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Policy(提言・報告書) 経済連携、貿易投資 経済安全保障法制に関する意見 -有識者会議提言を踏まえて-

2022年2月9
一般社団法人 日本経済団体連合会

わが国のリスク管理においてサイバー攻撃への対処が大きなウェイトを占めるようになり、また、地政学リスクが高まる中で技術流出の防止が一層重要な課題となっている。加えて、新型コロナウィルスの感染拡大でサプライチェーンの脆弱性が顕わになった。このような状況にあって、経済と安全保障を切り離して考えることは最早不可能であり、わが国として経済面でも安全保障を適切に確保することは正に「待ったなしの課題」#1である。

こうした背景の下、わが国政府は、脆弱性の克服に向けて他国に過度に依存せせずに自律性を向上させる(戦略的自律性の向上)とともに、技術面で他国との間で優位性を獲得し、国際社会において不可欠の存在・地位を占める(戦略的不可欠性の確保)ための諸施策#2に既に着手している。それらに加え、上記の課題に対処するため、急ぎ法制上の手当が必要とされる事項を盛り込んだ経済安全保障推進法案を今通常国会に提出する方針であり、経団連として、この方針を支持するものである。

こうした中、さる2月1日、経済安全保障法制に関する有識者会議(以下、有識者会議)から「経済安全保障法制に関する提言」(以下、有識者会議提言)が政府に提出された。同提言は、経済界を含む関係者の意見を踏まえ、全体として経済活動の自由や国際ルールとの整合性に配慮した内容となっている。

今後は、有識者会議提言を踏まえて、経済安全保障推進法案が策定されると想定されるところ、以下、同提言に沿って、有識者会議等の場で経団連として主張してきた基本的な考え方を改めて述べるとともに、法制化にあたって留意すべき点等について意見を表明する。加えて、今般の法制化を実効あらしめるために並行して検討・推進すべき施策について併せて提言する。

なお、法案成立の暁には、政省令等において詳細が規定されることになろうが、その際は、改めて意見を申し述べる機会を与えられたい。

Ⅰ.今次法制化に関する意見

(「 」内は有識者会議提言より抜粋)

わが国の国力の源泉である経済力・技術力を維持・強化するためには、ルールに基づく自由で開かれた国際経済秩序の下で、企業が自らの責任で国内外問わず自由に事業活動を展開できる環境を維持・改善することが重要である。今次法制化にあたっても、この点に十分留意することが求められる。

また、わが国企業が国際競争上不利な環境に置かれることのないよう、欧米はじめ諸外国の取組みに照らして、企業活動に過度な制約を課すべきではない。

さらに、諸外国から無用な批判を招くことのないよう、制度・施策の導入にあたっては、国際ルールとの整合性を確保すべきである。

なお、有識者会議が提言する下記制度・施策のうち、基幹インフラの安全性・信頼性の確保および特許出願の非公開化については、従来の企業活動に与える影響が大きいことから、法律成立・公布後、施行までに十分な周知・準備期間を設ける必要がある。

1.サプライチェーンの強靭化

(1)基本的な考え方

サプライチェーンは個々の企業が事業戦略に基づいて経済合理性の観点から構築しており、その強靭化も一義的には企業自ら主体的に取り組むべきものである。したがって、安全保障の観点からサプライチェーンの強靭化に向けて政府が施策を講じるにあたっては、規制的な手法ではなく、企業の主体的な取組みを後押しすることを基本とすべきである。

この点、有識者会議提言で「民間事業者による創意工夫を生かした事業活動をインセンティブ等で後押しすることが重要である」、「民間事業者の事業活動による対応では安定供給確保が十分に図られない場合には、政府が前面に立って安定供給確保の取組を進めるべき」、「政府の措置は民間事業者の自由な経済活動を極力阻害しないように実施するべき」とされていることは適切である。

また、「WTO協定等の国際ルールとの整合性に十分に留意しながら実施すべきである」とされている点も重要である。

(2)制度の対象

以上の考え方に立った時、政府による強靭化支援の対象となる物資は、国民の生命を脅かす恐れが大きく、または国民生活および経済活動に多大な影響を及ぼす重要物資のうち、生産拠点が特定の国・地域に集中している、または調達先が特定の企業に限定されている、あるいはそもそも生産量が限られているため、供給途絶リスクが高い物資に限定する必要がある。

この点、「国民の生存に不可欠、あるいは広く国民生活・経済活動が依拠している重要な物資であるかに加えて、その供給を国外に過度に依存し、国外から行われる行為により当該物資の供給が途絶する事態が発生すると代替が効かず甚大な影響が生じ得るかを考慮に入れた上で、措置の対象とする物資を絞り込むべき」、「重要な物資に加えて、その生産に必要な原材料や生産装置等も含めて、国外への依存の程度等を考慮するべき」と指摘しているのは妥当であり、物資を政令で指定する際も十分に絞り込むことが求められる。

(3)支援策

重要物資で供給途絶リスクが高い物資であっても、他の国・地域・企業による生産あるいはそれらからの調達で代替可能な場合には調達先・生産拠点の多元化を基本とすべきである。国外における多元化だけでは回避できないリスクがある場合には、国内生産基盤を整備・強化し、選択肢に加える必要がある。国内生産が不可能な場合あるいは現実的でない場合であって、供給の途絶が一刻たりとも許されない物資は、国が関与する備蓄の可能性を追求する必要がある。

この点、「物資の産業構造や企業活動などの特性に応じて、安定供給確保に有効な取組は異なることから、事業活動の中で効率的なサプライチェーンを構築するためには、国内生産基盤の整備のみならず、供給源の多様化、備蓄、生産技術の開発・改良、途絶リスクのある物資を代替するための製品開発、リサイクルの推進等、物資の特性に応じた多様な取組に対する支援を行うことができる枠組みとするべき」とされていることは適切である。重要鉱物のように賦存先が限定されている場合は、備蓄のみならず、使用量自体を減らすべく、回収・再利用等の推進にも取り組む必要がある。

(4)調査

調査に関しては、「実効的な調査を実施するための政府の調査権限」を法的に担保できる枠組みを整備することは調査の正当性・透明性を確保する上で重要である。一方、「事業者の応答」についても法的に担保できる枠組みを整備することが必要としているが、調査への応答を法的に担保するよりもむしろ、調査対象を出来る限り絞り込むことによって、事業者が調査の目的・意義を十分理解できるようにすることの方がより重要である。また、一企業の責任で提出できる情報は限られていることを踏まえて、調査内容を決定することが求められる。加えて、調査によって入手した情報に関して、政府は、その秘匿性に見合った情報管理体制を整える必要があり、その上で「政府の情報管理者が漏えいした場合の罰則規定等を措置するべき」である。

2.基幹インフラの安全性・信頼性の確保

(1)基本的な考え方

サイバー攻撃等のリスクを事前に排除するための政策努力の一環として、サイバー攻撃等のリスクが高い設備を水際で管理しないとすれば、基幹インフラの安全性・信頼性を確保するための措置を導入することはやむを得ない。ただし、その範囲は「実態とリスクを事前に把握・調査」することにより、厳に必要最小限に止めなければいけない。

この点、「事業者の経済活動の自由とのバランスが取れた制度とすることが必要である」とされていることは当然である。

また、「事業者の国籍のみをもって差別的な取り扱いをすることは適切ではない。また、専ら外国資本等のみを対象とする制度を設ければ、WTO協定等の国際ルールにも抵触するおそれがあるため、これも適切ではない」との指摘は重要である。一方、制度導入後、審査から得られた知見に基づきサイバー攻撃等に利用されるリスクが高いと判断される設備について、あくまで国際ルールに則った形で、水際で管理する可能性を検討する必要がある。

(2)制度の対象

上記の基本的な考え方に基づけば、「規制対象となる事業、事業者、設備のそれぞれについて、『国家及び国民の安全』に与える影響に鑑み真に必要なものに限定すること」が求められる。対象とする事業、事業者ならびに設備のそれぞれに関する考え方も概ね妥当と考えられる。規制対象となる設備を決める際には「事業者の意見もよく聴くことにより事業の実態を踏まえる必要」があると指摘されている通り、所管省庁と事業者の対話が重要である。いずれにしても、法案および下位法令の規定ぶりを注視していく。また、運用段階で所管省庁毎に取組みに差異が生じることのないよう、「政府が指針等の形で基幹インフラ役務の安定的な提供の確保に関する基本的な考え方を示し、我が国として本制度に基づく措置を全体として整合性が取れた形で分野横断的に対応する必要がある」との指摘は適切である。

なお、サイバーセキュリティについては、すでに重要インフラの情報セキュリティ対策に係る第4次行動計画等を通じて様々な措置が講じられており#3、こうした既存の措置との適切な役割分担を図るべきである。

(3)事前審査

事前審査には、「設備の構成品で外部からの妨害行為に使用されるおそれがあるものに係るサプライチェーンや再委託先に関する情報も必要になると考えられる」とされているが、一企業の責任で提出できる情報は限られていることから、「届出の内容や方法について、事業者の負担にも配慮したものとするべき」である。

また、企業の予見可能性を確保するため、「国が審査を行う際の考え方や考慮要素をできる限り明確に定め」ておくべきである。また、「政府が規制対象となるインフラ事業者からの相談を事前に受け付ける仕組みを設けるべき」である。加えて、過去に審査を通過した機器に関する情報を基幹インフラ事業者に提示することも有用である。以上を通じて、「導入等の計画を変更・中止する又はリスク低減措置を講じる等の措置をとることを勧告」するような事態を可能な限り回避すべきである。また、「事後的に勧告等を行う」ことについては、導入済みの設備の変更を求められることは事業者に大きな負担を課すものであり、「極めて限定的な場面に限られるべきであり、また、勧告等を事後的に行う場合には、事業者の負担に留意した内容とすべき」である。

事前審査により設備の導入や業務委託が滞ることは事業活動への影響が大きいことから、審査期間については、「事業者の負担に鑑み、この期間を長期のものとすることは避けることが望ましい」。また、「審査のために必要がある場合には、一定の間は審査期間を延長できる仕組みとする必要がある」とされているものの、不作為期間が可能な限り短くなるよう、迅速に処理すべきである。

(4)遡及適用

「遡及適用を行うことは、規制の実行可能性や事業者負担に鑑み慎重に判断するべきである」とあるが、万が一、遡及適用することになれば、事業者に甚大な負担を課すことになる。法案および下位法令の規定ぶりを注視し、必要に応じてこうした点を訴えていく。

3.官民技術協力

(1)基本的な考え方

「先端的な重要技術の研究開発とその成果の適切な活用は、中・長期的に我が国が国際社会において確固たる地位を確保し続ける上で不可欠な要素であり」、そのためには、関係省庁、研究機関、企業、専門家等の密接な連携のもと官民の力を結集すること、すなわち産学官によるエコシステムの形成が重要である。そのようなエコシステムの形成にあたっては、スタートアップ企業、ニーズ省庁の参加を促すとともに、アカデミアが経済安全保障の強化推進のための先端的な重要技術に関するプロジェクトの意義を適正に理解・評価する環境の醸成が期待される。

(2)支援対象となる先端的な重要技術

限られた資源をもって戦略的不可欠性を確保するためには、「分野を選び集中投資することが必要」であり、それに際しては、「専門家の知見やシンクタンク機能も活用しつつ、我が国の技術的強み、諸外国の研究開発状況、社会実装に関する公的分野及び民生分野でのニーズ情報等を考慮し、我が国の技術の優位性、ひいては不可欠性を確保することにつながるかを十分に検証することが必要」である。

(3)協議会

重要技術の研究開発を社会実装につなげていくためには、「研究開発に有用な情報の提供」(具体的な社会実装イメージ、政府が実施してきた研究の成果、サンプリングデータ、サイバーセキュリティのインシデント・脆弱性情報、非公開とされた契約情報、国民の安全・安心に係る政府機関の態勢に係る情報等)が必要である。この点、今次法案で法律上に位置付けることが想定されている「経済安全保障重要技術育成プログラム」の研究成果は、民生利用のみならず、成果の活用が見込まれる関係府省において公的利用につなげていくことを指向しており、国の安全保障上の具体的なニーズ(例えば、防衛、警察、保安、防疫等に係る省庁において顕在化しているニーズ)が上記の情報とともに「協議会」を通じて産学との間で共有されることを期待する。また、官民一体となって「必要な規制緩和や国際標準化の検討」を積極的に行っていく必要がある。

なお、官民協議会における情報管理について、「機微な情報を含む有用な情報の交換や協議が安心して円滑に行われるよう、お互いの了解の下に、情報の適正な管理方法について協議が行われるようにするとともに、その場で共有される機微な情報について、国家公務員に求められるものと同等の罰則を伴う守秘義務を参加者に求めるべきである」とした上で、「守秘義務が求められる者や情報の範囲、更には、守秘義務が求められる期間について、情報の特性に応じて明確にするとともに、技術の進展状況を踏まえ、その取扱いを見直していくことが期待される」とされているところ、企業として、どのような範囲の情報を、どの程度の期間、社内のどの範囲の者まで管理すべきかは個々の協議会が設置されるのを待たねばならないが、企業の参加が妨げられることのないよう十分配慮されたい。

(4)調査研究機関(シンクタンク)

先端的な重要技術に係る研究開発基本指針を策定する政府の意思決定に寄与すべく、「国内外の情勢や研究開発動向等の調査・分析等」を担うシンクタンクについては、重要技術の指定・支援を政府全体で一体となって効率的・重点的に実施できるよう、既存のシンクタンク機能を有する政府系機関と十分連携する必要がある。

また、シンクタンクがわが国の技術的強み、諸外国の研究開発状況、内外の社会経済の動向等を考慮するにあたっては、産学官の情報・英知を結集する必要があり、そうした観点から、企業を含めた民間部門の関与(出向者の受入れ、意見聴取機会の設定、シンポジウム等を通じた情報共有等)が必要である。

4.特許出願の非公開化

(1)基本的な考え方

わが国では特許出願された発明は、原則として出願から1年6か月後に公開されているが、諸外国では機微な発明は非公開として流出防止を図っている。こうした状況に鑑みれば、「出願公開の手続を留保するとともに、機微な発明の流出を防ぐための措置を講ずる制度を整備する」必要がある。同時に、「経済活動やイノベーションに及ぼす影響を十分考慮」し、「公になれば我が国の安全保障が著しく損なわれるおそれがある発明に限定する」必要がある。一方、特許出願の非公開化により「これまで安全保障上の観点から特許出願を諦めざるを得なかった発明者に、特許法上の権利を得る途を開き、新たな出願ニーズや職務発明のニーズを掘り起こすことができるという効果も期待」される。

(2)制度の対象
  1. 非公開の対象となる発明
    非公開の対象となる発明は「核兵器の開発につながる技術及び武器のみに用いられるシングルユース技術のうち我が国の安全保障上極めて機微な発明を基本として選定するべき」である。また、デュアルユース技術については、「広く対象とした場合、我が国の産業界の経済活動や当該技術の研究開発を阻害」する恐れがある。したがって、「国費による委託事業の成果である技術や、防衛等の用途で開発された技術、あるいは出願人自身が了解している場合などを念頭に、支障が少ないケースに限定するべき」である。

  2. 外国出願の制限の対象
    外国出願の制限(第一国出願義務)が課される対象も、「その範囲は、経済活動等への影響も考慮し、十分に限定された範囲とするべき」であり、法案および下位法令の規定ぶりを注視していく。
    なお、「第一国出願義務の対象に当たるかどうかを事前に国に相談できる枠組みを設けるべき」とされている点は極めて重要である。

(3)審査プロセス

外国出願の道を閉ざさないためにも、第一次審査は迅速に行う必要があり、「特許出願日から3か月程度で」終えるべきである。

また、第二次審査の結果、非公開の対象とならなかった発明を実務上無理なく外国出願できるように、第二次審査も可能な限り速やかに行うべきである。外国出願の禁止は「最大でも我が国での特許出願後10か月で解除されるべき」とされているが、これは非公開の対象となる発明の数が極めて限定的であることを前提とした場合に実務上受け入れられる最長の期間であり、10か月より更に短いことが望ましい。

(4)非公開の対象となった発明の実施

保全措置を施すことを前提に、発明者・申請者自身による活用は妨げられないことが必要である。「発明の実施については、一律の禁止ではなく、製品から発明内容を解析されてしまうなど情報拡散のおそれのある実施のみ禁止し、それ以外の場合は実施が許可される枠組みとするべきである」とされているように、安全保障上問題ない限り、最大限実施を認めるべきである。

また「発明内容の他者への開示は原則禁止とするものの、業務上の正当な理由がある場合には開示が許可される枠組みとする」とされているが、わが国の安全保障を損なうことのない共同研究も「業務上の正当な理由」に含めるべきである。

(5)補償

「国として出願人等に実施制限等の制約を課す以上、その代償として損失補償をする枠組みを設ける」べきである。その上で、補償の対象となる範囲やタイミングを明らかにされたい。

Ⅱ.並行して検討・推進すべき施策

1.経済インテリジェンス機能の強化

経済安全保障に関する施策を実効あらしめるためには、経済インテリジェンス機能の強化が不可欠である。インテリジェンス諸機関の体制強化に加え、有志国や関係府省庁との情報共有を深め、企業とも可能な範囲で共有することが求められる。上述の4項目との関係では、サプライチェーンに関する将来的な他国への依存の可能性、国家を背景とする基幹インフラへのサイバー攻撃の対象、他国による先端的な重要技術の研究開発の動向、特許出願の非公開の審査対象となる技術分野の特定などに係る情報収集が重要になると考えられる。また、機密情報等の漏えいへの取締りの強化にも引き続き取り組むべきである。

2.情報保全制度の検討

機微な情報の共有が必要とされる諸外国との共同研究、諸外国政府からの受注などにあたっては、いわゆるセキュリティ・クリアランスと呼ばれる適性評価を受けていることが求められることがある。「統合イノベーション戦略2020」(2020年7月17日閣議決定)においては、「科学技術・産業競争力を最先端レベルで維持するとともに、国際共同研究を円滑に推進し、我が国の技術的優位性を確保・維持する観点も踏まえ、諸外国との連携が可能な形での重要な技術情報を取り扱う者への資格付与の在り方を検討」することが盛り込まれているところ、わが国としても、中長期的課題として、相手国から信頼されるに足る、実効性のある情報保全制度の導入を目指すべきである。

3.域外適用への対応

他国による経済安全保障関連の法令の域外適用は、わが国企業にとって不透明で予見不可能であり、自由な企業活動を委縮させかねない。こうした措置に対しては、自律性確保の努力と並行して、少なくとも事前協議等を通じてわが国企業への影響を最小限に止めるよう努める必要がある。

4.人権問題への対応

企業にとって、サプライチェーンの強靭化をめぐって経済安全保障の確保とともに課題となっているのが人権問題への対応である。特定の企業との取引を停止したために当該企業が存在する国による報復措置を受ける懸念や、人権侵害を助長している懸念のある企業がサプライチェーンに含まれていないことを証明できなかったことを理由に輸入制限の対象となるという事態が生じている。こうした現状に一企業で対応することは困難であり、また、政府として、企業にデューデリジェンスを推奨するだけでは問題の解決につながらない。上記の報復措置や輸入制限にどのように対処するか、わが国政府として、早急に検討する必要がある。

最後に、政府が経済安全保障を成長戦略の一環に位置づけているとおり、戦略的自律性を向上させ、戦略的不可欠性を確保するためには、国内投資の拡大が必要であり、それを促す環境の整備が不可欠である。財政的支援に必要な予算の確保はもとより、その成果がワイズスペンディングとして評価を得るためにも、規制改革の一層の推進、国際標準の獲得、デジタル分野を中心とする優秀な人材の育成・確保などに並行して取り組む必要がある。

また、EPA・FTAの拡大#4と深化#5、投資協定、租税条約の改定・締結(アジア・中南米・アフリカ等#6)、諸外国の貿易投資関連措置の透明性向上、DFFT(自由で信頼あるデータ流通)の推進(多国間のデジタルルール策定)、質の高いインフラによる連結性の強化、諸外国との規格・基準の調和・相互承認、海上物流・航空サービスの確保#7等に取り組むことは、サプライチェーンの強靭化に不可欠である。

以上

  1. 第208通常国会における岸田文雄首相施政方針演説(2022年1月17日)
  2. 例えば、戦略的自律性の向上に向けては、基幹産業のリスク対応・脆弱性点検、重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律の制定等、戦略的不可欠性の確保に向けては、機微技術流出防止に向けた外国為替及び外国貿易法の改正、経済安全保障重要技術育成プログラムの創設等を実施。
  3. 同計画では、重要インフラ分野として、①情報通信、②金融、③航空、④空港、⑤鉄道、⑥電力、⑦ガス、⑧政府・行政サービス(地方公共団体を含む)、⑨医療、⑩水道、⑪物流、⑫化学、⑬クレジット、⑭石油、の14分野を特定し、(ア)安全基準等の整備及び浸透、(イ)情報共有体制の強化、(ウ)障害対応体制の強化、(エ)リスクマネジメント、(オ)防護基盤の強化、が求められている。
  4. RCEPへのインドの参加、交渉中のEPAの早期妥結、CPTPPの参加国拡大、日メルコスールEPAおよびアフリカ諸国とのEPAの早期交渉開始等。
  5. 既存の協定内容の拡充。例えば、日米貿易協定では、米国による関税削減の対象に含まれないリチウムイオン電池(関税率3.4%)が、米韓FTAでは、関税削減の対象(無税)となっており、対米輸出の拠点という点で日本は韓国に劣後している。こうした状況を改善する必要がある。
  6. 「令和4年度税制改正に関する提言」(2021年9月14日)
  7. 国民生活・経済社会活動の維持に不可欠な物の移動やサービスの提供に携わる人の移動を担保する国際的なルールの構築、シーレーンの安全確保等。

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