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Policy(提言・報告書) 産業政策、行革、運輸流通、農業 新たな「食料・農業・農村基本計画」に対する意見 -Society 5.0時代における農業構造改革に向けて-

2020年2月18日
一般社団法人 日本経済団体連合会

わが国農業は、地域経済の活性化を担う基幹産業として期待されるなか、農業就業人口の減少、高齢化など、その持続可能性が危ぶまれている。とりわけ、あらゆる農業の生産基盤である農地は、耕作放棄地が42.3万ha(2015年)にのぼるとともに、全農地の担い手への集積率も道半ばであるなど、危機的な状況である。

一方、農業はデジタル技術との親和性が高く、先端・成長産業に他ならない。そのポテンシャルを引き出し、生産性の向上ならびに高付加価値化により、世界にも通用する産業へと変革するためにも、IoT、AI、ロボット、ビッグデータ等の最先端技術を最大限活用するとともに、政策もこうした技術を前提として見直していく必要がある。今こそ、「Society 5.0 for SDGs」を実行に移し、抜本的な構造改革、イノベーションの創出を図らなければならない。農村も含めたわが国農業の競争力強化と持続可能性の確保は、将来的に世界の食料増産等によるSDGsの達成にも貢献することが期待される。

かかる観点から、経団連では、2018年9月に提言「農業 先端・成長産業化の未来-Society 5.0の実現に向けた施策-」を取りまとめ、Society 5.0時代の農業の将来像を示すとともに、その実現に向けた制度改革が急務である旨、強く訴えてきた。

政府において、食料・農業・農村に関し中長期的に取り組むべき方針である「食料・農業・農村基本計画」の改定に向けた議論が進められていることから、今般、本基本計画に盛り込むべき具体的な施策等について、以下の通り提言する。経団連も、本提言事項を実効あるものとするため、政府機関はじめ関係方面との連携を強化し、農業界が抱える課題やニーズを的確に把握しつつ、経済界が有する革新的な技術やノウハウの提供等を通じてわが国農業の成長産業化・競争力強化に共に取り組む所存である。

1. 「食料、農業及び農村に関する施策についての基本的な方針」について

「食料・農業・農村基本計画」は、農業をめぐる中長期的な変化を踏まえた上で、当面取り組むべき施策の基本方針を示す極めて重要な戦略である。今後、わが国農業・農村を取り巻く環境は、農業就業人口の激減と高齢化の加速、後継者不足、担い手不足、耕作放棄地の増大等が想定される。同時に、デジタル技術やバイオテクノロジー等の技術革新の急速な進展に伴い、個人の生活や産業構造を含め、社会全体も大きく変革していく。いわゆる「Society 5.0」時代において、この変革に対応し、農業の生産性向上、高付加価値化に向けた推進力とするためには、「食料・農業・農村基本法」が掲げる理念に基づき、本基本計画において先端・成長産業化に資する施策を明確に示し、着実に実行に移していかなければならない。特に、農業界のみならず経済界・研究機関・関係省庁等の密接な連携の下、一元的に施策を展開していく視点が不可欠である。

具体的には、以下の2点を重要な柱として盛り込むべきである。

(1)Society 5.0時代にふさわしい農業構造の確立

今後5年間、「Society 5.0」のさらなる進捗が見込まれるなか、農業に関する施策も、生産から消費に至るあらゆるフェーズにおいて技術革新やイノベーションの成果を享受できるよう、デジタルトランスフォーメーションを進め、多様なプレイヤーが活躍し得るものとしなければならない。特に、デジタル革新の中核であるデータ利活用を進める上では、「統合イノベーション戦略2019」、「農業データ連携基盤(WAGRI)」の推進等による技術の社会実装と同時に、それを可能とする規制緩和・制度設計等が欠かせない。こうした構造改革の推進は、農業の潜在力を引き出し、イノベーションの創出、農業の持続可能性の確保、さらにはSDGsの達成にも資することとなる。

(2)政府による一元的な政策展開

多様なライフスタイルの追求、安全・健康への関心の高まり等を背景に、消費者のニーズ・価値観は、今後一層多様化・高度化していくと見込まれる。生産現場においても、最先端技術の導入によるイノベーション、異分野との連携・融合が加速し、地域の農産物と技術・ノウハウを組み合わせた新しいサービスの創出が期待される。

こうした状況に対応するためには、農業の生産現場のみに焦点を当てた政策では限界があり、加工・物流・輸出・販売に至るフードバリューチェーン全体を見通し、関係省庁の垣根を超えた施策を展開しなければならない。すでに策定されている「農林水産業・地域の活力創造プラン」、「生産基盤強化プログラム」等との一貫性・継続性を図ることはもちろん、農林水産省、経済産業省、厚生労働省、国土交通省、消費者庁等が持つ「食」や「農村」に関する機能の一元化を図りつつ、ICT政策、輸出政策、観光政策等とも整合的な形で取りまとめることが重要である。

2. 「食料、農業及び農村に関し総合的かつ計画的に講ずべき施策」について

(1)生産基盤の強化

① 担い手の確保

農業の持続可能性を担保し、効率的な経営を実践するためには、企業や若者をはじめとする多様な担い手の確保・定着が不可欠である。新規就農者への支援、農福連携のさらなる推進、労働環境の整備を含め、多様な担い手を確保し、その取り組みを後押しすることで、地域における雇用の拡大、耕作放棄地を含めた農業経営資産の活用等、地域活性化にもつなげていく必要がある。

そのためには、まず、企業による農地所有の全面的な容認、過半未満に制限されている企業による農地所有適格法人への出資規制の緩和等、農地法をはじめとする農業関連法制度を抜本的に再構築し、高い技術、資金力、経営ノウハウを持った経営体が活躍し得る制度を確立すべきである。こうした参入障壁の緩和にあたっては、企業を含め、多様な経営体が相互に連携、協同、共存を図れるよう、信頼関係を構築しながら進める必要がある。

さらに、マーケットインの視点に立ち、消費者ニーズを踏まえた農産物の生産が求められるなか、優れた経営感覚を持つ担い手は不足している。関係機関の連携の下で、大学等における農業経営に関するカリキュラムの充実、経済界と農業界の人材交流等を通じて、その育成を急ぐべきである。

② 農地集積・集約の加速化

農地集積・集約の加速化を通じた経営規模の拡大は、生産性の向上に資することはもちろん、先端技術の効果を十分に発揮させるための前提条件である。しかしながら、担い手への全農地面積の集積率は、現時点で2023年の目標である8割に遠く及ばない状況にあり、その加速化は急務である。

農地の円滑かつスピーディーな集積を図るため、農地中間管理機構の一層の機能強化とあわせて、JA、市町村、農業委員会等との密接な連携を進め、貸し手側・借り手側双方がwin-winの関係となり得る体制を構築する必要がある。さらに、貸し手に対する高い税制上のインセンティブ付与、所有者不明農地の活用促進も重要である。将来的には、借り手の農地の状況に対する不安を払拭する観点から、農地の価値を示し得る指標等を充実させていくことも考えられよう。

③ 先端技術の研究・開発の推進と社会実装

Society 5.0時代にふさわしい農業構造を確立していくためには、従来の農業経営モデルを見直すとともに、いわゆるスマート農業を推進することで、生産性の向上、農産物の高付加価値化等につなげていく必要がある。その鍵となるのが、先端技術の研究・開発体制の構築、さらには成果の社会実装、普及促進である。

研究・開発には、官民連携の下、相互に有するデータの有効活用を図りながら、社会実装を明確に視野に入れて取り組む必要がある。データ基盤の構築については、すでにWAGRIが稼働しているが、公的データの拡充、オープン化を一層進めるべきである。

社会実装では、経済界が有する革新的な技術・ノウハウを活用できるよう、各種規制の緩和やルール整備等を早急に進めるべきである。特に、スマート農業の中核として期待が高まる農業用ドローンや自動走行トラクタ等について、国家戦略特区での成果の全国展開を図る趣旨も含め、関係者の理解促進とあわせて、その普及・拡大に向けた制度整備に重点的に取り組むべきである。

(2)フードバリューチェーンの構築

生産基盤の強化とともに、多様化・高度化する消費者ニーズ、高まる海外需要に対応し、農業・食品産業全体の競争力強化を図るためには、マーケットインの視点に立ち、研究・開発、生産から、加工・物流・輸出・販売・消費に至るフードバリューチェーンを構築し、より付加価値の高い農産物・食品を供給する必要がある。

なかでも、在庫・出荷・輸送ルートの最適化等を可能とする仕組みの整備など、物流・流通システムの効率化・高度化は、ドライバー不足の解消、消費者ニーズに沿った食・サービスの提供に加え、フードロスの削減も期待できることから、本基本計画においても、関係省庁との連携により取り組むことを盛り込むべきである。また、「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」第2期において「スマートフードチェーンシステム」の構築に関する議論を加速し、生産から消費までの情報を双方向につなぐシステムの開発を急ぐべきである。

あわせて、農業と他分野との連携を促進する視点も重要である。経済界と農業界との連携・融合を進め、加工・物流・販売等において経済界のノウハウを有効活用すれば、生産性の向上にもつながっていく。これまで、先端モデル農業確立実証事業等が進められてきたが、意欲ある農業者を支援する上でも、経済界のシーズと農業界のニーズとのマッチングにつながる施策を実施すべきである。

(3)グローバル展開の促進

① 輸出環境の整備

国内の農林水産物・食品市場は、少子高齢化により縮小するものの、海外に目を向ければその市場は急速に拡大しており、2020年には約680兆円と、2009年の約340兆円から倍増すると予測されている。わが国では、海外における和食人気の高まり、日欧EPAやCPTPPの発効、2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催等、輸出・海外展開に向けた好機が到来しており、農林水産物・食品の輸出額1兆円にとどまることなく、さらなる高みを目指して世界の成長を取り込んでいくことが重要である。

そのためには、まず、省庁間ならびに官民の連携による輸出戦略の策定・遂行、政府による一元的な体制の整備が必須であり、本年4月にも農林水産省内に設置される司令塔組織「農林水産物・食品輸出本部」の活躍が期待される。

その上で、あらゆる農業者・事業者が円滑かつ容易に農産物・食品の海外展開に取り組めるよう、強力に対外交渉を継続し、輸出の障害となる動植物検疫・放射能規制等の緩和・撤廃につなげるべきである。また、わが国農産物・食品が世界で選ばれるには、品質・安全性基準の確保が不可欠の要件である。GAP#1、HACCP#2、ハラール等の認証については、国際的な基準との整合性を図りつつ、その取得を促進すべきである。さらに、わが国農産物・食品の強みを活かすとともに、生産者・消費者の利益を保護するため、和牛遺伝資源の流通管理、優良品種、知的財産権の保護も欠かせない。

② 販路拡大に向けた施策

わが国農産物・食品の魅力を海外に伝え、その認知度向上、販路の開拓・拡大を進める上では、戦略的なマーケティング、ブランディングの下、生産段階から輸出を見据えた商品開発、供給体制の構築に取り組むことが必須である。

具体的には、「農林水産物・食品輸出本部」は、日本食海外プロモーションセンター(JFOODO)、在外公館や経済界とも連携しながら、リーダーシップを発揮し、販路拡大に向けた戦略を立案・実行すべきである。なかでも、輸出品目・市場ごとの綿密な分析に基づき、高付加価値化が可能な有望品目を選定した上で、戦略的・重点的なプロモーションの継続的実施、現地のニーズに合った品種開発、市場開拓等への注力が重要である。さらに、地理的表示(GI)保護制度の活用によるブランド化を推進するとともに、プロモーションの効果を一層発揮させるため、自治体間の産地間競争を超えた「ジャパンブランド」の確立・強化とその浸透を進めるべきである。

以上

  1. Good Agricultural Practice:農業生産工程管理の略称。農業において、食品安全・環境保全・労働安全等の持続可能性を確保するための生産工程管理の取り組み
  2. Hazard Analysis and Critical Control Point:食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全行程の中で、それらの危害要因を除去または低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法

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