一般社団法人 日本経済団体連合会
総括
わが国政府は、「日本再興戦略」(2013年6月)において、2020年を目処にインフラ輸出を現在の10兆円から30兆円に拡大することを成長戦略の柱に据え、トップセールス等を展開している。この方針は「日本再興戦略」改訂2014~未来への挑戦~(2014年6月)においても踏襲されている。また、本年5月には、安倍総理大臣が「質の高いインフラパートナーシップ」の中で、「一見、値段が高く見えるものの、使いやすく、長持ちし、そして、環境に優しく災害の備えにもなるため、長期的に見れば安上がり」なインフラの普及を図る方針を打ち出した。経済界は、これら政府の取組を評価すると共に、所期の目標を達成することを期待する。
わが国のインフラが高品質であり、災害にも強い点は国際的に評価されている。しかし、国際的なインフラ受注競争が激化する中、高評価をインフラ受注の実績に結びつけるためには、政府の「経協インフラ戦略会議」の司令塔機能を強化し、民間のニーズを十分踏まえつつ、技術とファイナンスを適切に組合せていく必要がある。例えば、ODA卒業移行国であっても、わが国の技術が活かせる環境案件や、エネルギー安全保障に資する案件等については円借款を積極的に供与すべきである。また、経済発展に伴い、急速な都市化が進む新興国の街づくり、交通インフラ整備に際しては、従来の国際協力銀行(JBIC)の出融資・保証、国際協力機構(JICA)の海外投融資、日本貿易保険(NEXI)の保険に加え、海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)の出融資機能を活用することも有益である。他方、日本企業も、個々の優れた技術を有していながら、総合力では外国企業が優勢な分野において国際競争力を強化すべく、国内でのPPP・PFIの経験を蓄積することが重要である。
併せて、わが国の技術力を受注実績に結びつけるためには、価格のみならず、品質、技術力、耐久性、工程の遵守やライフ・サイクル・コスト等を総合的に評価する入札制度を各国に定着させるなど、ホスト国側の法制度を整備する必要がある。また、わが国企業は、海外でインフラ事業を行うにあたり、資材・機材に高関税が課される、ローカルコンテンツ要求が厳しい、知的財産権の保護が不十分である、送金が規制される等の障壁に直面することも少なくなく、これらについても除去していく必要がある。さらには、長期戦略に基づく技術者の育成、相手国政府のマスタープラン作成での協働等、官民連携によるソフト・インフラ支援に注力することも不可欠である。
経団連では、政府のインフラ輸出戦略が官民連携で着実かつ的確に進められるよう、民間企業の関心国・地域と分野ならびに克服すべき課題について、2013年秋より、アンケート調査に基づく提言を公表している。今年度の考え方は、下記の通りであり、今後の政府のインフラ輸出戦略に反映されるよう求める。
第一部 主要国・地域別概観
Ⅰ アジア
1.アジア全般
アジアは、昨年に引き続き、最大の関心地域に挙げられた。インドネシア、ベトナム、ミャンマー、インド等、日本企業が進出している、あるいは、高い関心を示している国々に加え、バングラデシュ、パキスタンのように、多くの人口を擁し、将来的に有望な市場となり得る国も挙げられた点は特筆すべきである。
関心分野としては、まず、企業が立地し、事業展開する上で不可欠な物流インフラ(鉄道、港湾、空港、LNGターミナル等)が挙げられる。また、中小企業の進出の基盤となる工業団地ならびにその周辺インフラ(通信、アクセス道路、上下水道・浄水等)の重要性も指摘されている。さらに、アジア諸国では、電力・送電インフラの整備が著しい成長に追いつかず、成長の阻害要因となっており、事態の打開が急務となっている。とりわけ、高効率石炭火力発電について、わが国の技術と資金を通じた貢献の余地が大きいこと、また、海底ケーブルを含む送電網の整備による域内の連結性強化が必要であることが指摘されている。このほか、輸出入通関・社会保障システムの構築、交通インフラと一体化した形でのスマートカードによる運賃決済システムの普及、サイバーセキュリティ等、ソフト面における日本の貢献の可能性も大きい。
わが国としては、トップセールスを継続することで、日本の技術の優位性に対する理解を促進すると共に、相手国政府にコンサルタントを派遣し、日本の規格を浸透させることが求められる。また、マスタープランで発掘した優良案件について、協力準備調査によるFSを実施し、早期の協力表明につなげるなど、プロジェクトの形成・発注段階から受注に向け戦略的に取り組むことが不可欠である。プロジェクトの実施段階では、
- (1)民間が過度のリスクを負うことがないよう、土地収用などのホスト国側の負担事項を融資契約(L/A)で明記するなど、国際標準約款に準拠した形で契約ガイドラインを整備すること
- (2)価格本位ではなく、技術や運営の優位性が評価される入札制度(QBS: Quality Based Selection)を定着させること
- (3)現地の金融制度改革や、システム開発等に係る人材育成など、ソフト面での支援を促進すること
等が鍵となる。さらには、二国間EPAの下に設置されたビジネス環境整備に関する小委員会等を活用し、国内法や税制上の不透明性、土地収用の遅延等、プロジェクトを推進する際、実際に直面する課題を克服することも重要である。
AIIB(アジア・インフラ投資銀行)の発足により、ファイナンスツールが多角化する中、受注競争もこれまで以上に激化し、一層のスピード感が求められる。そこで、わが国のODAについても、より柔軟な運用が求められる。例えば、円借款については、連携DDの活用によるFSから詳細設計までのパッケージ化による迅速な対応、サブソブリンへの供与、(対象国については)STEPの活用促進等に対する期待が大きい。なお、STEPについては、日本企業タイドであるため、コストが高くなるという理由で、ホスト国側が借り渋る場合があることも否定できない。日本の技術の優位性など、STEPの中長期的観点からの利点を説明すると共に、更なる制度改善を図ることによって、相手国の理解を得ることが重要である。無償資金協力についても、円借款と連携し、機器の一部や事業の一部を担う混合借款の導入や、機材の供与のみならず、その運用やメンテナンスまで含めてカバーする弾力的な運用等が必要とされよう。このほか、民間の投資案件については、JBIC、JICA、NEXIによる現地通貨での長期融資や、サブソブリン・リスクの引き受けなど、相手国のニーズに即した対応の強化が不可欠である。
なお、上述の高効率石炭火力発電については、OECDにおいて公的輸出信用を規制しようという動きがある。高効率石炭火力発電は、CO2排出削減の観点からも極めて重要であり、引き続きわが国がJBIC等による公的輸出信用を供与できるよう、OECDでの交渉に臨む必要がある。
2.インドネシア
インドネシアは豊富な天然資源や人的資源に恵まれ、消費市場としてのみならず、製造業のサプライチェーンにおける拠点としての重要性が益々高まっている。ASEANの経済統合が進む中で、わが国にとって、さらなる経済関係拡大に向けたポテンシャルは大きい。こうした中、昨年10月にジョコ・ウィドド大統領が就任し、産業高度化を目指し様々な経済改革を進めている。経団連も本年4月にハイレベルの経済ミッションを派遣し、新政権下のインドネシアとの今後の関係強化に向けた具体的方策を探ったところである。その際、ジョコ大統領からは、日本企業のインフラ案件への参加に対する強い期待が示されている。今後、本年3月の日尼首脳会談で合意された「日インドネシア投資・輸出促進イニシアティブ」(PROMOSI)における両国官民の対話を通じて、インフラ整備ならびにそのためのビジネス環境整備に係る具体的な議論の進展が期待される。
関心分野は、電力、通信、港湾、鉄道、港湾、空港、上下水道等の基幹インフラのほか、工業団地、環境技術、防災、資源エネルギー開発、観光振興等、広汎に及ぶ。これらの中には、ジャカルタ首都圏投資促進特別地域(MPA)案件も含まれる。
電力については、インドネシア政府が推進する「35GWの電力開発計画」への貢献が当面の優先事項であり、他のアジア諸国同様、わが国の技術を活かした超々臨界圧石炭火力発電所プロジェクトを推進していく。ただし、同計画では、政府保証付きの案件が限られているため、サブソブリン(国営企業)向け政府保証なし円借款、JBICならびにNEXIによる政府保証なし案件への投融資と貿易保険付保が期待される。また、インドネシア側にも、過度なローカルコンテンツ要求の是正、土地収用の迅速化、官民リスク分担の適正化、VGFスキームの確立等が求められる。
鉄道については、ジャカルタ都市高速鉄道(MRT)東西線、南北線の第2フェーズ等、複数の大型案件が計画されている。日尼両政府には、STEPの活用を含め、本邦技術が十分活かされる方策の検討が求められる。同時に、インドネシア側には、価格本位ではない入札の実施のほか、一社入札の場合でも、技術要件を満たしていれば入札を成立させるなど、柔軟な対応が求められる。
3.フィリピン
フィリピンは、外資優遇策が比較的充実しているほか、ローカルコンテンツ要求等の規制が少ない、また、英語能力を有する人材を確保できる等、製造拠点として有望である。また、昨年、人口が1億人を突破し、中間所得層も厚くなってきており、消費市場としても潜在性を有する。
他方、インフラは脆弱であり、改善が急がれる。まず、電力不足の解消が最大の懸案であり、石炭火力IPPのほか、豊富な水資源を活用した水力発電所の増設、変電所のリハビリ、送電網ならびにアクセス道路等の周辺インフラ整備が求められる。資金面については、電力民営化によりODAが活用できないため、JBICの投融資ならびにNEXIの保険の役割が重要となる。
ロジスティクス・インフラについては、スービック港、バタンガス港の整備ならびにアクセス道路の改善によるマニラ港の混雑解消、マニラ国際空港の飽和状態を解消するための、新空港・周辺インフラ(都市鉄道・道路)整備が急務である。また、マニラ首都圏へのアクセス改善と渋滞の緩和のため、STEP円借款やPPPスキームを活用した都市鉄道の整備も推進する必要がある。PPPスキームについては、JICA海外投融資、JBIC投融資のほか、JOINによる出資が期待されるところである。
このほか、中小企業の進出基盤となる工業団地開発、日本方式の地上デジタル放送の採用に伴う関連事業整備等が優先案件として挙げられる。
4.ベトナム
人口9000万人を誇るベトナムは、消費市場としてはもちろん、日本から見て、成長著しいASEANへのゲートウェイとして重要な位置にあることから、AECの発足が間近に迫る中で、グローバルサプライチェーン拠点としても重要性が高まっている。わが国経済界は、2003年に日越両国政府と日越共同イニシアティブを立ち上げ、ビジネス環境の改善に取り組んできた。その結果、累積投資額は373億ドルと、最大の投資国の一つとなり、また、貿易総額でも第4位に位置するなど、経済面はもとより、政治、社会、文化を含めてトップレベルから草の根レベルに至るまで両国の絆は極めて強いものとなっている。引き続き、日越経済関係の拡大に向け、ビジネス環境の改善に向けて取り組んでいく。
ベトナムは安定して高い成長を続けてきたが、インフラ整備がそのスピードに追いついておらず、わが国企業の事業展開にあたり課題となっている。電力、通信、道路、鉄道、港湾、橋梁、上下水道など基幹インフラの整備は急務である。
特に電力は、企業が安定して事業活動を営む上で欠かすことができない要素である。近年改善の兆しが見えるとはいえ、南部を中心に電力需要が大きく伸びている中、安定供給に向けた課題は多い。ベトナムは今後、電力需要増大への対応として、南部において輸入炭を用いた石炭火力発電所を増加する予定である。この点、超臨界・超々臨界圧ボイラー等、わが国企業が有する高効率技術が貢献できるところは大きい。併せて、石炭輸入の大幅な増加に対応すべく、大型船の入港が可能となる大型ターミナル港湾の整備も進める必要がある。
道路に関しては、急速なモータリゼーションの進展や企業の増加に伴う交通量の増加にもかかわらず、整備が進まなかったため、大都市を中心に深刻な渋滞が発生している。また、劣悪な整備状況によりトラック輸送中の貨物にダメージが加わるという事態が頻発している。円滑にビジネスを進めるため、まずは、陸部の大都市間を結ぶ広域道路や都心部の高速道路(ハノイ-ハイフォン間等)を迅速に整備していく必要がある。併せて、道路網の整備・保守・管理を進めるべきである。
なお、ベトナムのインフラプロジェクトでは、支出がドル建てであるのに対し、収入がドン払いとなるケースがある。こうした場合、外貨兌換保証が不可欠だが、現在、政府による外貨兌換保証は、30%の上限が設定されている。ビジネスの安定性確保のため、ベトナム政府による外貨兌換100%保証の実現を求める。また、国有企業の調達手続には不透明な点が多い。透明な手続の構築に向け、協議を進めていく必要がある。さらに、ODA事業において、政府による支払が遅延する、税制上、還付制度が設けられていても、還付に時間がかかるなど、実務上の弊害が指摘されており、二国間協議を通じた改善が急務である。
5.ミャンマー
ミャンマーは2011年の民政移管後、長く続いた欧米諸国の経済制裁が緩和され、アジアの「ラストフロンティア」として海外からの投資が急増している。わが国企業にとっても、ミャンマーは安価な労働力を豊富に有し、中国やインドを含めた6カ国と国境を接する地理的優位性も背景として、AEC設立に伴うサプライチェーン拠点としての重要性も高まることから、消費地ならびに生産地として魅力的であり、多くの企業が進出を始めている。経団連は2013年にミャンマー官民と合同経済会議を再開、2014年にはティラワ経済特別区および、電力、道路、橋梁、港湾等のインフラ整備を推進することなどについて合意し、共同声明を取りまとめた。こうした取組もあり、本年9月にはティラワ経済特別区が開業し、日本企業の進出の足がかりとなることが期待される。
関心分野は、電力、通信、道路、鉄道、港湾、橋梁、上下水道、通信など基幹インフラを中心に、工業団地開発や金融資本市場など多岐に渡る。ミャンマーは長く国際社会から隔絶され、投資を受け入れてこなかったため、他のASEAN諸国と比較しても、インフラの整備ニーズはきわめて高い。本年11月には民政移管後初となる選挙が行われるが、今後の国づくりに向け、人材育成を含めてあらゆる分野でのインフラ整備を進める必要がある。
電力については、現状でも不足していることに加え、今後大幅な需要の増大が見込まれる。電力供給体制全般、すなわち、発送配電設備の整備が急務である。そのため、IPPスキームを活用した供給力増強への期待が大きく、IPP案件開発能力、ファイナンス組成能力、技術力を保有するわが国企業の参画機会は大きい。併せて、電力の安定供給のための燃料確保も課題であり、LNGの受け入れ基地、ガスパイプラインを整備することが求められる。なお、同国では、電力事業を行う上での法制が未整備であるため、その整備に向け、働きかけていく必要がある。
また、人口が増加し、サプライチェーン拠点としての重要性が高まる中、旅客・貨物輸送手段としての鉄道の需要が高まっている。現在使用されている幹線鉄道は、長期間の使用により老朽化が著しく、車両や付帯設備も劣化がみられる。高い安全性が求められる中、わが国企業が貢献できるところは大きい。その際、日本技術活用の可能性を高めるため、LDCパートナー型借款(JUMP)を今まで以上に採用すべきである。
6.タイ
タイは、1500社を超える日本企業が進出するなど東南アジアにおけるわが国最大のビジネス拠点である。今年末のASEAN経済共同体の発足は、日本とタイが築いてきたバリューチェーンを活用し、「タイ+1」の形でメコン地域全体の経済発展を図る契機となることが期待される。現在、プラユット暫定政権が着実な民政移管を実現することで、一層安定した政治経済運営が実現することが期待される。両国経済界も、本年2月開催の第23回日タイ合同貿易経済委員会において、環境案件の推進、裾野産業の育成等新たな分野での協力、第三国でのインフラ整備などに連携して取り組んでいくことで認識が一致している。
わが国の関心分野は、電力IPP、スマートグリッド、環境インフラ、都市鉄道、工業団地、廃棄物処理、医療等多岐にわたり、ビジネスベースでプロジェクトが進捗している。他方、タイは中進国に分類されるため、STEPの対象とならず、円借款は一般アンタイドが原則である。また、欧州、中国など、競争相手も多数存在するため、政府によるトップセールス、国際標準化戦略を通じたわが国の規格の浸透等の取組が不可欠である。
このほか、ビジネス環境については、主要サービス業における外資制限、外国人取締役数の制限、自国民雇用義務等がインフラ分野ならびにこれに付随するサービスに係る企業活動の障害となっており、二国間EPAの再交渉等を通じて改善を図る必要がある。
7.インド
わが国は、首脳によるシャトル外交や日印経済界によるビジネス・リーダーズ・フォーラム等を通じて、インドと良好な関係を構築している。特に2011年の日印包括的経済連携協定(CEPA)発効以降は、わが国の対インド直接投資が4億ドル(2008年)から17億ドル(2013年)へと大幅に増加するなど、貿易投資関係が拡大しており、戦略的パートナーとしての重要性が増大している。
日本企業がインドでの事業活動を円滑に進めていくためには、日印経済協力の象徴でもあるデリー・ムンバイ産業大動脈構想(DMIC)ならびにチェンナイ・バンガロール産業回廊構想(CBIC)の推進はもとより、鉄道、電力、上下水道、工業団地等のインフラ整備が重要である。
鉄道に関し、最優先案件に挙げられているアーメダバード=ムンバイ高速鉄道については、本年7月に日印共同調査が終了し、今後、プロジェクト・スキームが決定される運びである。円借款を含む資金スキームの構築、日本の技術が活かせる入札の実施、迅速な土地収用等が求められる。特に、入札については、日本式の新幹線を採用する場合、一社入札となる可能性を否定できないが、その場合でも入札を成立させるなど、技術面を重視した柔軟な対応が求められる。
産業立地を促進する上では、安定的な電力供給が大前提である。一次エネルギー消費の過半が石炭であり、石油、ガスを輸入に依存するインドにとって、引続き石炭火力発電所の役割が大きく、わが国としても、超々臨界圧石炭火力発電技術の提供を通じて環境との両立に貢献していく。欧米諸国ならびに国際機関の一部が石炭火力発電の支援に消極的な中、(サブソブリンを含め)JICAの海外投融資ならびに円借款、JBICの投資金融、輸出金融、出資が期待される。加えて、原子力発電も安定的な電力供給に貢献するものであり、直近の日印首脳会談に併せて、原子力協定を締結することが求められる。なお、電力案件について、需要リスクや燃料価格の変動に伴うリスクが民間事業者の負担となるケースが見られ、契約ガイドラインの整備など、適正なリスク分担の実現が不可欠である。また、税制が複雑なため、入札に際してプロジェクト・コストの見積が困難なケースも指摘されており、改善が求められる。
本邦企業を含む中小企業が立地するためには、その受け皿となる工業団地ならびに周辺インフラの整備が鍵となる。これらプロジェクトの円滑化を図るためには、不動産事業に係る外資規制の緩和、土地収用の迅速化、通関手続の迅速化、州際取引の迅速化・簡素化等が求められる。
8.バングラデシュ
バングラデシュは、インドとASEANの結節点に位置し、また、約1億6000万人の人口を擁することから、労働集約的工業の拠点ならびに消費市場として有望であり、わが国企業の関心もにわかに高まっている。
同国では、国産天然ガスの枯渇に伴い、石炭火力発電への転換を図るエネルギー安全保障政策を推進している。また、電力需要の増大に伴う送配電設備の増強が急務であり、わが国への期待も大きい。このほか、企業の進出を促進するためには、工業団地の建設やダッカ市内の都市交通整備による慢性的な渋滞解消等が必要である。
インフラ整備やビジネスを行う上での障害としては、技術力が評価されない価格本位の政府調達、投資関連法規の未整備、送金規制等が挙げられている。現在、日本大使館・商工会とバングラデシュ政府との協議の枠組が発足しており、これを通じたビジネス環境整備が期待される。
9.パキスタン
パキスタンは、伝統的にわが国と友好な関係を維持しており、同国に対するODA援助額に関し、わが国は、米国、英国についで第3位、わが国のODA供与先としては第9位に位置する(2013年)。同国は、治安上の懸念が大きいものの、1億9000万人の人口を擁するため、将来的には有望な市場の一つであるといえる。
インフラに関しては、円借款やJBICの出融資、NEXIの貿易保険を活用した発電所プロジェクト、STEPを活用したカラチの都市交通システム整備等が優先案件として挙げられる。なお、同国は、特に中国との政治的関係が強固であり、わが国としても、技術面での優位性を説明し、理解を得る取組が必要である。
Ⅱ 中東・北アフリカ
1.オマーン、カタール、クウェート、サウジアラビア
豊富な石油埋蔵量を誇るオマーン、カタール、クウェート、サウジアラビアは、石油輸入の大部分を同地域に頼るわが国にとって、エネルギー安全保障上極めて重要であり、これまで良好な関係を結んできた。また、中東全体の政情が不安定する中、同地域は比較的安定しており、一人当たりGDPが高いことも相俟って、魅力的な消費市場でもある。
インフラの関心分野は、電力や水関連など基幹インフラに加え、脱石油依存、若年者雇用促進に向けた人材育成等である。電力については、増大する電力需要に対応しつつ、貴重な外貨獲得源である石油の国内消費を抑えるべく、再生可能エネルギー発電事業が有望である。また、同地域は、人口増加及び経済活動活発化に伴い新たな造水・電力需要が高まっている。この点、日本が誇る高い水処理技術が貢献できよう。
ただし、同地域はプロジェクトを進める上での障害が少なくない。具体的には、現地人雇用義務やローカルコンテンツ要求が課されること、投資許可手続が不透明であることなどが挙げられる。
わが国政府主導で、こうした課題につき、相手国政府と協議を進めると共に、トップセールスで日本の技術についてアピールを行うことが求められる。
2.イラク
イラクは、イラク戦争から10年が経過し、戦後復興が進んでいる。同国の再建は中東ひいては世界の平和と安定にとって重要であるのみならず、わが国のエネルギー安全保障上も欠かすことができず、無償資金協力や技術協力などを通じて同国の再建に貢献してきた。
インフラについては、度重なる紛争による破壊ならびに人口の増大により、電力や上下水道をはじめ基幹インフラ全般に対するニーズが依然大きい。特に、電力インフラは、発送配電全てにおいて整備が十分でなく、需要が供給を大きく上回る状況が続く。わが国企業としては、高効率な火力発電所等の建設等を通じて貢献していく。
他方、戦費増加等に伴い財政が逼迫状況にあるため、価格重視の傾向が急激に強まっているうえ、中国等が政府を巻き込んだファイナンスで攻勢を強めている。日本は、「質の高いインフラ」のコンセプトやメリットを積極的にアピールすると共に、わが国企業の競争力向上に資する資金供与を行うべきである。
3.トルコ
地政学的に欧州・アジア・中東・北アフリカの結節点に位置し、約7,800万の人口を有するトルコは、底堅い内需や豊富で良質な労働力、周辺諸国との自由貿易協定(FTA)の拡大等を背景に、近年、欧州への生産拠点や活気ある消費市場としての重要性を一層増している。
経団連(日本トルコ経済委員会)では、トルコ経済界との連携の下、1987年以降今日に至るまで合計22回に及ぶ合同会議を開催するとともに、日・トルコ経済連携協定(EPA)交渉の早期開始を求める提言を二回とりまとめ、両国政府等関係方面に働きかけるなど(2012年3月、2013年12月)、二国間経済関係の拡大と深化に取り組んできた。経団連としては引き続き、現在交渉中の日・トルコEPAならびに日・トルコ社会保障協定について早期の締結を求めていく。
2023年の共和国建国100周年に向け需要が旺盛なインフラに関しては、地震多発国であるトルコの特性にも鑑み、災害に強い日本の技術・ノウハウや適切なファイナンシングを活用し、基幹インフラを整備することが喫緊の課題である。とりわけ今後とも交通需要の増大が見込まれる同国では、自動車道整備の優先度が高く、ダーダネルス海峡大橋はイスタンブールの渋滞解消に資するものである。
また、高速道路や橋梁に加えて、高速鉄道、空港、電力(原子力、高効率石炭火力、揚水発電、再生可能エネルギー等)、都市病院をはじめとする医療施設等についても、日本が有する高い耐震建設技術等を通じて、トルコの持続的な発展に貢献することが期待される。
4.エジプト
エジプトは政治的・財政的に安定を取り戻ししつつある中、急速な人口増大や経済活動の活発化に対応すべく、電力、水、鉄道等の基幹インフラへの需要が高まっている。特にナイル川上流でのエチオピアの取水増加に伴い、水資源に対する需要が急速に高まっていることから、海水淡水化や水処理といった水事業が有望である。
ただし、大手金融機関は、依然として同国を高リスクと評価しているため、ファイナンス組成において、国際競争力があり、柔軟性の高い事業資金の調達が困難な状況にある。欧米・中東大手企業との競争が激しい分野であることを踏まえれば、JBIC、NEXIなど政府系金融機関からの力強い支援が欠かせない。また、同国では契約上インフレ条項が認められないため、インフレに伴い当初の条件での契約が困難となった場合、再入札を余儀なくされるという弊害が指摘されており、改善が求められる。
5.モロッコ
モロッコは、安定した政治状況の下、成長を続けている。欧州に近接した北アフリカという地理的優位性を活かし、域外からも活発な投資が行われている。
有望分野は、電力、鉄道、道路、港湾、空港など基幹インフラである。電力に関しては、電力需要が年7%程度で上昇する中、当座の需要増を高効率のガス火力発電で賄う一方、国外へのエネルギー依存度を引き下げるため、2020年までに再生可能エネルギー比率を43%まで引上げるという目的を掲げている。特に、太陽エネルギー(太陽熱、太陽光)による発電は、2020年までに2000MWまで導入する予定である。現在、太陽光発電の導入は進んでいないが、法整備が進めば競合がひしめく可能性がある。これまで同国は欧州からの投資が大多数を占めてきた。市場に早期参入すべく、トップセールスを進めていくことが求められる。
6.その他
その他の国についても、各国のニーズに応じた木目細かな対応が求められる。例えば、伝統的な親日国であり、豊富なエネルギー資源、約8000万人の市場を擁するイランについては、制裁解除に向けた動向に注視しつつ、わが国の技術力を活かした貢献を展開することが求められる。
Ⅲ 中南米
1.ブラジル
ブラジルは2億人の人口を擁する南米最大の市場であり、わが国にとっては、天然資源と食糧の主要輸入先でもあることから、最重点国の一つである。現在、ブラジル経済は資源価格の下落等により、停滞しているが、中長期的観点から同国の持続的成長を支えるべく、わが国としてもインフラ整備を通じた貢献を継続していく。
ブラジルは、世界有数の天然資源埋蔵量、耕作可能面積を有するものの、トラックでの長距離輸送が主な輸送手段であり、米国と比べて物流コストが平均2倍を記録しているという、いわゆる「ブラジルコスト」が最大の問題であり、まずその克服が不可欠である。この点に関し、ブラジル政府は本年6月に総額8兆円規模の「ロジスティクス・インフラ投資計画」を発表した。わが国経済界としても、現地企業等と連携し、鉄道、道路、港湾、空港等の具体的なコンセッション案件の選定とその実施に向けた取組を強化していく。このほか、最先端医療、再生可能エネルギー、スマートシティ、防災、PPPスキームによる都市交通インフラの整備等の分野において、わが国の技術を活用した貢献が可能である。
ブラジルはODA卒業移行国に分類されるため、わが国の公的資金の活用に関してはJBIC出融資が中心となっているが、環境・防災案件等については円借款やJICA海外投融資の活用の可能性を模索すべきであり、また、都市交通等に関しては海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)の投融資の役割も期待される。
なお、同国については、資材・機材に対する高関税、過度なローカルコンテンツ要求、複雑な税制、送金の規制等、インフラ事業を展開する上での制約が多く、ビジネス環境整備が急務となっている。この点に関し、経団連では、ブラジル全国工業連盟と共に「日本ブラジル経済連携協定に関する共同報告書」を取りまとめており、関税の引下げのみならず、投資・サービスの自由化、知的財産権保護、ビジネス環境整備等を含む、包括的な日伯EPAの実現可能性を追求していくことで合意している。
2.メキシコ
日本メキシコ経済連携協定発効10周年を迎え、この間、わが国の直接投資が2.2倍程度増加するなど、メキシコは中南米地域における製造業の拠点としての地位を確固たるものとしている。
また、同国では、エネルギー改革の一環として、電力、石油ガス分野における国営企業独占の解消、外資解禁が進んでおり、再生可能エネルギー、深海油田開発等の分野における協力の可能性も高まっている。同国はODA卒業移行国であるものの、このように環境と経済成長の両立やわが国のエネルギー安全保障に資する案件については、積極的に円借款やJICA海外投融資を活用すべきである。また、情報通信や金融分野でも改革を進めるなど、世界から注目される市場であり、これらの分野も含め、受注競争も激しくなることが予想されることから、わが国としてもトップセールスに力を入れる必要があることは言を俟たない。
他方、物流インフラの整備、電力の安定供給を通じたコストの削減、工業団地等、産業の裾野を担う中小企業進出のための基盤強化ならびに支援拡充が引続き課題である。
3.キューバ
本年7月に米国がキューバとの国交を回復したのを契機に、同国への関心が高まっている。キューバ側も、本年3月に来日したカブリサス閣僚評議会副議長が、経団連に対して新外国投資法の概要を説明すると共に、マリエル経済特区への投資を呼びかけるなど、わが国経済界に対する期待は大きい。
同国では、既存の火力発電所のリハビリ、再生可能エネルギー等による電力の安定供給、道路、橋梁、上下水道、通信等の老朽化したインフラの更新をはじめとする需要が多く見込まれる。また、同国の最優先事項である医療分野において、技術力とアフターサービスが世界最高水準にある日本製機器の導入にも関心を示している。
わが国としても、官民連携の下、上記の分野で案件形成を行い、ODA(特に無償資金協力)を有効活用していく必要がある。また、民間企業による機材輸出を推進すべく、NEXIの貿易保険枠を拡大することが求められる。
4.コロンビア、チリ
太平洋同盟の成立に伴い、コロンビア、チリに対する日本企業の関心も高まっている。
コロンビアについては、石油、石炭、ガス、ニッケル等の天然資源が豊富であり、資源安全保障の観点から、日本企業としてもその開発ならびに周辺インフラ整備(鉄道、道路、港湾、パイプライン等)に参画していく。日本政府に対しては、公的資金による融資ならびに保証を求める。また、日本コロンビアEPA早期締結に向けた交渉の加速化が不可欠である。
チリについては、防災・災害対策、電力インフラ(含高効率石炭火力、再生可能エネルギー)、水資源、衛星通信等の需要がある。日本政府には、JBIC出融資の柔軟な対応、中進国を超える所得水準の国に対する円借款等の供与等を求める。
Ⅳ アフリカ
サブサハラ・アフリカについては、従来から日本企業のビジネスの拠点となっている南アフリカ共和国はもとより、東部アフリカではケニア、タンザニア、エチオピア、南部アフリカではモザンビーク、西部アフリカではガーナ、セネガル等、各地域で日本企業が拠点としている国、あるいは将来的に拠点となり得る国に対して、「選択と集中」による支援を行うことが重要である。この点、現在、第5回アフリカ開発会議(TICAD V)の「横浜行動宣言」に基づき、10箇所で広域インフラ開発のための戦略的マスタープラン作りが進捗している。マスタープランの策定にあたっては、広域インフラの整備が周辺国に与える経済効果を考慮して行うことが求められる。例えば、港湾整備に際しては、内陸国からのアクセス道路・鉄道を併せて整備し、資源の物流コストの低下を図ると共に、当該資源を活用した川下産業を育成することが重要である。そうすることで、バリューチェーン全体の連続性が確保され、より付加価値の高い製品を輸出することが可能となる。
人材の育成も課題である。5年間で1000人のアフリカ諸国の若者を日本に留学させるABEイニシアティブ(African Business Education Initiative for Youth)については、第3陣の約300名の選考プロセスが進むなど、これまで順調に推移しており、これを長期継続していくことにより、将来、インフラ事業や日本企業とのビジネスに携わる人材の育成の面で成果を挙げることが期待される。
国別では、わが国最大のビジネス拠点である南アフリカ共和国への支援が優先課題である。同国では、深刻な電力不足が産業立地のボトルネックとなっており、老朽化する石炭火力発電所の更新、太陽光をはじめとする再生可能エネルギーの活用等、発電量の大幅増強ならびに送電網の更新が喫緊の課題となっている。また、同国は、豊富な天然資源を擁するものの、物流インフラならびに港湾が老朽化しているため、コスト高が生じており、その解消が求められる。わが国としても、JICA海外投融資等を活用し、官民連携で取り組む必要がある。なお、同国については、過大なローカルコンテンツ要求が課される、黒人企業優遇政策(BEE)が参入障壁となっている、電力供給公社(ESCOM)の財務状況が芳しくなく、政府保証なしでは融資が難しい等の問題があり、ビジネス環境の改善が必要である。
モザンビークについては、2013年に二国間投資協定が締結され、日本企業にとって、南アフリカ共和国に次ぐ南部アフリカのビジネス拠点、資源開発の拠点としての重要性が高まるものと思われる。多数ある同国の開発計画の中でも、ナカラ回廊開発(道路・鉄道、港湾・コンテナヤード、発電所・送電網、石油精製プラント、オフショアガス田開発・LNG事業、農業インフラ等)が最優先である。また、内外の中小企業の立地、産業集積を促すべく、工業団地の整備も急務である。このほか、首都マプトの都市交通等、わが国技術を活かした貢献の余地も大きい。中国をはじめ、インフラ受注競争が激化する中、無償資金供与額の拡大、JICA海外投融資やJBIC出融資の機動的な活用等が求められる。
東部アフリカにおける日本企業の拠点であるケニアについては、モンバサ港開発事業とモンバサ経済特区マスタープランの推進ならびに周辺インフラ整備を通じた、物流網の改善、産業立地の推進が最優先である。また、同国は地熱発電のポテンシャルが高く、同分野で最先端の技術を有するわが国が貢献できる余地が大きい。日本政府には、STEPの活用を含む資金面での支援、また、ケニア側には、入札プロセスの透明性確保が求められる。
来年の第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)を控え、基幹インフラ整備、人材育成、ビジネス環境整備による企業進出の促進のために、官民連携で取り組んでいく。
Ⅴ ロシア・NIS
アジア太平洋地域において、日本とロシア、さらにはNIS諸国との経済関係を拡大・深化することは、わが国エネルギー安全保障等の観点からも極めて重要な課題である。折しも本年は、日本ロシア・日本NIS経済委員会の前身である日ソ経済委員会の発足から半世紀という節目の年でもある。しかし、昨今のルーブル安やインフレ等に伴うロシア国内の消費低迷なども影響し、両国の経済力や市場規模、地理的近接性等に鑑みれば、貿易・投資ともに、未だポテンシャルが十分活かされているとは言えない。
経団連では、ロシア経済界との連携の下、1993年以降今日まで13回に及ぶ日本ロシア経済合同会議を開催すると共に、極東地域ほかにミッションを派遣するなど、日露経済関係の拡大と深化に取り組んできた。また、2005年以降、毎年、ロシア・ビジネスを展開する上での問題点や改善が望まれる課題を把握するため、会員企業等を対象としたアンケートを実施している。2015年のアンケート結果によれば、日本企業の多くがロシアでのビジネス展開を阻害する要因として、行政手続や法制度、輸出入手続等の問題点が指摘されている。これらの阻害要因が改善されることによって、日露間に存在するポテンシャルを実現していくことが期待される。
ロシアならびにNIS諸国においては、石油・ガス(含シェールガス)開発、LNG輸出基地の整備等の資源エネルギー関連インフラや、高速鉄道、電力(含送配電網の強化、再生可能エネルギー、原子力、高効率石炭火力)、通信等の基幹インフラについて高いニーズが存在する。こうした現状を踏まえ、JBIC出融資・保証やNEXI保険を戦略的に活用し、民間資金の呼び水とすると共に、エネルギー分野ではJOGMECの支援制度等も柔軟に活用することが重要である。
Ⅵ 北米・欧州・豪州
石油・ガス(含シェールガス)開発、LNG輸出基地の整備等の資源エネルギー関連インフラならびに高速鉄道、電力(含石炭火力、再生可能エネルギー、原子力)、通信等の基幹インフラの双方について高いニーズが存在する。また、人口が増加している豪州では、上下水道や都市交通などの都市インフラへの需要も多い。JBIC出融資・保証、NEXI保険を活用し、民間資金の呼び水とするほか、エネルギー分野ではJOGMECの支援制度を柔軟に活用することが重要である。
第二部 具体的関心分野とホスト国・わが国の課題
Ⅰ アジア
1.アジア全般
(1)関心分野
- 物流インフラ(鉄道、空港、港湾、LNGターミナル等)
- 電力インフラ
高効率石炭火力発電、送電網(含海底ケーブルを活用した電力の国際的融通) - 通信インフラ
- 中小企業の進出の基盤となる工業団地ならびに周辺インフラ
- 水インフラ(上下水道、造水、浄水)
- 電子政府
ICTを活用した輸出入通関制度、社会保障制度の整備等。 - 交通インフラ整備と一体化したスマートカードによる料金決済システム
- サイバーセキュリティ
(2)ホスト国側の課題
- 過度な外資制限、ローカル・コンテンツ要求の緩和
- 入札制度の合理化
政府調達が価格本位で行われ、技術力やライフサイクル・コスト等の要素が評価されにくいのが実情。 - 官民のリスク分担の適正化
土地収用等、民間で負うことができないリスクを負わされるケースあり。 - 迅速な土地収用
- 政府保証の発行の迅速化、政府保証形態・内容の画一化
- 民間事業者への返済のための外貨準備
(3)わが国の課題
- 相手国政府へのコンサルタント派遣を通じた日本の規格・基準の浸透、トップセールス
- 価格本位でなく、技術の要素が評価される入札制度の整備への協力
- 国際標準約款に準拠した契約ガイドラインの整備への協力。適切なリスク分担の実現
- 社会保障制度に関する専門家の派遣等、ソフト・インフラ整備のための技術協力
- 円借款の弾力的な運用
STEPの積極的供与ならびに相手国の「借り渋り」への対応、サブソブリンへの供与の検討、連携DDの活用による迅速化等。 - 無償資金協力の柔軟な運用
機材の供与のみならず、その運用やメンテナンスまで含めてカバーする等。
2.インドネシア
(1)関心分野
- 電力「35GWの電力開発計画」
超々臨界石炭火力発電、水力発電、アクセス道路・送電網等周辺インフラ - ジャカルタ首都圏投資促進特別地域(MPA)優先事業
ジャカルタ都市高速鉄道(MRT)、上下水道、チラマヤ港の整備の加速化等。 - オフショア原油・ガス開発
- 二国間オフセット・メカニズムを活用した環境技術の普及
- 防災
衛星、ICTを活用した洪水、地震・津波等の早期警報システム - 通信インフラ
- 工業団地
- 電子政府
ICTを活用した社会保障制度の整備等 - サイバーセキュリティ
- 観光振興ならびに関連インフラ整備
(2)ホスト国側の課題
- 過度な外資制限、ローカル・コンテンツ要求の緩和
現状、自国資本が過半数を占める企業でなければ主契約者になれない、また、同コントラクターが契約全体の一定割合の役務を提供しなければならない等の制限がある。 - 入札制度の合理化
政府調達が価格本位で行われ、技術力やライフサイクル・コスト等の要素が評価されにくいのが実情。また、最終選考に残った企業が1社の場合、入札不調となり、着工が遅れる事例が散見される。 - 迅速な土地収用
現状、中央・地方政府の関係が複雑であり、土地収用に時間がかかる。 - 税制の透明化・適正な運用
現状、税制が複雑で、かつ、頻繁に変更されるため、コントラクターが税務リスクを抱える可能性がある。また、契約上、税負担に関する記述が不明確であるため、免税案件でありながら、税務調査に際してのリスクが残る。 - 政府保証の発行の迅速化、政府保証形態・内容の画一化
- VGFスキームの確立
- プロジェクト収入・調達における通貨ミスマッチの解消
- インフラ案件に携わる人員へのビザ・就労許可発給の迅速化
- 関係省庁間での調整
(3)わが国の課題
- JBIC、NEXIによるファイナンス、保証の付与(政府保証なし案件を含む)
- サブソブリン与信の供与
- 現地通貨建てのJICA海外投融資の実施
- STEPの積極的供与
- 無償資金供与枠の拡大とその対象案件の柔軟な選定
- 価格本位でなく、技術の要素が評価される入札制度の整備への協力(含適正な評価ができる人材の育成)
- 日本が優位性をもつ規格・標準の採用に向けた交渉、トップセールス
- 「日インドネシア投資・輸出促進イニシアティブ」(PROMOSI)における両国官民の対話
- 円借款返済金の有効活用
円借款の返済金が貸付実行額を上回る状況に鑑み、返済金の一部を無償事業や連携DDの拡大に活用するなどの柔軟な対応
3.フィリピン
(1)関心分野
- 電力インフラ
- スービック港、バタンガス港の整備ならびにアクセス道路の改善
- マニラ新海上空港建設と周辺インフラ(アクセス鉄道・道路等)整備
- 都市鉄道(都市部と郊外を結ぶ通勤線等)
- 工業団地
- 日本方式の地上デジタル放送の採用に伴う関連事業整備
JICAのFS済みの本PPP案件でのSTEP活用。
(2)ホスト国の課題
- 入札制度の合理化
政府調達が価格本位で行われ、技術力やライフサイクル・コスト等の要素が評価されにくいのが現状。 - 人材確保
出稼ぎ労働者の送金がGDPの1割を占める国情を反映し、人材の海外流出が顕著。インフラ案件やコンサルティングに携わる人材の確保が長期的課題。 - 税制の透明化、運用の明確化
- VGF等、PPPインフラ事業支援策の実施
(3)わが国の課題
- JBIC、JOIN、NEXIによる出資、ファイナンス、保証の付与
- STEP供与
- 現地通貨建のJICA海外投融資の実施
- 価格本位でなく、技術の要素が評価される入札制度の整備への協力(含適正な評価ができる人材の育成)
4.ベトナム
(1)関心分野
- 基幹インフラ
電力(火力、原子力、送電網、変電所)、道路、橋梁、鉄道、空港、港湾、上下水道・水処理、産業廃棄物処理等。 - 工業団地ならびに周辺インフラ
豊富な労働力、中間層の拡大による内需の増大により、裾野産業を含む日本の製造業の進出が見込まれる。受け皿となる工業団地の整備が求められる。 - 電子政府
ICT を活用した土地登記制度、社会保障制度、通関システム等。 - 金融システムならびに金融マーケットの育成
- 通信インフラ
- サイバーセキュリティ
(2)ホスト国側の課題
- プロジェクト収入・調達における通貨ミスマッチの解消
インフラ設備の運営で得たドン建収入をドルに100%兌換するための保証。 - 入札制度の合理化
入札が価格本位で行われ、技術力やライフサイクル・コスト等の要素が評価されにくいのが実情。
また、国有企業の調達手続きが不透明。 - 官民のリスク分担の適正化
土地収用等、民間で負うことができないリスクを負わされるケースあり。 - 迅速な土地収用
ベトナム側の建設用地の土地収用遅れにより追加費用が発生するケースが多発。 - 手続等の迅速化
許認可、法制度、意思決定メカニズム等に起因するプロジェクトの遅延が生じている。 - 円借款事業の実施に伴う民間への支払の迅速化
(3)わが国の課題
- トップセールスの推進
- 価格本位でなく、技術の要素が評価される入札制度の整備への協力(含適正な評価ができる人材の育成)
- 契約ガイドラインの整備への協力を通じた適切なリスク分担の実現
- マスタープランの着実なフォローアップによる円借款案件の実現
- 円借款事業でのホスト国側の支払遅延を防止するための、実施段階でのモニタリング
- 社会保障制度に関する専門家の派遣等、ソフト・インフラ整備のための技術協力
- JICA海外投融資の柔軟な活用
- インフラ案件実施の円滑化を図るための日越共同イニシアティブの推進
5.ミャンマー
(1)関心分野
- 物流インフラ(鉄道、道路、港湾、空港、橋梁等)
鉄道はヤンゴン環状線など、港湾はティラワ港新ターミナル運営など - 電力インフラ
超々超臨界圧石炭火力発電、ガス火力発電、送配電線網 - 中小企業の進出の基盤となる工業団地ならびに周辺インフラ
ティラワ経済特別区、ダウェイ経済特別区含む - 水インフラ(上下水道、造水、浄水)
インフラ整備とオペレーションのパッケージ化 - 通信インフラ
- 防災
- LNG受入基地ならびにガスパイプライン
- サイバーセキュリティ
(2)ホスト国側の課題
- 円借款の適切な運用
要請に関する意思統一の短期化、税金の取扱いの明確化が必要。 - 入札制度の合理化
政府調達が価格本位で行われ、技術力やライフサイクル・コスト等の要素が評価されにくいのが実情。 - 迅速な土地収用
地権者への補償等によりプロジェクトの進捗が遅れるケースあり。 - 電力関係など各種法制度の整備
- ビザ要件の緩和
長期ビザの発給もしくはビザ免除。
(3)わが国の課題
- 相手国政府へのコンサルタント派遣を通じた日本の規格・基準の浸透、トップセールス
- 価格本位でなく、技術の要素が評価される入札制度の整備への協力(含適正な評価ができる人材の育成)
- 日本ミャンマー共同イニシアティブを通じた法制度・ビジネス環境整備
- 社会保障制度に関する専門家の派遣等、ソフト・インフラ整備のための技術協力
- 円借款の弾力的な運用
成立までの時間の短縮や、LDCパートナー型借款(JUMP)の活用。
6.タイ
(1)関心分野
- 電力インフラ、スマートグリッド
- 工業団地
- 高速鉄道、都市鉄道
- 防災インフラ
- 上下水道
- サイバーセキュリティ
(2)わが国の課題
- トップセールスの推進
受注競争が激しい分野について、集中的にトップセールスを展開する(例えば、高速鉄道、都市鉄道について運行システム・ノウハウ、信号、車両、軌道を含むパッケージでの輸出)。 - 公的資金の柔軟な活用
JICA海外投融資、JBIC出融資等民間資金の呼び水となる公的資金の柔軟な供与。 - サブソブリン与信の供与
- 現地通貨建てファイナンス供与
- 二国間オフセット・メカニズムの活用
二国間オフセット協定の締結ならびに、わが国の省エネ技術が活用できる分野での活用。 - 国際標準化
医療用造水・排水処理等、今後包括的な技術開発が進展する可能性がある分野にについて、わが国主導の国際標準化を推進する。
7.インド
(1)関心分野
- デリー・ムンバイ産業大動脈構想(DMIC)ならびにチェンナイ・バンガロール産業回廊構想(CBIC)
道路、港湾、工業団地等 - 鉄道(アーメダバード=ムンバイ高速鉄道等)
- 電力インフラ
超々臨界石炭火力、原子力、太陽光発電、送電網、変電所等、逼迫する電力需要への対応。 - 工業団地
中小企業進出とインドの産業集積を支援 - 空港(デリー・ムンバイ産業大動脈構想の一環)
- スマートシティ
モディ首相が提唱する100のスマートシティ建設構想への支援等 - 上下水道、造水(海水淡水化や排水リサイクルによる水不足の改善)
(2)ホスト国の課題
- 入札制度の合理化
現状、政府調達が価格本位で行われ、技術力やライフサイクル・コスト等の要素が評価されにくいのが実情。また、日本企業独自の技術が一社入札を理由に却下される恐れがある。 - リスク分担の合理化
電力事業において、燃料価格や物価の変動等のリスクを民間事業者が負担するスキームとなっていることがある。 - 政府保証等、中央政府による支援の充実
- 土地収用の迅速化
- 税制の簡素化・透明化
現状、税制が複雑であるのみならず、税法の解釈が、税務当局側と納税者がアドバイスや監査を受ける公認会計士との間で異なるケースがあり、解釈の統一化が急務である。また、税問題に係る法廷係争に時間がかかるのが実情であり、結審までの時間短縮化が求められる。 - 州ごとに異なる税制、規制、ならびにその恣意的な運用の是正
- 環境規制の整備
現状、インドの環境規制は国際的な水準に達していなため、国際的な水準をクリアするための環境機器等の導入に消極的なケースがある。わが国の環境技術を普及させる観点からも、環境規制を国際的な水準にすることが求められる。 - 外資制限(不動産事業への外資制限、減資への制限等)の緩和
- プロジェクト収入・調達における通貨ミスマッチの解消
(3)わが国の課題
- 官民の適正なリスク分担に関するガイドラインの整備支援。発注者側に起因する問題の解決への支援
- JBIC等による現地通貨建てファイナンス・保証機能の強化
- STEPの積極的な供与
- スマートシティの採算性等に関する実証事業の支援
- PPP案件の周辺インフラ整備(工業団地の周辺インフラである、港湾、アクセス道路、上下水道、産業廃棄物施設等の整備)
- 原子力協定の締結
- 税制上の問題に関する二国間協議
- 入札制度の整備について、JICAによる技術協力、パイロット・プロジェクトの実施
8.バングラデシュ
(1)関心分野
- 石炭火力発電、輸入石炭中継基地、送配電網、電力系統国際連系
LNGから石炭火力への転換を図る同国のエネルギー安全保障政策支援。 - 工業団地
豊富な人的資源を求め、今後製造業の進出が見込める。 - ダッカ都市交通(メトロ、渋滞解消等)
- 石油精製・石油化学プラント
- 通信インフラ
(2)ホスト国の課題
- 入札制度の合理化
政府調達が価格本位で行われ、技術力やライフサイクル・コスト等の要素が評価されにくいのが実情。 - 投資関連法規の整備
- ロイヤリティ、配当等の外貨送金の規制緩和
- 道路、エネルギー等の周辺インフラ整備
(3)わが国の課題
- 円借款の迅速な付与
- JICA海外投融資による支援
- トップセールス
同国はLDCのため、円借款は一般アンタイドである。このため、トップセールスを通じてわが国の技術に対する理解を得ることが重要。 - ビジネス環境整備
現地大使館・商工会とバングラデシュ政府との協議の枠組が発足しており、その活用促進を求める。 - 価格本位でなく、技術の要素が評価される入札制度の整備への協力(含適正な評価ができる人材の育成)
9.パキスタン
(1)関心分野
- 火力発電
- カラチ都市交通システム
(2)わが国の課題
- 治安改善への協力
- 円借款(STEP含む)の迅速な供与
- JBIC出融資の供与、NEXI貿易保険付保
- トップセールス
Ⅱ 中東・北アフリカ
1.オマーン、カタール、クウェート、サウジアラビア
(1)関心分野
- 電力インフラ
原子力発電、太陽光発電等。 - 水インフラ
海水淡水化、水処理等。 - 人材育成
(2)ホスト国側の課題
- ローカルコンテンツ要求の緩和
特に、現地人雇用義務の緩和(カタールを除く)。 - 許認可手続きの迅速化・簡素化
投資認可申請に要する書類が非常に多い、認可作業に用いるITシステムがうまく機能しない等の問題が存在。 - 入札制度の合理化
(3)わが国の課題
- トップセールスの強化
王政・首長政の同地域では、トップ間の個人的関係構築が重要。 - 許認可手続きの迅速化およびローカルコンテンツ要求の緩和要請
- JBIC出融資、NEXI保険の迅速な対応
- 日本国内でのPFIの経験蓄積
中東諸国が関心を有する造水・下水再利用分野では、優れた技術を有するものの、建設・運転・維持管理を含む総合力では、欧州企業が優位であり、日本国内でのPPP・PFIの経験の蓄積が不可欠。
2.イラク
(1)関心分野
- 基幹インフラ(道路、上下水道、港湾、通信等)
- 電力インフラ
- 資源開発関連インフラ(パイプライン、貯蔵タンク等)
(2)ホスト国側の課題
- 財政状況悪化に伴う価格重視の傾向の強化
- 治安対策の必要性
(3)わが国の課題
- 「質の高いインフラ」のコンセプトやメリットのアピール
- 価格本位でなく、技術の要素が評価される入札制度の整備への協力
- わが国企業の競争力向上に資するファイナンス供与
3.トルコ
(1)関心分野
【ハード・インフラ】
- 基幹インフラ整備(高速道路、高速鉄道、橋梁、空港等)
特にダーダネルス海峡大橋の橋梁整備 - 電力インフラ整備(原子力発電、高効率石炭火力、揚水発電、再生可能エネルギー等)
- 医療施設整備(メディカル・ツーリズムの拠点となる都市病院等)
【ソフト・インフラ】
- 防災・減災に関する技術協力(JICA専門家派遣を通じた人材育成等)
(2)ホスト国側の課題
- 現地人雇用義務(1名の外国人に対し5名のトルコ人の雇用を義務付ける労働許可要件)の撤廃
- 外国企業による直接投資に対するインセンティブの拡充(税制優遇措置、技能人材確保に対する制度的支援、帯同家族も含む外国人就労・滞在ビザ取得手続きの簡素化・迅速化等)
- 治安の回復・維持ならびに周辺諸国を含めた関連情報の開示
- 各種法制度の改正に際しての事前告知期間や経過措置等への十分な配慮。下位規則の整備や関係省庁、地方政府の窓口への周知徹底
(3)わが国(両国)の課題
- トップセールス
- 日本トルコ経済連携協定(EPA)の早期締結
- 日本トルコ社会保障協定の早期締結
4.エジプト
(1)関心分野
- 高効率石炭火力発電、送配電網、系統安定化
- 再生エネルギー(風力、太陽熱、太陽光等)
- 水インフラ(海水淡水化、水処理等)
- スエズ再開発プロジェクト
(2)ホスト国側の課題
- 国際競争力があり柔軟性の高い事業資金の調達
(3)わが国の課題
- トップセールス
- 政府系金融機関等による資金調達スキームの拡充
5.モロッコ
(1)関心分野
- 物流インフラ(鉄道、道路、港湾、空港、等)
- 電力インフラ(太陽光発電、系統安定化、スマートグリッド)
- Gas to Power
(2)ホスト国側の課題
- 再生可能エネルギー導入増大に伴う、系統の不安定化
(3)わが国の課題
- トップセールス
- 政府系金融機関等による資金調達スキームの拡充
Ⅲ 中南米
1.ブラジル
(1)関心分野
- 物流インフラの整備による「ブラジル・コスト」の解消
「ロジスティクス・インフラ投資計画」(2015年6月)に基づく、鉄道網、道路、空港、港湾の整備による物流の円滑化、貨物取扱量の増大。 - 都市交通
海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)の投融資を活用したPPP案件等 - 電力インフラ、送電網
- 再生可能エネルギー(バイオマス、風力、水力等)
- 超伝導直流送電
現状、年間400億円程度と試算される送電ロスの解消。 - 最先端医療機器の普及
- スマートシティ、都市交通等
- 衛星を活用した防災システム等、宇宙事業
(2)ホスト国側の課題
- ローカルコンテンツ要求の緩和
海洋構築物、都市交通、造船、石油掘削、建設業、医療等の主要分野に過度なローカルコンテンツ要求がある。技術の不足解消、納期遵守等の観点から、日本で製造せざるを得ない場合はローカルコンテンツ要求を緩和するなどの措置が不可欠。 - 外資制限の緩和(建設、医療、農業等)
- ライセンス料への規制の撤廃
ライセンス料が当該製品の売上の5%(医療機器、医薬品は4%)に制限されており、技術移転の弊害となっている。そもそも、ライセンス料は当事者間の契約で設定すべき事項であり、一律な規制の撤廃が求められる。 - PPP契約に関するガイドライン設定
PPPによる公共事業において、需要リスクや土地収用など民間がコントロールできないリスクを民間負担とする契約条件が少なくない。適正なリスク分担に関するガイドラインが不可欠。 - 入札制度の合理化
政府調達に際し、価格のみが評価対象となるケースがほとんどである。技術プロポーザルと価格プロポーザルを総合評価する仕組が必要。 - 移転価格税制
独立企業間価格算定の際のみなしマージン率が現実離れしている事例があり、是正が必要。また、事前承認制度(APA)の導入を求める。 - ビザ発給の合理化
インフラ事業に携わる邦人の現地駐在に支障をきたさないよう、就労ビザの有効期間を現状の2年から3年に延長する、また、更新の迅速化を図ることが求められる。
(3)わが国の課題
- 日本ブラジル経済連携協定の実現に向けたブラジル政府との協議
- JICA海外投融資、中高所得国向け円借款等、ODAの柔軟な供与
- 海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)の投融資の活用
- 移転価格税制に関する課題解決に向けた税務当局間の協議
2.メキシコ
(1)関心分野
- 再生可能エネルギー
- 石油・ガス上流分野
- 環境・省エネに関する最先端技術(建設分野)
- 電気料金の低減、輸送インフラの改善
- 中小企業、裾野産業の強化への協力
(2)ホスト国側の課題
- エネルギー輸出の許認可の合理化、通信分野の構造改革
- インフラ開発におけるプロジェクト・ファイナンスの活用
- 為替リスク低減
- 物流分野の外資制限の緩和
- 税制の改善(VATの還付手続の迅速化等)
- 治安の改善
(3)わが国の課題
- エネルギー分野でのトップセールス
- サポーティング・インダストリーの進出加速と育成支援
- 二国間オフセット・メカニズム制度(2014年7月協定締結)の活用
3.キューバ
(1)関心分野
- 火力発電所リハビリ
- 再生可能エネルギー
- 医療
- 基幹インフラ(道路、橋梁、上下水道等)
(2)ホスト国側の課題
- 支払保証の確約
(3)わが国の課題
- ODAの有効活用
- NEXI貿易保険枠の拡大
4.コロンビア、チリ
【コロンビア】
(1)関心分野
- 資源・エネルギー開発(石油、石炭、ガス、ニッケル)ならびに関連インフラ整備(鉄道、道路、港湾、パイプライン)
- 空港
- 最先端省エネ技術
- 物流インフラ(コールドチェーン等)
(2)わが国の課題
- 政府保証の強化、ファイナンス支援
- 日本コロンビアEPA早期締結に向けた交渉の加速化
【チリ】
(1)関心分野
- 防災・災害対策
- 電力インフラ(含再生可能エネルギー)
- 水資源
- 衛星通信
(2)わが国の課題
- JBIC出融資の柔軟な対応、中進国を超える所得水準の国に対する円借款等の供与
Ⅳ アフリカ
1.南アフリカ共和国
(1)関心分野
- 電力インフラ
発電所(火力、水力、太陽光、太陽熱、風力、蓄電池)の更新・増強ならびに送電網の整備による電力不足の解消。 - 鉱物資源開発
鉄鉱石、金、コバルト、クロム、白金、石炭等の開発と関連インフラの整備(鉄道、港湾・コンテナヤード等)、衛星及び衛星データを活用した鉱物資源探査・開発。 - 都市インフラ
配電、住宅、スマートコミュニティ、スマートエナジー - 通信インフラ
- 南北回廊、ジンバブエ国境設備の自動化・効率化
(2)ホスト国側の課題
- 雇用政策の合理化
過度な黒人企業優遇政策(BEE)の緩和、就労許可の合理化(企業内転勤の就労許可の期限延長、日本人以外のアジア人に対する就労許可発給の迅速化等) - 過度なローカルコンテンツ要求の緩和
- 民間事業者と電力公社との間の売電契約に係るガイドラインの整備
- 入札制度の合理化
政府調達が価格本位で行われ、技術力やライフサイクル・コスト等の要素が評価されにくいのが実情。
(3)わが国の課題
- 中進国を超える所得水準の国に対する円借款、JICA海外投融資等の供与
- 現地通貨建ての長期インフラファイナンスを可能にするスキームの検討
- インフラ整備ならびにビジネス環境整備に関する政策対話の実施
2.モザンビーク
(1)関心分野
- ナカラ回廊開発
道路・鉄道網(周辺国との連結)、港湾・コンテナヤード、発電所・送電網、石油精製プラント、オフショアガス田開発・LNG事業、ガス化学産業、農業インフラ、国境施設の自動化・効率化 - マプト市の都市交通
(2)ホスト国側の課題
- 入札制度の改善
一般アンタイド円借款案件等で本邦事業者が競争力を確保すべく、技術力やライフサイクル・コスト等の要素が正当に評価される入札制度の導入が不可欠。
(3)わが国の課題
- 無償資金枠の拡大と一件あたりの無償資金供与額の拡大
- JICA海外投融資の機動的かつ柔軟な供与
- 現地通貨建て円借款、JBIC出融資の実施
- Equity Back Finance円借款の実施
- 交換公文の際の免税条項の徹底
3.東アフリカ(ケニア・タンザニア・エチオピア)
(1)関心分野
- モンバサ港湾開発事業、モンバサ経済特区と周辺インフラ(ケニア)
道路・鉄道(周辺国との連結)、国内交通網、コンテナヤード等 - 地熱発電(ケニア)
- 製油所能力増強(ケニア)
- ガス田開発、LNG事業および関連するパイプライン(タンザニア)
- 産業立地(繊維産業等)(エチオピア)
- 都市インフラ
水処理施設、上下水道、配電、住宅等 - ICTを活用した治安維持・テロ対策
(2)ホスト国側の課題
- PPP関連法制の整備
地熱発電における蒸気枯渇リスク等の分担に関するガイドラインの整備 - 入札制度の合理化
政府調達が価格本位で行われ、技術力やライフサイクル・コスト等の要素が評価されにくいのが実情。
(3)わが国の課題
- 公的資金の有効活用
STEPの活用も含め、基幹インフラから人材育成までパッケージで支援。
無償資金協力の規模の拡大、JICA海外投融資の機動的な供与、JBIC出融資の活用条件の緩和、NEXI保険の拡充。 - インフラ資材・機材の輸入手続の円滑化に向けた技術協力
- 地熱資源開発のための途上国支援スキームの構築。
4.西アフリカ(ナイジェリア・ガーナ・セネガル等)
(1)関心分野
- 西アフリカ成長リング回廊
鉄道網(日本の規格の定着)、港湾・コンテナヤード、石油・ガス精製プラント、パイプライン、農業インフラ、国境施設の自動化・効率化等 - ガス火力発電・送電網
- 都市インフラ
水処理施設、上下水道、配電、住宅等 - テロ・治安対策
人材育成、組織及び能力強化、監視システムの強化 - ガバナンス改善
警察研修・施設の拡充、電子政府等
(2)ホスト国側の課題
- ビジネス環境整備
ビサ発給手続の迅速化・効率化、税制・行政手続の透明化等 - 周辺各国間連携、地域統合の強化
出入国管理、税関、検疫の効率化等
(3)わが国の課題
- 公的資金の有効活用
STEPの活用も含め、基幹インフラから人材育成までパッケージで支援。
無償資金協力の規模の拡大、JICA海外投融資の機動的な供与、JBIC出融資の活用条件の緩和、NEXI保険の拡充。
Ⅴ ロシア・NIS
(1)関心分野
【基幹インフラ】
- 資源・エネルギー開発(石油、ガス(含シェール)、レアメタル等)
- LNG輸出基地ならびにガスパイプラインの整備
- 電力インフラ(送配電網の更新・近代化、再生可能エネルギー、原子力、高効率石炭火力等)
- 物流インフラ(シベリア鉄道・バム鉄道等の近代化、炭鉱から輸出港までの鉄道整備、全国主要道路網の拡充、大型船の入港が可能な港湾の整備、とりわけ極東地域における既存港湾施設の拡張・近代化、不凍港の整備、国際・国内空港の近代化等)
- 情報通信ネットワークの整備・拡充
【都市環境インフラ】
- 上下水道の整備
- 廃棄物処理施設の整備
- 良質で適正価格の住居、ホテル、オフィスの増設
【その他】
- 繊維機械の輸出拡大(ウズベキスタン)
(2)ホスト国側の課題
- 行政の問題(煩雑な許認可手続き、許認可取得に要する時間の長さ、窓口毎に異なる対応、常態化している贈収賄・汚職等)
- 法制度の問題(曖昧で理解しにくい法解釈・運用、頻繁な変更、運用細則未整備のまま施行される新法、法改正の過渡期に生じる窓口の混乱等)
- 輸出入手続きの問題(不透明で煩雑な手続き、職員による恣意的な判断・対応、銀行が制裁対象となることに伴う信用状決済の未普及等)
- 税制・会計制度の問題(煩雑な付加価値税・輸入税の還付手続き、国際会計基準からの乖離、煩雑な保険金支払い手続き、頻発する制度変更等)
- 駐在員の出入国・就労に関する問題(査証・労働許可取得に要する時間の長さ、短い有効期間(通常1年)、頻繁な制度変更、不透明な手続き等)
- 金融政策・金融制度の問題(金利の高止まり、不安定な通貨政策、金融制裁により煩雑化した外国金融機関との決済手続き等)
- ロシア政府による国内産業優遇方針(輸入代替政策)
(3)わが国の課題
- 官主導による日本技術・製品の展示会等の開催
- トップセールス
- 円借款(含STEP)および公的金融の迅速な付与(NIS)
- 専門家の現地派遣を通じた技術者の育成(NIS)
- 法制・税制整備への協力(NIS)
- 官民一体となった案件発掘の推進(NIS)
Ⅵ 北米・欧州・豪州
1.米国、カナダ
(1)関心分野
- シェールガス開発
- 物流インフラ(道路、橋梁)
- 電力インフラ(再生可能エネルギー、原子力)
- レドックスフロー蓄電池
- 高速鉄道
- 生命保険、損害保険
(2)わが国の課題
- トップセールス
- 石油・ガス開発・生産事業へのJOGMEC支援制度の柔軟な適用
- JBIC出融資の有効活用
2.欧州
(1)関心分野
- 鉄道
- 電力インフラ(火力、再生可能エネルギー、原子力、洋上風力発電と陸地をつなぐ海底送電)
- 空港、港湾
(2)わが国の課題
- 日EU経済連携協定の早期実現によるEUへの投資の保護・自由化、EUの公共調達市場へのアクセス確保
- JBIC・NEXIアンタイドプログラムの積極的活用
NEXIについては、ポリティカルリスク100%カバーの検討 - 対象国における法人税引下げに伴う、わが国のタックスヘイブン対策税制のトリガー税率引下げ
3.豪州
(1)関心分野
- 鉄道(含高速鉄道)
- 人口増加に伴う都市インフラの拡充(都市交通、上下水道、学校等)
- 電力(石炭火力発電とCO2回収・貯留の一貫システム、水素発電、地熱、太陽光等)
- ブロードバンド等、IT基盤の整備
- 農業、鉱業関連物流インフラ(内陸から港湾までの鉄道インフラ野拡充等)
- LNGプラント
(2)ホスト国側の課題
- 過度な労働保護政策と慢性的労働量不足に起因する人件費高騰への対策
- インフラ政策の一貫性確保(政権後退に伴う発注済のインフラ案件のキャンセルが生じた例がある)
- 環境アセスメントのプロセスの円滑化
(3)わが国の課題
- 省エネ技術、高速鉄道等、わが国技術のトップセールス
- PPPの専門家の組成(プロジェクトマネージャー、弁護士等を擁するプロジェクトチームの構築等)