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Policy(提言・報告書) 中東・アフリカ アフリカの内発的・持続的発展に貢献する -TICADを超えてアフリカの真のパートナーへ-

2022年5月17
一般社団法人 日本経済団体連合会
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Ⅰ.現状認識:内発的・持続的な発展に取り組むアフリカ

アフリカは、広大な面積に豊富な資源を有する21世紀最大のフロンティアである。2050年には世界人口の4分の1を占めると予想され、中間層の増加に伴う消費市場の拡大が見込まれるなど、今後、一層の経済発展が期待される。こうした状況を踏まえ、近年、欧米や中国等諸外国は、アフリカ・ビジネスを急速に拡大させている。

一方、日本企業は、徐々にアフリカ・ビジネスを拡大しつつあるものの、地理的に離れていること、現地の法制度やインフラが未整備であることなどを理由に、諸外国に比して限定的なものに留まっているのが現状である。アフリカは地理的に離れているとは言え、インド洋の西端に位置しており、わが国が標榜する自由で開かれたインド太平洋(FOIP)を実現する上で重要なパートナーとなり得る。また、レアメタル、石油・天然ガス等、わが国の国民生活および産業活動にとって不可欠な重要資源の供給元でもある。複雑化し、予測困難な国際情勢にあって、わが国としても、戦略的な観点から、アフリカを捉え直し、中長期的な展望の下で関係を抜本的に強化すべき時を迎えている。

折しもアフリカは、2015年にアフリカ連合(AU)首脳会合において長期ビジョン「Agenda2063」を採択し、経済社会の変革を通じた内発的・持続的な発展に向けて自ら歩み始めている。2021年1月1日に「Agenda2063」の一環として運用が開始されたアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)は、その象徴と言える。

このようななか、本年8月、TICAD8(第8回アフリカ開発会議)がチュニジアで開催される。そこでは、新型コロナウイルス感染症を受けて保健分野を中心とするアフリカが抱える社会課題の解決のあり方を官民挙げて模索するとともに、内発的・持続的な発展を目指すアフリカを、現地での雇用創出や人材育成、環境保全などに配慮して伴走支援する、わが国ならではの姿勢を明確にする必要がある。そうすることによってこそ、アフリカの開発を目指してきたTICADを超えて、わが国はアフリカの真のパートナーとなることが可能である。

以上の現状認識を踏まえ、わが国が官民の緊密な連携の下でアフリカの内発的・持続的発展に貢献するための具体策を提言する。

Ⅱ.基本的方向性:アフリカの開発促進から内発的・持続的発展支援へ

1.アフリカが抱える社会課題の解決

アフリカは、貧困・格差の拡大、不安定な政治・治安、不十分な衛生状態、水・食料の不足、インフラの未整備、環境の破壊、人権の侵害等の社会課題に直面している。数波に及ぶ新型コロナウイルス感染症への対応は、こうした課題の解決をより困難にすると同時に、財政負担を増大させ、自律的な経済回復を難しくしている。また、ロシアによるウクライナ侵攻に起因する食料の供給不足や価格高騰はアフリカ経済に深刻な打撃を与えている。

一方、前述の「Agenda2063」において、AUは、既に上記の社会課題に取り組む姿勢を明確にしている。即ち、生活水準の向上、イノベーション等を通じた人材育成、生産性の向上を通じた農業の現代化、持続可能で強靭な環境の実現、世界レベルのインフラ整備、人権・正義・法の支配の実現等の目標を掲げ、これらの実現に向けて、所得の増大、雇用の促進、教育・イノベーションの推進、経済の多様化・強靭化、農業生産の拡大、気候変動に対する強靭性の確立、インフラの接続性確保、民主主義やグッド・ガバナンス(善き統治)の推進等の取組みを進めていくことが謳われている。したがって、「Agenda2063」に示された内発的・持続的な発展を実現することこそが、アフリカの抱える社会課題を解決し、国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)の実現へとつながっていくことになると考えられる。

経団連は、デジタル技術に多様な人々の想像力と創造性をかけ合わせて課題解決・価値創造を図る社会、「Society 5.0 for SDGs」の実現を標榜している。アフリカが「Agenda2063」を通じてオーナーシップを発揮し、社会課題解決と包摂的成長を果たそうとする姿勢は、この「Society 5.0 for SDGs」と相通じるものがある。「Agenda2063」の実現にあたっても、デジタル技術の活用と想像力・創造性を有する人材が不可欠である。

2.官民連携によるアフリカ・ビジネスの推進

アフリカが発展を遂げる過程において、わが国との関係を、中長期的に、これまでの「援助」中心から「ビジネス」中心の互恵的かつ持続的なものへと転換する必要がある。しかしながら、新型コロナウイルス感染症等によってアフリカ経済は深刻な打撃を受けていることは先に述べたとおりである。

したがって、当面は、コロナ禍からの早期の正常化に向けて、「援助」による下支えが必要である。すなわち、ODA等の公的支援を呼び水として、民間ビジネスを惹きつけ、コロナ禍やアフリカ各国の財政状況の悪化による影響を限定的なものとして、アフリカ・ビジネスを維持すると同時に、デジタルやグリーン等の新たな技術や手法、民間の想像力・創造性を活かすことで、将来的な発展の礎を築いていくことが求められる。

加えて、中長期にわたって民間の貿易投資を惹きつけるため、アフリカ各国のビジネス環境を改善することが不可欠であり、この点への日本政府とアフリカ各国政府の双方による強いコミットメントに基づく具体的なイニシアティブが不可欠である。その下で、わが国企業は、アフリカにおいて、雇用を創出し、所得を向上させ、輸出の拡大に貢献することによって、アフリカの発展に貢献することが求められる。

以上の官民連携の取組みによって、アフリカの魅力を向上させ、それがビジネスのさらなる拡大につながる好循環を創出する必要がある。

3.重層的な人づくりの推進

国づくりの基本は人づくりであり、日本企業は、長年、パートナーとして日々の事業活動を通じて、アフリカの人材育成に意を用いてきた。中長期にわたってアフリカが持続的に発展していくためには、それを支える人材の育成は極めて重要な課題であり、従来に増して力を注ぐ必要がある。

今後、さらに増加する人口をアフリカの重荷ではなく、持続的成長や社会課題解決を担う原動力とするため、教育水準の底上げのための基礎教育の充実が必要である。それに加え、アフリカの政府や企業による階層別教育(政府幹部、企業管理職や幹部、事務系専門職、技術者、技能工等)に協力することによって、重層的な人材育成を支援する必要がある。そのような人材こそが将来のアフリカの内発的発展を牽引していくことになる。

4.自由で開かれたインド太平洋の推進

2016年にケニアで開催されたTICAD Ⅵにおいて、わが国は、アジア、太平洋からインド洋を経てアフリカに至るFOIPを提唱した。そこでは、FOIPの実現に向けて、①法の支配、航行の自由、自由貿易等の普及・定着、②経済的繁栄の追求(物理的・人的・制度的連結性の強化、EPA/FTAや投資協定を含む経済連携の強化およびビジネス環境の整備)、③平和と安定の確保、を訴求している。

こうしたなか、アフリカにおいて、2021年1月に「Agenda2063」の一環としてAfCFTAの運用が開始された。AfCFTAは、人口規模12億人、GDP3.4兆ドルの一大自由貿易圏を形成する動きとして大きな可能性を秘めている。AfCFTAは、経済統合を通じて、域内市場の魅力を高め、社会経済の飛躍的発展を目指すとともに、自由で開かれた国際経済秩序の推進に寄与するものであり、今後の具体的な進捗が大いに期待される。このようなアフリカをパートナーと位置づけ、経済連携を強化することは、FOIPの推進に大いに資するものである。

Ⅲ.具体的施策:ビジネスの基盤となる各種インフラの整備

1.With/Postコロナ期における社会経済活動の促進

コロナ禍によって、日本企業のアフリカ現地でのビジネスの継続やプロジェクトの再開、さらには新規案件の組成が困難に直面している。

まずは、人間の安全保障の危機と言える新型コロナウイルス感染症を克服するとともに、コロナ禍で顕在化したアフリカ各国の保健システムの脆弱性の克服など、ポスト・コロナを見据えた取組みが急務である。ワクチンの共同購入・途上国への分配に関する国際的な枠組みであるCOVAX等を通じたワクチン・治療薬・検査薬の提供、各国における保健医療施設・検査体制・関連機材の整備、コールドチェーンを含めた物流網・在庫管理の整備、保健・医療・公衆衛生関係の人材育成、空港の検査機材の整備の水際対策、現地の観光産業の復興支援等への支援が求められる。

また、アフリカにおいては、政府による感染対策が必ずしも十分でない国も見受けられることから、現地での邦人の安全確保に向け、感染状況等の適時適切な情報発信や検査・診察・治療・緊急搬送・隔離体制の確保#1、現地の日本人駐在員および家族等に対するワクチン接種支援等が求められる。加えて、現地で支援を求める際の日本政府関係機関の相談窓口を一元化・明確化するとともに、各機関の連携を一層強化することが重要である。

感染の収束状況や最新の科学的知見に基づき、人の往来の早期再開を進めることも重要である。特に、わが国においては、帰国後の隔離や煩雑な手続を含めた厳格な水際措置により、海外赴任・出張が実質的に困難な状況に長らく置かれてきた。日本政府は段階的な緩和を進めているが、さらなる善処が必要である。具体的には、感染状況に応じた政府の渡航先諸国・地域の感染症危険レベルの迅速な緩和、ワクチン接種や検査記録を踏まえた往来制限(検査・隔離措置、ビザ取得等)の緩和、入国者の受入人数枠の撤廃等、安全を確保した上で人の往来の正常化に向けた取組みが迅速に進められることを期待する。

今回の新型コロナウイルス感染症対応において、在留邦人の保護はもとより、現地の感染状況・医療提供体制等に関する情報提供、日本への退避・一時帰国、ワクチン接種等に関して、現地の日本政府公館や関係機関による多大な支援が行われたことを高く評価する。他方、政府公館毎に対応が異なることが度々あり、進出日本企業に混乱が生じたことも事実である。今回の教訓や好事例を踏まえ、現地邦人に対する情報提供(SNS等の活用)、国外退避など危機対応の一層の強化が図られることを期待する。

2.ビジネスの予見可能性の確保

平和と安定の実現、飢餓と貧困の削減、法の支配の確立、グッド・ガバナンスの導入、自由で公正な競争環境の整備等は、社会経済発展の基盤であるとともに、ビジネスの予見可能性の確保に不可欠である。また、安定した社会における中間層の拡大は、企業による新たな事業機会の獲得、投資機会の拡大につながる。

まずはアフリカ諸国における自助努力が求められる一方、日本政府としても、これらの確保等に必要な資金・人材・技術・知見等を提供するキャパシティ・ビルディングに取り組む必要がある。ODA等による資金の援助、人材・技術・知見面の協力、さらには、主にASEANで取り組んできた法務省の法制度整備支援事業#2をアフリカ諸国へ展開するなど実効性ある支援を期待する。日本企業においても、事業拠点国を中心として、健康、保健衛生、教育、環境保全等の様々な分野において、事業活動や社会貢献活動を通じた取組みを進めており、引き続き貢献していく所存である。

また、アフリカにおいてビジネスを行うにあたっては、特に、贈収賄等の不正や腐敗、違法取引が高リスクとして認識されている。不正や腐敗は、ビジネスの健全な競争を阻害するのみならず、国家に対する信頼を失わせるものである。アフリカ諸国においては、「腐敗の防止に関する国際連合条約」や「腐敗の防止と対処に関するアフリカ共通条約」等に基づく対応が進められているが、各国政府による汚職撲滅に対する明確な方針の提示、法制度の一層の改善、厳格な法執行が必要である。さらに、違法取引防止に向けて、各国政府の取組みの強化に加え、各アフリカ地域経済共同体(RECs)内における共通の規制枠組みの導入、各国の水際における管理強化を図ることが望ましい。

3.ハード・インフラの整備

(1) 質の高いインフラの整備

アフリカでは、道路、港湾・空港、電力、水道等のいわゆるハードのインフラ(以下、ハード・インフラ)の整備が十分に進んでおらず、社会発展や経済成長のボトルネックとなっている。わが国としては、相手国のニーズと実情を踏まえながら、経済性、安全性、強靭性、信頼性等を備えた、質の高いインフラ展開に官民一体で取り組み、当該国の持続的な発展に貢献していくことが求められる。その際、現地の雇用創出や、社会・環境面、透明性、財政健全性にも配慮する必要がある。わが国経済界としては、公的な支援も得つつ、上記に掲げた4分野のみならず、交通、物流、貿易・通関、エネルギー#3、通信・放送、金融、住宅、農業、廃棄物処理、防災、医療・保健・福祉といった様々なインフラの整備に、引き続き力を注いでいく。

このように、官民連携の下、アフリカ諸国のインフラ整備に貢献していく上では、政府の「経協インフラ戦略会議」において、アフリカに特化したインフラ海外展開戦略の策定を急ぐとともに、同戦略の下で、施策のPDCAを回していく必要がある。同時に、TICAD等の機会を活用した、首脳・閣僚レベルによるトップ外交は、日本とアフリカの外交関係だけでなく、経済関係の強化につながっており、経済界として高く評価している。わが国首脳・閣僚のアフリカ諸国歴訪、国際会議・展示会への参加、相手国政府の要人や関連機関・公社等の関係者の日本への招聘等を含め、あらゆる機会を捉え、トップセールスが継続的に推進されることを強く要望する。加えて、日本企業によるアフリカ・ビジネスのさらなる拡大に向けて、在外公館や関係機関#4のネットワークを通じた、情報の収集、企業関係者への情報提供、交流機会の提供、問題発生時の支援など強力なサポートの継続が求められる。

これまで、日本政府は、TICAD Ⅴ、Ⅵにおける政府支援方針に基づき、アフリカにおける広域開発計画として、戦略的マスタープランを策定している。地域の連結性向上と民間投資の誘致等に加えて、わが国への信頼を確保する観点からも、国際約束であるマスタープランの着実な実行が不可欠である。今後、西アフリカ「成長の環」広域開発、東アフリカ北部回廊開発、ナカラ回廊開発、電力・エネルギー開発等のマスタープランが早期に具体化され、円借款等の必要な手続が迅速に実施される必要がある。南北回廊、中央回廊等のその他の重要回廊開発についても、具体化に向けた検討や支援が求められる。

一方、AUは、アフリカ・インフラ開発プログラム(Programme for Infrastructure Development in Africa:PIDA)#5を掲げ、アフリカの地域横断的な発展に取り組んでいる。2021年にはアフリカ連合委員会(AUC)により、2021年から2030年を対象としたPIDAの重点行動計画であるPIDA-PAP(Priority Action Plan)2が策定されており、わが国にも、同計画の実施促進に向けた連携と貢献が期待されている。PIDA-PAP2が掲げる「Integrated Corridor 2.0」、さらには、UNDP等の国際機関がアフリカで実施するプロジェクト等への協力も検討する必要がある。

アフリカ各国政府においては、単なる価格競争に陥るのではなく、質の高さ、すなわち、ライフ・サイクル・コストから見た経済性の確保、現地人材の育成への貢献、技術移転等を総合的に評価する入札制度の改善に取り組むとともに、評価能力の向上のための人材の育成、わが国発の技術基準・規格の普及促進、PPP(Public Private Partnership:官民連携)関連制度の整備・運用に向けた体制強化、ホスト国としての政府保証等をはじめとする適切なリスク分担が求められる。

(2) ファイナンス支援の拡充

アフリカ諸国の中には、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、財政状況が急速に悪化#6し、従来基準では円借款の供与が困難な事例等も散見されることから、それらの国に対して、財政の持続可能性の確保を促す必要がある。また、わが国の政府・関係機関には、コロナ禍から正常化に至るまでの当面の間は、アフリカ経済社会の復興を支援すべく、無償資金協力#7の一時的な拡大など柔軟な対応を求めていく必要がある。

その上で、コロナ禍を超えて中長期を展望すれば、アフリカにおける日本企業のインフラ、グリーン、デジタル等のビジネス展開には、巨大なファイナンス需要があり、そこにおいても公的なファイナンス支援が重要な役割を果たすと考えられる。具体的には、引き続き、円借款や無償資金協力、JBIC投融資やJICA海外投融資の拡充および融資条件の緩和、NEXIによる保証の拡充#8、本邦技術活用条件(STEP)の制度改善と活用促進、さらには案件の形成・選定から実施に至るまでのプロセスの迅速化等#9が求められる。

また、インフラシステムの受注を中長期的な収益の確保につなげていくには、ハード・インフラの建設、機器の納入のみならず、O&M(Operation & Maintenance:運営・メンテナンス)、コンテンツやアプリケーション等のソフト面も含めたインフラシステムサービスの提供を一体的に展開する必要がある。これを実現すべく、O&M円借款や事業・運営権対応型無償資金協力の拡充、O&M DXへの重点支援#10、公的資金と民間投資のパッケージ型ファイナンス(ハイブリッド型PPP)の促進等が求められる。電力や通信等のサービスを利用した分だけ支払う従量課金制や各種サービスを提供するアプリケーションを月額制で利用するサブスクリプションモデルの導入等への支援も考えられる。

併せて、世界銀行やアフリカ開発銀行などの国際開発金融機関(MDBs)、欧米等第三国の公的金融機関、アフリカ貿易保険機構(ATI)などの輸出信用機関(ECA)との国際協調融資も積極的に活用すべきである#11。アフリカ開発銀行とわが国政府による「アフリカの民間セクター開発のための共同イニシアティブ」(EPSA:Enhanced Private Sector Assistance for Africa)については、わが国企業が参画しやすくなるような制度改善#12を期待する。

4.ソフト・インフラの整備

(1) 日アフリカ間の各種協定・条約の早期締結

アフリカとの強固な経済関係を有する欧州は、アフリカの各国、地域経済共同体との間で、既に広くFTA/EPAを締結しており#13、米国#14、中国、インド等もアフリカ諸国とのFTAの交渉を進めている。かたや、日本とアフリカ諸国との政府間では、FTA/EPA、投資協定#15、租税条約、社会保障協定等の政府間協定の締結が進んでいない。わが国企業は、こうした世界の競合国の企業と比して、アフリカの高率の関税や税負担#16によるコスト増、投資リスク等に晒されており、競争条件に大きな格差が生じている。こうした状況の長期化は、企業のアフリカ・ビジネスに対する意欲を奪いかねず、わが国経済界として強い危機感を覚えざるを得ない。

2021年1月にAfCFTAの運用が開始されるなど、アフリカ自身も経済統合の動きを進め、自由で開かれた貿易体制を重視する姿勢を示す中、日本としても、アフリカとの各種条約や協定の締結を通じて、経済的な結びつきを強化していくことが急務である#17。FOIPの三本柱の一つに「経済的繁栄の追求(連結性、EPA/FTAや投資協定を含む経済連携の強化)」が掲げられており、こうした取組みはわが国の外交政策にも合致し、その実現に資するものである。

したがって、日本企業の進出状況、欧州・中国・韓国・インド等の競合国の各種協定の取組み状況等も踏まえつつ、わが国とアフリカ各国や地域経済共同体との間における、FTA/EPA、投資協定、租税条約、社会保障協定等の政府間協定の締結を一刻も早く開始すべきである。

具体的には、FTA/EPAについては、モロッコ#18、エジプト、南アフリカ#19等の国々に加え、南部アフリカ開発共同体(SADC)、南部アフリカ関税同盟(SACU)、東アフリカ共同体(EAC)、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)等の地域経済共同体との交渉開始を急ぐべきである。なお、AfCFTAについては、アフリカ域内貿易の自由化、円滑化や経済統合の推進等に向けて、わが国政府としても必要な支援#20を進めるとともに、将来的な協定締結も目指し、連携を深めていくことが肝要である。投資協定については、ナイジェリア、エチオピア、アルジェリア、ガーナ、タンザニア等の交渉中の相手国との締結を急ぐとともに、南アフリカ、チュニジア等との交渉を新たに開始すべきである。租税条約については、ケニア、アルジェリア、ナイジェリア、モザンビーク、ガーナ、チュニジア、ウガンダ、コートジボワール、セネガル、エチオピア、ブルキナファソ、アンゴラ等との締結を目指すとともに、締結済国における制度運用の実効性を確保すべきである。社会保障協定については、南アフリカ、モロッコ等との締結を検討すべきである。

(2) アフリカ諸国のビジネス環境整備

アフリカにおいては、法制度がそもそも未整備、内容が曖昧で不明瞭、あるいは運用が不透明で当局や担当者レベルで対応が異なるなど裁量の余地が大きいという問題がある。海外からの投資を惹きつけ、国内経済の発展や生活の改善につなげていくためにも、アフリカ各国政府による法制度の整備、ルールに基づく運用の徹底など、ビジネス環境整備を急ぐべきである。具体的には、税関#21、検疫、査証#22・就労許可#23、外貨・為替管理#24、税、雇用・労働、環境、土地、建築#25、生産#26、営業ライセンス、知的財産#27、規格#28・基準、製品登録#29等の各種法制度の整備および公正・透明性・予見可能性の確保、各種手続・許認可の簡素化・迅速化・電子化、明文化されたルールに基づく運用等が求められる#30

とりわけ、税を巡っては、免税や減税措置が適用されているにもかかわらず、現場の判断で不法、不適切な形で課税される、付加価値税の還付が滞る#31、あるいは遅延する、プロジェクトの問題発生時に契約通りに相手国の政府保証が果たされない等、現地国において適切に運用されていない例が散見される。こうした深刻な問題の解決に向けて、日本政府としても、外交ルートや現地公館等を通じた支援、現地政府における免税や還付等のルールおよび窓口の明確化等の働きかけ、専門家の派遣や現地当局の研修支援等が求められる。加えて、万一の法的紛争に備えて、アフリカの各国政府が投資家に対して、実効性のある紛争解決手段を提供することも重要である。

また、今後のアフリカの経済成長を考える上で、スタートアップや新興企業の存在感はさらに増していくものと考えられる。日本企業のアフリカ進出にあたり、こうした企業とのパートナーシップは有効な手段となり得る。各国政府によるスタートアップの育成支援制度の創設・拡充が期待される。

(3) 第三国との連携の推進

わが国企業がアフリカ各国においてビジネスを拡大していく上で、フランス等の欧州諸国、中東諸国、トルコ、インド、米国、ASEAN#32ならびに南アフリカ等、現地で既に広範なネットワークを有し、ビジネスの実績を上げている国々の企業との連携が有効であり、現に事例も拡大している。

こうした第三国との連携を一層強化し、アフリカ市場でのビジネス展開を進めていく際、FOIPの推進や2021年のG7サミットにて提唱された「ビルド・バック・ベター・ワールド」、EUが2021年12月に公表した「グローバル・ゲートウェイ」構想との連携・協力を検討する必要がある。また、第三国との政府間の枠組みを最大限活用し、インフラ、資源・エネルギー、デジタル等個別分野における連携を推進していくことも有用である。例えば、「アジア・アフリカ地域における日印ビジネス協力プラットフォーム」、日米豪による「インド太平洋におけるインフラ投資に関する三機関パートナーシップ」、「持続可能な連結性および質の高いインフラに関する日EUパートナーシップ」、「日米豪印協議」等の枠組みを積極的に活用すべきである。これらの取り組みを通じて、アフリカ市場において、第三国企業との連携・協力の下、日本企業が主導する具体的なプロジェクト、ビジネスの創出につなげることが重要である。

5.ヒューマン・インフラの整備

(1) 人材育成の戦略的取組み

TICAD Ⅴ以降、実施されている「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(African Business Education Initiative for Youth:ABEイニシアティブ)」は、アフリカの経済発展のみならず、人材育成を通じて、親日家を育成し、将来的に日本企業のアフリカ・ビジネスの拡大にもつながることから、極めて重要な取組みである。日本企業からも高い評価を得ており、息の長い取組みとして継続すべきである。

その際、対象となるアフリカ人留学生について、現地での募集活動を強化し、まず数の確保ありきではなく、留学後の就職先も意識して、人材の質、日本企業の進出国やニーズ#33を重視した選考を行う必要がある。また、年齢や就業状況に係る要件の緩和を図り、政府・企業の中堅・幹部人材や日本企業の現地職員も対象とするなど、幅広く優秀な人材の受け皿となるべきである。さらに、同イニシアティブのOB・OGのネットワークを、現地日系企業における採用、日本企業とアフリカ企業とのビジネスマッチング、日本企業のインフラプロジェクト受注等、日本企業のアフリカ・ビジネス展開に戦略的に活用することも有用である。加えて、日本企業によるインターンシップの受入拡大に向け、受入プロセスの簡素化、事前の日本語研修の導入、留学生の日本国内出張等の各種経費の支援等が求められる。

ABEイニシアティブに加えて、社会課題の解決を担う多様なアフリカ人材育成を進めるべく、ダイバーシティ、インクルージョンにも配慮しつつ、必要に応じて欧米等第三国、国際機関#34との連携も図りながら、基礎教育#35を徹底した上で、階層別(政府幹部、企業管理職や幹部#36、事務系専門職、技術者、技能工#37等)の教育を実施し、重層的なアフリカ人材の育成を支援していくことが重要である。AOTS(海外産業人材育成協会)専門家派遣・海外研修、JICA開発大学院連携や人材育成奨学計画(JDS)、TICAD産業人材育成センター等の職業訓練等の既存の取組みに関する広報・周知に努めるとともに、重層的な人材育成につながる支援制度の創設#38・拡充、専門家の派遣等を行う必要がある。

(2) 人権リスクへの対処

昨今、国際機関#39や、アフリカとの結びつきの強い欧州等では、企業のサプライチェーンにおける人権尊重の取組みを一層重視するようになっている。経団連の企業行動憲章においても、「すべての人々の人権を尊重する経営を行う」ことを掲げるなど、日本企業は人権を尊重する経営を実践しており、アフリカ市場においても、サプライチェーン・マネジメントやデュー・ディリジェンス、ESG投資、フェアトレードなど様々な取組みを進めている。

アフリカには人権が十分に保護されていないと懸念される国も存在しており、日本企業がビジネスを展開するにあたって、児童労働、強制労働、人種差別等のリスクに晒される恐れがある。日本政府には、強制労働を理由とする輸入禁止等の動きもある中、国際的な制度調和も意識しつつ、人権問題を企業のリスク管理のみに委ねるのではなく、外交上のリスクとして対処する姿勢#40を明確化するよう要望する。同時に、アフリカ市場における人権リスクに関する情報提供や相談窓口の設置、問題発生時の現地大使館等を含めたサポート等、企業における人権デュー・ディリジェンスの取組みへの支援に加え、人権リスクを抱える国に対する働きかけやキャパシティ・ビルディングの実施等を求める。

Ⅳ.具体的目標:各種社会課題の解決

以上のハード・ソフト・ヒューマンの三つのインフラ整備を通じて、以下のアフリカが直面する社会課題の解決に協力し、「Agenda2063」やSDGsの実現に貢献すべきである。

1.ヘルスケア:疫病の予防・治療、健康の増進

わが国は、従来、アフリカ健康構想#41等の下、SDGsの実現にもつながるユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成を目指して、アフリカにおける持続可能なヘルスケアシステムの構築に取り組んできたが、新型コロナウイルス感染症の拡大は、アフリカにおける医療体制の脆弱性や衛生環境の未整備を改めて顕在化させた。

アフリカには、医療の質量ともに十分ではない国が多い。こうした中、日本の技術力やノウハウ、経験を生かして、医薬品・医療機器・衛生用品の提供、医療機関の建設・運営、遠隔診療および保険証・母子健康手帳・予防接種・病歴等の電子管理等ITを駆使した健康医療システムの整備、コールドチェーンを含む物流システムの整備、水・廃棄物・リサイクルシステムの整備、人材育成等、医療・保健・公衆衛生分野における取り組みを一層推進していかなければならない。さらには、公衆衛生政策の策定と普及、栄養や生活習慣改善プログラムの実施#42等を促進することも重要である。

2.グリーン:気候変動、電力・水不足、廃棄物問題等の解決

気候変動、大気汚染、海洋汚染等の環境問題は、全人類に脅威をもたらす地球規模の課題である。とりわけ、気候変動に関しては、アフリカの過半数の国も2050年までの「カーボン・ニュートラル」の実現を宣言している。

しかし、アフリカの多くの地域では、未だ電力普及率が低く、電源も石炭などの化石燃料に依存している。クリーンかつ安価で安定した電力供給インフラの整備を通じた持続可能な社会構造への転換は、人口増加が見込まれるアフリカにとって不可避の課題である。また、アフリカは、世界の他地域に比べて相対的に温室効果ガス排出量が少ないにもかかわらず、砂漠化や異常気象、水不足等の気候変動の甚大な影響を真面に受けている。

わが国としては、環境性能の高い技術・インフラによって、アフリカが直面する砂漠化、電力・水不足、廃棄物問題等の課題解決に貢献していくべきである。具体的には、気候変動、水、大気、防災、廃棄物・3R、ブルーエコノミー#43等の分野で、環境性能の高い技術や製品・サービス・システムをアフリカ各地に展開することで、脱炭素型社会や循環経済への移行、気候変動に対する強靭性の確保を支援していく必要がある。アフリカには、太陽光、水力、風力、地熱といった再生可能エネルギーを導入するのに適した地域も豊富にある。そのことは、日本企業にとっては太陽光、水力、風力、地熱等の再生可能エネルギー、バイオマス発電、高効率な火力発電、水素、アンモニア、オフグリッドや送配電網、蓄電、CCS/CCUS、メタネーション、廃プラスチック削減、水(浄水、海水淡水化、排水処理)、衛星等の気象観測、さらにはスマートシティといった多様なグリーン技術を用いたインフラシステムを展開していく事業機会があることを意味している。

わが国としても、国際協調の下、温室効果ガスの排出削減に貢献を果たしていく上で、わが国企業が有する技術の活用を通じ、途上国の温室効果ガスの排出削減に貢献できる二国間クレジット制度(JCM)#44、JICA、JBICの投融資などのファイナンス支援は重要である。とりわけ、JCMに関しては、積極的な活用を通じてわが国自身の排出削減目標の達成にもつなげていくため、アフリカにおけるパートナー国の拡大(例えば、南アフリカ、モロッコ、エジプト、ナイジェリア、モザンビーク、ザンビア、セネガル、アンゴラ等)、さらには予算と対象案件の拡充、案件実行を促進するための制度の合理化および柔軟化#45、現地大使館による相手国への働きかけ支援等が求められる。

アフリカ諸国のNDC(Nationally Determined Contribution:国が決定する貢献)の達成に向けた政策面での支援も重要である。わが国は、すでにASEANにおいて「アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ(AETI)」を実施している。これを先行事例として、アフリカにおいて低炭素・脱炭素社会構築のためのロードマップの策定や、ファイナンス、技術開発・実証、人材育成や知見共有等の支援を行うことが期待される。

3.フード&アグリ:持続可能な農業・林業・水産業の確立

アフリカでは、国づくりの基本である農業の発展が遅れ、食料の自給がままならず、海外からの輸入に依存しているため、国外要因による価格の高騰などの影響を受け易いという事情がある。農業の大規模化・効率化を通じた単位当たりの生産コストの削減を図るとともに、高付加価値化を目指して加工・流通・在庫を含めたフードバリューチェーンの構築が急がれる。わが国としても、種苗・農薬#46・肥料や、ICT等の先端技術を含む生産・灌漑・加工・流通・販売・包装・在庫管理に至る資機材やシステム等の提供、農村部と都市部・周辺国市場とのアクセスの改善やコールドチェーンの構築、専門家の派遣や技術支援#47等に取り組む必要がある。

林業が主要産業の国#48においては、わが国の経験を踏まえた貢献が可能である。計画的な森林資源管理や植林、違法伐採の防止、安全で環境負荷を抑えた機械化やスマート林業を促進することで、日本企業のビジネス拡大にもつながる。また、アフリカは、サハラ砂漠拡大阻止のGreat Green Wallだけでなく、CO2削減、自然資源保護を目的とした環境植林の可能エリアとしても注目されている。近年わが国でも自社のCO2削減目標の達成に向けてクレジットを活用する企業が増えており、民間資金と政府の施策、さらには、わが国の機械化された植林、ドローン・衛星画像による森林管理技術を組み合せれば、アフリカへの新たな貢献が期待できる。

水産業では、漁業用機器等の提供や効率的な漁法の普及、養殖・水産加工への支援等を通じて、アフリカの漁業の振興、近代化に貢献が可能である。

4.ロジスティクス:物流の円滑化

アフリカでは、人々の生活や企業の生産活動に不可欠な物資の輸送に支障が生じている。その背景には、道路、空港、港湾、鉄道といった基幹インフラの不足、旧宗主国の影響等による通関ルールやシステムの相違、テロや海賊#49等による治安上の問題、高関税、外貨不足、不透明な法制度と恣意的な運用、輸送・通関時の賄賂の要求、通関等のデジタル化の遅れ等、様々な要因が存在する。物流の寸断、物流費用の増加は、アフリカの経済発展の大きな足枷となっており、これらの課題の解決を通じて、国をまたぐ円滑で強靭なサプライチェーンを構築することが重要である。

そのため、コールドチェーンやラストワンマイル#50を含む物流インフラ整備#51への支援、日本政府が支援を進める「ワンストップボーダーポスト(OSBP)#52」等を通じた通関の電子化・簡素化#53・標準化の推進、通関現場における汚職撲滅、自国保険主義#54の改善、保税加工貿易制度の強化、非居住者在庫制度#55の導入等を推進することが必要である。

5.デジタル:社会経済活動の変革

アフリカは、ゼロベースで最新のデジタル技術を導入することによって、一足飛びに飛躍を遂げる大きな潜在性を有している。わが国としても、これまでに述べたヘルスケア、グリーン、農業、物流などをめぐる社会課題の解決に加えて、行政、金融、通信・放送、サイバーセキュリティ、交通、貿易・通関、出入国管理、観光、教育、スマートシティなど、幅広い分野において、AI、IoT、5G、人工衛星、海底ケーブル、自動化・省力化、非接触・非対面、遠隔管理、生体認証、国民ID、トレーサビリティ等の様々な技術を活用して、ハード・ソフト両面からアフリカのデジタル化、ひいては社会経済活動の変革、平和と安定の実現に貢献していくことが肝要である。

こうした取組みを後押しすべく、アフリカの地域機関である「スマートアフリカ#56」との連携、総務省「デジタル海外展開プラットフォーム」等の活動の推進が求められる。また、2020年5月に、経団連とJICAが、インフラDXプロジェクトに関するメニューブックとしてまとめた「Society 5.0 for SDGs 国際展開のためのデジタル共創」等のコンテンツの有効活用等を通じて、O&Mを含む具体的な案件創出を加速すべきである。

また、アフリカにおけるデジタル化が進むなか、諸外国や国際機関等と連携して、アフリカ諸国における知的財産やデータの保護、サイバーセキュリティの確保、電子決済・貿易取引等のデジタル関連法の整備への支援も重要である#57。アフリカ各国によるデジタル製品・技術の貿易障壁を撤廃し、さらなる普及を促進するため、ITA(情報技術協定)加盟国#58の拡大も期待される。

Ⅴ.わが国における推進体制:司令塔機能の強化

3年に1度、日本とアフリカの首脳が集い、アフリカ開発について多角的に議論するTICADをより有意義なものにし、一層強固なパートナーシップを構築していくためには、TICADで採択された宣言および行動計画について、PDCAサイクルを回し、着実に実行していくことが不可欠である。前回2019年のTICAD7の後、日本政府内で、「横浜宣言2019」、「横浜行動計画2019」の進捗状況のレビューが行われるとともに、「横浜行動計画2019」のフォローアップを行うための専用サイトが立ち上げられたことは、PDCAサイクルの実行の観点からは評価できる。しかし、日本政府による評価内容が開示されないため、民間が評価・改善プロセスに十分関与できずにいる点は、官民連携によりTICADプロセスを進める上で問題がある。

また、2019年のTICAD7までは、TICAD開催前に、外務大臣と経済団体代表を共同議長とするTICAD官民円卓会議において、経済界・企業、関係省庁、政府機関等の参加の下、アフリカ開発の推進に向けた官民提言が取りまとめられ、総理大臣を通じてTICADの宣言、行動計画に反映されていたことは極めて有意義であった。しかしながら、TICAD8においては、TICAD官民円卓会議の設置が見送られたため、広く経済界・企業の声をTICADに反映させる一つの重要な経路を失うことになった。

本年8月に開催されるTICAD8への準備はもとより、それを超えてアフリカの内発的・持続的な発展を戦略的に支援するためのわが国の推進体制の確立を強く求める次第である#59

1.アフリカ経済戦略会議の機能強化

アフリカの内発的・持続的な発展に向けて、政策面においても官民連携を一層推進していく必要がある。現在、日本政府は、内閣官房副長官を議長とし、関係省庁次官・局長級から構成される「アフリカ経済戦略会議」を設置し、不定期に会合を開催し、アフリカ開発施策を検討している。しかし、民間のメンバー参画はなく、そのプロセスは、政府内に閉じた形となっている。

今後、「アフリカ経済戦略会議」については、アフリカの発展に関する官民連携の司令塔として、内閣総理大臣主宰の下、関係閣僚、政府関係機関のトップ、経済界を含む民間議員を構成員とし、開かれた形で定期的にわが国のアフリカ政策について審議・決定する会議体へと機能強化を図るべきである。

その上で、同会議において、わが国としてのアフリカの内発的・持続的な発展に向けた中長期戦略(例えば、「Society 5.0 for Agenda2063」と名付け、戦略的重点国・地域#60、成果目標、工程表を含むものとする)を策定するとともに、同会議が司令塔となり、省庁横断的に#61PDCAを回すなど、戦略を確実に実行していくことが求められる。

2.二国間ビジネス環境改善委員会の拡充

TICAD7官民円卓会議において策定された「民間からの提言書」(2019年3月)を受けて、エジプト、ガーナ、ケニア、コートジボワール、セネガル、ナイジェリア、南アフリカの7カ国について、二国間ビジネス環境改善委員会の設立が発表された。これは、現地の日本大使館、JETRO、現地に進出する日本企業、相手国政府等が協力して、アフリカ各国で事業活動を行う日本企業が直面する課題の解決に向けて活動する枠組みである。しかしながら、コロナ禍の影響もあり、これら委員会活動に具体的な進展がみられておらず、具体的な成果を生み出すための早急な対応が必要である。

例えば、日本・ベトナム両国首脳の合意により設置された「日越共同イニシアティブ」では、両国政府で投資環境改善のために実施すべき内容を「行動計画」として取りまとめ、約2年を1サイクルとして両国官民関係者で具体策を検討し、実施後の進捗評価を両国政府で行うというPDCAを回し、数多くの具体的な成果をあげている。このような例も参考に二国間ビジネス環境改善委員会のPDCAを回す仕組みを構築した上で、上記7カ国に加えて、エチオピア、アルジェリア、チュニジア、モロッコ、タンザニア等のわが国のアフリカ・ビジネスにとって戦略的に重要な諸国についても、対象に加えていくべきである。

3.アフリカビジネス協議会への期待

アフリカビジネス協議会は、前回のTICAD7に先立ち、2019年6月、日本とアフリカ諸国とのビジネス交流を促進する目的で設立され、現在、日本企業、日本政府関係省庁・機関等約300の組織が加盟している。同協議会は、コロナ禍の制約がある中で、アフリカ開発を巡る官民関係者のネットワークの構築、各種情報提供等に尽力している。企業のニーズを踏まえながら、コロナ収束後を見据え、アフリカとの交流やビジネス関係の拡大に向けた活動の継続が期待される。

以上

  1. 例えば、在外公館医務官・派遣医師等を活用することも考えられる。
  2. 法務省は、1994年以降、ベトナム、カンボジア、インドネシア等アジア諸国において、基本法令の起草、法令を運用する関連機関の制度整備、法曹実務家等の人材育成等に対する支援を行っており、現地の法整備支援と運用に大きな貢献を果たしている。
  3. 昨今の国際情勢を受けて、エネルギー安全保障上のリスクが高まっている。わが国のエネルギー・トランジションに不可欠な天然ガスの安定供給に向けて、政策金融等を活用したアフリカ各国の関連インフラ整備が引き続き重要である。
  4. 現地に事務所を持たない、国際協力銀行(JBIC)、海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)と海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)が推進するプロジェクトについても、JICAやジェトロ等による現地支援が必要である。
  5. 2012年から2040年にかけてのエネルギー、交通、水輸送、ICTの4分野におけるインフラ開発計画
  6. IMFと世界銀行のLIC DSA rating(2022年1月時点)では、多くのアフリカ低所得国の債務持続性リスクは深刻な評価となっている(高リスク国:ケニア、ガーナ、エチオピア、ザンビア、カメルーン等。過剰債務国:モザンビーク、スーダン、ジンバブエ等)。
  7. 無償資金協力について、日本企業によるビジネスの現地シフトが進んでおり、業界によっては、主契約者条件の見直し(海外現地法人等による契約を可能とする)の検討を期待する声もある。
  8. JICA:ODA事業費の十分な確保と対象国や対象案件の拡充・柔軟化、保証機能の拡充。債権譲渡に対する柔軟な対応。現地通貨支援の拡充。免税措置が合意された案件における免税の徹底。円借款の利益相反条項(One Bid Per Bidder原則)の運用の柔軟化等
    NEXI:貿易保険の付保対象の拡大(頭金、金利、手数料、保険料、海外現地法人の契約等の付保、サブソブリン案件のカバー率の拡大)、リスクテイク機能の強化(特別勘定の創設等)、審査基準の一部緩和(日本企業が入手しにくい現地政府発行書類の提出等)、債権譲渡に対する柔軟な対応、財務面の信用が低い国や外貨送金規制が厳しい国等に対する保険支援等
  9. その他、国際開発金融機関(MDBs)案件への日本企業の参画機会の確保と増大のための支援策(F/Sへの支援等)、国営地域開発銀行に対するソブリン格付の適用、日本からの輸出契約に紐づかないアンタイドプログラムの保証料の市場に即した見直しや資金使途の適用条件の柔軟化(日本への裨益など)等を求める。
  10. 特に、導入後の保守、アップデートが必須となるDX案件を重点的に支援するとともに、公的支援によるO&M資金供与の枠組みの組成が必要である。
  11. NEXIのLEADイニシアティブによるわが国民間金融機関からアフリカ輸出入銀行への融資保険の引受はこの好例である。
  12. 具体的には、日本政府には、日本企業案件における金利を含む条件緩和、手続の迅速化、サブソブリン・ノンソブリン向け融資の積極化に向けて、アフリカ開発銀行との連携やJICA海外投融資の積極的な併用等が求められる。
  13. 例えば、EUは、エジプト、モロッコ、チュニジア等の個別国の他、SADC、ECOWAS等の地域経済共同体等の地域経済共同体との間でも自由貿易協定を発効済である。
  14. 米国は2020年7月にケニアとのFTA交渉を開始している。
  15. わが国とアフリカ諸国との投資協定は、エジプト、モザンビーク、ケニア、コートジボワール、モロッコ(以上、締結済)に留まる一方、例えば、韓国は、チュニジア(1975年)、南アフリカ(1997年)、エジプト(1997年)、ナイジェリア(1999年)、アルジェリア(2001年)、ケニア(2017年)などアフリカ20カ国と締結済である(括弧内は発効年)。
  16. 欧州等諸外国の企業は、二重課税防止協定がある国に強みを発揮して集中的に進出する一方、日本企業は現地の税金をコスト化せざるを得ず、価格競争力で大きく遅れをとっている。
  17. AfCFTAを通じて、アフリカの経済統合と自由で開かれた貿易・投資体制が構築されれば、例えば、アフリカの一国とEPAを締結することによって、アフリカ全体へのビジネス展開が一層容易になると期待される。
  18. モロッコは、自動車や化学品の一大生産拠点であり、既に50カ国以上とFTAを締結し、海外からの投資誘致に熱心に取り組んでいる。
  19. 南アフリカについては、既に南部アフリカ域内の他、EUやメルコスールとFTAを締結しているため、欧州企業等に対し、日本企業は不利な状況に置かれている。現在のラマポーザ政権の任期である2024年までを目標にEPA/FTAの締結を目指すべきである。
  20. 中国は、2021年11月の中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)第8回閣僚級会議において、AfCFTA事務局と中国アフリカ協力専門家チームを設置することを表明した。
  21. ECOWAS、EAC等の地域経済共同体の加盟国間での物品貿易について、免税であるにもかかわらず、課税されるケースが後を絶たず、ルールに基づく運用徹底を求めるよう、日本政府、現地大使館等による支援を求める。
  22. AU諸国間のマルチビザ(Agenda2063のフラグシッププロジェクトの一つに「The African Passport and Free Movement of People」が掲げられている)、APECビジネストラベルカードに倣ったTICADビジネストラベルカード等の創設、ライセンス取得の代理申請、電子ビザの普及、招聘状等の付属書類の簡素化等が期待される。
  23. 例えば、ケニアやエジプト等では、労働許可書(Work permit)の取得手続に時間がかかる。エジプト、モロッコ、モザンビーク等では、外国人の雇用規制がある。
  24. エチオピア、ナイジェリア、ジンバブエ、アンゴラ、モザンビーク、ザンビア、スーダン、リビア等多くの国で、恒常的な外貨不足に陥っており、送金規制の緩和、外貨優先割当、L/Cの免除等の対応が求められる。日本政府機関に対しては、アフリカ各国の兌換リスクの補完・保証、外貨融通支援等を求める。
  25. 建築の安全基準が整備されていない国もある。
  26. 例えば、チュニジアでは、設備の廃却、移転の際の行政許可取得に時間を要する。
  27. 模倣品対策を含む。
  28. ECOWASやEAC等の地域経済共同体においては、欧州の旧宗主国に則った独自の工業製品規格が設けられていることがあり、日本企業の参入障壁となっている。
  29. 例えば、ナイジェリアでは、食品、医薬品、医療機器等の販売には、当局への登録が必要であり、許認可に長い期間を要している。
  30. また、各アフリカ地域経済共同体(RECs)に加えて、AfCFTAにおいて、関税、通関、検疫、査証、規格・基準認証等の各種制度について、加盟諸国間における連携、共通化が図られ、早期に実効ある運用が行われることを期待する。
  31. 無償資金協力案件についても、現地で課税された後、還付されない事例がある。
  32. 日本企業のグローバルサプライチェーンが多様化するなか、アジアなど第三国とアフリカ主要国との間でEPA/FTA締結が実現するよう働きかける必要がある。将来的なRCEP(地域的な包括的経済連携)協定との連携もアジアとアフリカのサプライチェーンネットワークの強化に有用と考えられる。
  33. 日本企業による推薦制度の再開を含む。
  34. 例えば、建設機械A社は、国際連合工業開発機関(UNIDO)と連携して、下記事業を行っている。
    • リベリア:2013年に日本政府、UNIDO、A社の協業により職業訓練支援プログラムを開始。2014年には重機オペレータ/サービス員育成の職業訓練校を設立。2018年に運営をリベリア政府系機関に移管。
    • ウガンダ:2019年に日本政府-UNIDOの国際機関連携無償資金協力で立ち上げた同国国交省(MoWT)向け重機オペレータトレーニングセンタに対し、A社が教育資料やVRシミュレータなどの設備面に加え、オペレータ技能評価のノウハウ提供など、運営面でも支援。
  35. 現地人材の基礎的な学力や仕事に対する基本的な姿勢の習得が不十分との声も依然多く、基礎的職業能力を身につけた労働者の層を厚くすることが重要である。
  36. アフリカの一国で育成した人材を他のアフリカ諸国へと派遣し、サービス展開を図る事例もある。
  37. 製品の製造だけでなく、修理や補修にも長けた人材育成も求められる。
  38. アフリカや日本の拠点に加え、欧州や中東、アジアなどの日系企業の拠点で実施するアフリカ人材の教育研修に対して支援を行うことも考えられる。
  39. 国際機関からは、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」、OECDの「多国籍企業行動指針」、ILO(国際労働機関)の「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言(多国籍企業宣言)」等が示されている。
  40. 萩生田経済産業大臣は、2022年2月18日の会見において、ビジネスと人権に関する質問に対して「様々な先端技術を有する我が国として、基本的価値観を共有する欧米等の同志国と緊密に連携し、今後の議論を踏まえて輸出管理の対応について検討」していく旨回答している。
  41. SDGsで掲げられているユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成への貢献を視野に、アフリカに適した持続可能なヘルスケアの構築を目指して日本政府が提唱するイニシアティブ。
  42. 例えば、ナイジェリア、ガーナ等での実施が考えられる。
  43. 2012年の国連持続可能な開発会議(リオ+20)で、島嶼国が提起した概念。海洋の生態系を維持しつつ、経済的な繁栄と貧困撲滅の実現を目指す。
  44. 現状、わが国のJCM署名国は、世界で17カ国あり、そのうち、アフリカについては、ケニア、エチオピアの2カ国に留まっている。
  45. 大規模案件の支援、対象設備・事業・技術の拡大、支援期間の長期化、手続の簡素化・時期の柔軟化、事業管理・報告義務期間の緩和等
  46. アフリカの西部(ECOWAS)や東部(EAC)など各地域経済共同体においては、旧宗主国の欧米諸国が遵守しやすい農薬の製品規格が設けられており、日本企業にとって実質的な参入障壁となっている。製品規格の改善に向けて、各国政府に対する働きかけが求められる。
  47. 農産品の生産支援・流通・販売、資機材の共同購買等を担う日本の農協のような仕組みや、農民への融資スキーム等のノウハウの提供、相手国の連絡先(関係政府機関、業界団体、農協、金融機関等)の整備等の日本企業とのビジネスマッチング促進、農業機材の維持補修、現地人材の育成(トレーニングセンターの設置等)、現地の栄養改善への支援等も有用である。
  48. カメルーン、ガボン等
  49. 近年、ギニア湾(特にナイジェリア沖)の海賊事案が増加している。
  50. 特に、ワクチンを含む医薬品、食料品を対象。
  51. 道路の舗装率の向上や高速化、個別事案ではナイジェリアのラゴス港の混雑解消等が必要である。
  52. 両国の国境施設を1つに統合し、または、どちらか一方の国だけに手続き場所を設けるなど、出入国手続を効率化する通関業務の運営方式。
  53. ナイジェリアの通関制度は、書面申請や捺印など煩雑で複雑な内容である。ケニアでは通関の電子化が進んでいるものの、書面のスキャン提出や最終的には紙媒体での提出が求められる。ケニア・ウガンダ等では、指定された第三者機関による船積前検査が必須となっている。
  54. ケニア、ナイジェリア、ガーナ、コートジボワール、ウガンダ等
  55. 当該国に居住地を持っていない企業が保税地域内で貨物を管理することを認める制度。
  56. アフリカのデジタル化推進に取り組むため、2013年にアフリカ諸国や国際機関などにより設立された地域機関。
  57. データサーバーの国内設置義務の見直しも必要である(エジプト、リベリア、アルジェリア、モーリタニア等)。
  58. アフリカでは、エジプト、モロッコ、モーリシャス、セーシェルの4カ国が加盟。
  59. 中国は、3年に1度、首脳会合である「中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)」を開催するとともに、30年以上にわたり、毎年年始に外相(外交部長)がアフリカ諸国を歴訪している。
  60. アフリカには多くの国が存在し、経済社会情勢やビジネス環境も大きく異なる。ビジネス需要、ビジネス環境、治安、産業発展や投資誘致への意欲等を踏まえて、戦略的重点国・地域を絞り込むことが現実的である。
  61. 経協インフラ戦略会議、健康・医療戦略推進本部等の関連会議体との連携も必要である。

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