Policy(提言・報告書) 経済政策、財政・金融、社会保障  外国人材の受入れに向けた基本的な考え方 ~深化するグローバル化への対応~

2018年10月16日
一般社団法人 日本経済団体連合会
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はじめに

政府は、本年6月に「経済財政運営と改革の基本方針2018」(以下「骨太方針2018」)を閣議決定し、わが国経済が力強い成長を実現していくための重点的な取組みとして、「一定の専門性・技能を有する外国人材を受け入れる新たな在留資格の創設」を打ち出した。来年度からの受入れ開始を目指し、現在、必要な法令を整備すべく検討を進めている。今後、受入れに関する業種横断的な政府基本方針の策定と同時に、年内にも「『生活者としての外国人』に関する総合的対応策」(2006年12月 外国人労働者問題関係省庁連絡会議)の抜本的な見直しが予定されている。

経団連では、2016年11月に提言「外国人材受入促進に向けた基本的考え方」をとりまとめ、Society 5.0 の実現を目指すわが国経済社会の活性化に向けて、イノベーションの加速や競争力強化などの観点から、高い専門性や技能を有する高度人材の受入れや外国人留学生の就職支援の強化に向けた制度改善を要望してきた。あわせて、社会生活や産業基盤の支え手を確保する観点から、一定の専門性・技能を有する外国人材の受入れに向けてさらなる検討が必要であると指摘した。

今回の政府方針は、特に社会生活や産業基盤の支え手の確保という課題に、スピード感をもって正面から取り組むものであり、経団連の考え方と軌を一にしたものと受け止めており、また、わが国の経済・社会基盤を維持する中小事業者が直面する深刻な人手不足の声にも真摯に対応したものである。経済界としても、受入れ企業の立場として必要な責務を果たしていくと同時に、今回の新たな外国人材の受入れにあたって、サプライチェーンに対し、法律の遵守と、人権を含む国際規範を尊重してもらうとともに、適切な取組みが行われるよう、積極的に支援していく。

本格的な人口減少を迎えるわが国が、国際社会で一層確固たる地位を確立していくためには、就労面のみならず、社会の多様性をさらに深化させ、真に世界に開かれた魅力ある就労・生活環境を整備していかなければならない。あわせて、多様な国々から、意欲と能力のある外国人材を受け入れることが国民の理解を得た形で進み、多様な働き方の実現と相まって、様々な人材が生き生きと働く社会を実現していくことが望まれる。こうした社会は「Society 5.0」の実現の基盤となる。

そこで、新たな外国人材の受入れが、今後わが国経済のみならず社会活力の維持・強化をもたらすよう、具体的な制度化に向けた検討に際して、以下に基本的な考え方を改めて示すこととする。あわせて、これまで経団連が求めてきた企業内転勤の要件緩和などについても検討を進め、必要な措置を講じることを要望する。

1.新たな外国人材受入れ制度の在り方と高度外国人材の受入れ促進について

新たな外国人材の受入れにあたっては、「骨太方針2018」で示されたように、わが国経済の活性化およびイノベーション推進、さらには生産性向上に向けた取組み(設備投資や技術革新、ICT化、働き方改革など)を後退させることがあってはならない。女性や高齢者等を含めた国内人材の活用に、引き続き、最大限注力することが大前提となる。また、これまで企業が取り組んできた処遇改善などの努力に影響を与えないよう、十分配慮すべきである。

(1)対象業種の判断基準の明確化とプロセスの透明性の確保など

政府は、今後、新たな外国人材の受入れに関して、業種横断的な基本方針を示し、同基本方針を踏まえ、法務省等制度所管省庁と業所管官庁において、個別業種毎の特性を考慮した業種別受入れ方針を決定する予定である。これに基づき、わが国として新たな外国人材を受入れが行われることとなる。

今般の受入れ対象となる業種の考え方については、生産性向上の取組みならびに国内人材の確保を行ってもなお、事業の継続・発展が困難となることが見込まれる業種に限定することとされているが、受入れ業種を判定する際には、客観的な指標・調査に基づき、業種の範囲を特定しつつ、透明かつ適切なプロセスを経て、判断がなされるべきである。その際、賃金などのコスト面のみに焦点を当てるのではなく、外国人材の受入れにあたって真の必要性(IT・AIの代替可能性を含む)、担う職種・作業範囲、地域、求められる一定の専門性や技能の水準など、国民や企業の納得性の高い具体的な判断基準を示すべきである。あわせて、新たな外国人材の入国、就労、離職時における一貫した在留・雇用管理体制の明確化も重要である。

また、一定の専門性や技能の水準ならびに日本語能力は、わが国で円滑に就労・生活する上で不可欠な能力となる。外国人材側の負担にも配慮しつつ、試験の時期・頻度・場所ならびに内容を検討する必要がある。複数の専門性や技能、さらには一定の試験を受けて高い専門性の習得を希望する外国人材への配慮も必要である。

他方、今般の新制度を活用して外国人材を受け入れる企業の多くは、比較的事業規模が小さい事業者であると想定され、受入れのための仲介者が介在することが予想される。悪質な仲介事業者の介在を防止、排除するための措置を講じることが求められるが、こうした実務的な課題についても、スピード感を持って詰めていくべきである。

(2)外国人技能実習制度等との関係性の整理

外国人技能実習制度は、2017年11月施行の「外国人の技能実習の適正な実施および地域等の保護に関する法律(技能実習法)」により、本来の趣旨である「人づくりを通じた国際貢献」が徹底されるとともに、技能実習は労働力の需給の調整手段として行われてはならないとされた。また、労働時間や安全基準、賃金・割増賃金の支払の面で適正な雇用・労働条件の確保が図られていないなどの問題を踏まえ、外国人技能実習機構の創設など管理監督体制の強化や、人権侵害行為の禁止を含む技能実習生の適切な保護等が図られることとなった。まずもって現行の外国人技能実習制度#1に関わる法令の遵守を関係者が徹底し、制度の信頼性を高めていくことが重要である。同時に、制度の適切な運用に向けて、その実態把握に引き続き努め、必要に応じて改善策を講じるべきである。

他方、現在検討が進められている新たな外国人材の受入れ制度では、技能実習制度の修了生も対象となる。ただし、新たな外国人材受入れ制度は、就労を目的としており、両制度の位置づけは異なることから、政府は、個別業種毎のニーズを的確に踏まえつつ、制度間の関係性を整理すべきである。具体的には、国際貢献と継続就労の制度趣旨の整合性、新たな制度の下で指定される業種と技能実習制度の職種・作業との関係性(例えば、建設関係の技能実習で鉄筋施工の修了生が、別の現場でそれ以外の作業へ就労することをそのまま認めるか、当該作業にかかる資格取得を就労の要件とするか)等が考えられる。

さらに、現行の留学という在留資格による就労者の増大を踏まえ、就労時間管理の徹底や、日本語教育機関のあり方などについて検討が必要である。

(3)受入れ企業の責務

外国人材を受け入れた企業は、雇用主として、従業員たる外国人材への支援と在留・雇用管理#2を的確に行う必要があるが、とりわけ、わが国企業のサプライチェーンの一翼を担う中小規模事業者に対し、国・地方公共団体は、制度の理解促進や実務的に過度な負担なく対応が可能となるような制度の整備を行うとともに、継続的な支援・指導を行うべきであり、経済界としてもその周知などに協力していく。

同時に、「ビジネスと人権」が国際的な課題となるなか、受入れ企業は、外国人材の人権尊重ならびに関連法令・制度の遵守を徹底しなければならない。さらに、経済界全体としても、多様な外国人材が日本で活躍できるよう、人材育成やより高度な在留資格へのステップ・アップの観点も含めて、ダイバーシティ経営の推進、人事制度の改革など、就労環境の充実に引き続き取り組むことが求められる。

(4)予見性を踏まえた制度整備と適切な運用

今般の外国人材の受入れ制度が来年度よりスタートすることにより、該当業種が存在する地域においては外国人材の急激な増加が見込まれるケースに加え、将来的には同一業種内での転職や、経済情勢の変化等に伴う人材の移動も想定される。このため、国・地方公共団体においては、常に中期的な外国人材の増減に係わる予見性を持って、入国後の適切な在留管理を行うことをはじめ、受入れ体制を整備・運用することが重要である。また、意欲と能力のある外国人材を長期にわたって育成し、貴重な戦力として活躍してもらうためにも、国は、事業主や外国人材に対して、新たな制度に基づく在留が終了した後の姿を分かりやすく示すべきである。

(5)国内外への広報の徹底

深刻な人材不足といった経済情勢下において、スピード感をもって制度整備が行われることから、新たな制度に関し、国民や企業の十分な理解を得るよう、広報活動に特段の注力を払うべきである。また、外国人労働者の人権に対する国際的な関心が高まっていることから、対外的にも、透明性を高めていく必要がある。

(6)高度人材受入れのさらなる促進

「骨太方針2018」に示されたとおり、わが国の国際競争力を高めていくためには、留学生を含む高度外国人材受入れのさらなる促進が不可欠である。とりわけ、わが国の大学等への留学生の就職促進は、今後の高度外国人材確保の有力な手段となる。具体的には、留学生向けの就職支援の充実や在留資格変更の円滑化などを通じて、様々な国や多様な専攻の留学生増大を図り、日本での就職を拡大していくべきである。

2.外国人との多文化共生社会の実現に向けて

様々な人材による多様性を通じて、経済・社会を活性化させていくためには、多様な国々から、意欲と能力を持つ外国人材にとって「訪れたい」「暮らしたい」「働きたい」と認識されるような国づくり、まちづくり、職場づくりを同時に進める必要がある。既に国内で働く外国人が127万人#3を超え、今後も増加することが見込まれる状況において、外国人との共生社会の実現に向けて、受入れ側の意識改革と、日本語教育をはじめとする生活者としての外国人を支援する環境整備を急がなければならない。生活者としての環境整備の担い手は、居住地域や職場が中心となるが、国も、多文化共生社会の実現に向けて、日本語教育、担い手となる人材育成、必要な予算措置など、主体的に総合的な支援を実施していくべきである。

(1)多文化に対応した職場環境の整備

各企業における職場での取組みとして、例えば、社内規程・文書・各種帳票等の社内インフラに関する多言語化や教育制度の充実、外国人従業員のニーズに見合った職場環境や福利厚生制度の構築とともに、外国人材が長期にわたって就労していくことを念頭においたキャリア形成の明確化などが求められる。同時に、受入れ企業側の日本人従業員の語学力の向上、多文化に対する理解促進などの意識改革も不可欠となる。既に企業では、外国人に対して能力向上を目的とした技能取得訓練や社宅の提供を行っている事例があるが、国・地方公共団体としても、企業やNPO法人が行う多文化共生のための取組みに対する積極的な支援が求められる。

(2)暮らしやすい地域社会づくり#4

地方公共団体においては、日本語教育の充実や行政サービス・生活情報、公共交通施設案内等の多言語化、相談体制の拡充を図るべきである。また、医療・保健・福祉サービス、賃貸住宅への入居支援、防災情報の提供、防犯・交通安全対策の充実等、外国人が暮らしやすい地域づくりに向けて、ハード・ソフト両面からの対策を講じる必要がある。これらの施策を推進するためには、受入れが進む自治体においては先進事例があることから、国も自治体間の情報共有の橋渡しを行うべきである。あわせて、NPO法人や外国人側のネットワークなど多様な連携や、ICTの利活用などが重要である。

(3)外国人子女の教育の充実

外国人材が生活者として安心して暮らすためには、子女の教育環境の整備も不可欠である。公立学校における教員等の資質能力の向上、指導・相談体制の早期構築に向けた予算の確保に加え、インターナショナルスクール等の学校外での就学促進への支援等、文部科学省は、外国人子女の教育の充実ならびに就学の促進に向けた整備を行う必要がある。

(4)労働環境の改善、社会保険の加入促進等

企業現場において人材が多様化する中、適正な労働条件と雇用管理・労働安全衛生の確保を図るためには、事業主が労働法令を遵守徹底することが重要である。とくに問題が指摘されている留学生や技能実習生についても、勉学・技能修得といった本来の目的の徹底を図っていく必要がある。他方で、受け入れた外国人材においても、わが国の労働法令や雇用慣行に対して理解を深めていくことが求められる。こうした観点から、労働法令等の周知を一層図るとともに、受入れ企業が適切な労務管理ができるよう、必要に応じて支援・指導すべきである。

その際、労働環境の整備と多文化共生にかかる各種施策については、外国人材の受入れ動向を踏まえながら、その増加に環境整備が追いつかないといった事態を招くことがないよう、国・地方公共団体において、計画的に対応すべきである。

外国人材を多く雇用する事業者等において、社会保険に未加入である従業員が一定程度存在している。厚生労働省は、関係行政機関と連携し、外国人材や外国人材を雇い入れる事業所に対し必要な情報を提供し、加入促進を図る必要がある。

また、在留外国人の医療保険をめぐり、制度本来の趣旨とは異なる形で利用されているとの指摘がある。扶養関係の確認方法について統一的な方針を示すなど対応が進められているが、在留外国人の医療保険利用の実態把握を進め、必要に応じて更なる適正化策を講じるべきである。

あわせて、現在、社会保障協定は、日本とドイツ、イギリス、韓国など18ヵ国との間で締結#5されている。今後とも、わが国企業が経済活動のグローバル化等に伴って、多様な国との人の動きが活発化していくことが見込まれる中にあって、わが国企業が国際競争上、劣後する立場に置かれることとないよう、引き続き、社会保障協定の見直し#6や、未締結国との早期締結#7を進めていく必要がある。

制度整備が急ピッチですすめられるなか、経済界としては、必要に応じてさらに議論を深め、制度創設後も引き続き意見発信を続けていく。同時に、外国人の適正な雇用・労働条件の確保に向けて必要な協力を行っていく。さらに、意欲と能力のある外国人材の受入れと多文化共生の実現に向けて、各企業の取組事例の把握に努めるとともに、それらの横断的な展開を図っていきたい。

あわせて、先の提言で述べた「移民」については、その位置付けも含め、引き続き検討すべき将来的な課題として丁寧な議論を重ねていくことが重要である。

以上

  1. 77職種139作業(2017年12月時点)
  2. 厚生労働省「高度外国人材にとって魅力ある就労環境を整備するために雇用管理改善に役立つ好事例集」(2018年3月)、「外国人の活用好事例集」(2017年3月)参照。
  3. 厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」(2017年10月末時点)
  4. 総務省「多文化共生事例集2017」(2017年3月)参照。企業と自治体等が連携した事例を紹介。
    東京都市町村自治調査会「多文化共生に向けた地域における国際交流に関する調査研究報告書」(2018年5月)参照。多文化共生に係る先進事例において自治体と経済界との取組み事例を紹介。
  5. 2018年10月1日現在 締結(発効済み)国数
  6. 経団連提言「日韓社会保障協定に関する要望」(2018年9月)
  7. 経団連提言「ベトナムとの社会保障協定の早期締結を求める」(2018年6月)