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Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 平成28年度税制改正に関する提言

2015年9月8日
一般社団法人 日本経済団体連合会

Ⅰ.はじめに

アベノミクスのもと、積極経営に転じつつある企業の活動は着実に経済の好循環に寄与している。

財務省の法人企業統計によれば、経常利益は14四半期連続で増加しており、2014年度は60兆円の大台を突破し、約65兆円となった。また、2014年度の設備投資は全産業で前年度比7.8%増(製造業で6.8%増、非製造業で8.3%増)となっており、今年度も引き続き高い水準の設備投資が計画されている。さらに、2015年の春季労使交渉賃上げ率(経団連調査)では、前年比で大手企業において2.52%増、中小企業において1.87%増となっている。2014年度の法人税収の実績は前年度比5.1%増という高い伸びになった。経済の好循環による企業収益の向上は雇用・賃金の改善や株価の上昇に結びつき、結果として個人の所得税収の増大にも好影響を与える。

そこで、さらなる収益力強化や生産性向上等を支援する税制改正を通じて、新たな成長機会の創出に取組む企業を支援していくことが、デフレからの脱却、経済再生につながるものと確信する。昨年度決定した成長志向の法人税改革の枠組みを踏まえつつ、より改革を加速すべきである。

他方、国の財政状況は、2015年度末に国・地方をあわせた長期債務残高が約1,035兆円超、対GDP比205%と主要先進国で最悪の水準となる見込みである。財政健全化に向けて、骨太方針2015に掲げた経済・財政一体改革のもと、まずは今後3年間経済再生・歳出改革に集中的に取り組みつつ、消費税率10%へ着実に引き上げる環境を実現すべきである。

法人税改革や経済再生を図ることにより、国の経済が活性化するとともに、国家財政が安定化すれば、わが国企業の国際競争力の強化や個人の所得や生活の安定感の向上にもつながることになる。経済界としても、これらの目標を念頭において、民主導のイノベーションを通じて、企業業績の向上や投資の拡大、雇用・賃金の改善につながる経済の好循環を創り出すべく、引き続き積極的に取り組みを進めていく。

Ⅱ.消費税について

1.2017年4月の消費税率10%への着実な引き上げ

財政の健全化や社会保障制度の持続可能性の確保、安定した成長基盤の創出のためには、消費税率の引き上げが不可欠である。需要減・反動減対策を万全にしつつ、2017年4月に予定通り着実に消費税率10%へと引き上げるべきである。

2.複数税率の導入について

消費税の軽減税率(複数税率)制度については、平成27年度与党税制改正大綱において「関係事業者を含む国民の理解を得た上で、税率10%時に導入する。平成29年度からの導入を目指して、対象品目、区分経理、安定財源等について、早急に具体的な検討を進める。」とされている。現在、与党において具体的な対象品目や区分経理、安定財源について検討しており、本年5月に、代表的な例として、「酒類を除く飲食料品」、「生鮮食品」、「精米」を対象とする場合の具体案と課題が整理・公表された。

この点、以下の理由により、単一税率を維持すべきであり、複数税率の導入には反対である。

複数税率の導入によって、標準税率が10%で実感できる程度の差をつければ、大幅な税収の減少を招き、社会保障制度の持続可能性を損なう。一方で、税収を補うために標準税率をさらに高くすることは、国民の理解を得られない。さらに、対象品目の線引きが困難であり、課税の中立性が損なわれること、高額所得者にも複数税率の恩恵が及ぶため低所得者対策としても不十分であること、商品毎に税率を区分記載・確認するため、徴税側・納税側の事務負担が増加すること等の問題がある。

さらに、「酒類を除く飲食料品」「生鮮食品」において、EU型インボイス方式の導入が必須とされているが、飲食料品を取り扱う事業者に限らず、全ての事業者に対して消費税の納税方法の変更を強いるものであり、広範囲に影響をおよぼす。また、B to C取引の事業者を含む数百万の免税事業者が取引から排除されるおそれがある等、中小・零細事業者に過度な事務負担を強いることになる。

低所得者対策としては、社会保障・税一体改革による給付と負担の全体像を踏まえつつ、当面の間は、簡素な給付措置を実施すべきである。

3.その他

消費税の仕入税額控除制度については、95%ルールの廃止の見直しや事業者の事務負担軽減策を検討すべきである。

福祉車両や損害保険料など仕入税額控除ができない非課税取引については、消費税率の引き上げに伴い、転嫁の難しさにより事業者の負担が拡大するとともに、業務の内製化を志向させる税の中立性の課題(セルフ・サプライ・バイアス)を拡大させることから、一定の配慮をすべきである。

消費税率の10%への引き上げの際には、長期保守契約における事業者の負担等、8%への引き上げ時に生じた課題を踏まえた上で、必要な対応を図るべきである。また、酒税などの個別間接税との関係を整理する必要がある。

Ⅲ.平成28年度税制改正に関する提言

1.法人課税の抜本改革の継続

(1) 法人税改革

  1. 法人実効税率の引き下げ
    経団連はこれまで、日本の立地競争力を高め、対日直接投資を促進し、経済活性化を図るため、法人実効税率を国際的に遜色ない水準に引き下げることを長年主張してきた。この点、平成27年度の税制改正において、「成長志向に重点を置いた法人税改革」の枠組みが定められ、「課税ベースの拡大等により財源を確保しつつ、経済の好循環の実現を力強く後押しするために先行減税を行い、法人実効税率について、27 年度▲2.51%・28 年度▲3.29%の引下げを決定」するとともに、「28年度改正においても、課税ベースの拡大等により財源を確保して、28 年度における税率引下げ幅の更なる上乗せを図る(▲3.29%+α)。さらに、その後の年度の税制改正においても、法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指して、改革を継続する。」ことが示された。

    また、6月に閣議決定された骨太の方針及び日本再興戦略改訂版においても、「現在進めている成長志向の法人税改革をできるだけ早期に完了する」ことが明記されている。

    これらの方針により、法人実効税率の20%台への引き下げの道筋が具体的に示されたことは基本的には評価できる。日本の立地競争力を高め、対日直接投資を促進し、経済活性化を図るため、法人実効税率のさらなる引き下げを図り、できるだけ早期に20%台を実現することが重要である。28年度改正においては、経済の状況や設備投資への影響を勘案し、企業の負担が実質的に増加することがないよう配慮して、法人税改革を進めていくことが必要である。引き下げにおける課税ベースの拡大については、下記②の考えを踏まえて検討すべきである。

    その上で、今後とも、法人実効税率の引き下げに不断に取り組み、将来的にOECD諸国平均、また、競合するアジア近隣諸国並みの25%へと引き下げるべきである。

  2. 法人実効税率の引き下げを踏まえた各種税制措置の考え方

    a) 研究開発税制の維持・拡充

    平成27年度の税制改正では、研究開発税制の総額型について、期限の定めのないかたちで25%の税額控除が認められるともに、オープンイノベーション型の特別試験研究費について総額型とは別枠で5%の税額控除が認められることとなった。
    研究開発は、わが国が科学技術イノベーション立国として、常に技術革新を生み出し、今後も世界経済をリードする存在であるために不可欠のものである。イノベーションは、わが国が産み出す付加価値の源泉であり、わが国のGDPの増大をもたらすものである。イノベーションによる生産性の向上は少子高齢化が進むわが国にとって、持続的に経済成長できる道筋を歩むために不可欠な手段であり、財政赤字も抱えるわが国経済が縮小均衡に陥らないために、極めて重要な要素となる。
    また、日本再興戦略改訂版で強調されている「イノベーション・ナショナルシステム」において、企業は民の立場から研究開発を強力に推進する役割を担っている。わが国では、組織別研究費負担割合において民間企業の占める割合が80.5%と、他国(英国:51.4%、ドイツ:66.0%、米国:65.4% 等)に比べ非常に高い。大学における産学連携や研究開発体制の充実と並行して、引き続き民間が主体となって、研究開発投資をリードしていくことが必要である。
    そのため、引き続き、諸外国をリードする水準で研究開発を推進するためにも、研究開発税制の維持・拡充は不可欠であり、縮小には反対である。法人実効税率との関係においても、諸外国では法人税率を引き下げる一方、産業競争力強化の必要性から、研究開発税制の継続・深掘りを実施していることを十分に勘案する必要がある。法人実効税率と研究開発税制が二者択一であるかのような議論はすべきではない。
    むしろ、研究開発税制は制度全体を維持・拡充すべきである。また、継続的に研究開発を支援する観点からいえば、とりわけ総額型の維持・拡充は非常に重要であり、本則化すべきである。
    なお、欧州諸国においては近年、知的財産権に起因する所得について低税率又は所得控除を適用する、いわゆるパテントボックス税制が導入されている。パテントボックス税制はBEPS行動5で検討対象となったが、その後、英独の国際的な合意を踏まえて、許容されるパテントボックス税制の枠組みが示されたという点に注目すべきである。未導入の米国でも、議会において検討の動きがある。わが国の研究開発拠点としての立地競争力を維持・強化するためにも、当該制度の創設に向け具体的に検討を進めるべきである。
    旧公益法人から移行した一般社団・財団法人の学術研究用資産については、研究開発法人の機能強化の観点から、固定資産税を非課税とすべきである。

    b) 減価償却制度

    アベノミクスのもと、今後とも経済の好循環を実現させるためには、設備投資の持続的な増大が不可欠である。この点、減価償却による投資コストの回収は企業の競争力に大きな影響を与えることから、定率法の廃止は新規設備投資を抑制する恐れがある。あわせて、これまで経済の活性化と国際競争力におけるイコールフッティングの観点から平成19年度改正において定率法が見直された経緯も充分に踏まえるべきである。この点を踏まえ、減価償却制度の見直しについては、慎重に検討することが必要である。

    c) 外形標準課税のさらなる見直し

    外形標準課税については、平成27年度税制改正により、資本金1億円超の法人について、法人事業税(地方法人特別税含む)の1/4に導入されている外形標準課税を平成27年度から2年間で1/2に拡大する措置がなされた。
    法人実効税率のさらなる引き下げに向けて、平成27年度の与党税制改正大綱では外形標準課税の拡大が今後の検討課題の一つとしてあげられているが、業績が回復途上にある企業の税負担が重くなるなどのデメリットがあり、さらなる拡大は安易にすべきではない。少なくとも、平成27年度、平成28年度の2段階の拡大の結果を踏まえ、影響を十分に精査した上でなければ、検討することは難しい課題であると考える。

(2) 日本再興戦略の実現に向けた税制措置の新設

  1. 役員報酬等に係る税務上の取り扱いの見直し
    改正会社法が施行され、また、コーポレートガバナンスコードの適用が開始されたこと、さらに、日本再興戦略の記述を踏まえ、中長期の企業価値創造を引き出すためのインセンティブを経営陣に付与できるよう、役員給与に係る税務上の取り扱いについて、信託の活用によるものを含め、次の見直しを行うべきである。

    1. 役員給与の損金算入要件を見直すこと(定期同額給与等について硬直的な要件を見直すことや、現行の利益連動給与の規定を見直し、中長期の様々な企業業績に係る指標を参照する株式報酬を含む業績連動型役員給与に損金算入を認めること、持株会社を含め、企業グループの形態に中立的な制度とすべく、非同族会社要件を改めること、また、開示要件を見直すこと等)
    2. 報酬債権を現物出資することによる、いわゆる株式報酬の課税関係を明確化すること
    3. 会社役員賠償責任保険(D&O保険)において、適切な手続をとったうえで、保険料の全額を会社負担とすることにつき、会社法上適法とする考えが政府から示されたことに対応し、所得税法上、所要の措置を講ずること
  2. 事業再編の促進に資するLLCに係るパススルー課税の整備等
    日本再興戦略と関連し、一部の業界では、産業競争力強化法やグローバルベンチマーク等を踏まえ、事業再編も視野に入れた産業競争力強化策が推奨されている。この点、企業間の円滑な事業再編をより一層促進すべくLLC(合同会社)におけるパススルー課税の整備等、所要の措置をすべきである。

    また、連結納税制度や組織再編税制について不断の検証を行うとともに、必要な見直しを行うべきである。組織再編税制については、米国の制度(例:タックスフリー・スピンオフが可能)も参考になると考えられる。

(3) 地方法人課税の改革

国・地方を合わせた法人関係の税収のうち、地方税収(地方法人特別税を含む)の占める割合は約4割、また法人実効税率のうち、地方分は約3割を占めている。そのため、日本の立地競争力を高め、対日直接投資を促進し、経済活性化を図るためには、国税だけではなく、地方法人課税の改革が不可欠である。

  1. 地方法人課税の偏在是正への対応・国税化
    経済の好循環を継続させ高い経済成長を実現するためには、アベノミクスの構造改革の成果を全国津々浦々に波及させ、地方経済を活性化することが不可欠であり、安倍政権においても「地方創生」を最重要課題として取り組んでいる。

    そのためには安定した地方歳入の確保が欠かせないが、地方法人課税、とりわけ法人所得課税は地域間の偏在性が大きく、税収も不安定で基幹的な地方税としては不適切であるばかりか、近年の改正で地方法人特別税や地方法人税が創設されるなど、より複雑化している。超過課税も負担が法人に偏っている。地方法人課税の見直しにもかかわらず、現行の自治体の区分を前提とする以上は、一部の自治体を除き、財源不足の解消の見込みはなく、税収の再配分により、格差を是正する以外の道はない。応益性を徹底すればするほど、人口が多くサービスが充実している東京等大都市圏に税収は集中し、地域間格差は助長される。このため、地方法人課税の見直しにあたっては、単なる財源確保の観点からではなく、法人の負担水準のあり方も含め地方税全体の見直しを行うべきである。また、国・地方全体の税体系の見直しを行い、地方の法人所得に対する課税部分については、国税の法人税に統合し、交付税等により適切に配分するとともに、国際的イコールフッティングを踏まえ、段階的に税率引き下げを行うことが、偏在是正、税制の簡素化の観点から望ましい。

  2. 地方法人課税の簡素化
    地方法人課税は、税目やその課税ベースが多様である上に、申告書類が多く、計算が複雑である。例えば、外形標準課税の付加価値割の報酬給与額や賃借料の計算については、労働者派遣や出向者、福利厚生費用などについて会計上の基準とのズレが大きく計算が煩雑であるとともに、賃借料に係る明細書等での貸/借主の「住所」の記載が求められるなど様式が複雑になっている。

    また税率の異なる都道府県、市町村毎に申告・納付を要することから、特に全国に展開している法人にとっては、納税に係る事務負担が大きい。

    地方法人課税については抜本的な簡素化が不可欠であり、事業者の事務負担を軽減する観点から、申告書類の削減、申告の電子化徹底、フォーマットの統一、自治体毎の税率の一覧性向上等の見直しを進めるべきである。さらに、番号制度を活用し、本店が所在する都道府県等への地方税の一括納付を可能とするシステムについても、導入を検討すべきである。同様に、地方法人課税、とりわけ、法人住民税(法人税割)と法人事業税(所得割)について、企業の事務負担の軽減を図る観点から、連結納税制度の導入の可能性を検討すべきである。

    事業所税の従業者割は法人事業税付加価値割や法人住民税均等割と同様、賃金・雇用への課税となっており、安倍政権が進める政労使の取り組みに逆行している。さらに、資産割は固定資産税及び都市計画税との二重課税である。これらの点を踏まえ、事業所税は他の税目と整理・統合すべきである。

  3. 法人事業税・法人住民税における分割基準の見直しへの対応
    現在、政府において、産業構造の変化・地域間の法人税収の偏在性是正に対応すべく、法人事業税・法人住民税に係る分割基準の見直しが検討されている。分割基準は現行のものでも従業員の異動に対応して細かい計算が求められるなど、非常に複雑化しているため、さらに基準となる指標が追加されるなどして、分割基準をより一層複雑化することは、企業の事務負担を増やすことになり、適切ではない。今後、企業の事務負担が増えることがないよう、企業実務の実態を踏まえ、制度を設計する必要がある。

  4. 償却資産に係る固定資産税の抜本的な見直し
    償却資産に係る固定資産税について、特に機械装置への課税は米国やカナダの一部の州などのみで行われている極めて稀な税である。その米国でも近年、一部の州で廃止の動きが見られる。また、わが国製造業が競合するアジア近隣諸国において例がない。廃止を含め抜本的な見直しを行うべきである。また、今後、アベノミクスによる経済の好循環の継続に向けて、設備投資を促進する観点から、少なくとも新規取得した機械装置については固定資産税を縮減・廃止すべきである。あわせて、残存価額の廃止等、法人税の課税所得の計算方法との整合性を図るべきである。

    あわせて、以下の措置を講ずるべきである。

    a) 公害防止用設備に係る固定資産税の課税標準の特例の延長

    民間事業者における環境負荷低減対策を促進するために、引き続き特例措置を延長すべきである。

    b) 国内線就航機の固定資産税軽減措置の延長

    本税制は国内における地方航空ネットワーク維持に寄与しており、また、世界的に航空機に固定資産税を課している国が稀ななかで、わが国の航空会社が世界に伍していける国際競争力を確保する観点からも、国内線就航機の固定資産税軽減措置を延長すべきである。

(4) 国際課税

  1. BEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)プロジェクトの成果を踏まえた国内法制上の対応
    経済のグローバル化に対応した新たな国際課税ルールを構築すべく、OECD/G20においてBEPSへの対応が議論され、2015年10月に報告書が公表される予定である。わが国経済界としては、これまで、BEPSプロジェクトにおいて、経済交流の促進と適正な課税の確保という国際課税制度の本来の趣旨を踏まえたバランスの取れた議論が行われるよう、公開討議草案や公聴会等を通じ意見を表明しており、今後の各国における行動計画の実施や多国間協定の実施においても、引き続き、積極的に国際的に調和がとれた内容にするとともに、二重課税を防止・排除することを期待する。

    今後、10月の報告書の内容を踏まえ、順次国内法制化が検討されることになると考えられるが、他の行動計画との整合性、諸外国の動向、納税者の事務負担に十分留意しつつ、事業者の意見を踏まえ、企業の国際展開によって海外需要を積極的に取り込める制度とするとともに、わが国の立地競争力の低下につながることのないよう慎重に制度設計することが不可欠である。

    a) 移転価格文書化への対応(行動13)

    国別報告については、実施ガイダンス(2015年2月)において、多国籍企業の究極の親会社がその所在する法域の税務当局に提出し、原則として条約方式により各国税務当局に連携されることとされた。今後は、施行パッケージ(2015年6月)に基づき、国別報告書の自動的情報交換に係る条約上の実施取決めの策定や国内法制化が進められることになるが、特に国内法制化においては、事業者の報告書の作成に係る事務負担等の実態を十分に考慮するとともに、十分な準備期間を確保することが不可欠である。マスターファイルについても同様である。
    国別報告及びマスターファイルの記載情報については、今後、海外の当局と見解の相違等が生じた場合に備えて、究極の親会社所在地国の基準を適用することを、わが国の立場として、あらかじめ徹底・明確化することが望ましい。
    その上で、マスターファイルについて提出義務を課さないなどの柔軟な取り扱いを行うことが必要である。また、移転価格文書化への対応に係る事務負担は非常に大きいため、文書作成・提出の遅延等に係る罰則は免除すべきである。
    これら文書の機密保護や目的外利用の状況については、不断に各国の執行状況をレビューすべきである。

    b) 移転価格税制(行動8~10)

    移転価格税制については、BEPS行動8~10において、幅広い内容が議論になったが、わが国の国内法への反映の際には、まず無形資産の定義を明確化することが必要である。移転価格文書化のマスターファイルにおいて無形資産に関する記述が求められていることからも、緊急性が高い。その上で、BEPSで議論になった評価困難な無形資産に係る課税手法については、安易な後知恵による課税とならないよう、適用条件の明確化を含め、引き続き慎重な検討が必要である。
    契約条件や無形資産に係る法的所有については、単なる移転価格分析の開始点ではなく、重要な参照要素として尊重されるよう国際的に議論が収束することを期待する。リスクの支配についても重要性基準を設け、移転価格分析が過度に複雑化しないことが望ましい。取引単位利益分割法については、ガイダンスの洗練は歓迎するものの、課税当局による恣意的な執行を排除する観点から、引き続き慎重に議論を進めるべきである。
    国外関連者要件について、実際には支配権が及ばない株式保有比率50%の場合を除外し、50%超とする等の見直しを行うべきである。あわせて、国際的な二重課税を排除するため、事前確認制度および相互協議の一層の迅速化、効率化を行うとともに、わが国課税庁による国内における移転価格税制の執行については、一層、納税者にとっての透明性、納得性を高めるべきである。

    c) CFC税制の見直し(行動3)

    BEPS行動3の公開討議草案において、カテゴリカルアプローチ(インカムアプローチ)および超過利得アプローチについて様々な提案がなされたところであるが、制度の抜本的な見直しの必要性については、既存の日本の制度におけるCFCの適用の判断の簡便性や納税者・課税当局の事務負担の軽減等のメリット、ビジネス実態に則していない適用除外基準等に基因する過剰合算(オーバーインクルージョン)、あるいは過少合算(アンダーインクルージョン)などのデメリットとの比較を含め、十分な検討を行うことが重要である。
    その上で、現行のCFC税制について、早急に手当すべき個々の課題について以下のとおり意見する。

    1. 英国の法人税率引き下げへの対応
      平成27年度税制改正でトリガー税率の引き下げ(20%以下→20%未満)が行われたが、英国で法人税率を2017年に19%に、2020年には18%に引き下げる方針が示された。この結果、英国で正常な事業活動を行うわが国企業の子会社が再びトリガー税率に抵触する可能性が高まっている。とりわけ、英国・ロイズにおいて保険事業を行う場合、ロイズ法に規定された組織形態、すなわち事業運営法人(マネージング・エージェント)とリスク引受法人(法人メンバー会社)の分離が義務付けられていること、また、当該外国子会社の事業年度が1月から開始されることから、平成28年度中に手当てしなければ、平成29年度には、再度、現行の適用除外基準(実体基準、管理支配基準、非関連者基準)を満たすことができず、合算課税が生じる恐れがある。このため、早急に適用除外基準を見直す、もしくは、現行のトリガー税率を早急に18%未満にまで引き下げるなど、何らかの手当てを行う必要がある。

    2. 航空機・船舶リース事業
      特定外国子会社等が行う航空機・船舶等の貸付については、CFC税制の適用除外基準を満たすことができないとされているが、諸外国でリース事業に対してもCFC税制が適用されていないなかで、わが国企業にのみCFC税制が課されることになれば、わが国のリース業の国際競争力にも関わるため、実態にあった基準に見直すべきである。

    3. 組織再編に係る所得について合算対象からの除外、もしくは、一定期間の猶予
      わが国企業が、複数の海外持株会社・海外子会社等を有する海外企業グループ等を買収した場合に、事業上の必要性から当該海外企業グループについて組織再編を行う場合が多い。しかし、その組織再編において譲渡益等が発生する場合、たとえ海外持株会社所在国において当該譲渡益が非課税となる場合でも、わが国において外国子会社合算税制の適用を受けることがあるため、国際的な組織再編の阻害要因となっている。
      そのため、組織再編に係る譲渡益については、CFC税制の合算課税の対象から除外すべきである。仮に、組織再編に係る譲渡益を合算課税の対象から除外することが難しい場合、買収後、一定期間は合算課税を猶予すべきである。

    4. その他の課題
      その他、CFC税制については、個々の課題について適切に対処すべく、以下の措置を実施することが必要である。

      • 上場企業である海外法人との間での合弁会社を設立し、それぞれの持分が50%ずつである場合などに、一定の条件のもとCFC税制の適用を排除
      • CFC税制で課税対象となる内国法人の株式等保有割合の要件について、10%から20%への引き上げ
      • 無税国に所在する会社についても所在地国以外で課税を受けることがあるため、法人としての租税負担割合をもとに外国子会社合算税制の適用の有無を判定
    d) 利子税制(行動4)

    BEPS行動4では、わが国における過少資本税制・過大支払利子税制に対応する利子の損金算入の制限について議論がなされた。今後、OECDの報告書で現行のわが国の制度に比べ、厳しい内容が勧告されると見込まれるが、それを踏まえたわが国における法改正については企業への影響を踏まえた慎重な検討が必要となる。具体的には、企業の実態を踏まえた適切な利子控除限度額の水準を設定するとともに、企業のキャッシュマネジメント機能に対して十分に配慮することが必要である。

    e) タックス・プランニングの報告義務(行動12)

    わが国における既存の税制(GAAR(一般的租税回避防止規定)の不在等)との接続を考えれば、直ちに導入できる環境ではなく、慎重な議論が必要である。少なくとも導入を検討する際には、租税回避を行うアグレッシブ・タックス・プランニングに従事していない大多数の企業が事務負担を負わない制度とすべきである。また、義務的情報開示制度を導入する場合には、他の開示ルール(事前ルーリング制度、協力的コンプライアンス(CC)等)との関係について十分に整理すべきである。
    なお、仮にタックス・プランニングの報告義務をわが国においても導入する場合、報告義務をプロモーターに課すべきである。

  2. 租税条約

    a) BEPSプロジェクトを踏まえた対応

    BEPS行動計画に関し租税条約の関係では、租税条約の濫用防止(行動6)、PE認定の人為的回避の防止(行動7)、効果的な紛争解決メカニズムの策定・多国間協定の開発(行動14、行動15)が議論となった。これらについては、影響の大きい内容であり、今後の条約の締結・改定において、重要な論点となる。以下、具体的な懸念点・意見等について述べる。

    • 租税条約の濫用防止(行動6)
      条約特典は企業の真正な経済活動には当然認められるべきである。過度に厳格なLOB(特典制限条項)の採用を控えるとともに、PPT(主要目的テスト)については、執行の安定性の観点から、各国の執行をモニタリングする必要がある。

    • PE認定の人為的回避の防止(行動7)
      PEの定義(コミッショネア契約、準備的・補助的活動)、帰属所得の範囲が変わる予定であるため、明確なガイドラインを設定し、一貫した執行を実施することが重要である。

    • 紛争解決(行動14、行動15)
      BEPSプロジェクトで推奨された内容について、各国において足並みを揃えていくことが重要である。また、BEPSプロジェクトにより、各国当局の国際課税に係る判断がより実質を重視する方向に移行しつつあるため、当局間の見解の相違等による二重課税のリスクが増大するおそれがある。その点を解消するために、行動14において仲裁を含めた相互協議の改善に強く期待する。行動15に関しては、行動6や7といった課税強化の項目のみならず、紛争解決についても、ひろく関係国に成果物を共有するメカニズムとして機能することを期待する。

    b) 租税条約ネットワークの充実

    日本再興の鍵は、グローバル経済の中で成長を勝ち取ることである。このため、TPPを始めとする経済連携協定の推進により貿易・投資を活性化して海外需要を取り込むとともに、円滑な海外事業活動を担保する租税条約ネットワークを拡充することが極めて重要である。租税条約の拡充により国際的な二重課税の排除を行うことは、わが国企業の海外における安心かつ確実な事業展開の大前提であり、そのための相手国における執行体制の整備・確立への協力も欠かせない。また、投資所得に係る源泉地国課税を軽減することは、海外からの資金還流および国内における再投資という好循環の実現に資する。
    具体的には、中国、インド、タイ、インドネシア、ベトナム、ブラジル、ロシア、シンガポール、韓国、マレーシア等との租税条約を改定するとともに、台湾、ミャンマー、チリ、アルゼンチン、ベネズエラ、コロンビア、ナイジェリア、モンゴル等の未締結国・地域との租税条約締結交渉を推進すべきである。
    これらの租税条約の改定・締結については、BEPS行動15との関係もあろうが、必要なものについては早期に取り組むべきである。具体的には、移転価格税制に係る対応的調整規定・仲裁規定、親子間配当および貸付金利息に係る源泉徴収の免除規定、使用料に係る源泉徴収の減免規定等を盛り込むことが重要である。

  3. その他、国際課税に関する課題

    a) 外国子会社配当益金不算入制度の益金不算入割合を95%から100%へ見直し

    海外で獲得した資金を国内へ還流させ、国内における生産・研究開発等を促進することは、わが国企業が国際競争力を維持するために極めて重要であり、その観点から、外国子会社配当益金不算入制度の益金不算入割合を95%から100%へと拡充すべきである。

    b) 外国税額控除制度の繰越限度超過額及び控除余裕枠の繰越期間の延長

    外国税額控除制度における繰越限度超過額及び控除余裕枠の繰越期間は3年と短いため、期間の経過により国際的な二重課税が排除されない可能性が依然として残されている。企業の海外活動の制約とならないよう、現行の3年から繰越期間を延長するなど、適切な措置を講じるべきである

    c) リバースチャージ方式における対象の見直し

    電気通信役務の提供が国内において行われたか否かは、その役務の提供を受ける事業者の本店等が国内にあるか否かにより判定される。そのため、内国法人の国外支店が国外事業者から受ける役務提供もリバースチャージ方式による課税の対象となるが、国内で課税の対象とすべき役務の提供ではなく、また国外の付加価値税との二重課税が生じる可能性もあることから、課税対象から除外すべきである。
    また、日本に支店を有する国外事業者は、自ら消費税申告を行っており、消費税の捕捉は容易であることから、当該国外事業者から受ける役務提供についても、リバースチャージ方式における課税対象から除外すべきである。現行の制度にとっては、国外事業者の日本支店と日本法人とで消費税に係る扱いが異なることになり、不適切である。

(5) その他、法人課税に係る項目

  1. 異常危険準備金における特例積立率の特例の延長・拡充
    近年の巨大自然災害の増加等を踏まえ、火災保険等に係る異常危険準備金制度について、現行の積立率5%を維持するとともに、準備金の積立残高の上限となる洗替保証率について、現行の30%から40%へと引き上げるべきである。

  2. 産業競争力強化法に係る登録免許税の軽減措置の延長
    事業者の積極的な組織再編・事業再編を通じた生産性向上の動きを引き続き推奨すべく、産業競争力強化法に係る登録免許税の軽減措置を延長すべきである。

  3. 国際船舶に係る登録免許税の特例措置の延長・拡充
    国際競争力の強化に向け、諸外国に比べ割高な国際船舶(日本籍船)の取得・保有に係る諸税の軽減を図るべく、国際船舶に係る登録免許税の特例措置を延長すべきである。あわせて、国際船舶の増加を着実に実施すべく、運航面等で競争力のある船齢5年以上の海外法人から取得した国際船舶も対象にすべきである。

  4. 印紙税の見直し
    電子商取引が一般化し、経済取引のペーパーレス化が著しく進展する中、紙を媒体とした文書のみに課税する印紙税は合理性が失われている。また、課税対象にあたるかどうかの判別が企業実務上の負担になっている。本来的には廃止すべきであり、少なくとも一層の簡素化・負担軽減を図るべきである。

  5. 当初申告要件の見直し
    平成23年12月改正により、控除可能な金額が当初申告の際に記載された金額に限定される「控除額の制限」がある措置について、修正申告又は更正の請求により正当額まで控除額を増額させることができることになった。しかし、課税庁による増額更正の場合は控除額を増額できず、バランスを欠くため、増額更正の場合も控除額の増額を認めるべきである。

  6. 番号制度への円滑な移行に伴う税務分野での所要の措置
    個人情報の漏洩リスク等に鑑み、顧客に交付する支払通知書及び特定口座年間取引報告書に記載することとされている「個人番号」を削除すべきである。

  7. 帳簿保存の電子化に係る取り組みのさらなる進展
    帳簿保存の電子化に係る取り組みをさらに進展させるべく、国税関係書類の電磁的記録について、適正な改ざん防止措置を講じた上で、より柔軟な記録保存のあり方を検討すべきである。

  8. 特定同族会社の留保金課税の廃止
    企業の経営戦略における自己資本の充実の観点から、特定同族会社の留保金課税は廃止すべきである。

  9. 欠損金の繰越期間の延長、繰り戻し還付
    欠損金の繰越期間については、平成27年度税制改正により、平成29年度以降発生分につき、10年とすることが定められた。しかし、諸外国では無制限の国も多いため、国際的イコールフッティング、対日投資促進の観点から、欠損金の繰越期間の延長を検討すべきである。あわせて、企業業績の変動に対処すべく、繰り戻し還付についても復活(大法人)および還付期間の延長を検討すべきである。

  10. 受取配当益金不算入制度における負債利子控除の廃止
    平成27年度税制改正により益金不算入の割合が改正されたが、関連法人株式等については負債利子控除が依然として存置されている。事務負担軽減の観点から負債利子控除制度を廃止すべきである。

  11. 放送ネットワーク災害対策促進税制の延長
    被災情報や避難情報など国民の生命・財産の確保に不可欠な情報を確実に提供するため、放送ネットワーク災害対策促進税制を延長すべきである。

  12. 原料用途免税の本則非課税化
    ナフサに係る石油石炭税・揮発油税の免税・還付措置、鉄鋼・コークス・セメント製造に係る石油石炭税の免税措置については、そもそも諸外国ではこれら原料に課税している例はないため、国際的なイコールフッティングの観点から、原料用途免税を本則非課税化すべきである。

  13. 復興・防災に係る税制上の支援の継続
    東日本大震災における集中復興期間の取り組みの状況を踏まえ、引き続き被災地復興・防災強化の取り組みが持続するよう、税制上の支援を継続すべきである。

2.自動車関係諸税の簡素化・負担軽減

自動車関係諸税は、欧米諸国と比べ極めて過重なユーザー負担が課されてきた。特に、道路整備目的で創設された自動車取得税と自動車重量税は、道路特定財源が平成21 年度に一般財源化された時点で既に課税根拠を喪失しており、さらに自動車取得税は消費税と、自動車重量税は自動車税との二重課税となっている。

自動車関係諸税については、消費税率10%段階における自動車関係諸税の簡素化・負担軽減実現の観点から見直すべきである。具体的には、諸外国と比べてとりわけ過重な自動車税の税率を引き下げるとともに、自動車重量税について、将来的な廃止に向け、まずは「当分の間税率」を廃止すべきである。また、平成27年度税制改正大綱に示されているように、消費税10%時点で自動車取得税を確実に廃止すべきである。

自動車税・軽自動車税の環境性能課税については、新たな負担であり対象車を限定するなど、過度な負担とならない制度設計にすべきである。環境性能課税は、簡素化・負担軽減の観点から車体課税全体の見直しと合わせて検討すべきであり、本税目のみの先行決着には反対する。

また、適用期限が到来する自動車税・軽自動車税のグリーン化特例については、現行制度のまま、1年間延長すべきである。

3.住宅・土地・都市税制

住宅は高額で、その分消費税負担が重い。消費者がいつでも安心して住宅を購入できるよう、駆け込み需要や反動減を和らげることが重要である。また、住宅投資は地域経済や他産業への高い波及効果、雇用創出効果を有する内需の柱である。そのため、2017年4月の消費税率の10%への引き上げを見据え、住宅の取得に係る負担を増加させないよう、実効性ある措置を講ずるべきである。

(1) 租税特別措置の延長・拡充

上記の点を踏まえ、少なくとも税制に関して、平成28年度税制改正においては、住宅等に関して以下の措置を実行することが重要である。

  1. 新築住宅に係る固定資産税の軽減特例の延長
  2. 居住用財産の買い換え特例の延長
  3. 住宅及び住宅用土地の取得に係る不動産取得税の特例の延長
  4. 認定長期優良住宅・低炭素住宅に係る課税の特例の延長
  5. 改修工事に係る固定資産税の特例の延長
  6. マンションの建替事業に係る登録免許税・不動産取得税の軽減措置の延長
  7. サービス付高齢者向け賃貸住宅に係る所得税・法人税の軽減措置の延長
  8. 国家戦略特区関連の税制措置の拡充

(2) 地価税・土地譲渡益重課制度の廃止

土地バブルの抑制という政策目的が失われていることから、地価税及び法人の土地譲渡益重課制度について、速やかに廃止すべきである。

4.環境・資源・エネルギー関係諸税

(1) 森林吸収源対策や生態系保全に係る新税創設に反対

現在、森林吸収源対策や生態系保全に関し、一部、個人住民税・法人住民税の均等割の上乗せを含め、新税を創設することを検討している動きがあるが、反対である。そもそも、森林吸収源対策や生態系保全に係る国の政策的な財源について、地方税の仕組みに基づいて徴税することは、地方自治体の活動・事務運営の自主性・独立性の観点から望ましくない。また、住民税均等割に上乗せし、国が再配分する仕組みは徴税上の管理コストの問題があり不適切である。森林吸収源対策や生態系保全に係る追加的な費用が必要な場合には、その機能が広く多面的な便益をもたらすことから国民全体で負担するとの考え方に立ち、一般財源の組み換えで手当てすべきである。

(2) 地球温暖化対策税の抜本的な見直し

東日本大震災後、わが国では、原子力発電所の稼働停止に伴う化石燃料の輸入増加等により、産業用の電気料金が約4割上昇するなど、企業の国際競争力に大きな影響を与えている。そうしたなか、地球温暖化対策税はエネルギーコストの上昇に拍車をかけている。加えて、震災後の化石燃料消費の増加により、当初の見積もりを超える税収がある一方、徴収されたまま一般会計に留保され温暖化対策に活用されていない税収や、エネルギー特別会計に繰り入れられても使用されず、翌年に繰り越されている税収もあり、課税の必要性に疑義が生じている。

したがって、地球温暖化対策税について、課税の廃止を含め、抜本的に見直すことが喫緊の課題となっており、平成28年4月に予定されている税率のさらなる引き上げは行うべきでない。あわせて、国民に広く多面的な便益をもたらす森林吸収源対策は一般財源で手当てすべきであり、特定の者に負担を課すことは適当ではなく、地球温暖化対策税収の森林吸収源対策等への使途拡大には反対である。

(3) 石油関係諸税の負担軽減

石油関係諸税(揮発油税、地方揮発油税等)は消費税との関係でTax on Taxとなっているため、速やかに解消する必要がある。そもそも石油関係諸税は自動車重量税と同様、一般財源化された時点で課税根拠を喪失しており、負担の軽減が不可欠である。少なくとも「当分の間税率」は廃止すべきである。

(4) 海外投資等損失準備金制度、減耗控除制度の延長・拡充

国際的な資源メジャーの台頭や資源国のナショナリズムの高揚等により、国際的な資源獲得はより一層激しさを増している。こうした中、天然資源に乏しいわが国にとって、探鉱開発を促進し、資源・エネルギーの安定供給を図る観点から、海外投資等損失準備金制度、減耗控除制度を維持することが不可欠である。

あわせて、わが国として資源獲得をより一層促進すべく、減耗控除制度については、探鉱準備金・海外探鉱準備金制度の据置期間の延長、海外自主開発法人における役員派遣要件の緩和について検討すべきである。

(5) 金属鉱業等鉱害防止準備金制度の延長

金属鉱業等においては、廃鉱後も引き続き鉱害対策等を実施する必要がある。今後、地震等の大規模な災害に備える意味からも、金属鉱業等鉱害防止準備金制度を延長すべきである。

5.年金税制

公的年金の給付水準は、マクロ経済スライドの発動に伴い低下するなかで、老後の所得確保を図る観点から、企業年金の普及・拡大がますます重要となる。加えて、年金の運用においてもアベノミクスによる経済の好循環の成果を実感し、あわせて、中長期的な投資による資産形成を支援し、市場を活性化させる観点から、確定拠出年金(DC)の拡大・利便性の向上を図るなどして、より柔軟な制度を構築していくことが重要である。その観点から、以下のとおり意見する。

確定拠出年金(DC)については、確定給付企業年金には無い税制上の制約が導入・拡充の妨げになっているため、拠出限度額の大幅な引き上げ、中途引き出し要件の見直しなどを図るべきである。

また、確定給付企業年金(DB)について、年金財政の早期健全化や安定化を図る観点から、弾力的に掛金拠出を行えるようにすべきである。

退職年金等の積立金に係る特別法人税は、平成26年度税制改正において課税凍結措置が延長されたが、上記企業年金の拡充の方向性と逆行するものであり、国際的にも稀な税であることから、速やかに廃止すべきである。

6.個人所得課税

(1) 個人所得控除の適正化

個人所得課税については、経済活力を維持・強化することに配慮しつつ、経済社会の構造変化を踏まえ、各種控除の適正化に関し、十分に検討を行うことが必要である。とりわけ、わが国が今後も持続的に発展していくためには、将来の成長の担い手である若年層・子育て世代の活力維持を図るとともに、女性の活躍推進の観点から働き方に対して中立的な税制を構築すべきである。あわせて、わが国における人口減少の流れに歯止めをかけるために、子どもの数や子育て支援等の充実に配慮して制度を設計することが望ましい。

(2) 金融・証券・保険税制

  1. NISA及びジュニアNISAの恒久化、拡充及び簡素化
    中長期的な投資による資産形成の支援、継続的な市場の活性化の観点から、NISA及びジュニアNISAの非課税期間、口座開設期間を恒久化すべきである。その上で、スイッチング(NISA口座及びジュニアNISA口座で取得した上場株式等の売却代金の範囲内で他の上場株式等の再取得)を認めるべきである。あわせて、NISAの口座開設手続について、住民票の写し等の提出を不要とするなど、手続の簡素化を図るべきである。

  2. 上場株式等の相続税評価額等の見直し
    上場株式(ETF 及びREIT)並びに公募株式投資信託については、価格変動リスク等を考慮すれば、他の相続財産と比較して、相続税の負担感が相対的に高いため、相続税評価額を見直すべきである。それにより比較的長期間保有する個人株主が増加し、個人によるリスクマネー供給促進といった効果が期待できる。

  3. 金融所得課税のさらなる一元化の検討
    金融所得課税については、高齢化社会における金融資産の効率的な運用、金融資本市場の活性化、企業の円滑な資金調達等の観点から、実務面の課題に十分配慮しつつ、今後も、さらなる一元化を推進すべきである。

  4. 生命保険料控除制度の拡充
    社会保障における国民の自助の取り組みを支援する観点から、生命保険料控除制度を拡充すべきである。

以上

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