Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度  消費者契約法専門調査会「中間取りまとめ」に対する意見

2015年9月30日
一般社団法人 日本経済団体連合会
消費者政策委員会 消費者法部会

はじめに

内閣府消費者委員会消費者契約法専門調査会の「中間取りまとめ」においては、消費者契約法の実体法部分の規律に関し、多岐にわたる改正検討項目が挙げられているが、このまま立法化されれば、通常の消費者契約の現場に無用の混乱を生じさせることが非常に懸念される。

消費者契約法は、消費者契約の一般ルールとしてすべての消費者取引を対象とし、契約の取消しや契約条項の無効などの大きな効果をもたらす規律である。経済社会の変化に合わせ法律を見直すことは重要だが、消費者と事業者は車の両輪であり、過度に一般的な事業者の経済活動を制限したり、負担をかけたりするルール設定は、国民経済を萎縮させ、一般の消費者にも取引コストの増大等で不利益をもたらす。

今後の検討にあたっては、消費者教育や地域の見守りネットワークによる消費者被害予防との役割分担、改正が予定されている民法、近く施行が予定されている改正景品表示法及び消費者裁判手続特例法、消費者契約法と並行して見直しが検討されている特定商取引法、各種業法等との関係にも配慮し、立法事実の有無、個別の論点のみならず論点が相互に組み合わさった際の法的効果(とりわけ不当勧誘規制について)と実際の経済活動への影響について、様々な業種・業態の事業者の生の声を十分に踏まえ、丁寧に検討を行うことを強く求める。

なお、経済界としては、適正な消費者取引の維持・推進に向け、消費者契約法、景品表示法など消費者法制の周知を図るとともに、社会的に有用で安全な商品・役務の開発・提供による消費者・顧客の満足と信頼の獲得に引き続き努めていく所存である。

以下、「中間取りまとめ」の項目に沿って、現在の各改正検討項目についての経済界の意見を述べる。

「第2 総則」
「1.「消費者」概念の在り方(法第2条第1項)」(4頁)

(意見)
「消費者」概念の安易な拡張には反対である。
(理由)
「消費者」概念は、消費者契約法適用の前提であり、基準の明確性に欠ければ、取引の安定性が著しく損なわれる。「消費者」概念の拡張を検討するのであれば、どのような場合に団体などを個人の消費者と同視して「消費者」とすべきか、「消費者」概念が明確な基準により切り分けられるのかという点を中心に、極めて慎重に検討すべきである。

「2.情報提供義務(法第3条第1項)」(5頁)

(意見)
情報提供義務を法的義務化し、義務違反の効果として損害賠償を定める規定を設けることには反対である。
(理由)
損害賠償請求されることを避けるため、過度な情報提供を事実上強いられる懸念がある。仮に検討するのであれば、前提として、業法等による規制の現状及びこれとの整合性を精査すべきである。

「3.契約条項の平易明確化義務(法第3条第1項)」(7頁)

(意見)
契約条項の平易明確化については、事業者の努力義務にとどめるべきである。
(理由)
平易明確性は主観的なものであり、かつ、一般的に、平易にしようとすれば明確性を欠き、明確にしようとすれば平易でなくなることが容易に予想される。

「4.消費者の努力義務(法第3条第2項)」(7頁)

(意見)
法第3条第2項を維持することに賛成である。
(理由)
法第3条第2項と第1項は裏表であり、第2項のみを一方的に削除することは不適切である。

「第3 契約締結過程 」
「1.「勧誘」要件の在り方(法第4条第1項、第2項、第3項)」(9頁)

(意見)
一般的な広告等の全てが不当勧誘規制の対象となることについては強く反対する。「事業者が、当該事業者と消費者との間でのある特定の取引を誘引する目的をもってした行為」の中から、例外的に取消しの対象となる行為として「消費者の意思形成に直接的に影響を与える」類型を切り出すことが可能かどうかも含め、事業者の予測可能性にも配慮しつつ、精査すべきである。
(理由)
「勧誘」とは、特定の消費者に対して「意思の形成に影響を与える」行為を指しているところ、「事業者が、当該事業者と消費者との間でのある特定の取引を誘引する目的をもってした行為」のうち、直接的に「意思の形成に影響を与える」ものはごく一部である。
インターネット取引やテレビショッピングの普及により、消費者と事業者の対面での勧誘によらない消費者契約に関するトラブルが増大する懸念は理解できるが、「特定の取引を誘引する目的をもってした行為」が、事業者が消費者に対して行う全ての広告を意味するとすれば、広汎に過ぎ、事業者にとっての予測可能性が著しく低下する。また、不利益事実の不告知など不当勧誘の要件の緩和・追加も検討中であることを考えあわせると、無用の混乱が生じかねない。例えば、TVCMにおいて、時間やスペースの関係上消費者に不利益な事実が入っておらず、公式サイトの商品説明やパンフレットには記載があったが、「TVCMを見て誤認した。公式サイトの商品説明やパンフレットは読んでいない。」と言われれば取消すことができるというのは、事業者にとって極めて酷である。また、広告に不利益事実の不告知等があったとしても、その後、契約締結に至るまでの過程で是正されることもある。

「2.断定的判断の提供(法第4条第1項第2号)」(11頁)

(意見)
現行法の文言を維持するという考え方に賛成である。ただし、逐条解説等による解釈の変更による「将来における変動が不確実な事項」の範囲の拡大については、慎重に検討すべきである。
(理由)
解釈を変更すれば、対象範囲が不明瞭になり、かつ、不当に拡大することが懸念される。そもそも、「将来における変動が不確実な事項」の範囲を広げると、事業者が慎重な言い方をしたとしても断定的に言った言わないの争いが増え、結果として事業者は勧誘時の情報提供をやめるか、書面等で過剰に行うか、いずれにせよ非常に慎重にならざるを得ない。

「3.不利益事実の不告知(法第4条第2項)」(12頁)

(意見)
不実告知型と不告知型を分ける基準をまずは検討することとし、当該基準が明確化できた場合のみ、2つの類型に分けた検討を行うべきである。
(理由)
この課題を解決できず各類型の適用対象が明らかにならないまま検討を行うとなると実際の影響が評価できない。

「(1) 不実告知型」

(意見)
故意要件を削除することに反対である。
(理由)
事業者にとって、消費者の利益になることを告げるのは当たり前である。消費者の関心事項についての誤認の有無も消費者からの言及がなければ事業者としては分からない中で、意図して不利益事実を隠蔽した場合以外にも、「言わなかった」として取消しが認められるのは、事業者にとって酷である。

「(2) 不告知型」

(意見)
先行行為要件を削除し、「不告知型」の規律を設けることには反対である。
(理由)
先行行為要件には告知すべき不利益事実の範囲を画定するという重要な役割があり、削除すると事業者が提供すべき情報の範囲について予測可能性がなくなる。あらゆる消費者契約に適用される一般ルールとしては、一般的な事業者と消費者の情報及び交渉力の格差に鑑みた最低限の規律にとどめるべきである。消費者取引の萎縮を招くことも懸念される。

「4.「重要事項」(法第4条第4項)」(15頁)

(意見)
法第4条第4項各号の事項に「消費者が当該消費者契約の締結を必要とする事情に関する事項」以外の項目について、加えること、これを例示事項とすることには反対である。
「消費者が当該消費者契約の締結を必要とする事情に関する事項」についても、事業者側からは、予測可能性が低いという懸念がある。消費者契約法という消費者契約の一般ルールにこの概念を導入する前に、具体的な事例や客観的な判断基準について、更に検討すべきである。

「5.不当勧誘行為に関するその他の類型」
「(1) 困惑類型の追加」

(意見)
①「執拗な電話勧誘」について
執拗な電話勧誘に関する規律については、現在行われている特定商取引法の見直しの議論に委ねるべきである。
②「威迫による勧誘」について
取消しが妥当な場合はいかなる場合なのかを更に検討したうえで、事業者の予測可能性を確保する観点から、判断の客観性が担保されるような明確な要件設定を検討すべきである。

「(2) 不招請勧誘」

(意見)
「不招請勧誘」に関する規律について、消費者契約法に規律を設けることについては反対である。
(理由)
個別の消費者に対する商品・役務についての丁寧な説明を通じて、そのメリットに関する理解が深まり購入意思が形成される商品・役務もあり、消費者契約法によって一律に規律することは適切ではない。
なお、商品・役務や規制の内容・実態等から「不招請勧誘」による実際のトラブルが問題となっているのは、特定商取引法によって規律される訪問販売と電話勧誘販売であり、現在行われている特定商取引法の見直しの議論に委ねるべきである。

「(3) 合理的な判断を行うことができない事情を利用して契約を締結させる類型」

(意見)
事業者が取引を躊躇したり、顧客に対して失礼な確認行為を行う必要が生じたりすることのないよう、限定的で明確な規律を設けることが可能か十分慎重に検討すべきである。

「6.第三者による不当勧誘(法第5条第1項)」(23頁)

(意見)
事業者と委託関係にない第三者による不当勧誘について、事業者が「知っていた」場合について、事業者が消費者の誤認を是正するためにどこまでのことをする必要があるのか、また、実際に是正することが可能なのかも含め、慎重に検討すべきである。
「知ることができた」場合まで含めることについては、反対である。
(理由)
全く関係のない第三者の行為(口コミサイトへの書き込みや競合他社の勧誘行為等)によって誤認している可能性がある多数の消費者に対して、当該誤認についての帰責性のない事業者がコストをかけて誤認を是正するのは酷である。
また、「知ることができたはずだ」と取消しを主張されては、現場に無用の混乱を生じさせる。

「7.取消権の行使期間(法第7条第1項)」(24頁)

(意見)
取消権の行使期間の伸長には反対である。
(理由)
取引の安定を著しく損なうほか、事業者の取引の記録等の負担も増大し、こうした取引コストは取引価格にも反映され、消費者にも不利益である。そもそも追認をすることができる時から6ヶ月以上取消権を行使しなかったケースがどのようなもので、消費者契約の中でも比率が高いのか、立法事実を十分に確認する必要がある。

「8.法定追認の特則」(25頁)

(意見)
民法の法定追認の規定の特則を設けることには反対である。
(理由)
契約関係が著しく不安定になる。
民法(債権関係)改正の議論において、従来の判例・学説を踏まえ、法定追認において取消権者が取消権の存在を知っていることが要件となるか否かは、解釈に委ねることとされた趣旨を尊重すべきである。また、消費者から民法第125条第1号に掲げる事実があった際「取消権を有することを知らなかった」と主張すれば、事業者が消費者の内心について有効に反証することは著しく困難であり、消費者の主張得になる懸念がある。

「9.不当勧誘行為に基づく意思表示の取消しの効果」(27頁)

(意見)
取消しの効果は、改正民法の解釈・適用に委ねるべきである。
(理由)
クーリング・オフの8日間の熟慮期間に比しても長期間にわたって、原物返還可能な物を除く一切の客観的価値に関する消費者の返還義務を否定すれば、場合によっては消費者の「使用得」「費消得」「受け得」を惹起するなどバランスを欠くおそれが強い。また、改正民法の原則を修正するか否かは、改正民法施行後の立法事実を踏まえ、慎重に検討すべきである。取消しの効果において、一般的な消費者を意思無能力者や制限行為能力者と同等に扱うべきではない。

「第4 契約条項」
「1.事業者の損害賠償責任を免除する条項(法第8条第1項)」(30頁)
「(1) 人身損害の軽過失一部免除条項(第2号及び第4号)」

(意見)
現行法の規定を維持すべきである。
(理由)
現行法の規定を維持した上で、法10条の解釈・適用に委ね、事業者の情報提供の有無等の個別の事案における具体的な事情も考慮して、条項の有効性を柔軟に判断すべきである。
生命に生じた損害については一律に一部免除条項を無効とすることについては、生命侵害と身体の重大な侵害とを切り分けて別扱いとする点で、民事ルールとして不適切である。

「(2) 「民法の規定による」要件の在り方(第3号及び第4号)」

(意見)
「民法の規定による」という文言を削除することについて特に反対しない。
(理由)
不法行為責任は、「民法の規定による」ものに限る合理的な理由はない。

「2.損害賠償額の予定・違約金条項(法第9条第1号)」(31頁)
「(1) 「解除に伴う」要件の在り方」

(意見)
意見を保留する。
(理由)
「平均的な損害の額」の立証責任(第4の2(2))の検討の方向性が定まっていない。

「(2) 「平均的な損害の額」の立証責任」

(意見)
意見を保留する。
(理由)
消費者の立証責任がどこまで軽減され、事業者がどこまで立証負担を負うのかが不明確である。専門調査会では、「同種事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分を当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分と推定する規定」の実効性に疑問を呈する意見もあったことに留意すべきである。

「3.消費者の利益を一方的に害する条項(法第10 条)」(35頁)
「(1) 前段要件」

(意見)
具体的な条文案の提示まで意見を保留する。
(理由)
「民法、商法その他の公の秩序に関しない規定」という前段要件を見直すのであれば、それに代わる判断基準が提示されなければ、予測可能性に欠け、議論にもならない。

「(2) 後段要件」

(意見)
現行法の後段要件を見直さないとする結論には賛成である。ただし、条項使用者不利の原則には反対である。平易明確性については、努力義務にとどめるべきである。
(理由)
平易明確性は主観的なものであり、かつ、一般的に、平易にしようとすれば明確性を欠き、明確にしようとすれば平易でなくなることが予想される。

「4.不当条項の類型の追加」(36頁)
「(1) 消費者の解除権・解約権をあらかじめ放棄させ又は制限する条項」

(意見)
消費者の解除権を放棄させる条項と解除権を制限する条項との区別を明確にできるのか検討すべきである。複数の解除権が存在する場合に、そのうちの一部を放棄させるような場合は「制限」なのか「放棄」なのかなど、詳細な検討が必要である。
①について
消費者の解除権を放棄させることについて合理的な理由があるケースがないか更に検討すべきである。消費者の解除権を放棄させることについて合理的な理由があるケースについては、当該条項の効力が無効とされることがないよう、慎重に検討を尽くすべきである。また、解釈上の解除権まで含めることについては、明確性を欠くことから反対である。
②について
「当該条項が法第10条後段の要件に当たる場合に無効とするという考え方」、「当該条項を原則無効としつつ、当該条項を定める合理的な理由がありそれに照らして内容が相当である場合には例外的に有効とするという考え方」のいずれについても反対であり、法10条の解釈・適用に委ねるべきである。
(理由)
①について
たとえば、いわゆる終身年金保険契約等では、年金の支払開始後には、契約の解除を認めない。これが消費者の解除権の「放棄」に該当し、一律に無効とされれば、2007年の法制審議会で保険商品の特性や仕組みを踏まえ、任意解除権を認めない契約条項に合理性があるとされた考え方が否定され、既存の商品設計が成り立たなくなる。
また、定期預金については預金者の期限前解約権を制限することによって金融機関は高い利息を約束する商品設計となっており、かかる期限前解約権の制限には合理性がある。現行民法でも消費寄託契約については期限の利益は受寄者(金融機関)にあるとされ(民法第666条第1項、第591条2項)、改正法案においてもその規律は維持されているところ(民法改正法案第666条第3項)、このように民法(債権関係)改正の議論の過程で合理的とされた規律までも消費者契約法で無効にすることは、取引の実態に即していないと考えられる。
②について
「当該条項を原則無効としつつ、当該条項を定める合理的な理由がありそれに照らして内容が相当である場合には例外的に有効とするという考え方」については、規定に明確性を欠く。「合理的な理由」や「内容が相当である」という基準が不明確であり、グレーリストと同じく、慎重な事業者ほど萎縮して当該条項の使用をやめてしまうことになる(事実上の一律無効)。その結果、現在全く問題とされていない既存のビジネスモデルが成り立たなくなることも懸念され、消費者にとっても不利益である。また、契約条項が不当かどうかは、当該規定だけで判断するのではなく、契約の他の条項や実務的な運用などの諸事情を踏まえ総合的に判断すべきであるところ、そのような判断枠組みが否定されることになるのではないかという懸念もある。
「当該条項が法第10条後段の要件に当たる場合に無効とするという考え方」については、消費者契約法第10条と同じであり、新たに法律に規定を設ける意義は乏しい。

「(2) 事業者に当該条項がなければ認められない解除権・解約権を付与し又は当該条項がない場合に比し事業者の解除権・解約権の要件を緩和する条項」

(意見)
慎重に検討すべきである。
(理由)
どのような条項が消費者の利益を一方的に害する条項であるかを明確に線引きすることは困難である。

「(3) 消費者の一定の作為又は不作為をもって消費者の意思表示があったものと擬制する条項」

(意見)
どのような場合に消費者の利益を一方的に害する条項といえるのか、限定・明確化する方向で更に精査すべきである。限定・明確化にあたっては、ドイツなどの立法例も参考に、当該条項について消費者に特に明示され、明示の意思表明を行うための期間が与えられている場合は有効とするなど、適切な除外規定を設けることも検討すべきである。
(理由)
契約の更新や予約のキャンセル等、消費者の一定の作為又は不作為をもって消費者の意思表示があったと擬制することに合理性がある場合もあると考えられる。

「(4) 契約文言の解釈権限を事業者のみに与える条項、及び、法律若しくは契約に基づく当事者の権利・義務の発生要件該当性若しくはその権利・義務の内容についての決定権限を事業者のみに付与する条項」

(意見)
解釈権限付与条項と決定権限付与条項との区別を、当該条項がいずれに該当するのか(あるいは該当しないのか)判断する際に疑義が生じないよう、明確にすべきである。
①について
契約文言の解釈権限を事業者のみに与えることについて合理的な理由があるケースがないか確認し、合理的な理由がある場合には無効とされることがないよう慎重に検討を尽くすべきである。
②について
事業者側に決定権限を認めることが合理的な場合もあり、規律の新設には反対である。「当該条項が法第10条後段の要件に当たる場合に無効とするという考え方」、「当該条項を原則無効としつつ、当該条項を定める合理的な理由がありそれに照らして内容が相当である場合には例外的に有効とするという考え方」についても、いずれも反対である(理由は4(2)②と同じ)。
当該条項が不当に利用された場合には、他の法律で適切に救済可能である。
(理由)
暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律など他の法律の要請に基づき契約を解除する必要に迫られる場合もあるが、その場合に契約解除に関する条項の要件に該当するかどうかを消費者に決めさせるのは不適切な場合もある。また、迅速に専門的な判断を要する場合等、事業者側で判断することが消費者利益に合致する場合も存在する。

「(5) サルベージ条項」

(意見)
いわゆるサルベージ条項を不当条項として無効とすることについて反対である。
(理由)
立法事実として、実際にサルベージ条項に起因して発生した問題がどの程度存在するのかが不明である。
現在、民法第1条第2項をはじめ強行法規の適用に関する明確なメルクマールがなく、また、過去には有効とされた条項が時代の変化により無効とされる可能性がある。加えて、契約が継続していれば条項を適宜に変更することは困難である。こうした中で、サルベージ条項は、可及的に条項の有効性を担保する手段であって、実務上の必要性があると考えられる。一律に不当条項とすることについては妥当性・必要性に疑問があり、消費者契約法第10条の解釈・適用に委ねるべきである。

第5 その他の論点
「1.条項使用者不利の原則」(44頁)

(意見)
規定の新設に反対である。
(理由)
我が国において同原則を立法化して救済すべき立法事実があるのか、すなわち、裁判官がその解釈を決められないような条項がどの程度あり、どのような不都合が生じているのかも検証するとともに、慎重に検討すべきである。
同原則を規定した場合、安易に同原則(の“事業者にとって不利”の部分のみ)に依拠した主張が多発すること、安易に消費者に過度に利益な解釈が採用されること、及び、裁判外での交渉への影響などが懸念される。また、本来、契約ごとの事情を踏まえて柔軟にされるべき契約解釈が、同原則の下で硬直的に運用されることにより、従来行われてきた裁判所の合理的な判断や和解の勧告の姿勢が変わってしまいかねない。
仮に、同原則を設ける場合には、適用範囲と場面が極めて限定されることが条文上も明確化され、安易な適用に対する抑止策が講じられることが前提である。また、各国においても約款解釈の中で議論されるのが一般的であり、消費者契約一般に拡げるのは不適切である。

「2.抗弁の接続/複数契約の無効・取消し・解除」(45頁)

(意見)
規律の新設に反対である。
(理由)
典型的に問題が生じるケースについては必要な範囲に絞り他の法律での対応を検討すべきと考える。抗弁の接続及び複数契約の無効・取消し・解除について、消費者契約に関する一般的な規定を設ける根拠に乏しい一方、本来必要とされる範囲を超える規定を設けることは実務の混乱を招く。

「3.継続的契約の任意解除権」(47頁)

(意見)
規律の新設に反対である。
(理由)
継続的役務提供及び継続的商品購入については、通常、長期の安定的な取引関係を前提として、そのメリットとして料金・代金の割引が行われており、消費者契約全般に関して消費者からの任意解除権に関する規律を導入すれば、結果的に安価な役務・商品の提供といった消費者の選択肢を狭めることになる。
以上