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Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 BEPSプロジェクトを踏まえた今後の国際課税に関する提言

2016年4月19日
一般社団法人 日本経済団体連合会

Ⅰ.はじめに

OECDは2015年10月、BEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)プロジェクトに関する最終報告書(最終報告書)を公表し、その内容は同年11月のG20アンタルヤ・サミットで全面的な支持を得た。本年2月にはG20財務大臣会合でOECDが提案した包摂的枠組が支持され、OECD/G20以外の国も含め、最終報告書の勧告内容の実施への取り組みの輪が拡大することとなっている。先進国のみならず途上国も含めた合意形成・実施が見られることもあり、今回のプロジェクトは税制における従来の国家間の競争から新たな協調の時代への転換点とも評される。

今後、勧告内容に沿ってOECDモデル租税条約やOECD移転価格ガイドラインが改訂され、各国の国内法についても必要な整備・改正が見込まれる。これらは経済のグローバル化に対応した新たな国際課税制度の構築に資するものであり、また、一部の多国籍企業による過剰な節税策の抑制、企業間の競争条件の均衡化につながるものとして、一定の評価ができる。

しかし、新たな移転価格文書化制度の導入に代表されるように、企業のコンプライアンス・コストは確実に増加する。こうした中、勧告の実施・解釈において各国で不整合が生じ、国際協調を反故にする一国主義的な動きが出る場合には、事務負担の一層の増大に加え、二重課税のさらなる拡大が懸念される。

このような弊害は防止しなければならない。国際社会は今後、勧告内容の一貫性のある実施を担保すべく、各国の行動をモニタリングする必要がある。特にアジアにおけるビジネス規模が相対的に大きい日本企業にとっては、アジア諸国における勧告の遵守が欠かせない。

また、OECD/G20ではこの他、最終報告書で積み残しとなった課題について引き続き取り組むこととされている。

一方、国内では最終報告書を踏まえた国内法制化が課題となる。すでに平成27年度税制改正、28年度税制改正でBEPS対応の改正が行われているが、29年度税制改正以降も外国子会社合算税制、利子控除制限、移転価格税制などに関する議論が行われる可能性が高い。租税回避の防止のみならず、企業の競争力強化の視点も踏まえた議論が求められる。その際、コンプライアンス・コストとのバランスにも十分、配慮する必要がある。

BEPSプロジェクトは実施のフェーズこそが重要である。そこで、以下では国際課税に関する今後の課題について提言を行うこととする。

Ⅱ.国際社会における課題

1.一貫性のある実施及びモニタリング

(1) 総論

OECDは本年2月、包摂的枠組に合意した。この枠組によれば、今後、関心のあるすべての国・地域はOECD租税委員会に参加し、OECD/G20諸国と平等の立場でBEPS関連のモニタリングに関与可能となる一方、最終報告書における4つのミニマム・スタンダード(国別報告事項、紛争解決メカニズムの効率化、条約の濫用防止、有害税制への対抗)をはじめとして、BEPSパッケージの実施にコミットすることになる。

経団連はこの枠組を支持するとともに、本年のG7伊勢志摩サミット(5月26~27日)、G20杭州サミット(9月4~5日)における各国首脳の全面的なバック・アップに期待する。とりわけ国別報告事項や紛争解決メカニズムの効率化に関する勧告は、すべての国が確実に遵守することが不可欠である。G7に向け、別途、G7の経済界首脳から成るB7東京サミット(4月20~21日)においても同趣旨の共同声明を取りまとめ、公表することとしている。

なお、移転価格税制やPE(Permanent Establishment:恒久的施設)課税に関する勧告は既存のスタンダードの改訂に分類され、ミニマム・スタンダードに比べ一般的に拘束力が劣るとされるが、二重課税防止の観点からは可能な限り国際的な制度の収斂、解釈の調和が求められる。

(2) 国別報告事項

国別報告事項は、多国籍企業グループの活動概況を国ごとに、定量的に記載するものであり、関連する課税当局に提供される。このため、導入自体が過剰な節税策に対する牽制効果を有するものと考えられる。また、作成する企業にとっても、グループ内の相対的な国別納税規模や活動状況を集計することで、予期せぬ税務リスクが存在していないか検証ができるため、有用な面がある。

他方、国別報告事項が示す情報には限度があるということも、改めて認識されるべきである。各国は最初から過大な期待を寄せるのではなく、まずは制度を混乱なく開始させることに注力する必要がある。

関係国は勧告内容を確実に遵守すべきである。勧告では、国別報告事項の入手及び利用の条件として守秘、一貫性、適切な利用が掲げられている。国別報告事項はハイレベルなリスク評価のツールであり、詳細な移転価格分析の代替とはならず、定式配分への利用もできない。また、守秘も徹底する必要がある。

日本の経済界が鍵と考える実施上の問題は次の通りである。

  1. 適用初年度の取扱い
    最終報告書では、2016年1月1日以降開始事業年度分から国別報告事項を作成することが勧告されているが、日本では4月1日以降に開始する事業年度から適用されるため、勧告に比べ施行時期に3ヵ月の時間差が生じることになる。
    しかし、このような施行時期の若干のずれは他国でも生じている。また、最終報告書でも、国内立法化に時間を要する法域があるかもしれない旨の認識が示されている。時間差が常識的な範囲に留まっている場合は、企業の進出先国がいわゆる第2方式(第1方式たる租税条約のネットワークによらず、企業の現地子会社を通じて国別報告事項を入手する方式)を適用しないよう、取扱いを徹底すべきである。端的には、最終親会社の所在地国税法が定める施行時期を尊重する必要がある。

  2. 情報交換に関する透明性
    今後、多国間又は二国間の枠組で適格当局間合意が行われ、その範囲内で国別報告事項は租税条約による自動的情報交換の対象となる。このうち多国間合意については、現時点で参加国が32に留まっているため拡大が必要である。
    多国間合意については、参加国のうち実際にどの国の間で情報交換の合意が発効しているか、OECDのウェブサイトで公表される予定だが、予見可能性を確保する観点から、二国間の発効状況についてもOECDで集計し、公表することが望ましい。企業としては第三国所在の子会社を代理親法人として指名する可能性があることから、二国間の合意リストは有用である。
    また、合意に基づき、最初の国別報告事項は事業年度終了後18ヵ月以内、2回目以降は15ヵ月以内に交換されることになるが、国別報告事項の交換は受領国におけるリスク評価の開始を意味するため、実際にいつ、どの国に交換されたのか、納税者が把握できるツールの提供に期待する。

  3. 情報請求に関するルール
    国別報告事項についてはテンプレートが確定している以上、それを超えて、各国の課税当局が構成会社等のデータを要求することはなく、また、条約方式が基本であることを踏まえれば、交換された国別報告事項の記載内容に関し明確化が必要な場合は、受領国の課税当局は多国籍企業グループの最終親会社や子会社に対して直接照会するのではなく、条約に基づき相手国課税当局に照会することになると理解している。
    最終報告書では、国別報告事項を基礎とした更なる質問検査が妨げられるものではない旨の記載があるが、国別報告事項自体に関する情報請求のルールについては、明確化の余地があると考えられる。

  4. 国別報告事項の解釈
    国別報告事項はその性質上、解釈において例えば次のような留意事項がある。

    • 連結相殺が不要なため、個別データの合算額と連結財務諸表の数値が一致しない。
    • 構成会社等の範囲と移転価格税制における国外関連者の範囲が一致しない。
    • 配当免税等の税会不一致により、法定税率と会計上の税負担割合が一致しない。
    • 税効果会計が考慮されない。
    • 企業がコングロマリットの場合、国別の数値は複数の事業内容の合算額となる。

    こうした中、どのような状況において企業がリスクあり(BEPSの恐れあり)と判定されるのか、典型例に基づき、各国の課税当局はできるだけ認識を共有すべきである。また、実際のリスク評価に際しては、単年度の、一過性の欠損が異常値と見なされることのないよう、複数年度に渡り国別報告事項を検証するという慎重さが求められる。

OECD及び関連する機関は今後、このような課題に対処するため、国別報告事項の適切な利用を確保するためのガイダンスを策定し、各国の課税当局及び納税者に提供すべきである。その上で、効果的なモニタリングのメカニズムが遅滞なく立ち上げられることに期待する。検討の過程において公開討議草案を公表し、公聴会を開くということも、適切であれば1つのオプションである。そのような機会があれば、我々も歓迎する。

なお、日本の経済界は、欧州委員会による国別報告事項の一般公開に関する提案を懸念する。国別報告事項は企業の機密情報を含むものであり、最終報告書では、一般公開がなされぬよう、課税当局はあらゆる合理的な手段を講ずるべきとされている。また、国別報告事項の条約方式による交換は、各国において国別報告事項の守秘が担保されていることが前提となっている。このような国際合意は必ず遵守すべきである。

(3) マスターファイル・ローカルファイル

マスターファイル(事業概況報告事項)とローカルファイル(独立企業間価格の算定に必要と認められる書類)はミニマム・スタンダードに分類されておらず、記載内容に関し各国に裁量の余地があるとされている。しかし、これらは国別報告事項と並び移転価格文書の三層アプローチを構成するものであり、可能な限り統一すべきである。

もとより移転価格文書に関する新たなルール設定は課税当局にとっての透明性向上のみならず納税者にとっての事務負担軽減も目的としていたはずである。あまりに逸脱した内容を要求する課税当局がある場合には、2020年の包括的な見直しを待つことなく、モニタリングの中で対応を行う必要がある。

(4) 紛争解決メカニズムの効率化

近年、事前確認や二重課税事案に係る相互協議の発生・繰越件数が増加基調にある中で、BEPSプロジェクトによってその傾向に拍車がかかる恐れが指摘されている。とりわけ移転価格税制やPE課税については執行の不確実性が高まると見込まれる。

それだけに、最終報告書において、相互協議を平均24ヵ月以内に妥結するよう努力することを含め、いくつかのミニマム・スタンダードが提示されたのは朗報である。今後、相互協議に係る申請の的確な受理、合意への真摯な努力、合意内容の適切な実現などについて、各国の実施状況をモニタリングしていく必要がある。

ただし、相互協議が改善されたとしても、部分合意に留まるなど、二重課税が完全に排除されない懸念も残る。紛争解決メカニズムのさらなる効率化のためには仲裁制度の導入が不可欠であり、導入国を拡大していくべきである。

2.残された課題への対応

OECDは2016年から2017年にかけて、最終報告書における積み残しの課題について検討を継続することとしている。このうち、日本の経済界として重要と考える項目について、以下の通りコメントする。別途、公開討議草案や公聴会を通じて詳細な意見を提出する機会が提供されることを期待する。

(1) 評価困難な無形資産への課税(所得相応性基準)

OECD移転価格ガイドラインの改訂第6章(無形資産に対する特別な配慮)において、評価困難な無形資産の譲渡に係る課税手法として、いわゆる所得相応性基準が組み込まれることとなった。2015年6月の公開討議草案に比べれば、証明すべき「事前の予測」の詳細さの緩和に加え、事前の予測と事後の結果の「相当な乖離」の具体化、一定期間経過後の適用免除も盛り込まれるなど、納税者への配慮が認められる。

しかし、所得相応性基準は、いかに独立企業原則の枠内と整理したところで、依然として後知恵課税との疑念は拭えない。このため、適用の場面を極力限定するとともに、精緻な実施ガイダンスを策定することが不可欠である。

具体的には、譲渡先における収益等のうち譲渡された評価困難な無形資産に起因するものの抽出方法、更正方法(それが譲渡価格そのものの引き直しなのか、譲渡先における収益に連動した分割払いのようなものになるのか等)に関するガイダンスの拡充に加え、適切な免除基準の設定を前提とする適用・非適用に関する事例の提供が必要であろう。所得相応性基準の適用によって生じた二重課税については、必ず排除すべきである。

(2) PS(Profit Split: 利益分割)法

2014年12月の公開討議草案への意見で述べた通り、PS法に関するガイダンスの洗練は歓迎すべきことであり、OECDにおける今後の作業に期待する。特に、無形資産の開発・改善・維持・保護・利用に関する重要な機能の遂行を伴うケースにおける「ユニークで価値ある貢献」の意義に関し、議論を深める必要がある。また、利益分割ファクターに関するガイダンスの拡充も有用である。

ただ、この作業は、最適手法としてのPS法の適用拡大を意味するわけではないということを改めて確認する必要がある。最終報告書でも、場合によっては不適切なPS法の使用よりも、厳密ではない比較対象取引を使用した適切な手法の方がより信頼できることもあり得るとされており、PS法の適用が適切でない場面についても検討が必要である。

(3) PE帰属利得

OECDモデル租税条約第5条(恒久的施設)が改訂され、代理人PEの範囲が拡大されるとともに、企業の活動が準備的・補助的であるか否かについては実質判定がなされることになった。今後、課税関係の安定のため、代理人PEや準備的・補助的活動に該当する場合、しない場合について、コメンタリにおいて事例をさらに増やしていく必要がある。

また、実際にPE認定が行われたとしても、AOA(Authorized OECD Approach:OECD承認アプローチ)に基づけば、帰属する利得は多くの場合、限定的との見方もある。代理人や倉庫等の機能・リスクに関する議論を深め、帰属利得について充実したガイダンスを策定する必要がある。

なお、PEの範囲やAOAに基づく帰属利得など、合意した内容については、OECD非加盟国も含め、一貫性のある実施が不可欠である。

(4) 条約の濫用防止

OECDは米国モデル租税条約の改訂を踏まえ、本年前半までに条約の濫用防止に関する作業を最終化させると見込まれる。

このうち、特に焦点となるのはLOB(Limitation on Benefits:特典制限規定)であると考えられるが、日本企業としては、地域統括会社を含む持株会社に条約特典が付与されることを期待する。

ある法人の投資又は管理活動が実質的な経済的機能を有し、投資先の価値向上に資する意思決定や支援活動を含む実際の事業を行っているのであれば、その活動は能動的事業と見なされるべきである。また、ある事業が能動的に実行されているかどうかは全ての事実関係を考慮して判断すべきである。業種により機械的に区別することは公平な国際競争を歪めかねない。

これらの考え方は最終報告書のPPT(Principal Purpose Test:主要目的テスト)に係るコメンタリにおいて、実質的な経済的機能を果たす地域の業務を統括する会社に対しては条約の特典を否認することが合理的でないとする事例とも整合しており、LOBでも同様の規定を盛り込む必要がある。その際、最終報告書では、能動的事業活動基準は個々の事業体ベースではなく関連者も含めて行うべきとされていることから、その記述を維持すべきである。また、地域統括会社が傘下の複数の子会社の株式を保有する状況において特典が付与されることを明確化すべきである。

加えて、LOBを採用する条約における、派生的受益者基準の導入拡大に期待する。

(5) 多国間協定

PEや条約の濫用防止を含め、最終報告書の勧告内容のうち租税条約に関するものについては、多国間協定により一斉に個別条約に反映される可能性がある。多国間協定は本年末までに署名のため開放すべく作業することになっているが、企業による予見可能性を高める観点から、その作業状況を適時に開示するとともに、必要に応じ納税者の意見を求めるべきである。

経団連はこれまで、公開討議草案に対する意見提出、公聴会への出席を含め、BEPSプロジェクトに建設的に関与してきた。今後も積極的に議論に参加していく。

Ⅲ.国内法制化の課題

1.総論

最終報告書を踏まえ、今後、国内でいくつかの項目について法制化の議論が行われると見込まれる。もちろん、国際的なモニタリングの対象となる項目などについては一貫性をもって国際協調を進める必要があるが、それ以外の国内法制に関する項目については、協調を目指しながらも、まずは、日本企業の現状や既存の制度との整合性を踏まえて検討することが重要である。

その検討の結果、租税回避リスクが高いと認められる分野については一定の法制上の手当が検討されることもあろうが、リスクの低い分野については改正を行う必要性が乏しい。国内法制化といってもその程度については当然に濃淡があり、最終報告書の勧告内容の一律の実施ありきではなく、日本の実情を十分に踏まえた内容のものであるべきことを改めて確認すべきである。

このような基本姿勢に基づき、政府は諸外国の動向に留意しつつ、検討のロードマップ案を示し、納税者と対話を進める必要がある。その際には、租税回避の防止のみならず、企業の競争力強化の視点も不可欠である。租税回避の防止は「本来確保されるべき課税ベースの維持」とも言い換えることができる。その範囲を超えて課税される場合、企業の競争力は阻害される。

もっとも、どのような制度であれ、企業のコンプライアンス・コスト、課税当局の執行可能性とのバランスには十分、配慮する必要がある。

個別項目に関する現時点での考え方は次の通りである。平成29年度税制改正に関する提言は、別途本年9月を目途に取りまとめることとする。

2.各論

(1) 外国子会社合算税制(CFC税制)
  1. 最終報告書の評価
    最終報告書はCFC税制について6つのビルディング・ブロックを提示した。その核心部分であるCFC所得(親会社への合算所得)の特定方法については、カテゴリカル分析、実質分析、超過利得分析の3案が提示され、それらのいずれかの選択或いは組み合わせがベスト・プラクティスとされている。
    また、CFC所得の親会社への合算方法については2つの考え方が示されている。1つめは外国子会社の総所得に占めるCFC所得の相対的な多寡に応じてその総所得を全部合算または全部非合算とするエンティティ・アプローチであり、2つめはあくまでも特定されたCFC所得のみを合算するトランザクショナル・アプローチである。最終報告書では、前者は簡便ではあるが過剰合算・過少合算の恐れがあるとされ、後者については過剰合算・過少合算が生じないものの制度の複雑化が指摘されている。
    日本のCFC税制は最終報告書の内容と乖離するものではない。軽課税国に所在する子会社に経済実体がない場合、会社単位で所得が全部合算されるという局面を捉えれば、実質分析を経てエンティティ・アプローチによりCFC所得を特定・合算しているといえる。また、その子会社に経済実体がある場合でも一定の資産性所得については合算課税されることに着目するならば、カテゴリカル分析を経てトランザクショナル・アプローチによりCFC所得を特定・合算しているといえる。事実、最終報告書でも、日本の制度はエンティティ・アプローチとトランザクショナル・アプローチのハイブリッド型であり、実質的にはトランザクショナル・アプローチの一種と整理されている。日本のCFC税制は最終報告書の考え方に整合的といえよう。

  2. 基本的な考え方
    一方、かねて日本のCFC税制は、制度趣旨が必ずしも明瞭でなく、複雑であり、過剰合算による企業の競争力の低下が指摘されている。最終報告書を契機に、国際課税制度全体におけるCFC税制の位置づけを明確化し、それによって防止すべき租税回避に関する認識を共有することを含め、CFC税制の「抜本的な見直し」を議論すること自体は有意義である。
    ただし、その際には、i)国別報告事項の導入や日本における法人実効税率の引き下げにより、企業の国境を越えた節税動機は今後一層、抑制されること、ii)移転価格ガイドラインが改訂されれば、今後、機能の低い軽課税国子会社にはIP所得を含め、不相応な利得は滞留しにくくなること、iii)移転価格文書化、移転価格分析の精緻化・複雑化など、BEPS関連の制度変更に伴い事務負担が増加傾向にあること、iv)現行のCFC税制は課題を抱えながらも実務において既に定着しており、よりコンプライアンス・コストが増加する純粋なトランザクショナル・アプローチへの転換メリットが見えにくく、基本構造の維持が適当との見解が企業において有力であることを十分に踏まえる必要がある。
    見直しの結果、問題となる租税回避が防止され、過剰合算の解消により企業の競争力強化に資する方向で改正が行われることがあっても、目的を超えたCFC税制の強化、制度全体のさらなる複雑化が行われるようなことがあってはならない。
    なお、今後、CFC税制導入国の増加が見込まれる中で、同一子会社に対する他国CFC税制の重畳適用による二重・三重課税の排除措置も講じる必要がある。

  3. CFC税制の趣旨の再確認
    CFC税制について議論するならば、その制度趣旨を再確認する必要がある。一般的には、平成21年度の外国子会社配当益金不算入制度の導入により、CFC税制の趣旨が課税繰延防止では説明できなくなり、租税回避の防止であることが明確になったとされるが、21年度改正の際にそのような説明が正式になされているわけではない。一方、平成28年度与党税制改正大綱では、「軽課税国に所在する外国子会社を利用した租税回避の防止」が制度趣旨とされている。
    外国子会社配当益金不算入制度が国外所得免除の性質を有することを踏まえ、制度の導入による国外への所得移転リスクを懸念する立場からは、租税回避防止措置としてのCFC税制に対する期待は高まるかもしれない。しかし、多くの日本企業は事業上の必要性から海外進出を行っている。外国子会社配当益金不算入制度が企業行動の決定的な要因となっているわけではないことを念頭に置く必要がある。
    むしろ、租税回避の防止がCFC税制の趣旨であるならば、その射程は、「日本の親会社に帰属していたはずの所得」が人為的に軽課税国の外国子会社に付け替えられた場合に限られるという見方も可能である。すなわち、第3国由来の所得を含め、日本の課税ベースを浸食していない外国子会社の所得については、合算の対象にはならないということである。
    一部、国外所得免除を導入している日本の国際課税制度におけるCFC税制の趣旨、防止すべき租税回避の意義について、移転価格税制との関係も含め、改めて、可能な限り明確化を図る必要がある。

  4. 日本のCFC税制の課題
    日本の現行制度は、まずは親会社によって支配される子会社(外国関係会社)が、軽課税国に所在し、事業実体がない状況において(適用除外基準を満たせない場合)、租税回避が推定されるとのアプローチをとっている。租税回避を直接的に定義し、捕捉することが容易でない以上、間接的ではあるが、一定の合理性はあるといえよう。ただし、この構造を前提にする場合でも、それぞれいくつか問題がある。

    1. 外国関係会社の意義
      親会社が子会社を支配するためには、基本的に子会社の株式を50%超保有する必要がある。その意味では、現行の外国関係会社に係る株式保有割合の数値基準(50%超)は妥当であり、最終報告書とも整合的だが、50%超の判定は親会社のみならず資本関係のない他の内国法人や居住者も含め行うため、必ずしも親会社が支配しているとはいえない状況が存在する。支配していない会社に対する所得移転は他の株主に対する所得移転に他ならず、通常起こりえない。
      また、実務的な問題もある。例えば親会社が外国法人との間で50:50の持分比率により国外で合弁会社を有する場合、親会社単独では50%超とはならなくとも、合弁相手である外国法人の株主に一株分でも内国法人や居住者がいれば、合計50%超となり、その合弁会社は外国関係会社に該当してしまう。特に、合弁相手が上場企業の場合、すべての株主を調べるのは事実上、不可能である。不可能であるということは、その合弁会社を支配していないということと等しい。
      なお、CFC税制による実際の合算は、外国特定子会社等の株式を10%以上保有する親会社に適用されるが、その水準の適切さについても検証が必要である。

    2. 軽課税国の意義
      軽課税国の判定に際しては、まず、トリガー税率が問題となるが、英国を含め、諸外国が法人税率を相次いで引き下げる中で、現行の水準が適当なのか不断の見直しが必要である。もちろん、トリガー税率以上の国を利用した租税回避は合算されないという問題はあるが、適用除外基準の判定前にトリガー税率の適用を行うからこそ制度の簡便性が維持できているという面にも留意する必要がある。事実、平成22年度税制改正においてトリガー税率を25%以下から20%以下まで引き下げた際も、わが国企業の事務負担を軽減し、国際競争力を維持することが改正の目的として説明されている。
      また、現在、無税国に所在する子会社は、たとえ租税負担割合がトリガー税率以上であっても、一律に合算されるリスクがある。
      こうした中、BEPS最終報告書では、CFC税制の適用に係る閾値の問題として、トリガー税率に加え、ホワイト・リスト、子会社毎のデミニマス基準もオプションとして例示されている。

    3. 適用除外基準
      現行の適用除外基準のうち、実体基準、管理支配基準、所在地国基準又は非関連者基準は、事業実体の有無の判定要素として一定の機能を果たしていると考えられる。これは、CFC所得を特定する際の実質分析の一形態と理解することも可能であり、また、経済活動が行なわれた場(又は価値創造の場)における課税との最終報告書の基本精神とも合致している。
      もっとも、課題がないわけではない。特に業種ごとに振り分けられる所在地国基準又は非関連者基準は、子会社の活動実態に適合していない場合がある。
      事業基準については、それを満たせない場合、事業実態を問わず一律に合算となっており、不合理である。とりわけ、航空機リースに係る事業基準については、諸外国との競争条件の均衡化が急務である。また、事業基準の例外とされる統括会社についても、認定要件について不断の見直しが必要である。

    4. キャピタル・ゲイン
      グローバル経済の中で、さらなる成長と競争力強化のため、日本企業が他の多国籍企業を買収することは稀ではない。このような状況において、企業としてはグループ会社間でシナジー効果を生み出すため、様々な国に多数の子会社を有する被買収企業の資本関係を再構築する場合がある。
      また、M&A後に限らず、今後、各国の税務行政が不透明になる恐れがあることなどを背景に、企業が自社グループの資本関係を整理することも考えられる。
      その際に生じるキャピタル・ゲインには、日本の課税ベースを浸食していないものも含まれていると考えられる。特に、もともとグループ外であった外国法人の株式を譲渡・現物分配した際に生じるキャピタル・ゲインは、日本の親会社に帰属していたはずの所得とは言えないだろう。
      しかし、現行制度においては、そのような場合でも機械的に全部合算されるリスクがあり、企業の競争力強化を阻害している。

  5. 個別所得に関する考え方
    最終報告書はBEPS懸念のある所得を列挙しているが、個別所得につき何が能動的か、受動的かについては判定が容易でない。執行面を含め、実務対応が可能な制度とするには相当の議論が必要である。資産性所得合算課税についても、その適用が機械的であるだけに拡大は好ましくない。
    個別所得のうち、関連者からの利子についてはBEPSの懸念があるとされるが、仮に貸付金に係る利子を含め、関連者利子が合算対象となった場合、外国子会社のグループ・ファイナンス等の金融機能に重大な影響が生じる恐れがある。
    保険所得については、最終報告書でBEPS懸念があるとされる一方、一定の要件を充たすものについては合算所得から除外しうるとの注釈も付記されている。保険会社が行う取引の実態も踏まえ、真に懸念のあるもののみを抽出する方向で慎重な検討が必要である。
    IP所得については移転価格税制との関係を踏まえた適切な制度設計が必要である。超過利得分析については、簡便な制度を実現できるかもしれないという意味では議論の余地があるが、過剰合算等となる恐れがあること、提案した米国でも導入の見通しが立っていないことから、慎重に検討すべきである。

  6. 平成29年度税制改正の課題
    以上を踏まえ、平成29年度税制改正では、CFC税制のあり方について議論する中で、喫緊の課題として少なくとも次の措置を講じる必要がある。

    1. 事業基準の見直し(特に航空機リースに係る事業基準は確実に廃止)
    2. 一定の資本関係の再編時のキャピタル・ゲインの合算免除
    3. 外国関係会社に対する50%超の支配判定における少数株主排除措置の導入(併せて合算基準も現行の10%から引き上げを検討)
    4. トリガー税率のあり方の見直し(税率水準の引き下げに加えホワイト・リスト、事業体毎のデミニマス基準を含め幅広く検討。企業の事務負担を考慮した適用順序。無税国に所在する場合でも実質税負担率が水準以上の子会社は救済)
    5. 二重課税排除措置の拡充
    6. その他、適用除外基準の見直し 等
(2) 利子控除制限

最終報告書は、企業による過大な支払利子の計上を防止する観点から、固定比率ルールを中心とする利子控除制限の導入を勧告した。ただし、OECDにおいてグループ比率ルールなどに関する検討が継続されているため、日本における国内法制化は事実上、平成30年度税制改正以降の検討課題になると考えられる。

固定比率ルールは、企業の純支払利子がその企業のEBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization:利子・税金・減価償却費計上前の利益)に固定比率を乗じた額を越える場合、その超える部分に相当する金額の支払利子を損金算入しないものであり、日本の過大支払利子税制と基本構造が類似しているが、次の点で相違が見られ、懸念が生じている。日本における利子控除を通じた租税回避リスクの程度を見極めたうえで、改正が必要か否かも含めた慎重な検討が求められる。

  1. 制限対象となる利子の範囲
    過大支払利子税制は実質的に対国外かつ対関連者の純支払利子を制限対象としているが、固定比率ルールは対国内、対第三者も含め、すべての純支払利子を対象としている。こうした中、仮に固定比率ルールをそのまま採用すれば、国内の銀行借入に係る支払利子も規制されるなど、通常の事業活動が阻害され、投資意欲も損なわれる。また、利子は受取側で益金算入されるため、大規模な二重課税が発生する。
    税源浸食の防止というBEPSプロジェクトの趣旨を踏まえれば、制限対象となる利子の範囲は現行制度を維持することが適当である。

  2. EBITDAの範囲
    過大支払利子税制における調整所得金額(EBITDAに相当)には受取配当益金不算入額や海外子会社配当益金不算入額(免税配当)が含まれるが、固定比率ルールにおけるEBITDAには含まれていない。これは借入を原資とする免税所得の創出を防止するためとされるが、ほとんどの場合、免税配当は事業投資の結果であって目的ではない。また、免税配当といっても、日本の受取配当益金不算入制度には負債利子控除があり、海外子会社配当益金不算入制度については費用収益対応の観点から5%分課税されていることに留意する必要がある。
    固定比率ルールのEBITDAの概念を採用すれば、一部の業種に負担が偏る恐れもある。過大支払利子税制における調整所得金額の概念は維持すべきである。

  3. 固定比率の水準
    過大支払利子税制における固定比率は50%であるが、固定比率ルールにおいては10~30%の間で各国が選択することとされている。景気変動によってEBITDAの水準が落ち込めば、損金算入できない支払利子が生じる恐れがある。もちろん、過大支払利子税制においても固定比率ルールにおいても、損金不算入額の繰越は認められているものの、通常の企業に対する影響を最小化するため、固定比率は十分に高い水準とすべきである。
    また、最終報告書では、固定比率ルールに抵触した場合でも、グループ比率ルールによる救済がオプションとして提示されているが、導入すれば事務負担が飛躍的に増加すると見込まれる。固定比率ルールを敢えて厳しく設定し、グループ比率ルールに進むような制度の建付けを強く懸念する。

なお、利子控除制限に関する議論に際しては、最終報告書でいう一定の公益性事業、金融機関の取扱いについて別途の検討を行う必要がある。

(3) 移転価格税制

移転価格税制については、OECD移転価格ガイドラインの改訂作業が終了していないため、本格的な改正は平成30年度税制改正以降の検討課題になると考えられるが、無形資産については、日本の法制のみならず他国の法制によっても事業概況報告事項への記載が必要であることを踏まえると、早期に定義を明確化する必要がある。

また、リスク分析、無形資産に関連するリターンの帰属など、最終報告書のうち確定している部分については、諸外国における執行において事実上、留意すべき内容となっていることから、最終報告書の和訳、各種会合での説明を含め、政府・関連組織による広報活動に期待する。経団連も21世紀政策研究所と連携しつつ、情報発信を行っていく。

移転価格文書化については、他国の制度と比べ用語の意義や記載方法について過度に硬直的とならないよう十分、留意しつつ、早期に法令解釈通達、事務運営要領、参考事例集において三文書(国別報告事項、事業概況報告事項、独立企業間価格の算定に必要と認められる書類)に関する情報を提供することが有用である。なお、三文書の対象範囲の整合性を図る観点から、この機会に移転価格税制における国外関連者の定義を50%以上の資本関係から50%超とすることを検討すべきである。

所得相応性基準については、まずはOECDにおけるガイダンスの議論を待つ必要がある。租税回避の意図を伴う評価困難な無形資産の国外への移転という事例の有無を確認した上で、導入するか否かも含めた議論を行うべきである。なお、仮に導入を検討する場合も、乖離率20%の妥当性などについては議論の余地がある。

取引の否認(non-recognition)は商業合理性の有無により適用を判断することになる。移転価格税制における措置ではあるが、一般的租税回避防止規定と類似する性質を有するため、商業合理性の意義、条約の濫用防止におけるPPTや義務的開示制度といった関連領域との関係を含め、慎重に検討を行う必要がある。

(4) 義務的開示制度

最終報告書は、タックス・プランニングに関する義務的開示制度の構成要素を提示した。各国がそれぞれの実情にあわせて制度を組み立てていく、いわゆるモジュラー方式による制度案がベスト・プラクティスとして示されている。

日本では、守秘義務条項や成功報酬条項を含むスキームの有無、流通の程度を含め、まずはタックス・プランニングによる租税回避リスクを検証する必要がある。その上で、事前照会に対する文書回答手続や、大企業を対象とする協力的コンプライアンス等との関係についても十分に整理すべきである。制度の要否自体について議論を行うべきだが、仮に導入する場合には、過剰な節税策に従事していない大多数の企業が事務負担を負わない制度とすべく、報告義務はプロモーターに課すべきである。

制度の国際的なスキームへの応用については、移転価格文書化による課税当局への情報提出、ルーリングの自発的情報交換といった関連するツールがある中で、納税者に重畳的な報告義務を課すことのないよう留意する必要がある。

(5) 条約改正関連

OECDモデル租税条約第5条(恒久的施設)の改訂や多国間協定におけるその個別条約への反映を踏まえ、国内法において恒久的施設や国外事業所等の定義規定の見直しが必要になる場合には、外国税額控除制度との関係も含め、政府は検討課題を前広に示すべきである。

最後に、近年の日本政府による租税条約ネットワークの拡充に向けた取り組みを評価する。とりわけ、日本との経済交流が盛んな台湾との租税取決に対する企業の関心は高い。改正日米条約・日独条約、チリ等との条約も含め、早期の発効に期待する。

租税条約の拡充により国際的な二重課税の排除を行うことは、わが国企業の海外における安心かつ確実な事業展開に欠かせない。また、投資所得に係る源泉地国課税を軽減することは、海外からの資金還流および国内における再投資という好循環の実現に資する。

今後はミャンマー等との条約締結、中国、インド(今国会で審議中の事項以外の部分)、タイ、ベルギー等との条約改訂が課題となる。多国間協定との関係もあろうが、必要なものについては早期に取り組むべきである。

以上

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