Policy(提言・報告書) 環境、エネルギー  「今後の石綿飛散防止の在り方について(答申案)」に対する意見 ― パブリックコメント募集に対する意見 ―

中央環境審議会 石綿飛散防止小委員会
「今後の石綿飛散防止の在り方について(答申案)」に対する意見
2019年12月12日
一般社団法人 日本経済団体連合会
環境安全委員会 環境管理WG

本年11月に公表された「今後の石綿飛散防止の在り方について(答申案)」に対し、下記のとおり、意見を提出する。

1.総論(石綿飛散防止対策全般に係る考え方)

石綿の飛散防止対策は、あらゆる関係者が真摯に取組むべき重要な課題である。国・自治体、解体等工事の発注者、受注者・施工業者をはじめ、石綿飛散防止対策に携わる関係者が、良好なコミュニケーションを取りつつ、適切に役割分担し対応することは、当然の責務であると考える。

そのためには、大気汚染防止法(大防法)の見直しの内容が、労働安全衛生法の石綿障害予防規則(石綿則)など、他の関係法令と整合性が確保されるとともに、対応にあたる関係者が、混乱なく効果的に対応可能となるよう、合理的で実行可能なものとなることが求められる。

今般、「今後の石綿飛散防止の在り方について(答申案)」において示された方向性は、全体として上記の考え方に沿うものと言える。個別の論点に関する意見は下記を参照されたい。

2.特定建築材料以外の石綿含有建材の除去等作業の際の石綿飛散防止 (P5-8)

答申案の5ページには、「建材の種類、除去工法及び工事の規模にかかわらず、基本的に全ての工事を大防法上の特定建築材料に係る規制の枠組みの対象とするべき」との指摘がある。

これにより、特定建築材料以外の石綿含有建材(レベル3建材)を含む全ての建材を大防法の規制対象とし、具体的な作業基準を定めるとともに、事前調査の対象とすることになる。この点については、現行の石綿則の規定との整合性を図る上で、合理性があると考える。

また、レベル3建材の特定粉じん排出等作業の届出については、答申案6ページにあるように、大防法における全国一律の制度とはしない方向が示されており、この点についても賛同する。

答申案に指摘されるとおり、仮に、レベル3建材の除去作業を届出の対象とした場合、約5倍~20倍程度の対象工事件数の増加により、都道府県等の確認業務の大幅な増加が想定される。

さらに、各自治体による届出の確認終了までの期間が延びることで、工事着工の大幅な遅れや作業期間延長といった実務的な影響が生じ、かえって実効ある石綿飛散防止対策の実現を妨げることとならないよう留意する必要がある。

加えて、レベル3建材除去作業時に効果的な対応を講じるためには、まずは詳細・明確かつ実効ある作業基準を規定することが必要不可欠である。その上で、除去作業者に対し、作業開始前に適切な作業計画の策定を義務付けることが重要である点を強調したい。

3.事前調査の信頼性の確保 (P8-P12)

(1)一定の知見を有する者による事前調査の実施 (P9-10)

答申案の9ページにあるように、建築物石綿含有建材調査者講習登録制度につき、これらの資格保持者が少ない現状に鑑み、「一定の知見を有し、的確な判断ができる者」の育成に努め、飛散性の高い石綿含有建材が使用されている可能性の高い建築物の調査において、特に活用するとの方向に賛同する。

その上で、まずは、事前調査を行う者が備えるべき要件を明確化し、そのような人材を活用する対象となる建築物の限定と段階的な拡大といった移行措置が必要である。また、こうした人材を育成するための講師等の養成も重要である。

(2)事前調査の結果の記録等 (P10-11)

事前調査の信頼性の確保に向けて、答申案では、10ページにあるように、受注者に対し、事前調査の結果及び発注者への説明に係る記録を一定の期間保存することを義務付ける必要があるとされている点に賛同する。

現行法の下では、発注者による除去等作業実施に関する届出がない場合に、発注者に無届出の原因があるのか、受注者が事前調査あるいは説明等を怠ったのか確認ができない場合がある。この点、上記の措置は、発注者・受注者間の役割分担の明確化に資する。これにより、それぞれの主体が責任をもって適切な対応を行うことにつながると考える。

(3)事前調査の結果の都道府県等への報告 (P11-12)

事前調査の結果の都道府県等への報告について、答申案では、11-12ページにあるように、一定の規模等の要件を満たす解体等工事に係る事前調査の結果の概要について、施工者が都道府県等に報告を行うことを義務付ける方向が示されている。また、その際、施工者や都道府県等の負担軽減等の観点も考慮し、厚生労働省における電子届出に係る検討を踏まえた仕組みを検討することが適当とされている。

石綿飛散防止対策の実効性を高めるうえで、事業者負担の軽減、行政事務の効率化を図ることが重要と考える。このような観点から、現在の厚生労働省における石綿則に関する検討内容と平仄を合わせ、大防法の下でも、事前調査の結果の届出主体を「解体等の作業を行う事業者」とすべきである。

加えて、電子届出システムによるコネクテッド・ワンストップ化をはかり、石綿則の下での労基署への届出と大防法の下での届出を同一のプロセスで済ませる仕組みとすべきである。こうした仕組みは、「デジタルガバメント推進方針」や「デジタルガバメント実行計画」に掲げられた電子政府の原則である「ワンスオンリー」や「コネクテッドワンストップサービス」の原則に沿うものである。また、システムの構築段階から、上記対応を前提に大防法の改正を行うべきである。

4.石綿含有建材の除去等作業が適切に行われたことの確認 (P12-14)

答申案の14ページでは、石綿含有建材の除去等作業が適切に行われたことを確認する規定として、作業終了後の報告について整理されている。具体的には、受注者に対し、除去等作業終了後、作業の結果について発注者に報告するとともに、報告をした旨の記録を除去作業の記録と併せて一定期間保存することを義務付ける方向が示されている。これにより、発注者は石綿含有建材の除去等作業が適切に行われたことを把握できることから、上記の内容に賛同する。

また、答申案のとおり、記録の保存を行う主体については、取り残しがないことを確認する作業基準の遵守義務が受注者に課されることから、受注者が適当であると考える。

さらに、受注者から報告を受ける主体としても、答申案のとおり、発注者とすることが妥当であると考える。その理由として、受注者が作業基準に適合した適切な作業を実施した旨を報告することで、まずは作業の依頼者である発注者に対し説明責任を果たすことが適当と考えられること、また、仮に自治体を報告を受ける主体とすると、自治体ごとの受け入れ体制・能力に差異があり、場合によっては行政対応上の効率的な運用の支障となりうることが挙げられる。

5.特定粉じん排出等作業中の石綿漏えいの有無の確認 (P14-17)

隔離場所周辺における大気濃度の測定の実施については、答申案の15~16ページに示されるとおり、今般の見直しにおいて、全国一律での制度化は見送るとの内容に賛同する。

事業者として、実効ある石綿飛散防止対策を実施するにあたり、漏えい防止を徹底する観点からは、仮に飛散防止の指標となる基準が設定され、それを超過した場合には、適切な措置を講じることは当然である。総論に指摘するとおり、石綿飛散防止対策を実効ある制度とするには、対応にあたる関係者が混乱なく、効果的に対応可能となるよう合理的で実行可能な規定であることが必要不可欠である。この点につき、答申案にも示されたとおり、大気濃度測定の全国一律の制度化には、以下のような課題があると考える。

具体的には、平成25年の「石綿の飛散防止対策の更なる強化について(中間答申)」において、「大気濃度測定に要する期間は一般的に数日程度と考えられることから、(中略)一律に大気濃度測定を義務付けるか否かについては、慎重に検討すべき」とされ、「標準的な測定方法及び測定結果の評価方法が統一されていないため、石綿飛散防止に係る判断が必ずしも一致しない状況にある」等の課題が指摘されたところである。この点、現在に至っても、①迅速な測定が可能な機器がいまだに開発されておらず、測定結果を得るまでに一定の期間を要する、②指標を超過した場合に隔離の不具合のみならず、他の要因もあることが想定され、その原因を特定することが困難な場合が生じる可能性があるといった課題が依然として解決されていない状況にある。また、指標となる基準と、それを超過した際の対応についても、合理的なものとする必要があるが、「総繊維数濃度10本/L」という指標水準および総繊維数を測定することについて、その妥当性が十分に検討されたというには至っておらず、超過時の措置のあり方についてもさらなる検討が必要であると考える。

上述の課題に鑑み、答申案に示されたとおり、大気濃度の測定については、現状での制度化は見送り、事業者の主体的な取り組みの一環として推進することで、実効ある石綿飛散防止対策を実現し、周辺住民等とのコミュニケーションの一助とすることが望ましい。

6.大防法と安衛法(石綿則)の連携 (P17-20)

総論において、大気汚染防止法(大防法)と、労働安全衛生法の石綿障害予防規則(石綿則)など、他の関係法令との整合性の確保を図る必要性を指摘した。具体的には、答申案でも示されたとおり、各種マニュアル類の一本化を進めることや、各種届出や報告の電子システムを活用した連携など、行政、事業者といった石綿飛散防止対策に携わる関係者が効率的に事務・作業を行えるよう、関係省庁・自治体が一体となり、内容の整合性確保に向けた議論・作業を進めるべきである。

最後に、今般の中央環境審議会石綿飛散防止小委員会の答申も踏まえ、厚生労働省における建築物の解体・改修等における石綿ばく露防止対策等検討会や労働政策審議会における安全衛生分科会において、石綿則改定の検討が進められている。今後の議論にあたっても、実効的かつ合理的な石綿飛散防止対策を実現する観点から、今般の大防法の見直しの内容と十分に整合的なものとなるよう、関係省庁、自治体を含め政府一体となって議論・検討を進めることが求められる点、付言する。

以上