Policy(提言・報告書) 経済連携、貿易投資  TPP/EPAの経済効果 -経団連シンポジウム 「TPPを活かす」 パネルディスカッション第1部

川崎 研一 政策研究大学院大学 政策研究院 シニア・フェロー

経済効果の理論的期待:中長期的に持続可能

TPPを通じて期待できる経済効果は、まず、輸出と生産の増加、効率的な資源配分の実現である。忘れてはならないのは、実質所得の増加と消費の増加という消費サイドのメリットである。安価な海外製品が得られることは実質的に減税と同じ効果があり、所得と消費の増加につながる。企業も安価な材料等の調達が可能となり、効率的な生産体系へ移行できる。

ダイナミックな経済効果としては、経済成長の加速により設備投資と資本形成が進む。また経済規模の拡大が雇用増加をもたらす。海外との競争促進で生産性も向上する。

加えて、最近の理論で注目されるのは、新規の貿易やビジネス機会の創出である。例えば、国内のみで下請けビジネスを行う中小企業が、TPPで新たに海外投資や輸出を始める可能性が広がる。

また、金融政策・財政政策の効果が短期的であるのと比べ、TPPの経済効果は中長期的に持続可能であり、まさにアベノミクスの成長戦略の柱である。

アジア太平洋の地域経済統合の経済効果:最低でもTPPレベルの実現を

私の試算では、TPPの関税撤廃の経済効果はGDPの0.8%、非関税措置の削減効果を加えると1.6%に相当する。TPPのレベルをアジア太平洋に広げ、FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)につなげるべきである。その過程では、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)も、最低でもTPPレベルの水準の高い協定を追求することがビジネスの利益になる。

今後の課題:FTA利用率の向上とエコノミストの更なる貢献

経済効果を高めるには、現在5割に満たないFTA利用率を向上させる必要がある。特に中小企業には必要書類の提出など利用の負担が大きいが、政府の情報の提供と企業の積極的な利用努力が必要である。経団連にも官と民をつなぐ役割を期待する。

エコノミストには、経済連携の効果を適切に評価するという役割がある。日本政府は昨年12月、TPPに際し、初めて交渉の妥結後、経済連携協定の経済効果分析を公表したが、米国ではTPA(大統領貿易促進権限)法に基づき、議会の審議にあたり経済分析は必須であり、日本も同様の対応が必要であろう。中立的観点に立ち、非関税分野など未だ不足するデータの整備に、世界的な共同研究として努めたい。

以上

経団連シンポジウム 「TPPを活かす」 開催概要