、同地域で事業展開を考えている日本企業もある。そこで、回廊全体の整備計画の全貌を早期に開示するとともに、適宜進捗を開示することが求められる。さらに、わが国が、他のドナー国や国際機関と協力して進めていることを強調することも必要である。
  4. 北部回廊整備計画とタンザニア物流システム強化計画は、ルワンダとブルンジへの物流網整備という点で目的が共通しており、重複、競合しないよう調整すべきである。
  5. 南部アフリカ広域電力網整備は、わが国企業が実証実験段階に至っているような先端技術を展開するよい機会でもあり、その活用につなげる戦略を構築すべきである。
    また、南アでは再生可能エネルギーの全発電に占める割合が拡大しており、太陽熱発電のような新たな再生可能エネルギー電源の確保に加え、蓄電池利用等による電力の安定供給の必要性が高まっている。これらの分野で、日本企業が強みを発揮できるよう、政府には現地関係者の日本への招聘や現地セミナーの開催を通じて周知に努めることが求められる。
  6. タンザニアの物流システム改善のマスタープラン策定にあたっては、同国の運輸省や財務省をはじめとする関係者を日本に招き、日本型システムの優れた点を十分アピールするとともに、現地で技術セミナーを開催し、わが国の受注に確実につなげることが重要である。
  7. マスタープランは、単にハードだけではなく、その実行の受け皿となる現地側組織や必要な人材とその育成計画についても併記提案するなど、実現可能性を高める工夫が必要である。

2.実効性ある戦略的マスタープランの実行

(1)関連資機材の搬入に対する便宜供与

物流や交通などのインフラが未整備な国・地域で、マスタープランに基づく広域インフラを建設する際、必要な資機材の搬入が、受注企業にとっては大きな負担になる。

政府には、搬入に際して周辺国の有する港湾や道路が優先的に利用できるよう、当該の広域インフラの波及効果の重要性を周辺国に周知するとともに了解を得ることが重要である。

(2)地熱発電の試掘リスクの軽減

大地溝帯における地熱開発では、海外経験が豊富で国際競争力のある日本企業が環境保全を図りながら精度の高い試掘が実施できるようにすべきである。特に、大地溝帯における地熱開発協力では、試掘に伴うリスクを官民で負担できるスキームを確立することが必要である。また、タイド円借款やリスクカバーを織り込んだJBIC・NEXIをはじめとする公的金融スキームを確立すべきである。さらに、プラント建設の段階では、現地人材の育成、地熱発電の意義や技術等についての理解促進のための現地セミナーの開催で、一段の政府の協力を求めたい。

(3)相手国(ホスト国)政府への要望

民間投資の促進のためには、マスタープランに沿ったインフラ整備とともに相手国(ホスト国)の事業環境の整備が必要である。かかる観点から、下記事項の実現について、日本政府からアフリカ各国に対して直接の働きかけをすべきである。

  1. 投資企業に対するインセンティブの強化(リスク負担の軽減など)
  2. 投資手続きの明確化と許認可の迅速化
  3. 治安等の社会環境の改善
  4. 南部アフリカ開発共同体(SADC)、東アフリカ共同体(EAC)、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)など地域経済統合の進展にあわせた域内物流の自由化と関税撤廃の徹底

3.実効性ある産業人材育成センターの運営

(1)官民一体の運営

アフリカ各国がわが国に期待する人材育成は、雇用に直接結び付く効果を有するものであり、また、現地で操業する日本企業が求める人材育成も即戦力となる産業人材の教育である。これらの期待に応え、学校は卒業したけれど働き先がないということの起きないよう、人材育成センターの対象国選定やカリキュラム編成や教え手となる専門家(講師)の配置にあたっては、卒業生の受け入れ先となる可能性の高い現地日系企業(製造業)の声を聞きながら進めることが重要である。

その際、企業に聞くべき事項としては、研修で扱うべき分野、入学者の選抜基準、卒業生に求める技術水準、求める専門家(講師)の水準、講師養成での協力可能性、研修の方法、卒業生への就職斡旋の可能性等が挙げられる。なお、アフリカにおいては、労働倫理など従業員の労働に対する基本的姿勢を教えることのニーズが高く、カリキュラム編成にあたって考慮すべきである。

また、輩出した人材の進路などの情報は、運営に協力する日系企業と共有するとともに、そこから得られる教訓は、カリキュラムの編成等にフィードバックするメカニズムを構築することが必要である。

(2)JICAの責任ある関与

人材育成センターの設置がハコモノの建設だけで終わることのないよう、長期にわたってJICAがセンターの運営に関わり、技術協力を推進することをコミットすることが必要である。少なくとも研修プログラムが5年以上継続できる予算措置を講じるとともに、研修プログラムの継続の是非が問題となる際には、必ず現地日系企業や研修生自身の意見を聞いて決めるべきである。いかなる場合であっても財源の消滅を理由に、突然プログラムを終了することは避けるべきである。また、これまでJICAが各国で個別に実施してきた職業訓練事業、人材育成センター事業等についても、オールジャパンで取り組み、その体制や進捗状況が外部からわかりやすいものとし、国境を越えた事業間の連携を促進して、南南協力を強化すべきである。

関連して、止むを得ない事情で過去に事業終了後に相手国に運営を引き継いだ施設については、現地日系企業が独自の技術研修実施のために活用したいという希望も寄せられている。こうした希望に応えられるよう日本政府が当該国との調整にあたるべきである。

(3)卒業生とのネットワークの構築

海外技術者研修協会(旧:財団法人海外技術者研修協会(AOTS)、現:一般財団法人海外産業人材育成協会(HIDA))の成功に倣い、同窓会等を立ち上げ、卒業生の進路を確認し、長期にわたりトレースし、卒業生間の連絡網や人脈の形成に努めることが求められる。

4.ABEイニシアティブにおける留学生受け入れの万全な体制の構築

ABEイニシアティブの留学生は、わが国有数の大学院(修士)で高度で実際的な教育を受けることに加えて、わが国企業でインターンとしての研修を積むことが求められている。インターン研修の成否は、留学生が専攻する専門分野と受け入れ企業の業務内容が正確にマッチしているかどうかにかかっている。したがって、このプログラムを担当するJICAは、留学生の受け入れを希望する企業が提供できる業務内容を正確に把握し、留学生の希望と的確なマッチングを行うことが求められる。

また、留学生の受け入れを希望する中堅・中小企業の中には、優れた技術を有する一方で、これから国際化に取り組む企業もある。こうした実態に鑑み、留学生にはある程度の日本語教育を施すことが求められる。

なお、来年度以降は、アフリカ各国に進出している日本企業からの推薦による受け入れ人数の拡大をお願いしたい。また、政府に就職が内定した者には応募の機会が与えられない国もあったと聞いており、こうした事例への対応策を予め講じておくことも課題である。

以上