Policy(提言・報告書) 経済連携、貿易投資  TPP協定とJAグループの取り組み -経団連シンポジウム 「TPPを活かす」 講演

大西 茂志 全国農業協同組合中央会 常務理事

TPPとJAの自己改革

TPPを活かすというテーマに沿ってJAの取組みを紹介したい。様々な対策により農産物の生産は維持されても、価格低下の影響は避けられない。一方、TPPにより、貿易相手国の関税撤廃・削減と累積原産地規則の適用、通関の迅速化が実現する。

TPPの影響もさることながら、地方では高齢化やそれに伴う離農などの影響も大きく、これらへの対応は急務である。このような現状を受け、昨年、平成28年から30年度の取組みとして「第27回JA全国大会決議」を取りまとめ、この決議に基づく自己改革を加速していくこととしている。

自己改革の最重点課題:農業者所得の増大と農業生産の拡大

改革の最重点課題は、「農業者の所得増大」と「農業生産の拡大」である。

農業者所得増大に向けては、販売単価のアップのため、例えば、野菜は卸売り中心から直売所の販売を強化するとともに、中食・外食用の原料供給を強化するなど、流通・加工のポートフォリオを作り上げていく。また、省力化による生産性の向上で生産量の拡大を目指す。

地域農業は従来、集落を単位としていたが、高齢化により担い手が不足し、より広域の地域に営農単位を移行する必要がある。現在、200haを越える集落営農法人が誕生し、水田のみならず複合経営も進んでいる。また、人手が必要な園芸や冷凍工場などで雇用を創出している。大規模農業法人とのパートナーシップや、企業との連携も推進していく。

今後の取組み(具体例)

(1)農畜産物の輸出額10倍超

JAグループの年間輸出額38億円(平成24年実績)を、平成32年までに380億円超とすることを目標としている。JAグループは輸出推進対策本部委員会を設置し、産地、品目、県別であったマーケティングを統一するとともに、商談会支援、検疫・輸入規制の緩和に向けた働きかけなど、輸出促進のための取組み体制を相手国別に統一することとした。戦略目標を明確に定め、JAグループ一体となって取り組んでいる。

(2)地域ブランド強化へ知財等の活用

地域ブランド力の更なる強化・保護に向けて、地理的表示(GI)保護制度#1の活用を図る。最大の利点は、品質の維持・保障、罰則による履行確保である。国に加え地域自身の努力が必要になる。欧米ではGIが既に活用されており、フランスでの取組みの例を見ると、地元に収益が還元されている。仕組みが定着すれば輸出促進にもつながる。わが国で先般、GIとして登録された品目は、評価が確立したものだけでなく今後成長していく品目もある。登録後もフォローアップを行い、日本そして海外に根ざすよう努力をしていく。

(3)経済界との連携による生産・流通・加工イノベーション

JAグループと経団連は2013年10月に「経済界と農業界の連携強化WG」を設置し、2014年5月に「活力ある農業・地域づくり連携強化プラン」を決定し、重点戦略テーマを、(1)生産イノベーション、(2)物流・加工イノベーション、(3)国産農畜産物需要拡大の3つとした。企業・農業界が相互の価値観・実態を共有し、経済界と農業界のマッチングを促している。事業に着手した代表事例には、農業資材の実践活用、生産におけるICT活用、バリューチェーン構築上の加工・物流性の高い品種の取組み、商品の価値を伝え売る仕組み・支援などがある。

(4)生産資材価格の引き下げと低コスト生産技術の確立・普及

従来の一律的な価格体系に基づく購買方式を見直し、取引条件に応じた弾力的な価格設定などを進める。肥料・農薬等を集約することによるコスト削減、農機リースなどにより、トータルで生産コストの低減に取り組むことを現場で定着させていく。

(5)新たな担い手の育成

新たな担い手の育成は最も重要な課題である。親元での就農と異なり、新規就農は初期の技術習得とキャッシュフロー確保が必要となる。JAグループでは新規就農支援パッケージとして一貫支援体制を構築し始めている。JA出資法人での雇用や、研修を実施している例もある。また、地域における品目ごとの生産者組織である生産部会を通じ、技術の習得を強化している。中山間地にも地域農業の担い手となる例ができつつある。今後も様々な組織や企業と連携しつつ、農業・地域を継続させていきたい。

以上

  1. 地理的表示(Geographical Indication, GI)保護制度:生産地と結びついた特色ある農林水産物等の名称を、生産地・品質等の基準とともに登録・保護する制度。WTO・TRIPs協定で知的財産権として保護することが義務付けられるが、外国でGIの保護を受けるには生産者自身による当該国での申請・登録が必要。日本では、神戸ビーフ、夕張メロン、八女伝統本玉露(福岡)など、計10品目を登録(2016年2月時点)。TPP協定により、諸外国と相互にGIを保護する場合の共通ルール(二国間・多国間の国際協定により個別の申請がなくても相互に保護すること等)を確立。

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