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Policy(提言・報告書)  地域別・国別 アジア・大洋州 新時代の日ASEAN関係 ~連携と協創による持続可能な社会の実現に向けて~

2021年6月15
一般社団法人 日本経済団体連合会

1.はじめに

ASEAN(東南アジア諸国連合)は、1967年の設立以来半世紀以上にわたり、加盟国#1を拡大しながら地域協力機構として域内における経済成長、社会・文化の発展に取り組んできた#2。ASEANに加盟する10カ国は、言語、民族、文化、風土、政治体制等でそれぞれが異なる特徴を有し、その多様性こそが地域全体としての魅力を増す要因となっている#3。日本の経済界は、ASEAN各国が互いの多様性を尊重しながら、一つの共同体であるASEANとして結束し、世界の繁栄と安定を目指し活動する姿に強く共感している。

ASEAN各国は、独自の政策のもと、農林水産業や鉱業等の第一次産業、電子・電機、自動車等の第二次産業、物流や金融・保険をはじめとする第三次産業などそれぞれの強みを発揮しながら、着実な経済成長を遂げている。昨今では、インフラ整備や投資誘致を継続するほか、産業のデジタル化やスタートアップの振興などを成長戦略に取り入れ、次世代型の産業を育成して新時代における経済発展を図る取り組みも加速している#4

同時に、ASEANは域内の関税撤廃#5やASEAN連結性マスタープラン#6等に基づく制度的、物理的な経済統合に取り組んでいる。さらには、「ASEAN中心性」#7を発揮し、域外との経済連携協定等を締結#8するなど、ASEANとして一体となり更なる成長の実現を目指して歩を進めている。

現在のコロナ禍は、経済や社会に深刻な影響を及ぼしているものの、ASEANは引き続き、世界の成長センターとしての高い潜在力を有している#9。同時に、経済の発展に伴い、気候変動といった地球規模課題の解決に向けて、より積極的な役割を果たしていくよう国際社会からの期待も高まっている。

こうしたなか、ポストコロナという新たな時代を見据え、日本はこれまでの経済活動を通じて蓄積してきた有形・無形の資産をも存分に活用しながら、ASEANとの連携を強化し、その活力を取り込み、新たな価値を協創しながらともに発展を目指していくことがますます重要となっている。

2.日本とASEAN諸国との関係構築の歩み

日本は、ASEAN諸国と地理的に近接し、二国間、地域、ASEAN全体など様々なレベルの枠組みを通じて、社会資本の整備、自由貿易協定の締結をはじめ官民をあげて発展と繁栄のための連携・協力関係を構築してきた#10

長年にわたるこれらの活動は、ASEAN各国、ひいてはASEAN全体の社会の安定と発展に貢献してきた。とりわけ1980年代央以降、日本企業は積極的な事業展開を本格化させ、豊富な労働力人口、勤勉な国民性、市場拡大の潜在力、インフラ整備の着実な進展などの優位点を持つASEAN諸国との貿易・投資関係を拡大してきた#11

今日、日本の製造業にとってASEANは、海外における生産拠点の中核として極めて重要な位置を占めている。その背景には、ASEANが積極的に進めてきた自らを基軸とする経済連携協定のネットワークの存在がある。また、地域に張り巡らされたグローバルサプライチェーンは、ASEANの持続的成長に寄与するとともに、日本企業の国際競争力の源泉になっている。さらに、非製造業もASEANに積極的に進出し、物流や金融・保険などのサービスを通じて製造業を支えるとともに、拡大する消費・内需に応えている。

ASEAN諸国に進出している日本企業#12は、雇用創出や人材育成において大きな役割を果たしながら、ASEANとともに成長の道を歩んできた#13。今や、日本とASEANは、多くの企業による地域に根差した事業活動という強固な紐帯で結びついた一体不可分のパートナーといえよう。

3.変動するグローバル環境のもとでの日ASEAN関係の重要性

現在、世界では、新型コロナウイルス感染症の拡大、気候変動問題などグローバルな社会課題が次々に顕在化している。また、デジタル技術の活用が進むことにより、人々の生活の利便性が向上する一方で、予期せぬ社会的リスクも表面化している。さらに、多くの国では内向き志向が強まり、国際経済秩序は大きな揺らぎを見せている#14

時代の転換期に直面している今、これらの課題を乗り越え、持続可能な社会を実現していかなければならない。そのためには、多国間で連携し、これまでの延長線上にない新たな発想を打ち出し、実行していくことが求められている。

そうした問題意識のもと、経団連は、2020年11月に「。新成長戦略」を公表し#15、持続可能な社会を構築するためには、デジタル技術を最大限活用し、経済発展と社会課題の解決の両立を図る社会「Society 5.0#16 for SDGs#17」の実現が重要であり、そのカギを握るのは、多様なステークホルダーとの価値の協創であると指摘した。

日本とASEANは、これまでアジア地域の平和と安定、繁栄と発展において揺るぎない協力関係を構築し、ともに多くの成果をあげてきた。これに基づき、それぞれの優位性を持ち寄ることで、これからもアジア地域のキープレイヤーの一つとして今後の世界経済を牽引するとともに、社会課題を解決していく必要がある。また、日本が提唱する自由で開かれたインド太平洋(FOIP)構想の実現においても、ASEANは国際社会の安定と繁栄の礎として重要な位置を占めている。ASEANも、独自のインド太平洋構想であるAOIP#18を描いており、2020年11月に開催された日ASEAN首脳会議において、AOIPとFOIPが、本質的な原則を共有していることを確認した「AOIP協力についての第23回日ASEAN首脳会議共同声明」が発出され、AOIP協力に関する各種の取り組み#19の一層の強化が表明された。日本の経済界としても、自由な貿易投資体制#20のもと、引き続き重要なパートナーであるASEANとの連携を一層強化しながら、持続可能な社会の実現に向け新たな価値を協創し、新時代をともに切り拓いていくことがますます重要になっている。

4.新時代の日ASEAN連携と協創
-力強い成長と社会課題の解決の両立を通じた持続可能な社会の構築に向けて

持続可能な社会の構築にあたっては、力強い成長の実現と社会課題の解決の両立を図っていく必要がある。

ASEANの力強い成長を実現していくために、日本企業は引き続き、インフラ整備や多様な産業分野における貿易・投資を積極的に行うとともに、人材育成や技術移転など、ASEANと連携し、各国の多様性やニーズを十分に踏まえたきめ細かな事業活動を行っていくことが求められる。同時に、気候変動、防災・減災、医療・ヘルスケアなど、日本とASEANが抱える共通の社会課題について、双方が協創し、対応していく必要がある。

さらに、新たな成長分野を開拓していくためには、デジタルトランスフォーメーション(DX)#21を進めていくことが欠かせない。日本とASEANがスタートアップ協業やデジタル技術を活用したソリューションの提供等を通じて、世界に先んじてSociety 5.0を実現していくべきである。

以下に、新時代において日本とASEANが連携・協創して取り組むべき5つの主要分野を示す。

(1)連結性強化に向けたハード・ソフト両面の社会資本の整備

① 質の高いインフラ整備を推進する

経済成長を実現するためには、人・物・資本・サービス・データ等の自由な移動を可能とする社会資本整備が不可欠である。

日本はODAも活用し、ASEAN地域の人々とともに、各国および東西経済回廊や南部経済回廊、海洋ASEAN経済回廊などにおいて、道路、橋梁、港湾、空港、電力など経済活動の基盤となるインフラの整備に取り組み、国民生活の向上を図ってきた。その結果、ASEAN連結性マスタープランに基づくインフラの整備は着実に進展している#22。今後は、各国におけるインフラプロジェクトはもとより、地域横断的な開発計画への継続的な関与も期待されている。

また、日本は官民をあげて「質の高いインフラ」を積極的に整備してきた#23。引き続き、優れたライフサイクルコストを誇る基幹インフラや環境性能の高いインフラ、精緻な工程管理に基づく工期・納期の順守など、日本企業が有する技術、経験と知見、強みを活かしつつ、ASEAN地域のニーズを適確に捉えながら、連結性の基礎となる各国のインフラ整備に積極的に取り組んでいく。また、外部からの脅威に対して、ASEAN地域のインフラを守るセキュリティ運用の強化と実装に貢献していく。

同時に、日本企業は政府とともに、ASEAN地域において物流ルートの再編・多元化や電子化された貿易プラットフォームの構築支援等#24に取り組んでいく。

② 制度インフラを充実させる
  1. 自由貿易投資体制を推進する
    自由貿易投資体制の整備も、円滑な事業活動の基盤である。ASEANは、これまで域内外の貿易投資環境の整備を着実に進めてきた。域内では、ASEAN自由貿易地域(AFTA)を実現し、物品貿易の自由化を行った。今後は、「ASEAN共同体ビジョン2025#25」における「ASEAN経済共同体2025」(AEC2025#26)に基づき、ASEAN域内の自由貿易投資体制の一層の深化が期待される。
    また、域外との間では、ASEAN+1FTAの締結に加えて、最近の事例では地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の交渉開始から2020年11月の署名に至るまで中心的な役割を果たすなど、地域の競争環境の整備や国際的なルール作りを牽引してきた#27
    日本の経済界は、RCEP協定参加の各国に可能な限り早期の批准・発効手続きを進めるよう期待する。発効後にはその積極的活用を通じて、日本およびASEAN諸国の政府・関係機関とともに、引き続き、自由で開かれた市場形成と国際経済秩序の実現に取り組んでいく#28

  2. 透明で予見可能な事業環境の実現に向けた法制度等を整備する
    ASEANに対する海外からの民間投資を一層促進するうえで、透明で予見可能な事業環境を整備することが重要である。具体的には、各種の法制度やインフラ整備に民間資金を呼び込むPPPに関する制度、それを執行する行政機能の向上などが考えられる。日本はこれまでもASEAN各国における各種制度の整備に向けた協力を行ってきており、今後も取り組みを継続していく必要がある。また、国際的な企業活動の展開と安全保障を両立させるには、機微技術の適切な管理が不可欠であり、日本としても体制整備に積極的に協力する必要がある。

③ グローバルサプライチェーンを強靭化する

現在、多くの日本の製造業が、グローバルサプライチェーン上の重要な拠点であるASEAN地域に生産設備を建設している。また、生産活動に必要な物流、ユーティリティー、通信などのハードインフラや、管理会社による各種のサポートなどのソフトインフラの両方を備えた工業団地に入居して活動する企業も増加している。

かつてグローバルサプライチェーンの脆弱性は、自然災害で顕在化したが、今般、世界が経験したコロナ禍は、グローバルサプライチェーンのあり方を改めて見直す契機となり、その強靭性の確保がより一層重要な課題となっている。日本企業は、整備された質の高いインフラや制度インフラを活用し、ASEANをグローバルサプライチェーンの重要な拠点として、その強靭化を進めていく。

(2)持続可能な成長の実現

① 気候変動問題に対応する

地球規模の課題である気候変動問題への対応には、国際的な連携が不可欠である。現在、気候変動対策の国際枠組みであるパリ協定のもとで、最終目標である脱炭素社会の実現に向けた取り組みが進展#29している。日本企業は、気候変動問題に対する主体的な取り組みを進めており#30、現地の実情に合致する形で、省エネ、再生可能エネルギー、原子力、水素、蓄エネルギー、CCUS#31等のエネルギー・環境技術やデジタル技術をはじめ、脱炭素化に貢献し得る多種多様な優れた技術をASEAN諸国に普及していくことが期待されている#32。また、こうした取り組みについて、サステナブル・ファイナンス#33を通じた後押しも重要となっている。

日本の官民は、地球規模のカーボンニュートラルの実現に向けて、移行期における対応も含め、ASEAN各国とも積極的に対話を行い連携しながら取り組んでいく。

② 環境負荷の低い社会を構築する

地域の持続可能な成長を維持していくうえで、土壌汚染や水質汚濁の防止、森林の保全など、環境問題への積極的な取り組みが一層重要となっている。とりわけ、ASEANにおいて海洋プラスチックごみ問題は深刻の度を増しており#34、問題解決を図っていく必要がある。日本政府と企業は、ごみ収集の仕組みや廃棄物処理・リサイクル技術において優れた技術・ノウハウ等を有するとともに、ごみの分別意識の醸成などにも知見を有しており、ASEAN各国の政府とも連携しながらこの問題に対応していく。

③ 防災・減災に取り組む

日本は、地震、津波、台風、豪雨による洪水など数多くの自然災害を経験してきている。産官学の連携によって開発された様々な技術の社会実装が進んでいるのみならず、教育を通じた地道な取り組みによって、国民に高い防災意識が浸透している。昨今、気候変動等により自然災害は激甚化しており、防災・減災の技術や考え方をいち早く社会に取り入れ、それを前提とした社会を構築していく必要がある。

これは、製造業のサプライチェーンの強靭化の観点からも重要である。日本には、例えば、これまでの災害の経験と教訓に基づく高度な治水、公共インフラを含む建造物の耐震・免震化などのハード面、防災を念頭においた都市計画、災害発生時のアラートや避難誘導、それに備える事業継続計画、被災者支援のための物流などのソフト面、さらには速やかな復興を支援する融資、保険等の金融機能など、多岐にわたる知識と経験が蓄積されている。日本企業は率先して、これらを同様の自然災害リスクを抱えるASEAN諸国#35と積極的に共有し、持続可能な成長に向けた人々の意識・行動の変容を生み出していく。そして、災害に対する強靱性を備えた、安心で安全な社会の構築に向けてASEAN各国とともに取り組んでいく。

④ 医療・ヘルスケア協力を進める

日本は、世界に先駆けて超高齢社会に突入しており、国によっては今後高齢社会を迎えるASEANとの経験・知見の共有は有益である。医療・介護人材の育成強化の推進に加え、ライフコースデータやAIの活用、遠隔診療等、ITを駆使した健康医療インフラシステムの整備は、これからの時代一層需要の高まる分野であり、日本とASEANが連携して取り組んでいくことが求められる。あわせて、基礎的な衛生状況の改善に向け、水処理システムや廃棄物処理・リサイクルシステムの整備を促進していく。

新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大により、医療分野におけるサプライチェーンリスクが顕在化したことを踏まえ、日ASEANの官民連携のもと、医薬品・医療機器・衛生用品等のサプライチェーン、食品・ワクチン等のコールドチェーン、国際物流システムの整備を加速していく必要がある。

(3)デジタル技術の活用による新たな成長分野の開拓とSociety 5.0の実現

新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大により、デジタル技術の重要性と可能性を誰もが改めて実感している。そうしたなか、デジタル技術の社会実装を通じた社会経済の発展と課題解決という目標を掲げる日本とASEAN諸国が、連携・協力できる余地は大きい。

とりわけ、ASEANでは、Eコマースや配車アプリの普及をはじめ、日本に先行して社会経済活動のデジタル化が進んでいる。また、最新のデジタル技術に通暁し、優れたビジネスセンスと高い志を併せ持つ若い世代が、FinTechを含むスタートアップを次々に起業している。地域によって解決すべき社会課題や求められるサービスはそれぞれであり、日本企業もこれらのニーズに応える形で、先んじて成長するASEANのスタートアップとの連携や、グローバル市場の開拓と展開における協働などを通じ、ASEAN内外の活力を取り込んでいくことが重要である。

これに関連し、昨今、日本企業によるASEAN諸国への製品・技術・サービスの提供と活用が図られる一方で、ASEAN諸国が日本に先駆けて先端技術を導入した製品・技術・サービスを社会実装している事例もある。日本とASEAN諸国が、これら双方向の動きによって実現した成功事例や、培われた運営・保守等のノウハウを共有することで、日本やASEAN諸国、第三国の市場において、製品・サービスのさらなる展開等につなげていくことが可能となる。

また、日本企業は、デジタルテクノロジーを活用し、環境・エネルギーをはじめ都市が抱える課題を解決するスマートシティや、生体認証技術を基にした非接触型のウィズ・ポストコロナの社会向けソリューション、省力化と生産性の向上を実現するスマート農業などの推進に積極的に参画していく。

さらに、膨大なデータの確実な流通を担保する信頼性の高い5Gや海底ケーブルなどの基幹通信ネットワークの整備が急務である。同時に、社会のデジタル化が進展するにつれ、サイバーセキュリティ確保の重要性が増している。社会インフラの整備にあたっては、製品の企画・設計の段階からセキュリティ対策を組み込んでおく必要がある。

国際的な商取引を安心・安全に実施するためには、ASEAN各国においてサイバーセキュリティ関連法やデータ保護法などの整備が不可欠である。また、個人情報保護とのバランスを勘案しながらデータの利活用に係る国際的なルール整備(DFFT:信頼性のある自由なデータ流通)#36に共同で取り組んでいく#37ことが重要である。ASEAN各国には積極的な対応を期待する。日本政府には、デジタル化に伴って現出する新たな課題に対し、サイバー演習の共同実施による能力強化、専門家の育成などにつきASEANと連携して取り組むとともに#38、積極的な支援を要望する。

(4)人材育成への取り組み

日本企業は長年にわたり、ASEAN諸国の成長基盤となる人材育成にも重点的に関与してきた。ASEAN諸国に展開する日本企業の地域統括本部や支社、製造拠点、営業やサービス等の拠点は、日ASEANの人材交流・育成の主体の一つとなっており、生産技術など地域の人々の職能を高めるためのトレーニングセンターを設置して運営を行う企業もある。また、日本に所在する本社との間で研修・出向等の形で、将来の幹部としての活躍も視野に人材交流などを図る取り組みが進んでいる。こうした企業の活動は、ASEANの自律的な経済成長を担う人材の育成にもつながっている。新たな社会課題解決にあたっても、その中心となるのは人であり、今後も、日本企業はASEAN諸国の次世代の成長を担う人材の育成に弛まず取り組んでいく。

ASEAN諸国から日本への留学生も年々増加している。学生時代の繋がりがその後の継続的な関係構築の起点となることも多く、日ASEAN双方において若い世代を中心とする留学プログラムを一層充実させていく必要がある。

(5)人的交流の促進

日本とASEAN諸国は引き続き、企業、政府・関係機関、自治体、教育機関間の連携など様々なレベルにおいて活発な交流を行っていかなければならない#39。日ASEANは2023年に友好協力関係50周年を迎えることから、日ASEAN連携を更に強化する機会として活用していく必要がある#40

相手国に抱いた関心を深める好機となる観光についても、近年、ASEAN諸国からの訪日外国人数は増加傾向をたどり#41、双方向の往来が活発化している。コロナ禍の影響を受けたものの、日本の様々な場所でASEAN諸国からの観光客が滞在を存分に楽しむ姿は日常のものとなっている。日本の人々にとっても、ASEAN諸国は主要な観光渡航先であり、相互の関心は、それぞれの都市、歴史的な遺跡や豊かな自然、そして民族、宗教、伝統文化、ポップカルチャー、食などに広がっている。新たな観光資源の発掘・活用も含め、人的交流の活発化に向けた取り組みを継続していくことが重要である。

5.おわりに-「心と心の触れ合う関係」の深化

先達たちが長きにわたり育んできた日本とASEAN諸国との人と人とのつながり、すなわち「心と心の触れ合う関係」は、ウィズコロナ、ポストコロナの新常態のもとでも連携・協力関係の基盤となる財産である。今後もこうした関係を一層深化させるべく、今を生きる世代、そして前途洋々たる若者たちが、様々なレベルにおいて対話・交流を活発に行っていかなければならない。

経団連は、これまでASEAN諸国へミッションを派遣し、また、合同会議を開催するなど、ASEAN各国の政府や経済団体との間で政策対話を実施してきた#42。同時に、大学の設置への協力や奨学金制度の創設と運用など、次代を担う人材に対する支援に取り組んできており、今後もこうした活動を継続していく#43

我々は、新たな時代のなかで、ASEANが引き続き、アジア地域、そして世界の経済発展に中心的な役割を果たしていくと確信している。日本とASEANが連携・協創し、新たな価値を創出していくことができるよう、本提言の実現に向けASEANや日本の政府・関係者との政策対話などを積極的に展開し#44、ASEAN諸国と日本がともに手を携え、持続可能な社会を実現できるよう歩を進めていきたい。

以上

別添

以下の分野を中心に、今後、ASEAN諸国との対話を行いながら、連携・協創を行っていきたい。

  1. 1.連結性強化に向けたハード・ソフト両面の社会資本の整備
    1. (1)ハードインフラ整備
      • 質が高いインフラの展開(高規格道路、橋梁、鉄道、港湾、空港整備等)
      • 地域の産業の核である工業団地の開発・運営#45の継続
      • サイバーセキュリティの観点も踏まえたインフラ整備
      • 渋滞解消など都市圏の抱える課題に対処した快適な街づくりへの協力
    2. (2)ソフトインフラ整備
      • 地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の早期発効と、発効後の積極的活用ならびにインド参加の働きかけ
      • 行政の効率化・円滑化等のためのキャパシティ・ビルディング
      • 中央・地方政府における手続きの円滑化を含めたビジネス環境整備
      • デジタルトレードプラットフォームによる貿易手続の円滑化
      • テクノロジーを用いた物流の効率化
  2. 2.持続可能な成長の実現
    1. (1)グリーン成長の実現
      • 日本企業が有する技術やノウハウのASEAN諸国への展開
      • 移行期における対応を含む脱炭素社会実現のための連携
    2. (2)環境負荷の低い社会の構築
      • 海洋プラスチック問題対策、土壌汚染や水質汚濁の防止、森林の保全などに資する企業活動の継続#46
    3. (3)防災・減災への取り組み
      • ハード・ソフト両面における災害対応の知識・経験の共有
      • 防災に関する人材育成の支援
      • 災害から速やかな復興を支える融資、保険等の金融制度の構築や普及
    4. (4)医療・ヘルスケア協力
      • 医療・介護人材の育成強化の推進
      • ライフコースデータやAIの活用、遠隔診療等、ITを駆使した健康医療インフラシステムの整備
  3. 3.デジタル技術の活用による新たな成長分野の開拓とSociety 5.0の実現
    1. (1)スタートアップ連携
      • 日ASEANのスタートアップ連携に資する機会の創出#47
      • 日本とASEANとを結ぶイノベーションエコシステムの構築支援
    2. (2)スマート社会の実現
      • スマート社会の基盤となる5GならびにBeyond 5Gの早期・円滑な実装に向けた協力、その他、海底ケーブルなどを含む基幹通信網の整備
      • ICTプラットフォームの展開によるスマートシティ実現への参画
      • 生体認証技術等を活用したウィズ・ポストコロナ時代に即した非接触型ソリューションの実装
      • 国際標準化における日ASEANの連携
      • サイバーセキュリティ人材育成の支援#48
      • セキュリティ・バイ・デザインに基づいたシステム基盤の実装支援
    3. (3)ルール作りへの協力・参画
      • 信頼ある自由なデータ流通を原則とする国際的ルール作りへの連携
      • 個人情報保護等のデジタル化の進展による社会の変化を踏まえたルール作り
  4. 4.人材育成への取り組み
    • 技術習得にとどまらない「人財」育成
    • 日ASEAN間の大学間連携や交換留学プログラムの拡大
  5. 5.人的交流の促進
    1. (1)観光振興等
      • 観光客誘致による地域の活性化
      • 伝統文化、食文化、ポップカルチャー等の展開
    2. (2)経団連の取り組み ―政策対話の実施
      • 「ASEAN経済連携強化部会」の設置と活動の展開
      • ASEAN各国へのミッションの派遣・政策対話の実施
      • 在京各国大使館との意見交換の実施
以上

  1. ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの10カ国。
  2. 2015年12月、ASEAN共同体が創設。「政治・安全保障共同体(APSC)」「経済共同体(AEC)」「社会・文化共同体(ASCC)」の3つの分野別共同体から構成。「ASEAN共同体ビジョン2025」に基づき、さらなる統合の深化を推進。
  3. 例えば、言語は、公用語・準公用語に限っても11を数える。
  4. インドネシアの「Making Indonesia4.0」、タイの「Thailand4.0」、マレーシアの「MyDIGITALイニシアチブ」など。また、ASEAN各国における携帯電話の登録台数の急増など生活へのデジタル分野の浸透が指摘されている。
  5. ASEAN物品貿易協定(ASEAN Trade in Goods Agreement, ATIGA)に基づき、2010年1月に先発ASEAN諸国が、また、2018年1月に後発ASEAN諸国が、それぞれ関税撤廃。これにより、ASEAN自由貿易地域(ASEAN Free Trade Area, AFTA)が完成。
  6. 2009年10月の第15回ASEANサミットで宣言、2010年10月に策定。物理的連結性(交通・情報通信技術・エネルギー等)、制度的連結性(貿易・投資・サービスの自由化・促進等)、人と人との連結性(教育・文化や観光等)の三要素から成る概念。2015年11月のASEAN首脳会議で採択された共同宣言「ASEAN 2025: Forging Ahead Together」に「連結性の強化」は引き続き、ASEANの行動目標の一つとして明記。
  7. 「ASEANの中心性」の目的は、域外大国が参加する地域制度枠組においてASEANのプレゼンスと利益を確保すること。
  8. ASEANと、日本、中国、韓国、インド、豪州・ニュージーランドとのFTAなど(これらに加えて、ASEAN各国との二国間FTAも存在)。
  9. ASEAN10カ国のGDP成長率は、2020年は-2.5%であるものの、2021年3.1%、2022年5.0%と予測(ミャンマーの2022年予測値はなし)(出所:ADB, Asian Development Outlook, April 2021)。
  10. 1977年発表の福田ドクトリンを皮切りに、例えば、日本政府はASEAN加盟各国と二国間の関係強化を図るとともに、首脳対話や閣僚対話等を通じて、ASEANやメコン地域との連携協力などに取り組んでいる。
  11. 2020年の日本の対ASEAN貿易(輸出入合計)は約20.4兆円。対世界貿易(約136.2兆円)の15%を占める(出所:財務省貿易統計)。貿易構造は、日本の加工貿易から、近年ASEANからの製品輸入の増加へと変化。また、日本のASEANへの対外直接投資は2兆2906億円(出所:財務省国際収支統計(速報値))。
  12. ASEAN10カ国合計で1万2545拠点(2017年10月1日時点。出所:外務省 海外進出日系企業拠点数調査)。
  13. ASEAN10カ国における在留邦人総数は約20万人。日本企業はASEAN全体で、200万人以上の雇用を創出(出所:日本アセアンセンター ASEAN情報マップ)。
  14. グローバルなガバナンスのあり方については、2021年3月公表「自由で開かれた国際経済秩序の再構築に向けて緊密な協調を求める」参照。
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2021/026.html
  15. 2020年11月公表「。新成長戦略」
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2020/108.html
  16. Society 5.0とは、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く新たな社会。サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会(超スマート社会)が実現する社会を意味している。
  17. 2018年11月公表「Society 5.0 ―ともに創造する未来―」。
    http://www.keidanren.or.jp/policy/society5.0.html
  18. 2019年6月開催のASEAN首脳会議において、インド太平洋構想として「ASEAN Outlook on the Indo-Pacific」(AOIP)を採択。
  19. 2020年11月開催の日ASEAN首脳会議において、海洋協力、連結性、SDGs、経済というAOIPの重点分野に沿って協力を推進していくことが表明されている。
  20. 多角的自由貿易体制の中核を成すWTOの改革を早急に進めるとともに、加盟国間の公平な競争条件を確保するための規律など、各種ルールづくりを推進する必要がある。また、WTOを補完する経済連携協定や投資協定に加えて、社会保障協定等の推進も重要である。
  21. Digital Transformation。デジタル技術とデータの活用が進むことによって、社会・産業・生活のあり方が根本から革命的に変わること。また、その革新に向けて産業・組織・個人が大転換を図ること。2020年5月公表の提言「DX~価値の協創で未来をひらく~」を参照。
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2020/038.html
  22. 「東西・南部経済回廊」におけるネアックルン橋の建設やラオス国道9号線の改修、「海洋ASEAN経済回廊」における各国主要港湾の整備等。
  23. 2020年12月、日本政府は「インフラシステム海外展開戦略2025」を公表。「カーボンニュートラル、デジタル変革への対応等を通じた、産業競争力の向上による経済成長の実現」「展開国の社会課題解決・SDGs達成への貢献」「質の高いインフラの海外展開の推進を通じた、『自由で開かれたインド太平洋(FOIP)』の実現等の外交課題への対応」の三本柱を掲げる。自由で開かれたインド太平洋(FOIP)構想の「経済的繁栄の追求」においては、物理的連結性の実現のために質の高いインフラ整備の重要性が指摘されている。また、経団連ではこれらを踏まえ、インフラシステムの海外展開に向け、2021年3月に提言「戦略的なインフラシステムの海外展開に向けて-2020年度版」を公表。
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2021/028.html
  24. 貿易手続の円滑化を目的に、異業種連携のもと日本企業7社によるブロックチェーン技術を活用した貿易情報連携プラットフォーム「TradeWaltz(トレードワルツ)」の整備が行われ、利用が開始されている。なお、「TradeWaltz」によるベトナム向け商流の電子化実証は、経済産業省の「海外サプライチェーン多元化等支援事業」に採択されている。
  25. 2015年11月採択。「ASEAN共同体ビジョン2025」は政治・安全保障共同体(ASCC)、経済共同体(AEC)、社会・文化共同体(APSC)の3分野に関するビジョンを示す。
  26. AEC2025は、統合され行動に結束した経済、競争力のある革新的でダイナミックなASEAN、強化された連結性と分野別協力、強靭で包摂的、人間本位・人間中心のASEAN、グローバルASEANを柱に構成。
  27. 貿易・投資の拡大の観点から、インドの早期加入が期待される。
  28. 自由貿易においては税関近代化も重要。その取り組みの一環として、NACCS(輸出入・港湾情報処理システム)をベトナムとミャンマーに導入。
  29. 2016年、2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組み「パリ協定」が発効。2021年4月開催の気候変動サミットで各国が温暖化ガスの削減目標を発表。日本政府は温暖化ガスの排出量を2030年度までに2013年度比で46%削減することを目指し、さらに50%の高みに向け挑戦を続けていく旨を表明。
  30. 経団連は、気候変動問題に対して、「チャレンジ・ゼロ」(https://www.challenge-zero.jp/jp/)などの取り組みを進めている。
    「経団連低炭素社会実行計画」(http://www.keidanren.or.jp/policy/vape.html#lcs)については、「経団連カーボンニュートラル行動計画」へと改め、今後強力に推進していく。
  31. Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage。二酸化炭素回収・利用・貯留。
  32. 日本政府は、2019年9月開催の第16回ASEAN+3エネルギー大臣会合において、官民によりASEANの低炭素技術の普及と政策・政策構築を進めるためCEFIA(Cleaner Energy Future Initiative for ASEAN)を提案し、参加者間で合意。また、2021年5月開催の「日ASEANビジネスウィーク」においてASEANの脱炭素化に向けた金融支援等を内容とする「Asia Energy Transition Initiative(AETI)」を表明。
  33. ASEAN域内の機関投資家や金融機関において、持続可能な開発目標(SDGs)に向けたESGファイナンスを行う事例が増加している。例えばアジア開発銀行(ADB)では、2030年までに年間融資契約締結件数の少なくとも75%を気候変動対策(緩和・適応)に向けることとしている。
  34. 日本政府は、2019年に開催されたG20大阪サミットにおいて、海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロにすることを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」の実現に向け、途上国の廃棄物管理に関する能力構築およびインフラ整備等を支援していく旨を表明。
  35. 1990年から2019年の間、アジア地域は洪水、暴風雨、渇水等の水に関連する災害の発生、損害等が世界の他地域との比較で最大と指摘(出所:Natural Disasters Data Book 2019, The Asian Disaster Reduction Center(ADRC))。
  36. 2019年1月、安倍晋三首相はダボス会議において、「Data Free Flow with Trust(DFFT):信頼性のある自由なデータ流通」を提唱、同年のG20大阪サミットで合意。2020年、シンガポールは、デジタル貿易の促進、フィンテックなどデジタル分野の協力、国境を越えたデータ流通の確保などを内容とする「デジタル経済連携協定」をオーストラリア、ニュージーランド、チリと締結。
  37. 2020年10月、菅義偉首相は、日越大学における政策スピーチで、地域のデジタル連結性強化をASEAN各国と共に進めながら「DFFT:信頼性のある自由なデータ流通」に基づくルール作りを推進していくことを表明。
  38. 内閣官房・総務省・経済産業省により「日・ASEANサイバーセキュリティ政策会議」が開催。日本企業もASEAN加盟国向けのサイバーセキュリティ人材育成センターのシステム構築や演習業務を実施。
  39. 日本政府は、東アジア青少年交流基金拠出等を通じて若者の関係構築を促進。また、外国人技能実習制度による「人づくりを通じた国際貢献」を推進。国際協力機構(JICA)は、日ASEAN技術協力協定に基づき「ASEAN地域のサイバーセキュリティ対策強化のための政策能力向上」や「港湾戦略運営」研修などを実施。ジェトロ(日本貿易振興機構)は、現地エンジニアの育成・技術向上を目指した研修を開催。国際機関日本アセアンセンターでは、学生、若者や女性起業家による交流を図るなど、活発な事業を展開。
  40. 例えば、日ASEAN統合基金(JAIF)や21世紀東アジア青少年大交流計画(JENESYS Programme)及び「文化のWA(和・環・輪)プロジェクト」の拡充が期待される。
  41. ASEAN諸国では、急速な経済成長と中間層の増加、LCCの市場参入や日本観光の人気の高まりを背景に、日本への訪問者が急増し、2018年には10年前の約5倍の約340万人を記録。
  42. 2010年から、経団連をはじめとするアジア各国の経済団体の主催によりアジア・ビジネス・サミット(ABS)を開催。2020年11月の第11回ABS(オンライン開催)では、ウィズ・ポストコロナ期の経済産業戦略やアジアにおける協力課題などをめぐり活発に議論。
  43. 経団連では、高度な技術者の養成を目的にタマサート大学シリントーン国際工学部の創設に協力。また、ベトナムやミャンマーにおいて奨学金の授与等を実施。
  44. アジア・大洋州地域委員会のもとに「ASEAN経済連携強化部会」を設置し、各国政府・経済団体等と政策対話を実施予定。
  45. 現地政府との連携協力のもと、日本企業はASEAN各国において工業団地の開発・運営を実施。進出国での雇用創出、技術移転など地域に溶け込みながら地域の発展に貢献。
  46. ASEAN諸国における植林事業や環境美化活動など。
  47. 経団連は、日本貿易振興機構(JETRO)などとともにグローバルスタートアップエコシステム構築に向けたマッチングイベント等を開催。
  48. 日ASEAN技術協力協定に基づき、ASEAN諸国から行政官を招いてのサイバーセキュリティ研修を実施。

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