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Policy(提言・報告書) 産業政策、行革、運輸流通、農業 海洋産業の振興に向けた提言

2015年3月17日
一般社団法人 日本経済団体連合会

わが国の領海と排他的経済水域の面積は世界第6位の約447万km2であり、豊富な海洋資源やエネルギーが存在しており、海洋国家として大きな成長の可能性がある。昨年6月に政府が改訂した日本再興戦略においても、海洋資源開発は重要課題として盛り込まれた。

経団連は、本年1月1日に発表した『「豊かで活力ある日本」の再生』において、時代を牽引する新たな基幹産業の育成が重要であると指摘し、その1つとして海洋資源開発を挙げた。

海洋資源開発を進めるため、政府の海洋基本計画(2013年4月)と海洋エネルギー・鉱物資源開発計画(2013年12月)に基づく施策を着実に推進するとともに、商業化の実現に向けて長期的かつ持続的な取組みが必要である。

こうした中、政府の総合海洋政策本部参与会議では、昨年6月に新体制が発足し、新海洋産業振興・創出、海域の利用の促進の在り方、海洋環境の保全、海洋産業人材育成・教育に関するプロジェクトチームが本年3月を目途に意見書を取りまとめることとしている。

そこで、経団連として、以下の通り海洋産業の振興に向けた提言を取りまとめた。

1.環境変化

(1) 資源・エネルギー獲得競争の激化

新興国の成長により、世界的な資源獲得競争が激化している。シェールガスやシェールオイルの開発等により、世界のエネルギー供給体制が変化しつつある。また、近年、わが国の資源・エネルギーの輸入が増大する中で、国産資源・エネルギーを確保することは、海外との交渉力の向上につながる。このため、わが国として資源・エネルギーの調達手法を多様化する必要がある。

2010年4月に国連大陸棚限界委員会の勧告により、わが国は約31万km2の大陸棚の延長が認められた。昨年10月に施行された大陸棚に関する政令により、このうち17.7万km2が、わが国の大陸棚として定められた#1

排他的経済水域や大陸棚に存在する海洋資源・エネルギーは、国産の資源・エネルギーとして有望であり、資源の安全保障の観点からも重要な意義がある。

(2) 海洋安全保障環境の緊張化

中国の海洋進出により、わが国の周辺の海洋安全保障環境は厳しい状態が続いている。民間企業が排他的経済水域等#2の中で円滑な事業活動を行うためには、国家間の迅速な調整が必要な海域がある。

2.海洋産業の検討の視点

海洋産業は、海運、造船、資源・エネルギー開発、水産、レジャーなど広範にわたる。その中で、海洋基本計画において重点的に推進すべき取組みとされている海洋産業の振興と創出について、国内外での探査と開発が進んでいる海洋資源・エネルギーとその掘削・開発機器や、エンジニアリング、海運、造船を本提言では検討対象とした。

(1) 国内外における対応

わが国の排他的経済水域等の開発と、海外で商業化段階にある事業活動を分けて考える必要がある。

排他的経済水域等については探査と開発の段階にあり、国が国産技術力の向上など取組みの強化を図ることが重要である。まず、わが国が技術的な優位性を確保できる分野について、世界レベルの技術の開発を目指す必要がある。また、エネルギー安全保障の確保の観点から、国産エネルギーの開発の視点も踏まえる必要がある。

一方、海外における海洋の石油・天然ガスの開発など、商業化が進展している分野については、わが国の企業が参入して市場を拡大していくため、海外の優れた技術を活用した競争力の強化などが求められる。

(2) 進捗段階に応じた対応

個別の産業ごとに、探査、開発、実証試験、商業化という進捗段階が異なり、それを踏まえた対応が求められる。探査と開発段階では国が中心、実証試験では国および民間企業、商業化では民間企業が中心となる。

資源確保や技術開発等の観点から、海洋資源・エネルギー開発を着実に進めるため、具体的な工程表の策定が必要である。

3.海洋産業の振興に向けた取組み

(1) 排他的経済水域等における海洋資源・エネルギー開発

海洋産業の振興に向けた道筋を明確にするため、まず、海洋基本計画の工程表に基づいて、海洋資源・エネルギーの探査と開発を着実に推進すべきである。特に、メタンハイドレート、海底熱水鉱床、コバルトリッチクラスト、レアアースなどの新たな海洋資源の探査と開発に注力し、排他的経済水域等における国産資源・エネルギーの確保に関する国家戦略を策定し、それに基づいて産業界の役割を果たすことが求められる。その際、海外における海洋資源・エネルギーの開発動向も調査し、世界的な商業化の進展にも留意すべきである。

排他的経済水域等に存在する資源は豊富であるが、これを実際に取得するためには、排他的経済水域等の権益を守り、資源の探査と開発を着実に実施し、実証試験や先行的な事業を積み重ねる必要がある。

メタンハイドレートや海底熱水鉱床等については、資源量が把握されていないことと、開発手法が確立されていないことから、国による本格的な資源量探査と技術開発が必要である。こうした資源探査の共通技術として、2014年度より開始された内閣府による省庁連携型の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP#3)である次世代海洋資源調査技術の着実な開発が求められる。

一方、石油・天然ガスについては開発手法が確立しているが、商業化のリスクが高いため、国による先行的な基礎試錐の実施が求められる。

海洋エネルギーについては、わが国の広大な海域には洋上風力発電などに適した場所が多くある。まず、国としての再生可能エネルギーを確保するため、海洋エネルギーの技術や海域実証試験の基盤を整備すべきである。その際、様々なプロジェクトを進めている関連省庁の連携強化を図る必要がある。

  1. メタンハイドレート
    メタンハイドレートについては、平成30年代後半に、民間企業が主導する商業化のためのプロジェクトの開始が目指されている。現在、メタンハイドレートは探査と実証試験の段階にあり、海底下数百mに存在する砂層型メタンハイドレートと、海底に存在する表層型メタンハイドレートの探査を継続的に進める必要がある。
    昨年1月に世界で初めて渥美半島沖から志摩半島沖にかけて産出試験に成功した砂層型については、「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」に明記されている中長期の海洋産出試験を2018年度までに確実に完了させるとともに、表層型については資源量の着実な探査の実施が求められる。特に、南海トラフにおける砂層型については、平成30年代後半の民間企業が主導する商業化のプロジェクトを目指して、長期的な安定生産に向けた技術開発が必要である。
    民間企業としても、昨年10月に、砂層型メタンハイドレートの中長期の海洋産出試験等の国からの受託を目的とした「日本メタンハイドレート調査株式会社」#4を発足させた。民間企業は同社を通じて、商業化の実現に積極的に取組む。

  2. 海底熱水鉱床
    海底熱水鉱床については、国際情勢を踏まえつつ、平成30年代後半以降に商業化を目指したプロジェクトの開始が目指されている。現在は探査段階にあり、沖縄トラフや伊豆・小笠原海域での探査と開発の推進が必要である。
    そのため、SIPにおいて、海底熱水鉱床などの海洋資源調査システムおよび運用方法の確立を目的として民間企業によって設立された「次世代海洋資源調査技術研究組合」#5による着実な開発が求められる。

  3. コバルトリッチクラストおよびレアアース
    コバルトリッチクラストおよびレアアースについては、現在は探査段階にある。いずれも南鳥島周辺に賦存していることが確認されており、コバルトリッチクラストについては2028年末までに商業化が検討され、レアアースについては2015年度までの3年間で賦存状況の調査が行われている。
    コバルトリッチクラストおよびレアアースについては、まず、着実に探査を進めることが重要である。

  4. 石油・天然ガス
    海洋の石油・天然ガスについては、2018年度までに、探査および基礎試錐を機動的に実施することとされている。
    現在、日本近海には有望な油田やガス田は確認されていない。遠方の海域における探査のリスクは高いため、国による基礎試錐の継続的な実施とともに、民間企業による地質データ等の活用の促進が求められる。
    また、東シナ海などにおける海洋の石油・ガスの鉱区の開発にあたり、近隣諸国との調整が必要となる。

  5. 海洋エネルギー
    洋上風力発電については、欧州では本格的な商業化が進んでいる。一方、わが国では実証試験段階にある。今後、商業化を目指すため、まず海域での実証試験を進める必要がある。民間企業と地方自治体が連携して、関係者による漁業協調型システムの整備が求められる。
    また、技術面では、風車の大型化やウインドファームの大規模化により、発電コストの低減が期待される。このため、洋上風況測定や海底地質調査を進めるとともに、系統連系能力の強化、係留索の耐久性の向上、建設・維持管理作業に必要な船舶の建造などにより、中長期的に洋上風力発電の普及を図るべきである。
    加えて、波力発電や潮流発電、海流発電、海洋温度差発電等についても研究開発と実証試験を進める必要がある。

(2) 海外の海洋資源・エネルギー開発

海外における海洋の石油・天然ガス開発は、深海や極地における商業ベースでの探査と開発が進められている。長期的には世界の海洋油田や天然ガス田からの生産が増加し、海洋開発用の船舶や海洋掘削リグ、海洋構造物などの市場が拡大することが見込まれている。

わが国のエンジニアリング企業は陸上における石油・天然ガス開発の実績と比較して、海洋の石油・天然ガス開発の実績は少なく、世界市場の大半は海外企業により占められている。わが国のエンジニアリング企業がこの市場に参入するため、海外技術の活用や海外企業との連携や買収などを効果的に行い、技術やコストの面で国際競争力を強化する必要がある。その際、政府機関による金融面での支援なども検討すべきである。

海運企業は、海外の超大水深掘削船への出資、FPSO#6事業への参画、海外企業との合弁による海洋開発に係る支援船やシャトルタンカーの保有と運航等に取組んでおり、こうした活動を拡大していく必要がある。

造船企業には、海外に設立した工場を活用して、海洋構造物の製造に参画していくことが求められる。

なお、政府のトップセールスによって、日本企業の能力を活用したブラジルの深海での石油開発の案件が検討されている。こうした海洋分野における発展途上国などへのインフラパッケージ輸出も検討すべきである。また、地球深部探査船「ちきゅう」を活用したインドなどとの国際協力を進めるべきである。

4.海洋開発の基盤の強化

(1) 政府の推進体制の強化

海洋政策には様々な省庁が関与しており、総合海洋政策本部が強力なリーダーシップを発揮して、関係省庁の連携を強化しながら、海洋政策の実施を加速していくことが求められる。

また、総合海洋政策本部においては、参与会議の意見を踏まえて重要な海洋政策を策定すべきである。さらに、海洋政策は成長戦略において重要な役割を担っており、国内外の海洋資源・エネルギー開発に向けた海洋産業の振興に関する長期的かつ具体的な戦略を検討する必要がある。このため、まず政府が主導して産学官による協議会を設置し、海洋産業振興の主体の明確化、省庁連携の推進、商業化ロードマップの策定等を実施すべきである。

海洋資源・エネルギー開発に関する技術の強化のため、海洋関連予算の充実を図るとともに、関係省庁、関係する独立行政法人#7、大学、民間企業の連携体制を強化すべきである。

(2) 排他的経済水域等の管理・利用の法制度の整備

海域における計画的な資源の開発や利用のためには、排他的経済水域等の管理や利用の法制を早期に整備することで、政府における関係省庁の役割分担を明確化し、手続を透明化する必要がある。

加えて、民間企業、漁業関係者、海域を管理する国や地方自治体などが、海域利用にあたり利害の調整を行う漁業協調型システムを整備する必要がある。

(3) 領海の警備体制の強化

わが国の近海に進出する外国船舶に対応するため、海上保安庁の巡視船の増強などにより海上保安体制や領海警備を強化#8し、海上交通の安全を確保する必要がある。

(4) 人材育成の推進

海洋産業における技術者、大学における研究者などの人材育成を推進する必要がある。特に、海洋探査機器や掘削リグ、海洋構造物等を開発する技術者や、オペレーターを育成することが求められる。

また、初等中等教育において、海洋の重要性の理解を深める教育の充実が必要である。

以上

  1. 残りの約13万km2については、米国と調整を行う。
  2. 領海、排他的経済水域、大陸棚を指す。
  3. Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program。
  4. 民間企業11社が参画している。
  5. 民間企業4社が参画している。
  6. Floating Production, Storage and Offloading system: 浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備。
  7. 海洋研究開発機構や石油天然ガス・金属鉱物資源機構など。
  8. 宇宙と海洋の連携による海洋状況把握(MDA:Maritime Domain Awareness)が検討されている。

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