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Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 令和3年度税制改正に関する提言

2020年9月15日
一般社団法人 日本経済団体連合会

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はじめに

わが国経済は、国内外における新型コロナウイルス感染症(以下、「感染症」と呼ぶ)の拡大に伴う大きな下押し圧力に直面している。足もとでは底打ちの兆しが見られるものの、2020年4-6月期の実質GDP成長率は、リーマンショック時を超える戦後最悪の大幅なマイナス成長となり、既に経済には甚大な影響が生じている。当面は、国民生活を支える事業の継続と雇用の確保を図るため、「ウィズ・コロナ」を前提として、感染拡大防止と経済活動の両立に全力を挙げて取り組むことが国家の責務である。

こうした現状認識の下、わが国は政官民が一体となり、経済の正常化を見据えて、あらゆる政策手段を講じていくことが不可欠である。それと同時に、ポスト・コロナ時代を見据えて、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)を強力に加速し、強靭な経済社会を構築することが求められる。これは、「経済財政運営と改革の基本方針2020」(2020年7月17日閣議決定、以下、「骨太方針2020」)にもある通り、「我が国の未来に向けた経済成長を牽引し、『新たな日常』の構築の原動力となる社会全体のデジタル化を強力に推進し、Society 5.0を実現する」という方針とも軌を一にするものである。

令和3年度税制改正では、まずは税制による企業活動の下支えを行いつつ、一刻も早い経済成長軌道への回復を図ることが重要である。それと同時に、中長期の潜在成長力の確保に資するDX推進の観点を踏まえ、イノベーションの源泉の創出を強力に後押しすべきである。こうした観点から、研究開発税制の延長・拡充、税務手続きのデジタル化・簡素化の更なる充実が極めて重要である。また、欠損金の繰越控除制度や来年度に評価替えを迎える固定資産税についても、経済・企業の現況を考慮しつつ、所要の措置を講じることが重要である。

国際課税については、各国による一国主義的な動きを抑制しつつ、経済の電子化に伴う課税のあり方について、税負担と事務負担の両面に留意の上で、各国による制度・執行の協調を目指すことが求められる。

なお、財政運営に関して、当面は感染症への対応を最優先すべきであるが、人口減少・高齢化の進展、大規模自然災害の発生に加えて、ポスト・コロナ時代の経済社会構造を見据えて、「経済再生なくして財政健全化なし」という基本方針の下で、歳出・歳入両面からの経済・財政一体改革を着実に推進していくことも忘れてはならない。

経済界としても、活発な企業活動と民主導のイノベーションを通じて、経済活動の復活と好循環の実現に向けて、引き続き貢献していく。かかる観点から、令和3年度税制改正に関し、以下の通り提言する。

令和3年度税制改正に関する提言

1.法人税関係

(1)ポスト・コロナ時代を見据えたDXを通じたSociety 5.0の実装と強靭な経済社会の実現に向けた税制措置の整備

今次感染症の収束が見通しづらい状況下にあって、わが国経済界は、生産性の向上を通じて、企業活動の活発化と国際競争力を一層高めることで、経済成長軌道への回帰を果たさなければならない。併せて、中長期の技術革新を通じた脱炭素社会の実現、潜在成長率の引き上げに向けて、引き続き主導的役割を果たすことも重要である。

将来の持続的な成長と強靭な経済社会の実現に向けては、DXを通じたイノベーションの強力な推進が必要不可欠となり、税制措置や各種支援による強力な後押しが求められる。

また、ポスト・コロナ時代を見据えて、日本企業の国際競争力をより高めていく観点から、法人実効税率については、実質的な税負担の軽減を伴う形で、引き続きOECD主要国平均・アジア近隣諸国並みの25%程度を目指すべきである。

① 研究開発税制の延長・拡充

企業にとって、途切れることなく研究開発投資を行うことは、将来にかけての国際競争力の維持・向上と持続的な成長につながる。足もとにおいては、依然として経済回復を展望しがたい状況にあるものの、ウィズ・コロナ、ポスト・コロナ時代にあって重要性を増すデジタル関連等の技術革新を目指さなければならない。併せて、幅広い基礎研究や、技術改良研究を不断に積み重ね、これまで培ってきたわが国の技術基盤を引き続き維持・強化していくことも必要である。

絶え間ないイノベーションを喚起する上では、個社の枠にとどまらず、産学官協創を税制上側面支援することも重要である。

かかる観点から、将来にかけて制度の簡素化を見据えつつ、「骨太方針2020」でも言及された「世界で最もイノベーションに適した国」に向けて、以下の項目を実現すべきである。

まず、総額型について、控除上限を法人税額の25%から30%へと引き上げるべきである。既に、多くの企業が現行の25%控除上限の下で、税額控除額が制限されている中で、今次感染症の影響で景気が後退し、更に控除上限が縮減する見込みとなっている。30%への引き上げにより、研究開発投資を維持・拡大させるインセンティブを確保する必要がある。併せて、控除上限を超過した金額について、翌年度以降も控除可能となるように、繰越制度を復活することも検討すべきである。

次に、DXを一層推進する上で、クラウドコンピューティングサービス及び製品開発のために用いられるツール等をはじめとした自社利用ソフトウェアに係る試験研究費について、発生時損金処理と研究開発税制の税額控除対象試験研究費への算入を認めるべきである。この背景として、現状では自社利用ソフトウェアに係る試験研究費が資産計上され、税額控除対象試験研究費に不算入となっており、当該税制利用の障壁となっていることが挙げられる。

また、オープンイノベーション型(OI型)の適用要件の合理化・手続きの見直しを行うべきである。現状では、契約書で細目の記載が求められることや専門家の監査を必要とすること等、厳しい要件が課されており、相手側の協力を得にくい等の課題が生じている。このため、契約書記載要件、相手方確認要件、監査要件等を見直すべきである。特に、多くの共同研究が実施されている大学との共同研究については、国の研究機関や国立研究開発法人と同等の要件とすべきである。

更に、令和2年度末で期限切れを迎える、①総額型における控除率10%超14%までの部分、②売上高試験研究費割合10%超の場合の控除上限上乗せ措置及び控除率の上乗せ措置も延長すべきである。

加えて、研究開発活動の態様が変化する中で、人件費に係る、いわゆる「専ら」要件に関する通達や、「業務改善」に係る国税庁HPのQ&Aに関しても、解釈の明確化等を検討すべきである。なお、グループ通算制度における研究開発税制のグループ調整計算の見直しとして、増額修更正に対応した控除額の拡大を可能とすべきである。現行では、期間差異による増額修更正がなされた場合には翌期に損金に算入されることで、翌期の控除上限も減額されることとなり、納税者不利の取り扱いとなっている。

② 設備投資・DX減税

デジタル化やリモート化等の社会変革を進めるべく、幅広い業種によるDXに資するソフトウェア(SaaS(Software as a Service:クラウドを介して提供するソフトウェア)等の利用を含む)及び機械、装置等を含めた投資を税制上強力に後押しすべきである。

税制措置の対象分野としては、DXを念頭に置いたAI、安全を確保したグローバルなサプライチェーンの確立に向けたサイバーセキュリティ、ロボティクス、フィンテック、モビリティ等が考えられる。また、非対面・遠隔サービス(テレワーク等)を促進するシステム投資やソリューション利用及びこれに必要となる設備や、防疫関連設備(サーモグラフィー等)に係る投資等への支援措置も講じるべきである。これらに加えて、「骨太方針2020」でも触れられている通り、リスクが顕在化した場合の対応も可能となるように、国内外でのサプライチェーンの多元化を進め、レジリエンスを高める観点から、地域未来投資促進税制の拡充(後述)等、所要の税制措置を検討することも必要である。

なお、償却資産に係る固定資産税については過去提言を重ねてきた通り、廃止を含めて、抜本的な見直しを行うべきである。少なくとも、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」(2020年4月20日閣議決定、以下「緊急経済対策」)で措置された中小企業向けの償却資産に関する固定資産税の特例を、大企業にも適用拡大すべきである。

③ 書面・押印・対面原則の抜本的な見直し(税務手続きのデジタル化・簡素化)

国・地方を通じた業務改革・業務標準化とデジタル化が徹底されるべきところ、近年、法人税等に係る電子申告の義務化、地方税共通納税システムの導入、年末調整の電子化等、税務手続のデジタル化が進められており、歓迎する。

今般の感染症の拡大を契機とした新しい生活様式により、不必要な出社や他者との接触機会を減らすことが求められる中、「骨太方針2020」では全ての行政手続きを対象に書面・押印・対面主義を見直すことが掲げられており、税務においても同様に見直し、デジタル化を一層推進する必要がある。

まずは、税務書類については法人の代表者等が押印しなければならないとされている国税通則法の規定をゼロ・ベースで見直す必要がある。また、法令に根拠のない押印欄についても廃止すべきである。その上で、書面に限られている手続きについてはデジタル化を、デジタル化がなされていても企業実態に照らし不十分な場合にはその徹底を進めるべきである。

対象となる手続きの例は次の通りである。とりわけ、租税条約に関する届出書、財形貯蓄の届出書については、デジタル化に向けて掘り下げた検討を行う必要がある。また、個人住民税の特別徴収税額通知(納税義務者用)については、令和3年度改正において成案が得られることを期待する。デジタル化の徹底の観点からは、地方税共通納税システムの対象税目に早期に固定資産税等を追加すべきである。

<押印が必要とされている手続きの例>

  • 租税条約に関する届出書
  • 財形貯蓄の届出書
  • 租税条約相手国の権限ある当局に提出する居住者証明書(当局による押印)
  • 給与支払報告(特別徴収)に係る給与所得者異動届出書(法令根拠なし)

<書面が必要とされている手続きの例>

  • 租税条約に関する届出書(再掲)
  • 居住者証明書交付請求書
  • 財形貯蓄の届出書(再掲)
  • 個人住民税の特別徴収税額通知(納税義務者用)
  • 地方自治体による給与等の支払い状況の照会
  • 源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税の納税証明願
  • 法人事業税・住民税に係る更正の請求手続き(eLTAXでの対応)

<電子化の徹底が必要な手続きの例>

  • 地方税共通納税システム(対象税目の固定資産税・自動車税等の拡充及び還付の対象化。なお、固定資産税については納税通知書の電子化も推進)
  • 個人住民税の特別徴収税額通知(特徴義務者用)
  • 特別徴収に係る給与所得者異動届書(転出者の異動先情報のように、プライバシー保護等の観点から異動元企業だけでは把握が困難であり、全ての入力項目を埋めることができない場合にも、eLTAXの手続きで完結できるようなシステム整備)

この他、税務手続の簡素化の観点から、例えば次の通り国税・地方税の情報連携を進め、ワンス・オンリー原則を徹底すべきである。

  • 法人税別表等の地方自治体への共有
  • 更正通知の地方自治体への確実な共有
  • 異動届出書の税務署からの連携による地方自治体への提出不要化

併せて、電子帳簿保存法についても、抜本的な見直しが必要である。企業は現在、バックオフィスの効率化を図る観点から、あらゆる書類の作成及び授受のデジタル化を推進している。しかし、国税関係帳簿書類の保存を電子的に行う場合、検索要件をはじめ書面での保存に比べ厳格な法の要件を満たすことができず、結局、紙での保存を強いられるケースもあり、感染症下における新しい生活様式を実践する妨げの一因となっている。

スキャナ保存についても、適正事務処理要件、タイムスタンプ要件など、無謬性を求められる各要件のため、社内整備等のソフト面、機器等のハード面の双方でハードルが高く、企業において導入が進んでいない。経済活動の全面的かつ即時のデジタル化が現実的ではないことを踏まえると、こちらについても要件の合理化が不可欠である。一定の基準により、内部統制が確立されていると見なすことができる法人については、個別の要件を免除するなどの措置も検討する必要がある。

事業者のネックとなっている要件は次の通りである。個別規定の修正に留まらない、包括的な見直しに期待する。これらの実現は、感染症下におけるテレワーク等の推進にも資する。

<帳簿書類の電子化>

  • 検索要件
  • 訂正削除履歴の確保要件
  • 帳簿間の相互関連性確保要件

<スキャナ保存>

  • 適正事務処理要件(相互牽制、定期検査)
  • タイムスタンプ要件
  • 入力期間要件
  • 帳簿との相互関連性確保要件
  • 解像度要件

個人の各種税務も、デジタル化を進めるべきである。例えば、個人住民税の特別徴収税額通知(納税義務者用)の電子化も見据えて、給与所得の源泉徴収票を電子的に受領する際の本人同意を廃止すべきである。

また、将来的には、企業を介さずとも個人の税務手続きが電子的に完結するように、マイナンバー制度の活用も検討されるべきである。そのためにもマイナンバーカードを含め早期普及を期待する。

なお、印紙税について、電子商取引が一般化し、経済取引のペーパーレス化が著しく進展する中、その合理性は失われている。また、消費税と実質的に二重課税となっている類型もある。本来的には廃止すべきである。

④ 事業再編の円滑化

組織・人材の流動化を通じて、将来成長が見込まれる分野に各種資源を集中投下していくことも、ポスト・コロナ時代に求められる重要な経営戦略となる。持続的な成長と企業価値の向上のための施策としてM&A等を促進する観点から、株式対価M&Aに係る株主の株式譲渡損益の繰延制度を拡充すべきである。その際、例えば、「特別事業再編計画」の認定要件の廃止及び繰延制度の恒久化等が考えられる。

また、経営・資本・上場の独立を通じた企業価値の向上を図る観点から、100%未満の子会社のスピンオフも課税の繰延を認める等、スピンオフ税制を拡充すべきである。

加えて、事業再編をさらに促進すべく、LLP(Limited Liability Partnership、有限事業責任組合)に対する現物出資時の簿価譲渡を可能とする制度を創設するべきである。

この他、組織再編税制について不断の検証を行い、必要な見直しを行うべきである。

(2)今次感染症による企業業績の落ち込みに対処する税制措置の整備

既に「緊急経済対策」により、今次感染症及びその蔓延防止のための措置の影響により厳しい状況に置かれている納税者に対して、緊急の必要な税制措置が講じられている。

しかしながら、今次感染症の企業への影響の特徴は、各業界・業種への需要回復までの時間軸が不鮮明であること、そして業績の落ち込みの著しい業界が存在すること等である。例えば、令和元年度はもとより2年度に多額の欠損金の発生する蓋然性の高い業界があることを看過すべきではない。

また、業績状況の動向によっては、賃金引上げに向けた原資を安定的に確保することが困難な企業が増えてくることも想定される。

仮に、今次感染症の影響が業界・業種により偏りがあるものであったとしても、それらはサプライチェーンやバリューチェーン、そして雇用者の消費行動の変容を通じて、経済活動全般の退潮につながりかねないものである。企業としては、先述の研究開発投資や設備投資を果敢に行う「攻めの姿勢」の下で、足もとの業績の落ち込みを向こう数年度かけて挽回していくことが不可欠である。その側面支援の観点から、「緊急経済対策」における納税猶予制度等の特例を延長しつつ、以下の税制上の措置を講じるべきである。

① 欠損金の繰越控除制度

平成31年度(令和元年度)及び令和2年度に発生する欠損金が過年度の平均水準を大幅に超過して発生することが見込まれる中、両年度発生の欠損金を念頭に、業績動向を引き続き検証しつつ、少なくとも向こう数年間において、控除上限を撤廃又は大幅に緩和すべきである。

併せて、企業業績の本格的な回復までに時間を要するケースに配慮する観点から、控除期間を10年超とすることも選択肢の1つである。

② 賃上げ・投資促進税制の延長・見直し

当該税制は、これまで企業による賃金引上げ及び設備投資の拡大に一定程度寄与してきたものと評価している。しかしながら、現下の企業業績の状況に鑑みれば、適用要件をはじめとして当該税制のあり方そのものについて見直しを図ることが重要である。

仮に延長を図るのであれば、賃金引上げに係る要件(現行は継続雇用者給与等支給額が前事業年度比で3%増加)について、代替となる要件を設定することが考えられる。その際、雇用の維持もしくは人材支援等に着目した要件に代替することも一案である。仮に、賃金引上げに係る要件を見直さない場合には、国内設備投資額に係る要件(現行は国内設備投資額が償却費総額の9割以上)との選択適用とすることも検討すべきである。なお、グループ通算制度移行後は、グループ調整計算を維持すべきである。

2.土地・住宅・都市税制

(1)土地に係る固定資産税等の負担軽減

ポスト・コロナ社会の到来を見据え、わが国経済と企業活動が力強い回復を果たす上で、土地に係る固定資産税の過大な負担は現状においても企業の収益力向上の足かせとなっている。令和2年地価公示では、それまでの強い経済回復を反映し、大都市圏のみならず地方都市(札幌市、仙台市、広島市及び福岡市等)まで地価上昇が波及している。その後、経済情勢が全国的に急激に悪化し、企業収益が大幅に落ち込む中で、今次感染症の影響を直接的には被っていない本年初日を基準日として、来年度の固定資産税の評価替えが行われれば、税負担が一層上昇する地域が全国で多数発生することは避けられず、実勢を十分に反映していない評価が3年間に渡り高止まりし、業種や企業規模、収益の多寡にかかわらず企業業績の更なる下押し圧力となる。以上の事態を回避するため、来年度の評価替えにおいては、一定期間の税額(課税標準)の据置等の緊急措置が必要不可欠である。

また、本年度末で適用期限を迎える負担水準が60~70%となる商業地等について課税標準を前年度課税標準に据え置く特例及び条例により課税限度額を引き下げる条例限度額制度等(負担調整措置)が廃止されれば、わが国経済を牽引する都市部はもちろん地方経済の活性化を担ってきた地方都市の活力も損なわれてしまう。同措置を堅持し、延長することもあわせて必要不可欠である。

なお、都市計画税についても、同様の取り扱いとすることを求める。

(2)住宅税制等

住宅投資は、地域経済や他産業への高い波及効果、雇用創出効果を有する内需の柱であり、住宅市場を一層活性化し、住宅取得をしやすい環境を維持するためにも、次の住宅に係る特例を延長・拡充すべきである。

  1. 住宅ローン減税の控除期間の延長措置(10年⇒13年)の適用期限(令和2年12月31日)の2年延長
  2. 住宅取得等資金の贈与特例の拡充(最大1,500万円を来年4月1日以降も継続)
  3. 次世代住宅ポイント制度の復活

(3)都市再生促進税制

都市の活性化や防災性能の向上、都市機能の効率化、国際競争力の強化及び土地利用の円滑化等の観点から、都市再生促進税制を延長すべきである。

(4)各種特例措置の導入・延長等

固定資産税の減免等、不動産市場の活性化等に向けた税制措置を講じるとともに、土地・住宅・都市に関わる次の特例措置の延長等を行うべきである。

  1. 土地売買等による所有権移転登記等に対する登録免許税軽減措置
  2. 住宅の買取再販に係る不動産取得税の特例
  3. J-REIT等の登録免許税、不動産取得税の特例の延長及び対象の拡充、要件の緩和
  4. 市街地開発事業に係る固定資産税の特例 等

なお、所有者不明土地関係について、「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案」(2019年12月3日、法務省法制審議会民法・不動産登記法部会)では、不動産登記の登記官が他の公的機関から取得した情報に基づき登記を変更することが可能となることが記載されている。今後の法改正に際し、登記官による不動産登記の変更に伴い、登録免許税が課税されないように所要の措置を講じることが必要である。

3.自動車関係諸税

今後の自動車関係諸税の検討に際しては、自動車の変革がもたらす新たなモビリティ社会や環境負荷の低減に対する要請を踏まえつつ、中長期的には制度の簡素化を含む抜本的な見直しも展望する必要がある。

また、現下の感染症の影響の下で、国内市場の需要を下支えする観点からは、既に「緊急経済対策」で自動車税・軽自動車税環境性能割の臨時的軽減が延長されたところであるが、更に取得時にかかる税負担の大幅な軽減を図るべきである。併せて、期限切れとなるエコカー減税の租税特別措置についても、技術開発の促進や次世代自動車の普及・促進の観点から延長すべきである。

また、自動車重量税に上乗せされている「当分の間」税率は、道路特定財源の一般財源化に伴い、既に課税根拠を喪失しており、早急に廃止すべきである。なお、これらの自動車関係諸税の負担軽減に際しては、代替財源を自動車ユーザーに求めるべきではない。

4.国際課税

(1)国際課税ルールの見直し

① 経済の電子化に伴う課税のあり方

電子経済活動の興隆に対して、各国の一国主義的な売上への課税(例えば、欧州・インド等で見られるデジタルサービス税(DST))への動きを引き続き懸念を持って注視している。これは、二重課税を生じる恐れがあることに加えて、電子取引を含む貿易投資に対する不確実性を増大させるとともに、経済成長へ予期しない悪影響を与える可能性があることから支持しない。

各国の一国主義的な課税の広がりを抑制する上で、OECD・G20の主導による国際合意を通じて、長期的な解決策の提示が極めて重要であることは論を俟たない。こうした中、OECDでは国家間の利益配分ルールの見直し(第1の柱)と軽課税国への利益移転に対抗する措置(第2の柱)に関して、2020年10月の青写真(Blueprint)の提示を目指して、BEPS包摂的枠組み(IF)の下、各種論点について議論が行われている。国際合意に基づく公平な競争環境と予見可能な投資環境の整備に向けて、引き続きOECD・G20のリーダーシップの下でIFでの議論の進展に期待したい。その際、第1の柱と第2の柱はパッケージでの取りまとめとすべきである。合意の暁には、DSTを廃止・撤回すべきである。国際交渉においては、日本国政府には、「令和2年度与党税制改正大綱」(2019年12月12日)の諸原則(例えば、安定的かつ予見可能な投資環境の構築、過大な事務負担及び二重課税の防止等)に則った対応を期待する。以下、IFにおける議論に対するわが国経済界の考え方を示す。

a)第1の柱(利益配分ルール)

従来の課税原則とは異なり、「新しいネクサス」として、物理的存在の有無に関わらず、主に売上高に応じた利益配分を行う方向性が示されている。企業にとっては税の安定性を確保することが極めて重要であるが、依然として対象が過度に広範となり、市場国への利益配分も過度なものとなる恐れがある。また、二重課税や事務負担の増加も懸念される。

新制度では、比例原則の観点から、適用対象の適正な絞り込みを行うとともに、市場国への利益配分は控えめな水準とすべきである。すなわち、現行制度下での利益配分の結果を大幅に変えるようなものとすべきではない。また、申告・納付の負担が少ない簡素な制度とすることが必須である。制度の実効性・適正性を担保する観点から、各国が結果に服する形での強力な紛争予防・解決の手段を確保し、二重課税を防止・排除することも不可欠である。

具体的には、以下の事項への対応を求める。

<Amount A関連>

  • 対象事業の明確かつ具体的な定義(消費者向けビジネス(CFB)と自動化されたデジタルサービス(ADS)の定義の明確化、処方医薬の除外)。
  • 「新しいネクサス」の判定の場面等における収入源泉地の特定方法の明確化等(その際、第三者である仲介者を経由する等、その財・役務の取引過程をすべて把握することが不可能又は極めて困難な場合には、厳格に最終消費地の判定を求めない等の配慮も必要)。
  • バリューチェーンは、第三者の介在も含めてより多層化・複雑化していることに鑑み、Amount Aにおけるグループ利益の算定における実務への配慮(地域別の利益率は考慮しない、事業別セグメンテーションについては高い閾値を設けるとともに計算は納税者と税務当局間の議論が生じないような簡素かつ定型的なものにすること、可能な限り既存の開示セグメントを用いるものとし、事業慣行やシステム投資の必要性に配慮すること等)。
  • 損失の繰越控除を認めること。
  • 対象グループ又は事業セグメントに占める通常利益の比率(X%)を十分高いもの(例えば、15%もしくは20%)とした上で、残余利益の市場国への配分比率(Y%)は穏当な水準に設定(最大10%)。
  • 申告納税及び調査の簡素化(例えば、One Stop Shop制度の導入等)。
  • 「市場国販社等に既に十分な利益が配分されていると見なされる場合に利益Aの配分額の調整を行う措置」については、制度の過度の複雑さを回避する形で検討。
  • 外税控除方式ではない簡素かつ確実な二重課税排除メカニズムの整備。 等

<Amount B関連>

  • 移転価格税制の簡素化や税の安定性という趣旨は理解するが、現行、リスク限定販社を含む国外関連取引において、既存の移転価格算定方法は基本的に機能しており、拙速な導入には慎重となるべき。仮に導入が必要となる場合でも、「基礎的な」マーケティング及び販売活動の定義は明確かつ各国において解釈の差異が生じないものとすべき。
  • 妥当な固定リターン率の設定及び配分利益の上限設定。固定リターン率が高く設定された場合には、DST同様に利益率の低い企業にとって非常に悪影響があることから、企業の収益性を考慮すべきである。
  • 利益最低保証の概念は、通常の経済状況を前提としたものとし、今次感染症をはじめとした異常事態においては、特例的取り扱いが認められるべき。
  • 制度の複雑さを回避する観点から、対象となる現地子会社等の範囲は限定すべき(コミッショネア、セールス・エージェント、サービス・プロバイダーは対象外)。 等

<税の安定性>

  • Amount Aについて、関係国が膨大であることを踏まえ、紛争の予防の観点から、拘束力のある早期の税の安定性プロセスの導入。
  • Amount B、通常の移転価格及び恒久的施設への課税(PE課税)も含めて、強力な紛争解決メカニズム(仲裁又は仲裁が困難な場合はそれに準じる措置)の導入。 等
b)第2の柱(ミニマム課税)

租税回避の防止という観点からは、既存のBEPS勧告の実施により十分に対処できる領域が多くあり、重複感が強い。法人税の引き下げ競争への対抗という側面もあるとされるが、経済実体のある事業(能動的所得)に課税することへの違和感を払拭できず、制度趣旨を明確化することが必要である。

制度の導入に際しては、とりわけCFC税制との関係の整理、事務負担軽減に十分に配慮すべきである。既存のCFC税制がBEPS行動3で提案されたCFC税制と整合的であれば、追加の制度を導入するのではなく、CFC税制を優先することが適当である。また、導入が不可避の場合には、企業間の公平な競争環境を整備し、わが国企業の国際競争力の向上を実現する観点から、日本国内における投資・生産・雇用の拡大やデータ等の無形資産の集積に資する税制上の支援措置も併せて検討すべきである。

具体的には、以下の事項を要望する。

  • 所得合算ルール(income inclusion rule)において、国・地域別ブレンディングアプローチ(jurisdictional blending approach)を採用する場合、事務負担が飛躍的に増大すると見込まれることを踏まえ、閾値の設定及び国・地域単位での所得・税額の集計・配分に際した計算の簡素化が不可欠。
  • 課税ベースから配当や持分法投資損益等の除外。また、能動的所得見合いの部分を簡素な算式により除外。
  • 所得合算ルールは、多国籍企業グループの最終親会社所在地国のみにおいて適用すること。
  • 二重・多重課税の排除の観点から、所得合算ルール(income inclusion rule)とundertaxed payments rule、subject to tax rule間の適用順序を整理。所得合算ルールが導入されるならば、undertaxed payments ruleは発動されないと理解。
  • なお、Subject to tax ruleは他制度との重複があり支持しない。導入が不可避な場合も、対象支払を限定するとともに、トップアップ税率を穏当な水準とすることが必要。
② 国別報告事項(CbCR)の2020年のレビュー

各国がCbCRの「守秘・一貫性・適切な利用」という入手及び利用の条件を確実に遵守することが不可欠である。

その上で、CbCR、マスターファイル、ローカルファイルという移転価格文書の3層の構造を踏まえ、相互の役割分担を前提として、記載の重複を排除し、事務負担を軽減するという視点が重要である。なお、CbCRは制度の安定化の段階にあり、拙速な見直しは避けるべきである。仮に見直される場合でも、国ごと記載方式及び合計データ方式を維持すべきである。

また、表1の記載項目の拡大(利子・使用料・役務提供に係る所得及び費用)を懸念している。変更する場合は、定義や範囲について明確化するとともに企業側のシステム改修等の実務コストの増大に配慮すべきである。なお、見直しに際しては、十分な移行期間を設けるべきである。

これに加えて、CbCRの公開提案については、CbCRの守秘という条件に反するものであり、引き続き同意しない。

なお、マスターファイルについては、各国で様式・記載事項を統一するとともに最終親会社所在国の提出期限を尊重すべきである。

③ 経済の落ち込みを踏まえた臨時的移転価格ガイドラインの整備及び執行等

今次感染症の下で、世界各国が異例となる経済状況に直面している中で、移転価格税制を過度に執行することのないように配慮しつつ、OECDとして以下の項目を含め、追加のガイドラインを早期に公表することが必要である。その際、以下の対応を講じることを検討すべきである。

  • 移転価格の経済分析におけるマクロ補正等の柔軟な取り扱い。
  • 異常事態に起因し生じる異常損失の定義の明確化。また当該損失は、企業にとって不可抗力との性質に鑑み、上記①の<Amount B>でも述べた通り、グループ会社所在の各国における損失処理を認めるという特例的な取り扱いを認めること。
  • 比較可能性分析で複数年度データを使用するものの、その一部が今次感染症の影響を受けている場合における、必要なデータの入手可能性や差異調整に係るガイダンス。
  • 移転価格調整金が発生した場合の関税への影響と各国の税務上の指針。 等

(2)国内法改正

① CFC税制の見直し

平成29年度改正以後、令和元年度改正においては米国の税制改正を意識したペーパー・カンパニーの範囲の見直し、令和2年度改正においても一定のユーザンス金利の受動的所得の範囲からの除外等がなされ、一定の改善がなされてきた。他方で、事務負担は飛躍的に増加していることを踏まえ、各種添付書類の保存要件化等、簡素化による軽減を検討すべきである。併せて、以下の措置を講じるべきである。

  • 受動的所得の範囲の適正化(一定のデリバティブ損益の除外、事業を売却した場合の異常所得の取扱い、部分合算課税においても会社単位の合算課税額を上限とする等)。
  • 合算所得の範囲の適正化(合算所得から除外される配当の持分要件の見直し等)。
  • 合算対象となる外国関係会社の範囲の適正化・主たる事業の判定基準の明確化(米国を含め、ペーパー・カンパニーの範囲から除外される一定の外国関係会社の更なる見直し、経済実体を伴う著作権の提供会社の除外、非関連者基準の見直し等)。
  • 合算所得計算上、外国法人税を控除する事業年度が相違することに起因する二重課税についての所要の措置。
  • キャピタルゲイン特例の緩和・柔軟化(譲渡期間要件、譲渡先要件等)。 等
② 外国税額控除制度の見直し

改正CFC税制の施行による合算対象範囲の拡大に伴い、控除対象外国法人税額が増加しており、所定の期間内に控除することが一層困難となっている。これに加えて、今次感染症の影響により課税所得が減少し、控除限度額が払底する可能性がある。

こうした状況を踏まえ、二重課税を排除するため、繰越限度超過額及び控除余裕枠の繰越期間を現行の3年間から5年間に延長すべきである。

併せて、地方法人税における繰越控除制度を整備すべきである。

③ 外国子会社配当益金不算入制度の見直し

海外で獲得した資金を国内へ還流させ、国内における生産・研究開発等を促進することは、わが国企業の国際競争力の維持・向上に極めて重要である。その観点から、当該制度の益金不算入割合を95%から100%へと拡充すべきである。

また、持株割合について、海外での新規事業分野の開拓と適切なリスク管理の観点から、20%以上の水準で事業展開を行う企業もある。このため、会計上一般に持分法損益の取り込みは、持株割合20%から可能であることを踏まえつつ、海外展開を更に後押しする観点から、現行25%以上である持株割合要件を20%まで引き下げることを検討すべきである。併せて、持株割合要件の判定には、内国法人による直接保有のみならず一定の間接保有を含めることも検討すべきである。

④ その他

令和2年度税制改正における、法人が一定の子会社から一定の配当を受け取った場合の子会社株式の帳簿価額の引き下げについては、複雑な制度における企業のコンプライアンス負担が懸念されることから、まずは実態に即した柔軟な執行を行うべきである。

また、最終親会社等届出事項の提出期限について、現状では報告対象となる会計年度の終了日までに提出する必要があるとされているが、連結決算の実務に配慮する観点から、一定期間延長すべきである。

(3)租税条約

投資交流の促進と二重課税の排除という租税条約の本来の目的を更に促進し、配当・利子・使用料に係る源泉税の一層の減免を実現すべく、以下の国・地域との交渉を推進すべきである。また、技術上の役務対価(FTS、Fees for Technical Services)条項について、既存の租税条約に盛り込まれている場合には見直しを行うとともに、新規締結時にも慎重に検討すべきである。

<改定>

中国、インド、パキスタン、タイ、インドネシア、ベトナム、ブラジル、シンガポール、韓国、カナダ、フィリピン、マレーシア、アイルランド、ロシア、バングラデシュ、スリランカ、ドミニカ共和国、ホンジュラス、チェコ、イタリア、ポーランド、英国、ドイツ、サウジアラビア、メキシコ、オーストラリア、台湾

<新規締結>

ミャンマー、ベネズエラ、イラン、ケニア、ボリビア、パナマ、モンゴル、カンボジア、アルジェリア、ガーナ、ナイジェリア、チュニジア、ウガンダ、コートジボワール、セネガル、エチオピア、ブルキナファソ、モザンビーク、ラオス、ネパール、アンゴラ、グアテマラ、エルサルバドル

その他、外国居住の執行役への役員報酬に対する二重課税を排除する観点から、当該国との租税条約や関係する国内規程を見直すことを検討すべきである。

なお、感染症下において国境を越えた人の移動に制限が生じる中、二重課税防止の観点から、条約上の個人の居住地国判定等について柔軟な取り扱いを認めるべきである。

5.地方税

(1)電気・ガス供給業に係る法人事業税収入割の見直し

電気・ガス供給業における法人事業税の課税標準について、地域独占と総括原価主義を根拠として収入割が適用されてきたが、2016年度(電気)、2017年度(ガス)の小売全面自由化による地域独占・総括原価の撤廃に伴い、一般の事業とは異なる収入割を適用する根拠は失われている。このため、一般の事業との課税の公平性を実現する観点から、電気・ガス供給業における法人事業税の課税標準を収入割から所得割及び外形標準課税へ移行する必要がある。

ガス供給業については、平成30年度改正において、中小規模の事業者を対象に「その他の事業」と同様の課税方式に移行した。電気供給業について、令和2年度改正において、発電・小売事業の一部に外形標準課税の組み入れが行われた。しかしながら、電気・ガス供給業ともに、法人事業税収入割の見直しは道半ばである。

これらの点を踏まえ、「令和2年度与党税制改正大綱」(2019年12月12日)に則り検討を進め、早期に電気・ガス供給業における法人事業税を一般の事業と同様の課税方式に統一すべきである。

(2)法人事業税における外形標準課税の簡素化及び負担軽減

外形標準課税付加価値割について、計算等が複雑になっており、企業実務にとって負担となっていることから、簡素化すべきである。

また、付加価値割の課税標準には、賃金(報酬給与額)が含まれていることから、負担軽減に向けた検討を行い、今次感染症の下での企業の雇用維持に向けた努力を後押しすることが求められる。

(3)地方法人所得課税のあり方

地方法人所得課税は、地域間の偏在性が大きく、税収も不安定という課題を抱えている。また、税目の多さは、納税者の申告作業を複雑化させ、労働生産性の向上の妨げとなっている。このため、地方の法人所得に対する課税部分、とりわけ地方法人税及び特別法人事業税は国税の法人税に統合し、地方交付税により各自治体に配分する仕組みへと一本化すべきである。

また、地方法人所得課税の現実的な課題として、法人の負担水準のあり方について最終的に廃止の方向で段階的な引き下げを検討すべきである。

(4)事業所税の整理・統合

事業所税の従業者割は、法人事業税付加価値割や法人住民税均等割と同様、賃金・雇用への課税となっており、実質的な二重課税である。今次感染症、度重なる自然災害等から企業は雇用の維持に努めている中で、従業者割は足かせとなっている。更に、資産割は、固定資産税及び都市計画税との二重課税である。これらの点を踏まえ、事業所税は他の税目と整理・統合すべきである。

6.期限切れ租特の延長等

(1)外航船舶の特別償却制度の延長等

国際競争力のある船舶の建造を促進し、物資輸送等の基礎的インフラを担う日本商船隊を安定的に整備するために、令和2年度末に期限切れとなる外航船舶に係る特別償却制度を延長すべきである。

併せて、諸外国に比べ割高な国際船舶(日本籍船)の保有コストを緩和し、安定的な国際海上輸送を確保する観点から、固定資産税特例の延長・拡充を図るべきである。

(2)地域未来投資促進税制の延長・拡充

当該税制は、産業集積、観光資源をはじめとした地域の強みを活かした先進的な事業を後押ししており、地方創生の観点からも一定の役割を果たすことが期待される。このため、今次感染症を通じて国内を含めてサプライチェーンの多元化の重要性が高まったことも踏まえ、サプライチェーンの強靭化を促す視点を盛り込んだ上で、当該税制を延長・拡充すべきである。

(3)災害に強い税制措置の整備

頻発する自然災害に対する設備等の強靭化は喫緊の課題であり、事業者の自主的な対策を税制上後押しする観点が重要となる。

こうした中、電気事業においては、「エネルギー供給強靭化法(強靭かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律)」の成立(2020年6月)に伴い、配電事業ライセンスの創設や災害復旧費用に係る費用の相互扶助制度等が創設される。将来の災害に備えた電気事業者の取り組みを後押しする観点から、税制上の所要の措置を講じるべきである。

また、水害等の発生後の都市間輸送の正常化等を期して、被災代替資産の特別償却の対象資産に鉄道用車両を追加すべきである。

(4)軽油引取税の課税免除の特例(鉱業、倉庫等)の延長

価格転嫁が困難であること等、本措置の廃止による経営への影響を回避する観点から、鉱山、倉庫等に係るものを含めて、軽油引取税の免税措置を維持・存続すべきである。

(5)債券現先取引(レポ取引)の非課税措置の延長

わが国の短期金融市場・金融機関の資金調達の安定化を図る観点から、わが国金融機関等と海外ファンド等との間におけるレポ取引に係る非課税措置を延長すべきである。

(6)留保金課税の見直し

企業の自己資本の充実による投資促進の観点から、特定同族会社の留保金課税は廃止すべきである。

(7)原料用途免税の本則非課税化

ナフサに係る石油石炭税の免税・還付措置、鉄鋼・コークス・セメント製造に係る石油石炭税の免税措置については「当分の間」とされているが、そもそも諸外国ではこれら原料に課税している例はない。国際的なイコールフッティングを図る観点から、ナフサに係る揮発油税も含め、原料用途免税を本則非課税化すべきである。

(8)火災保険等に係る異常危険準備金の洗替保証率の引き上げ

頻発する巨大自然災害に対する保険金支払いに万全を期すため、火災保険等に係る異常危険準備金制度について、準備金の積立残高の上限となる洗替保証率を現行の30%から40%へと引き上げるべきである。また、本則積立率が適用となる残高率も同様に40%へと引き上げるべきである。

(9)投資法人に係る税制措置の整備

今次感染症の影響を踏まえ、投資法人等がテナントに対して、賃料の支払いを猶予した場合の導管性要件の緩和等、所要の措置を講じるべきである。この他、投資法人に関し、税会不一致による二重課税の解消手段を行使する際の任意積立金の取り扱いについて、所要の措置を講じるべきである。

(10)グループ通算制度の見直し

令和2年度改正において、現行の連結納税制度の損益通算の基本的な枠組み及び重要なグループ調整計算は維持しつつも、各法人が個別に法人税額等の計算及び申告を行うグループ通算制度への移行(令和4年4月1日以降に開始する事業年度より適用開始)が法令化された。

しかしながら、新制度の下での投資簿価修正制度や離脱時時価評価制度は、現行制度に比べて企業側の税負担を増すことが見込まれるため、引き続き所要の見直しを検討すべきである。

(11)中小企業税制の延長

日本の製造業等のサプライチェーンを支える中小企業の経営を支え、かつ投資等を促進すべく、法人税率軽減、中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制、経営改善設備取得時の特別償却制度等を延長すべきである。

(12)割賦販売法改正に伴う所要の措置

割賦販売法の改正(令和3年4月施行見込み)では、少額・低リスクの後払いサービスを提供する業者や、与信審査に関する新たな類型が設けられた。これらにも既存の類型と同様に貸倒引当金制度を適用することができるように所要の措置を講じるべきである。

(13)大阪・関西万博の円滑な開催に向けた所要の措置

2025年の大阪・関西万博の円滑な開催に向け、博覧会への参加者等に対し、税制上の所要の措置を講じることを検討すべきである。

7.消費税

(1)転嫁対策特別措置法の期限切れに伴う対応

総額表示義務の再開に伴い、現行本体価格と税を分けて表示している値札を変更する必要が生じることが見込まれるが、今次感染症の影響で未処理の在庫を多く抱えるケースもあり、事業者の実務上の負担となることが想定される。こうした状況も踏まえ、当該特措法の期限切れが不可避な場合には、その後の一定期間において事業者の実務負担の軽減に資する経過措置を設定する等、所要の措置を講じるべきである。

(2)適格請求書等保存方式(インボイス制度)の導入への対応

インボイス制度において、消費税額の端数処理は、インボイス単位で税率ごとに1回行われることとされているが、業務プロセス等の見直しも伴うこととなるため、事業者の実態を踏まえた見直しを行う等の所要の措置を検討すべきである。また、端数処理計算の誤り等により、仕入税額控除全体が否認されることのないようにすべきである。

8.環境・エネルギー税制

(1)脱炭素社会の早期実現に向けた税制のあり方

気候変動問題への対応は、世界全体で取り組むべき課題であり、持続可能な事業活動の大前提であることから、ウィズ・コロナ、ポスト・コロナの時代においても、重要な経営課題であり続ける。こうした認識の下、経済界では、イノベーションを通じた脱炭素社会の早期実現に向けて、「チャレンジ・ゼロ」等の主体的な取り組みを進めている。このような企業の主体的な取り組みを促す税制上の措置を検討することが求められる。

現行の地球温暖化対策税は、税収実績と具体的使途だけでなく、定量的な温室効果ガスの削減効果も明らかにされておらず、エビデンスに基づく政府関係部局統一の政策効果の検証すら行われていない。まずは、地球温暖化対策税の実績・効果を丁寧に検証し、課税の廃止を含めて、抜本的に見直すべきである。

また、地球温暖化対策のための税負担の拡大は、温室効果ガスの長期・大幅削減に不可欠となる企業のイノベーション創出に向けた設備投資・研究開発投資の原資を奪う。加えて、今次感染症の影響により、わが国の経済活動が大きく停滞する中、既に国際的に高水準にあるわが国のエネルギーコストの更なる上昇を通じて、雇用や国民生活に一層深刻な影響をもたらす。現下の情勢に鑑みれば、新たな炭素税の導入を含め、税負担の拡大に向けた税制上の具体的な議論を開始できる状況にはない。

(2)エネルギー関係諸税の負担軽減

石油関係諸税(揮発油税、地方揮発油税、石油ガス税等)は、消費税との関係でTax on Taxとなっているため、速やかに解消する必要がある。そもそも、石油関係諸税の「当分の間税率」は、一般財源化された時点で課税根拠を喪失しており、廃止すべきである。

また、航空機燃料税については、令和2年度改正において軽減措置の延長が図られたところであるが、感染症下でも安定的な航空輸送を維持・確保する観点からも更なる軽減に向けた検討が求められる。

9.金融・証券・保険税制

(1)NISA制度の拡充

令和2年度改正においては、新NISAとつみたてNISAの2つの制度に改組し、5年間延長がなされたところである。今後も、中長期的な投資による資産形成の支援、継続的な市場の活性化の観点から、制度期限及び非課税保有期間を恒久化すべきである。

また、新NISAの1階部分及びつみたてNISAの投資対象商品の指定インデックスにESG指数及び東証REIT指数等を加えるとともに、新NISAの2階部分の投資対象商品の要件を緩和することを検討すべきである。

加えて、当該制度の利用等の裾野を一層拡大する観点から、NISA口座内の上場株式等について、売却代金の範囲内での他の上場株式等の再取得や投資一任契約に基づくリバランスを認めるべきである。

(2)教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の延長

高齢者が保有する資産の若年層への世代間移転の促進を通じた経済活性化、教育機会の充実・人材育成、及び若年層の結婚・出産・子育て支援の観点から、教育資金及び結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置を延長すべきである。

(3)金融所得課税の一体化(デリバティブ取引の上場株式等との損益通算化)

金融所得課税については、2020年7月に総合取引所が発足したことも踏まえ、高齢化社会における金融資産の効率的な運用、金融資本市場の活性化、企業の円滑な資金調達等の観点から、実務面の課題に十分配慮しつつ、今後も更なる一元化を検討すべきである。その一環として、デリバティブ取引と上場株式等との損益通算化を実現すべきである。また、上場株式等の譲渡損失の繰越控除期間を現行の3年間から延長することも検討すべきである。

なお、金融所得課税のあり方の見直しについては慎重に検討すべきである。

(4)上場株式等の相続税評価の見直し

上場株式(ETF及びREITを含む)並びに公募株式投資信託について、価格変動リスク等を考慮すれば、他の相続財産と比較して、相続税の負担感が相対的に高いため、相続税評価額を見直すべきである。比較的長期間保有する個人株主の増加は、個人によるリスクマネーの供給促進に資することとなる。

(5)生命保険料控除制度の拡充

持続可能な社会保障制度の確立と国民生活の安定に資するために、生命保険料控除制度を拡充すべきである。

10.年金税制

長寿化が進み、働き方や生き方が多様化する中で、老後の所得確保を図る観点から、公的年金の上乗せとなる企業年金制度等を改善・充実し、普及・拡大を図ることが必要不可欠である。その際、公平で分かりやすい制度の構築も求められている。今後、企業労使における退職給付の位置付け、実務等も十分踏まえつつ、制度の普及・拡大に資するような見直しの検討を進めるべきである。

退職年金等の積立金に係る特別法人税は、2022年度末まで課税凍結されているが、企業年金制度等の普及・拡大を図る方向性と逆行するものであり、国際的にも稀な税であることから、速やかに廃止すべきである。

また、中長期的な投資による資産形成を支援するとともに、日本の資本市場を活性化させる観点から、確定拠出年金制度を拡充すべきである。具体的には、拠出限度額の大幅な引き上げ、中途引き出し要件の緩和等を行うべきである。

以上

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