Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度  デジタル化とグローバル化に対応した会社法を目指して -会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案に対する意見-

2018年4月17日
一般社団法人 日本経済団体連合会
(PDF版はこちら

IoTなどの革新的技術が社会に大きな変化を起こしつつある中、経済社会の基本的インフラである会社法の分野においても、新たな技術を活用できる体制を積極的に整え、企業運営の効率化・最適化を図っていく必要がある。

また、技術革新によるパラダイムシフトに加え、経済のグローバル化が加速する中、株主との対話の場である株主総会の運営をさらに効率化するとともに、変化に対応するため、一層迅速・大胆な経営判断を可能とする環境の整備が強く求められている。

この度、法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会が、社会のデジタル化に対応し、株主総会資料の電子提供制度の導入を提案したことは、高く評価できる。他方、今回の提案の中には、迅速・大胆な経営判断の確保や株主総会の運営効率化の観点から制度改革が不十分な点もみられる。また、取締役などに関する規律の見直しのように、企業経営・実務を阻害することが懸念される事項もある。

そこで、今般提案された「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案」に対し意見を述べる。

第1部 株主総会に関する規律の見直し

第1 株主総会資料の電子提供制度

1. 電子提供措置開始日について(2頁)

B案(株主総会の3週間前)とすべきである。

〔理由〕
株主総会参考書類(株主提案に対する取締役会の意見の内容を含む)や計算書類(会計監査報告を含む)の記載事項も電子提供措置の対象とされており、提供開始までにこれらの準備を終える必要があることを考慮すれば、すべての会社がA案(株主総会の4週間前)に実務上対応できないおそれがある。
特に、会社は、株主提案権の行使後に、提案株主の要件充足性の確認、提案された議案の確認及び取締役会意見の検討などを行うことから、提案権が期限間際(総会の日の8週間前)に行使された場合には時間的猶予が乏しい。

2. 株主総会の招集通知の発送期限について(2頁)

C案(現行と同様、総会の2週間前)とすべきである。

〔理由〕
「1 電子提供措置開始日について」と同様の理由に加えて、電子提供措置に拘わらず、招集通知の印刷・封入・発送に要する時間は短縮されないことから、すべての会社にA案(株主総会の4週間前)またはB案(株主総会の3週間前)は実務上困難である。
新たに書面交付請求権を認めるとすると、結局は株主総会参考書類の印刷が必要となるうえ、書面交付請求をした株主とそれ以外の株主との分別管理が必要となり、業務が煩雑化して所要時間がさらに伸長し、A案・B案への対応は一層困難となる。なお、狭義の招集通知だけを先行して発送し、株主総会参考書類を追って発送する方法は、郵送コスト負担が増えることから実務上採用できない。

3. 書面交付請求をすることができない旨の定款規定について(3頁、4(2)①の(注2))

「なお検討する」とされているが、定款によって書面交付請求できないこととできるようにすべきである。

〔理由〕
株主総会の決議(定款変更決議)により書面交付請求権を認めないという選択を許容すべきである。特に、上場会社において電子化(デジタル化)が義務づけられるなかで、一部の株主による書面交付請求への対応にかかる追加コストを会社で負担することにつき、株主の多数意思により避ける選択肢を設けることは定款自治によるものとして許されてよい。
むしろ、電子化(デジタル化)の拡大という改正趣旨に照らせば、現行のみなし提供制度を拡大させ、株主の同意による電子提供制度を前進させるべきであり、このような政策的観点から、定款により書面交付請求を行えないとすることに積極的な意義がある。
書面交付請求を認めない定款の定めにより、高齢者等が権利行使できなくなるとの意見があるが、インターネットが使用可能な第三者を介して権利行使をすることは可能であるし、「書面交付請求ができない」という要素は株投資の考慮要素のひとつともいえる。
加えて、書面交付請求が行われた場合の書面の交付は、招集通知と同時に行われることが予想されるが、定款の定めによって書面交付請求を認めない会社においては、電子提供措置の開始後速やかに招集通知の郵送を行うことが可能で、招集通知発送の早期化に繋がる。

4. EDINETの利用の可否について(4頁、(第1の後注2))

  1. (1) EDINETの利用の可否については、「なお検討する」とされているが、利用可能とする規定を設けるべきである。
  2. (2) また、EDINETに掲載することにより電子公告調査を受けることを不要とすべきである。

〔理由〕

  1. (1) EDINETにより株主総会の情報にアクセスできることは、株主の利益に資する。また、EDINETはすでに企業情報開示における重要な社会インフラのひとつとして、十分に機能している。
  2. (2) EDINETという信頼できる媒体に株主総会関係書類を電子提供しているのであれば、株主の情報へのアクセスは制度的に十分に担保されているといえ、電子公告調査は不要である。電子公告調査は会社側にコスト負担を課すが、そのようなコストをすべての上場会社に重ねて求めることは、社会的にも非効率で「デジタル化」の法改正趣旨に合致しない。

5. みなし提供制度の見直しについて(4頁、(第1の後注4))

みなし提供制度の見直しについて「なお検討する」とされているが、みなし提供制度は廃止すべきではない。

〔理由〕
現行法のみなし提供制度は、記載事項全部を書面に記載すると書類が大部になり郵送料などが増大することとなることから認められているものであり、新たな電子提供制度のもとにおいて書面交付請求により書面を交付する場合にも、同様に認める必要がある。また、現行においても認められていることから、電子提供制度のもとにおいてみなし提供を認めても株主に対する新たな制約にはならない。みなし提供制度の廃止は、電子化(デジタル化)の導入を進めるという今般の改正趣旨に照らせば、むしろ後退である。

第2 株主提案権

1. 提案することができる議案の数について(4~5頁)

  1. (1) 中間試案の選択肢にはないが、役員の選解任議案を含め1個~3個とすべきである。
  2. (2) 定款の変更に関する提案の数については、内容において関連する事項ごとに区分して数えるものとする旨の明文の規定を設けるものとするかどうか、「なお検討する」とされているが、規定を設けるべきである。文言としては「内容において関連することが客観的に明白である事項ごと」とすべきである。

〔理由〕

  1. (1) 米国においては、提案権の個数は1個とされており、それと比較して、5個あるいは10個というのは過多であり、1個~3個とすべきである。
    また、提案数の上限を高く設定・明示すると、提案のための持株要件が300個と低いこともあり、かえって上限に張り付いた提案を株主がすることを動機づけてしまい、膨大な数の提案が出されることが危惧される。
    したがって、上限については、限定的な数とすべきである。
  2. (2) 定款変更に関する議案に関して、実質的に関連性のある内容や同一性のある提案理由ごとに区分して数えなければ、1個の定款変更議案であっても、実質的に上限規制を潜脱する議案の提案が行われるおそれがある。
    また、区分したとしても、関連性の有無について文言を不明確にすると、提案株主が、およそ関連のない事項を、関連性があると主張して1議案により提案する事態が想定され(定款変更として、ある事業に関連する組織再編などを網羅的に提案する例など)、同様に規制の潜脱が行われるおそれがある。
    提案株主と関連性の有無について協議しても調整は難航することが予想され、紛争化も強く危惧される。法文を工夫し、そのような紛争を可能な限り予防すべきである。

2. 内容による提案の制限について(5頁)

「専ら…目的で」という要件が付されているが、「専ら」という文言を削除するか、「主として」に変更すべきである。

〔理由〕
「専ら」であるか否かの判断は不可能である。提案の内容や経緯等に鑑みて、主として不当な目的によるものであると疎明できれば十分であり、「専ら」の要件では不当な権利行使に対する抑止効果が低い。

3. 業務執行の範囲に属する事項を定款に定めることを求める株主提案について

中間試案において記載はないが、専ら業務執行の範囲に属する事項を定款に定めることを求める株主提案は行うことができないという規定を設けるべきである。

〔理由〕
現在、定款変更議案として提案されている議案の内容は、業務執行事項に関する提案がほとんどである。そして、こうした議案への賛成比率は極めて低い。
そもそも、多くても年に数回しか開催されない株主総会は、業務執行に関する決定を行うことが適さない機関である。仮に日常的な業務執行事項が定款に定められれば、機動的で柔軟な経営判断が困難となり、企業の稼ぐ力を削ぎ、ひいては株主の利益を害することにもなる。
米、仏、独でも業務執行に係る提案については制限があることに鑑みても、業務執行に係る提案に対する制限が必要であると考える。
また、業務執行事項に関する定款変更提案を許容すると、多数の審議事項を無制約に1議案に盛り込むことも危惧され、提案数の制限も無意味になる。

4. 株主提案権の行使要件について(5頁、(第2の後注))

  1. (1) 現在の300個以上の議決権という提案要件を廃止あるいは引き上げるべきである。
  2. (2) それが不可能というのであれば、例えば、特別決議事項の提案に関しては、300個以上の議決権の要件を引き上げるべきである。

〔理由〕

  1. (1) 近年可決に至った株主提案は大株主からの提案であり、多くの株主提案の賛成率は一部を除き数%(多くても10%台)である。株主総会の全体に占める株主提案に係る時間(議案の説明、株主からの意見表明・質疑等)に関して、株主総会の半分近くの時間を株主提案に割いている企業もある。このように、およそ可決困難な提案について株主総会にかかる時間的リソースを割くことは他の株主との建設的な対話や適切かつ十分な審議の機会を損なうこととなる。
    また、提案要件である1%と300個の差は、制定当時(昭和56年)には7倍程度(千株を単位とした算定。単位株制度が導入された昭和60年には9倍)であった。しかしながら、現在では市場第一部の上場会社平均で44倍、東証TOPIX100社平均では408倍に拡大しており、もはや立法時の想定を超えた不均衡が生じており、放置すべきでない。
    このような格差のもとでは、議決権300個という1%をはるかに下回るわずかな議決権しか有していない一部の株主の提案により株主総会の審議時間の相当部分を占めることは、株主共同の利益に資するとはいえない。
  2. (2) 特別決議事項は、株主総会決定事項のなかでも、会社に大きな影響を与える特に重要なものである。その影響の大きさに鑑みれば、少なくとも特別決議事項の提案における議決権数要件を引き上げるべきである。

5. 株主提案権の行使期限について(5頁、(第2の後注))

株主提案権の行使基準に関しては、例えば、株主総会の10~12週間前とすることや、基準日から2週間後を行使期限とすることなど、現行より前倒しすべきである。

〔理由〕
株主提案権の行使期限について、提案株主の要件充足性の確認、提案内容の確認、取締役会意見の作成を行う必要があり、現行の制度(株主総会の8週間前)では、行使期限直前に多数の株主提案がなされた場合など、会社として株主総会の準備に困難をきたす場合が想定される。また、招集通知の早期発送の妨げの1つにもなっている。

6. 提案数の上限を超えた場合の取扱いについて

  1. (1) 上限を超える提案があった場合の取扱いについては、法文上すべての提案が無効となるとすべきである。
  2. (2) あるいは、取締役会の定める株式取扱規則で、上限を超える提案があった場合はすべて無効とする取扱いを規定することを是認すべきであり、その旨、法文上明確するか、少なくとも解説等において明記すべきである。

〔理由〕

  1. (1) 上限規制を超えた場合にはすべての提案を無効とすることがもっとも明確な基準である。仮に提案数が上限を超えたとしても上限までは有効とすれば、提案の中から議案とするものを選抜するという作業を行わなければならないこととなり、手間やコストもかかる。
  2. (2) 有効な提案の選択を巡る紛争が生じないような制度とすべきであり、取締役会がその提案権の取扱いに関する事項を株式取扱規則に定め、その基準に従い対応できるという方法が有効である。

第2部 取締役等に関する規律の見直し

第1 取締役等への適切なインセンティブの付与

1. 取締役の個人別の報酬等の内容に係る決定の再一任について(6~7頁)

  1. (1) B案(規律を見直さない)とすべきである。
  2. (2) 「各取締役の報酬等の内容に係る決定の方法の方針等」(1(1)の注1)(6頁)には、「個人別の報酬等の内容に係る決定の再一任」(6頁(3))は含まれないことを説明等で明確にすべきである。

〔理由〕

  1. (1) 代表取締役および取締役・監査役は善管注意義務を負っていること及び多くの会社では「報酬に関する方針」に加え、個別報酬額の算定式などを予め定めていることから、「再一任は白紙委任である」と単純に評価すべきではない。報酬に関する対応・工夫は各社により様々であるから、代表取締役への再一任について、株主総会決議の対象とする必要はない。
  2. (2) また、再一任を、「各取締役の報酬等の内容に係る決定の方法の方針等」(注1)(6頁)に含めると、結局、取締役の個人別の報酬を説明しなければならなくなるおそれがあるため、後述の4(個人別の報酬等の開示について(8頁、((5)の注)))と同様の理由(プライバシー、報酬の絶対額の低さ)で問題がある。

2. 株式報酬等について(7頁)

C案(規律を見直さない)とすべきである。

〔理由〕
株式や新株予約権を報酬等として交付する場合については、現在の実務(相殺構成)で特段の不都合はなく新たに規定を設ける必要は無い。
また、株式の無償発行を認めることに関しては、不適切な会社の支配を招く懸念もある。

3. 個人別の報酬等の開示について(8頁、((5)の注))

規定を設ける必要はない。

〔理由〕
本来的には、報酬の総額さえ開示すれば株主による監視は十分に可能なはずであり、個人別の報酬を開示する必要性が乏しい。欧米では経営陣の報酬が高額であることを背景とし、個人別の報酬の開示の必要性が指摘されているが、日本の役員の報酬は従業員時の給与との連続性があることが通常であり、絶対額が欧米に比べ低いため、個人別開示の必要性がない。
また、個人の報酬を開示することはプライバシーの観点からも問題がある。

4. 会社補償について(8~9頁)

  1. (1) 新たな規定を設ける必要はない。
  2. (2) 仮に規定を設けるとしても、①のイの「善意でかつ重大な過失がないときは」との文言は、「悪意又は重過失でない場合は」補償できる旨の文言にすべきである。
  3. (3) また、事業報告における開示(⑤の注)(9頁)は行うべきではない。特に、補償を行った事実に関する開示には強く反対する。

〔理由〕

  1. (1) 会社補償については、会社法330条・民法650条、また経産省が2015年7月に公表した法的解釈指針に基づいて既に実務が動いており、新たな規定を設けるニーズはない。
  2. (2) 和解はもとより、民法の不法行為責任など、重過失を要件としない責任追及における判決でも、重過失の存否までは判示されないことが多い点を踏まえれば、善意・無重過失という要件を設けても、その判断を行うことができず、会社としては悪意・重過失であると指摘されることを恐れ、会社補償をためらうことになりかねない。
  3. (3) 会社補償の濫用的行使は、本規定⑤(契約の相手方と内容の概要を事業報告書に記載すること)により十分防止でき、事業報告における開示(⑤の注)(9頁)は不要である。むしろ、補償を行った事実を開示すると、当該補償の適法性・適正性を巡る新たな訴訟を誘発するおそれがある。

5. 役員等賠償責任保険契約について(9~10頁)

  1. (1) 役員等賠償責任保険について新たな規定を設ける必要はない。
  2. (2) 仮に設けるとしても、保険料を会社が全額負担しており、かつ役員が会社法上の責任追及の訴えに敗訴した場合をも補償し得る内容となっているもののみを対象とするべきである。
  3. (3) また、「役員等賠償責任保険契約の定義については、定義から除外すべき保険契約の範囲も含め、なお検討する。」とされているが(10頁、(①の注))、定義については規律の対象となるものを列挙する形で明確にし、その範囲が広がり過ぎないようにすべきである。
  4. (4) ⑤の保険契約に関する開示の規定は設けるべきではない。

〔理由〕

  1. (1) 役員等賠償責任保険契約については、実務上問題なく定着しており、規律を設ける必要はない。むしろ、規律を設けることでかえって役員等賠償責任保険が利用しづらくなってしまうことが懸念される。
  2. (2) 役員等賠償責任保険契約の利益相反性を問題視する意見もあるが、まず、保険料を会社が負担していないようなケースにおいては、そもそも利益相反は問題とならない。
    また、役員等がその職務の執行の伴い賠償責任を負うことを恐れ職務の執行が萎縮することを防止し、役員等に対し適切なインセンティブを付与するという役員等賠償責任保険契約の趣旨を踏まえれば、役員等賠償責任保険契約の規律の対象は、会社法上の責任追及の訴えに敗訴した場合において、会社の保険料負担で役員等に保険保護を与える補償部分に限定すべきである。
  3. (3) 規律の対象とならない保険を列挙する形での定義では、列挙された定義に該当しない新商品が出るたびに法令改正に検討・手当を要するため、社会環境変化や技術革新に伴い新たに生じるリスクに対する損害保険の迅速・柔軟な提供や普及を阻害しかねない。
    また、②において、役員等賠償責任保険の内容の決定に株主総会の決議という厳格な要件を課していることに加え、定義に該当する範囲を過度に広げれば、役員等賠償責任保険の導入が抑制され、果断な経営判断を促し、企業の中長期的な成長や事業価値の向上を実現することにより日本経済全体の成長を促すという政策目標に対する著しい阻害要因となる。
  4. (4) 保険契約の開示を行うと、新たな訴訟を誘発するといった弊害が生じる。
    加えて、開示を嫌って役員等賠償責任保険の利用が後退すると、業務執行も萎縮せざるを得ず、また取締役人材の確保も困難となるおそれがある。

第2 社外取締役の活用等

1. 業務執行の社外取締役への委託について(10~11頁)

業務執行の社外取締役への委託については規律を設けるべきではない。仮に設ける場合であっても、説明等においてセーフハーバーであることを明示すべきである。

〔理由〕
企業においては、MBOを含め社外取締役が担う業務を、「業務を執行した」に関する解釈に基づき柔軟に対応しており、このような制度を新たに設けることに対する実務上のニーズはない。このような規律が導入されると、企業としては、これまで業務執行に該当しないと考えているものであっても念のため取締役会決議を得ておくということになりかねず、迅速な対応を阻害しかねない。
また、規定を設けることにより、かえって社外取締役の関与できる事項が限定され、社外取締役の積極的な活用につながらないおそれがある。

2. 監査役設置会社の取締役会による重要な業務執行の決定の委任について(11頁)

B案(規律を見直さない)とすべきである。

〔理由〕
現行の会社法が予定する範囲を超えて、さらに重要な業務執行の決定を個々の取締役に委任に関する実務上のニーズは乏しく、このような制度を導入する必要は無い。

3. 社外取締役を置くことの義務付けについて(11頁)

B案(規律を見直さない)とすべきである。

〔理由〕
社外取締役の設置も含めた適切なガバナンス体制のあり方については、個々の企業の経営理念や戦略、業種業態などによりさまざまであり、株主との建設的な対話を通じて、企業が創意工夫しながら構築していくものである。
また、上場会社においては、ソフトローであるコーポレートガバナンス・コードの導入以降、社外取締役の導入は進んでおり、ハードローであり、かつ、より多くの企業に適用される会社法を改正する必要なない。
社外取締役を設置しない企業にはそれだけの理由があり、一律に設置を義務付けるべきではない。社外取締役を置くことが相当ではない理由の説明を株主に対して行わせる現行の規律で十分である。

第3部 その他

1. 株主による責任追及等の訴えの提起に新たな制限を設けることについて

中間試案に記載はないが、却下事由の見直し、少数株主権化等について規定を設けるべきである。

〔理由〕
わが国の制度は国際的にみても訴訟が起こされやすい仕組みとなっており、訴えられた取締役は訴訟対応に追われ本来注力すべき業務に専念できず、会社も補助参加等の対応が必要となるなど、ひとたび濫用的な訴訟が起こされれば、直接的にも間接的にも大きな負担を強いられることから、会社にも不利益が生じる。

2. 業務執行取締役が責任限定契約を締結できるとすることについて

中間試案に記載はないが、業務執行取締役が責任限定契約を締結できるとする規定を設けるべきである。

〔理由〕
日々の業務の執行している業務執行取締役が責任限定契約を締結できるようにすることで、果断な経営判断をすることが可能となり、企業の中長期的な成長や企業価値の向上に資する。多くの上場企業においては、社外取締役を複数導入し、取締役会における会社の重要な経営判断を行っている中で、その判断・監督に関し責任問題が生じたときに、社内(業務執行)取締役と社外取締役との間で責任上限に関する取扱いがあまりにも異なる現在の規律は見直しが必要である。

3. 議決権行使書面の閲覧等(19~20頁)

  1. (1) 個別株主による議決権行使書面の閲覧謄写請求権はそもそも廃止すべきである。
  2. (2) 仮に廃止しなくとも、①の閲覧等の請求における理由の開示に関して、②の拒絶事由に該当するか否かを判断できる程度に具体的である必要があることを本文あるいは説明等に明示すべきである。
  3. (3) ②の閲覧等の請求の拒絶事由に関しては、A案(株主総会の招集の手続又は決議の方法に関する調査以外の目的での請求)とすべきである。

〔理由〕

  1. (1) 議決権行使書面の閲覧については、特に上場会社に関しては、コンピューター・システムによる処理を基盤とする株主名簿管理人による適切な管理・確認と、臨時報告書による適正開示(刑事罰によって適正性を担保)で、議決権のカウント等の適法性・適正性が十分確保されている。
  2. (2) 拒絶事由に該当するか否かを判断できる程度に具体的な理由の開示がなければ、会社は閲覧拒否をできるのかの判断が行えず、実務上の支障が大きい。会計帳簿の閲覧請求に際して、具体的な請求理由の開示が要求されている(最判平16・7・1民集58・5・1214)こととの均衡も考慮すれば、拒絶事由に該当するか否かを判断できる程度に具体的な理由の開示が必要である。
  3. (3) 株主提案を行った株主が株主総会後に閲覧謄写請求して自己の提案に賛成した株主を特定し、次年度の総会に向けて勧誘行為等を行っている場合がある。このような権利行使は制度の本来の趣旨にそぐわないものであるが、B案ではそのような権利行使を防止できない。

4. 新株予約権に関する登記について(20頁)

A案(会社法第238条1項2号及び3号に掲げる事項の登記を不要とする)とすべきである。

〔理由〕
新株予約権の払込金額は、資本金の額に直接的に影響を与えるものではなく、新株予約権の発行の段階から登記事項として公示することまでは不要である。

5. 株式会社の代表者の住所が記載された登記事項証明書について(20~21頁)

代表者の住所が記載された登記事項証明書の交付に関して規制を設けることについては賛成である。

〔理由〕
不特定多数人が代表者個人の住所が記載された登記事項証明書の交付を受けられるのは、プライバシー保護の観点から問題がある。
また、民事訴訟上必要である場合にも、「利害関係人」に限定して交付請求を認めることで十分対応可能である。

以上