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Policy(提言・報告書)  科学技術、情報通信、知財政策 防衛産業政策の実行に向けた提言

2015年9月15日
一般社団法人 日本経済団体連合会

経団連は、防衛生産・技術基盤の強化や装備品の国際共同開発・生産の推進に向けた提言を重ねてきた。昨年4月に防衛装備移転三原則#1が閣議決定されてから、わが国と欧米やアジアの諸国等との間で防衛装備・技術協力に関する協議が進展している。経団連としても、各国の防衛関係者との意見交換を進めている。

こうした中で、防衛省改革の一環として、防衛省の2015年度予算には、装備品の効果的かつ効率的な調達や国際的な防衛装備・技術協力等を行うため、防衛省の外局として防衛装備庁の新設が盛り込まれた。本年6月10日に改正防衛省設置法が成立し、10月に防衛装備庁#2が新設される予定である。

そこで、今般、防衛装備庁の政策に対して産業界の考えを反映させるため、「防衛産業政策の実行に向けた提言」を以下の通りとりまとめた。

1.防衛産業の現状と環境変化

(1) わが国を取り巻く状況

北朝鮮の弾道ミサイルや核兵器の脅威に加え、中国は軍事力を広範かつ急速に強化し、ロシアも日本近海における活動を再度活発化するなど、わが国を取り巻く安全保障環境は一層厳しくなっている。また、国家安全保障戦略で示された国際協調主義に基づく積極的平和主義によるわが国の国際貢献が、災害派遣なども含めて求められている。

現在、国会で審議中である安全保障関連法案が成立すれば、自衛隊の国際的な役割の拡大が見込まれる。自衛隊の活動を支える防衛産業の役割は一層高まり、その基盤の維持・強化には国際競争力や事業継続性等の確保の観点を含めた中長期的な展望が必要である。

(2) 防衛生産・技術基盤の現状

政府が工廠を保有していないわが国では、民間企業が防衛装備品の開発・生産、維持・整備、運用を支える防衛生産・技術基盤を有しており、この基盤によって、優れた装備品を独自に開発・生産などができる能力を保持している。

防衛関係費の減少傾向は2013年度より止まったが、防衛生産・技術基盤の維持・強化に直接的な効果がある航空機、艦船、車両、火器・弾薬などの主要な国産装備品の調達予算は増えていない。特に、現行の中期防衛力整備計画のもとでは、オスプレイやAAV7(Amphibious Assault Vehicle:水陸両用車両)などの高額な装備品が短期的に海外から導入され、国産の装備品の調達が大幅に減少している。

わが国の防衛関連企業においては、防衛事業の比率は低く、民生部門のリソースも共用・活用して事業を続けてきたが、こうした予算の状況から、防衛生産・技術基盤を維持するための固定費の回収や適切な採算・キャッシュフローの確保が難しい。

防衛装備品の開発や生産には、特殊かつ高度な技能・技術力・設備等が必要である。防衛需要に対応した技術開発や基盤維持等の投資のためには一定の予見可能性が求められるが、中長期的な施策やロードマップが明確でない。

こうした中で、防衛関連事業から撤退する企業が出ている。一旦その基盤が喪失されると、企業の再参入は難しく、これまで培った技術的な優位性は失われる。政府が支援しても、人員、技術力、設備、事業の回復には長い期間と膨大な費用が必要である。

このように、国内の防衛生産・技術基盤の維持や防衛事業の継続は非常に厳しい状況である。

(3) 防衛装備移転三原則をめぐる動向

防衛装備移転三原則により、わが国と価値観を共有する民主主義国に対して、欧米諸国等とは装備品の国際共同開発・生産の推進を図る一方、安全保障面で協力関係にあるアジア諸国等へは装備品の供与が進められている。

しかし、わが国の防衛関連企業には、防衛分野の国際市場における実績がほとんどない。各国政府間との防衛装備品協定等の枠組みの下、地域安全保障のあり方を含め、相手国の状況に応じた官民による装備品や技術の移転の手続を含む仕組みが必要である。

防衛装備品の海外移転は国家戦略として推進すべきである。装備品の移転に際して、装備品の供与だけでは相手国の要求が満たせない場合、オフセット#3要求への対応、装備品の運用、教育・訓練等の提供なども行う必要がある。また、民間企業が関わるプロジェクトとなるため、適切な収益の確保も重要な要素である。さらに、装備移転の相手国の装備調達や、契約、知的財産権の制度等に関する情報を収集する必要がある。そうした仕組みは民間企業だけでは構築できないため、日本版FMS#4等の制度を設計して対応することも必要である。具体的には、官民が連携・協議して、お互いの役割とリスク分担を定め、対外投資支援制度、情報保全体制、機微性の判断プロセスを構築するとともに、一定の輸出手続等の簡素化を行うべきである。

2.防衛生産・技術基盤の強化と装備品の国際共同開発等の推進

(1) 技術開発力の意義

わが国の防衛生産・技術基盤は、防衛省と産業界が独自の国産開発や各種のライセンス生産を継続することにより、欧米に対する技術的な遅れを取り戻して世界的な水準となった技術資産である。

わが国が有する高度な技術開発力は、それ自体が他国に対する抑止力であるとともに、自律性や自主的運用の確保、迅速な調達・運用支援と装備品の能力向上、国土・国情にあった装備品の開発・生産、国内の広範な産業や経済への波及効果、輸入装備品の選定やライセンス生産および国際共同開発・生産の交渉におけるバーゲニングパワーの確保につながる。

一方、最先端の技術開発力を失えば、わが国は防衛生産・技術基盤を海外の政府や防衛産業に依存することになり、装備品の自主的な運用が困難になるなど、大きな問題が生じる。

こうした重要な意義を持つ技術開発力を国家として確保するため、研究開発の積み重ねと継続的ものづくりが必要である。

(2) 防衛生産・技術基盤の維持・強化

厳しい財政状況により国内の装備品の調達が減少する中、企業が防衛事業を継続するには将来における予見可能性の向上が求められる。このため昨年6月に防衛省が策定した防衛生産・技術基盤戦略に基づき、国内に保持すべき防衛生産・技術基盤を一層明確にした上で、施策を実施することが必要である。また、海外からの調達の拡大については、防衛事業に大きな影響が生じないよう、緩和策が必要である。例えば、国として一定程度の国内調達を優先することや、輸入装備品のメンテナンスなどを可能な限り日本企業が行えるようにすることが求められる。

(3) 装備品の国際共同開発・生産と海外移転の推進

米国、欧州(イギリス、フランス、イタリア、ドイツ、スウェーデン、NATO(北大西洋条約機構)、EU(欧州連合)等)、オーストラリアとの装備品の国際共同開発・生産、東南アジア(フィリピン、インドネシア、マレーシア、タイ、ASEAN(東南アジア諸国連合)等)やインド等への装備品や技術の提供など、諸外国や国際機関との装備・技術協力を推進する必要がある。このため、技術移転の手続の簡素化や、防衛装備品協定や情報保護協定の締結の加速および技術移転の手続の簡素化を図るべきである。

特に、米国との間では、本年4月に改定された日米防衛協力のための指針において、防衛装備・技術協力が日米共同の取り組みの一つとして位置づけられた。米国が、国防費を削減する中で同盟国や友好国との協力を一層重視しており、わが国に適切な対応が求められている。

(4) 具体的プログラムの円滑な実施

防衛装備移転三原則に基づき、わが国は戦闘機F-35#5の製造等に参画している。米国に対しては、昨年7月にペトリオットミサイル部品の移転、本年7月に護衛艦のイージス・システムの製造等に係るソフトウェアおよび部品の移転が決定された。また、昨年7月にイギリスとの空対空ミサイルの共同研究が決定され、11月から開始されている。オーストラリアに対しては、本年5月に将来潜水艦の共同開発・生産の実現可能性の調査のため技術情報の移転が決定された。インドとは、わが国のUS-2(救難飛行艇)の輸出について協議されており、フランス等との交渉も進展している。

わが国の安全保障に積極的な意義がある海外とのプログラムを円滑に実施していくには、具体的な実績を積み重ねていくことが重要である。防衛装備移転三原則の枠組みだけでは不十分であり、諸外国の事例の精査等を行い、海外移転に資する具体的な仕組みの構築と施策の実施が必要である。

3.防衛装備庁への期待

(1) 基本的な役割

防衛装備庁は、防衛省内の調達や研究開発等に係る装備取得関連部門を集約・統合した外局として新設される。

安全保障の重要性が高まるなか、2013年12月に政府が決定した国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画に加え、本年1月に決定した宇宙基本計画、9月に決定したサイバーセキュリティ戦略を踏まえた広範な装備品の開発等が必要である。また、防衛生産・技術基盤の維持・強化の重要性については、本年6月の政府の「経済財政運営と改革の基本方針2015」にも盛り込まれており、これらの実現には、まず政府の関連予算の拡充と実現に向けた強いリーダーシップの発揮が求められる。

防衛生産・技術基盤の維持・強化には、装備品の中長期的な研究開発計画や取得計画の明示と確実な実施および防衛装備移転三原則に基づく国際共同開発・生産や海外移転の推進という両輪での施策が必要である。

このため、防衛装備庁は、装備品に関する適正な予算を確保し、人員の充実を図るとともに、企業の技術革新と効率性を両立させる仕組みと関係省庁を含めた官民による緊密な連携を基にした装備品や技術の海外移転の仕組みを構築することにより、陸海空の装備品の調達および国際共同開発・生産や海外移転を効果的に進めるべきである。

その際、企業が安定的かつ持続的に装備品の開発・生産を行うため、企業の適切な採算・キャッシュフローの確保が求められる。

こうした観点を踏まえ、防衛生産・技術基盤戦略で示された研究開発の拡充、装備・技術協力、契約制度改革、企業と省庁との連携強化を着実に実施すべきである。防衛装備庁の設立にあたり、各項目の担当部局や実施時期を明確化することが求められる。

(2) 具体的な取組み

① 研究開発の強化

国家安全保障戦略等の中長期的な観点を踏まえ、民間の知見も活用した研究開発ビジョンの策定が求められる。それに基づき研究開発予算の拡充を図るとともに、集中的に投資する分野や装備品を決定し、要素技術の開発やシステムインテグレーション技術を強化する具体的なプログラムを実施する必要がある。各種関連研究の成果を踏まえ、産業波及効果と防衛装備品の海外移転の推進も考慮した新規の装備品の開発事業を早期に立ち上げるべきである。

航空分野では、将来戦闘機F-3(仮称)の新規開発試作事業がある。わが国は、米国、ロシア、フランス、中国等と並び、最先端技術を結集させた戦闘機を独自に開発できる優れた能力を保持している。材料や部品から搭載装備品やシステムインテグレーションに至る全体システムの開発は、航空機製造に関わる広範な分野に対して大きな波及効果を有する。わが国の航空機産業を世界最高水準に保つためには、こうした全体システムの開発が必須である。2011年度に生産が終了したF-2戦闘機以降、国内における新たな戦闘機開発事業は途絶えており、F-3(仮称)の開発は戦闘機の国内生産・技術基盤を維持するための重要な機会である。

また、統合機動防衛力の構築や南西地域の防衛態勢強化の要請に応える精密誘導技術、C4ISR#6を含む情報関連技術、無人機システム技術ならびに水陸両用車等の陸上装備品や、多様な任務への対応が可能な新型護衛艦等の海上装備品に関する研究開発も推進すべきである。

さらに、企業が自主的に行う研究開発についても、政府の試験場や訓練場などの設備#7の利用を可能とする施策も必要である。

防衛省が関係省庁と連携した研究開発プログラムも重要である。来年3月に策定される第5期科学技術基本計画の検討においてもデュアルユース(軍事・民生両用)の重要性が指摘されており、政府の科学技術政策において、デュアルユース技術の開発を推進すべきである。こうした観点から、総合科学技術・イノベーション会議との連携を図り、革新的かつ非連続的な技術開発を行うImPACT#8を拡充・強化するなどの取組みを進めるべきである。

また、基礎研究の中核となる大学との連携を強化すべきである。その際、大学には、情報管理に留意しつつ、安全保障に貢献する研究開発に積極的に取組むことが求められる。本年度から、防衛省が大学等を対象として実施する安全保障技術研究の拡充も必要である。

② 国際共同開発・生産や装備品移転戦略とプログラム推進
  1. (i) 国・地域別戦略と技術戦略
    国際共同開発・生産や装備品の海外移転を戦略的に進めるため、国内に厳格に保持すべき技術と、国・地域に応じて海外移転が可能な技術を明確に区別した国・地域別戦略の策定が求められる。加えて、優れた技術力と生産力の確保に向けて、既に保有している技術と中長期的な技術の確保に向けた技術戦略が必要である。これは企業の投資の予見可能性の向上にもつながる。
    技術・製品の移転に関して、防衛装備移転三原則の趣旨に則し、企業の採算性や技術力・知的財産の維持・強化を考慮した上で、初期段階では国による技術、資金、第三国移転や目的外使用などのリスク負担に関する枠組みの構築とともに、防衛装備庁による知的財産権などの権利関係に関する国内外における調整、海外事業の展開に必要な関係省庁間の調整が求められる。
    このため、国際共同開発・生産における具体的プログラムに基づく作業やリスクの分担を分析および評価し、国際的なサプライチェーンを含めて装備品の開発・生産、維持、運用のライフサイクルにわたる課題を把握し、対応策を実施するとともに、米国など諸外国の防衛政策や装備政策、わが国からの装備品および技術の移転の影響などに関する情報収集・分析機能を強化すべきである。また、調達に関する規則等を調査し、将来の装備品の国際共同開発・生産に対応できる契約条件についても、早急に検討すべきである。

  2. (ii) 具体的なプログラムの推進

    1. (a) 国際共同開発・生産の直近の事例は戦闘機F-35であり、全てのユーザー国間で部品等を融通し合う多国間の枠組み(ALGS:Autonomic Logistics Global Sustainment)が構築されている。わが国の企業は、F-35の機体の最終組立・検査、エンジン、ミッション系アビオニクス(電子機器)の製造に参画している。今後、自衛隊向けのF-35の製造を行っていくが、他国向けのF-35の製造への参画を目指すべきである。
      F-35製造参画企業の基本的枠組みは、既に米国をはじめF-35開発への出資国によって構築されている。開発に参加できなかったわが国の企業が後から参画するためには、政府支援を受けている開発出資国の企業に対する価格競争力とともに、製造設計権を持つ海外企業によって決定される生産機数の変動への対応が求められる。
      また、昨年12月、米国はアジア太平洋地域におけるF-35の整備拠点を日本およびオーストラリアに設置することを決定した。F-35の維持・整備におけるわが国の役割分担を明確化し、防衛生産・技術基盤の維持・強化につなげるべきである。
      本プログラムには、わが国は後から参加したことおよび他国向け機体の製造・整備がわが国と世界の安全保障に資するという観点から、国としての戦略と長期ビジョンを策定するとともに、製造・整備基盤の経費負担等の支援を行い、F-35の生産への参画および維持・整備事業を積極的に推進することが必要である。

    2. (b) 本年5月、オーストラリアに対して、将来潜水艦の共同開発・生産の実現可能性の調査のため技術情報の移転が国家安全保障会議において決定された。オーストラリアの評価プロセスにおけるわが国の提案の選定#9に向けて、官民が連携して対応すべきである。また、生産段階から維持・整備段階に至る現地企業の活用や技術移転の内容を決定し、官民の役割やリスク分担を定めた仕組みの構築を行うとともに、政府による産業振興、保険、資金支援、輸出管理等の広範な支援体制などを目指すべきである。

    3. (c) わが国としてのASEAN全体に対する国際貢献として、装備品や技術の移転が重要な手段となる。南シナ海におけるMDA(Maritime Domain Awareness:海洋監視)能力の強化が必要であり、これはASEAN各国に共通する課題でもある。既にODAでインドネシアに巡視船を供与しているが、装備品の供与や共同開発と運用や維持も含めた提供が必要である。このため、MDAの基盤となる情報通信インフラ技術等の供与や共同開発が求められる。

    上記(a)~(c)までの事例を始めとして、二国間や多国間の戦略的パートナーシップを構築するため、インフラパッケージ輸出の仕組み等を活用し、内閣官房、防衛省、外務省、経済産業省等の関係省庁と企業が戦略の意義や事業の見通しを共有し、外為法の円滑な運用をはじめ装備品や技術の移転を推進していくことが重要である。また、これらの経験を活かし将来のプログラムへつなげる仕組みの構築も長期的観点から重要である。

③ 契約・調達制度の改革

技術的先進性やリスク等の適正かつ公平な評価に基づき、企業の努力が利益に適切に反映されるとともに、防衛生産・技術基盤を維持するための固定費負担や生産が中断した場合のコスト負担などを適切に補填する仕組みが必要である。また、収益性に関して、民生部門の収益が向上する中、防衛事業の収益性の向上により防衛産業の魅力を高めるとともに、キャッシュフローが重視される経営環境の変化に対応した資金支援策#10も防衛産業の裾野の拡大の観点から必要である。

官民の公平なリスク負担に基づく契約制度を構築し、双方にとって多大な事務負担が生じる原価監査条項付契約#11を減らし、適切なコスト補償を考慮した確定契約を拡充する必要がある。本年4月に成立した防衛調達に係る特別措置法により、5年を超える長期契約を基にした複数年度一括調達が可能となったが、この適用を拡大していくことも効率化の観点から求められる#12

また、開発期間の短縮化に努めるべきである。また、量産段階での長期一括・確定契約による企業努力が報われるよう制度化する必要がある。このため、開発が完了し量産へ移行する際の企業の再選定は、効率化の観点から廃止すべきである。維持・修理段階については実態に合わせたコスト保障型契約を基本とし、効率性も考慮する必要がある。超過利益返納条項付契約#13については、コストダウンや納期の短縮のインセンティブがより働きやすいように改善する必要がある。こうした観点から、企業努力によるコストダウンや早期の納入などにより利益が増加した場合には、その全部あるいは一部を企業に留保し、装備品の開発と生産のために再投資できる仕組みも検討すべきである。効率化の観点から従来の監督や検査の簡素化などの見直しも必要である。さらに確定契約を推進し、受託事業の技術的難易度等を考慮した一定のコストの超過を許容する契約形態を導入することも必要である。

加えて、必要な費用の確実な補償はもとより、リスクと進捗に対応した適正な利潤が必要である。その適正利潤の水準は民間事業または欧米の防衛産業の状況を考慮して設定すべきである。また、現在の予算の状況等により作業の進捗に応じた支払が困難な場合は、企業への資金支援策が必要である。

装備品のライフサイクルを通じた一元的なプロジェクト管理の実効性の確保に向け、米国の制度等を参考にしたガイドラインの策定、コスト情報のデータベースの構築、人材育成が必要である。また、ライフサイクルコストの予測にあたっては、一定規模の数量や期間の実績等が求められる。加えて、防衛装備庁によるプロジェクト管理においては、関与の度合いに応じた責任を防衛装備庁が負うことにより、双務的な契約とする仕組みとすべきである。

装備品のコストダウン促進の観点から、企業による取組みだけでなく、海外の事例を含めて幅広いコストダウン方策を調査して、有効な方策を検討すべきである。

装備品の納入先は防衛省が大半を占めており、市場のメカニズムや競争に委ねることはできないため、契約方式については、一般競争入札への偏重を見直し、装備品の特性に応じて随意契約を活用すべきである。

これらが有効に機能することが、防衛生産・技術基盤の維持・強化に向けた基本的な枠組みとなる。

4.産業界の取組み

最先端技術を活用し、かつ効率性が高く、国土・国情に合致した装備品の開発や維持・整備などをしていくことが産業界に求められている。そのため、防衛生産・技術基盤の維持に向けた中長期的な方針と技術戦略や工程表に沿って、企業の研究開発投資の拡充、生産・管理システムの高度化やコストダウン等を推進して防衛産業の国際競争力を強化するとともに、企業間連携を含めた産業基盤の拡充を行う。

また、政府の方針のもと、産業界は、わが国や世界の安全保障に資する国際共同開発・生産に積極的に貢献する。企業が保有する広範な技術#14や、これまでの海外とのライセンス生産や共同開発等で培ったネットワークを有効的に活用し、新しい共同事業を促進する。政府が各国と策定する情報保全やサイバーセキュリティ対策のもとで、企業は情報保全やサイバーセキュリティ対策等の取組みを強化して輸出に向けた環境を整備する。

今後は、政府の国・地域別戦略に合致した展示等をオールジャパンで実施することが求められることから、防衛関連団体を含め官民一体となった展示や販売の戦略を展開する。

安全保障に係わる新規のプログラムへの参画等により積極的に人材を採用し、組織の活性化、継続性、多様性の確保および中小企業を含めた優れた技術を持つ企業の参入促進を図るとともに、国民による理解を促進し、防衛産業の発展に努めていく。

以上

  1. 従来の武器輸出三原則等のもとでは、武器輸出は実質的に全面禁止されていた。防衛装備移転三原則はこの方針を転換し、(1)防衛装備移転を禁止する場合を明確化、(2)移転を認め得る場合を限定し、透明性を確保しつつ、厳格審査、(3)目的外使用及び第三国移転について適正管理が確保される場合に限定するという三原則に基づき、防衛装備の移転の管理を行うこととした。
  2. 職員数は約1,800名。うち事務官と技官等が約1,400名、自衛官は約400名。
  3. オフセットとは、装備品等の取引の際に、購買国への見返りとして、供給国が何らかの代償を与えること。
  4. FMS(Foreign Military Sales:対外有償軍事援助)は、米国政府が同盟国や友好国等に対し、政府間ベースで装備品等を有償で提供する制度。
  5. F-35は、米国を中心とした9か国の国際共同開発による最新鋭の戦闘機である。わが国は、国際共同開発のパートナー国ではない。
  6. Command(指揮)、Control(統制)、Communications(通信)、Computers(コンピューター)、Intelligence(情報)、Surveillance(監視)、Reconnaissance(偵察)の略語。敵の状況を正確に把握し、味方を適時適切に運用するための機能。
  7. 民間企業では保有できないような大型の試験設備や試験用レンジ(射場など)。
  8. Impulsing Paradigm Change through disruptive Technologies:革新的研究開発推進プログラム。
  9. 日本、フランス、ドイツの潜水艦が選定の対象となっている。
  10. 輸出事業での支援や産業振興資金支援など。
  11. 契約の履行途中または履行後に監査を実施して、金額を確定する契約。契約金額が上限であり、下回った場合は返納する。
  12. 長期契約は、艦艇建造契約等に用いられる最長5年の国庫負担行為契約。複数年度一括契約は、通常は中期防衛力整備計画の期間中の複数年度にわたり調達が予定されている装備品について一括で契約を行う国庫債務負担行為契約で、特別措置法で最長10年にすることが可能になった。
  13. 契約金額を当初に確定する確定契約の一種。契約相手方に超過利益が生じた場合に当該超過利益を国に返納させる契約。
  14. デュアルユース技術や、産学官などのオープンイノベーション等によって獲得する技術。

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