Policy(提言・報告書) 経済政策、財政・金融、社会保障  医療保険制度の改革に向けた被用者保険関係5団体の意見

令和元年11月8日

健康保険組合連合会
全国健康保険協会
日本経済団体連合会
日本商工会議所
日本労働組合総連合会

医療保険制度の改革に向けた被用者保険関係5団体の意見

現在、政府は、全世代型社会保障検討会議を設置し、社会保障制度を誰もが安心できる制度とするため、議論を進めている。高齢化により医療需要が高まるなか、2022年には団塊の世代が後期高齢者に入り始め、医療給付費の急増が見込まれる一方、支え手である現役世代の人口は急減が見込まれている。医療・介護・年金を合わせた保険料率の30%時代が目前に迫るなど、すでに限界に達している現役世代や企業の拠出金を合わせた保険料負担は、今後一層過重になることが予想されている。こうした状況が現役世代の可処分所得の減少や将来不安を招き、消費活動、ひいては経済活動へ悪影響を及ぼすことが懸念される。

このような共通する問題認識のもと、被用者保険関係5団体は、下記の通り意見をとりまとめた。政府におかれては、将来にわたる制度の機能の発揮と持続性確保に向け、全世代型社会保障検討会議の取りまとめ及び骨太方針2020の策定において下記項目を盛り込み、給付と負担の見直しを含む医療保険制度改革を確実に実行するよう強く要望する。

1.後期高齢者の窓口負担について

高齢者の医療給付費は増大し、それを賄うための拠出金が保険者の財政を圧迫し、保険料率引き上げ等により現役世代の負担となっている。現役世代に偏った負担を見直し、高齢者にも応分の負担を求めることで、給付と負担の世代間のアンバランスを是正し、公平性、納得性を高めていくことが重要である。現在、70~74歳の高齢者の窓口負担が2割であることを踏まえ、75歳以上の後期高齢者の窓口負担についても、低所得者に配慮しつつ早急に原則2割とする方向で見直すべきである。

2.拠出金負担の軽減について

2022年度から急激に増加する拠出金の負担に耐え切れず、解散を検討する健保組合がさらに増加する可能性がある。現役世代の負担に過度に依存する制度では、持続可能性を確保できない。高齢者の医療給付費に対する負担構造改革を早急に断行すべきであり、安定財源を確保した上での公費負担の拡充など、現行制度の見直しを含め、現役世代の負担を軽減し、保険者の健全な運営に資する措置を講じるべきである。特に、後期高齢者の現役並み所得者については、それ以外の者と同様に、公費負担50%とするべきである。なお、現役並み所得者の範囲を拡大する場合は、少なくとも拠出金負担増が生じないよう財政支援等の負担軽減措置が必要である。

3.保険者機能の強化について

健康寿命をより延伸させ、健康な高齢者には社会保障を支える側に加わっていただくことが、制度の持続可能性を高めることにつながる。そのためには、職域・地域に関わらず、すべての医療保険者には、加入者に対する健康増進などこれまで以上に重要な役割が求められる。個々の保険者が、それぞれの特性を活かして保険者機能を発揮できる制度体系を維持し、企業、労働組合との連携を含め、保険者機能をより強化していくべきである。

4.医療費の適正化等について

持続可能な制度を構築していくためにも、医療費の適正化に取り組むことは不可欠である。地域医療構想の推進や医療機能の分化・連携による医療の効率化や地域間格差の是正とともに、総合診療専門医の積極的育成など、より効率的・効果的な医療の実施を目指すべきである。また、終末期医療のあり方の見直し(患者の意思の尊重等)、適切な受診行動の促進など医療の有り様を見直していくとともに、「国民皆保険の持続性」と「イノベーションの推進」を両立し、「国民負担の軽減」、「医療の質の向上」を実現するための薬価制度の抜本改革の推進や後発医薬品のさらなる使用促進、フォーミュラリ(生活習慣病治療薬の適正な選択)の導入の推進、薬剤処方の適正化(重複・多剤投薬の是正、服薬管理の徹底、向精神薬の使用の適正化など)、診療報酬の包括化、ICTを活用した医療の適正化・効率化など、保険診療や診療報酬のあり方に踏み込んだ見直しに取り組むべきである。

5.社会保障の持続性確保について

社会保障制度の持続性を確保するためには、国民の理解を得ながら、社会保障にかかる歳入・歳出両面について、さらに検討を進めるべきである。この際、被用者保険の保険料への負担転嫁は行うべきではない。

以上

【参考資料】

〔世代間のアンバランス〕
年齢別1人当たりの医療費・保険料・自己負担の変化額