Policy(提言・報告書) 環境、エネルギー  電力システム改革に関する意見 -「電力システム改革貫徹のための政策小委員会中間とりまとめ」を中心に-

2017年1月17日
一般社団法人 日本経済団体連合会

政府は、市場の垣根を越えた競争が可能となるエネルギー市場を形成すべく、2013年、「安定供給の確保」、「電気料金の最大限抑制」、「需要家の選択肢や事業者の事業機会の拡大」という三つの目的#1を掲げ、電力システム改革を段階的に実施してきた。さらに、2020年に予定されている発送電分離の改革を控え、2016年9月、「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」(以下、「貫徹小委員会」)を立ち上げ、12月、検討結果を「中間とりまとめ」として公表した#2。貫徹小委員会が、小売分野における競争の一層の活性化や、自由化の下での公益的課題への対応などを狙いとする施策と併せ、福島第一原子力発電所(以下、「1F」)の事故対応も含めて精力的に議論を行い、今般、総合的な判断として一つの方向性を打ち出したことについて、一定の評価をしたい。

わが国経済は今、デフレ脱却と経済の再生に向けて、「未来への投資」につながる民間投資の一層の拡大が求められている。国内投資の促進にあたっては、事業環境の国際的なイコールフッティングの確保が不可欠であり、その重要な要素の一つが、「経済性ある価格での安定的な電力の確保」である。しかしながら、現状、原子力発電所の稼働停止やFIT#3賦課金の負担増などにより、産業用電気料金が大幅に上昇し、事業活動の足かせとなっている。一方、わが国における電力の質の高さは、高度なものづくりを支えるインフラとして国際競争力の一つを形成しており、また、停電がない社会は、産業や社会のネットワーク化などが進むなか、国際的な都市間競争の基盤となる。

電力システム改革の推進により、新たなビジネスチャンスや国内投資が生まれることを期待する。同時に、電力の安定供給と電気料金の抑制は、わが国経済の再生と豊かな国民生活の実現に必須の要件である。

わが国のエネルギー政策の根幹をなすのは、S+3E、すなわち、安全性の確保を大前提に、エネルギーの安定供給、経済性、環境適合性の適切なバランスを実現することである。電力システム改革にあたっても、諸外国の経験等を十分に踏まえつつ、S+3Eに立脚した検討を行うことが重要である。今後、中間とりまとめで示されている施策の制度設計を行う際には、とりわけ、電気料金の引上げや電力供給の不安定化といった事態を招かないか、十分に注意して慎重に検討を進める必要がある。そのためにも、今般の中間とりまとめの留意事項などに示された諸課題について、関係者間で丁寧に議論して解決を図り、国民の不安を払拭するよう求めたい。併せて、エネルギー市場の競争状況のみならず、電力システム改革の果実が国民に広く還元できているかなどについて検証を行い、その状況や環境変化に応じて、柔軟に変更しうる制度設計とすることも重要である#4

なお、今般提示された各施策も含め、S+3Eに立脚するわが国のエネルギー政策を遂行していくにあたっては、原子力を重要なベースロード電源として活用していくことが不可欠である。引き続き、安全性の確保を大前提に、地元の理解を得て、原子力発電所の再稼働を着実に推進するとともに、リプレースを視野に入れて施策を展開していく必要がある。

「中間とりまとめ」が示した施策に対する意見は以下のとおりである。

1.ベースロード電源市場の創設について

新規参入者のベースロード電源へのアクセスを容易にするために、卸電力市場に新たにベースロード電源市場を創設する方針が示されている。

制度設計にあたっては、電力の安定供給や電気料金の低下、需要家の選択肢拡大につながるよう、電源供出側の供出量と価格、買い手側の調達量に一定のルールが必要である。また、電源開発のインセンティブ確保の観点も重要である。

また、相対取引の機会や産業部門への安価なベースロード電源の提供が減少した場合、産業用電気料金が上昇するとの指摘もある。ベースロード電源市場の創設が産業用電気料金に与える影響を注視する必要がある。

併せて、自由化された市場においては、各プレーヤーが対等の条件下で競争することが基本である。今回、一部の事業者に対して非対称規制を導入することは当面の間の措置としてやむを得ないが、将来的には、小売競争促進による電気料金低減が図られているか否かを確認しつつ、規制の撤廃を視野に検討を行うべきである。

2.容量メカニズム

総括原価方式の見直しに伴う投資回収の予見可能性の低下や、自然変動電源の導入拡大による火力発電所の稼働率低下が見込まれるなか、電力の安定供給を維持するため、電源投資の回収の予見可能性を向上させる仕組みが求められている。中間とりまとめでは、現時点において、「容量市場」が「最も効率的に中長期的に必要な供給力等を確保するための手段」としたうえで、「今後は集中型を軸に、詳細な検討を進めることが適切」との考え方を示している。

今後、具体的な制度設計を行うにあたっては、以下の点に留意して慎重に検討すべきである。

  1. (1) 容量メカニズムによって、既存電源、特に償却が進んだ電源に過剰な利潤が発生する可能性があることから、当面の間、新設と既設で扱いを分けるなど、需要家の負担増に留意して設計することが求められる。例えば、新設電源については、長期契約を締結するなどの措置を講じ、電源新設のインセンティブに繋がるような設計を行うことも検討すべきである。設備の更新が進みエネルギー効率が向上することは、地球温暖化対策の観点からも重要である。

  2. (2) 再生可能エネルギー導入促進に伴う調整コストについては、発電側で負担すべきである。賦課金負担に加え、再エネが起源と特定できる容量市場にかかわる負担まで需要家に転嫁することは問題である。

  3. (3) 調整力公募や電源入札制度、固定価格買取制度など、供給力確保等の目的で固定費を負担している既存制度との整合を図り、二重払いを避けるべきである。また、同様の趣旨で、ベースロード電源市場との調整が必要である。

  4. (4) 集中型の容量市場を基本に詳細な制度設計を行う際、相対取引などで必要な容量を確保した事業者に対しても、市場管理者等が調達した容量のコストを負担させる制度とならないよう留意すべきである。

  5. (5) 安定供給の観点から、地震等、大規模災害に備えることが必要である。容量メカニズムの活用も含め、最も費用対効果の高い手法の導入に向けて検討を行うべきである。

3.非化石価値取引市場の創設について

中間とりまとめでは、「高度化法」#5の目標達成およびFIT国民負担の軽減という主に2つの目的から、再生可能エネルギー、水力、原子力の非化石価値を顕在化し、売買可能とする「非化石価値取引市場」を創設するとしている。

「再生可能エネルギーを選好する需要家がその非化石価値の対価を支払うべき」との考えのもと、高いFIT賦課金の支払いを強いられている需要家の負担を軽減する趣旨については賛同する。仮に非化石価値取引市場を創設する場合、再エネについては、中長期的に、FIT制度に頼らず、市場で取引される非化石価値の収入と実電気の売電収入で投資を回収することが検討対象となり得る。併せて、原子力の非化石価値の収入を電気料金引下げの原資に充当することも期待される。その一方、高度化法等との関係では以下のような懸念がある。

以下の懸念を解消することなしに、2017年度に市場を創設することには反対である。

  1. (1) 非化石価値取引市場の創設は、高度化法の目標を達成するための一手段として位置付けられている。しかしながら、本市場の創設によって非化石電源の総量を増やす効果は極めて限定的であり、また、再生可能エネルギーの導入ペースが鈍化し、原子力発電所の再稼働が順調に進まない現状において、わが国の非化石電源比率が2030年度時点で44%をはるかに上回る水準に達すると見込むことは、根拠のない楽観論にすぎない。自ら非化石電源を開発できる小売電気事業者は限られるため、多くの小売電気事業者は本市場で非化石価値を調達する事態となると予想される。そのような場合、小売電気事業者は、市場で非化石価値を調達するか、供給電力量を減らすか、どちらか選択せざるを得なくなる。その結果、2030年時点をはじめ、中間評価の設定とあいまって、排出権取引制度が電力部門に導入されることとほぼ同義となり、新規参入者にとっては、事業継続の足かせとなりかねない。

    市場で取引される証書の量が限られるなか、高度化法の目標が変更されない場合には、達成期限である2030年度に近づくにつれ、証書価格が急騰することが予想される。その結果、証書を必要とする小売電気事業者が購入を断念せざるを得なくなることから、高度化法の目標達成手段となり得ない。また、証書購入に伴う小売電気事業者への追加負担は、電気料金への転嫁を通じ、産業界をはじめ国民全体の負担となる。FIT国民負担の軽減を目的の一つに掲げながら、却って総額としての電気料金の国民負担が増すおそれがある。

  2. (2) 多くの非化石電源を保有する事業者と、新規参入者との間に、非化石価値へのアクセス環境に差が生じるとの指摘がある。小売電力市場の競争環境の公平性が損なわれないよう、実効性ある制度設計が必要である。

  3. (3) 「証書の流動性の観点から、小売電気事業者間での証書の転売も認める」としているが、証書価格が低い段階で買い占め、非化石価値調達の必要に迫られた小売電気事業者に高額で売却する者が現れる懸念があり、慎重に検討すべきである。

  4. (4) 非化石価値取引市場で取引される証書に帰属する3つの価値、具体的には、非化石価値、ゼロエミ価値、環境表示価値について整理が必要である。とりわけ、温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)に基づくCO2排出係数算定において、CO2排出量がゼロとされる非化石電源については、今後、非化石価値取引市場における証書の取引にともない、ゼロエミ価値も移動することとされている。その結果、非化石価値取引市場との整合性がとれなくなる点があり、調整のためのルール整備が必要である。

4.原子力事故に係る賠償への備え

1F事故後、原子力事故に係る賠償に備えるため、2011年に原子力損害賠償・廃炉等支援機構法に基づく相互扶助制度が創設されて以降、原子力事業者は毎年、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(以下、「原賠機構」)に対して「一般負担金」を納付することとなっている。

中間とりまとめでは、1F事故前に積み立てておくべきであった原子力賠償の準備不足分(「過去分」)を公平に回収する目的で、託送料金の仕組みを利用して全需要家から回収する方針が示された。本方針は、一般負担金は原子力事故に係る賠償への備えであることに鑑みれば、1F事故の前から確保されていて然るべきであったとの認識に基づく。そのうえで、電力自由化が進展するなか、原子力事業者から電気の供給を受ける需要家のみが一般負担金の費用を支払うとした場合、原子力事業者から契約を切り替えた電力需要家は、過去に原子力による電気を利用したにもかかわらず、事故費用を負担しないこととなり、公平性の観点から問題があるとの考え方である。

これらの考え方に基づき、過去分をすべての電力需要家が公平に負担するよう、託送料金の仕組みを通じて回収することには、一定の合理性がある。ただし、透明性を確保するため、負担金額を電力需要家に対し明確に示すとともに、送配電部門の合理化努力などによって、送配電料金全体が値上げとならないよう配慮すべきである。また、小売全面自由化の下で、さらなる競争活性化が期待されている中においては、原子力事業者、特に非発災事業者の一般負担金に関する予見可能性を確保すべきである。

5.廃炉に向けた費用負担のあり方

(1) 事故炉

中間とりまとめにおいて、1Fの廃炉に要する資金については、長期間にわたって適切に管理する観点から、第三者機関に積み立てることとした。また、東京電力グループ全体が総力を挙げて資金を捻出するため、東京電力パワーグリッド(送配電部門、以下、「東電PG」)の経営合理化分を、確実に1F廃炉に充てる措置を講じることが適当とされている。

事故炉の廃炉は、事故を起こした事業者が自らの負担で進めることを原則とすべきであり、1Fの円滑な廃炉に向け、東京電力が全力で取り組むことを期待したい。電力システム改革により東京電力は発電・送配電・小売に分社化されたが、発災時には一体であったことに鑑みれば、グループが一体となって資金を確保する必要がある。そうした観点からは、東電PGの事業の合理化分を事故炉の廃炉費用に充当することもやむを得ない。ただし、東電PGの託送料金の値下げ機会が不当に損なわれないような措置が求められる。

(2) 通常炉

通常炉の廃炉に関しては、廃炉の円滑化を進め、費用の一括認識を避ける観点から、2013年度と2015年度の二度にわたり、負担水準を平準化するための廃炉会計制度が措置され、現在、小売規制料金で資産等の償却費用を回収することが認められている。今後、小売規制料金が撤廃された後には、託送料金の仕組みを利用して費用を着実に回収することが妥当としている。

経過的に措置されている小売規制料金が原則2020年に撤廃されることを踏まえると、円滑な廃炉を進めるため、託送料金の仕組みを利用することはやむを得ない。しかしながら、送配電部門の合理化努力などによって、送配電料金全体が値上げとならないよう配慮すべきである。

また、発電に係る費用を託送料金の仕組みで回収することは極めて例外的な措置であることを銘記したうえで、託送料金の一部として回収される費用が妥当か確認できるようにすべきである。併せて、電力需要家が負担を明確に認識できるよう、負担金額を料金明細票に記載することなどの措置が不可欠である。

6.電力システム改革等を踏まえた送配電網の整備・運用負担について

電力システム改革の進展に伴い、送配電網の効率性と無関係に、発電事業者が設備の立地を判断できることなどに起因して、送配電網の維持・運用に関わる費用負担のあり方について見直しが求められている。また、出力変動の大きな再生可能エネルギーの大量導入を踏まえた系統整備や、高経年化対策等が求められるなかで、固定費の安定回収のあり方などが課題となっている。

こうした状況を踏まえ、電力・ガス取引監視等委員会において、送配電網の維持・運用費用の負担のあり方について、コストの抑制・低減、公平・適切な負担、イノベーションの推進#6の観点から、検討されていることは有意義である。

また、電力広域的運営推進機関において、広域系統の整備に関する基本的考え方とこれを踏まえた設備形成の実現について具体的な検討を進めることとなっている。こうした送配電網の整備・運用に係る方針の策定にあたり、地域遍在の大きな再生可能エネルギーの大量導入を踏まえ、ナショナル・グリッド的な、全国大でのメリットオーダーの視点が必要との意見がある。この点に関し、系統整備・運用コストのベンチマークが失われ、非効率化するおそれがあること、全体の電力需要が減少するなかでの系統整備の増強は、後世も含めた国民負担増に繋がりかねない、などの課題もある。適正な系統コスト負担と全国大メリットオーダーの両立に向け、政府・関係機関が連携して検討を深めるよう期待する。

東日本大震災以降、電気料金の高止まりや節電の定着等を背景に、系統投資には抑制圧力が働いている。S+3Eを実現するために必要な系統投資が着実に行われるよう、系統投資に対する国民理解の醸成を含め、引き続き、環境整備を進めていく必要がある。

おわりに

貫徹小委員会では、複雑に利害が絡み合う電力システムに関わる多くの政策課題を非常に短期間で、精力的かつ精緻な検討を行った。ただし、内容が極めて専門的であり、各制度の具体的内容や制度間の関連性がわかりにくいものとなっている。しかも、電力システム改革の全体像を理解するためには、貫徹小委員会のみならず、「東京電力改革・1F問題委員会」や「原子力損害賠償制度専門部会」をはじめ、多くの組織#7で行われている検討をすべて把握する必要がある。

エネルギー政策は国民生活や企業活動に大きな影響を与える重要課題であり、政府等関係者は引き続き、国民への分かり易い説明に一層努めるべきである。

経団連としても、S+3Eのバランスのとれたエネルギー政策の実現に向け、今後の市場動向や政策の検討、遂行状況を注視し、必要に応じて意見を述べていく所存である。

以上

  1. 「電力システムに関する改革方針」(2013年4月2日 閣議決定)
  2. http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000152040
  3. 再生可能エネルギーの固定価格買取制度(Feed-in Tariff)
  4. 加えて、電力の安定供給を確保する観点から、諸制度の導入にあたっては、関係する運用システムの構築や改修、試行などに十分な期間を確保する必要がある。
  5. 「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」。告示において、小売電気事業者に対し、自ら調達する電気の非化石電源比率を2030年度に44%以上にするよう求めている。
  6. 送配電ネットワーク利用の高度化を促進する観点からは、蓄電池の役割が期待されている。引き続き、安価で高効率な蓄電池の開発・普及に向けて、産学官を挙げて技術開発を推進するとともに、海外の事例も参考に、需給管理等への利用を一層拡大する具体的な方策について検討すべきである。
  7. 上記のほか、「電力・ガス基本政策小委員会」、「電力・ガス取引監視等委員会 送配電網の維持・運用費用の負担の在り方検討ワーキング・グループ」、電力広域的運営推進機関の「広域系統整備委員会」、「地域間連系線利用ルール等に関する検討会」等で検討が行われている。