Policy(提言・報告書) 総合政策  新型コロナウイルスを克服し、新たな成長を実現する -2020年度事業方針-

2020年6月2日
一般社団法人 日本経済団体連合会

新型コロナウイルス感染症が全世界を覆い、世界経済は未曽有の大打撃を受けている。自由で開かれた国際秩序の下で安定成長を享受してきた日本経済も大きな岐路にある。

最優先の課題は感染症との戦いに勝つことである。経団連は、先頭に立って政府をはじめとする各方面からの要請に対し、会員企業に呼び掛け、国民の生命と生活を守るための社会的な使命を果たしていく。同時にサプライチェーンや雇用の維持に最大限の努力を傾注しつつ、新型コロナウイルス会議をはじめ各委員会が総力を結集して、政府・与党に対し、難局打開に必要な政策の早期実現を働き掛ける。

今回の経験を機にわが国の経済社会システムの脆弱性が浮彫りとなった。様々な分野でデジタル化を加速度的に進めることが急務である。DX(デジタルトランスフォーメーション)を通じたSociety 5.0の実現に向け、一気呵成に経済社会の大変革を成し遂げ、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に繋げていかなければならない。それこそが、有事対応を含めたレジリエント(強靭)な経済社会の構築への道を開く。

また、今次感染を封じ込め、さらに地球規模の課題を解決していく上で国際協調・連携の強化も欠かせない。国際社会における日本の発信力強化に向けて、政官民が一体となって知恵を出し、精力的に取組む必要がある。

同時に新型コロナウイルスとの共存が長期化することも覚悟し、局面に応じて機動的に対応する柔軟性が求められる。

ポストコロナの時代には、今と全く異なる世界となる。新しい発想と大胆な政策が求められる中、経団連は下記を重点施策と位置付け、迅速・果敢に行動するとともに、経済界の意見を国内はもとより国際社会に向けて発信する。

1.新型コロナウイルスの感染拡大への対応

企業が率先して、在宅勤務等を通じて接触機会の削減を図り、まずは、感染拡大を早期に抑制することに総力を挙げる。医療物資・機器等の提供や製造協力、募金等への呼び掛けを行うほか、各国経済団体との連携強化を図る。また、パンデミック終息までの間、雇用維持と事業継続を最優先として、政府の緊急経済対策の効果を見極め、追加的に必要な税・財政上の支援措置や規制緩和などを求める。これらについて、政府及び内外の関係機関との連携を密にし、新型コロナウイルス会議が中心となって、内外の情報共有と経済界の意見発信を行う。

2.レジリエントな経済社会の構築

(1)デジタル技術を活用した成長戦略の強化

医療、教育、行政、金融、産業等の各分野において徹底した規制改革とデジタル化・データの共有等を進め、強靭な経済社会を構築する。

併せてDX投資の加速化により、感染症の影響を受けて大幅に悪化した経済の回復を図る。中長期的にはデジタル基盤を礎として、DXにより様々な社会課題を解決し、より人間的で幸福な社会、すなわちSociety 5.0の具体的な姿を描く。

上記に資する産業構造や組織変革のDXについての議論を深め、産業横断プロジェクトを実施する。また、ガバナンス・イノベーションやグローバルなルール形成に重点的に取組むとともに、中長期の安定的な資金の呼び込みやスタートアップの振興・連携強化を推進する。

(2)脱炭素社会に向けたエネルギー・環境対策の推進

脱炭素社会に向け、設備や研究開発への投資を促すための環境整備に取組み、デジタル化をも見据えた高度でレジリエントな電力システム、エネルギーシステムの構築を目指す。この中で、送配電網の次世代化、再生可能エネルギーの主力電源化、安全性が確認された原子力発電所の再稼働、次世代原子力技術の研究開発等の加速化を働き掛ける。

また、産業界自らの取組みとして、「チャレンジ・ゼロ」等を強力に推進する。

(3)働き方改革と人材育成

デジタル時代に多様な人材が創造力を発揮しながら活躍できるよう、テレワークを定着させるとともに、裁量労働制やフレックスタイム制などの拡充・普及、社員の能力や仕事に着目した賃金制度など、働き手のエンゲージメント向上に資する働き方改革へと深化を図る。

「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」報告書で産学が合意した「10のアクションプラン」を着実に実践し、ポストコロナの時代にますます重要となるSociety 5.0の実現を支える人材育成を産学連携で推進する。

(4)地域経済の活性化

経済社会の強靭化に向けて、地方の経済団体や自治体等との連携を推進し、地域の競争力強化に協力する。併せて、大規模自然災害やパンデミック等に際して国の中枢機能が損なわれないよう、東京をはじめとする大都市への過度な集中の是正に取り組む。そのため、地方自治体への権限・財源等の移譲、広域連携による地方分権改革を働き掛ける。また、地元企業・スタートアップ・研究機関等とのオープンイノベーション、農業・観光をはじめとする基幹産業の担い手・行政等との連携強化を通じて、地域資源を活用した生産・流通・消費の活性化を図る。

3.自由で開かれた国際経済秩序の回復

自由で開かれた国際経済秩序を取戻すことが、世界経済の発展にとって、必要不可欠である。加速度的に進むデジタル化の波を真正面から受け止め、データの自由な流通の実現等、新たな国際ルールの形成を図る必要がある。これら課題の解決に向けてわが国はリーダーシップを発揮しなければならない。そこで、日本政府や各国の経済団体と緊密に連携するとともに、B7、B20、Business at OECD (BIAC)、WEF等のフォーラムを活用するなど、民間外交を積極的に展開する。

同時に経済安全保障にも配慮して、企業のサプライチェーンの維持・多元化・強靭化に資する環境整備を働き掛ける。また、途上国をはじめとする各国の医療体制・保健衛生環境の整備・改善等を支援する。

以上