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Policy(提言・報告書) 環境、エネルギー 総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会 中間取りまとめ(案)に対する意見 - パブリックコメント募集に関する意見 -

2020年1月24日
一般社団法人 日本経済団体連合会
資源・エネルギー対策委員会企画部会

今回提示された再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会の中間取りまとめ(案)は、再エネ特措法#1附則に定められたFIT制度の抜本見直しを実行するとともに、今後、電力システムにおいて一層の役割を担っていくことが期待される再生可能エネルギーに関わる政策を再構築すべく、今後の方向性を示したものと認識している。本中間取りまとめ(案)には、総じて再生可能エネルギーの主力電源化、すなわち低コスト化・安定供給・持続的事業の実現を目指すうえで適切な方向性が盛り込まれていると評価しており、この全体の方向性に賛同する。

しかしながら、今後の詳細設計にあたって留意を要する点をはじめ、「抜本見直し」の趣旨を損ねかねない懸念点が複数残されている。今後、「抜本見直し」の確実な実施に向け、さらなる検討が必要と考える。

こうした観点から、以下のとおり意見を述べる。

Ⅰ.電源の特性に応じた支援制度

ⅰ.競争電源に係る制度の在り方

(総論)

今後の再生可能エネルギー導入支援にあたっては、将来の自立化を見据えて支援の対象を絞り込むことが当然の前提となる。そのうえで、引き続き制度的補助が必要な部分についてはFIP制度を導入し、再生可能エネルギーの市場統合を進める方針に賛同する。電力システムの全体最適の観点から効率的な事業者が適切に評価されることを期待する。

(1) FIP制度におけるプレミアム付与の在り方

● FIP価格の決定について〔p.5〕

本中間取りまとめ(案)では、FIP価格の決定に際して入札を「積極的に活用」することとされているが、国民負担抑制の観点を踏まえ、「原則として活用」するスタンスを打ち出したうえで、行政コスト等の観点から例外的に入札対象外とする区分も設けるべきである。その際には、いわゆる「入札逃れ」のインセンティブが生じないような価格設定が行われることも重要である。

また、FIP価格の設定にあたっては、従来のコスト積み上げを軸とする算定方法から脱却し、政策的なターゲットとしての価格設定へと転換すべきである。真に競争力を有する再生可能エネルギーを拡大していく観点からは、少なくとも競争電源と認められる電源については、市場のボラティリティを緩和する最小限の手当てを講じれば十分な投資インセンティブになると考えられる。

(3) 再エネ発電事業者による市場取引の在り方

● kWh価値について〔p.6~7〕

再生可能エネルギーの市場統合を進める観点から、原則として再エネ発電事業者自らがkWh価値の取引に取り組むべきことは言うまでもない。

一方で、変動電源の出力予測・調整の難しさや卸電力取引市場における最小取引単位の存在を踏まえれば、本中間取りまとめ(案)に記載の通り、卸電力取引市場の状況やアグリゲーション・ビジネスの発展といった事業環境に照らして、FIP制度の対象とする電源種・規模を決定することにも一定の合理性が認められる。ただし、今後、デジタル技術の導入や制度改革の進展等により、こうした市場環境が急速に変化することも想定される。FIP制度の対象となる電源区分については状況に応じて随時見直していくことが重要である。

● インバランスについて〔p.7〕

再生可能エネルギーが主力電源と評価されるためには、電力の安定供給に貢献する電源となることが不可欠である。こうした観点から再エネ発電事業者もインバランス責任を担う制度へと改める方針に賛同する。

現状、精密な天候予測の実施・利用が困難であること等を踏まえれば、インバランスの最大限の抑制に実直に取り組む事業者に過度なペナルティが課されることを避ける観点から、一定の年限を区切って経過措置を設けることは1つの選択肢と理解できる。ただし、経過措置が事実上のインバランス特例の残置とみなせるような仕組みとなった場合、アグリゲーション・ビジネスの発展や蓄電池の社会実装が遅滞することも考えられる。詳細設計にあたっては慎重な検討が必要である。

ⅱ.地域活用電源に係る制度の在り方

(総論)

小規模事業者が手掛ける案件や自家消費が主体の案件といった直ちにFIP制度に移行することが困難な案件について、わが国エネルギー供給の効率化と地域資源の活用に貢献することを前提としたうえで、暫定的にFIT制度による特例的な支援を維持しつつコストダウンを促していくという考え方の方向性は理解できる。しかしながら、FIT制度が広く維持されることとなれば抜本改革は骨抜きになる。新制度下でのFIT制度の適用対象については限定的であるよう、極めて慎重な検討が必要である。

(バイオマス・地熱・水力の扱い)

本中間取りまとめ(案)においては、地域活用電源に該当しうる電源区分としてバイオマス発電が挙げられている。立地制約が小さく地域資源を利用できるバイオマス発電は電源の分散化や地域活性化に資する電源として期待される。

他方、そもそもバイオマス発電は、コストの大部分を固定費が占める他の再生可能エネルギーと異なり、コストの多くを燃料費が占める火力に近いコスト構造となっている#2。また、バイオマスが果たしている役割を考慮すれば、林業の再興をはじめとする農林水産行政や廃棄物処理行政上の補助策が検討されるべきであり、エネルギー政策上は、環境価値を市場で別途評価することを前提に、他の熱電併給可能な電源と同等に取り扱うことが妥当である。

そのうえで、バイオマスをFIP制度ないしFIT制度の対象とするとしても、少なくとも、入札に移行しているなど、競争力を獲得しつつある電源区分までFIT制度による支援対象に加えることがあってはならない。

第53回調達価格等算定委員会においては、2022年度に地域活用要件の適用対象になりうるバイオマスを少なくとも10,000kW未満とする方針が提示された。今後、出力を調整可能な再生可能エネルギー電源であるバイオマスは市場統合を進めてこそ真価が発揮されることも考慮しつつ、より詳細な検討を行っていくべきである。

また、地域活用電源の例として小規模地熱、小水力も掲げられているが、地熱・水力は土木工事費や資源賦存量といった初期の開発リスク・コストを低減することが最大の導入促進策になる。補助金等の選択肢も含め、初期の事業者負担を軽減する支援策を講じたうえで、運転開始後の事業運営自体は自立化するよう促していくことが望ましい。

(1) 地域へのアウトプットの考え方

● 自家消費型の要件について〔p.8~9〕

自家消費型の電源は、レジリエンス向上に資するのみならず、系統負荷も小さい。太陽光をはじめ、世界的に再生可能エネルギー発電コストの低下が進むなかで、今後一層の拡大が期待される類型である。自家消費型の電源が正しく評価されるよう、本中間取りまとめ(案)で指摘されている通り実質全量売電となることを防ぐことはもとより、自家消費型の名に値する自家消費比率を設定する必要がある。

この点、第53回調達価格等算定委員会においては、FIT認定時の自家消費計画や運転開始後の取り締りにおいて求める自家消費比率を30%、調達価格の設定時に見込む自家消費比率を50%とする事務局案が提示されている。

同委員会において2020年4月から低圧事業用太陽光に対して自家消費要件を適用する方針が示されたことを踏まえれば、自家消費需要の変動や現時点では高い蓄電池コストといった事情に鑑み、2020年度について、実運用上求める自家消費比率が30%にとどまったことはやむを得ないものと理解する。しかし、2021年度以降は少なくとも50%以上を求めることとし、その後も実態等を考慮したうえで順次引き上げを図っていくべきである。

調達価格設定時に想定する自家消費比率については、自家消費型の趣旨に鑑みれば、現在提示されている50%は「最低限」の数字とすべきであり、今後、トップランナーの事業実態を踏まえた引き上げを図っていくべきである。

なお、本中間取りまとめ(案)において将来的に地域消費型に含めることを検討すべきとされている地域マイクログリッドが実現した後には、マイクログリッド内での地産地消を擬制的な自家消費とみなすことも考えうる。技術の発展の程度に応じ、全体最適に資する分散化が経済合理性の下で進展するよう、必要に応じて要件の見直しにも取り組むことが期待される。

● 地域消費型(地域一体型)の要件について〔p.9〕

地域消費型の電源は、地域のレジリエンス向上のみならず、平時から、上位系統への負担軽減や、熱電併給による経済性・効率性の改善等に資することが期待される。一方で、本中間取りまとめ(案)においては、災害時に地域で活用されることを要件として確認し、平時に地域で消費されることは特に確認しないとする案が提示されている。

熱を地域消費する類型については、災害時の熱融通が規定されていれば平時においても一定の熱利用を見込むことができると考えられる。しかし、電気を地域消費する類型について、災害時の活用のみを要件とすれば、再エネ設備の誘致を目指す自治体が災害時連携協定等を乱発し#3、そうした自治体領域内に従来型のFIT全量売電案件が次々立地することが強く懸念される。

第3回の本小委員会で委員のほとんどが異論なく受け止めていた当初の事務局案通り、平時から地域で電気を融通することを地域消費型の要件に加える方向で、要件を再考すべきである。仮にこれが行政実務上難しいのであれば、地域消費型の適用対象となる電源区分の線引きを通じて、従来型FIT案件のむやみな増加を確実に抑制する必要がある。その場合、高圧事業用太陽光や小規模風力といった電源が地域消費型として認定されることは、当然、あってはならないと考える。

(2) 地域からのインプットの考え方〔p.9~10〕

地域バイオマス資源の利用を評価することが、内外無差別の原則(内国民待遇義務)に抵触するおそれから難しいことは理解できる。この点からも、そもそもバイオマスへの支援については、エネルギー政策を通じて行うのではなく、主として他の行政分野において行うことを検討すべきと考える。エネルギー政策上の支援を続ける間にあっては、本中間取りまとめ(案)に記載の通り、ライフサイクルでの温室効果ガス排出量の確認等も含め、支援の適正化に向けた検討を行うべきである。

(3) 各電源類型への適用

● 小規模事業用太陽光〔p.10〕

p.9に記載の地域振興に資する案件とも共通するが、営農型をはじめとする「他の行政分野との連携案件」についてエネルギー政策の枠組みで支援することには慎重であるべきである。

本来、地域振興や農地再生といった目的に対しては、一般財源など、相応の手段によって集められた資金が投じられるべきである。全国民が費用負担すべき目的を達するために電気の使用量に応じて支払われる再生可能エネルギー賦課金を投じれば、他のエネルギー源に比べて電力のコストが相対的に上昇し最適なエネルギーポートフォリオの実現を阻害する可能性があるほか、国民負担が電力多消費産業に偏重することでわが国の産業構造を歪めることにも繋がりかねない。

賦課金を原資とする再エネ特措法の範疇においては、FIT制度ないしFIP制度が他の政策目的を歪めてしまうような場合における最小限の調整措置等を除き、エネルギー政策以外の観点を考慮すべきではない。

ⅲ.再エネの中長期的な定着・自立化〔p.11~12〕

FIT制度・FIP制度について、再生可能エネルギーの競争力が一定程度確保されるまでの経過的な支援制度であることを明記した点を評価する。こうした基本理念を決して忘れることなく、各電源に適用される制度や価格を随時見直すことはもとより、状況に応じて予断なく制度自体のさらなる見直しも実施すべきである。こうした観点から、現行の法附則同様に、次の抜本見直しの時期についても明示することが求められる。

Ⅱ.地域に根差した再エネ導入の促進

ⅰ.地域からの信頼確保
(1) 適正な事業実施の確保

● 標識・柵塀の設置義務に違反する案件への厳格な対応〔p.13〕

法令の執行を強化する方針が打ち出されたことを大いに歓迎する。主力電源にふさわしい規律の確保に向け、法令の適切な執行が確保されることを期待する。

● 公表情報の拡大〔p.13~14〕

再エネ特措法上の認定案件に係る公表情報の拡大は、地域社会からの信頼確保はもとより、国民負担に基づく補助を受けることに伴う説明責任の観点からも重要な意義がある。稼働済み案件について過年度の発電電力量の実績も公表するなど、政策補助を受ける事業として相当な範囲で事業実態を詳らかにすべきである。

(2) 廃棄等費用の確保

● 太陽光発電設備の廃棄等費用の積み立てを担保する制度〔p.14~15〕

小規模な事業用太陽光とそれに取り組む事業者が急増してきた現状を踏まえれば、廃棄費用の積み立ては主力電源にふさわしい規律と信頼を確保するうえで不可欠であり、着実に実施する必要がある。現実には必ずしも外部に積み立てた資金だけで適正廃棄が担保できるとは限らないが、FIT調達価格のなかに廃棄費用も織り込まれている以上、いずれ大量廃棄時代が訪れた際も追加的な国民負担を発生させることなく適正な処分が実施されるよう、各事業者が責任を持って廃棄を行う仕組みを構築すべきである。

Ⅲ.再エネ主力時代の次世代電力ネットワーク

ⅰ.プッシュ型の系統形成と費用負担〔p.18~19〕

適地が偏在する再生可能エネルギーの導入を拡大し、効率的に利用していくためには、送電ルートの最適化や必要な箇所の容量拡大といった電力ネットワーク側の対応も求められる。今後、こうした系統整備を進めるにあたり、電力システムの全体最適実現の観点から、電源からの要請に都度対応する「プル型」ではなく、国が掲げるエネルギー政策の方針のもとで、再生可能エネルギーをはじめとする電源のポテンシャルを考慮し、一般送配電事業者や電力広域的運営推進機関等が主体的かつ計画的に系統形成を行っていく「プッシュ型」に移行するという方向性に賛同する。

系統整備には多額の費用を要する。最終的に国民が受益する電力システムを構築することが大前提である以上、増強判断にあたって適切な費用便益分析を実施することはもとより、エネルギー基本計画にも明記されている通り、発電コストと系統コストの合計コストを引き下げることが不可欠である#4

そのうえで、特に地域間連系線等の増強について再エネ特措法上の賦課金方式による費用回収の仕組みを導入するにあたっては、本中間取りまとめ(案)に記載の通り、再エネ特措法による再生可能エネルギーへの導入支援が続く間に限って、全国で負担することが適当と認められた費用のうち再エネの導入促進効果が認められる範囲で賦課金の活用を認めることとすべきである。

おわりに〔p.23〕

実現すべき政策ターゲットとして2030年度の再生可能エネルギー比率22~24%(電源構成比)という数値が引用されている。この目標の達成が重要であることは言うまでもないが、2030年度のエネルギーミックスは、同水準の再生可能エネルギー導入を実現するにあたって要するFIT買取総額を3.7~4.0兆円と想定したうえで定められている。この買取総額の水準は、2030年度時点の電力コストを「東日本大震災直後を上回らない水準」に抑制するという最低限度の目標から逆算された数字であり、3Eのバランスの観点から極めて重要な指標である。再生可能エネルギーの導入と国民負担の抑制を両立させる重要性を踏まえ、この国民負担水準にも言及すべきである。

パリ協定の採択を契機に、気候変動対策の機運は高まり続けている。地理的・経済的な困難を抱えるわが国においても、再生可能エネルギーの主力電源化は急務である。再エネ特措法の抜本見直しをはじめとする再生可能エネルギー政策の再構築を通じて、一日も早い主力電源化が実現することを期待する。

以上

  1. 電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法
  2. 例えば、木質バイオマス発電所の原価構成の7割が燃料費である(第3回再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会 資料1, p.26)。
  3. 本中間取りまとめ(案)においては「『災害時に当該再エネ発電設備で生み出された電気・熱を活用すること』が地方自治体の防災計画等に位置付けられていること」を要件として確認すべきとされている。この「防災計画等」としては、再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会において、「災害時の活用に資するものであれば、ハザードマップや地方自治体と再エネ発電事業者との間の個別協定なども含めて、広く認める」方向で調達価格等算定委員会での議論が進められていることが報告されている(第5回再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会 資料1, p.11)。
  4. 「ネットワークコスト改革にあたっては、再生可能エネルギーに係る発電コストを大幅に低減させるとともに、既存ネットワークコストの徹底削減を図ることで、次世代ネットワーク投資の原資を確保し、コストを全体として低減させることを基本方針とする」(エネルギー基本計画(2018年7月閣議決定), p.45)

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