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Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 BEPS行動10 利益分割に関する改訂ガイダンス 公開討議草案に対する意見

2017年9月15日

OECD租税政策・税務行政センター
 条約・移転価格・金融取引課 御中

一般社団法人 日本経済団体連合会
税制委員会企画部会

BEPS行動10 利益分割に関する改訂ガイダンス
公開討議草案に対する意見

「BEPS行動10 利益分割に関する追加ガイダンス 公開討議草案」に対しコメントする機会に感謝する。

経団連はかねてより取引単位利益分割法(PS法)の無限定な適用拡大に懸念を表明するとともに、適用するにあたっては具体的なガイダンスの洗練が不可欠と指摘してきた。今回の公開討議草案では、最適手法に関する記述の再整理・拡充が行われるともに、事例が大幅に増加され、利益分割ファクターの問題も正面から取り上げられている。我々はこうした取り組みを評価する。

また、「最適手法を選択する際には選択された手法の相対的な適切さを考慮すべき」(パラ5)、「関連者間取引と同一ではないが比較可能な非関連者間取引を使用した手法の方がPS法の不適切な利用よりも信頼性がある」(パラ14)、「コンパラの欠如だけでは、PS法の使用を保証するには不十分」(パラ28)等の記述は納得感があり、PS法の適用に規律をもたらすものとして歓迎する。

他方、今回の公開討議草案は、全体として見れば、現行の移転価格ガイドライン、或いは2016年7月の公開討議草案(第1次草案)に比べ、相対的にPS法の適用をより許容する方向となっているようにも読める。例えば「移転価格算定方法は、必ずしも独立企業による行動の複製を意図するものではなく、むしろ関連者間取引に関する独立企業間の結果を設定/証明する手法として意図されている」(パラ11)の記述は、従来よりも踏み込んだ記述に見える。確かに移転価格は独立企業間の行動を必ずしも複製するものではないとしても、独立企業間で自主的に取引価格を検討するにあたってPS法はほとんど考慮されない、という事実は十分に尊重されるべきである。

また、今回の公開討議草案では、第1次草案には盛り込まれていた連続統合、並行統合の概念が削除された。近年、多国籍企業の事業が複雑化・高度化する中で、これら2つの統合概念はもちろん綺麗に整理できるものではないが、高度に統合された事業活動とPS法の適用の関係を説明する1つの有力な指標だったと考えられる。

PS法はそもそも実務的に適用が難しく、また、課税当局が恣意的な執行を行えば、相互協議によっても解決されない二重課税が大幅に増大する。最終ガイダンスでは、PS法が極めて限定的な環境でしか適用されないことを改めて明確化すべきである。

1.PS法が最適手法と考えられる局面

今回の公開討議草案では、PS法が最も適切かもしれない指標としてユニークで価値ある貢献、高度に統合された事業活動、経済的に重要なリスクの引受けのシェアの3つが掲げられ、特にユニークで価値ある貢献が最も明確な指標とされた(パラ13)。本件については、以下で指摘する通り、各指標の組合せ方が重要と考える。

(1) ユニークで価値ある貢献

現行の移転価格ガイドラインに記載されている通り、取引の双方当事者がユニークで価値ある貢献を行っている場合にPS法が最適手法となり得る点については原則として異論がない。但し「最も明確な指標」とされる以上、ユニークで価値ある貢献とそうでない貢献(例えば、ユニークではないが価値のある貢献、或いは、ユニークだが価値の小さい貢献)の違いについて議論を深めなければ、課税当局による恣意的な判断が行われ、PS法の適用が拡大する恐れがある。

我々としては、少なくとも取引の一方の当事者による貢献が単独でも相当な価値を生まない限り、基本的には価値ある貢献とは認定すべきでないと考える。

また、「ユニークで価値ある貢献」の存在だけでは必ずしもPS法の適用は保証されず、別途、「経済的に重要なリスクの引受けのシェア」が必要となる場合がある(さらに言えば、「経済的に重要なリスクの引受けのシェア」の方が「ユニークで価値ある貢献」よりも格段に重要な場合がある)ことを強調したい。例えば、委託製造子会社から研究開発親会社、販社子会社へと製品が流通するバリューチェーンにおいて、仮に委託製造子会社の製造現場におけるコストダウン活動や販売子会社の広告宣伝及び販売促進活動がユニークで価値ある貢献と認定されたとしても、多くの場合、研究開発親会社の負うリスクは製造子会社や販売子会社の負うリスクと内容・程度が異なる。研究開発親会社が主として経済的に重要なリスクを引受けているのであり、製造子会社や販売子会社は重要なリスクの引受けをシェアしていないことが通常である。このため、この事例において直ちにPS法を適用するのは不適当と考える。

また、取引の双方当事者が価値ある無形資産の開発を行なっている場合でも、一方の当事者のみが開発に関するリスクを負うならば、経済的に重要なリスクの引受けのシェアが行われてはおらず、PS法は適切ではない。

(2) 高度に統合された事業活動

多国籍企業の事業活動は大なり小なり統合されており、「高度な統合」と「高度とはいえない統合」の線引きが引き続き課題となる。例えば、グループ内で広範な部品供給を行っている場合、或いは先述の委託製造子会社・研究開発親会社・販社子会社の関係など第1次草案では連続統合に分類される事案において、高度な統合ありと認定される恐れがある。課税当局による恣意的な執行を回避する観点から、ユニークで価値ある貢献の場合と同様、高度に統合された事業活動についても、PS法が最適手法となるための付加的・補完的な条件として「経済的に重要なリスクの引受けのシェア」を追加すべきである。

(3) 経済的に重要なリスクの引受けのシェア

リスクは可視化できない概念であり、実務上は経済的に重要なリスクに係わる重要性の判定が課題となると見られる。今回の公開討議草案で懸念されるのは、経済的に重要なリスクの引受けのシェアと同等に扱われる「緊密に関連する経済的に重要なリスクの別々の引受け」に関し、議論が深まっていない点である。後にコメントする事例3では一定の記述があるものの、バリューチェーンの各段階における取引の当事者が引き受けるリスクが安易に「緊密に関連する」と認定される恐れがあり、さらなる検討が必要である。

なお、「ある当事者が経済的に重要なリスクの支配に貢献している一方、取引の他の当事者がリスクを引き受けている場合」の取扱いについて言及したパラ24については、具体例を含め、詳細なガイダンスの提供に期待する。我々としては、「一の事業体がリスクに関する支配機能を遂行しているという事実だけでは、必ずしもそのケースにおいてPS法が最適手法との結論には結びつかないだろう」との記述に賛同する。

2.事例

PS法の使用が不適切な場合も含め、事例が大幅に拡充されたことを歓迎する。最終ガイダンスでは、各事例においてユニークで価値ある貢献がどのように認定されたのか、経済的に重要なリスクの引受けのシェアがあるのか否か、どのような利益分割ファクターを採用するのが適当か、といった点も含め、記述を拡充することが望ましい。

事例1

本事例は医薬品に関する事例であるが、取引の基本構造は「BEPS行動8 評価困難な無形資産に関する実施ガイダンス 公開討議草案」(2017年5月)における医薬品の事例と類似している。評価困難な無形資産へのアプローチ(所得相応性基準)では、基本的に片側検証が行われることになると見られるが、今回の公開討議草案では利益分割法の事例となっており、両方法の適用による所得算定の在り方についてについて、整理が必要なのではないか。

また、本事例では新薬の承認・市場化後の利益分割を扱っているが、記載の情報だけでは医薬品に係わるライフサイクル検証の視点が読み取れない。検証時期によっては売上ピーク時点の利益状況にのみ焦点があたり、A社における先行投資期間の損失が見逃されるリスクがあるという点を指摘したい。

なお、本事例では、A社とS社が経済的に重要なリスクの引受けのシェアを行っているか否かに関する補足説明が必要と考える。

事例2

事例1と同様、経済的に重要なリスクの引受けのシェアについての言及がなく、ユニークで価値ある貢献のみに基づいてPS法が最適手法と結論付けている点が懸念される。

本事例では、A社が栽培した茶葉及び開発した独自のブレンド等に基づき、B社が広範な宣伝キャンペーンを実施しているとの説明があるが、ここでのプリンシパルがA社とB社のいずれであるかについて、事実関係の補足説明が必要である。A社とB社が対等の立場で茶葉の栽培・ブレンディングと広告宣伝を分担するビジネスモデルが一般的であるとは思えず、多くの場合、A社またはB社の一方がプリンシパル、他方がサブコントラクターとして機能を分担し、経済的に重要なリスクはプリンシパルが引き受けるものと思われる。このような場合には、いずれかの片側検証で足りる場合もあるのではないか。

事例3及び事例4

事例3及び事例4は課税当局と納税者の見解が異なる可能性が高い分野であり、比較の観点から重要である。

ただし、事例3については前提の置き方にやや疑問がある。ここではB社が「グローバルな販売に関する機能を遂行する」とされているが(パラ77)、現実には、B社にこのようなグローバルな販売機能を持たせるビジネスモデルは想定しにくい。むしろ、販売に関する機能は米州・欧州・アジア等の各地域を統括する販売子会社によって分担遂行され、グローバルなマーケティング戦略の企画立案を統括する機能は、製品の研究開発及び製造を統括する親会社(事例3及び事例4でいえば、A社に相当する会社)が担っているというケースの方が実態に即している。多国籍企業グループにおいては、多くの場合、「価値創造の中心地」は複数並存しないことが基本であり、この事例が適用されるケースは限定的と見られる。

一方の事例4については、結論に同意する。但し、「B社によるマーケティング活動は限定され、のれんや商標の名声を大きく向上させるものでなく、販売活動が業界において特段の競争優位の源泉とはならない」(パラ83)との説明については、何を根拠としてそのような事実認定を行うのか、追加的なガイダンスが必要と考える。事例3と事例4との差(B社が引き受けたリスクが事業活動にとって経済的に重要であるか否か)がどのような機能分析によって結論付けられるのか、課税当局と納税者との間で見解の相違が生じ易いのではないかと懸念される。

事例5

本事例についても、WebCoとScaleCoが「経済的に重要なリスクの引受けのシェア」を行っているか否かに関する補足説明が必要と考える。また、プログラムの譲渡価額の設定方法に関し、追加的な記述を期待する。

事例6

PS法不適用との本事例の結論は妥当であり賛同である。但し実務上は、B社が「なんらユニークで価値ある貢献を行っていない」(パラ92)ことの事実認定において、課税当局と納税者で意見が分かれると見られ、掘り下げた分析が必要と考える。

事例8

損失の分割にも言及した事例であり、評価する。また、一つの考え方として、開発原価に基づき利益を三社で分割するという整理の仕方があり得る旨は理解できる。但し、現実のビジネスでは、同一の多国籍企業グループの中でいずれか一社がプリンシパルとして新製品の開発プロジェクトを主導し、他がサブコントラクターとしての役割を担うケースが多いものと思われる。開発段階を終え製造・販売段階へと移行する中で、共同開発から生まれる利益を開発原価のみに基づいて分割することが適切か、プリンシパルの企業家利益をどのように位置づけるべきかなど、検討すべき課題は残されているように感じられる。

なお、本事例は、経済的に重要なリスクの引受けのシェアの典型例と見られるが、納税者の理解促進のため、共同開発以外の事例提供に期待する。

事例9

親会社であるA社の貢献(長年に亘り構築し価値を高めてきたノウハウ・商標等)と、子会社であるB社の貢献(A社から使用許諾されるそれら無形資産を通じた「革新的なマーケティング活動」)から得られる利益について、PS法を適用することが合理的か、疑問が残る。本事例ではB社の活動が「革新的」とされるが、現実のビジネスではA社から使用許諾されたノウハウ・商標をB社が単にB国市場で展開しているに過ぎない例も多いように思われる。B社の貢献がユニークで価値あるものであるか否かを判定するためには、「革新的なマーケティング活動」に関する具体的な記述が不可欠である。

なお、シナリオ2のようにA社とB社で経済的に重要なリスクの引受けのシェアが行われている場合には、関連利益の分割に際し実際利益の分割が合理的と見られるが、シナリオ1のようにA社とB社でリスク・シェアがない場合には、予測利益の分割が適当というよりも、そもそもPS法を最適手法として採用することの是非自体が問われることになるのではないか。

事例10

本事例は自動車産業を扱っているが、A社とB社が行っているような、双方向の、かつ同規模に見える部品・金型・コンポーネントの売買契約は一般的に想起しにくい。その上でコメントすると、本事例では無形資産の議論で重要な研究開発機能や商品企画機能の所在およびその内容に関する説明が不足しているため、追記すべきである。また、「資産と価値創造との間に強い相関関係があると結論付けられる場合には、資産ベースの分割ファクターが適切かもしれない」とされているが(パラ114)、その結論に至る分析過程についても説明があると良い。

なお、本事例における「資産」が有形資産か無形資産なのかが明らかでない。仮に一部でも前者が含まれる場合、有形資産(例えば製造設備)の金額と有形資産に組み込まれている技術の価値は必ずしもリンクしないことに留意すべきであり、製造設備の稼働率など別の要素も考慮すべきではないか。

3.OECDが特に質問を求めている事項に関する考え方

(1) 予測利益と実際利益

経済的に重要なリスクの引受けのシェアが行われている場合には実際利益の分割が適切との整理は一定の納得感がある。但し、一般的に利益分割は、関連利益の切り出しや利益分割ファクターに基づく計算において相当の時間を要することから、申告期限が短い法域においては実際利益の分割作業が間に合わない恐れがある。

なお、予測利益を採用しているケースにおいて、予測と結果が異なる場合、実際利益を分割すべきとの執行が安易に行われないよう注意すべきである。また、パラ46で指摘されている通り、予測利益の分割であれ、実際利益の分割であれ、PS法に関する計算・調整は、一般的に取引の開始時点で当事者が知っていた又は合理的に予見できた情報を基礎に決定されるべきである。

(2) 利益分割ファクター

  1. 資本又は使用資本
    利益分割ファクターとして使用できる場面があること自体は否定しないが、資本又は使用資本は様々な経済活動の結果を含む数値であることから、ユニークで価値ある貢献を計測する指標としては適切ではないと考える。例えば研究開発費を資産計上していない場合、有形資産による分割は研究開発活動という企業における価値の源泉を考慮に入れないことになり、合理的ではない。少なくとも資本又は使用資本は、他の指標を組み合わせて使用する必要があるだろう。
    なお、BEPS行動13最終報告書で整理された通り、国別報告事項に記載されたこれら金額は、詳細な移転価格分析を抜きに、そのまま利益分割ファクターとして採用することはできず、また、定式配分の要素としても使用することはできない。ここれは次の従業員数についても同様である。

  2. 従業員数
    各国ごとに人件費の水準が異なり、また、従業員の役割・意識・競争力がそれぞれ異なる中で、単純に従業員の数を利益分割ファクターとして使用することは適切ではない。但し、重要な機能に従事する特定の従業員の数については、例えば金融・投資業などにおいて、必要に応じ、一定の調整を加えた上で、利益分割ファクターの1つとなるケースはあり得る。

  3. 購買力平価のための調整
    一般的に、経済環境が大きく異なる国同士の比較を行う場合、或いは為替レートが急激かつ大幅に変動している場合、利益分割ファクター(資産又は原価)に対し、購買力平価のための調整を行うことは適切と考えられる。ただし、調整を行うことによる事務負担の増加にも留意する必要がある。今後、分かりやすい実務指針が提供されることを期待する。

4.その他のコメント

(1) 文書化

今回の公開討議草案では、「PS法がどのように適用されたかについて、文書化を行うことが特に重要となる」との記載が盛り込まれた(パラ10)。文書化が必要となる項目や記載内容の充実度等につき、サンプルや具体的な指針が提供されることを期待する。

(2) 同一ではないが比較可能な非関連者取引

「関連者間取引と同一ではないが比較可能な非関連者間取引を利用した手法の方がPS法の不適切な利用よりも信頼性がある」との記述(パラ14)については、課税当局による移転価格算定手法の恣意的な選択を抑制する観点から、「同一ではないが比較可能な非関連者取引」の事例や許容範囲の基準などについて、できるたけ詳細なガイダンスを提供すべきである。

(3) マスターファイル

「マスターファイルが利益分割ファクターの決定に関する情報の有益なソースとなるかもしれない」との記述(パラ58)は、やや踏み込み過ぎの印象を受ける。同パラの後半では、マスターファイルは多国籍企業グループのハイレベルな概観を提供することのみを意図しており、粒度の細かい詳細な情報は求められていない旨の留保があるが、より慎重な記述を行うべきである。

(4)残余利益分割法

関連利益の分割に際しては、公開討議草案のパラ37で示唆されている通り、双方にユニークで価値ある貢献がある場合には残余利益分割法を用いるべきである。残余利益分割法は、二段階の分析を踏まえ利益分割を行う慎重な方法であるため、寄与度利益分割法に比べ、手法として信頼できる。

(5) 原価ベースの分割ファクター

原価ベースの利益分割ファクターのセクションでは、各当事者が異なる無形資産で貢献をしている場合の課題として、原価のリスク・ウェイトに触れられており(パラ67)、その計算例の提供に期待する。また、同パラの「独立企業がその維持されたロケーションセービングをどのように配分したのかという態様が…利益配分において反映される必要があるだろう」との説明については、比較対象分析においてどのように取扱うかを含め、具体的な指針がなければ国によって解釈に齟齬が生じるため、詳細ガイダンスに期待する。

以上

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