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Policy(提言・報告書)  環境、エネルギー 第6次エネルギー基本計画(案)
パブリックコメント募集に対する意見

2021年10月4
一般社団法人 日本経済団体連合会
資源・エネルギー対策委員会

今般提示された第六次エネルギー基本計画(案)は、昨今の状況変化を的確に捉えつつ、特に2050年カーボンニュートラルや、2030年度46%削減といった野心的な地球温暖化対策目標の実現の観点から、エネルギー政策の道筋を意欲的に示したものと受け止めている。

東日本大震災、福島第一原子力発電所事故から10年を迎える中、その経験・反省・教訓を肝に銘じて取り組むことが「エネルギー政策の原点」であるとしたことは極めて重要である。その上で、気候変動対策を強力に推進する中にあってもS+3Eを大前提として位置付け、地球温暖化対策目標の実現に向けて、原子力を含むあらゆる選択肢を追求する旨が記載された。こうした考え方は、これまでの経団連の主張と軌を一にするものであり、評価する。他方、わが国産業の国際競争力に大きな影響を及ぼすと考えられるエネルギーコストの上昇やエネルギーの安定供給上の課題に対する具体的な対応についての記述が乏しいなど、上述の基本的な考え方が必ずしも徹底されていない点も見受けられる。

かかる観点から、下記の通り意見を提出する。

3.エネルギー政策の基本的視点(S+3E)の確認(p17~19)

[意見]

  • 安全性を前提とした上で、エネルギーの安定供給を第一とし、経済効率性の向上による低コストでのエネルギー供給を実現し、同時に、環境への適合を図るとする「S+3E」の実現を大原則に据えたことを支持する。

[理由]

  • エネルギーは国民生活・事業活動の基盤であり、気候変動対策を強力に推進する中にあっても、エネルギー安全保障や経済効率性が確保されたエネルギー政策の立案が大前提である。とりわけ、野心的な温暖化目標の実現に向けて、現時点の技術水準を前提とすればコスト増となることが懸念される中、国内産業の国際競争力の維持・強化の観点から、経済効率性の向上に向けた不断の取組みが求められる。

(4)エネルギー全体の経済効率性の確保(p18 L599-601、L602-603)

[意見]

  1. 経済効率性(Economic Efficiency)の向上による低コストでのエネルギー供給は、「産業界の事業拠点を国内に留める」のみならず、「新たな投資をわが国に呼び込む」上でも不可欠であることを記載するべきである。

  2. 日本の国際競争力を左右する我が国の電気料金について、特に産業用電気料金の高さを強調した表現に修正すべきである。

[理由]

  1. 電力の安価安定供給は、既に国内に立地する産業の競争力確保のみならず、半導体やデータセンターなど、電力集約型のデジタル関連産業等の国内誘致にとっても重要な要件であり、ひいては、国の成長戦略の成否にも関わると考えられる。

  2. 電気料金の国際比較において、産業用は特に高いことが示されており、また、国際競争力に影響を及ぼすのも産業用電気料金であることから、その部分を強調した表現とすべきである。

4.2050年カーボンニュートラル実現に向けた課題と対応(p20~31)

[意見]

  1. 2050年に向けて複線シナリオを描き、イノベーションを創出しながら、将来に向けてあらゆる選択肢を追求する方針は妥当である。

  2. 再生可能エネルギーについて、「S+3Eを大前提に」主力電源化に向け最大限の導入に取り組むことを明記すべきである(p23)。

  3. 原子力について、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、必要な規模を持続的に活用していく方針(p23)が示されたことに賛同する。国民からの信頼確保に努め、安全性の確保を大前提に、リプレース・新増設について明確に記載すべきである。併せて、エネルギー基本計画の次の改訂(第7次)を待つことなく、カーボンニュートラルの実現を見据えた原子力の継続的活用のあり方について、正面から議論すべきである。

  4. イノベーションの創出からその社会実装までを見据え、さらなる大規模かつ複数年度にわたる財政支援の必要性など、より踏み込んだ記載をすべきである。

[理由]

  1. 資源が少なく再エネの適地にも恵まれず、加えて欧州のように海外との系統連系も容易ではないわが国にとって、それぞれの欠点を補完しあう適切なエネルギーミックスを目指すことは、S+3E確保の観点から極めて重要である。とりわけ、2050年といった長期については、社会的・技術的不確実性が大きいことに鑑み、特定のエネルギー源を排除することなく複線シナリオを描き、定期的にレビューしながら最適なエネルギーミックスを追求することが肝要である。

  2. 主力電源とは「低コスト」「安定供給」「責任ある事業規律」を備えた電源であり、本文の他の箇所と平仄を合わせる観点からも、「S+3Eを大前提に」することを記載することが適当である。

  3. 資源が少なく再エネの適地にも恵まれないわが国にとって、準国産の脱炭素エネルギーである原子力は極めて重要な選択肢であり、必要な規模を継続的に活用すべきである。既存プラントの稼働期間を全て60年に延長したとしても、2050年には原子力発電所の設備容量は大幅に低下する見込みである。必要な規模の継続的活用を見据えれば、運転期間のさらなる延長はもとより、リプレース・新増設の方針を示すことが不可欠である。また、カーボンニュートラルの実現に向けて、技術・人材基盤の維持・強化の観点も踏まえつつ、原子力の継続的活用に向けた今後の道筋を早期に示していくべきである。

  4. 政府は、2兆円基金創設等の画期的施策を打ち出しているが、欧米等が前例のない大規模な財政支援(グリーンディール政策)を打ち出す中、わが国政府としても、イノベーションの国際競争に打ち勝つことで、グリーン成長につなげるべく、革新的技術開発から社会実装までを視野に入れた、より大規模な財政支援を行っていく姿勢を示すべきである。また、実用段階にある脱炭素技術のコスト低減なくして、脱炭素化は進展しない。経団連としても、カーボンニュートラル行動計画やチャレンジ・ゼロといった自主的取り組みを強化し、カーボンニュートラルに向けて必要なイノベーションの創出に尽力する。

5.2050年を見据えた2030年に向けた政策対応(p32~107)

(5)再生可能エネルギーの主力電源への取組(p50~64)

[意見]

  1. 再エネについて、国民負担の抑制と地域との共生を図りながら、最大限の導入を図るという方向性を支持する。関係省庁連携の下、総合的に施策を展開し、必要な調整力を確保しつつ、系統制約の克服や規制の合理化、技術開発の推進等、様々な課題を解消していく必要がある。

  2. FIT賦課金の総額は既に巨額となっており、少なくとも当面は増加を続けていくことが予想される。今後の負担拡大抑制に向けた地道な取り組みを進めることは言うまでもないが、国内産業の国際競争力を棄損することがないよう、対応策の検討を深めることを明記すべきである。

[理由]

  1. 再エネは中長期の温暖化対策目標実現に不可欠であり、わが国の地理的特性も踏まえつつ、「低コスト」「安定供給」「責任ある事業規律」の要件を備えた「主力電源」として導入を拡大していくべきである。投資家や取引先企業が再エネ利用を求めるケースも増加する中で、欧米並みに安価な再エネへのアクセス機会を拡大することは、産業政策の面でも重要となる。

  2. 政府案の試算では、2030年度時点でFIT買取総額が、現行ミックスの想定を大きく上回る5.8~6.0兆円にのぼると予想されており(p106)、諸外国に比して割高なわが国の産業用電気料金水準をさらに押し上げることが懸念される。わが国産業の国際競争力の維持・強化の観点から、賦課金を含めた電気料金・エネルギーコスト全体の負担の在り方について検討を深める必要がある。

(6)原子力政策の再構築(p65~74)

[意見]

  • 政府案において、原子力を、引き続き重要なベースロード電源と位置付け(p34)、安全性を大前提とした既存原子炉の着実な再稼働や、バックエンド対策の強化が示されたことは重要であり、支持する。温暖化対策目標実現のためにも、必要な規模を確保すべく、既存プラントの運転期間の延長、規制の合理化・審査の迅速化等に積極的に取り組む姿勢を明示すべきである。

[理由]

  • 原子力は、3Eのバランスに優れる、技術的に確立した脱炭素電源である。将来にわたり必要なエネルギーを確保し、カーボンニュートラルを実現するため、安全性を確固たるものとすることを大前提に、引き続き、重要なベースロード電源として活用することが不可欠である。2030年度エネルギーミックスの実現には、40年から60年への運転期間の延長、高い稼働率の維持が必要であり、そのための事業環境整備が求められる。

(7)火力発電の今後の在り方(p75~77)

[意見]

  • 安定供給を大前提に、適切なポートフォリオを組みながら、次世代化・高効率化を推進しつつ、可能な限り火力発電比率を引き下げ、CCUSや水素・アンモニアの活用(混焼・専焼)により火力の脱炭素化を図るとの方針は妥当であり、支持する。

[理由]

  • 火力発電は、調整力・慣性力・同期化力を有する現在の主力電源であり、とくに安定供給の観点から重要な役割を担う。他方、足元、日本の火力発電依存度は8割近い。気候変動対策やエネルギー安全保障の観点から、次世代化・高効率化・脱炭素化を進めるとともに、比率を引き下げていくことは急務である。なお、非化石電源が十分に導入される前の段階で、直ちに化石電源の抑制策を講じることとなれば、電力の安定供給に支障を生じかねないため、施策の強度、実施のタイミングなどは十分に考慮する必要がある。

(9)エネルギー安定供給とカーボンニュートラル時代を見据えたエネルギー・鉱物資源確保の推進(p81~p86)

⑧ 脱炭素燃料等(水素、アンモニア、合成燃料、CCS、カーボンリサイクル等)の確保等に向けた取組(p86)

[意見]

  • 脱炭素燃料の新たなエネルギー源として、水素、アンモニアの確保に向けた取り組みが示されたことを支持する。

[理由]

  • 水素・アンモニアは、再生可能エネルギーや原子力発電等を利用し製造することで、脱炭素化が可能なエネルギー源であり、新たなエネルギー源として、国を挙げて安価で潤沢な水素・アンモニアの確保に取り組む必要がある。

(11)エネルギーシステム改革の更なる推進(p92~99)

(a)供給力確保のための強化策及び枠組み(p93)

[意見]

  1. 2024年に開始される容量市場の着実な運用を進める方向性は極めて妥当であり、支持する。

  2. 併せて、将来に向けて電源の適切な新陳代謝を図っていく観点から、新規電源投資が行われる市場環境の整備に向け、早期にスケジュールを定め、検討を加速するべきである。

[理由]

  1. 電力自由化が進む中で高経年火力の退出が進展し、電力の安定供給に懸念が生じている。再エネの主力電源化を目指す中にあっても、脱炭素化投資を促しつつ、火力等の必要な供給力を維持し電力の安定供給を確保することは、国民生活・事業活動にとって死活的に重要である。投資の予見性を確保すべく、容量市場の着実な運用が期待される。

  2. 2050年カーボンニュートラルの前提となる電源の脱炭素化実現に向けて、電源の新陳代謝、ひいてはそれを支える電源新設投資は不可欠である。電源建設に一定のリードタイムがかかることを踏まえれば、対応は待ったなしの状況にあり、早期にスケジュールを定めた上で、市場環境整備に取り組むべきである。

(13)2030年度におけるエネルギー需給の見通し(p104~107)

[意見]

  1. 野心的な見通しの達成に向けた具体的施策の実施に当たり、安定供給への支障や想定以上のコスト上昇を招かないよう、施策の強度や実施のタイミングを十分考慮する旨が記載されたことは重要であり支持する。

  2. 野心的見通しが実現した場合の3E別の見通しが示されている。負の側面を含め、国民に対して丁寧に説明をするとともに、とりわけ電力コストついては、政府が責任をもってその動向をモニタリングし、想定以上のコスト上昇が生じる場合に必要な対応を行うことを明記すべきである。

  3. 円滑な燃料調達によるわが国のエネルギーセキュリティーの維持・強化の観点から、天然ガス(LNG)が果たす役割や意義、今後の需要見通し等について、記載を強化するべきである。

[理由]

  1. 2030年度のエネルギー需給見通しは、2030年度46%削減を所与として、様々な課題の克服を前提とした、相当野心的なものである。安定供給や経済効率性を棄損することがないよう、施策の強度・タイミングについて十分に検討する必要がある。

  2. 3E別の見通しは2030年度ミックスが実現した場合の水準を試算的に示したものと認識している。負の側面を含め、国民の理解を得るべく、誠実に説明することが求められる。とりわけ、電力コストについては、企業が国際競争力を維持する上で極めて重要な要素である。化石燃料の価格の見通しの変化や、再生可能エネルギーの導入拡大に伴う統合コストの増大などにより、電力コストが増加することが懸念されることから、政府が責任をもってコスト動向をモニタリングし、必要に応じて産業の競争力確保策を講じるなど、機動的な政策対応が必要である。

  3. LNG火力は再エネを支える調整電源として、また水素等の次世代エネルギーへの移行までのトランジション電源として重要な役割を果たす。また、野心的な見通しに向け、諸施策が想定通り進まない場合、LNGが果たすべき役割が大きくなることも考えられる。他方、今般、エネルギーミックスにおいてLNG火力の比率が低下することが示されたことで、足元、今後の日本のLNG契約への懸念が生じている。わが国のエネルギーセキュリティーに悪影響を与えないよう、LNGの重要性や意義、今後の需要見通し等について対外発信が必要である。

6.2050年カーボンニュートラルの実現に向けた産業・競争・イノベーション政策と一体となった戦略的な技術開発・社会実装等の推進(p108~123)

[意見]

  • 昨年12月に作成されたグリーン成長戦略を基に、脱炭素技術の技術開発・社会実装に取り組む方針を支持する。その上で、イノベーションの創出からその社会実装までを見据え、さらなる大規模かつ複数年度にわたる財政支援の必要性など、より踏み込んだ記載をすべきである。

[理由]

  • 2050年カーボンニュートラルの実現に向け、野心的なイノベーションへの挑戦が求められている。企業としては、世界の情勢や、政府により掲げられた高い目標を受けとめ、これまで以上の決意で、脱炭素社会の実現に挑戦していく。政府は、2兆円基金創設等の画期的施策を打ち出しているが、欧米等が前例のない大規模な財政支援(グリーンディール政策)を打ち出す中、わが国政府としても、イノベーションの国際競争に打ち勝つことで、グリーン成長につなげるべく、革新的技術開発およびその社会実装、さらには実用段階にある技術のさらなるコスト低減までを視野に入れた、より大規模な財政支援を行っていく姿勢を示すべきである。

以上

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