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Policy(提言・報告書) 科学技術、情報通信、知財政策 宇宙基本計画の実行に向けた提言 -令和5年度宇宙関係予算で担保すべき重点事項-

2022年7月19
一般社団法人 日本経済団体連合会

1.はじめに

経団連は昨年7月、「宇宙基本計画の実行に向けた提言」を公表し、宇宙安全保障の確保、災害対策の強化、宇宙産業基盤の強化に関する重点施策の実施を要望し、令和4年度の政府の宇宙関係予算の概算要求額を年間5,000億円に近づけることを求めた。

この1年間で、世界的に宇宙システムが果たす役割はより重要になった。安全保障の面では、本年2月から始まったロシアによるウクライナ侵略では、衛星画像が戦闘状況の把握に活用されている。わが国周辺の安全保障環境が厳しさを増すなか、安全保障上の脅威に対応するために、宇宙システムの整備が急務である。

災害対策や地球規模課題の解決にも、宇宙システムは大きく貢献する可能性がある。台風や地震・津波などの災害が激甚化するなかで、衛星データにより被害状況が迅速に把握できる。また、2050年のカーボンニュートラルを実現するうえでも、宇宙システムが果たす役割は大きい。

世界では、民間企業により、多数の小型衛星を連携させる衛星コンステレーションの構築が進み、急速なスピードで技術開発が進展している。わが国としても、世界各国に追いつくため、宇宙産業によるイノベーション創出に向けた環境整備を進める必要がある。

政府の宇宙開発戦略本部が昨年12月に改訂した宇宙基本計画工程表においては、宇宙基本計画(2020年6月閣議決定)に掲げられた宇宙政策の目標に沿って、宇宙安全保障の確保、災害対策・国土強靱化や地球規模課題の解決への貢献などに向けた施策が盛り込まれた。宇宙開発戦略本部が本年5月に決定した「宇宙基本計画工程表改訂に向けた重点事項」では、今年末の工程表改訂に向けて、衛星コンステレーションの早期構築などが目指されている。

政府全体の宇宙関係予算は、令和4年度当初予算と令和3年度補正予算を合計すると5,219億円となり、昨年度より723億円増額された。宇宙基本計画で明記された宇宙産業の規模拡大目標を達成するため、政府の宇宙関係予算の継続的な増額が必要である。

そこで、昨年7月の提言以降の環境変化を踏まえ、令和5年度の宇宙関係予算で担保すべき重点事項について提言する。

2.宇宙開発利用の重要性

(1) 宇宙安全保障の確保

いまや宇宙は安全保障上の領域の一つである。安全保障上の領域は、従来の陸、海、空に加えて、宇宙、サイバー、電磁波にまで拡大し、各領域の融合も進んでいる。

世界各国が安全保障分野における宇宙利用を重視している。米国、中国、ロシア、欧州、インドは宇宙安全保障の強化に向けた取り組みを強化している。わが国周辺では、北朝鮮がミサイルを連続して発射しており、安全保障上の脅威が高まっている。

本年2月、ロシアのウクライナ侵略に端を発する戦闘において、宇宙の安全保障利用が顕在化している。戦闘状況の把握に民間の衛星画像が活用されているほか、民間の低軌道衛星コンステレーションによる通信や電波情報収集衛星が利用されている。また、測位衛星(GPS)により、車両、UAV#1(無人航空機)、ミサイルなどの位置が確認されている。

政府は本年末に国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画を改定する。わが国の安全保障環境が厳しさを増し、防衛力の抜本的強化が目指されるなかで、こうした宇宙の安全保障利用の現状を踏まえ、わが国としても宇宙安全保障の取組みの強化が必要である。

(2) 災害対策の強化および地球規模課題への貢献

宇宙システムにより、台風や地震などの被災状況の網羅的かつ迅速な把握が可能となる。国民の安全・安心の確保に向け、災害対策に資する実用的な宇宙システムの整備が必要である。

地球規模課題である温暖化対策においても宇宙の活用が期待される。衛星を活用して温室効果ガスの発生量を把握することなどにより、2050年カーボンニュートラルの実現に貢献することが期待される。

(3) 宇宙科学・探査による新たな知の創造

宇宙科学・探査は、宇宙空間における人類の活動領域を拡大し、新たな知を創造する。わが国は国際宇宙ステーション(ISS#2)における活動を通じて、有人輸送の基礎技術や有人宇宙滞在技術などを獲得できた。国際協力を通じて、宇宙におけるわが国のプレゼンスも向上する。

現在、米国が進めている月面探査を行う「アルテミス」計画は、他の宇宙科学・探査分野と異なり、産業振興や外交・安全保障などの観点が大きい。この点を踏まえ、わが国が競争優位な分野に重点的に投資し、戦略的な開発となるよう取り組むことが必要である。

(4) 経済成長への貢献

世界的に宇宙産業の規模は継続的に拡大中である。既存の宇宙産業とスタートアップなどの企業や、宇宙分野以外の事業者との連携強化による新たな民需創出により、経済成長に貢献している。社会課題の解決における衛星データの活用や宇宙技術の応用は、新たな価値を創出し、Society 5.0の実現に寄与する。

現在、欧米を中心に、民間企業による宇宙活動が活発化している。特に近年、衛星の小型化・多数化により、衛星コンステレーションの構築が進展している。例えば、米国ではSpaceX社やAmazon社などの民間企業が小型衛星コンステレーションの構築を進めており、通信や観測分野を中心に宇宙の民生利用が進展している。

今後、わが国でも衛星コンステレーションの構築が進むと期待される。衛星コンステレーションをはじめとした衛星システムを用いたサービス提供の対象を政府や企業間のみならず大衆に拡大し、B to Cビジネスを発展させることは、宇宙産業の拡大ひいては経済成長にもつながる。今後は、大衆が受益したサービスの対価を宇宙産業へ支払う流れや仕組みの構築も求められる。

3.宇宙政策の重要事項

(1) 宇宙安全保障の確保

① 宇宙状況把握能力の強化

宇宙状況把握(SSA#3)システムの運用を2023年度に開始し、SSA衛星を早期に打ち上げるべきである。今後はSSA情報を用いた指揮統制機能を確保するとともに米国との連携を推進し、将来的に世界的なSSAネットワークの構築を目指す必要がある。

SSAシステムの運用に向けた技術開発も重要である。将来のSSA衛星の運用性の向上や監視領域の拡大に備えた技術の開発を推進すべきである。

SSAには多くの異なる場所での観測が有効であるため、民間のSSA能力の活用を進めるべきである。例えば、わが国をはじめ各国の民間企業が、軌道上物体の位置情報を提供するサービスを開始しており、政府がこうしたサービスを活用することが有効である。

② 早期警戒機能の整備

早期警戒機能を保有する小型衛星コンステレーションの構築が急務である。周辺諸国による極超音速滑空ミサイル(HGV#4)の急速な開発に対応し、宇宙から同ミサイルを探知・追尾できるようにする必要がある。

早期警戒機能を確保するため技術開発を推進すべきである。具体的には、国産宇宙用赤外線検出素子の継続的な高解像度化・高感度化、またそれに合わせた赤外センサシステムの継続的な開発などが必要である。

③ 準天頂衛星システムの構築

準天頂衛星システムについて、現在は4機体制が運用されており、持続測位が可能となる7機体制を2023年度に確実に構築するため、5号機、6号機、7号機の開発を完了させるべきである。測位技術については、2号機~4号機の後継機における測位精度や信頼性の向上、抗たん性の強化などの高度化を図る必要がある。

④ 宇宙システムの抗たん性#5の確保

宇宙システムの抗たん性を確保するため、サイバー攻撃への対策を強化し、電子戦や情報戦に対応する必要がある。AI(人工知能)技術など民間の技術も活用しながら、サイバーセキュリティ技術の開発を推進していく必要がある。

また、電波情報収集衛星の開発を進めるべきである。電波発信源の位置やGPS電波妨害の範囲を特定することは、海上および陸上のいずれにおいても有効である。

政府は、わが国が管理・利用する宇宙システム全体の機能が、多様なリスクや脅威のもとでも維持されることを保証するために、省庁横断的な机上演習を実施しており、一部の民間事業者も参加している。今後は、机上演習における民間事業者の参加範囲の拡大に向けた環境整備を図ることが求められる。

⑤ 情報収集・警戒監視・偵察(ISR#6)能力の向上

わが国の厳しい安全保障環境において、周辺諸国による弾道ミサイルや核実験について、事前に的確に把握する能力を強化すべきである。具体的には、情報収集衛星(IGS#7)10機体制(基幹衛星:4機、時間軸多様化衛星:4機、データ中継衛星:2機)を確立する必要がある。また、短期打上型小型衛星(即応小型衛星)の実証を推進することも求められる。

今後は、最短の時間間隔で画像を撮影できる時間分解能を向上させるため、サイバーセキュリティ対策を十分に行った上で、民間の小型観測衛星(光学衛星および合成開口レーダ(SAR)衛星)の活用を図ることも有効である。

⑥ 海洋状況把握(MDA#8)能力の強化

昨今、わが国周辺の海洋の安全保障環境が厳しさを増しており、宇宙を活用してわが国の周辺海域の状況を把握する能力を強化すべきである。まず、船舶自動識別装置および光学衛星や合成開口レーダ衛星(SAR#9)のデータ、電波情報などの衛星情報を組み合わせることにより、海洋状況把握能力を強化すべきである。今後は、船舶自動識別装置(AIS#10)の次世代型となる電波情報収集・衛星船舶のデータ交換システム(VDES#11)計画の推進が求められる。

(2) 災害対策の強化および地球規模課題の解決

① 災害対策の強化

広域観測能力を有する陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)シリーズの整備による基幹インフラ化や、小型の合成開口レーダ(SAR)衛星コンステレーションの構築が必要である。大型衛星から小型衛星まで様々な衛星を組み合わせ、迅速・効果的な被災状況が把握できる体制を構築することにより、災害対策に貢献できる。宇宙システムに加えて、データ解析を行う人員の育成、AIによる自動解析能力向上など地上側の体制強化も必要である。

衛星からのデータと地上情報やシミュレーションの結果を融合させ、エンドユーザの利便性向上などを含めて社会実装の推進を図る必要がある。例えば、内閣府が実施している「SIP#12(戦略的イノベーションプログラム)」第2期の「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」では、2022年までに衛星データの解析技術等を高精度化かつ迅速化し、ワンストップ共有システムを構築することが目指されている。今後、政府が主導して、各地方公共団体のニーズに応じて衛星データ、地上情報、シミュレーション等を活用する仕組みも構築して社会実装を進める必要がある。

② 地球規模課題の解決

地球規模課題である温暖化対策において、衛星により温室効果ガスの排出量を観測することで、2050年カーボンニュートラルの達成に貢献することが期待される。温室効果ガス観測・水循環技術衛星(GOSAT-GW)を打上げることで、全地球の二酸化炭素やメタンの排出量の観測データを継続的に取得できる。

再生可能エネルギーでありながら天候や昼夜の影響の小さい宇宙太陽光発電システムの開発も推進すべきである。同システムの中核技術であるマイクロ波無線送受電技術#13の開発を進め、地球低軌道から地上へのエネルギー伝送を早期に実証することが求められる。同技術については、有線での電力供給が困難なドローンやロボットなどに幅広く応用できることが期待される。

地球上の広範囲に設置したセンサで収集したデータを衛星経由で活用する宇宙システムも、地上の通信網が未整備の場所やアクセス困難な地域における自然災害の検知や、地球温暖化の影響を受ける各種産業のモニタリングなど、地球規模の課題解決のためのインフラとしての活用が期待される。

(3) 宇宙科学・探査による新たな知の創造

① アルテミス計画への貢献

アルテミス計画への参画にあたり、わが国が強みを有する分野である物資補給等を強化するため、月周回有人拠点「ゲートウェイ」輸送を担う補給機の開発・実証と継続的運用を早期に実現すべきである。また、高精度着陸が可能な着陸機を開発し、わが国の着陸航法誘導制御技術の向上および確保が必要である。

将来の月面活動における技術開発も重要である。無人月面探査車および有人与圧探査車を開発し、月面の開発に向けた月探査(移動)技術を獲得することが求められる。持続的な月面活動の基盤を支える通信・測位・有人滞在等の技術開発に取り組む必要もある。

② ポストISSに対する方針の明確化および商業利用の推進

地球低軌道活動については、米国から、これまで2024年までとしていた国際宇宙ステーション(ISS)の運用期間を2030年まで延長する案が提示され、わが国として延長への参加の可否について検討が行われている。

2030年以降のわが国の地球低軌道活動(ポストISS)について、産業競争力強化の観点で政府の方針を早期に明確化し、企業の投資と海外展開を誘引する積極的な産業政策を期待する。わが国として地球低軌道拠点を確保し、新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)による物資補給を維持する方針を産業競争力強化の観点から明確化することで、企業による投資の予見性が向上する。

ポストISSにおいては、政府が長期的かつ安定的に調達を行うアンカーテナンシーを推進することが求められる。商業利用の推進に向けて、地球低軌道拠点の利用者に対する支援を行うことも有効である。

③ 有人宇宙技術の研究開発

現状は他国に依存している宇宙飛行士の往還について、将来の有人宇宙活動に対するわが国の自在性を確立するため、有人輸送および有人滞在技術の研究開発を推進すべきである。例えば、宇宙飛行における安全性や冗長設計#14に関する技術開発が必要である。

(4) イノベーションの創出

① 宇宙産業とスタートアップや異業種の連携

近年、宇宙産業に参入するスタートアップが増加しており、既存の宇宙産業とスタートアップが連携し、新たなビジネスを創出している。先進技術開発の推進に向けて、宇宙産業とスタートアップが連携して技術開発する仕組みの整備が必要である。大学発のスタートアップとの連携を促進するため、産学官が連携するシステムの形成も重要である。

宇宙産業と異業種の連携については、わが国が強みを有するエンターテイメント分野を活かし、宇宙利用の新規サービスの創出に向け、官民一体となって重点的に取り組むことが求められる。新たなサービスに必要なリアルタイム動画配信等の大容量・高速通信を可能にする光通信等の技術開発を推進する必要がある。また、このような新規サービスの創出を促進するため、電波利用開始までの手続きを簡略化し、審査期間の短縮に取り組むべきである。

② 衛星データ利用の促進

政府の衛星データのオープン&フリー化を促進していく必要がある。災害対策等の分野における政府の衛星データの利用の拡大を進めることにより、イノベーションの創出および基盤強化の好循環を作っていくことが重要である。例えば、政府衛星データプラットフォーム「Tellus」などを活用し、災害対策において国産の商業小型衛星コンステレーションが取得した画像データを政府が一括調達し、その利活用が容易となる仕組みを整備することが求められる。

③ 衛星技術の開発

わが国の宇宙産業の自律性を確保するとともに、海外商用通信衛星などの市場で世界に伍することが可能となるよう、「衛星開発・実証プラットフォーム」の活動を通じて衛星技術開発・実証を推進し、フルデジタル化、量子暗号通信、宇宙光通信、衛星コンステレーション等に必要となる革新的基盤技術の開発を進めるべきである。

中長期的な観点から戦略的な技術開発や開発リスクの低減などを目的として、フロントローディング#15という考え方に基づき、衛星技術の研究開発・実証の拡充・推進を図るべきである。国内衛星事業者による画像、通信データ、衛星製造等に対する政府のアンカーテナンシーを推進することも求められる。特に現段階では商用化が難しいが、わが国として保有すべき技術やインフラについては、政府による研究開発への支援に加えて、積極的な実証機会の提供やインフラの構築および維持が必要である。

また、海外商用通信衛星市場を獲得するためには、軌道上実証が必須である。海外のニーズに迅速に対応するため、技術試験衛星の打ち上げを短期間で継続的に実施することが必要である。

衛星コンステレーションの構築を推進するには、多数の衛星を打ち上げるなかで、技術を向上させていく必要がある。失敗を恐れず、衛星の打ち上げ実証が継続的に行えるような仕組みの整備が求められる。

将来的には、わが国としての革新的な衛星コンステレーションの技術開発や実証を通じて軌道位置や周波数を確保するとともに、海外との協力や連携を図ることが重要である。各国による衛星コンステレーションの構築が進むなか、スペースデブリが増加しており、宇宙交通管理(STM#16)の分野においてわが国が主導して国際的なルールを形成していくことも求められる。

(5) 宇宙産業基盤の強化

① 宇宙輸送システムの開発・運用

わが国の自立的な宇宙輸送手段の確実な維持・発展に向けて、宇宙輸送システムに関する施策を抜本的に強化すべきである。具体的には、基幹ロケットの国際競争力を継続的に向上させる必要がある。例えば、低コスト化による価格競争力やロケットの打ち上げ能力の向上のほか、打上げに関する規制と産業振興のバランスを図ることが求められる。また、技術の継承の観点から、宇宙輸送システムに携わる人材の継続的な育成も重要である。

基幹ロケットとして、H3ロケットおよびイプシロンロケットの開発と運用を進めるため、政府によるアンカーテナンシーを推進すべきである。基幹ロケットの打上げの高頻度化に向けた射場等の打上げに関わる運用システムの整備・改善の推進も求められる。

昨今のウクライナ情勢により、ロシア製のソユーズロケットが衛星の商用打上げに活用できないなか、わが国の政府および民間の衛星を基幹ロケットで確実に打上げる能力を向上させるための施策が必要である。具体的には、ロケットの射場の整備、保管場所や設備の拡充、打ち上げ時の飛行の安全確保の設備の充実などが求められる。特にH3ロケットについては、複数の人工衛星を同時かつ高頻度で打ち上げることを可能とするよう、能力向上と実用化を推進すべきである。

小型衛星コンステレーションの構築を進めるためには、小型衛星の抗たん性や即応性の観点から、必要なときに即時に衛星を打ち上げられるシステムを構築すべきである。今後は、移動式の衛星打ち上げシステムが必要になることも見込まれており、民間の小型ロケットの活用も有効であると期待される。

② 契約制度の改善

宇宙開発事業においては、製品の新規性や技術的な難易度のため、開発リスクが高く、開発成果を利用して量産する事業機会が少ないといった特徴がある。宇宙関連企業が、宇宙事業の継続に必要な基盤を強化するため、契約制度の改善が必要である。

政府向けの契約では利益率に上限が課せられているなか、開発難易度の高さや、長期間にわたる履行に伴って想定していない追加費用が発生した場合、企業側は利益から費用を負担せざるを得ないのが実情である。また、量産調達のような仕組みも少ないなど、企業にとって宇宙事業は利益を確保することが難しい事業構造となっている。

一方、宇宙産業基盤の強化に向けては、継続的な人材育成の観点からも、企業において適正な利益が確保され、新たな人材育成や技術開発に投資を行う好循環が形成されることが重要である。欧米の事例#17も広く参考にしながら、企業が適正な利益を確保できる契約制度の改善を実現すべきである。具体的には、開発難易度の高い契約におけるリスクを考慮した利益水準の設定やコストプラス契約#18の適用などの仕組み、また、契約履行期間中の不可避なコスト高騰(材料・部品等の大幅な値上がり等)の反映を可能とする契約の仕組みなどを検討することが求められる。

③ サプライチェーンの強化

わが国の宇宙産業基盤を強化するうえで、コンポーネントや部品を海外からの輸入に依存せず、国内のサプライチェーンを強化していくことが急務である。宇宙事業に使途する重要部品等については一括して手配や製造ができるよう、政府による調達保証が必要である。

昨今、衛星コンステレーションビジネスの急速な発展の可能性に伴い、小型衛星を中心とした部品やコンポーネントは民生技術を活用し、低コストや短納期化などを含めて技術実証への取組みが進められている。一方、わが国の重要インフラである基幹衛星については、産業界のニーズを集約したうえで、衛星の性能向上に資する高機能な基幹部品などの安定供給に向けた国産化を推進するなどの取組みが重要である。

4.宇宙関係予算の確保

宇宙基本計画には、宇宙産業規模の拡大の2つの目標が明記されている。第1に、宇宙機器産業の事業規模について、官民合わせて10年間で累計5兆円を目指す。第2に、宇宙利用産業も含めた宇宙産業全体の規模については、現在の年間1.2兆円から2030年代早期に倍増を目指す。2010年代の宇宙関係予算は補正予算を含めても3,000億円台で推移していたが、現行の宇宙基本計画の策定以降、宇宙関係予算が増加傾向にあり、2つの目標の達成に向けて着実な進展が見られる。

宇宙基本計画および工程表に衛星やロケット等のプログラムを予定どおり実施するため、令和5年度の政府の宇宙関係予算の概算要求額は年間5,000億円を大きく超えるように増額し、今後も毎年度の宇宙関係予算は5,000億円以上を継続的に確保すべきである。特に、今年末に予定される国家安全保障戦略や防衛計画の大綱の改定に先立ち、政府は「経済財政運営と改革の基本方針2022」において、防衛力を5年以内に抜本的に強化する方針を示した。今後の防衛関係費の動向や欧米など諸外国の宇宙関連予算の動向に鑑み、政府全体として宇宙安全保障関連の予算を拡大する必要がある。

5.おわりに

宇宙をめぐる内外の環境は急激に変化している。わが国の防衛力の抜本的な強化が目指されている今こそ、宇宙安全保障の確保に向けた取組みを加速する機会である。また、わが国の経済安全保障上も、宇宙分野における先端的な重要技術の研究開発を促進し、その成果の適切な活用を図ることが求められている#19

イノベーションの創出の観点では、経団連としてスタートアップのエコシステムの抜本的な強化を提言している#20。宇宙開発利用推進委員会としても、宇宙関連のスタートアップとの連携の促進に向けた活動を引き続き展開していく。

経団連は、わが国の安全保障への貢献やイノベーション創出に向けて、宇宙産業の一層の発展に努め、引き続き諸課題について検討を深める所存である。産業界全体として宇宙産業基盤を強化する取り組みを推進し、関係方面への働きかけを行っていく。

以上

  1. Unmanned aerial vehicle
  2. International Space Station
  3. Space Situational Awareness
  4. Hypersonic Glide Vehicle
  5. 宇宙システムの機能を継続的かつ安定的に利用できる能力。抗堪性。
  6. Intelligence, Surveillance and Reconnaissance
  7. Information Gathering Satellite
  8. Maritime Domain Awareness
  9. Synthetic Aperture Radar
  10. Automatic Identification System
  11. VHF Data Exchange System
  12. Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program
  13. 電線などを用いずに無線(マイクロ波)で遠方に電力を届ける技術。
  14. 複数の同等機器または機能を持つことにより、故障によるシステム全体の機能・安全の喪失を回避する設計。わが国の宇宙輸送システムには有人輸送の経験がないため、搭乗員の安全を確保する設計が極めて重要。
  15. 設計初期の段階に負荷をかけ、早期に開発リスクを低減・排除すること。
  16. Space Traffic Management
  17. 欧米諸国と同様に、わが国においても安全保障や防衛分野の重要性が一層高まるなか、欧米の主要な防衛関連企業の利益率は10%以上であることに比べ、わが国の宇宙関係府省向け契約での利益率の水準は低い。
  18. 実際にかかったコストに利益を加算して契約額を算出する契約
  19. 経済安全保障法制に関する有識者会議「経済安全保障法制に関する提言」(2022年2月1日)参照。
  20. 「スタートアップ躍進ビジョン」(2022年3月15日)

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