経団連 金融・資本市場委員会
ESG情報開示国際戦略タスクフォース
国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)御中
経団連は、日本の代表的な企業約1500社から構成される、日本最大の総合経済団体である。構成企業は、製造業、金融業、サービス業、流通業、建設業、運輸業など、あらゆる分野にわたり、その多くが国内外の市場において資金調達及び運用を行っている。
これまで経団連は、IFRS財団の創設以来、一貫してIFRS財団の活動を支持し、人的支援・財務会計基準機構(FASF)を通じた資金的支援、IASBへの意見発信等を通じて、IFRSの策定と日本における普及に貢献してきた。
気候変動問題を中心としたサステナビリティ情報の開示に対する投資家を含めた資本市場の要請が高まるなか、国際的に統一されたサステナビリティ基準の開発が進められていることを目的に、IFRS財団の下にISSBが設置されたことは、時宜を得た取組みであると高く評価している。
日本でも気候変動問題を中心にサステナビリティ情報を積極的に開示する企業が増えており、気候変動関連財務情報開示(TCFD)に対して962の企業・機関が賛同を示しており、これは世界一である(2022年6月24日時点)。また、コーポレートガバナンス・コードにより、わが国のプライム市場上場企業は、TCFD又はそれと同等の枠組みに基づく開示が求められている。さらに、金融庁は、有価証券報告書において、企業にとって重要なサステナビリティ情報の開示を求める方針を固めた。
このように、わが国は、官民を挙げて、サステナビリティ情報開示の推進に向けて真剣に取り組みを進めている。こうした取組みを通じて得た知見を活かして、ISSBの基準開発に、積極的に貢献して参りたいと考えている。
以下、「総論」で、国際的に統一されたサステナビリティ基準の開発に向けた基本的な考え方を述べたうえで、「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項案(以下、全般的要求事項案)」及び「気候関連開示基準案」に対する意見を申し述べる。
【総論】
ISSBが、国際的に統一されたサステナビリティ基準の開発に向けて、グローバルに受け入れられる基準作りを行うために、「グローバルなベースライン」となる基準作りを行う考え方に賛同しており、この考え方を十分に基準に反映することが重要であると考える。
そのためには、以下の点が特に重要であると考えている。
各国・各法域で、開示制度や関連する法制度は多様であること、サステナビリティ情報開示の成熟度も様々であることを前提として、広く受け入れることができる柔軟な「全般的要求事項」とすること。
「全般的要求事項」及びテーマ別の基準において、開示目的を明確化して、共通して開示しなければならない開示要求(disclosure requirements)は必要最小限の内容とし、それ以外の項目については、開示を行う企業が属する産業や、当該企業の固有の事情を踏まえて、企業自身が開示内容を判断できるようにすること。そのためには、細則主義的な基準ではなく、原則主義的な基準とすること。
「1」及び「2」を達成するために、利用者にとって真に必要な開示項目は何か(利用者は各開示項目をどのように評価し、分析に役立てているのか)、開示企業のコスト負担が過剰ではないかを、十分に精査すること。
ISSBが開発する基準が世界的に普及するよう、「全般的要求事項案」及び「気候関連開示基準案」の基準化に向けては、各法域が受け入れることができる内容となるように、市場関係者の声を十分に聴取して、必要な見直しを行うことを強く求めたい。
こうした認識を踏まえ、具体的な意見を申し述べる。
【全般的要求事項案】
1.「全般的要求事項」の適用全般について【質問1・7・12に関連】
- 51項及び54項において、IFRSサステナビリティ基準以外の基準を「考慮しなければならない(shall consider)」とあるが、ISSBがデュー・プロセスを踏んでいない基準を「考慮しなければならない」と規定するのは望ましくない。ISSBが外部の基準の参照を求めるのであれば、IFRSサステナビリティ基準の開発に準じたデュー・プロセスを踏んだうえで、参照すべき対象として決定した外部の基準を、IFRSサステナビリティ基準に明確に規定すべきである。我々は、外部の基準の参照を否定しているのではなく、各業界に即したサステナビリティ情報開示を実現するには、外部基準の参照は重要であると考えており、そのためにはISSBによる適切な評価を経た上で基準に取り込むことが重要であると考えている。
- なお、我々は、原則主義に基づく開示項目の判断や企業の実務負担等を考慮すると、51項及び54項に規定されている、産業別のSASBスタンダードにおける開示トピック及びCDSBフレームワーク適用ガイダンスについては、考慮を義務とするのではなく、参照及び考慮することを可能とするに留めるべきと考える。
- IFRSサステナビリティ基準において開示が求められる項目が、報告企業やバリューチェーン(取引先等)の営業秘密や守秘義務に当たる事項であった場合には、開示が困難となる。こうした場合には、開示が困難である旨を記載することで、開示が宥恕される(開示要求を充足しているとみなす)旨を、「全般的要求事項」において明記すべきである。
2.開示目的・重要性(Materiality)【質問2・質問8に関連】
- サステナビリティ関連財務情報の開示目的を、「主要な利用者が企業価値を評価し企業に資源を提供する際に有用な企業の重大な(significant)サステナビリティ関連リスク及び機会に関する情報の開示を企業に要求すること」としている。想定利用者を「主要な利用者」とし、情報開示の目的を「企業価値を評価すること」としていることに賛同する。
- 「サステナビリティ」の明確な定義を行うべきである。BC30・31において、「サステナビリティ」の概念についての一定の説明があるが、これのみでは、「サステナビリティ」の範囲は不明瞭である。
- 「重大な(significant)」は、企業が開示するサステナビリティ関連のリスク及び機会の範囲を規定する、重要な用語であるにもかかわらず、定義が行われていない。要求事項の解釈にばらつきが生じると考えられることから、「重大な(significant)」の明確な定義が必要である。
- 全般的要求事項案では、開示目的に資するサステナビリティ情報のうち、重要性のある(material)情報の開示を求めている。「重要性(materiality)は関連性の企業固有の一側面である(58項)」として、判断を開示企業に委ねているが、実務の運用に資するため、判断プロセスを例示する等により、「例示的ガイダンス」のさらなる充実が必要である。
3.開示のコア・コンテンツ【質問4関連】
- 気候変動とは異質なサステナビリティ事項(例えば、人権)にまで、コア・コンテンツによる開示が有効かは、具体的な基準が無い現状では、判然としない。よって、「全般的要求事項」を最終基準化する前に、BC43「コア・コンテンツは、要求事項についての構造を提供するものであり、当該情報を何らかの具体的な順序又は規定された様式で報告しなければならない旨を示す意図はない」の規定も踏まえ、コア・コンテンツに基づく開示が、気候変動以外の他の代表的なサステナビリティ項目にも有効かを、開示を試行することにより検証すべきである。
- 13項(a)について、「気候関連のリスク及び機会の監督について責任を負う…個人の特定」とあるが、個人の特定は、該当するガバナンス機関が存在しない場合に記載することを、明確化すべきである。
4.報告企業の範囲【質問5関連】
- 「企業のサステナビリティ関連財務開示は、関連する一般目的財務諸表と同じ報告企業に関するものでなければならない。例えば、報告企業が企業集団の場合、連結財務諸表は親会社及びその子会社に関するものである(37項)」とあるが、開示の実行可能性を確保する観点から、少なくとも、サステナビリティ情報開示の観点から重要性が乏しい子会社(例えば、気候関連情報開示を行う際に、GHG排出量の僅少な会社等)については、報告企業を対象としたサステナビリティ関連財務情報に含めないことができる旨を明確にすべきである。そのうえで、サステナビリティ関連のデータを適時に収集することが困難な地域に所在する子会社が存在するケース等も想定されることから、37項の規定は段階的な適用を可能とすべきである。
- 「バリュー・チェーンにおける活動、相互作用及び関係、並びに資源の利用に関するサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する情報を開示する」との要求事項は、以下の理由から、一貫性がある適用が難しい。開示対象とするバリュー・チェーンの範囲や開示内容は、企業にとって対応可能な範囲に限定すべきである。企業が開示の範囲や開示内容を適切に判断できるよう、開示が難しい場合の取扱いを明確化すべきである。
(理由)
- 企業が支配していない関連会社や取引先等から必要な情報を適時に収集することは難しい。
- 取引先に関する情報は開示企業の競争力の源泉である可能性もあり、開示することで企業価値を棄損する可能性がある。
- 取引先の情報に機微情報や営業秘密が含まれていれば、それを開示することは取引先の企業価値を棄損し、開示企業は訴訟のリスクを負う。
5.報告の時期・情報の記載場所【質問9・10関連】
- 「サステナビリティ関連財務開示は、財務報告と同じ報告期間を対象としなければならない」ことを厳密に求めるのは困難である。各国の開示制度や法制度、海外子会社の決算期等の企業の状況に合わせた対応が可能となるよう、厳密に「報告時期の同時性」を求めるべきではない。例えば、以下のような例外は柔軟に認めるべきである。
- 報告企業の子会社の決算期の差異を容認する(例:親会社の決算期に最も近い子会社の報告期間のデータを用いることを認める)。
- 国内外の法制度を含めた実務対応上の制約により、必要なデータの取得・集計が財務報告の報告日までに間に合わない場合には、事後的に別媒体で開示を行い、相互参照を行うことを認める。
- 「情報の記載場所」に関連して、相互参照の活用を柔軟に活用できるように、「同じ条件かつ同時」の要件を緩和すべきである。相互参照先として考えられる統合報告書やサステナビリティレポートは、法定開示書類の後に開示することが想定されることから、そうした任意開示書類との相互参照も柔軟に認めるべきである。
6.比較情報の修正再表示【質問11関連】
- 指標をより適切に測定した場合には、比較情報の修正再表示することを求めているが、例えば、シナリオ分析やGHG排出量(特にScope3)など、計測手法そのものが更新され数値の精度が年々上がっていくことが想定されているなかで、こうした情報の全てを修正再表示することは、企業の実務負荷が非常に大きい。例えば、定性的に、計測手法が更新された旨等を記述することで足りることとすべきである。
7.発効日【質問13関連】
- 「全般的な開示要求」「気候関連開示基準」の提案では、膨大な開示要求を求めている。我々は、①開示要求を正確に理解し、②情報利用者との対話を通じて重要性のある開示項目を特定し、③そのためのデータ収集の基盤整備を含めた社内体制の構築・子会社等への展開を行い、④開示の試行・改善を行うことで、ようやく情報利用者のニーズを踏まえた開示が実現すると考えている。
- よって、最終的な基準の内容次第だが、基準の最終化から適用まで、十分な期間(例えば、2~3年)が必要と考える。なお、早期適用を望む企業の適用は許容されるべきである。
【気候関連開示基準案】
1.目的【質問1関連】
- 第1項の目的の達成のためには、原則主義の基準設定のアプローチを採用すべきである。よって、基準に、詳細な開示規定を設けるのではなく、開示目的に照らして企業の重要性の判断による柔軟な開示がなされるべきである。
2.ガバナンス【質問2関連】
- 開示の趣旨は理解するが、5項の開示規定は詳細にすぎる。例えば、(a)について、「気候関連のリスク及び機会の監督について責任を負う…個人の特定」とあるが、個人の特定は該当するガバナンス機関が存在しない場合に記載することを明確化すべきである。
3.戦略【質問3~7関連】
- 「全般的要求事項」でも指摘したが、「重大な(significant)」の定義を明確化すべきである。
- 「気候関連のリスク及び機会の識別」には、産業別開示要求で定義された開示トピックの適用を検討することが要求されている。しかし、SASBスタンダードに基づくAppendix Bの産業別開示は、各国の状況や企業実態にそぐわない場合がある。開示トピックの適用の検討を求めるのであれば、各国・各法域で活用できる汎用性の高い開示トピックを、作成者・利用者の意見を十分に踏まえて開発すべきである。
- 企業が支配していない関連会社や取引先等のバリュー・チェーンから必要な情報を適時に収集することは難しく#1、かつ、その情報には営業秘密や機微情報が含まれている可能性もあり、開示が困難なケースが多い。よって、開示対象とするバリュー・チェーンの範囲や開示内容は、企業にとって対応可能な範囲に限定すべきである。そのために、開示が困難な場合の取扱いを明確化すべきである。
- なお、こうした情報の開示は、「定量的ではなく定性的であるべき」との考え方には賛同している。
- 「レガシー資産」について、「長期にわたり企業の財政状態計算書に計上されたまま、その後陳腐化した、あるいは当初の価値をほとんど失った資産」とある。会計上減損済みの資産を意味するのか等、定義を明確化したうえで、一律ではなく、企業が事業活動上重要と判断した場合に開示することとすべきである。なお、13項(a)(i)(1)の記載において、開示を求めるレガシー資産に関する計画として、「炭素エネルギー及び水を多用するオペレーションを管理する戦略並びに炭素エネルギー及び水を多用する資産を廃棄する戦略を含む」と記載されている。当該記載は、現在、経済的な価値を持っている「炭素エネルギー及び水を多用するオペレーション」等についてまで、「レガシー資産」に含まれるかのような誤解を与えるので、このような記載は望ましくない。2050年のカーボン・ニュートラルに向けて重要となるトランジション戦略を推進する観点からも、相応しくない記載である。
- 移行計画の開示は重要であるが、13項(a)の開示要求はTCFD提言よりも粒度が細かく、研究開発に対する支出など営業秘密に該当すると考えられる内容も含まれており、実務上の実行可能性の面から懸念をもっている。移行計画の開示は、TCFD提言の内容に留めるべきである。
- 「カーボン・オフセット」を利用している場合に、その情報が重要であることは理解しており、13項(b)の開示要求は妥当である。一方で、「カーボン・オフセット」についての炭素除去の技術はまだ十分に浸透しておらず、利用可能となるかわからない施策や技術を移行計画の目標に含めるのは、時期尚早との意見もある。よって、「カーボン・オフセット」の利用を意思決定していない企業については、その旨を開示することで、開示要求を充足することとすべきである。
- 気候変動リスクは長期的スパンで変動するため、その直接的・間接的影響を把握・分析することは困難である。影響を計算するにしても前提条件をわずかに変更するだけで数値が大きく異なることが想定される。
- よって、「重大な気候関連リスク及び機会が報告期間における企業の財政状態、財務業績及びキャッシュ・フローに与える影響、並びに、短期、中期及び長期にわたり予想される影響(14項)」を、信頼性・客観性を持った数値で、定量的に開示するのは困難な場合もある。したがって、「そうすることができない場合を除き、定量的情報を開示しなければならない」「定量的情報を提供することができない場合、定性的情報を開示しなければならない」との方向性には賛同する。
- なお、定量的開示を求めるのであれば、「短期、中期、長期」の期間の目安や、前提条件、算出方法等についてのガイダンスが必要である。
- 14項(b)で開示が求められる「翌会計年度中に財務諸表で報告される資産及び負債の帳簿価額に重要性がある修正が生じる重大なリスクがある、気候関連のリスク及び機会に関する情報」については、IAS第1号125項で求められている情報に包含されると考えている。企業がIFRSを適用している場合に、14項(b)において、追加で開示が必要な情報があれば明確にしてほしい。
- 「気候関連シナリオ分析」を行うことができない場合に、他の手法(定性的分析等)を用いて気候レジリエンスを評価できること、その場合に理由を開示することを求めていることに賛同する。各分析手法を活用した場合の開示例については、ガイダンス等で示すべきである。
- なお、「気候関連のシナリオ分析」について、シナリオは各社の実態に即した内容であるべきだが、各社固有ではない前提条件(例:台風発生率、洪水発生率等)や算出方法については統一することが望ましく、ガイダンス等で示すべきである。
4.リスク管理【質問8関連】
- 基本的に賛同する。一方、TCFD提言とは異なり「機会」についてのリスク管理の開示も求めており、求められる開示例を示すべきである。
5.指標と目標【質問9・11に関連】
- GHG排出量のうち、「Scope1」と「Scope2」については、算定対象を、重要性のある連結企業についての開示に限定し、関連会社・共同支配企業・非連結子会社及び関係会社の開示は除いた上で、CO2換算した排出量の総計開示を強制すべきである。
(理由)
- 「Scope1」と「Scope2」について、報告企業が支配していない「関連会社・共同支配企業・非連結子会社及び関係会社」から、関連するデータを適時に入手することは、作成者に著しい負担を生じさせる。また、データの提出を強制することは優越的地位の濫用につながり得ることから、コンプライアンス上の問題が生じる懸念がある。
- 「連結企業」の中にも、GHG排出量が多くない企業も含まれることから、コスト・ベネフィットの観点から、重要性のない子会社は、GHG排出量の算定対象から除外できることを明確にすべきである。
- 「Scope3」については、以下の理由から、現状では、開示を一律に強制すべきではない。一方で、「Scope3」の開示に重要性があり、かつ、「Scope3」の計測等についての専門的な知見が蓄積されている企業については、任意での開示を進めるべきである。そのうえで、今後、算定実務の進展や開示の有用性等を見極めた上で、「Scope3」の開示を強制するかを慎重に検討すべきである。開示を求める場合でも、その範囲(カテゴリー)は段階的に拡充することが妥当である。
(理由)
- 「Scope3」の開示を行うために必要なデータを計測・収集する仕組みを構築し、信頼性や網羅性を担保した情報開示を行うことを要請するためには、相当の時間と労力が必要である。
- 統一的なGHG排出量測定の基準は必ずしも確立されておらず、推定が多く含まれ、算定者毎に算定手法が異なることから、単純な比較が難しい。
- いわゆる「ダブルカウント」の問題もあり#2、「Scope3」のGHG排出量の責任の所在が曖昧であることから、開示の意義(投資家にとっての有用性・活用方法)について十分に整理する必要がある。
- 「移行リスク」「物理的リスク」「気候関連の機会」「資本投下」については、定義が曖昧で、数値の比較を行うことが困難な項目であることから、現状では、企業が事業活動上重要と判断した場合に開示を求めるべきである。その際の判断の目安となる規準や、算定方法に関するガイダンスの作成を求めたい。
- 「内部炭素価格」「報酬(気候関連の考慮事項と結びついた役員報酬)」は、全ての企業に導入が進んでいるわけではなく、また、TCFDのパブリックコンサルテーション(2021年10月)において利用者の有用性も相対的に低かった。また、「内部炭素価格」は、企業での使用方法にも差異があり、企業間の単純な比較を行うことは困難である。したがって、「内部炭素価格」「報酬」の開示は、現状では、企業が事業活動上重要と判断した場合に開示を求めるべきである。また、その際の判断の目安となる規準を示すべきである。
- SASBスタンダードに基づくAppendix Bの産業別開示要求は、各国の状況や企業実態にそぐわない内容が多く、現在の内容で、業種別指標の開示を求めるべきではない。各法域の企業が広く適用できるような、柔軟な産業別の開示要求のあり方を再検討すべきである。例えば、以下のようなあり方を検討すべきである。
- 産業別の指標について、特定の法域ではなく幅広い法域の企業が適用でき、かつ、利用者のニーズが高い汎用性の高い産業別指標の例を、作成者・利用者の意見を十分に踏まえて開発し、企業が重要性に基づいて開示する指標を選択する。
- 特定の「産業別指標」を提示するのではなく、求める指標の目的(趣旨)を提示し、それに即した指標を、各企業が判断して開示を行う。
- なお、SASBスタンダードに基づく業種分類は、各国の産業分類と必ずしも整合しない。また、複数事業を展開する企業がどのように業種を選択するかも不明瞭である。企業が選択する業種分類が明確となるよう、汎用性の高い業種分類のあり方を再検討すべきである。
- 多くの産業別開示要求において、「水管理」に関する指標が求められている。水不足の原因の1つに気候変動問題があることは理解しているが、水不足は気候変動問題のみならず複合的な要因によって引き起こされており、また、水不足自体が重要なサステナビリティ課題でもある。本基準では、気候変動問題に直接関連する開示要求を提案すべきであり、他のテーマとも関連する「水管理」についての開示を本基準で求めることは望ましくない。
6.発効日【質問14関連】
- 「全般的要求事項案」の「発効日」の記載に同じ。
- 例えば、「製造業では調達先など上流のサプライチェーンの特定や一定程度の管理は想定できるが、売り切りのB to C商品については、卸先、販売先を含めた下流の商流を追跡・管理することは容易ではない」との意見があった。
- ある企業が様々な企業のバリュー・チェーンに属している場合に、当該企業のGHG排出量が、様々な企業のScope3のGHG排出量にカウントされる問題。