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Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 独占禁止法研究会報告書を踏まえた課徴金制度・手続保障の見直しについてのコメント

2017年6月30日
一般社団法人 日本経済団体連合会
経済法規委員会 競争法部会

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1 課徴金制度の見直しについて

(1) 総論

今回の課徴金制度の見直しにあたって最も重要なのは、法執行・運用に関する予見可能性、透明性、公平性等の確保である。とりわけ、公正取引委員会(以下、公取委)の裁量を限定的に認める部分については、事前に具体的かつ明確な運用基準を策定・公表することが必須である。

今回、課徴金減免制度の見直しにより事業者の調査協力インセンティブを高め、事業者と公取委とが協力して事件処理を行う領域の拡大を目指すことについては、評価したい。企業においては、日々独占禁止法コンプライアンスの推進・徹底に取り組んでいるところである。万一、違反行為の疑いがある行為を発見した場合には、自主的に社内調査を進め、公取委と協力して効率的・効果的に実態解明がなされることが求められる。これを後押しし、違反行為の早期発見・是正による公正かつ自由な競争環境の維持に資するよう、手続保障も含め制度全体を設計・運用すべきである。

また、公取委による国内の違反企業への執行と海外の違反企業への執行間において不均衡が生じていた国際市場分割カルテルについて、制度的な手当てを行う方向性が明示されたことについても、評価したい。今後、わが国市場に反競争的な影響を与えた海外の違反事業者に対しても、適切な執行が行われることを期待する。

(2) 課徴金の算定基礎とする売上額の範囲

課徴金の算定基礎とする売上額は、原則として、違反行為の対象商品・役務に係る日本国内で実際に生じた売上額(以下、基礎売上額)とすべきである。

そのうえで、基礎売上額がない場合であっても、違反行為により何らかの経済的利得が現に生じている場合には、課徴金の算定基礎とする金額として「基礎利得額」を類型別に法定し、課徴金の対象とすべきである。

たとえば、国際市場分割カルテルに参加した海外の違反事業者は、日本以外の市場において違反行為による経済的利得を現に得ており、適切な金額を基礎利得額として法定し、課徴金の対象とすべきである。

一方で、違反行為に関連して、結果として何らの経済的利得も得ていない場合については、課徴金を課すべきではない。こうした事案について、課徴金を課さないとしても、抑止効果としては十分であり、課徴金の在り方に関する従来の謙抑的な姿勢を堅持すべきである。

(3) 課徴金の算定基礎とする売上額の算定期間、基本算定率

現行制度のもとで違反行為の抑止力が不十分かどうかは十分に検証すべきではあるものの、違反行為の期間が現行の売上額の算定期間である3年間を超える事案が存在することを踏まえ、算定期間の延長を検討することは理解できる。もっとも、延長するとしても、過去に遡って売上額を把握する事業者の負担への配慮、さらには公取委による円滑な法執行の確保という観点から、最大でも、商法や会社法等における帳簿書類の保存期間である10年までとすべきである。

売上額の算定期間を見直せば、課徴金の水準、抑止効果が上昇する場合が想定されることもあり、基本算定率については現行の10%を維持すべきである。仮に将来、基本算定率の見直しを検討することとなった場合には、今回の見直し全体の効果を十分検証するとともに、違反行為の抑止、さらにはこれに必要な水準についての基本的な考え方を整理したうえで、刑事罰や民事損害賠償金等のあり方も含む抜本的な検討が不可欠である。

今回の見直しによって、課徴金額が年間売上額に相当する金額に達する場合も考えられることを踏まえ、必要に応じて分割払いを認めるなどの運用面での柔軟な対応を行うとともに、課徴金額の上限を設けるといった制度的な手当てを検討すべきである。

なお、業種別算定率の在り方については、関係業界の意見も踏まえ、具体的な制度設計を検討すべきである。

(4) 企業グループ単位での繰り返し違反の割増算定率の適用

企業グループ単位での繰り返し違反の割増算定率の適用については、導入の是非も含め、慎重に検討すべきである。同じ企業グループ内であっても、独立性の高い上場子会社も含まれ得るなど企業同士の関係性はさまざまであり、他の法人の行為を根拠に課徴金の加算を行うことは、極めて限定的な場面に限られるべきと考える。

仮に導入を検討する場合でも、例えば、割増算定率の適用を免れるために分社化を行ったというような脱法的な場合に限るなど、対象範囲を適切に絞り込む必要がある。

(5) 課徴金減免制度の見直し

具体的な減算率の決定方法については、減免申請を行う事業者の予測可能性を確保するとともに、早期の減免申請とこれによる公取委への端緒や重要な情報の提供を促す観点から、現行制度と同じく、まず、課徴金減免申請の順位が高い順に、高い減算率を割り振る方式とすべきである。この減算率には、それぞれ一定の幅を設け、証拠の提出時期・内容に応じ、この幅の中で具体的な減算率を決定する仕組みとすることにより、調査協力インセンティブを高めることが望ましい。

公取委の裁量を認めることとされている減算率の決定に関しては、具体的かつ明確な運用基準を策定することが必須である。

また、減免申請者の継続協力義務を法定する場合には、その内容について、合理的かつ明確なものとする観点から、十分かつ丁寧な検討を求める。たとえば、報告書34頁例示①の「違反行為に関係する全ての保有する情報」は、事業者が調査に協力する時点において違反行為に関係すると「合理的に」判断できる情報に限るべきであるし、④の「第三者」については、人的交流や事業においてつながりのある子会社や関連会社に対して情報提供を依頼したりする可能性があることから、親子関係、関連会社関係にある会社を除くことなどが考えられる。

具体的な協力義務の内容、義務違反となる場合等については、詳細な運用基準を策定すべきである。

2 手続保障の見直しについて

(1) 事前手続

新しい課徴金減免制度を利用した企業が、自己に適用される具体的な減算率が適正に決定されたかどうかを確かめるためには、減算率の決定方法に関する具体的かつ明確な運用基準の策定・公表とあわせ、減算率の決定にあたって比較対象となった他社証拠の内容を踏まえて十分に検証できるようにすることが欠かせない。この観点から、今回の見直しにおいては、新しい課徴金減免制度の導入とセットで、事前手続における他社証拠の「謄写」を認める必要がある。現行制度においても「閲覧」は認められるが、他社証拠が膨大である可能性もある中、これらを全て逐一書き写すことは現実的ではなく、事業者においては他社証拠の「謄写」を認めることに対する強いニーズがある。

なお、一部の国際カルテル事案については、自社が口頭申請した内容を公取委において文書化したものなどが他社に謄写され、これが米国においてディスカバリーを通して流出し、自己に対する損害賠償請求訴訟で用いられることとなれば、課徴金減免申請の利用に対するディスインセンティブが生じかねないとの懸念があるが、このような懸念を踏まえ、例えば、謄写した証拠にかかる目的外利用を制限する規定を設けること#1や、国際カルテル事案においては、一部の他社証拠について例外的に謄写を制限することなどをあわせて検討すべきである。

(2) 弁護士・依頼者間秘匿特権

弁護士・依頼者間秘匿特権は依頼者に認められる基本的な権利であり、独占禁止法において制度的に担保すべきである。

秘匿特権を導入するにあたり、新しい課徴金減免制度をより機能させる観点から、その具体的な制度設計について、特に次の3点を強く要望する。

1点目として、結果的に課徴金減免申請を行った場合のみならず、課徴金減免申請を行わなかった場合についても、秘匿特権を認めるべきである。事業者が対応の当初に弁護士に相談する段階では、将来、課徴金減免申請を行うかどうかはわからない。この時点において、弁護士との相談内容について秘匿特権が認められるかどうかの予測可能性がなければ、秘匿特権は認められていない前提で対応せざるを得ず、結局は安心して弁護士に相談できない。

2点目として、弁護士とのコミュニケーションのみならず、弁護士に相談するために社内調査を行い、これをまとめた社内調査文書についても、保護の対象とすることを求める。自主的な社内調査、これに続く証拠の提出を促すためにも、安心して社内調査を行える環境を整えるべきである。

3点目は、今回、秘匿特権で保護されるものが米国の民事訴訟におけるディスカバリーの対象とならないことを確保するため、わが国において秘匿特権が認められていることを、その内容を含め、明確かつ具体的な形で、対外的に明らかにすることである。米国の民事訴訟においては、海外企業が秘匿特権該当性を主張する文書について、権利放棄(waiver)されているかどうかにかかわらず、その企業の母国において秘匿特権が保障されていない場合には、秘匿特権を認めないとの判断がなされる傾向にあるとの指摘がある。弁護士に相談した内容が米国の民事訴訟においてディスカバリーの対象となり得る懸念があれば、事業者は安心して弁護士に相談できず、わが国における新しい課徴金減免制度の利用を検討するにあたって障害となる。このような懸念に対処する必要がある。

(3) 供述聴取手続における防御権

新しい課徴金減免制度においては、従業員の供述調書は調査協力の評価対象としない方向性が示されており、冤罪の防止を図るとともに、事業者による自主的な証拠の提出による協力型の事件処理体制の構築を後押しするものとして評価する。

もっとも、密室による供述聴取がなくなるわけではなく、引き続き適正化に向けた取り組みを行うべきである。

基本的には、供述聴取には任意のものと間接強制による審尋の二種類があることを踏まえつつ、供述聴取時の弁護士の立会い、供述聴取過程の録音・録画といった抜本的な改革を行うべきである。今回の見直しで調査協力インセンティブは大きく高まり、防御権の拡充により実態解明機能が損なわれるおそれは従前より低下する。また、事業者と公取委とが協力して事件処理を行う手続へと移行することにより、供述聴取の役割は、事業者が提出した証拠についての確認など、従前から大きく変わることが想定される。こういった点も踏まえ、導入に向けた検討を求める。

仮に、ただちに以上のような抜本的な改革を行うことが困難であるとしても、供述聴取時のメモ取りなど、運用面における何らかの見直しをすぐにでも行うべきである。そもそも任意の供述聴取においてメモ取りすら認めないことには極めて大きな違和感があり、早急な改善を強く求める。仮に、濫用的なメモ取りなどを制約する必要があるとしても、メモの分量を限定する、審査官が2度注意してもやめなかった場合にはそれ以降メモ取りを認めないこととするなど工夫することにより、対処可能である。

任意の供述聴取については、苦情申立制度が導入されているところであるが、同制度を利用するにしても、不適切な取調べの有無を立証する手段がなく、その効果には疑問がある。同制度のあり方を引き続き検討するとともに、これを有効に機能させる観点から、ICレコーダーの持ち込み、あるいは一問一答式の調書の作成といった、客観的な検証可能性を担保するための改革も急がれる。

以上

  1. 審判手続開始後の事件記録の閲覧謄写にかかる平成25年改正前独占禁止法70条の15第2項は、「公正取引委員会は、前項の規定により謄写をさせる場合において、謄写した事件記録の使用目的を制限し、その他適当と認める条件を付することができる。」と規定していた。

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