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Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 デジタル化とグローバル化を踏まえた競争法のあり方 -中間論点整理-

2022年3月31
一般社団法人 日本経済団体連合会
経済法規委員会競争法部会

近年、わが国の競争法を取り巻く環境は急変している。とりわけ、社会経済活動のデジタルトランスフォーメーション(DX)が急速に進むなか、デジタル市場においては、デジタルプラットフォーム(DPF)の急拡大など、新たな状況が発生している。

また、経済のグローバル化が進み、海外の同業他社にはわが国の同業者がすべて結合しても敵わないような巨大な事業者が多数ある一方、少子高齢化により国内市場が縮小するなか、競争法において、わが国産業の国際競争力強化、地方の社会インフラの維持等の視点が強く求められる。

加えて、企業においては、グリーントランスフォーメーション(GX)の推進、取引先とのパートナーシップの構築など、多様なステークホルダーに配慮した、企業・業種を超えた取り組みが期待される。新しい資本主義実現会議の「緊急提言」(2021年11月)でも「公正な競争を進めるための競争政策の強化」が盛り込まれた。

そこで、経団連経済法規委員会競争法部会では、デジタル化、グローバル化、人口減少等の様々な環境変化を踏まえた競争法のあり方について主要な論点を洗い出すとともに、各論点に対する経団連としての考え方を中間的に整理した。引き続き当部会では諸外国や政府・与党の動向も踏まえつつ、必要な検討を行い、提言を行う。

Ⅰ.デジタル化に対応した競争法のあり方

近年、DPFが世界規模で成長を遂げるなか、それによって、法人・個人を問わずDPF利用者にとっての市場アクセス、利便性が格段に向上#1する一方で、DPFを巡っては、データの集積に起因して独占化・寡占化が進みやすいとの指摘がなされたり、取引慣行の透明性・公正性、プライバシー等の課題についての懸念が示されるようになっている。

これを受け、EU、米国等の国・地域においては、DPFに対する新たな規制の導入を検討する動きがみられる。例えば、EUでは、取引の透明化に向けた方策のほか具体的な禁止行為を盛り込んだデジタルサービス法(DSA)#2・デジタル市場法(DMA)#3が検討されている。米国でも、議会において、テック企業の自己優遇等を防止する法案が議論されている。

わが国においても、2019年9月に「デジタル市場競争本部」や「デジタル市場競争会議」が立ち上がり、経済産業省が所管し、共同規制#4を特徴とするデジタルプラットフォーム取引透明化法(2021年2月施行、以下「透明化法」)の整備などが進められてきた。また、公正取引委員会においても、DPFと消費者との取引に関するガイドラインの公表(2019年12月)、デジタル広告分野の取引慣行に関する調査報告などのアドボカシー活動を展開している。加えて、2021年4月には、消費者庁が所管し、消費者保護を目的とする取引デジタルプラットフォーム消費者利益保護法が成立し、2022年5月に施行される予定である。

1.規制策定の基本方針

わが国のデジタル市場の健全な発展を促すためには、市場の透明性・公正性を高めるためのルール整備が重要である。一方、事業者に過度な規制を課したり、技術的・経済的に実施困難な取り組みを求めたりすると、わが国のデジタル分野におけるイノベーションの停滞を招くおそれがある。政府がデジタル分野の競争に関する規制のあり方を検討する際には、まず、競争政策の目的が、事業者間の公正かつ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにすることにあると確認されるべきである。また、デジタル分野の競争に関する規制のあり方を検討する際に、DPF利用者の保護の観点も含め議論がなされることがあるが、それだけでなく、イノベーション促進の観点も重視すべきである。また、DPF利用者に関しても、DPFを利用する事業者と消費者の双方の利益をバランスよく考慮すること必要であり、さらには第三者(知的財産の権利者等)の正当な利益も必要に応じて適切に考慮することが求められる。

規制の検討過程においては、客観的なデータに基づいて日本経済の実態を正確に把握し、丁寧に問題点を洗い出したうえで、どのような手法が望ましいかを検討することが重要である。その際、透明性を十分に確保し、関係する民間企業・団体の意見を十分に聴きながら、実現可能で実効的な制度を検討することが求められる。

規制の主体に関しては、引き続きデジタル市場競争会議を中心に、省庁横断的にデジタル分野の市場競争のあり方を大局的に検討したうえで、二重規制が生じないよう配慮しながら、個別の施策について各省庁の役割を整理することが望ましい。

規制の対象に関しては、とりわけ公正かつ自由な競争条件を確保する観点から、①規制対象の範囲が明確かつ適切か(特に、規制の必要性が明確に立証されている特定のサービスに限定して適用されるか)、②仮に事業の規模、内容等によって規制適用の有無や規制内容に差異を設ける場合、その差異を設ける目的が合理的か、差異の程度が許容される限度を超えていないか等を丁寧に検討すべきである。その際、DPF事業者間の公正な競争条件の確保や経済安全保障の視点も重要であると指摘もある。また、社会経済活動のDXが急速に進み、ビジネスが複雑化・多様化する中でオンライン・オフラインの明確な線引きも困難となっていることから、ビジネスにおいてデジタルを活用している程度に応じ(例えば、オンラインショップか実店舗か)、競争条件に不合理な差異が生じないようにする視点も重要である。

規制のタイムスケジュールに関しては、制定から施行までの間、事業者が対応するために十分な期間を確保する必要がある。

2.国際的な制度のコンバージェンス

前述の通り、EU等においてDPF規制に関する議論・法整備が先行するなかで、一般論としてわが国においても、EU等と同じ規制を導入すべきとの考え方がありえる。これについては積極的な意見と消極的な意見の双方があり、今後さらに検討を進める必要がある。

国際的な制度のコンバージェンスに積極的な意見としては、①各国で同一のサービスに対する同一の懸念が生じているのであれば、各国で同じ規制を設けて対処する方がよい、②世界的に提供されている製品・サービスについて規制を整合的なものにすることは、規制の実効性向上、不確実性の低減、およびコンプライアンス・コストの低減につながる、③グローバルに活動するDPF事業者がEU等の規制に合わせていくことで、わが国でのルール形成が進む前に、結果的にEU等の規制がデファクトスタンダードになることが想定される(GDPRがその典型例である)、④むしろ日本がルール形成をリードし、積極的に制度のコンバージェンスを図るべきである、といったものがある。他方、消極的な意見としては、①国・地域によって市場の競争環境(文化、プレイヤー等)が違う、②EUや米国でも依然として様々な議論がなされて先行きが読めない、といったものがある。

なお、自国の産業政策と合わせて立ち位置を考えるべきであるとの意見や、グローバルに事業を展開する大規模DPF事業者に対してはEUと同等の規制を課す一方で、主に国内で活動する中小規模DPF事業者には別の規律を適用すべきとの意見もある。

また、わが国の市場や規制の状況を考慮することなく、他の国・地域の規制をそのままわが国に導入すべきではないものの、国際的な調和と日本の状況に合わせた規制の個別の調整は、必ずしも矛盾するものではなく、注意深くバランスを取るべきものとの意見もある。いずれにせよ、個別のケースごとに注意深く検討し、DPFを含むステークホルダーと協議していく必要がある。

3.透明化法による共同規制

透明化法の共同規制アプローチは、一定程度、業界の自主的な取り組みに委ねるという意味で、これまでわが国の行政が所管業界(例えば金融業界等)に対して実施してきた規制手法と親和的なものである。世界的に見て比較的小規模なDPF事業者を有するわが国の現状を踏まえると、イノベーション促進の観点から、基本的には行為規制よりも望ましい手法であると評価できる。

今後、2022年秋頃までに、透明化法に基づく特定デジタルプラットフォーム提供者の透明性及び公正性の向上のための取組状況についての初となるモニタリング・レビューが行われる見通しである。当面は同法の運用状況を注視するとともに、必要に応じて直面する課題に対処していくことが望ましい。なお、付属資料では、参考として、事業者等から寄せられた意見を列挙している。

4.さらなる規制の手段

DPFに対する規制の手段としては、透明化法のような共同規制アプローチの他に(1)ソフトローの形成(望ましくない行為の明確化)、(2)既存の独禁法の枠組みによる対処(解釈の柔軟化)、(3)デジタル分野に焦点を当てた特別法の制定、の3つが考えられる。わが国においては、まずは既存の透明化法の施行状況や国際的な議論の動向を注視すべきであり、当面は(1)の手段で進めることが望ましく、(2)は支持しない。(3)については様々な考え方があり、引き続き検討を要する。

(1)ソフトローの形成

ビジネスモデルが絶えず変化するデジタル分野においてはグレーゾーンが多数存在するため、エンフォースメントがある法ではなくソフトロー#5で対処すべきとの考え方がある。これまで公取委が行ってきたアドボカシー活動は、法執行には至らないものの望ましくない行為について、市場とコミュニケーションを取るものであり、ソフトロー形成の取り組みとして一定の評価ができる。

デジタル分野における競争政策上の課題についての懸念を解消する上でも、まずは公取委において、これまでの審判決例、法的措置、公取委の運用等により形成されてきた従来の独禁法の解釈に基づき、どのような行為が各違反類型に該当するのか(または該当するおそれがあり競争政策上望ましくないのか)を整理して対外的に示していくことが望ましい。その際、暗黙のうちに実質的な解釈変更をすることがないよう留意すべきである。

(2)既存の独禁法の枠組みによる対処(解釈の柔軟化)

従来の解釈のみでは対処できない課題についての懸念がある場合に、独禁法の解釈の柔軟化で対応する考え方があるが、適当ではない。一分野における問題に対処するために解釈を柔軟化した場合に、他の全産業にも当該解釈が適用されることとなり、元々抽象的である独禁法の規定の適用範囲が一層不明確になることから、事業者にとっての予測可能性が著しく低下することが懸念される。また、独禁法によって対処できるのは、デジタル化に起因する諸課題のうち市場競争に関するもののみであり、プライバシー、個人の意思決定等の問題には対応しきれない。

なお、公取委「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(2019年12月、以下「消費者優越ガイドライン」)は、従来、事業者間取引でのみ適用されてきた優越的地位の濫用の規定について、その適用範囲を事業者対消費者の取引へと拡大するものである。パブリックコメントにおける経団連意見#6において述べた通り、個人情報保護法がすでに個人情報保護と事業活動とのバランスに慎重に配慮して規律を設けているにもかかわらず、解釈の柔軟化によって独禁法の規定の適用対象を広げる(少なくとも事業者側からすると、広がったように見える)ことが適当であったかは疑問が残る。また、消費者優越ガイドラインは、全体的に文言が不明確であり、わが国におけるデータの利活用を含めたデジタル分野のイノベーション促進の妨げになると懸念される。そのため、公取委においては、同ガイドラインにより企業活動が委縮していないかを検証しつつ、慎重に運用することが求められる。

また、一部のDPF事業者に対して、独占的状態に対する規制(独禁法8条の4)に基づく競争回復措置(事業の一部譲渡等)を命じるべきとの考え方があるが、なぜデジタル分野に限って当該規制を適用するのか、競争回復措置を命じなければならないほど深刻な行為(被害)が生じているのか、こうした措置が日本に対するビジネス上の信頼感や投資にいかなる影響を与えるか等を立法事実に基づき、比例原則に従って慎重に検討することが不可欠である。

(3)デジタル分野に焦点を当てた特別法の制定

デジタル分野に特化した法制度としてはすでに透明化法があるため、まずはそのPDCAを踏まえた上で、必要に応じて同法の規律内容を見直していくことが考えられる。

そのうえで、透明化法による共同規制に加えて、新たな特別法による規制を設けることについては、積極・慎重の双方の意見があり、今後さらに議論を深める必要がある。

積極的な立場からは、デジタル分野に関する「業法」であれば、市場競争だけでなくプライバシー、個人の意思決定等の問題にも横断的に対処できる、という意見や、海外では規制があっても事業者が実質的に従わない例も発生しており、ソフトローによる対応では十分に機能しない、といった意見がある。また、デジタル分野ではレイヤー間における片務的な垂直依存関係が存在する事例があり得るところ、あるレイヤーで強い立場にある者が他のレイヤーでの競争を制限する行為をどのように規律するかについて、まずは独禁法上の考え方の整理が必要であるが、現行の独禁法による規律が必ずしも効果的ではない課題も存在するのではないかとの意見もある。他方、慎重な立場からは、デジタル分野は環境変化が速いため、立法が追いつかないのではないか、との意見がある。

いずれにせよ、仮に新たな法律による規制が必要となるのであれば、国際的な議論の動向も踏まえつつ、十分かつ適切なエビデンスに基づいてわが国のデジタル分野の実態を把握したうえで、多様なステークホルダーの利益を考慮しながら、立法事実を明確にして検討することが不可欠である。その際、事業者の活動方法や市場における競争に対する過剰規制や過剰な干渉にならないよう、異なる法律による規制が重複することを避けることも重要である。

Ⅱ.経済のグローバル化や人口減少を踏まえた競争法のあり方

近年、経済のグローバル化が進み、海外の同業他社にはわが国の同業者がすべて結合しても敵わないような巨大な事業者が多数ある一方、少子高齢化により国内市場が縮小し、労働人口が減少するなか、わが国産業の国際競争力強化や地方の社会インフラの維持の観点から、事業者間の統合再編・連携の必要性が高まっている。さらに今後は、カーボンニュートラルの実現#7、経済安全保障への対応#8に向けて、各業界における統合再編・連携が一層求められるようになると想定される。

独禁法に基づく企業結合規制に関しては、経済のデジタル化等に対応する観点から「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」(以下「企業結合ガイドライン」)および「企業結合審査の手続に関する対応方針」(以下「企業結合手続対応方針」)が改定され(2019年12月)、また、人口減少や国内市場の縮小に対応した新法「乗合バス及び地域銀行に関する独占禁止法の特例法」が施行(2020年11月)されるなど、現状を踏まえた対応が取られてきている。今後も、競争を通じてイノベーションを促進し、スタートアップを含めわが国経済の成長を実現するという基本的な考え方を踏まえ、必要な統合再編・連携を円滑に進められるように、公取委が行う企業結合審査について、審査の体制・方法・基準を進化させていくとともに、より一層の予見可能性・透明性の向上が求められる。さらに、経済状況の変化やその予測を踏まえ、産業の競争力強化等の観点から一定の手当が必要な業界・分野が存在する場合、追加的な措置が必要かどうかも含め迅速に検討すべきである。

近年、企業から、企業結合審査が期待に比べ長期化する結果、円滑な統合再編・連携の妨げになっているケースがあるのではないかとの指摘がある。もちろん、審査に要する時間は事案次第であり、諸外国と比較してわが国の審査が特段遅延しているわけではないとの指摘もあるが、課題に直面している企業が一定数存在することから、対応策を講じる必要がある。以下はその考えられるオプションを示すものである。これらにより審査の更なる適正化・迅速化が期待される。なお、当事会社としても、円滑な審査に資するべく、合理的な範囲で説明を尽くす必要がある。

1.審査体制の強化

適切かつ迅速な企業結合審査を実現するには、審査担当者が、市場・業界・事業についての十分な知見を持って、正しい理解に基づいて判断することが欠かせない。昨今はデジタル・IT分野での知見向上に期待する声が多い。

そこで、公取委においては、過去の審査事例における判断基準を内部で蓄積・継承し、どの担当者であっても一貫性のある審査を行うのはもちろんのこと、例えば、①企業結合審査の担当者の配属期間を長くする、②平時から事業者との意見交換を積極的に行う#9、③審査時に当事会社との面談を積極的に実施する、④事業会社における実務経験者をアドバイザーとして登用するなど、専門性を高め、維持するための工夫が求められる。あわせて、各業界・事業に関する所管官庁の知見を一層、活用することも考えられる。

また、経済分析が妥当なケースでより一層活用されることで、審査の客観性・透明性が高まることが期待される。公取委ではすでに、官房総務課企画官(経済分析担当)の新設、経済分析体制の強化等のための増員などに取り組んでいるが、グローバル化に対応した人材の充実も含め、このような経済分析体制の強化をさらに進めていくことが望ましい。なお、上記①は、経済分析担当官に係る人員配置についても該当する。

2.審査手続・調査方法の透明性の向上

(1)届出前相談

届出後の1次審査、2次審査については期間が法定されている一方、届出前相談については期間が定まっていないことから、届出前相談において手続が企業の期待に比べ長引いているとの指摘がある。他方、届出前相談は、企業の求めに応じて、その時点における公取委の考え方が示されるなど、その後の企業結合審査の見込みに係る情報が得られることから企業にとって有益であることや、2次審査を避けたいと考える企業もいること#10などから、企業が自主的に申し出ているとの性質も有している。その意義は広く認識されていることから、届出前相談の仕組み自体は、今後も維持したうえで、更なる改善を検討する必要がある。

(2)市場シェア

企業結合審査において、過去の国内市場シェアが重視され過ぎているのではないかとの指摘がある。もちろん、市場画定及び市場シェアの分析には、ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)を用いた「足切り」により問題のない事案については早期に審査を終了できるとのメリットもあるが、市場シェアは審査の一要素に過ぎないことを改めて強調したい。市場シェアが増加するとの理由のみで審査が長期化し、場合によっては企業結合に厳しい制約条件が課されるならば、必要な企業の合従連衡が進まず、国際競争力という観点では重大な懸念がある。企業結合による効率性向上効果や輸入圧力などといった企業結合ガイドラインに示している判断要素を総合的に評価すべきである。また、市場画定においても、企業結合ガイドラインに基づき、国境を越えた地理的範囲の画定を柔軟に認定することが望ましい。

(3)需要者へのアンケート・ヒアリング調査

需要者へのアンケート・ヒアリング調査を実施する際の透明性向上も重要である。例えば、アンケート調査の質問票や調査結果の詳細を当事会社が知ることができない場合には、誘導的な質問が行われた可能性や、需要者の事実に基づかない回答を公取委が十分に検証できないまま受け入れる可能性を排除することができず、透明性の観点から懸念が生じる。そこで公取委においては、審査の妨げにならない範囲で、質問票・調査項目、調査結果等を当事会社にも共有することが望ましい。

また、競争制限効果の予測や問題解消措置の有効性評価について、需要家へのアンケート・ヒアリング調査に頼りすぎることなく、客観的な経済分析等の評価をより重視すべきとの指摘もある。

(4)経済分析

経済分析を実施し、その結果を踏まえ判断することで、企業結合審査の結果の客観性・妥当性が増すと考えられることから、公取委は妥当なケースでは積極的に経済分析を活用すべきである。一方で、公取委の経済分析について、結果のみが開示されて、使用されたデータやプロセスが開示されなかったり、当事会社の分析結果との違いがある場合にその検討プロセスの比較等がなされていないとの指摘がある。公取委においては、経済分析についても透明性を高める必要がある。

また、公取委から経済分析結果を示された場合に当事会社が円滑に対応できず、審査が滞る原因となることも考えられる。

したがって、公取委においては、経済分析を円滑に進めるために、企業との十分なコミュニケーションを取る必要があるとともに、あらかじめ企業側の対応方法に関して指針を示すことも考えられる。

(5)問題解消措置

審査の結果、問題解消措置がどのような場合に認められるか等について、現状の企業結合ガイドラインでは記載が不足しているとの指摘があり、今後、問題解消措置の運用に係る予見可能性を高めるために、記載を拡充するなどが考えられる。その際には、事業者のフレキシビリティを損なわない範囲でどのような対応が可能か、検討する必要がある。

また、問題解消措置が必要な案件では、その範囲や内容について、公取委からフィードバックを得ながら検討する必要があり、公取委と当事会社との間でより一層円滑なコミュニケーションをとることが期待される。

3.事例公表のあり方

公取委において、過去の企業結合審査事例に関する情報公開を国際的にそん色のない形で量的にも質的にも一層充実させ、かつ、検索性を高めることが望ましい。それにより、審査基準が明確化され、企業にとって予測可能性が高まるとともに、審査の円滑化にも資すると期待される。特に、経済分析が実施された事案においては、分析に用いたデータ・手法および分析結果について、ある程度網羅的に情報を公開することで、第三者の検討にも供し、その後の企業結合審査の予見可能性の向上に役立てる必要がある。ただし、当事会社のセンシティブな情報が公表されないように配慮する必要がある。

Ⅲ.その他の論点

1.確約手続と透明性

2018年12月に導入された確約手続は、潜在的な問題事案の早期解決に資するものと評価できる。公取委においては、確約計画を認定した事案について、今後も可能な範囲で事案の詳細や判断内容を公開するよう努めることが望ましい。なお、近時は当事者が改善措置の申出を行った際に、公取委がその内容を検討して、問題がなければ確約手続によらずに審査を終了させる事例が出てきているとの指摘もある。このような手法は透明性の確保や判断事例の蓄積の観点からやや懸念がある。

2.海外規制当局との関係

日本国内でのジョイントベンチャー設立等の際に、公取委への届出が不要な場合でも、海外の当局に届出をしなければならないことがある。当該国内の市場には影響を与えないことが客観的に明らかである場合にも届出を求められ、企業にとって大きな負担になっていることを関係国政府には認識していただきたい。

3.サステイナブルな資本主義の実現に向けた事業者間の連携

脱炭素、環境への配慮といったサステイナブルな資本主義の実現に向けて、今後、事業者間の連携がますます必要になると見込まれる中、競争政策との関係についても掘り下げた議論が必要になると思われる。

一例を挙げると、カーボンニュートラルに向けた次世代エネルギー源の開発や、新技術の開発に向けて、スピード感とスケール感を実現する必要があり、必然的に、ユーザーたる製造事業者のみならず、資源開発、商社等、縦横に広く連携することが不可欠である。しかし、国内事業者の大多数が参画するような場合には、独禁法に抵触するのではないかと懸念も生じてくる。

こうした社会的課題の解決に向けた連携は、当然ながら促進されるべきである。今後、事業者が前向きに検討できるよう、企業が直面する個別の事案を集積し、公取委において、留意点・注意点を明確に示すことをはじめ、サステイナブルな資本主義の実現に向けた競争法の検討も必要ではないか。

この点について、欧州の動きは迅速であり、欧州委員会では、競争政策がグリーンディールにどのように寄与できるかの検討を既に始めている。2022年3月に企業間の水平的な協力に関するガイドラインの草案#11が公表されており、2023年1月にガイドラインが改正される予定である。また、オランダの競争当局(消費者・市場庁、ACM)は、2020年7月、競争法上許容できる協調行為について指針案#12を公表している。日本が世界のカーボンニュートラルをリードしていけるよう、海外動向等について広く知見を集めるとともに、ルール形成に向けた議論を日本において速やかに開始すべきである。

以上

【付属資料】デジタルプラットフォーム取引透明化法に関する各社意見

政府において透明化法のPDCAのサイクルを回す際の参考とすべく、以下事業者等から寄せられた意見を列挙する。なお、透明化法については様々なステークホルダーが存在するところ、これらは網羅的ではなく、いずれも経団連としての正式な見解を示すものではない。

  • 透明化法の目的は不適切な行為の未然防止であり、万が一不適切な行為が発生した場合に独禁法等でどのように対処するのかが必ずしも明確ではない。
  • 事業者間の公正な競争を損なうことのないよう、「特定デジタルプラットフォーム提供者」を指定する基準(事業の区分及び規模)の合理性や公正性等について十分留意しつつ、経済実態も踏まえ、客観的かつ謙抑的な基準の設定・見直しを行うべきである。
  • 開示義務違反に対する罰金は50万円以下と低額であり、日本国内でのレピュテーションの維持という観点からも、日本をマーケットの一つとしてしか見ていない外国事業者に対してどれほどの強制力があるかは疑問が残る。
  • デジタル化した社会においては、あらゆるビジネスと消費者との接点となる製品・サービスが存在することから、必要に応じて透明化法をそうした製品・サービスにも適用できるようにするべきである。
  • 透明化法において、事業の指定に関し「…指定が必要な最小限度の範囲に限って行われるよう定めるものとする」と定めていることに留意が必要である。
  • 透明化法はプラットフォームへの出品者等を念頭に中小企業保護の色彩が比較的強いが、消費者保護という視点も同時に重要である。加えて、大企業の競争力やイノベーション能力を阻害しないようにバランスを取る必要もある。
  • 現在、規制当局の任意で、初となる「デジタルプラットフォームの透明性・公正性に関するモニタリング会合」が開催されているが、モニタリング・レビュープロセスをより専門的見地から客観的で透明性・公正性のあるものとするため、同プロセスの結果を多角的な視点から丁寧に検証し、同プロセスの評価主体、運営等、今後のさらなる改善につなげていくことが期待される。
  • デジタルプラットフォーム取引相談窓口には、事業上の秘密保持には十分留意しつつ、相談内容を、モニタリング・レビュープロセスの有効性や信頼性を向上させ、その後の政策立案に資するような客観的なデータとして提供する役割を期待する。
  • 共同規制の趣旨に照らし、規制当局が関係者の意見を聴きながら、ビジネスに悪影響を与えない現実的なスケジュールの下で規制を施行していく必要がある。
以上

  1. G7エンフォーサーズ・サミット(2021年11月)の開催に当たり公表された「デジタル市場における競争を促進するための各当局の取組の要約」でも「デジタル市場の成長は,企業,消費者及び社会全体に多大な利益をもたらした」とされている。
  2. デジタルサービス法(Digital Services Act):第三者のコンテンツを伝達し、保存するデジタルサービスを提供する「仲介事業者」(ソーシャルメディア、マーケットプレイス等)に対し、その種類に応じて、透明性に関する報告、違法コンテンツへの対策等を義務付ける法律。
  3. デジタル市場法(Digital Market Act):「中核プラットフォーム」(検索エンジン、ソーシャルメディア、OS等)の中でも、他の事業者が顧客にアクセスするうえで重要な経路となっている事業者のうち特定のものを「ゲートキーパー」として位置付け、一定の義務(相互運用性の確保、利用事業者へのデータ提供等)と禁止行為(ソフトウェアのアンインストールの制限等)を定める法律。
  4. 本稿では、規制の大枠を法律で定めつつ、詳細を事業者の自主的取組に委ねる規制手法を指す。
  5. ソフトローとは、民間で自主的に定められているガイドラインのほか、行政府が示す法解釈等も含む広い概念である。作成や改変の容易さ、個別状況に合わせた作成・運用ができるなど、法改正によらずに、時代の変化に対応した柔軟な規範の変更が可能という利点がある。(出所:文化審議会著作権分科会報告書(2017年4月))
  6. 経団連「『デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)』に対する意見」(2019年9月)
  7. 製造プロセスに画期的開発が必要とされるところ、開発に遅れをとった事業者が他社と結合することが生き残りに必須となる可能性もある。
  8. 経済安全保障上の観点から調達ルートに制限が生じ、他社と連携することが生き残りに必須となる事業者が生じる可能性もある。
  9. 平時における事業者との情報交換に関しては、一部の事業者から偏った情報が伝達されてしまうことも懸念されるため、適切な方法を検討する必要がある。
  10. 企業が2次審査を避ける理由としては、①2次審査に移行すると事案が公表されてしまうこと、②2次審査の期間が、公取委から提出を求められた報告・資料等をすべて提出してから90日以内となっていることなどが挙げられる。
  11. Antitrust: Commission invites comments on draft revised rules on horizontal cooperation agreements between companies (2022)
    (https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_22_1371)
  12. Netherlands Authority for Consumers and Markets, Draft guidelines ‘Sustainability Agreements’ (2020) (https://www.acm.nl/en/publications/draft-guidelines-sustainability-agreements)
    なお、2021年1月に第2版が公表されている。
    Netherlands Authority for Consumers and Markets, Second draft version: Guidelines on Sustainability Agreements - Opportunities within competition law (2021)
    (https://www.acm.nl/en/publications/second-draft-version-guidelines-sustainability-agreements-opportunities-within-competition-law)

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