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Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 BEPS行動7(PE認定の人為的回避の防止)に係わる公開討議草案に対する意見

2015年1月6日

OECD租税委員会御中

一般社団法人 日本経済団体連合会
税制委員会企画部会

BEPS行動7(PE認定の人為的回避の防止)に係わる
公開討議草案に対する意見

OECDが2014年10月31日に公表した「公開討議草案 BEPS行動7:PE認定の人為的回避の防止」に対し、以下の通り経団連の意見を提出する。

総論

ある企業が、現行制度に照らし、本来PE(Permanent Establishment:恒久的施設)認定がなされるに足る十分なネクサスを源泉地国に有するにも関わらず、人為的な取決めによりPE認定を回避するならば、そのような行為を防止するのは当然である。また、経済のデジタル化の進展により、一部、既存の枠組みの中では処理が困難な課題が生じており、制度の見直しに向けた議論を行う必要があることも理解できる。経団連は、源泉地国における不当な税源浸食の防止、デジタル・エコノミーへの対応、企業間の平等な競争条件の確保の観点から、BEPS行動7の具体化に向けたOECDの取り組みを支持する。

しかし、今回の公開討議草案は、BEPS対策という主たる目的を超えて、全般的にPEの範囲拡大、源泉地国における課税強化となる恐れのある内容となっている。BEPS行動計画において「これらの行動は、国境をまたぐ所得に対する課税権の配分についての既存の国際基準を変更することを直接の目的としているわけではない」とされていることとの整合性に十分配慮した検討が求められる。

行動7において取り組むべきは、まず、PE認定の人為的回避を防止することに焦点を絞った対策を打ち出すこと、すなわち「失われた税収を取り戻す」ということであり、仮に本来PEとすべきでないものをPE認定することによって源泉地国で「新たな税収を生み出す」ことを意図しているならば、行き過ぎである。既に各国ではPEの拡張的な解釈が日常的に行われており、企業は不合理な二重課税に直面している。対策は、このような状況も考慮に入れたバランスの取れたものとすべきである。

また、今回の公開討議草案では、OECDモデル租税条約第5条の具体的な改定案としてA~Nの14のオプションが提示されているが、必ずしもその文言の定義が明確とはいえず、課税当局による主観的な解釈、恣意的な運用が行われ、納税者の課税関係が不安定となる恐れがある。PEの範囲は、ある国で企業が法人所得課税に服するか否かを決する重要な閾値の役割を果たしており、その規定は可能な限り明確であるべきである。

さらに、今回の公開討議草案では、PEの帰属所得に係る提案が行われていない。現状、PE帰属所得の具体的な計算方法は各国の国内法に委ねられており、同じ「帰属所得」といっても相当な乖離が生じている。OECD加盟国においては今後、AOA(Authorised OECD Approach:OECD承認アプローチ)の導入推進が期待されるが、OECD非加盟国においてはAOA採用の見通しが立っておらず、今後もみなし利益率による課税やワールド・ワイド課税といった、AOAと整合しない所得計算が行われる恐れがある。こうした状況におけるPEの範囲の拡大は、自動的に二重課税の拡大を意味する。PEの範囲についてOECD/G20で新たな合意を得ようとするならば、その帰属所得の計算方法についても一定のコンセンサスを得なければバランスを欠く。

仮に今回の公開討議草案の内容がそのまま採用されれば、二重課税への懸念から、企業の既存のビジネス・モデルに多大な影響が及び、結果としてクロスボーダーの経済交流の妨げとなる恐れがある。したがって、OECDが今後、行動7に係る最終勧告を取りまとめる際には、BEPSの防止やデジタル・エコノミーへの対応に焦点を絞った対策を、明確な規定により、PEの帰属所得に係るルールとあわせ、改めて提案することが期待される。加えて、PEに係る紛争を確実に解決するため、行動14(紛争解決)における相互協議の効率化などを含め、実効性のある対策を打ち出す必要がある。

これらの基本的な認識を踏まえた個別のコメントは以下の通りである。

コミッショネア契約
(基本的な考え方)

公開討議草案では、まず、コミッショネア契約を「ある国において自らの名において製品を販売するが、これらの製品の所有者である外国企業のために行う者に係る取決め」と定義付けている(パラ6)。その上で、「多くの場合において、コミッショネア・ストラクチャ及び類似の取決めが、主として販売が行われる国における課税ベースを浸食する目的で実行されたことは明らか」との認識を示し、「政策マターとして、ある国における仲介者の活動が、外国の企業による通常の契約の締結に結びつくよう意図されたものである場合には、その企業はその国に十分な課税上のネクサスを有すると見なされるべき(仲介者がこれらの活動を独立事業として行う場合を除く)」としている(パラ10)。しかし、「課税ベースを浸食する目的で実行されたことは明らか」との見方は一面的であり、企業の実態を正しく反映していない。

まず、公開討議草案は、Buy-Sellの販社をコミッショネアに転換することで所得を不当に低い水準に減少させるようなケースを問題視しているようだが(パラ7)、業態転換によって常に所得水準が低下するわけではない。むしろBuy-Sellの販社として在庫保有その他のリスクを抱えながら営業活動を行っていたのでは高コストとなり、その販社が熾烈な販売競争の中で十分な利益が確保できないという状況において、各地の販社をコミッショネアへと業態転換し、在庫リスクおよび管理コストをプリンシパルへ集中させることで、コミッショネアの利益がコミッション収入により安定化する場合もあり得る。

また、「コミッショネア・ストラクチャ及び類似の取決め」とあるうち「類似の取決め」が何を意味するのか明らかではないが、例えばある国と他の国との取引が当初は直接販売だったケースにおいて、ある時点から他の国に所在する子会社をBuy-Sellの販社としてではなく、仲介者として置くことは、事業上の理由を伴う通常の行為であり、「課税ベースの浸食」を意図したものではない。すなわち、その子会社は、ある国と他の国が地理的に離れている中で、他の国に所在する顧客からの要請に基づき、単にその顧客との日常的なコミュニケーションを行うという機能を果たしているに過ぎないかもしれない。あるいは、その子会社がBuy-Sellの形態を取らないのは、その子会社の財務力では売買取引に係る信用リスクを負えないからかもしれない。このような企業行動を一律にBEPSと断定することは合理的でない。

そもそも、Buy-Sellからコミッショネアへの転換については、移転価格税制において必要な対応が行われており(移転価格ガイドライン第9章「事業再編に係る移転価格の側面」)、濫用的な事例により課税ベースが浸食されているならば、PE概念の拡張ではなく、まずはコミッション収入がALP(Arm's Length Price:独立企業間価格)に照らし適正であるか等を含め、移転価格税制の文脈で解決を試みるのが適切である。

(提案に対するコメント)

公開討議草案では、「コミッショネア契約及び類似のストラテジ」を通じたPE認定の人為的回避に対処するため、OECDモデル租税条約第5条5(従属代理人)及び6(独立代理人)の改正案として、A~Dの4つのオプションを提示している。これらはいずれも独立代理人の要件を厳格化するものであり、かつ、従属代理人に係る改正ついて、2×2により4つのバリエーションを提示している。

すなわち、(1)現行モデル条約第5条5 における 「企業の名において」(in the name of)との文言がもたらす課題への対応として、契約を締結する権限ではなく、契約の「対象」(財産の所有権移転、役務の提供)に着目するアプローチ、又は契約の「実態」(計算及び危険)に着目するアプローチがありえると整理した上で、(2)契約の交渉を行ったものの最後は契約を締結しないという手法に対処するため「契約の締結に結びつく方法で特定の者と関わる」、又は「契約の重要な要素を交渉する」との選択肢を提示している。

これらをまとめると以下の通りである。

契約の対象に着目
(所有権移転、役務)
契約の実態に着目
(計算及び危険)
契約の締結に結びつく
方法で特定の者と関わる
オプションAオプションC
契約の重要な要素を
交渉する
オプションBオプションD

この理解を前提に、各オプションを見ると、まず、契約の実態に着目したアプローチ(オプションC及びD)は、過度に対象範囲が広くなる恐れがあり、賛同できない。

その上で、「契約の締結に結びつく方法で特定の者と関わる」とのアプローチ(オプションA)も、拡大解釈を招くことから受入れ困難である。オプションAを採用する場合には、単なる情報収集や、潜在顧客や取引先との面会アレンジを行うに過ぎない場合でもPE認定される恐れがある。これに対し、オプションBは、オプションAに比べれば文言上、PE認定されるリスクが低いと考えられるが、それでも「契約の重要な要素」とは何かについて、明らかではない。A、Bいずれの提案も課税当局による主観的・恣意的な運用に繋がりかねないものであり、企業の海外子会社への出向実務に相当の制約が生じるとともに、ビジネスの予見可能性が著しく損なわれる恐れがある。

独立代理人については、従来、第5条6においてPEに該当しないとされていたが、公開討議草案では「専属的に又はほとんど専属的に一の企業又は関連企業に代わって行動する者は、この6の規定の適用上、それらの企業の独立代理人とはされない」との文言が追加され、要件が厳格化された。

しかし、現行第5条コメンタリパラ38.6にあるように、「当該代理人の活動が、当該代理人が危険を負担し、当該代理人の企業家としての技能と知識の利用を通じて報酬を受領する当該代理人によって遂行される自立的な事業を構成するか否かを決定する際には、すべての事実及び状況が考慮」されるべきであり、一律にプリンシパルの属性で判定すべきではない。

準備的・補助的活動
(基本的な考え方)

準備的・補助的活動のみを行う事業の一定の場所が恒久的施設の例外とされるのは、現行第5条コメンタリパラ23にある通り、「このような事業を行う場所は当該企業の生産性に貢献するのももっともだと考えられているが、それが遂行する役務は現実の利得の実現とはかなり距離があるので、問題となる事業を行う一定の場所に利得を配分することは困難」だからである。

したがって、仮に準備的・補助的活動の適用除外について定めたモデル条約第5条4を改正するのであれば、問題となる特定の事業の場所が、少なくとも「利得を配分するに足る事業の場所」であることが国際的に合意されなければならない。表現を変えれば、依然として利得を配分することが困難と判定されるケースについては、課税当局、納税者双方に追加的な負担を求めてまで新たなPEのカテゴリーを創出する必要はない。

(提案に対するコメント)

公開討議草案では、「モデル条約第5条4のいくつかの部分が明示的に準備的・補助的活動に言及していないことは、4の本来の趣旨、すなわち、4は準備的・補助的活動のみをカバーする、ということと整合的ではない」(Executive Summary)との認識を示した上で、第5条4の改正案としてオプションE~Hを提案している。このうちオプションEは、第5条4に掲げるすべての活動が準備的・補助的である必要があることを明確化するものである。

一方、オプションF、G、Hは、オプションEが採用されない場合における、より焦点を絞った個別の改正とされる(パラ16)。すなわち、オプションFは、ある企業がオンラインで販売する商品を引き渡す目的で、相当数の従業員が働く非常に巨大な倉庫を有しているケースに対処するため、5条4a)及びb)における「引渡し」との文言を削除するものである(パラ17~20)。

また、オプションGは、単純購入非課税を廃止したAOAとの整合性を図るべく、第5条4d)から「購入」との文言を削除するものである(パラ21~27)。オプションHは第5条4d)自体を削除することにより、「購入」に加え「情報収集活動」との文言も削除するものである。情報収集活動を削除する理由としては、「情報収集といっても実態は他の企業に対し、収集した情報をパッケージにしてレポートするという偽装が行われる恐れがある」とされている(パラ28)。

これらの提案について、「基本的な考え方」に沿って検討を行うと、まず、オプションFは、経済のデジタル化が進む中で「オンライン販売・巨大倉庫」が「利得を配分するに足る事業の場所」に当たると新たに判断し得るが故の提案と考えられるが、そのように判断することと、第5条4a)及びb)から一律に「引渡し」の文言を削除することとの間には飛躍がある。

すなわち、この提案によれば、「オンライン販売・巨大倉庫」以外の伝統的なBtoBの倉庫、小規模倉庫までもPEと認定される恐れがある。そもそもデジタル・エコノミーにおける課税のあり方について十分に議論が煮詰まっていない中で、これら伝統的な倉庫も含めて「利得を配分するに足る事業の場所」に該当するとの合意が得られているとは言い難く、公開討議草案からも読み取ることができない。

現に企業が、他の国において、各国に所在する取引先の求めに応じ、迅速・効率的に自社の製品を出荷・引き渡す目的で、その他の国の保税区に置かれた倉庫を使用するケースは一般的にある。このようなケースは、出荷側の企業の企図によって倉庫が置かれているわけではなく、取引先の便宜のために設置された引渡し用の倉庫であり、BEPSとは無関係である。オプションFが仮に採用されれば、こうした伝統的な倉庫を活用したビジネス・モデルは変更を余儀なくされる。その結果、企業がその保税区から離脱するような事態が生じれば、保税区を有する国も損失を蒙ることとなる。また、企業が他の国に所在する建設サイトに単に機器を納入する場合であっても、その納入された事実のみによってPE認定される恐れがある。引渡しに係る現行規定は維持すべきである。

次に、オプションGについては、単純購入非課税の廃止を定めたAOAとの整合性の問題は理解できるものの、非OECD加盟国がAOAを採用していないことについてどう考えるのか、というそもそもの疑問に加え、上記と同様、単なる購入活動から果たしてどの程度の利得が生じるのかという点について、議論が尽くされているわけではないと考えられる。第5条4d)から一律に「購入」に係る文言を削除することは、極めて慎重に検討すべきである。

オプションH、すなわち第5条4d)の一律削除は賛成できない。まず、削除の理由として、「情報収集といっても実態は他の企業に対し、収集した情報をパッケージにしてレポートするという偽装が行われる恐れがある」との説明があるが、このような極端な事例については個別の否認を行えば足りるはずである。また、情報収集活動からは「利得」は生じない。オプションHが採用されれば単なる駐在員事務所や従業員の海外出張がPE認定される可能性があり、クロスボーダーの経済交流を萎縮させる。

一方、オプションEは、第5条4は準備的・補助的活動にのみ適用されるとの一般的な理解を明確化するアプローチである。「引渡し」「購入」「情報収集」との文言も存置され、それらの活動を行う場所が個別の事案において「利得を配分するに足る事業の場所」とされない限り、PEとはならないと考えられる。しかし、準備的・補助的の意義について各国の解釈が統一されていなければ、課税当局による主観的・恣意的な運用が行われ、かえって課税関係が不安定になる恐れもある。

特に、懸念されるのは第5条4c)への影響である。例えば企業は、他の国に所在する取引先の求めに応じ、その取引先の工場の敷地内に設置された倉庫において、その取引先による加工のため、自社の物品又は商品を保有することがある。これはVMI(Vendor-Managed Inventory)と呼ばれ、国際取引の文脈では主として製造業において見られるものだが、このようなBEPSとは関係のない事業形態についても、オプションEのもとでは、準備的・補助的でないと判定されればPEと見なされる恐れがある。

従って、仮にオプションEを採用する場合には、どのような活動が準備的・補助的な活動に該当し、何が該当しないのか、詳細に事例を示すことが不可欠である。例えば上記で見たとおり、「伝統的倉庫・小規模倉庫」や「VMIによる倉庫」、などは準備的・補助的であることをコメンタリで明記すべきである。

なお、準備的・補助的活動については、この他にも、関連企業間の活動の細分化による第5条4の潜脱を防ぐため、新たに第5条4.1を創設することにより関連企業も含めて準備的・補助的活動に該当するか否かを判定するとされているが(オプションI、J)、「一体として運営される事業」との文言は、主観的・恣意的な解釈の余地を課税当局に与える恐れがある。濫用的なケースがあるならば個別に防止すれば足りると考えられ、一律の規制強化には慎重であるべきである。

契約の分割

公開討議草案では、関連企業間で契約期間を分割することにより、第5条3の建設PE、及びサービスPEに係る規定が潜脱される恐れがあるとした上で、関連企業の活動期間を単純に合算する自動的ルール(ただし最低滞在期間を設ける等の一定の調整措置あり)(オプションK)、又は、BEPS行動6のPPT(Principal Purpose Test:主要目的テスト)のコメンタリに新事例を追加する手法(オプションL)のいずれかを採用することを提案しているが、関連企業間での活動の細分化と同様、濫用的なケースがあるならば個別に防止することで足りると考えられる。

保険

今回、数ある業種のうち、保険のみ新たな提案が行われた理由について、公開討議草案では説明が不足している。先ずは問題の所在を明確にすべきである。各国共通の課題として、看過し難いBESPの事例があるのでなければ、基本的には現行第5条コメンタリパラ39において示されている通り、「保険に係る規定が条約に含まれるべきか否かに関する決定は、関係締約国で支配的な事実的及び法的な状況に依存する」と考えるべきである。少なくとも提案Mのように一律にモデル条約に保険に関する規定を盛り込むことは望ましくない。

帰属所得

冒頭、指摘した通り、PEの帰属所得についての国際合意がないままに、徒にPEの範囲を拡大すると、二重課税が一層拡大する恐れがある。まずはOECD加盟国以外も含め、AOAを普及させる必要があり、その上で、国内法に委ねられるPE帰属所得の具体的な計算方法についても、可能な限り、統一指針を策定すべきである。

以上

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