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Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 令和2年度税制改正に関する提言

2019年9月17日
一般社団法人 日本経済団体連合会

はじめに

日本経済は、米中貿易摩擦の深刻化や中国経済をはじめとする海外経済の下振れ、保護主義的な動き等による影響を輸出や生産面で受けており、今後の動向には一層の注視が必要な状況となっている。こうした中、今後、日本経済が、デフレから完全に脱却し、GDP600兆円経済に向けて、さらなる飛躍を遂げるためには、社会全体でイノベーションを起こし、生産性の向上を通じて、持続的な発展に向けた経済の好循環を実現していくことが必要となる。とりわけ、労働力人口の減少や高齢化の進展に日本経済が直面しているなかで、デジタル化やグローバル化に対応し競争力を向上させていくことが求められる。官民を挙げて、政府方針である「経済再生なくして財政健全化なし」に基づき、様々な改革がなされねばならない。

「経済財政運営と改革の基本方針2019」(以下、骨太の方針2019)ならびに「成長戦略実行計画」(2019年6月21日閣議決定)では、Society 5.0の実現が政策の核として明示された。AI、ビッグデータ、IoT等の技術革新は、産業や社会のあり方に根源的な変革をもたらすものとなる。今後の税制のあり方を検討する場合においても、このデジタルトランスフォーメーションの動きと歩調をあわせ、グローバル経済の変化にも対応しつつ、デジタル技術を通じて企業の生産性を向上させ、経済再生に資する制度の構築を目指すことが不可欠である。

こうした観点から、令和2年度税制改正では、日本企業の国際競争力を強化し、経済再生に資する連結納税制度の見直しや税務手続の簡素化・デジタル化のさらなる充実、ベンチャー企業とのオープンイノベーションを促進する税制の検討等が極めて重要となる。とりわけ、連結納税制度は、機動的な事業ポートフォリオの組み換え等による効率的なグループ経営を可能とし、グローバルスタンダードとなっている連結経営を日本でも後押しする仕組みであるという観点から検討を行う必要がある。

あわせて、国際課税については、経済の電子化に伴う国際的な議論が大きく進展している。一国主義的な動きを抑制しつつ、各国による制度・執行の協調を目指して、持続可能な制度を構築することが求められる。同時に外国子会社合算税制等の積み残しの課題にも取り組む必要がある。

本年10月からの消費税率の引き上げは、全世代型社会保障制度の構築、財政健全化の観点から極めて重要である。今後、社会保障制度については、給付と負担のあり方を中心とした改革を急ぐとともに、中長期的な持続可能性の確保に向けて、歳入システムを含めた検討が必要である。なお、年末にかけて景気の下振れリスクが顕在化する場合には、税を含め機動的なマクロ経済政策を検討していくことが求められる。

経済界としても民主導のイノベーションを通じて経済の好循環に引き続き貢献していく。かかる観点から、以下、提言を行う。

令和2年度税制改正に関する提言

1.Society 5.0の実現に向けた企業の生産性向上に資する税制措置の整備

日本企業の国際競争力を強化し、経済再生を実現していく観点から、法人実効税率については、各国の引き下げの動向も踏まえつつ、実質的な税負担の軽減を伴うかたちで、OECD主要国平均・アジア近隣諸国の水準を踏まえ、25%程度とすべきである。

研究開発税制総額型(試験研究費の範囲、控除上限、控除割合等の拡充)・オープンイノベーション型について今後、拡充すべきである。

Society 5.0の実現に向け、企業の労働生産性を向上させ、日本企業の国際競争力を強化し、経済再生に資する制度を構築するという観点から、令和2年度税制改正ではとりわけ以下の税制措置を講ずるべきである。

(1) 企業の競争力強化に資する連結納税制度の見直し

  1. 基本的考え方
    連結納税制度については、政府税制調査会で同連結納税制度に関する専門家会合における議論を踏まえた報告書が公表される等、見直しに向けた議論が進展している。
    連結納税制度は、企業の一体的グループ経営という実態に合った課税を行うという観点から導入された制度である。連結納税制度の見直しにあたっては、機動的な事業ポートフォリオの組み換え等による効率的なグループ経営を可能とするという観点から、「経済再生なくして財政健全化なし」という政府方針に基づき見直しを行うべきである。現行制度で連結納税制度を採用している企業は、事務負担を踏まえたうえで連結納税制度を採用している。修更正による他の連結法人への影響を遮断する等の事務負担の軽減は歓迎するが、それが達成されるとしても、個別申告方式への移行はあくまで手段であり、日本における連結経営の実効性を高めるという目的から逸脱すべきではない。税負担の大幅な増加をもたらすことで日本企業の国際競争力の強化を阻害し、経済再生に負の影響を及ぼす見直しには賛成できない。
    すでに連結納税制度を採用している企業は現行の連結納税制度を前提として事業活動を実施している。新しい連結納税制度に移行する場合には、これまで連結納税制度を採用していた企業の経営実態を踏まえ、不利益が生じないものとすることが見直しの前提となる。
    以下のグループ調整計算や欠損金の取り扱いを検討するにあたり、連結親法人は研究開発やブランドの構築、海外への投資等をグループを代表して実施しており、親会社にこれらに関連する費用が集中することや、ホールディングス形態を取っているために連結親法人で費用・欠損が生じやすいという企業の実態についても十分に踏まえる必要がある。

  2. グループ調整計算のあり方
    企業の実務から見ると、すでに連結納税を適用している場合には、申告納税の作業は、現状でもシステムで自動的に計算できるため、実務負担が大きい点は修更正に伴う作業(特に地方税)となる。このため、基本的には、グループ調整計算できるという立て付けを維持し、そのうえで修更正の影響は遮断するというあり方を検討すべきである。
    連結納税制度は、企業の一体的グループ経営という実態に合った課税を行う制度であり、グループ調整計算の制度はその趣旨を体現するものである。また、連結親法人が純粋持株会社の場合、個別に計算すると税額控除等の限度額が極端に小さくなることに留意すべきである。

    (a)研究開発税制

    とりわけ、難易度の高い研究や中長期な視野で行う研究等については、連結親法人や中核的な事業を行う連結子法人(以下、連結親法人等)で実施しており、連結親法人等の試験研究費の支出割合が高くなることが多い。グループ調整計算を廃止すれば、機能別に会社を分けることが困難となる。企業のグループ経営を機能させる観点から、グループ調整計算は必ず維持すべきであり、無くすことはあってはならない。

    (b)外国税額控除

    連結親法人等はリスクの高い投資の実行・管理・運営や、海外拠点の維持等、グループ全体の海外戦略の中心的な役割を担っている一方で、単体としての所得の水準は限定的である。ロイヤルティ・配当・PEに対して多額の課税を受ければ、グループ調整計算を廃止した場合、外国税額控除の限度額を超過する可能性があり、外国税額控除は繰越期間も3年と短いため、本来控除すべき二重課税が解消できないおそれがある。グループ調整計算は必ず維持すべきであり、無くすことはあってはならない。

    (c)受取配当益金不算入

    株式については、取引先との関係の安定や取締役会等への出席等の関係、資金調達等の観点から、連結親法人等を中心に連結法人間で投資先やグループ会社の株式を分けて持つ場合が存在する。このような観点も踏まえ、グループ調整計算は必ず維持すべきである。
    負債利子控除はこの際、廃止すべきである。負債利子の概算控除を検討する場合は、簡素化とその影響の双方を考慮する必要があり、全体として税負担の増加(益金不算入割合の縮小)とならないようにすべきである。また、100%グループ内の法人間の配当に係る所得税等の源泉徴収についても事務手続の簡素化等の観点からこの際廃止すべきである。単体納税法人の取り扱いについてはグループ全体計算による事務負担を踏まえたうえで検討する必要がある。

    (d)外国子会社配当益金不算入

    国内配当と同様、取引先との関係の安定という理由に加え、仮に1社に集中させようとした場合、中国やインド等、一部の国では株式譲渡益が生じれば源泉課税が発生する。グループ調整計算は必ず維持すべきである。

    (e)寄附金

    連結親法人等が企業グループ全体を代表したCSR活動の一環として支出する事例も多く、グループ一体で計算するのが基本である。日本で寄附による社会貢献を高く評価する風土を醸成すべきである。

    (f)貸倒引当金の繰入限度額

    対象となる金融業界の実務の実態を十分に踏まえて検討が必要である。

  3. 組織再編との関係・欠損金の取り扱い等
    M&Aやグループ内事業再編を促進する観点から、連結納税開始・加入時の時価評価課税・欠損金の切捨ては大幅に緩和すべきである。専門家会合の報告書で提示された通り、現金買収による完全子会社化によって連結納税に加入する場合や適格組織再編に係る連れ子法人がいる場合で、一定の条件のもと、時価評価課税を無くす方向に賛成する。
    連結納税制度と組織再編税制を整合させるという方向性が打ち出されているが、時価評価課税や欠損金の切捨て等の有無に係る判定が過度に複雑化しないよう留意すべきである。
    含み損の損金不算入について、事務簡素化の観点から対象期間をできるだけ短期間とすべきである。
    専門家会合の報告書で提示された構造的に損失(償却費等)が発生する事業に対する制限措置(加入後欠損金の使用制限)については限定的に規定すべきである。
    連結親法人の欠損金の取り扱いについては、連結親法人は研究開発等についてグループを代表して費用を支出するため、そのグループ経営の結果として親法人に欠損金が当然生じうる。また、ホールディングス形態の場合は子法人からの受取配当金が利益の多くを占めており、親会社に税務上の欠損が生じやすい。新制度に移行するからといって、グループ全体の所得から繰越控除をできなくすることには反対である。開始前の連結親法人の欠損金のグループ全体所得への繰越控除が認められなければ、現在、連結納税の採用を検討しているところが採用を見合わせる可能性がある。
    個別申告方式への移行の結果、各連結法人の修更正で生じた所得・欠損金がグループ内で損益通算できなくなるおそれがある。何らかの配慮を検討すべきである。

  4. 連結納税の加入・離脱に関する事務負担の軽減
    連結事業年度内に連結納税グループへの加入・離脱がある場合について、翌事業年度等からの加入、月末・事業年度末等における離脱の選択を可能とする等、事務負担軽減策を導入すべきである。
    あわせて、期中加入法人の加算の廃止・確定申告への一本化等により、法人税の連結中間申告の簡素化すべきである。
    この他、投資簿価修正の簡素化を図るべきである。

  5. 施行関係
    施行時期について、ベンダーのシステム開発に要する期間や企業の準備のスケジュール等も踏まえ、専門家会合の報告書で示された1~2年程度との期間にとらわれることなく、十分な移行期間を確保すべきである。その際には、既存の連結納税法人に加え、単体納税法人や新制度を導入しようとしている企業への影響も考慮すべきである。
    なお、欠損金の取り扱いが変更となる可能性があることから、連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する実務対応報告等が合理的な内容により遅滞なく整備されることを期待する。

(2) 税務手続の簡素化・デジタル化

平成31年度税制改正では、連結子法人に係る異動届出書について連結親法人の納税地の所轄税務署長への届出の不要化、過去分重要書類のスキャナ保存の整備を含む電子帳簿保存制度の見直し等、一定の環境整備が進められた。

「骨太の方針2019」では、「ICTの更なる活用等を通じて、納税者が簡便・正確に申告等を行うことができるよう納税環境の利便性を高め、社会全体のコスト削減及び企業の生産性向上を図る観点から、税務関係システムの高度化も図りつつ、税務手続の電子化等を一層推進する」とされている。また、働き方改革等の動きに伴い、労働生産性の向上が喫緊の課題となっている企業にとって、税務手続の簡素化が極めて重要となる。このため、以下の措置を講ずるべきである。

  1. 消費税の申告期限の延長
    消費税の申告は法人税と密接に連動しているが、申告期限の延長が認められている法人税と異なり、事業年度終了後2月以内に申告を行わなければならず、例えば3月決算法人にあっては、GW期間を含め5月に業務負荷が集中する傾向がある。さらに、消費税申告後に法人税申告で消費税に影響しうる申告調整が判明した場合、消費税の修正申告や更正の請求が必要となり、追加的な事務負担が生じている。働き方改革関連法案の施行に伴う時間外労働の制約のなかで、業務ピークの分散化及び修更正の作業の削減により、生産性を向上させる観点から、消費税の申告期限を法人税申告の延長期限と平仄をあわせるかたちで延長すべきである。

  2. 電子申告義務化の残された課題
    大法人の電子申告の義務化が令和2年4月1日以後開始する事業年度から適用されるなかで、電子申告における指定方式へのデータ変換や国税・地方税における申告内容の重複、申告後の手続の電子化のさらなる推進等、改善すべき点は多い。特に、以下の項目について取り組みを進める必要がある。

    1. データ形式の柔軟化
      • 法人税別表十七(三)(外国子会社合算税制)関連のCSVデータでの提出の容認
      • 消費税申告(還付申告明細書)におけるe-TaxソフトウェアへのCSV読込入力の対応化
    2. 国税・地方税の情報連携の徹底(ワンスオンリー)
      • 法人税別表等の自治体への共有(別表四、五、六関係、七関係、組織再編関係)
      • 更正通知の自治体への確実な共有
      • 異動届出書の税務署からの連携による地方自治体への提出不要化
    3. 更正に係る各通知の電子化
      • 地方法人二税における更正の請求のeLTAXでの対応化
      • 地方による更正通知の電子化
      • 還付通知の電子化
  3. 税務手続のさらなるデジタル化
    財務省及び総務省の「行政手続コスト」削減のための基本計画(2019年3月改定)において、地方税共通納税システムの導入や国税・地方税の情報連携の徹底、従業員に関する税手続の簡便化等がすでに明記されているが、企業・課税庁双方の事務負担をより一層軽減する観点から、引き続き以下の取り組みを推進すべきである。

    • 地方税共通納税システムの対象税目の拡大(償却資産を含む固定資産税、利子割・配当割・株式等譲渡所得割等)
    • 国税の更正決定に伴う地方税の還付の一元化
    • 固定資産税の納税通知書・課税明細書の書式統一・電子化
    • 事業者の負担に配慮した個人住民税特別徴収税額通知(納税義務者用)の電子化及び特別徴収税額通知(特徴義務者用)の完全電子化

    なお、あわせて国際課税分野の移転価格文書化に関する税務手続の負担軽減が必要である(後述)。

(3) ベンチャー企業とのオープンイノベーションやSociety 5.0の実現に資する投資を促進する税制の検討

Society 5.0の実現に向け、AI、ビッグデータ、IoT等の破壊的な技術やビジネスモデルを創出するスタートアップ企業を支援し、大手企業の持つ資金や顧客基盤を有効に活用できるエコシステムの構築が重要となる。ベンチャー企業との連携を通じたオープンイノベーションを促して新たな付加価値を創出し、経済再生を実現するという観点から、事業会社・コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)等によるベンチャーへの投資について、研究開発税制との関係を整理しつつ、税額控除を含め、実効性ある税制上の支援措置を講ずるべきである。

また、Society 5.0の実現を支える情報基盤である5Gの基地局、ローカル5G、ソフトウェア等の整備に係る投資を促進する観点から、法人税における特別償却又は税額控除及び固定資産税の減免等の支援措置を幅広く講ずることを検討すべきである。

2.法人課税の諸課題

(1) 地方法人課税改革

  1. 償却資産に係る固定資産税の抜本的見直し
    生産性の向上に資する設備投資を増大させ、経済再生を実現するため、新規投資を控える要因となっている償却資産に係る固定資産税については廃止を含め抜本的に見直すべきである。特に機械装置への課税は米国やカナダの一部の州等のみで行われている極めて稀な税であり、その米国でも近年、一部の州で廃止の動きが見られる。また、日本の製造業が競合するアジア近隣諸国で例がない。少なくとも新規取得した機械装置や、工具及び器具・備品に係る固定資産税については中小企業に係る特例も参考にしながら縮減すべきである。あわせて、残存価額の廃止等、法人税の課税所得の計算方法との整合性を図るべきである。

  2. 法人事業税

    (a)電力・ガス供給業における収入金課税の見直し

    電力・ガス供給業における法人事業税の課税標準について、地域独占と総括原価主義を根拠として収入割が適用されてきたが、2016年度(電力)、2017年度(ガス)の小売全面自由化による地域独占・総括原価の撤廃に伴い、一般の事業とは異なる収入割を適用する根拠は既に失われている。また、2020年度の法的分離により電力・ガス供給業の競争環境は一層激化することが確実であり、一般の事業との課税の公平性を実現する観点から、電力・ガス供給業における法人事業税の課税標準を収入割から所得割及び外形標準課税へ移行することは、喫緊の課題である。昨年度の与党税制改正大綱も踏まえ、令和2年度税制改正において、確実に改正を実現すべきである。

    (b)付加価値割の簡素化

    外形標準課税付加価値割について、計算等が複雑になっており、企業実務にとって負担となっていることから、簡素化すべきである。

  3. 地方法人所得課税のあり方
    地域経済の活性化のためには、安定した地方歳入を確保するとともに自治体間の税収格差を是正することが必要となるが、地方法人所得課税は地域間の偏在性が大きく、税収も不安定という課題を抱えている。また、税目の多さは、納税者の申告作業を複雑化させ、労働生産性の向上の妨げとなっている。このため、地方の法人所得に対する課税部分、とりわけ地方法人税及び特別法人事業税は国税の法人税に統合し、地方交付税により各自治体に配分する仕組みへと一本化すべきである。中長期的には、地方法人所得課税の課題として、法人の負担水準のあり方について最終的に廃止の方向で段階的な引き下げを検討すべきである。

  4. その他
    事業所税の従業者割は法人事業税付加価値割や法人住民税均等割と同様、賃金・雇用への課税となっており、賃金の上昇への足かせとなっている。さらに、資産割は固定資産税及び都市計画税との二重課税である。これらの点を踏まえ、事業所税は他の税目と整理・統合すべきである。
    また、法人住民税法人税割と法人事業税所得割について、連結納税制度の導入可能性を検討することも考えられる。

(2) 事業再編・企業間連携のさらなる促進

  1. 長期保有土地等に係る特定事業用資産の買換特例の延長・拡充
    特定事業用資産の買換特例は、業種や企業規模、地域にかかわらず広く活用されており、事業再編、投資促進に資する重要な政策ツールである。例えば、製造業も含め投資を行うにあたって不稼動遊休資産等を処分する際にも広く活用されている。買換の類型に関わらず、制度を堅持・延長すべきであり、あわせて、買換資産の土地面積の要件を緩和すべきである。

  2. 自社株式を対価としたM&Aに係る譲渡損益繰延の本則化の検討
    M&A等を促進する観点から、会社法改正に伴う株式交付制度の創設を契機とし、自社株式を対価としたM&Aに応じた株主について、株式譲渡損益の繰延措置の本則化を検討すべきである。この際、子会社株式の買い増しや株式と金銭を併せて対価とする場合も対象とすること、現行の産業競争力強化法における余剰資金超過要件(対価として交付する株式の価額が余剰資金の額を上回ること)の撤廃も検討すべきである。

  3. その他
    組織・人材の流動化を通じて、より成長する産業に資源を投入していくことが経済再生の実現に向けた生産性向上の鍵となる。組織・人材を成長産業に移していく大胆な事業再編を促進すべく、Society 5.0を加速する事業の組み換えを行った場合における譲渡益に対する課税の繰り延べ措置を創設することを検討すべきである。
    また、組織再編税制については、今後も不断に検証を行い、利便性や生産性の向上等の観点から、必要な見直しを行うべきである。
    加えて、事業再編をさらに促進すべく、LLP(Limited Liability Partnership、有限事業責任組合)に対する現物出資時の簿価譲渡を可能とする制度を創設するとともに、効率的・効果的な事業の運営を図り、労働生産性を向上するという観点から、LLCについてパススルー課税を整備すべきである。

(3) 賃上げ・生産性向上のための税制等

  1. 賃上げ・生産性向上のための税制の要件の見直し・計算等の簡素化
    賃上げ・生産性向上のための税制に関し、該当する継続雇用者の判定や給与及び教育訓練費の要件の判別が大きな負担となっており、制度の適用の妨げとなっている。適用要件の見直し、計算等の簡素化を検討し、より活用しやすいものとすべきである。

  2. コネクテッド・インダストリーズ税制の拡充等
    コネクテッド・インダストリーズ税制に関し、対象となるソフトウェアは特定のソフトウェアを新設又は増設する場合及びそれに関連して機械装置器具備品を取得し、資産計上する場合とされているが、企業がクラウドサービスに分析等で委託を行う場合やオペレーティングリース等で費用計上を行う場合には、関連する機器を自社で製作・取得した場合でも、制度の対象外となる。しかし、Society 5.0の推進による生産性向上を図るという観点からは、クラウドサービスを用いる場合でも、関係する投資については対象に含めることが妥当であり、制度の要件を見直す、もしくは、IoTに関する生産性向上に資する投資について、別途減税措置を導入すべきである。

(4) 印紙税の廃止・負担軽減

電子商取引が一般化し、経済取引のペーパーレス化が著しく進展する中、紙を媒体とした文書のみに課税する印紙税は合理性が失われている。本来的には廃止すべきであり、少なくとも期限の到来する工事請負契約書、不動産譲渡契約書に係る特例については延長の上、さらに負担を軽減すべきである。加えて、領収書等に係る印紙税も見直しを検討すべきである。

(5) 各種特例措置の延長・拡充等

  1. 海外投資等損失準備金の延長・拡充
    資源メジャーによる市場の寡占化、新興国の参入等を背景に国際的な資源獲得競争が激化する中、資源・エネルギーの安定供給に向けたわが国企業による探鉱・開発の促進の観点から、海外投資等損失準備金の適用期限を延長するとともに、積立期間延長・積立率の引き上げ等により制度を拡充すべきである。

  2. 金属鉱業等鉱害防止準備金の延長・拡充
    金属鉱業では、閉山後も確実かつ永続的に鉱害対策を実施することが金属鉱業等鉱害対策特別措置法によって義務付けられている。金属鉱業等鉱害防止準備金はその実効性を担保するための税制措置であり、同法が存続する限り確実に延長するとともに、積立金の損金算入割合を拡充すべきである。

  3. 火災保険等に係る異常危険準備金の洗替保証率の引き上げ
    頻発する巨大自然災害に対する保険金支払いに万全を期すため、火災保険等に係る異常危険準備金制度について、準備金の積立残高の上限となる洗替保証率を現行の30%から40%へと引き上げるべきである。また、本則積立率が適用となる残高率も同様に40%へと引き上げるべきである。

  4. 特定原子力施設炉心等除去準備金の恒久化
    事故炉廃炉の確実な実施を確保する観点から、特定原子力施設炉心等除去準備金を恒久化すべきである。

  5. 地方拠点強化税制の延長
    地方創生の観点を踏まえ、地域における企業の投資・雇用を引き続き促進するよう、本税制を延長すべきである。

  6. 外航船舶の圧縮記帳(特定事業用資産の買換特例)の延長
    国際競争力のある船舶の代替建造を適切に実施し、日本商船隊の維持に貢献するとともに、円滑に事業を継続する観点から、外航船舶の圧縮記帳(買換特例)を延長すべきである。

  7. 国際船舶に係る登録免許税の特例措置の延長
    諸外国に比べ割高な国際船舶(外航日本籍船)の取得・保有に係る諸税の軽減を図り、日本商船隊の国際競争力を確保すべく、国際船舶に係る登録免許税の特例を延長すべきである。

  8. 産業競争力強化法に係る登録免許税の軽減措置の延長
    事業再編に伴う税負担を軽減する観点から登録免許税の軽減措置を延長すべきである。

  9. 倉庫用建物等の割増償却及び倉庫等に係る固定資産税及び都市計画税の課税標準の特例の延長
    災害に強く輸送の効率化に資する倉庫の整備を引き続き支援するため、本特例措置を延長すべきである。

  10. 公害防止用設備に係る固定資産税の課税標準の特例措置の延長
    民間事業者における環境負荷低減対策を引き続き促進するため、本特例措置を延長すべきである。

  11. 国内線就航機に係る固定資産税の課税標準の特例措置の延長
    世界的に航空機に固定資産税を課している国が稀ななかで、国内における地方航空ネットワークの維持及びわが国の航空会社が世界に伍していける国際競争力を確保する観点から、本特例を延長すべきである。

(6) その他

  1. 会社法改正に伴う所要の措置
    法制審議会において、本年2月に「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱」が取りまとめられており、今後、この要綱に沿うかたちで会社法の改正が行われることが期待されている。このため、税制においても、所要の措置を講ずるべきである。具体的には、自社株対価M&Aの本則化の検討のほか、役員給与(株式及び新株予約権の無償交付)や役員保険について会社法の見直しに対応した所要の措置を講ずるべきである。

  2. 中小企業を支援する税制措置の延長・拡充等
    日本の製造業等のサプライチェーンを支える中小企業の投資等を促すべく、少額減価償却資産の償却に係る特例を延長するとともに、事業承継のさらなる円滑化に向けた税制措置を検討すべきである。

  3. 原料用途免税の本則非課税化
    ナフサに係る石油石炭税の免税・還付措置、鉄鋼・コークス・セメント製造に係る石油石炭税の免税措置については「当分の間」とされているが、そもそも諸外国ではこれら原料に課税している例はない。国際的なイコールフッティングの観点から、ナフサに係る揮発油税も含め、原料用途免税を本則非課税化すべきである。

  4. 役員給与等の見直し(業績連動型の譲渡制限付株式の損金算入等)
    平成29年度税制改正では、事前確定届出給与について一定の条件のもとで損金算入の範囲が拡大されたが、業績連動型の譲渡制限付株式については、損金不算入とされた。しかし、政府主導の下、コーポレートガバナンスの強化の流れの中で株式報酬制度の導入を促し、役員報酬の開示が2019年3月から充実され、各社で様々な取り組みがなされている。このため、業績連動型の譲渡制限付株式についても、損金算入を可能とすることを検討すべきである。
    また、役員・従業員に対する株式報酬の手法として活用されている譲渡制限付株式(RS)及び譲渡制限付株式ユニット(RSU)についても、税制適格ストックオプションの場合と同様に、株式売却時にのみ課税がなされる取り扱いにできる制度の創設を検討すべきである。

  5. 欠損金の繰越期間の延長・無期限化、繰戻還付
    欠損金の繰越期間については、10年間とされているが、国際的イコールフッティング、対日投資促進の観点から延長・無期限化すべきである。あわせて、大法人における繰戻還付についても復活すべきである。

  6. 国際連帯税(航空券、金融取引への課税)の導入反対
    国際連帯税の導入に反対する。航空券に課される航空券連帯税は、受益と負担の関係が不明確であり、航空利用者にのみ負担を求める極めて不合理・不平等な税である。また、為替取引や金融取引に対する課税についても、経済活動や資金の流れ全般に悪影響を与え、我が国の経済や金融資本市場の国際競争力を低下させるリスクが高い。

  7. 投資法人に係る税制措置の整備
    投資法人が税会不一致による二重課税を解消すべく、利益超過分配を行う場合に、圧縮積立金及び買換え特例圧縮積立金を取り崩さずにすむよう措置する等の所要の措置を講ずるべきである。

  8. 留保金課税の見直し
    企業の自己資本の充実による投資促進の観点から、特定同族会社の留保金課税は廃止すべきである。

  9. 一般寄附金に係る損金算入限度額の緩和
    一般寄付金の損金算入限度額を緩和すべきである。例えば、損金算入限度額は資本金等の額に応じ変動するところ、自己株式の取得により資本金等の額が僅少又はマイナスとなる場合がある。法人事業税の資本割を参考に、資本金等の額が資本金及び資本準備金の額を下回る場合には、資本金及び資本準備金の額を基礎に損金算入限度額を算定すべきである。

  10. 大学への寄附促進に関する税制措置のあり方の検討
    大学へのさらなる寄附の促進を図るため、税額控除の対象となる寄附の要件を含め、税制措置のあり方を検討すべきである。

  11. 防災・国土強靭化に資する税制措置の検討
    地震・津波等の自然災害に対する設備等の強化等の事業者の自主的対策を後押しする観点から、関連する投資等に税制上の支援措置を講ずることを検討すべきである。

  12. 時価の算定に関する会計基準等の公表に伴う税制の整備
    会計基準等との整合性を図る観点から、税制上の所要の措置を講ずるべきである。

  13. 電話加入権の損金算入
    固定電話の電話加入権は現行税法上、非減価償却資産とされているが、現在の流通価格の水準等を踏まえ、税法上、電話加入権の損金算入を可能とすべきである。

3.国際課税の諸課題

(1) BEPS勧告の国内法制化に関する課題

  1. 外国子会社合算税制(CFC税制)

    (a)部分合算課税の範囲の適正化

    能動的な事業に係る所得であるにも関わらず、機械的に部分合算課税の対象範囲とされるものについて、当該事業の実態や当該所得の発生の経緯等も踏まえ見直しを行うべきである。
    例えば、商品販売に際して取引先にユーザンス(代金回収までの一定期間について、支払いを猶予すること)を供与した場合に受け取る利子について、事業活動に直接関わる所得として受動的所得から除外すべきである。
    また、能動的な事業に係るデリバティブ取引については、現地で能動的な事業を行う外国関係会社が当該事業活動の一環としてデリバティブ取引を行う場合、事業者単位の特例においてもなお除外されないデリバティブ取引の損益を、受動的所得から除外すべきである。
    部分合算課税の金額について、会社単位の合算課税額を上限とすべきである。
    海外メジャーとの競争もあり、鉱物資源投資を行う場合に25%以上の持分を確保することは容易でない。資源間の取り扱いの平準化を図る観点から、化石燃料投資からの配当に係る10%持分要件の基準を鉱物資源投資にも適用すべきである。

    (b)キャピタルゲイン特例の要件の見直し

    平成30年度税制改正で導入された外国子会社合算税制のキャピタルゲインの特例に関し、ペーパーカンパニーの解消という趣旨等も踏まえつつ、より制度の使い勝手を向上させるべく、譲渡元要件、譲渡先要件、譲渡対象株式要件や5年以内の譲渡期間要件等の緩和を検討すべきである。

    (c)その他
    • 外国関係会社の合算対象金額の合算時期について、現在は、外国関係会社の事業年度終了から2月を経過する日を含む内国法人の事業年度で合算としているが、米国税制改正等を踏まえ、事務負担軽減の観点からこれを4月を経過する日に延長すべきである。
    • 外国関係会社の解散後の債務免除益については、租税回避を目的としたものではないため、合算の対象から除外すべきである。
    • コンテンツ事業を営む外国関係会社がその所在地国で著作権者から著作権を譲り受け、放送会社等に対しその使用許諾を行う場合、その子会社が固定施設及び従業員を有し、能動的な著作権者や著作隣接権者等の市場開拓及びマーケティング、サポート活動を行っていたとしても、無形資産に属する権利の一つである著作権を用いた事業という法令の機械的な解釈により、著作権の提供が主たる事業と判定され、事業基準に抵触し、一律合算となるおそれがある。外国子会社合算税制の趣旨に合致しない過剰合算の問題を誘発しないよう、経済実体を伴って行われる事業で一定の要件を満たすコンテンツに関する著作権事業については、事業基準に抵触しないことを明確化すべきである。
    • 資産担保証券の発行の際に投資家保護の観点から、被担保資産であるローン債権の当初の所有法人からの倒産隔離の必要性のため国外でLLCを設けている場合がある。このようなLLCは、租税回避目的のペーパーカンパニーではないため、外国子会社合算税制の合算対象外とすべきである。
    • 投資法人(特定目的会社等を含む)に係る外国関係会社が負担する外国法人税及び外国関係会社が現地税法上パススルー扱いとされる場合に投資法人が納付する外国法人税について、投資法人に係る二重課税調整の対象とすべきである。
    • 新税制(平成29年度改正)適用開始前の外国関係会社(特定外国子会社等に該当しないもの)の欠損金について新税制で外国関係会社に当たる場合、繰越控除を可能とすることを検討すべきである。
    • 外国関係会社における持分割合の判定については、会社ごとではなく、グループ全体の持分に基づいて判定することを検討すべきである。
  2. 移転価格文書化

    (a)最終親会社等届出事項の提出期限の延長

    最終親会社等届出事項は、現状、報告対象となる会計年度の終了日までに提出する必要があるとされているが、連結決算の実務上、連結対象会社が確定するのは、事業年度末月の翌月以降となるため、事業年度終了日時点の情報だけで構成会社等を確定させるのは実務上困難である。また、諸外国の制度でも会計年度末よりも後ろ倒しするかたちで期限を設定している国も多く存在する。このため、最終親会社等届出事項の提出期限について、一定期間延長すべきである。

    (b)国別報告事項(CbCR)の利便性向上

    国別報告事項の申告の際に、エラー箇所の表示や提出前のイメージデータ表示が可能となるよう、e-Taxにおける環境を整備すべきである。

    (c)移転価格文書化制度の円滑な実施

    実施フェーズに入った移転価格文書化制度について、各国がOECD勧告に準拠した法制化と執行を行うように、日本政府としてOECDと連携し各国に働きかけることが必要である。また、引き続き国際課税における紛争の未然防止に向け、FTA(OECD税務長官会議)が主導するICAP(International Compliance Assurance Programme)の取り組みに日本として積極的に関与するとともに、取り組みの深化・さらなる広がりに期待する。
    マスターファイル及びローカルファイルについては、OECDにおけるCbCRの2020年に向けたレビューの中で併せて取り上げ、各国で要求項目を統一することが必要である。

  3. 過大支払利子税制
    過大支払利子税制における対象外支払利子等の判定において、保険業の実態を踏まえ、保険負債利子等について所要の措置を講じる必要がある。

  4. 義務的開示制度
    労働生産性の向上の観点からも実務負担のさらなる増加につながる義務的情報開示制度の日本への導入については、制度の要否を含め慎重に検討すべきである。万が一導入される場合でも、納税者の事務負担を最小化する観点から、報告義務者はプロモーターとすべきである。

(2) 租税条約ネットワークの充実

BEPS防止措置実施条約は2019年1月に我が国でも発効された。本条約の批准書等を寄託した国・地域と我が国との間の租税条約に対する本条約の適用関係については、政府よりガイダンス(synthesised text)が順次公表されている。また、本年7月に米国上院で承認され改定日米租税条約が発効される見込みとなった。

今後、租税条約の適用におけるPEの範囲及び帰属利得に関する解釈・執行の国際的調和に向け、引き続きOECDによる各国の実施状況の適切なモニタリングの実施に期待する。

また、投資交流の促進と二重課税の排除という租税条約の本来の目的をさらに促進し、投資所得に対する源泉税の減免等を実現すべく、次の国との交渉を推進すべきである。なお、技術上の役務対価(FTS、Fees for Technical Services)条項については、既存の租税条約で盛り込まれている場合には見直しを行うとともに、新規締結時にも慎重に検討すべきである。なお、税務紛争の解決の観点からは、多国間協定によるものであれ、個別の条約交渉によるものであれ、対応的調整規定や仲裁規定を導入することが重要である。

改定:
中国、インド、パキスタン、タイ、インドネシア、ベトナム、ブラジル、シンガポール、韓国、カナダ、フィリピン、マレーシア、アイルランド、台湾
締結:
ミャンマー、ベネズエラ、イラン、アルジェリア、ペルー、ボリビア、パナマ、モンゴル、カンボジア、モロッコ、ケニア、ガーナ、ナイジェリア、チュニジア、ウガンダ、コートジボワール、セネガル、エチオピア、ブルキナファソ、モザンビーク

(3) 経済の電子化に伴う課税のあり方の見直し

  1. 基本的考え方
    経済の電子化に対する税務上の対応として欧州諸国等を中心にオンライン広告等について課税を行う動きが活発化している。フランスでは、2019年7月に法案が上下両院を通過し、一定の規模のIT企業等を対象に2019年1月から遡って売上高の3%に課税する制度が導入された。
    このような電子経済活動にかかる各国の一国主義的な売上への課税に対しては懸念を持っている。一国主義的な売上への課税は二重課税を生じる恐れがあり、貿易投資に対する不確実性を増大させるとともに、経済成長へ予期しない悪影響を与える可能性がある。既存の国際課税原則から乖離するような課税上の措置は、継続的な多国間での議論が必要であるにもかかわらず、一国主義的な売上への課税措置はそうした重要な議論を経ていない。
    今後、各国の一国主義的な課税の広がりを抑制するうえで、OECD・G20の主導による国際合意による長期的解決策の提示が極めて重要である。OECD・G20では経済の電子化によって生じる課税問題の解決に向けて、各国の合意に基づく長期的解決に向けた最終報告を2020年までに行う努力を続けており、一国主義的な売上への課税に対しては暫定的な措置であっても重大なリスクと悪影響を及ぼすと表明している。
    デジタル課税に関する包摂的枠組(IF)の作業計画が5月にOECDより公表され、6月のG20福岡財務大臣・中央銀行総裁会議及び7月のG20大阪首脳会合で承認された。経団連はこれらの取り組みを国際合意に向けたステップとして評価する。G20首脳宣言において「2020年までの最終報告書によるコンセンサスに基づく解決策のための取組を更に強化する」とされていることも踏まえ、日本政府が今後も関係国と連携してOECDの作業計画の進捗を支援することを期待する。
    作業計画は国家間の利益配分ルールの見直し(第1の柱)と、軽課税国への利益移転に対抗する措置(第2の柱)からなり、2020年1月までに長期的解決策の大枠について合意したうえで、2020年末までに最終報告書を取りまとめることを明確化している。今後、詳細はIFで検討するが、OECD・G20のリーダーシップに期待したい。

  2. 第1の柱(利益配分ルール)
    第1の柱では、市場国又はユーザーの参加国でも一定の課税ができるよう国際課税原則を見直すこととされ、利益の算定方法について修正残余利益分割法、定式配分法、distribution-based approachesの3案が提示されている。加えて、従来からの「PEなければ課税なし」の原則のみでは解決困難な課題への対処として、ネクサス(課税の根拠)については、物理的拠点に限定しない方向性を提示している。新制度の対象は、税務当局及び納税者双方が準拠しやすい比例原則に見合った制度設計にし、適用対象は超過利益がある法人に限る等、対象範囲を適切に絞り込むべきである。また、課税権の配分方法について、企業活動における価値創造の実態を踏まえれば、本店所在地国における研究開発活動が重要なウェイトを占める場合も多いため、マーケティング無形資産(MI)を過大評価すべきではなく、市場国への追加的な利益配分は、穏当なものとすべきである。利益を配分するならば、損失についても当然に配分することが必要である。
    執行面についても、紛争の予防・解決の確保及び事務負担の軽減という観点が不可欠である。紛争に関しては、利益配分のあり方について複数国間で見解が相違するケースが増加すると見込まれることから、既存の二国間の枠組みに加え、ICAPも参考に多国間の枠組みも含めて二重課税の防止・排除を確実に担保すべきである。二重課税を早期かつ確実に救済する観点から仲裁制度の導入も重要となる。また、制度の実施に伴う事務負担は可能な限り軽減すべきである。なお、実際に配分する利益の計算にあたっては、ハイレベルのリスク評価のツールであるCbCRに基づいて計算を行うことは適切ではない。

  3. 第2の柱(ミニマム課税)
    第2の柱では、既存のBEPS(税源浸食と利益移転)勧告との重複感があり、必要性を感じない。そもそもミニマム課税は企業の海外展開を阻害し、企業の国際競争力が低下するおそれがあり、導入については慎重に検討すべきである。制度については、納税者の事務負担の増加とならないよう簡易なミニマム税判定等、事務負担を最小化することが大前提となる。少なくとも、関連者の範囲は50%超の資本関係とすべきであり、また、実態ある事業に関わる項目(能動的所得)は対象から除外する必要がある。なお、第2の柱においてミニマム課税が各国の合意をもって導入された場合でも、まずはCFC税制との制度の重複を排除することが必要であり、あわせて諸外国と比べても厳しい内容となっている我が国のCFC税制について、ミニマム課税の内容にあわせて抜本的に簡素化することも含めて検討すべきである。CFC税制との二重課税や過度な事務負担が企業に課されることを懸念する。

(4) その他

  1. 外国税額控除の改善
    外国税額控除制度における繰越限度超過額及び控除余裕枠の繰越期間は3年と短いため、期間の経過により国際的な二重課税が排除されないおそれがある。企業の海外活動の制約とならないよう、繰越期間を延長すべきである。また、地方法人税において繰越規定を整備すべきである。
    なお、控除対象外国法人税の範囲の見直しについては、適用範囲の厳格化によりわが国企業の国際競争力を削ぐことに繋がりかねないことから、慎重に検討すべきである。

  2. 外国子会社配当益金不算入における益金不算入割合の拡充
    海外で獲得した資金を国内へ還流させ、国内における生産・研究開発等を促進することは、わが国企業が国際競争力を維持するために極めて重要である。その観点から、米国における税制改正等も参考としつつ、外国子会社配当益金不算入制度の益金不算入割合を95%から100%へと拡充すべきである。

  3. 移転価格税制における国外関連者要件の見直し
    国外関連者要件は株式保有比率50%以上とされているが、50%では実際には支配権が及ばない場合があること、また、連結財務諸表構成会社を対象とする国別報告事項、事業概況報告事項との整合性を図る観点から、50%超支配要件へと見直すべきである。

  4. 国際課税分野における通達等の充実
    移転価格税制や外国子会社合算税制等の国際課税分野に関し、納税者が確実に税務実務を執行するためにも引き続き通達、Q&A、別表等でさらなる明確化を図るべきである。

4.環境・エネルギー関係諸税

(1) 地球温暖化対策税の抜本的な見直し

グローバル市場における日本企業の競争力確保とSociety 5.0の実現の観点から、経済合理的な価格で安定的にエネルギーを供給することは極めて重要な課題である。2012年に導入された地球温暖化対策税は、エネルギーコストの上昇に拍車をかけているうえ、三段階目の税率引き上げが行われた現在においても、税収実績と具体的な使途及びそれに対応する定量的なCO2削減効果が明らかにされておらず、エビデンスに基づく政府関係部局統一の政策効果の検証も行われていない。昨年秋に実施された行政事業レビューにおいても、財源の大幅な拡大により、不要不急の事業が予算計上されていないかどうか、引き続き検証が必要である旨、指摘されている。こうした状況を踏まえ、地球温暖化対策税については、まずはその実績、効果を明らかにするとともに、課税の廃止を含め、抜本的に見直すべきである。

加えて、新たな炭素税等の導入による明示的カーボンプライシングの強化は、既に国際的に高水準にあるわが国のエネルギーコストのさらなる上昇等によって、エネルギー政策の基本方針である「S+3E」のバランス(安全性(Safety)の確保を大前提とした、安定供給(Energy security)、経済効率性(Economic efficiency)、環境性(Environment)のバランス)を崩し、経済活動の減退と国際競争力の低下をもたらす。そればかりか、企業の研究開発・投資原資の減少にもつながり、長期温暖化対策に必要となる民主導のイノベーションを阻害することとなる。そもそも新たな炭素税等の導入は、税制上具体的な議論を始める段階にあるとはいえず、反対である。

(2) 非製品ガスに係る石油石炭税の還付措置の延長

石油製品の生産プロセスで不可避的に発生する非製品ガスは、燃料・原料利用が困難で製品としての価値を有さないため、これらに対して石油石炭税をかけることは事業者の大きな負担となる。社会全体を支えるインフラとしての石油製品の安定供給及び国際的なイコールフッティングの観点から、製油所で発生する非製品ガスに係る石油石炭税の還付措置の適用期限を延長すべきである。

(3) 省エネ再エネ高度化投資促進税制の延長・拡充

わが国では地球温暖化防止の観点から、引き続き省エネ・再エネ技術の開発・普及を促進することが重要となっている。本税制を延長するとともに、グループ一体となった省エネ投資の一層の促進のため、認定管理統括事業者等が計画の認定を受けた場合にも、本税制を適用できることとすべきである。

(4) エネルギー関係諸税の負担軽減

  1. 消費税とのTax on Taxの速やかな解消、当分の間税率の廃止
    石油関係諸税(揮発油税、地方揮発油税、石油ガス税等)は消費税との関係でTax on Taxとなっているため、速やかに解消する必要がある。そもそも、石油関係諸税の「当分の間税率」は、一般財源化された時点で課税根拠を喪失しており、廃止すべきである。

  2. 航空機燃料税に関する軽減措置の延長
    航空機燃料税は、世界的に見て極めて稀な課税であり、オープンスカイにより激化する国際競争に必要なイコールフッティングの阻害要因となっている。また、本措置は、魅力ある地方への移動を促進するという観点から成長戦略実行計画で「地方創生への切り札、成長戦略の柱」とされる観光立国の推進にも資するものである。このため、本措置を維持することが不可欠である。

  3. 次世代バイオエタノールに対する揮発油税免税制度の拡充
    現在、消費者負担を軽減するため、バイオETBE配合ガソリンに係るバイオエタノール相当分の揮発油税・地方揮発油税の免税制度が講じられている。政府は、非可食セルロース、廃棄物、カーボンリサイクル由来炭素を原料とする国産の「次世代エタノール」へシフトする方針を打ち出しているが、現行免税制度が動植物に由来する有機物(バイオマス)を原料とするエタノールに限定しており、バイオマス以外が混在する「次世代エタノール」は本免税制度の適用を受けることができない。「次世代エタノール」も本免税制度の適用とすべきである。

  4. 特定用途石油製品等に係る石油石炭税の還付措置等の延長
    農林水産物の安定供給や国民生活にかかるインフラを支える産業を支援する等の観点から、以下の還付措置等を延長すべきである。

    • 国産農林漁業用A重油に係る石油石炭税の還付措置
    • 地球温暖化対策税に係る石油石炭税の還付措置(航空機・鉄道・内航船舶)
    • 苛性ソーダに係る石油石炭税の還付・軽減措置

5.住宅・都市・土地税制

(1) 住宅の負担軽減にかかる税制

住宅投資は地域経済や他産業への高い波及効果、雇用創出効果を有する内需の柱であり、消費税率引上げに伴い国民の住宅取得にかかるコストが増大する中、住宅市場を活性化し、住宅取得をしやすい環境を維持するためにも、以下の住宅に係る特例を延長・拡充すべきである。

  1. 新築住宅に係る固定資産税の軽減措置の延長
  2. 居住用財産の買換え・売却に伴う特例の延長
  3. その他
    • 住宅の登録免許税の特例の延長
    • 宅地建物取引業者等が取得する新築住宅の取得日に係る特例措置及び一定の住宅用地に係る税額の減額措置の期間要件を緩和する特例措置の延長
    • 住宅の買取再販に係る登録免許税の特例の延長
    • 長期優良住宅に係る登録免許税・不動産取得税・固定資産税の特例の延長
    • 認定低炭素住宅に係る登録免許税の特例の延長
    • マンション建替えに係る登録免許税及び不動産取得税の特例の延長
    • 耐震・省エネ・バリアフリー・長期優良リフォームに係る特例の延長・拡充
    • 世帯構成の変化等を踏まえた住宅取得支援税制の要件の見直し

(2) 都市・土地税制

Society 5.0の実現に向け、都市の活性化や防災性能の向上、都市機能の効率化及び土地利用の円滑化や土地に係る税負担の軽減等の観点から、以下の都市・土地税制に関する特例を延長・拡充すべきである。

  • 国家戦略特区に関する特例の延長・拡充
  • 都市のコンパクト化推進やスポンジ化対策のための支援措置の延長
  • 都市の防災性能向上や物流効率化の実現に向けた支援措置の延長・創設
  • 働き方改革を実現するためのサテライトオフィス等の設置への支援
  • 個人の優良長期譲渡所得の軽減税率特例の延長
  • 所有者不明土地問題に対する税制上の対応

なお、地価税・土地譲渡益重課税制度は廃止すべきである。少なくとも、土地譲渡益重課税制度の停止措置は延長すべきである。

6.自動車関係諸税

平成31年度税制改正により自動車関係諸税については、自動車税の恒久的な減税による保有時の負担軽減が実現し、また、取得時の負担軽減についても、需要平準化対策の観点からの対応がなされた。

今後の自動車関係諸税の検討にあたっては、自動車の変革がもたらすであろう新たなモビリティ社会や環境負荷の低減に対する要請も念頭に置きつつ、引き続き見直しを行っていく必要がある。見直しにあたっては、複雑な体系となっている自動車関係諸税を簡素化するとともに、欧米諸国と比べ過重なユーザー負担の軽減を図る必要がある。

近時、通商問題が厳しさを増している中で、今後の国内生産・雇用を守るためにも、国内市場に対し税制面で影響緩和を目指していくことが重要である。

また、既に課税根拠を喪失している自動車重量税に上乗せされている「当分の間税率」は早急に廃止すべきである。あわせて、税制の簡素化の観点から、自動車税の初年度月割課税を廃止すべきである。

7.金融・証券・保険税制

(1) NISA 制度(一般NISA・ジュニアNISA・つみたてNISA)の恒久化

中長期的な投資による資産形成の支援、継続的な市場の活性化の観点から、NISAの投資可能期間(制度期限)及び非課税保有期間を恒久化すべきである。特に、投資可能期間については、新たに投資を開始する場合に、非課税投資総額が減少し、制度のメリットを十分に享受できなくなる可能性がある。そのため、開始時期に関わらず、少なくとも一般NISA及びジュニアNISAは5年、つみたてNISAは20年の投資可能期間が確保されるようすべきである。

あわせて、つみたてNISAの投資対象商品に関し、東証REIT指数のみで組成された投資信託及びETFを加えることを検討すべきである。

(2) 上場株式等の相続税評価の見直し

上場株式(ETF 及びREITを含む)並びに公募株式投資信託について、価格変動リスク等を考慮すれば、他の相続財産と比較して、相続税の負担感が相対的に高いため、相続税評価額を見直すべきである。比較的長期間保有する個人株主の増加は、個人によるリスクマネーの供給促進に資することとなる。

(3) 金融所得課税のさらなる一元化の検討

金融所得課税については、2020年度に総合取引所が発足する見込みとなったことも踏まえ、高齢化社会における金融資産の効率的な運用、金融資本市場の活性化、企業の円滑な資金調達等の観点から、実務面の課題に十分配慮しつつ、今後もさらなる一元化を検討すべきである。

なお、金融所得課税のあり方の見直しは慎重に検討すべきである。

(4) 生命保険料控除制度の拡充

持続可能な社会保障制度の確立と国民生活の安定に資するために、生命保険料控除制度を拡充すべきである。

8.年金税制

(1) 退職年金等積立金に係る特別法人税の廃止

少子高齢化が本格化する中にあって、老後の所得確保を図る観点から、企業年金・個人年金の普及・拡大が重要となる。退職年金等の積立金に係る特別法人税は、令和元年度末で課税の凍結期限を迎えるが、課税の再開等はあってはならない。企業年金の利回りの確保が重要な課題となっており、また老後の資産形成の観点からiDeCo(個人型確定拠出年金)の充実等が図られているなかで、課税が再開されれば、企業年金・個人年金の拡充の方向性とも逆行することとなる。退職年金等の積立金に係る特別法人税は国際的にも稀な税であることから、速やかに廃止すべきであり、少なくとも凍結措置については延長すべきである。

(2) 確定拠出年金制度の拡充

中長期的な投資による資産形成を支援するとともに、日本の資本市場を活性化させる観点から、確定拠出年金制度を拡充すべきである。具体的には、確定拠出年金における加入可能年齢の範囲拡大、拠出限度額の引き上げ、拠出限度額内のマッチング拠出の自由化、中途引き出し要件の緩和、企業型確定拠出型年金加入者のiDeCo加入要件の緩和等を行うべきである。

9.消費税

(1) 消費税の仕入税額控除に係る95%ルールの復活

消費税の仕入税額控除制度については、事業者の事務負担を軽減する観点から、95%ルールを復活させるべきである。

(2) 適格請求書方式における事務負担の軽減に向けた所要の措置

適格請求書方式において、消費税額の端数処理は、適格請求書単位で税率ごとに1回行うとされているが、業務プロセス等の見直しも伴うこととなるため、事業者の実態を踏まえて見直しを行う等の所要の措置を検討すべきである。また、端数処理計算の誤り等により、仕入税額控除全体が否認されることのないようにすべきである。

(3) 福祉車両や損害保険等の仕入税額控除ができない非課税取引への配慮

福祉車両や損害保険料等の仕入税額控除ができない非課税取引については、転嫁の難しさにより事業者の負担が大きい。また、損害保険料については、非課税取引の性質から業務の内製化を志向させる税の中立性の課題(セルフ・サプライ・バイアス)を拡大させる。このため、非課税取引について一定の配慮をすべきである。

以上

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